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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1242516
審判番号 不服2009-18742  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-02 
確定日 2011-08-26 
事件の表示 特願2003-340215「無瞬断切替装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-109848〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成15年 9月30日の出願であって、平成21年 7月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年10月 2日付けで審判請求がなされたものである。
特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年 3月23日付け手続補正書により補正された願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
複数フレームを1つのデータセットとして伝送可能な通信システムが備える、瞬断によるデータ損失を伴わずに、前記フレームの通信経路を現用系と予備系間で切り替えるための無瞬断切替装置あって、
前記現用系及び前記予備系を介して受信した前記フレームにビットエラーが有るか否かをそれぞれ検出するビットエラー検出部と、
前記現用系を介して受信した前記フレームに前記ビットエラーが有り、かつ前記予備系を介して受信した前記フレームに前記ビットエラーが無い場合に、前記データセット単位で、前記フレームの通信経路を前記現用系から前記予備系に切り替えるための選択信号を出力するVCAT単位切替制御部と、
前記選択信号にしたがって、前記フレームの通信経路を前記現用系と前記予備系間で切り替える切替部と、
前記現用系を介して受信したフレームと前記予備系を介して受信したフレームの位相差を算出し、前記現用系を介して受信したフレームと前記予備系を介して受信したフレームの位相を揃えるための位相差情報を生成する位相差検出部と、
前記位相差情報にしたがって、現用系を介して受信したフレーム及び前記予備系を介して受信したフレームのいずれか一方に、位相の遅れた一方に位相の進んだ他方を合わせるための遅延を挿入し、前記現用系のフレームと前記予備系のフレームとの位相を揃える位相調整部と、
を有する無瞬断切替装置。」

2.引用発明
(1)これに対して、原査定の拒絶理由に引用され、出願人も本願明細書の【背景技術】で引用している特開平9- 36826号公報(以下、「引用例1」という。)には、「無瞬断切替装置」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【請求項1】 ビット誤りチェック情報を含むデータブロックの流れとして、第1の伝送路および第2の伝送路を通して到来する同一主信号を受信して、無瞬断で切り替え、第3の伝送路に供給することによって、前記第1の伝送路および前記第2の伝送路の一方を現用伝送路とし、他方を予備伝送路とする無瞬断切替装置であって、
前記第1の伝送路に接続され、前記同一主信号のうちの一方を受信し、第1の主信号として出力する第1の信号終端処理回路と、
前記第2の伝送路に接続され、前記同一主信号のうちの他方を受信し、第2の主信号として出力する第2の信号終端処理回路と、
前記第1の主信号のビット誤りを、前記ビット誤りチェック情報に基づいて、前記データブロック毎に検出する第1のビット誤り検出回路と、
前記第2の主信号のビット誤りを、前記ビット誤りチェック情報に基づいて、前記データブロック毎に検出する第2のビット誤り検出回路と、
前記第1の主信号のデータブロックと前記第2の主信号のデータブロックの間の位相差を検出する位相差検出回路と、
前記位相差検出回路が検出した前記位相差を補償し、前記第1の主信号のデータブロックと前記第2の主信号のデータブロックの位相を合わせ、位相が合った前記第1の主信号のデータブロックおよび前記第2の主信号のデータブロックを出力する位相補償回路と、
前記位相補償回路から出力された第1の主信号を、少なくとも1データブロック長の間遅延する第1の遅延回路と、
前記位相補償回路から出力された第2の主信号を、少なくとも1データブロック長の間遅延する第2の遅延回路と、
前記第1の遅延回路から出力された前記第1の主信号、および前記第2の遅延回路から出力された前記第2の主信号のいずれか一方を、前記第3の伝送路に選択的に供給する切替回路と、
前記第1の伝送路を現用伝送路、前記第2の伝送路を予備伝送路としている場合に、前記第1のビット誤り検出回路が前記第1の主信号のあるデータブロックにビット誤り検出し、前記第2のビット誤り検出回路が前記第2の主信号の対応するデータブロックにビット誤りを検出しなかったときには、前記切替回路に切替制御信号を供給し、前記第2の遅延回路から出力される前記第2の主信号を、前記切替回路から前記第3の伝送路に供給させる相関監視回路とを具備することを特徴とする伝送路の無瞬断切替装置。」(2頁1欄)

ロ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ディジタル通信における伝送路の無瞬断切替装置および方法に係り、特に、SDH(Synchronous Digital Hierarchy )伝送システム、SONET(Synchronous Optical Network )伝送システム、ATM(Asynchronous Transfer Mode)伝送システムにおける伝送路の無瞬断切替に好適な装置および方法に関する。」(3頁4欄)

ハ.「【0034】実施例1
図3は、本発明による伝送路の無瞬断切替装置の第1実施例を示すブロック図である。この切替装置は、図1に示す端局装置1または2の受信部に相当している。図において、現用伝送路51および予備伝送路61を経て到来した主信号S1およびS11は、入力端子52および62を介して、信号終端処理回路53および63に供給される。
【0035】図4および図5は、信号S1およびS11のフレーム構成を示す図である。これは、ITU-T勧告のSDH(Synchronous Digital Hierarchy )で定義されたSTM(Synchronous Transfer Mode )フレームであり、米国のANSIによるSONET(Synchronous Optical Network )で定義されたSTSフレームに相当するものである。」(6頁9?10欄)

ニ.「【0038】図3の説明に戻る。信号終端処理回路53および63は、このようなフレーム構造を有する主信号S1およびS11を受信すると、フレーム80同期を確立する。すなわち、まず、SOH情報領域81のA1およびA2バイトを検出して、STMフレームの先頭を認識し、ついで、AUPTR81bを検出して、H1およびH2で示されたVCフレームの先頭バイトJ1を検出する。
【0039】信号終端処理回路53および63で検出されたJ1バイト受信時間情報は、VCフレーム位相表示信号S5およびS15として、位相差検出回路70へ供給される。位相差検出回路70は、両系のJ1バイト受信時間情報を比較して、両系のVCフレーム82の位相差を検出し、この位相差を示す制御信号S20を、位相補償回路54および64に供給する。この位相差は、主に、現用伝送路と予備伝送路の伝送路長の差によるものである。
【0040】図6は、位相補償回路54および64による位相補償動作を説明する図である。図に示すように、現用伝送路に対する位相補償回路54は、信号終端処理回路53から供給された主信号S2に、ある一定の固定遅延を与えて信号S3として出力する。一方、予備伝送路に対する位相補償回路64は、信号終端処理回路63から供給された主信号S12に、位相差検出回路70から供給された位相差+前記ある一定の固定遅延,の可変遅延を与えて、主信号S13として出力する。こうして、両系の位相補償回路54および64からは、フレーム位相の合った主信号S3とS13が出力され、遅延回路55および65にそれぞれ供給される。これら固定および可変の遅延付与は、位相補償回路54および64が有するメモリを用いて行われる。
【0041】フレーム位相の合った主信号S3およびS13は、遅延回路55および65にそれぞれ供給される。遅延回路55および65は、主信号S3およびS13にある一定の遅延を与え、主信号S4およびS14として、切替回路71に供給する。この遅延時間は、信号S2およびS12の各データブロックに対するビット誤り検出に要する時間以上に設定しなければならない。
【0042】信号終端処理回路53および63から出力されたB3バイトを含んだVCフレームデータ系列、または、B2バイトを含んだSTMフレームデータ系列は、信号S6およびS16として、ビット誤り検出回路56および66に供給される。ビット誤り検出回路56および66は、BIP演算および演算結果のB2またはB3バイトとの比較を行うことにより、ビット誤りを各系別に検出し、検出結果を、信号S7およびS17として、相関監視回路75に供給する。・・・」(6頁10欄?7頁11欄)

上記引用例1の記載及び図面を参照すると、上記ロ.【0001】の「・・・SDH(Synchronous Digital Hierarchy )伝送システム、SONET(Synchronous Optical Network )伝送システム、ATM(Asynchronous Transfer Mode)伝送システムにおける伝送路の無瞬断切替に好適な装置・・・」と記載され、「SDH」、「SONET」等は複数フレームを伝送することから、引用例1の「無瞬断切替装置」は、複数フレームを伝送可能な通信システムに備えられるものである。
また、上記イ.【請求項1】の「ビット誤りチェック情報を含むデータブロックの流れとして、第1の伝送路および第2の伝送路を通して到来する同一主信号を受信して、・・・一方を現用伝送路とし、他方を予備伝送路とする無瞬断切替装置・・・」、同ハ.【0034】の「・・・図3は、本発明による伝送路の無瞬断切替装置の第1実施例を示すブロック図である。・・・図において、現用伝送路51および予備伝送路61を経て到来した主信号S1およびS11は、・・・」という記載から、引用例1の「無瞬断装置」は「データブロックの流れ」として「主信号S1、S11」を受信するものであり、同【0035】の「図4および図5は、信号S1およびS11のフレーム構成を示す図である。これは、ITU-T勧告のSDH(Synchronous Digital Hierarchy )で定義されたSTM(Synchronous Transfer Mode )フレームであり、米国のANSIによるSONET(Synchronous Optical Network )で定義されたSTSフレームに相当するものである。」という記載から、「主信号S1、S11」は「SDHで定義されたSTMフレーム」または「SONETで定義されたSTSフレーム」であり、「SDH」、「SONET」は複数フレームを伝送することから、引用例1の「無瞬断装置」は「複数フレーム」を受信するものである。
そして、上記イ.【請求項1】の「 ビット誤りチェック情報を含むデータブロックの流れとして、第1の伝送路および第2の伝送路を通して到来する同一主信号を受信して、・・・」、同「前記第1の伝送路を現用伝送路、前記第2の伝送路を予備伝送路としている場合に、・・・」という記載から、引用例1の「第1の伝送路」、「第2の伝送路」は、それぞれ「現用伝送路」、「予備伝送路」となり得るものであり、同【請求項1】の「・・・第1の伝送路に接続され、前記同一主信号のうちの一方を受信し、第1の主信号として出力する・・・前記第2の伝送路に接続され、前記同一主信号のうちの他方を受信し、第2の主信号として出力する・・・」という記載から、「第1の主信号」は現用伝送路を介して受信したフレーム、「第2の主信号」は予備伝送路を介して受信したフレームである。
さらに、上記イ.【請求項1】の「・・・前記位相補償回路から出力された第1の主信号を、少なくとも1データブロック長の間遅延する第1の遅延回路と、
前記位相補償回路から出力された第2の主信号を、少なくとも1データブロック長の間遅延する第2の遅延回路と、
前記第1の遅延回路から出力された前記第1の主信号、および前記第2の遅延回路から出力された前記第2の主信号のいずれか一方を、前記第3の伝送路に選択的に供給する切替回路・・・」という記載から、「切替回路」は「位相補償回路」から出力される「第1の主信号」および「第2の主信号」の「いずれか一方を選択的に供給する」ものである。
したがって、上記引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「複数フレームを伝送可能な通信システムに備えられ、現用伝送路及び予備伝送路を通して到来するフレームを受信して、無瞬断で切り替える無瞬断切替装置であって、
前記現用伝送路を介して受信したフレームのビット誤りを、ビット誤りチェック情報に基づいて、前記フレーム毎に検出する第1のビット誤り検出回路と、
前記予備伝送路を介して受信したフレームのビット誤りを、前記ビット誤りチェック情報に基づいて、前記フレーム毎に検出する第2のビット誤り検出回路と、
前記現用伝送路を介して受信したフレームと前記予備伝送路を介して受信したフレームの間の位相差を検出する位相差検出回路と、
前記位相差検出回路が検出した前記位相差を補償し、前記現用伝送路を介して受信したフレームと前記予備伝送路を介して受信したフレームの位相を合わせ、位相が合った前記現用伝送路を介して受信したフレーム及び前記予備伝送路を介して受信したフレームを出力する位相補償回路と、
前記位相補償回路から出力された前記現用伝送路を介して受信したフレーム及び前記予備伝送路を介して受信したフレームのいずれか一方を選択的に供給する切替回路と、
前記第1のビット誤り検出回路が前記現用伝送路を介して受信したフレームのあるフレームにビット誤り検出し、前記第2のビット誤り検出回路が前記予備伝送路を介して受信したフレームの対応するフレームにビット誤りを検出しなかったときには、前記切替回路に切替制御信号を供給し、前記第2の遅延回路から出力される前記予備伝送路を介して受信したフレームを、前記切替回路から供給させる相関監視回路とを有する無瞬断切替装置。」

(2)同じく原査定の拒絶理由に引用された国際公開第03/043240号(以下、「引用例2」という。)には、「仮想コンカチネーション伝送方法及び装置」として、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「また、本発明は上記の発明(1)において、該仮想コンカチネーションを構成する該低速フレーム内のいずれか1つがアラーム表示したとき、該仮想コンカチネーション単位で別のパスに切り替えることが可能である。
すなわち、該仮想コンカチネーションを構成する低速フレームの内の1つがパス切替を必要とするアラーム表示をしたとき、アラーム表示した低速フレームのみのパス切替を行うのではなく、仮想コンカチネーションを構成するすべての低速フレームのパス切替を行う。」(8頁)

ロ.「また、本発明は上記の発明(20)において、該仮想コンカチネーションを構成する該低速フレーム内のいずれか1つがアラーム表示したとき、該仮想コンカチネーション単位で別のパスに切り替えるパススイッチを備えることが可能である。」(11頁)

ハ.「[4]パススイッチ 図17は、本発明に係るパススイッチ23の実施例を示している。このパススイッチ23は、イースト側又はウェスト側からのチャネルデータをチャネル単位で選択して出力する(図8参照)。パススイッチの一般的な動作例を如何に説明する。
UPRSリングネットワークにおいては、送信側の光伝送装置100は、例えば、イースト側の現用チャネルへ送出したデータと同一のデータをウエスト側の予備用チャネルにも送出する。受信側の光伝送装置100において、パススイッチ23は、ウエスト側の現用チャネル及びイースト側の予備チャネルから同一のデータを受信するが、通常、現用チャネルからデータを受信する。
・・・
ここで、本発明に用いる仮想コンカチネーションを構成するチャネル(低速フレーム)にパスオーバヘッド(POH)が挿入されている場合に於けるB3バイト及びC2バイトに関する処理を以下に説明する。なお、この処理はパススイッチ23及び後述するサービスセレクタに共通する処理である。
・B3パフォーマンス、B3Major/B3Minorについては構成チャネル毎に検出する。すなわち、B3バイトは構成チャネル毎に挿入されるものとする。
・・・
・各構成チャネル毎に検出された“B3エラー”の個数を加算して、仮想コンカチネーション単位でのパフォーマンスとして通知する。
・各構成チャネル毎のB3Major/B3Minor検出結果のOR演算し、仮想コンカチネーション単位でのB3MAJv/B3MINvとして通知する。
・・・
また、サービスセレクタ15及びパススイッチ23の自動切替条件は、(1)LOP,PAIS,UNEQ,PLM,B3MAJ,PDI,B3MIN表示の各判定条件は、仮想コンカチネーションを構成する全チャネルの表示をOR演算した結果を用いるように変更する。
・・・
セレクタ87は、PSWモードが“自動”に設定されている場合、比較部86が決定したイースト又はウエスト方向からのチャネルを選択するようにセレクタ89に対して、コンカチ制御部88を経由して、指定する。
本発明のイースト/ウエスト選択判定が、従来の判定と異なる点は、比較部86に入力されるイースト及びウエスト側のLOP,PAIS,UNEQ,及びPLMのOR演算結果、並びにB3MAJ,PDI,及びB3MINが、それぞれ、仮想コンカチネーションを構成する全てのチャネルのLOP,PAIS,UNEQ,及びPLMのOR演算結果、並びにB3MAJ,PDI,及びB3MINを、OR回路82e?85e、及びOR回路82w?85wでOR演算した結果に基づき判定することである。
すなわち、パススイッチ23は、仮想コンカチネーションを構成する全てのチャネルの各LOP,PAIS,UNEQ,PLM,B3MAJ,PDI,及びB3MINの判定条件をOR演算した結果に基づき、イースト/ウエスト選択判定を行っている。
図18に示すように、例えば、仮想従属チャネCH15が“B3MAJ”である場合、この仮想従属チャネルCH15と、同一方向(イースト/ウエスト)で、仮想コンカチネーションを構成する先頭チャネルCH50及び従属チャネルCH31?CH33が“B3MAJ”として扱われる。」(33?35頁)

ニ.「20.高速フレーム内の任意に位置に多重化されて仮想コンカチネーションを構成する複数の低速フレームを位相関係を保って、該低速フレームの位置の連結状態を示す仮想コンカチネーション情報と共に伝送することを特徴とした仮想コンカチネーション伝送装置。
・・・
33.請求の範囲20において、
該仮想コンカチネーションを構成する該低速フレーム内のいずれか1つがアラーム表示したとき、該仮想コンカチネーション単位で別のパスに切り換えを行うパススイッチを備えたことを特徴とする仮想コンカチネーション伝送装置。
・・・
37.請求の範囲20において、
該高速フレーム及び該低速フレームが、SONET/SDHフレームであることを特徴とした仮想コンカチネーション伝送装置。」 (40?43頁)

上記引用例2の記載及び図面を参照すると、上記ニ.の「・・・このパススイッチ23は、イースト側又はウェスト側からのチャネルデータをチャネル単位で選択して出力する(図8参照)。・・・イースト側の現用チャネルへ送出したデータと同一のデータをウエスト側の予備用チャネルにも送出する。受信側の光伝送装置100において、パススイッチ23は、ウエスト側の現用チャネル及びイースト側の予備チャネルから同一のデータを受信する」という記載及び図8から、「ウエスト側の現用チャネル」は「現用伝送路」、「イースト側の予備チャネル」は「予備伝送路」であり、同ニ.の「イースト」、「ウエスト」は「予備」、「現用」と言えるものである。
そして、上記ニ.の「・・・仮想コンカチネーションを構成するチャネル(低速フレーム)・・・」という記載から、「チャネル」は「フレーム」を意味するものである。
また、上記ハ.「・B3パフォーマンス、B3Major/B3Minorについては構成チャネル毎に検出する。・・・
・・・
・各構成チャネル毎に検出された“B3エラー”の個数を加算して、仮想コンカチネーション単位でのパフォーマンスとして通知する。
・各構成チャネル毎のB3Major/B3Minor検出結果のOR演算し、仮想コンカチネーション単位でのB3MAJv/B3MINvとして通知する。
・・・」という記載、及び、図23には、「メイジャ・アラーム(B3MA)」の意味として、「受信B3バイトのパリティ演算結果の誤り個数による回線劣化状態が、エラーレート>10E-3の場合。」と記載され、「マイナ・アラーム(B3MIN)」の意味として、「受信B3バイトのパリティ演算結果の誤り個数による回線劣化状態が、エラーレート>10E-5の場合。」と記載されていることから、引用例2の「パススイッチ」は「仮想コンカチネーション」を構成する各「フレーム」のビットエラーを検出するものであり、「メイジャ・アラーム(B3MA)」及び「マイナ・アラーム(B3MIN)」は、ビットエラーが存在することを表すものである。。
さらに、上記ハ.の「・・・パススイッチ23の自動切替条件は、(1)LOP,PAIS,UNEQ,PLM,B3MAJ,PDI,B3MIN表示の各判定条件は、仮想コンカチネーションを構成する全チャネルの表示をOR演算した結果を用いるように変更する。・・・」、「・・・パススイッチ23は、仮想コンカチネーションを構成する全てのチャネルの各LOP,PAIS,UNEQ,PLM,B3MAJ,PDI,及びB3MINの判定条件をOR演算した結果に基づき、イースト/ウエスト選択判定を行っている。・・・」等の記載及び同ロ.及びニ.の「・・・該仮想コンカチネーションを構成する該低速フレーム内のいずれか1つがアラーム表示したとき、該仮想コンカチネーション単位で別のパスに切り換えを行うパススイッチを備え・・・」という記載から、引用例2の「パススイッチ」は「仮想コンカチネーションを構成するいずれか1つのフレームのビットエラーを検出すると、仮想コンカチネーション単位で現用/予備の伝送路を切り替える」ものである。
したがって、上記引用例2には、以下の事項(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「SONETまたはSDHの複数のフレームを連結した仮想コンカチネーションの伝送装置において、仮想コンカチネーションを構成するいずれか1つのフレームのビットエラーを検出すると、仮想コンカチネーション単位で現用から予備の伝送路に切り替える手段。」

3.対比
本願発明と引用発明1を比較すると、引用発明1の「無瞬断で切り替える」ことは、瞬断の状態を生じないことから、本願発明の「瞬断によるデータ損失を伴わず」ということに相当する。
そして、引用発明1の「現用伝送路」、「予備伝送路」は本願発明の「現用系」、「予備系」に相当し、引用発明1の「現用伝送路を介して受信したフレームのビット誤りを、ビット誤りチェック情報に基づいて、前記フレーム毎に検出する第1のビット誤り検出回路」と「予備伝送路を介して受信したフレームのビット誤りを、前記ビット誤りチェック情報に基づいて、前記データブロック毎に検出する第2のビット誤り検出回路」は「現用伝送路(現用系)」及び「予備伝送路(予備系)」を介して受信したフレームのビット誤りを検出するものであるから、本願発明の「前記現用系及び前記予備系を介して受信した前記フレームにビットエラーが有るか否かをそれぞれ検出するビットエラー検出部」に相当する。
さらに、引用発明1の「前記第1のビット誤り検出回路が前記現用伝送路を介して受信したフレームのあるフレームにビット誤り検出し、前記第2のビット誤り検出回路が前記予備伝送路を介して受信したフレームの対応するフレームにビット誤りを検出しなかったとき」は、本願発明の「前記現用系を介して受信した前記フレームに前記ビットエラーが有り、かつ前記予備系を介して受信した前記フレームに前記ビットエラーが無い場合」に相当し、引用発明1の「切替回路」は「現用伝送路(現用系)を介して受信したフレーム」及び「予備伝送路(予備系)を介して受信したフレーム」の「いずれか一方を選択的に供給する」ものであるから、本願発明の「前記フレームの通信経路を前記現用系と前記予備系間で切り替える切替部」に相当し、引用発明1の「切替制御信号」は「切替回路」を制御するものであるから、本願発明の「前記現用系から前記予備系に切り替えるための選択信号」に相当する。
続いて、引用発明1の「位相差検出回路が検出した」「位相差」は、「位相補償回路」において「補償され」、「現用伝送路を介して受信したフレームと予備伝送路を介して受信したフレームの位相を合わせ」るために利用される情報となることは明らかであるから、引用発明1の「前記現用伝送路を介して受信したフレームと前記予備伝送路を介して受信したフレームの間の位相差を検出する位相差検出回路」と本願発明の「前記現用系を介して受信したフレームと前記予備系を介して受信したフレームの位相差を算出し、前記現用系を介して受信したフレームと前記予備系を介して受信したフレームの位相を揃えるための位相差情報を生成する位相差検出部」とは実質的な差違はない。
また、引用発明1の「前記位相差検出回路が検出した前記位相差を補償し、前記現用伝送路を介して受信したフレームと前記予備伝送路を介して受信したフレームの位相を合わせ、位相が合った前記現用伝送路を介して受信したフレーム及び前記予備伝送路を介して受信したフレームを出力する位相補償回路」と本願発明の「前記位相差情報にしたがって、現用系を介して受信したフレーム及び前記予備系を介して受信したフレームのいずれか一方に、位相の遅れた一方に位相の進んだ他方を合わせるための遅延を挿入し、前記現用系のフレームと前記予備系のフレームとの位相を揃える位相調整部」は、両者とも「位相差情報にしたがって、現用系のフレーム及び予備系のフレームとの位相を揃える位相調整部」である点で一致する。
したがって、本願発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「複数フレームを伝送可能な通信システムが備える、瞬断によるデータ損失を伴わずに、前記フレームの通信経路を現用系と予備系間で切り替えるための無瞬断切替装置あって、
前記現用系及び前記予備系を介して受信した前記フレームにビットエラーが有るか否かをそれぞれ検出するビットエラー検出部と、
前記現用系を介して受信した前記フレームに前記ビットエラーが有り、かつ前記予備系を介して受信した前記フレームに前記ビットエラーが無い場合に、前記フレームの通信経路を前記現用系から前記予備系に切り替えるための選択信号を出力する切替制御部と、
前記選択信号にしたがって、前記フレームの通信経路を前記現用系と前記予備系間で切り替える切替部と、
前記現用系を介して受信したフレームと前記予備系を介して受信したフレームの位相差を算出し、前記現用系を介して受信したフレームと前記予備系を介して受信したフレーム
の位相を揃えるための位相差情報を生成する位相差検出部と、
前記位相差情報にしたがって、前記現用系のフレームと前記予備系のフレームとの位相を揃える位相調整部と、
を有する無瞬断切替装置。」

<相違点>
(1)本願発明は「複数のフレームを1つのデータセット」とするのに対し、引用発明1では当該構成を有するか否か不明である点。
(2)本願発明は「切替制御部」が「データセット単位で」、「フレームの通信経路を現用系から予備系に切り替えるための選択信号を出力するVCAT単位切替制御部」であるのに対し、引用発明1は当該構成を有しない点。
(3)本願発明は「位相調整部」が「現用系を介して受信したフレーム及び予備系を介して受信したフレームのいずれか一方に、位相の遅れた一方に位相の進んだ他方を合わせるための遅延を挿入」するのに対し、引用発明1は当該構成を有するか否か不明である点。

4.検討
まず、上記相違点(1)について検討すると、上記2.引用発明において記載したように、引用発明1の複数のフレームはSDHまたはSONETのフレームであり、SDHまたはSONETの複数のフレームで「仮想コンカチネーション」という1つの単位を構成することは、引用発明2が有する構成であるから、本願発明の「複数のフレームを1つのデータセット」とすることは、引用発明1に引用発明2の構成を適用することにより当業者が容易になし得ることである。
次に、上記相違点(2)ついて検討すると、SDHまたはSONETのフレームの伝送技術において、「仮想コンカチネーション単位で」、「フレームの通信経路を現用系から予備系に切り替える」ことも、引用発明2が有する手段であり、引用発明1がSDHまたはSONETのフレームの伝送技術であることから、引用発明1に引用発明2を組み合わせることに特に困難な点はない。
したがって、本願発明の「データセット単位で」、「フレームの通信経路を現用系から予備系に切り替えるための選択信号を出力するVCAT単位切替制御部」は、引用発明1の「切替制御部」に引用発明2を適用することにより当業者が容易に想到し得たものである。
さらに、上記相違点(3)について検討すると、2系統の信号の位相差を調整する手段として、位相の進んだ信号に遅延を与えることにより、位相の遅れた一方の信号に位相の進んだ他方の信号を合わせることは常套手段であり、さらに、上記2.引用発明(1)ハ.【0040】の「図6は、位相補償回路54および64による位相補償動作を説明する図である。図に示すように、現用伝送路に対する位相補償回路54は、信号終端処理回路53から供給された主信号S2に、ある一定の固定遅延を与えて信号S3として出力する。一方、予備伝送路に対する位相補償回路64は、信号終端処理回路63から供給された主信号S12に、位相差検出回路70から供給された位相差+前記ある一定の固定遅延,の可変遅延を与えて、主信号S13として出力する。こうして、両系の位相補償回路54および64からは、フレーム位相の合った主信号S3とS13が出力され、遅延回路55および65にそれぞれ供給される。」という記載からも、引用発明1において位相の進んでいる予備伝送路の信号に現用伝送路の信号との位相差に相当する遅延を挿入していることが明らかである。
したがって、本願発明の「位相調整部」が「現用系を介して受信したフレーム及び予備系を介して受信したフレームのいずれか一方に、位相の遅れた一方に位相の進んだ他方を合わせるための遅延を挿入」するようにすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
そして、本願発明の作用効果も引用発明1、2から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-24 
結審通知日 2011-06-29 
審決日 2011-07-12 
出願番号 特願2003-340215(P2003-340215)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 田中 庸介
特許庁審判官 石井 研一
新川 圭二
発明の名称 無瞬断切替装置及び方法  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  

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