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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F16C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C |
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管理番号 | 1242412 |
審判番号 | 不服2010-5259 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-03-10 |
確定日 | 2011-08-24 |
事件の表示 | 特願2004-544100「スライディングベアリング材料」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月29日国際公開、WO2004/036066、平成18年 1月26日国内公表、特表2006-503238〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【1】手続の経緯 本願は、2003年10月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年10月14日 (DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年11月6日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年3月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書及び特許請求の範囲に対する手続補正がなされたものである。 その後、当審において、平成22年7月16日(起案日)付けで審尋がなされ、平成23年1月20日に審尋に対する回答書が提出されたものである。 【2】平成22年3月10日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年3月10日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に対し、以下のような補正を含むものである。なお、下線は、審判請求人が付した補正箇所である。 (1)本件補正前の請求項1(平成21年10月21日付け手続補正) 「【請求項1】 金属支持体(1)と、開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つとを含み、前記支持体(1)と前記強化材料(2)とが金属連結部によって相互に連結されており、そして前記強化材料(2)上にオーバーレイ(4)が追加層として提供されており、スライディングベアリングに使用される複合材料であって、前記オーバーレイ(4)がポリエチレン(PE)を90?100重量%の割合で含むことを特徴とする、前記複合材料。」 (2)本件補正後の請求項1(平成22年3月10日付け手続補正) 「【請求項1】 金属支持体(1)と、開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つと、前記強化材料(2)上に追加層として提供され、ポリエチレン(PE)を含むオーバーレイ(4)とを含む、スライディングベアリングに使用される複合材料であって、 前記支持体(1)と前記強化材料(2)とが金属連結部によって相互に連結されており、そして、前記金属連結部は、前記支持体(1)と前記強化材料(2)との間にガルバナイジング及び/又はめっきされた金属中間層(3)である、前記複合材料。」 2.補正の適否 2-1.補正の目的について 上記補正は、補正前の請求項1の「オーバーレイ(4)がポリエチレン(PE)を90?100重量%の割合で含む」を「ポリエチレン(PE)を含むオーバーレイ(4)とを含む」とすることにより、実質的に「90?100重量%の割合」という限定事項を削除して特許請求の範囲を拡張ないし変更することを含むものであり、特許請求の範囲を減縮するものではない。また、上記補正は、請求項の削除を目的とするものでも、誤記の訂正を目的とするものでも、明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもない。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 なお、審判請求人は、平成22年4月22日付け手続補正書(方式)により補正された平成22年3月10日付け審判請求書において、上記「90?100重量%の割合で」を削除する点は、限定的減縮に相当しないことは認識している旨を述べた上で(上記手続補正書(方式)の第2ページの下から4行?末行を参照。)、当審の審尋に対する平成23年1月20日付け回答書において、平成22年3月10日付け手続補正書による補正と同じ内容の補正を行うことを希望している(【回答の内容】3.を参照。)ことに鑑み、仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、独立特許要件、すなわち特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)についても、念のため検討する。(以下、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。) 2-2.独立特許要件について 2-2-1.本願補正発明 本願補正発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「【2】1.(2)」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。 2-2-2.引用刊行物とその記載事項 刊行物1:特開平8-225661号公報 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された上記刊行物1には、「軸受材料および複合層状材料」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、滑り特性を改善する添加物を混入物として含有する、熱可塑性ポリマーより成るマトリックスを用いた軸受材料に関する。本発明はかゝる軸受材料が使用されている複合層状材料にも関する。」 (イ)「【0002】 【従来の技術】ドイツ特許出願公告第1,569,243号明細書から、ポリテトラフルオロエチレン繊維およびポリオキシメチレンより成る潤滑油不要の軸受が公知である。この場合にはポリテトラフルオロエチレン繊維が1.6mmまでの繊維長を有し且つ5?40重量% の量で使用されている。ポリテトラフルオロエチレン繊維の低い摩耗係数が不都合に悪化しない限り、ポリテトラフルオロエチレン繊維に加えて別の繊維またはフィラーを添加することができる。 【0003】ドイツ特許第1,544,921号明細書からは、整備不要の軸受を製造するのに使用される、70?99.5重量% のポリアセタールおよび0.5?30重量% のチョークより成る成形材料が公知である。ポリアセタールとはホルムアルデヒドまたはトリオキサンの単独重合体を意味する。ポリアセタールに添加されるチョークは粒度にも産地(地層)および加工法あるいは製造法に無関係である。これらの公知の軸受は、乾燥使用条件のもとで摩耗係数が高過ぎ且つ摩耗抵抗が低過ぎるという欠点を有している。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】従って本発明の課題は、公知の軸受材料に比較して改善された乾燥使用特性および流体力学的潤滑下での良好な運転特性を示す熱安定性軸受材料およびかゝる軸受材料を用いた複合材料を提供することである。特に乾燥使用条件のもとで摩擦係数が低下しそして摩耗抵抗並びに被負荷性が高められるべきである。」 (ウ)「【0013】図5はPE-マトリックスを用いた材料の摩擦係数/摩耗抵抗のグラフである。図6はPOM-マトリックスを用いた材料の摩擦係数/摩耗抵抗のグラフであり、そして図7はPEEK-マトリックスを用いた材料の摩擦係数/摩耗抵抗のグラフである。」 (エ)「【0014】 【実施例】 実施例1:焼結した多孔質ブロンズ骨材4を鋼鉄製ベルト状物3の上にの載せる。該骨材の上に60重量% のPTFEと40重量% のチョークとより成る滑り層2がペーストとして塗布され、熱処理されそして該骨材の内部にローラーで押し込まれる。この実施形態の場合にはマトリックス5はPTFEより成り、該マトリックス中に添加物としてのチョーク粒子8が混入されている。 【0015】図1に、鋼鉄製ベルト状物3および滑り層2を層状で有するかゝる複合層状材料1を示す。 実施例2:60重量% のPOM、25重量% のPTFEおよび15重量% のチョークとより成る滑り層2が中に入れられている焼結した多孔質ブロンズ骨材4が鋼鉄製ベルト状物3の上に設けられている。滑り層状材料料は押出機中で溶融され、均一化され、圧縮されそして金属製支持体3の上に溶融フィルムとして載せられている(押出成形被覆法)。」 (オ)「【0016】図2にかゝる複合層状材料1の切断面を図示する。POMより成るマトリックス5中に部分的に互いに接して堆積したPTFE/チョーク-粒子6/8が書き込まれており、この粒子はマトリックス5中に均一に分布している。(以下、省略)」 (カ)「【0017】実施例4:80重量% のPE、10重量% のPTFEおよび10重量% のチョークより成る滑り層で、機械的に粗面化された鋼鉄製ベルト状物を被覆する。この場合、金属製支持体の熱可塑性滑り層での被覆は押出被覆法によっても行うことができる。(以下、省略)」 (キ)「【0019】図5には、PE-マトリックスを用いた材料の棒グラフが示されている。PTFEだかまたはチョークだけを含有する材料では、例えば80重量% のポリエチレン、10重量% のPTFEおよび10重量% のチョークを用いた本発明の材料が示す摩擦係数および摩耗抵抗値が得られないことが判る。PTFEとチョークとの組合せの優位さはこの場合には特に摩耗抵抗値に現れている。」 そうすると、上記記載事項(ア)?(キ)及び図面(特に、図2及び図5)の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「鋼鉄製ベルト状物3と、鋼鉄製ベルト状物3の上に設けられた焼結した多孔質ブロンズ骨材4と、80重量%のポリエチレン-マトリクス5中に部分的に互いに接して堆積した10重量%のPTFE6及び10重量%のチョーク粒子8と、からなる滑り層2で被覆された、軸受を製造するのに使用される複合層状材料1。」 2-2-3.対比 本願補正発明と刊行物1発明を対比する。 刊行物1発明の「鋼鉄製ベルト状物3」は、その機能からみて、本願補正発明の「金属支持体(1)」に相当し、以下同様に、「ポリエチレン-マトリクス5」は「ポリエチレン(PE)を含む」に、「滑り層2」は「オーバーレイ(4)」に、「軸受」は「スライディングベアリング」に、「複合層状材料1」は「複合材料」に相当する。 刊行物1発明の「鋼鉄製ベルト状物3の上に設けられた焼結した多孔質ブロンズ骨材4」及び「10重量%のPTFE6」と「10重量%のチョーク粒子8」は、少なくとも強化材料として多孔質ブロンズ骨材4を含むものであるから、本願補正発明の「開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つ」に相当するものである。 そうすると、刊行物1発明の「鋼鉄製ベルト状物3の上に設けられた焼結した多孔質ブロンズ骨材4と、80重量%のポリエチレン-マトリクス5中に部分的に互いに接して堆積した10重量%のPTFE6及び10重量%のチョーク粒子8と、からなる滑り層2で被覆された」は、実質的に、本願補正発明の「開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つと、前記強化材料(2)上に追加層として提供され、ポリエチレン(PE)を含むオーバーレイ(4)とを含む」に相当し、同じく、「軸受を製造するのに使用される複合層状材料1」は、「スライディングベアリングに使用される複合材料」に相当するものである。 したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、 「金属支持体(1)と、開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つと、前記強化材料(2)上に追加層として提供され、ポリエチレン(PE)を含むオーバーレイ(4)とを含む、スライディングベアリングに使用される複合材料。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 本願補正発明が、「前記支持体(1)と前記強化材料(2)とが金属連結部によって相互に連結されており、そして、前記金属連結部は、前記支持体(1)と前記強化材料(2)との間にガルバナイジング及び/又はめっきされた金属中間層(3)である」のに対し、刊行物1発明は、このような中間層を有していない点。 2-2-4.判断 (1)相違点1について 本願補正発明は、「スライディングベアリングにおいて使用されるべき複合材料であって、一方では、経済的に、そして環境保全的に、製造し、そして廃棄することができ、他方では、機械的強度が高く、そして耐熱性の複合材料を創造すること」(本願の明細書の段落【0007】)を発明の基礎となる目的としているものであり、「オーバーレイがポリエチレン系層であり、スライディングベアリングにおいて使用されるべき本発明による複合材料によって、前記目的及びその他の目的が達成される」(本願の明細書の段落【0008】)というものである。刊行物1発明は、オーバーレイが上記ポリエチレン系層であるポリエチレン-マトリクス5である点において、本願補正発明と同様に、経済的に、そして環境保全的に、製造し、そして廃棄することができるものであり、「公知の軸受材料に比較して改善された乾燥使用特性および流体力学的潤滑下での良好な運転特性を示す熱安定性軸受材料およびかゝる軸受材料を用いた複合材料を提供する」(上記記載事項(イ)の段落【0004】)ものであるから、機械的強度が高いという一般的な特性は当然有するとともに耐熱性の複合材料である点において、本願補正発明と軌を一にするものである。 さらに、刊行物1発明は、ガルバナイジング及び/又はめっきされた金属中間層は有しないものの、鋼鉄製ベルト状物3の上に設けられた焼結した多孔質ブロンズ骨材4がポリエチレン-マトリクス5を連結する機能を有するものである。すなわち、スライディングベアリング(以下、一般に用いられる技術用語である「すべり軸受」に適宜言い換える。)において、支持体とオーバーレイの間に中間層を設けるか否かは、支持体とオーバーレイの材質などに起因する連結の強度を考慮して適宜決定できる設計事項であって、必要に応じて金属中間層を設けることは、以下に例示するとおり、周知事項であるから、刊行物1発明に金属中間層を設けることは当業者が容易に推考できたことである。 周知例1:特開平11-325077号公報の図1に記載された実施例は、鋼板からなる裏金1上にCu合金層2(中間層に相当する。)を焼結、圧延した後、Ag層3(中間層に相当する。)をめっきし、その上に樹脂層4を形成したものである(段落【0013】を参照)。 周知例2:特開2001-240933号公報の図3に記載された実施例は、鋼板の裏金12上に銅又は銅合金の中間層13をめっきし、さらに銅系摺動材料14を被着し、オーバーレイ層15を被着したものである(段落【0016】を参照)。 周知例3:特開平7-259863号公報の図1に記載された実施例は、SPCC(鋼板)からなる裏金にCu系の軸受合金層2を圧接し、その表面にNiめっきにより中間層3を形成し、その上にPb系(第3ページ第3欄第40行?同第4欄第34行を参照。)又は合成樹脂材料(第5ページ第7欄第2行を参照。)のオーバーレイ層4を形成したものである。 また、本願補正発明の金属中間層は、「ガルバナイジング及び/又はめっき」されているものであるが、上記周知例1?3はいずれもめっき又は焼結によって形成されているように、金属中間層をめっきによって形成することは、上記周知事項に挙げられためっき又は焼結による形成手段の選択に過ぎない。 なお、本願補正発明は「前記支持体(1)と前記強化材料(2)とが」金属中間層である「金属連結部によって相互に連結されて」いるものであるが、上記強化材料は「前記強化材料(2)上に追加層として提供され、ポリエチレン(PE)を含むオーバーレイ(4)」を構成するものであるから、本願補正発明の「金属中間層(3)」は上記周知例1?3に例示した金属中間層と実質的な差異はないものである。 したがって、刊行物1発明に上記周知事項を適用して上記相違点1に係る本願補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものである。 (2)効果について 本願補正発明の目的を達成した結果得られる、経済的に、そして環境保全的に、製造し、そして廃棄することができ、他方では、機械的強度が高く、そして耐熱性を有するといった効果は、いずれも刊行物1に記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できるものである。 (3)まとめ したがって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)審判請求人の主張について 審判請求人は、平成22年4月22日付け手続補正書(方式)により補正された平成22年3月10日付け審判請求書において、「本願発明の『金属中間層』について引用例1には開示も示唆もされておりませんので、本願発明複合材料と引用例1の発明とでは、複合材料における構造自体が異なります。」(上記手続補正書(方式)の第7ページ第36?38行参照。)などと述べて、本願は特許されるべき旨主張している。 確かに、引用例1(上記刊行物1に相当。)に記載された発明は、金属中間層を有しないが、すべり軸受に使用される複合材料に金属中間層を設けたものは、上述のとおり、周知事項であり、当該金属中間層を設けるか否かはすべり軸受を構成する支持体とオーバーレイの材質などに起因する連結の強度を考慮して適宜決定される設計事項に過ぎない。 なお、審判請求人は、上記審判請求書において、明細書の段落【0023】を引用して、「本願補正発明の強化材料は、『ファブリックであることが好ましく、特に、ワイヤメッシュ、エキスパンデッドメタル、フリース、特に、金属フリース、金属フォーム及び/又は多孔板』から形成されるので、複合材料をスライディングベアリングとして使用する場合での圧縮強さ(特に、衝撃抵抗)の点で全く異なります。」(上記手続補正書(方式)の第8ページ第4?8行参照。)と主張しているが、この主張は、本願の特許請求の範囲の請求項7で特定されているものの、請求項1には特定されていない事項に基づくものである。なお、念のために、上記のような強化材料を周知例として挙げると、特開平11-269280号公報の段落【0024】に金属を含む繊維材料が例示され、特表2000-505527号公報の第4ページ第7?8行にはワイヤメッシュが例示されている。 よって、審判請求人の主張は採用できない。 3.むすび 上記2-1.において判断したとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 また、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと仮定した場合でも、上記2-2.において判断したとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであって、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 以上のとおり、本件補正は、いずれにしても、却下すべきものである。 【3】本願発明について 1.本願発明 平成22年3月10日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?19に係る発明は、平成21年10月21日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。 「【請求項1】 金属支持体(1)と、開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つとを含み、前記支持体(1)と前記強化材料(2)とが金属連結部によって相互に連結されており、そして前記強化材料(2)上にオーバーレイ(4)が追加層として提供されており、スライディングベアリングに使用される複合材料であって、前記オーバーレイ(4)がポリエチレン(PE)を90?100重量%の割合で含むことを特徴とする、前記複合材料。」 2.引用刊行物とその記載事項 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は次のとおりであり、その記載事項は、上記【2】2-2-2.のとおりである。 刊行物1:特開平8-225661号公報 3.対比 本願発明と刊行物1発明を対比する。 刊行物1発明の「鋼鉄製ベルト状物3」は、その機能からみて、本願発明の「金属支持体(1)」に相当し、以下同様に、「ポリエチレン-マトリクス5」は「ポリエチレン(PE)を含む」に、「滑り層2」は「オーバーレイ(4)」に、「軸受」は「スライディングベアリング」に、「複合層状材料1」は「複合材料」に相当する。 刊行物1発明の「鋼鉄製ベルト状物3の上に設けられた焼結した多孔質ブロンズ骨材4」及び「10重量%のPTFE6」と「10重量%のチョーク粒子8」は、少なくとも強化材料として多孔質ブロンズ骨材4を含むものであるから、本願発明の「開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つ」に相当するものである。 刊行物1発明の「軸受を製造するのに使用される複合層状材料1」は、本願発明の「スライディングベアリングに使用される複合材料」に相当するものである。 そうすると、刊行物1発明の「鋼鉄製ベルト状物3の上に設けられた焼結した多孔質ブロンズ骨材4と、80重量%のポリエチレン-マトリクス5中に部分的に互いに接して堆積した10重量%のPTFE6及び10重量%のチョーク粒子8と、からなる滑り層2で被覆された」は、本願発明の「開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つとを含み、前記支持体(1)と前記強化材料(2)とが金属連結部によって相互に連結されており、そして前記強化材料(2)上にオーバーレイ(4)が追加層として提供されており」、及び「前記オーバーレイ(4)がポリエチレン(PE)を90?100重量%の割合で含む」と対比して、少なくとも「開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つとを含み、前記強化材料(2)上にオーバーレイ(4)が追加層として提供されており」、及び「前記オーバーレイ(4)がポリエチレン(PE)を含む」点で共通するものである。 したがって、本願発明の用語にならってまとめると、両者は、 「金属支持体(1)と、開放構造を有する強化材料(2)少なくとも1つとを含み、そして前記強化材料(2)上にオーバーレイ(4)が追加層として提供されており、スライディングベアリングに使用される複合材料であって、前記オーバーレイ(4)がポリエチレン(PE)を含む、前記複合材料。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点A] 本願発明は、「前記支持体(1)と前記強化材料(2)とが金属連結部によって相互に連結されており」のに対し、刊行物1発明は、このような金属連結部を有していない点。 [相違点B] 本願発明は、前記オーバーレイ(4)がポリエチレン(PE)を「90?100重量%の割合で」含むのに対し、刊行物1発明は、ポリエチレン-マトリクス5が80重量%の割合である点。 4.判断 (1)相違点Aについて 相違点Aに係る本願発明の「前記支持体(1)と前記強化材料(2)とが金属連結部によって相互に連結されており」は、上記相違点1に挙げた本願補正発明の「前記支持体(1)と前記強化材料(2)とが金属連結部によって相互に連結されており、そして、前記金属連結部は、前記支持体(1)と前記強化材料(2)との間にガルバナイジング及び/又はめっきされた金属中間層(3)である」から、「そして、前記金属連結部は、前記支持体(1)と前記強化材料(2)との間にガルバナイジング及び/又はめっきされた金属中間層(3)である」の限定を削除して構成を拡張したものである。 そうすると、上記相違点1に係る本願補正発明の構成が、上記「2-2-4.(1)相違点1について」で判断したとおり、刊行物1発明に上記周知事項を適用して当業者が容易に想到し得たものであるから、上記のとおり構成を拡張した上記相違点Aに係る本願発明の構成も実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。 (2)相違点Bについて 本願発明がポリエチレンを「90?100重量%の割合で」含有する点について、本願の明細書にはその上限値や下限値において特性が急変したり、その範囲において極大化するといった臨界的意義については何ら記載されていない。さらに、同明細書の「本発明の好ましい実施態様によると、前記オーバーレイを構成しているプラスチックは、5?100重量%、特に50?100重量%、より好ましくは、80?100重量%、及び、最も好ましくは90?100重量%の割合でポリエチレンを含む。」(段落【0017】)や「更に、前記オーバーレイは、通常の添加剤、例えば充填剤(例えば、グラスファイバー、石炭、グラファイト及び/又は芳香性ポリエステル)を含むことができる。更に、ポリエチレンの他に、充填剤、例えばグラスファイバー、石炭、グラファイト及び/又は芳香性ポリエステルを含む、ポリエチレン系のプラスチック組成物も、ここで言うポリエチレン化合物(PE化合物)である。」(段落【0018】)との記載を参酌すると、上記ポリエチレンの含有割合は、添加剤や充填材に応じて適宜調整されているものと解される。そうすると、刊行物1発明のポリエチレンの含有量が80%であるとしても、すべり軸受の用途や必要とされる特性に応じてポリエチレンに対する上記添加剤や充填材を調整することは設計事項であるから、刊行物1発明において上記含有割合を90?100重量%とすることは当業者が通常の創作能力を発揮して最適値を見いだしたものといわざるを得ない。 なお、ポリエチレンの含有割合が100%であるということは、オーバーレイをポリエチレンそのものとするものであるが、すべり軸受の滑り面にポリエチレンを用いることは周知事項(再公表特許公報(国際公開)第2002/051691号の【請求項9】、特開2002-293275号公報の【請求項8】、及び特開2002-295471号公報の段落【0010】を参照。)であるから、上記100%とすることも当業者にとって何ら困難性はない。 (3)効果について 本願発明の効果は、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できるものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし19に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-24 |
結審通知日 | 2011-03-29 |
審決日 | 2011-04-11 |
出願番号 | 特願2004-544100(P2004-544100) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C) P 1 8・ 57- Z (F16C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 関口 勇 |
特許庁審判長 |
川上 溢喜 |
特許庁審判官 |
山岸 利治 大山 健 |
発明の名称 | スライディングベアリング材料 |
代理人 | 森田 憲一 |