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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1242518
審判番号 不服2010-21025  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-17 
確定日 2011-08-26 
事件の表示 特願2005-314605「円すいころ軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月17日出願公開、特開2007-120648〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成17年10月28日の出願であって、本願の請求項1に係る発明は、平成22年1月12日付け、平成22年3月29日付け及び平成23年5月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
内輪と、外輪と、内輪と外輪との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備え、ころ本数を減らさないか増加させつつPCDを小さくすることにより(ころ本数×ころ平均径)/(π×PCD)で表されるころ係数γが0.94を越え、前記保持器が、円すいころの小端面側で連なる小環状部と、円すいころの大端面側で連なる大環状部と、これらの環状部を連結する複数の柱部とからなり、隣接する柱部間に、円すいころの小径側を収納する部分が狭幅側、大径側を収納する部分が広幅側となる台形状のポケットが形成され、ポケットの狭幅側の柱部に、内輪側から外輪側へ潤滑油を逃がすための内径側から外径側まで切り通した切欠きが設けてあり、前記小環状部の軸方向外側に、内輪の小つばの外径面に対向させた径方向内向きのつばを設け、前記つばの内径面と内輪の小つばの外径面との間のすきまの上限を小つばの外径寸法の2.0%とし、前記保持器を軸方向で小径側に移動させてから径方向に移動させると外輪と保持器が接触し、前記保持器が軸中心に配置された状態では軸方向で小径側に移動させても保持器と外輪が全周にわたって所定すきまをあけて非接触となる、円すいころ軸受。」(以下「本願発明」という。)

2.引用刊行物とその記載事項

これに対して、当審が平成23年3月29日付けの拒絶理由通知で引用した刊行物は、次のとおりである。

刊行物1:特開2005-188738号公報
(公開日:平成17年7月14日(2005.7.14))
刊行物2:実願昭49-38975号(実開昭50-126841号)
のマイクロフィルム
刊行物3:特開2005-69421号公報
(公開日:平成17年3月17日(2005.3.17))
刊行物4:特開平9-32858号公報
刊行物5:特開平11-201149号公報

(1)刊行物1(特開2005-188738号公報)の記載事項

刊行物1には、「円すいころ軸受」に関し、図面(特に、図1)とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【0006】
ところで、自動車トランスミッションは、近年、ミッションのAT化、CVT化および低燃費化等のために低粘度の油が使われる傾向にある。低粘度オイルが使用される環境化では、(1)油温が高い、(2)油量が少ない、(3)予圧抜けが発生するなどの悪条件が重なった場合に、潤滑不良に起因する非常に短寿命の表面起点剥離が面圧の高い内輪軌道面に生じることがある。
【0007】
この表面起点剥離による短寿命対策としては最大面圧低減が直接的かつ有効な解決策である。最大面圧を低減するためには軸受寸法を変更するか、軸受寸法を変えない場合は軸受のころ本数を増大させる。ころ直径を減少させないでころ本数を増やすためには保持器のポケット間隔を狭くしなければならないが、そのためには保持器のピッチ円を大きくして外輪側にできるだけ寄せる必要がある。
【0008】
保持器を外輪内径面に接するまで寄せた例として、図8に記載の円すいころ軸受がある(特許文献1参照)。この円すいころ軸受61は保持器62の小径側環状部62aの外周面と大径側環状部62bの外周面を外輪63内径面と摺接させて保持器62をガイドし、保持器62の柱部62cの外径面に引きずりトルクを抑制するため凹所64を形成して、柱部62cの外径面と外輪63の軌道面63aの非接触状態を維持するようにしている。保持器62は、小径側環状部62aと、大径側環状部62bと、小径側環状部62aと大径側環状部62bとを軸方向に繋ぎ外径面に凹所64が形成された複数の柱部62cとを有する。そして柱部62c相互間に円すいころ65を転動自在に収容するための複数のポケットが設けられている。小径側環状部62aには、内径側に一体に延びたつば部62dが設けられている。図8の円すいころ軸受は、保持器62の強度向上を図るもので、保持器62の柱部62cの周方向幅を大きくするために保持器62を外輪63の内径面に接するまで寄せた例である。
【特許文献1】特開2003-28165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の円すいころ軸受61では、保持器62を外輪63の内径面に接するまで外径に寄せて保持器62の柱部62cの周方向幅を大きくしている。また、保持器62の柱部62cに凹所64があるので、板厚が必然的に薄くなって保持器62の剛性が低下し、軸受61の組立て時の応力によって保持器62が変形したり、軸受61の回転中に保持器62が変形したりする等の可能性もある。
【0010】
一方、特許文献1記載の円すいころ軸受以外の従来の典型的な保持器付き円すいころ軸受は、図9のように外輪71と保持器72との接触を避けた上で、保持器72の柱幅を確保し、適切な保持器72の柱強度と円滑な回転を得るために、次式で定義されるころ係数γ(ころの充填率)を、通常0.94以下にして設計している。
ころ係数γ=(Z・DA)/(π・PCD)
ここで、Z:ころ本数、DA:ころ平均径、PCD:ころピッチ円径。
【0011】
なお、図9で符号73は円すいころ、74は柱面、75は内輪、θは窓角である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は負荷容量のアップと軌道面の面圧過大による早期破損を防止することを目的とする。
【0013】
本発明の円すいころ軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と外輪との間に転動自在に配された複数の円すいころと、前記円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備えた円すいころ軸受において、ころ係数γが0.94を越えることを特徴とする。」

(イ) 「【0019】
以下、本発明の実施の形態を図1?図4に基づいて説明する。図1(A)(B)に示す実施の形態の円すいころ軸受1は、円すい状の軌道面2aを有し、この軌道面2aの小径側に小つば部2b、大径側に大つば部2cを有する内輪2と、円すい状の軌道面3aを有する外輪3と、内輪2の軌道面2aと外輪3の軌道面3aとの間に転動自在に配された複数の円すいころ4と、円すいころ4を円周等間隔に保持する保持器5とで構成される。ここで、円すいころ軸受1は、ころ係数γ>0.94となっている。
【0020】
保持器5は、例えばPPS、PEEK、PA、PPA、PAI等のスーパーエンプラで一体成形されたもので、小径側環状部5aと、大径側環状部5bと、小径側環状部5aと大径側環状部5bとを軸方向に繋ぐ複数の柱部5cとを備えている。」

上記記載事項(ア)、(イ)及び図面(特に、図1)の記載を総合すると、刊行物1には、
「内輪2と、外輪3と、内輪2と外輪3との間に転動自在に配された複数の円すいころ4と、円すいころ4を円周所定間隔に保持する保持器5とを備え、次式(ころ係数γ=(Z・DA)/(π・PCD)。ここで、Z:ころ本数、DA:ころ平均径、PCD:ころピッチ円径。)で定義されるころ係数γが0.94を越え、上記保持器5は、小径側環状部5aと、大径側環状部5bと、小径側環状部5aと大径側環状部5bとを軸方向に繋ぐ複数の柱部5cとを備えている、円すいころ軸受1。」
の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(実願昭49-38975号(実開昭50-126841号)のマイクロフィルム)の記載事項

刊行物2には、「コロ軸受の保持器」に関し、図面(特に、第1図、第2図)とともに次の事項が記載されている。

(ウ) 「さらに、突起部(16)(17)の形成によつて必然的に作られた保持窓(15)の空隙部(22)(23)は、コロ(3)の回動に伴なう潤滑油の流通を頗る円滑にし、コロ軸受の焼損を防止する効果をも有している。」(昭和49年6月3日付けで全文補正された明細書第5ページ第3?7行)

(3)刊行物3(特開2005-69421号公報)の記載事項

刊行物3には、「円すいころ軸受」に関し、図面(特に、図1)とともに次の事項が記載されている。

(エ) 「【0016】
保持器(5)は、円すいころ(4)よりも右方に突出する大径側端部(17)と、同左方に突出する小径側端部(18)とを有している。保持器(5)の小径側端部(18)は、径方向内方に折り曲げられた折曲げ部(19)を有しており、折曲げ部(19)は、内輪(3)の小径側端部(12)との間にラビリンスを形成するように、内輪(3)の小径側端部(12)の円筒部(15)の外径に間隙をおいて臨まされている。」

(オ) 「【0019】
この発明の円すいころ軸受(1)によると、軸受回転に伴うポンプ作用によって内輪小径側からオイルが軸受内部に流入して大径側より排出されるが、軸方向間隙Aおよび径方向間隙Rにより、オイル流入口である保持器(5)の小径側端部(18)と内輪(3)小径側端部(12)との間にラビリンスが形成されているので、上記の自動車の最終減速装置で使用された場合、軸受内へのオイル流入量が低減し、この結果、オイルの撹拌抵抗が低減することから、トルク損失を低減することができる。」

(4)刊行物4(特開平9-32858号公報)の記載事項

刊行物4には、「円錐ころ軸受」に関し、図面(特に、図8)とともに次の事項が記載されている。

(カ) 「【0002】
【従来の技術】一般的に、円錐ころ軸受は、図8に示すように、内輪1の外周面に転走面11が形成されており、そのために、内輪1の大端部側および小端部側にそれぞれ径方向外向きの鍔部12,13が設けられている。そして、外輪2については、内周にテーパ状の転走面が形成されているだけで、前述のような鍔部12,13は設けられていない。さらに、保持器3は、その本体の円周数箇所に円錐ころ4を収容するローラポケット31が設けられており、本体の小径端側には径方向内向きの鍔部32が設けられている。
【0003】このような構造であるために、内・外輪1,2と円錐ころ4間の空間を油流路とする場合、油の大半は、実線矢印のように外輪2の転走面と保持器3の柱部33との間から流入して外輪2の転走面に沿って通過することになる。但し、油の一部は、破線矢印のように保持器3の鍔部32と内輪1の小端側鍔部13との間の小さな隙間から流れ込み、内輪1の転走面11に沿って通過する。」

(5)刊行物5(特開平11-201149号公報)の記載事項

刊行物5には、「円錐ころ軸受」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(キ) 「【0003】例えば、円錐ころ軸受は、その内・外輪間において小径端側から大径端側へ潤滑油が通過するように配置されることが多い。このとき、内・外輪と円錐ころとの間の空間が潤滑油流路となるが、保持器の存在によって、保持器を中心としてそれと内輪の外周面との間および外輪の内周面との間に別れて潤滑油が通過することになる。」

3.発明の対比

本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「内輪2」は、本願発明の「内輪」に相当し、以下同様に、「外輪3」は「外輪」に、「円すいころ4」は「円すいころ」に、「保持器5」は「保持器」に、「円すいころ軸受1」は「円すいころ軸受」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1記載の発明の「次式(ころ係数γ=(Z・DA)/(π・PCD)。ここで、Z:ころ本数、DA:ころ平均径、PCD:ころピッチ円径。)で定義されるころ係数γが0.94を越え」ることは、本願発明の「(ころ本数×ころ平均径)/(π×PCD)で表されるころ係数が0.94を越え」ることに相当する。
更に、円すいころ軸受の保持器についての技術常識を考慮すれば、刊行物1記載の発明の「小径側環状部5a」は、本願発明の「円すいころの小端面側で連なる小環状部」に相当し、以下同様に、「大径側環状部5b」は「円すいころの大端面側で連なる大環状部」に、「小径側環状部5aと大径側環状部5bとを軸方向に繋ぐ複数の柱部5c」は「これらの環状部を連結する複数の柱部」に、それぞれ相当し、また、刊行物1記載の発明の「保持器5」には、本願発明の「隣接する柱部間に、円すいころの小径側を収納する部分が狭幅側、大径側を収納する部分が広幅側となる台形状のポケット」に相当するものが形成されているものと認められる。

よって、本願発明と刊行物1記載の発明とは、
[一致点]
「内輪と、外輪と、内輪と外輪との間に転動自在に配された複数の円すいころと、円すいころを円周所定間隔に保持する保持器とを備え、(ころ本数×ころ平均径)/(π×PCD)で表されるころ係数γが0.94を越え、前記保持器が、円すいころの小端面側で連なる小環状部と、円すいころの大端面側で連なる大環状部と、これらの環状部を連結する複数の柱部とからなり、隣接する柱部間に、円すいころの小径側を収納する部分が狭幅側、大径側を収納する部分が広幅側となる台形状のポケットが形成されている、円すいころ軸受。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は、「ころ本数を減らさないか増加させつつPCDを小さくすることにより」(ころ本数×ころ平均径)/(π×PCD)で表されるころ係数が0.94を越えるようにしているのに対して、刊行物1記載の発明は、どのようにして「次式(ころ係数γ=(Z・DA)/(π・PCD)。ここで、Z:ころ本数、DA:ころ平均径、PCD:ころピッチ円径。)で定義されるころ係数γが0.94を越える」ようにしているか明らかでない点。

[相違点2]
本願発明は、「ポケットの狭幅側の柱部に、内輪側から外輪側へ潤滑油を逃がすための内径側から外径側まで切り通した切欠きが設けてあ」るのに対して、刊行物1記載の発明は、そのような切欠きの有無が明らかでない点。

[相違点3]
本願発明は、「前記小環状部の軸方向外側に、内輪の小つばの外径面に対向させた径方向内向きのつばを設け、前記つばの内径面と内輪の小つばの外径面との間のすきまの上限を小つばの外径寸法の2.0%とし」ているのに対して、刊行物1記載の発明は、保持器5の小径側環状部5aに径方向内向きのつばを設けているものと認められるものの、上記つばが内輪2の小つば部2bに対向するものでなく、また、上記つばの内径面と内輪2の小つば部2bの外径面との間のすきまの上限を小つば部2bの外径寸法の2.0%としているか明らかでない点。

[相違点4]
本願発明は、「前記保持器を軸方向で小径側に移動させてから径方向に移動させると外輪と保持器が接触し、前記保持器が軸中心に配置された状態では軸方向で小径側に移動させても保持器と外輪が全周にわたって所定すきまをあけて非接触となる」のに対して、刊行物1記載の発明は、この点が明らかでない点。

4.当審の判断

(1)相違点1について

刊行物1記載の発明は、負荷容量のアップと軌道面の面圧過大による早期破損を防止することを目的として(刊行物1の記載事項(ア)の段落【0012】)、「次式(ころ係数γ=(Z・DA)/(π・PCD)。ここで、Z:ころ本数、DA:ころ平均径、PCD:ころピッチ円径。)で定義されるころ係数γが0.94を越える」ようにしたものであって、特に刊行物1の記載事項(ア)の段落【0007】?【0010】の記載を参酌すれば、主にころ本数を増加させることによって、ころ係数γが0.94を越えるようにしているものと解されるが、上記ころ係数γの式には、ころ本数(Z)が分子にあり、ころピッチ円径(PCD)が分母にあることから、「ころ本数を減らさないか増加させつつPCDを小さくすることにより」、ころ係数γが0.94を越えるようにできることは、上記ころ係数γの式を満たす一つの態様として自明である。
そうすると、(ころ本数×ころ平均径)/(π×PCD)で表されるころ係数が0.94を越える範囲において、円すいころ軸受の用途や要求仕様に応じて、トルクを低減する観点からころ係数に影響する、ころ本数、ころ平均径、及びPCDの最適な組み合わせを見いだすことにより、ころ本数を減らさないか増加させつつPCDを小さくすることは、設計事項というべきものである。
したがって、刊行物1記載の発明のころ係数の範囲において適宜設計変更を加えることにより、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について

上記刊行物2の記載事項(ウ)とともに第2図の記載を参酌すれば、刊行物2記載の「保持窓(15)の空隙部(22)を作る」旨は、上記相違点2に係る本願発明の「ポケットの狭幅側の柱部に、内径側から外径側まで切り通した切欠きが設けてあ」ることに相当する。
ところで、上記相違点2に係る本願発明の切欠きは、「内輪側から外輪側へ潤滑油を逃がすため」に設けられるものであるのに対して、上記刊行物2記載の空隙部(22)は、「コロ(3)の回動に伴なう潤滑油の流通を頗る円滑に」するものである。
そこで、円すいころ軸受において、潤滑油がどのように流動するかについて検討すると、上記刊行物5の記載事項(キ)には、
「例えば、円錐ころ軸受は、その内・外輪間において小径端側から大径端側へ潤滑油が通過するように配置されることが多い。このとき、内・外輪と円錐ころとの間の空間が潤滑油流路となるが、保持器の存在によって、保持器を中心としてそれと内輪の外周面との間および外輪の内周面との間に別れて潤滑油が通過することになる。」
と記載されている。
そして、上記のように別れて通過する潤滑油の流動は、内輪、外輪及び保持器の各形状や相互の配置関係により影響されるものと考えられるところ、刊行物1の図1(B)の記載をみると、内輪2の大径側に大つば部2cが設けられていることにより、保持器5と内輪2の外周面との間を通過する潤滑油が、上記大つば部2cで堰き止められて保持器5と内輪2の外周面との間に滞留しやすくなることは、当業者であれば容易に理解できることである。
そうすると、刊行物1記載の発明の保持器5において、潤滑油が上記大つば部2cで堰き止められて保持器5と内輪2の外周面との間に滞留しないようにするために、刊行物2記載の空隙部(22)を適用して内輪2側から外輪3側へ逃がすようにすることによって、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について

上記刊行物3の記載事項(エ)には、「保持器(5)の小径側端部(18)は、径方向内方に折り曲げられた折曲げ部(19)を有しており、折曲げ部(19)は、内輪(3)の小径側端部(12)との間にラビリンスを形成するように、内輪(3)の小径側端部(12)の円筒部(15)の外径に間隙をおいて臨まされている。」と記載され、同じく記載事項(オ)には、「軸方向間隙Aおよび径方向間隙Rにより、オイル流入口である保持器(5)の小径側端部(18)と内輪(3)小径側端部(12)との間にラビリンスが形成されているので、上記の自動車の最終減速装置で使用された場合、軸受内へのオイル流入量が低減し、この結果、オイルの撹拌抵抗が低減することから、トルク損失を低減することができる。」と記載されている。
また、上記刊行物4の記載事項(カ)には、「さらに、保持器3は、その本体の円周数箇所に円錐ころ4を収容するローラポケット31が設けられており、本体の小径端側には径方向内向きの鍔部32が設けられている。」及び「但し、油の一部は、破線矢印のように保持器3の鍔部32と内輪1の小端側鍔部13との間の小さな隙間から流れ込み、内輪1の転走面11に沿って通過する。」と記載されている。
上記刊行物3の記載事項(エ)(オ)及び刊行物4の記載事項(カ)によれば、保持器の小環状部側に設けた径方向内向きのつばの内径面を、内輪の円筒部(15)(刊行物3)や小端側鍔部13(刊行物4)の外径面に微小のすきまで対向させることは周知の技術であるということができ、そのすきまの寸法を具体的に設定することは設計事項にすぎないものであり、本願発明において、特に「前記つばの内径面と内輪の小つばの外径面との間のすきまの上限を小つばの外径寸法の2.0%とし」た点に臨界的意義は認められない。

(4)相違点4について

刊行物1の段落【0008】、【0009】及び図8の記載と対比して図1ないし3の記載を参酌すれば、刊行物1記載の円すいころ軸受1では、保持器5が軸中心に配置された状態で、かつ、軸方向で小径側に移動させる前の状態では、保持器5と外輪3が全周にわたって所定すきまをあけて非接触となることが、記載又は示唆されているといえる。また、刊行物1の段落【0010】及び図9の記載のように、外輪71と保持器72との接触を避けることが通常の技術であることを考慮すれば、ころ係数が0.94を越える円すいころ軸受においても、保持器5が軸中心に配置された状態では軸方向で小径側に移動させても保持器5と外輪3が全周にわたって所定すきまをあけて非接触となるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
そして、円すいころ4及び保持器5のポケットの軸方向長さを適宜設定して、円すいころ4と保持器5のポケットとの軸方向の隙間、或いは保持器5外径と外輪3の軌道面3aとの間の隙間を適宜調整して、保持器5を軸方向で小径側に移動させても保持器5と外輪3が全周にわたって所定の隙間をあけて非接触であり、さらに径方向に移動させると外輪3と保持器5が接触する程度にすることは、当業者であれば容易になし得る設計事項である。

(5)作用効果について

本願発明が奏する作用効果は、刊行物1ないし5に記載された発明から当業者が予測できる程度のものである。

(6)審判請求人の主張について

審判請求人は、上記の当審の拒絶理由通知に対する平成23年5月23日付けの意見書において、
「刊行物1には、PCDを小さくするということは開示してありません。まして、低トルク化を実現するためにPCDを小さくすることを示唆しているとは到底、認められません。」(「3.拒絶の理由について」の項参照。)
と主張している。
しかしながら、上記4.(1)で説示したとおり、ころピッチ円径(PCD)を小さくすることにより、ころ係数γが0.94を越えるようにできることは、上記ころ係数γの式を満たす一つの態様として自明であるし、また、ころピッチ円径(PCD)を小さくすることにより、低トルク化を実現できるという効果は、上記設計事項から予測できるものである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

したがって、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1ないし5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2011-07-01 
結審通知日 2011-07-04 
審決日 2011-07-15 
出願番号 特願2005-314605(P2005-314605)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 勇  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 倉田 和博
常盤 務
発明の名称 円すいころ軸受  
代理人 城村 邦彦  
代理人 白石 吉之  
代理人 熊野 剛  

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