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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1242410
審判番号 不服2010-958  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-15 
確定日 2011-08-24 
事件の表示 特願2006- 10249「平板表示装置の電極形成方法、有機電界発光表示装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月17日出願公開、特開2006-216539〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願 :平成18年 1月18日
(優先権 平成17年 2月 7日 大韓民国)
拒絶理由 :平成21年 4月30日(起案日)
意見及び手続補正:平成21年 8月 7日
拒絶査定 :平成21年 9月 7日(起案日)
審判請求 :平成22年 1月15日

第2 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は,平成21年8月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載されたとおりのものであるところ,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,下記のものである。



基板上に電極物質を形成する工程と,
前記電極物質をパターニングして電極パターンを形成する工程と,
基板上に蒸着厚さを有する絶縁膜を形成する工程と,
前記絶縁膜をエッチングして前記電極パターンの一部分を露出させる工程と,
前記絶縁膜が蒸着厚さから一定厚さほどエッチングされる条件で表面処理工程を行って前記電極パターンの表面特性を改善する工程と,を含み,
前記表面処理工程は,絶縁膜が蒸着厚さから100ないし1000Åの範囲でエッチングされる条件で行われることを特徴とする平板表示装置の電極形成方法。

第3 引用発明
本願の優先日よりも前に頒布された刊行物である国際公開第2004/062323号(拒絶理由通知の引用文献1,以下「引用例」という。)には,各図とともに以下の事項が記載されている。なお,引用発明の認定に直接利用した箇所に下線を付した。



記載事項ア
「技術分野
本発明は,エレクトロルミネッセンス(以下,ELと略す)素子を基板上に作り込んで形成された表示装置に関する。特に有機EL素子の製造方法に関する。」(1ページ5ないし8行(引用箇所の表示は,各葉上部中央に記されたページ番号及び各葉左側に記された行番号を用いる。以下同じ。))

記載事項イ
「 従来技術として,基板の前処理としてアルゴン雰囲気下で高周波電圧を印加し,プラズマ処理をしたところ,基板上の有機物を除去して発光ムラがなくなるだけでなく,シュリンクの発生を抑える効果があることが報告されている(特許文献1)。しかし,アルゴン雰囲気下で高周波電圧を印加し,プラズマ処理を行うと,ITOの仕事関数が低下するという報告もされている(非特許文献2(当審注:「非特許文献2」は「非特許文献1」の誤記である。))。また,酸素雰囲気下でプラズマ処理を行うと,陽極の端部に設けられたアクリルなど有機物の絶縁膜は削られてしまう。絶縁膜が過剰に削られると陰極と陽極が接しショートする。
(特許文献1)
特開平7-142168号広報
(非特許文献1)
KiyoShi Sugiyama, Hisao Ishiiand Yukio Ouchi :J.Appl.Phys.87.1.295-298 (2000)
そこで,本発明は,有機EL素子における上記のシュリンク等の不良モードの発生を抑える目的でプラズマ処理を行うためにその問題点を解決し,前処理に必要とされる時間を短縮することが目的として考え出された。」(4ページ11行ないし5ページ7行)

記載事項ウ
「(課題を解決するための手段)
本発明者らは,有機化合物を含む層を形成する前に,アルゴン及び酸素を含む雰囲気中で高周波電圧を印加してプラズマを発生させ,発生したプラズマを第1の電極及び絶縁膜に衝突させて水やごみ等をたたき出して洗浄をすることによって,基板の前処理にかかる時間を短時間にすることができ,またシュリンクや発光ムラを抑えることができ,且つ,絶縁膜が過剰に削れないということを見出した。さらに,第1の電極がITOであった場合,陽極としてのITO膜の仕事関数が低下しないことを見出した。
本発明は,薄膜トランジスタと,発光素子とを有し,前記発光素子は前記薄膜トランジスタのソース領域またはドレイン領域と電気的に接続された第1の電極と,前記第1の電極上に形成された有機化合物を含む層と,前記有機化合物を含む層上に形成された第2の電極とを有する表示装置の作製方法において,前記ソース領域またはドレイン領域と電気的に接続された前記第1の電極を形成し,前記第1の電極の端部を覆うように前記絶縁膜を形成し,前記第1の電極と前記絶縁膜に対し,アルゴン及び酸素を含む雰囲気中でプラズマ処理を行った後,前記第1の電極及び前記絶縁膜上に有機化合物を含む層を形成し,有機化合物を含む層上に第2の電極を形成することによって前記発光素子形成することを特徴とする表示装置の作製方法である。ここで,有機化合物を含む層は,正孔注入層,正孔輸送層,発光層,電子輸送層及び電子注入層を含む。」(5ページ8行ないし6ページ7行)

記載事項エ
「発明を実施するための最良の形態
本発明の実施の形態について,図1を用いて,以下に説明する。
(実施の形態)
図1(A)はアクティブマトリクス型表示装置の上面図であり,図1(B)は鎖線A-A’で切断した断面図である。
図1(A)において,1はソース信号線駆動回路,2は画素部,3はゲート信号線駆動回路である。また,4は封止基板,5はシール剤であり,シール剤5で囲まれた内側は,乾燥剤(図示しない)により乾燥された不活性気体が充填された空間になっている。7は,各発光素子に共通する上部電極と基板上の配線とを接続する接続領域である。」(8ページ1ないし11行)

記載事項オ
「 図1(B)では電流制御用TFT50と,スイッチング用TFT40と,容量41の断面図を示した。図1(B)では,スイッチング用TFT40として,ゲート絶縁膜15を間に挟んでゲート電極64と重なる複数のチャネル形成領域60aを有するnチャネル型TFTを用いた一例を示している。なお,47,48はソース配線またはドレイン配線,60bはソース領域またはドレイン領域,60cはゲート電極64と重ならない低濃度不純物領域である。容量41は,層間絶縁膜22,20を誘電体とし,電極46と電極63とで保持容量を形成し,さらにゲート絶縁膜15を誘電体とし,電極63と半導体膜42とでも保持容量を形成している。
また,画素部2には,スイッチング用TFT40と,第1の電極(陽極)28と接続している電流制御用TFT50とそのドレイン領域またはソース領域(高濃度不純物領域)62bに電気的に接続された下部電極となる第1の電極(陽極)28と容量41を含む複数の画素により形成される。一つの画素には複数のTFTが形成される。電流制御用TFT50は,ゲート電極の上層66b及びゲート電極の下層66aとゲート絶縁膜15を挟んで重なるチャネル形成領域62aと,ゲート電極の下層66aとゲート絶縁膜15を挟んで重なる低濃度不純物領域62dと,ゲート電極の下層66aと重ならない低濃度不純物領域62cとを有している。なお,23,24はソース電極またはドレイン電極であって,24は第1の電極(陽極)28と高濃度不純物領域62bとを接続する接続電極である。」(9ページ12行ないし10ページ12行)

記載事項カ
「 また,第1の電極(陽極)28の両端には絶縁膜(バンク,隔壁,障壁,土手などとも呼ばれる)30が形成され,第1の電極(陽極)28上には有機化合物を含む層(EL層とも呼ぶ)31が形成される。第1の電極(陽極)28としては,透明導電膜(ITO(酸化インジウム酸化スズ合金),酸化インジウム酸化亜鉛合金(In_(2)O_(3)-ZnO),酸化亜鉛(ZnO)等)を用いればよい。
有機化合物を含む層31は,極めて薄いため,第1の電極(陽極)28の表面は平坦であることが好ましく,例えば,第1の電極(陽極)28のパターニング前,またはパターニング後に化学的及び機械的に研磨する処理(代表的にはCMP技術)等により平坦化を行えばよい。CMPを行う場合には,電極24または絶縁膜30の膜厚を薄くする,或いは電極24の端部をテーパー形状として行えば,さらに第1の電極(陽極)28の平坦性を向上させることができる。また,第1の電極(陽極)28の平坦性を向上させるために層間絶縁膜21として有機樹脂膜を用いた場合,層間絶縁膜22として無機絶縁膜を設けることによってクラックの発生を防止して作製直後の非発光領域の発生や点欠陥の発生を抑えることが好ましい。
また,絶縁膜30としては,感光性または非感光性の有機材料(ポリイミド,アクリル,ポリアミド,ポリイミドアミド,レジストまたはベンゾシクロブテン),CVD法やスパッタ法や塗布法による無機材料(酸化シリコン,窒化シリコン,酸化窒化シリコンなど),またはこれらの積層などを用いることができる。また,絶縁膜30として感光性の有機材料を用いる場合,感光性の有機材料は大きく分けて2種類,感光性の光によってエッチャントに不溶解性となるネガ型,或いは光によってエッチャントに溶解性となるポジ型があるが,どちらも適宜使用することができる。また,有機材料からなる絶縁膜30とした場合,絶縁膜30を無機絶縁膜(スパッタ法の窒化珪素膜など)で覆ってもよい。
また,第1の電極(陽極)28の表面における清浄度を向上させるため,絶縁膜30の形成前,または形成後に異物(ゴミなど)をクリーニングするための洗浄(ブラシ洗浄やスポンジ洗浄)を行い,ダークスポットや点欠陥の発生を低減させる。スポンジ洗浄などの湿式洗浄を行った後は,大気圧で100?250℃のオーブンで30分?2時間加熱し,基板の水分を除去する。冷却後,UV/オゾン処理を行う。
次いで,基板を成膜装置内に移し,アルゴン及び酸素を含む雰囲気中で高周波電圧を印加することにより,プラズマを発生させ,発生したプラズマを第1の電極(陽極)28及び絶縁膜30等に対して衝突させる。このアルゴン及び酸素を含む雰囲気中で行うプラズマ処理により,第1の電極(陽極)28と絶縁膜30等の中にある水やごみ等をたたき出し,シュリンク,発光ムラの発生を抑えることが出来るという効果がある。さらに,前処理工程を従来よりも短時間で行うことができる。また,TFT及び絶縁膜中に取り込まれた水分を完全に除去するために,アルゴン及び酸素を含む雰囲気中で行うプラズマ処理の前に,真空加熱を行っても良い。その場合,洗浄後にオーブンで加熱した直後,5×10^(-3)Torr(0.665Pa)以下,好ましくは10^(-4)Pa以下まで真空排気して,100℃?250℃,好ましくは150℃?200℃,例えば20分以上の加熱を行った後,20分の自然冷却を行って吸着水分を除去する。なお,中には250℃の熱処理に耐えない材料もあるため,真空加熱の条件は,層間絶縁膜材料や配線材料によって適宜設定することが必要である。
次いで,5×10^(-3)Torr(0.665Pa)以下,好ましくは10^(-4)Pa以下まで真空排気した蒸着室で蒸着を行い,有機化合物を含む層(EL層)31を形成し,有機化合物を含む層31上に第2の電極(陰極)32を蒸着法(抵抗加熱法)またはスパッタ法により形成する。これにより,第1の電極(陽極)28,有機化合物を含む層(EL層)31,及び第2の電極(陰極)32を有する発光素子が形成される。
有機化合物を含む層(EL層)31としては,高分子材料,低分子材料,無機材料,またはこれらを混合させた層,またはこれらを分散させた層,またはこれらの層を適宜組み合わせた積層とすればよい。なお,有機化合物を含む層(EL層)31の形成後に,真空加熱を行って脱気を行うことが好ましい。」(12ページ17行ないし15ページ14行)

記載事項キ
「(実施例)
ここではTFTと接続する第1の電極は陽極であり,第1の電極(陽極)がマトリクス状に配置されたアクティブマトリクス基板上に有機化合物を含む層,および第2の電極(陰極)を形成する例を以下に示す(図2)。
まず,絶縁表面を有する基板100上にTFTを形成する。TFTはゲート電極105と,ゲート絶縁膜106aと,チャネル形成領域102と,ドレイン領域またはソース領域103,104と,ソース電極またはドレイン電極107,108と,絶縁膜106b,106cとからなる。第1の電極110としては,仕事関数の大きい金属(Pt,Cr,W,Ni,Zn,Sn,In),本実施例ではスパッタ法で成膜されたITOからなる導電膜を用いる。本実施例ではTFTとしてチャネル形成領域が結晶構造を有する半導体膜(代表的にはポリシリコン膜)であるpチャネル型TFTを用いる。
なお,TFTの層間絶縁膜の最上層,即ち,第1の電極(陽極)110と下面で接する絶縁層106cは無機絶縁膜(代表的にはRFスパッタ法ので成膜された窒化珪素膜)とする。カバレッジの良好な無機絶縁膜を設けることによって,上に形成する第1の電極(陽極)110のクラックをなくす。また,無機絶縁膜とすることで表面の吸着水分を低減することができるため,後に有機化合物を含む層の成膜を行ってもシュリンクの発生を抑えることができる。
このRFスパッタ法で成膜されたの窒化珪素膜は,シリコンをターゲットとして用いた緻密な膜であり,LAL500を用いたエッチング速度が0.77nm/min?8.6nm/minと遅く,膜中の水素濃度がSIMS測定で1×10^(21)atoms/cm^(3)である。なお,LAL500とは,橋本化成株式会社製「LAL500SAバッファードフッ酸」であり,NH_(4)HF(7.13%)とNH_(4)F(15.4%)を含む水溶液である。また,このRFスパッタ法の窒化珪素膜は,BTストレス試験後におけるC-V特性のシフトは差がなく,アルカリ金属や不純物のブロッキングができる。
また,層間絶縁膜106bとして有機樹脂膜を用いることで平坦性を向上させることができる。また,有機樹脂膜に代えて,PCVD法やスパッタ法による酸化珪素膜,酸化窒化珪素膜,窒化珪素膜を用いた場合には,発光素子作製直後の非発光領域の発生,および非発光領域の拡大が生じず,第1の電極(陽極)110のクラックもなくすことができる。
次いで,第1の電極(陽極)110の端部を覆う絶縁膜111を形成する(図2(A))。絶縁膜111は,TFTのコンタクトホールや配線109を覆い,隣り合う画素間や配線との絶縁を保つために形成するものである。絶縁膜111としては,無機材料(酸化シリコン,窒化シリコン,酸化窒化シリコンなど),感光性または非感光性の有機材料(ポリイミド,アクリル,ポリアミド,ポリイミドアミド,レジストまたはベンゾシクロブテン),またはこれらの積層などを用いることができる。光によってエッチャントに不溶解性となるネガ型の感光性アクリルを用い,絶縁膜111の上端部に第1の曲率半径を有する曲面,および下端部に第2の曲率半径を有する曲面を持たせる。前記第1の曲率半径および前記第2の曲率半径は,0.2μm?3μmとすることが好ましい。」(19ページ2行ないし21ページ5行)

記載事項ク
「 ここで,絶縁膜の上端部または下端部に曲率半径を有する曲面を持たせることの効果について図3を用いて説明をする。図3において,200は基板,201は下地絶縁膜,202はゲート絶縁膜,203は層間絶縁膜,204は窒化珪素膜,205は第1の電極(陽極),206は絶縁膜,207は有機化合物を含む層,208は第2の電極(陰極)である。そして,絶縁膜206は,上端部206a(図3(A)中で丸で囲んだ領域)に曲面を有し,下端部206b(図3中で丸で囲んだ領域)にも曲面を有しており,基板面と絶縁膜206の側面とのなす角(テーパー角)θt(θt=35゜?70°)を有しているため,なだらかであり,その上に形成される有機化合物を含む層207,第2の電極(陰極)208のカバレッジが良好なものとなる効果がある。」(21ページ17行ないし22ページ6行)

これら記載事項及び各図,並びに,記載事項ウの「課題を解決するための手段」に記載された表示装置の作成方法の具体的な実施態様が「発明を実施するための最良の形態」及び「実施例」として開示されている点を考慮して引用例に記載された発明を分説して記載すると,下記のとおりとなる(以下,この発明を「引用発明」といい,また,分説された構成を「構成要件A」などという。)。



A 薄膜トランジスタと,発光素子とを有し,発光素子は薄膜トランジスタのソース領域またはドレイン領域と電気的に接続された第1の電極と,第1の電極上に形成された有機化合物を含む層と,有機化合物を含む層上に形成された第2の電極とを有する表示装置の作製方法において,
B ソース領域またはドレイン領域と電気的に接続された第1の電極を形成し,
C 第1の電極の端部を覆うように絶縁膜を形成し,
D 第1の電極と絶縁膜に対し,アルゴン及び酸素を含む雰囲気中でプラズマ処理を行った後,
E 第1の電極及び絶縁膜上に有機化合物を含む層を形成し,
F 有機化合物を含む層上に第2の電極を形成することによって発光素子形成する表示装置の作製方法であって,
G 薄膜トランジスタは,絶縁表面を有する基板上に形成し,
H 第1の電極は,スパッタ法で成膜されたITOからなる導電膜を用い,
I 絶縁膜は,TFTのコンタクトホールや配線を覆い,隣り合う画素間や配線との絶縁を保つために形成するものであり,
J 絶縁膜111としては,無機材料(酸化シリコン,窒化シリコン,酸化窒化シリコンなど),感光性または非感光性の有機材料(ポリイミド,アクリル,ポリアミド,ポリイミドアミド,レジストまたはベンゾシクロブテン),またはこれらの積層などを用いることができ,
K 光によってエッチャントに不溶解性となるネガ型の感光性アクリルを用い,絶縁膜の上端部に第1の曲率半径を有する曲面,および下端部に第2の曲率半径を有する曲面を持たせ,前記第1の曲率半径および前記第2の曲率半径は,0.2μm?3μmとすることが好ましく,
L 有機化合物を含む層を形成する前に,アルゴン及び酸素を含む雰囲気中で高周波電圧を印加してプラズマを発生させ,発生したプラズマを第1の電極及び絶縁膜に衝突させて水やごみ等をたたき出して洗浄をすることによって,基板の前処理にかかる時間を短時間にすることができ,またシュリンクや発光ムラを抑えることができ,且つ,絶縁膜が過剰に削れない,
M 表示装置の作成方法。

第4 対比及び判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比すると以下のとおりとなる。
(1) 電極物質を形成する工程
構成要件A,B,G及びHからみて,引用発明の「第1の電極を形成し」という工程と本願発明の「電極物質を形成する工程」は「基板上に電極物質を形成する工程」の点で一致する。

(2) 電極パターンを形成する工程
構成要件C,H及びI並びに技術常識からみて,引用発明が「前記電極物質をパターニングして電極パターンを形成する工程」を備えることは明らかである。

(3) 絶縁膜を形成する工程,電極パターンの一部分を露出させる構成
構成要件C及びIないしK並びに技術常識からみて,引用発明の「第1の電極の端部を覆うように絶縁膜を形成し」という工程は,基板上の第1の電極を覆うように絶縁膜を形成する工程,及び,絶縁膜をエッチングして第1の電極の画素となる部分を露出させる工程からなることは明らかである。
したがって,引用発明の「第1の電極の端部を覆うように絶縁膜を形成し」という工程は,本願発明の「基板上に蒸着厚さを有する絶縁膜を形成する工程」及び「前記絶縁膜をエッチングして前記電極パターンの一部分を露出させる工程」に相当する。

(4) 電極パターンの表面特性を改善する工程
構成要件D及びLからみて,引用発明の「プラズマ処理」と本願発明の「電極パターンの表面特性を改善する工程」は,「前記絶縁膜が蒸着厚さから一定厚さほどエッチングされる条件で表面処理工程を行って前記電極パターンの表面特性を改善する工程」の点で一致する。

(5) 平板表示装置の電極形成方法
引用発明の「表示装置の作成方法」における第1の電極の形成からプラズマ処理までの工程は,本願発明の「平板表示装置の電極形成方法」に相当する。

(6) 一致点及び相違点
上記(1)ないし(5)を総合すると,本願発明と引用発明は,
「 基板上に電極物質を形成する工程と,
前記電極物質をパターニングして電極パターンを形成する工程と,
基板上に蒸着厚さを有する絶縁膜を形成する工程と,
前記絶縁膜をエッチングして前記電極パターンの一部分を露出させる工程と,
前記絶縁膜が蒸着厚さから一定厚さほどエッチングされる条件で表面処理工程を行って前記電極パターンの表面特性を改善する工程と,を含む,
平板表示装置の電極形成方法。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明の「前記表面処理工程は,絶縁膜が蒸着厚さから100ないし1000Åの範囲でエッチングされる条件で行われる」のに対して,引用発明のプラズマ処理は,これが明らかではない点。

2 判断
引用発明のプラズマ処理はプラズマを第1の電極及び絶縁膜に衝突させて水やごみ等をたたきだして洗浄することを意図したものである(構成要件L)から,より多くのプラズマ処理を施した方が洗浄効果が得られると考えられる。他方,引用発明のプラズマ処理により絶縁膜が削れることは明らかである(構成要件L)。したがって,当業者は,引用発明のプラズマ処理を絶縁膜が過剰に削られない範囲内で十分に行うはずである。
ところで,引用発明の絶縁膜は,少なくともその下端部に0.2μm?3μmの曲率半径を有する曲面を持たせるように構成されるものである(構成要件K)から,当業者はこの曲面形状が保たれる範囲内でプラズマ処理を行うはずである。そうしてみると,例えば,テーパー角を35°,曲率半径を0.2μmとした場合に絶縁膜が1000Å削られると曲面のほとんどが削られると見積もられる点にかんがみれば,当業者においてプラズマ処理により絶縁膜の削られる厚さを数百Å程度以下とすることは,当然のことである。
したがって,引用発明の表示装置の作成方法において,当業者がプラズマ処理の程度を絶縁膜が数百Å程度削られるものとし,相違点に係る構成を有するようにすることは当業者が容易に想到できることである。
そして,100ないし1000Åという数値の上限及び加減に臨界的な意義が見いだし得ないことは,本願発明が,電極物質及び絶縁膜の材質はおろかエッチング処理の方法や条件,さらにはプラズマ処理の条件について何ら規定しないものである点にかんがみれば,明らかであるから,当業者の予測を超えるような作用効果を認めることができない。

3 小括
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 結論
したがって,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-23 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-12 
出願番号 特願2006-10249(P2006-10249)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東松 修太郎  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 樋口 信宏
岡田 吉美
発明の名称 平板表示装置の電極形成方法、有機電界発光表示装置の製造方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 佐伯 義文  

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