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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L |
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管理番号 | 1242691 |
審判番号 | 不服2009-1922 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-01-23 |
確定日 | 2011-09-01 |
事件の表示 | 特願2000-152167「パルスパワーを用いた液体中大容量ストリーマ状放電の生成法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月23日出願公開、特開2001-293067〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年4月13日の特許出願であって、平成20年8月20日付けの拒絶理由通知に対し、平成20年10月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年12月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年1月23日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願発明は、平成20年10月24日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項3に係る発明(以下、「本願発明3」という。)は、次のとおりのものである。 「液体中に配置する線状電極および他電極と、 前記線状電極の表面の電界が40kV/mm以上となるようなパルスパワーを前記線状電極と他電極との間に印加することにより、前記線状電極と他電極との間にストリーマ状放電を生成させる電源と を備えた放電装置。」 3.刊行物及びその記載事項 (3-1)刊行物1 本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物である特開平11-192287号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「二つの電極間にパルスパワーを印加して、液体中大容量ストリーマ状放電を生成する方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】) イ 「【作用】液体中において、高電圧電極を囲むように他方のアース電極を配置し、パルスパワーを印加すると、ストリーマ状放電が進展する。パルスパワー電源が電流を十分に供給できれば、大容量のストリーマ状放電を液体中で生成できる。ストリーマ状放電からは、オゾン、紫外光、衝撃波が発生し、ストリーマ先端での高電界も加わって、固体の破砕、除去、分離や細菌、ウィルス、生物の活性化や死滅が生じる。」(段落【0005】) ウ 「【実施例】図1は、本発明の1実施例である。円筒状電極1をアース電位とし、円筒軸上に置かれた高電圧電極2にパルスパワー電源3からのパルスパワーを印加する。円筒状電極の直径は10cmとし、パルスパワーの電圧、電流、パルス幅はそれぞれ480kV、10kA、1.5μsを用いた。円筒内は水4を満たした。パルスパワー印加の間、水中ストリーマ状放電5の領域が広がった。放電領域の直径が大き〈なる速度は、3cm/μsであった。この中にプラスチック、絶縁物等を入れると、パルスパワー印加回数と共に破砕された破片が小さくなり、粉々になった。円筒状電極の代わりに、半球状電極及び平板電極を用いても、大容量ストリーマ状放電を生成できた。」(段落【0006】) エ 「【発明の効果】液体中において大容量ストリーマ状放電を生成し、その中で、オゾン生成、物体の破砕、除去、分離、リサイクルを高効率で行なった。さらに、細菌やバクテリア、生物を含んだ液体を大容量ストリーマ状放電にさらすことにより、殺菌、不活性化ができる。高効率な水中オゾン生成装置、破砕機、破砕除去機、破砕分離によるリサイクル機、殺菌、不活性化装置を製造できる。」(段落【0007】) オ 「【図1】本発明の軸方向断面図である」(【図面の簡単な説明】)との説明とともに【図1】として以下の図面が記載されている。 (3-2)刊行物2 本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された刊行物である特開昭63-082666号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 カ 「円筒状電極と、該円筒の中心軸付近に該円筒と絶縁して配設された線状電極とにより構成される容器内に被処理液を保持し、上記線状電極と上記円筒状電極との間に高電圧パルスを印加することにより、上記被処理液中の細菌等を殺菌することを特徴とする高電圧パルスによる殺菌装置。」(特許請求の範囲) (3-3)刊行物3 本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された刊行物である特開昭63-318947号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 サ 「酸素を含む気体の出入口を有するケーシングと、ケーシング内に対峙して設けられる互に絶縁された電極と、該電極間にパルス・ストリーマ・コロナ放電を起させる極短パルスの高電圧を印加する高電圧パルス電源とを備えたことを特徴とするパルス放電による殺菌装置。」(特許請求の範囲第2項) シ 「以下本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。 第1実施例 第1図は第1実施例の装置の断面図である。 第1図において1は線電極、2は円筒電極、・・・・ ・・・・線電極1および円筒電極2の間に・・・・高電圧パルスを印加する。」(第2頁右下欄10行?第3頁左上欄13行) (3-4)刊行物4 本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された刊行物である実開平1-46046号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 タ 「絶縁容器内に互いに対向する一対の電極を配置し、これらの電極の間に被処理液を満たし、前記電極間に高電圧パルスを印加することにより、前記被処理液中に含まれる細菌を殺菌する殺菌セルにおいて、前記電極の間に前記被処理液を通過させる微孔を有する絶縁隔壁を配設してなることを特徴とする殺菌セル。」(実用新案登録請求の範囲) チ 「第6図は本考案の他の実施例の構成を示す断面図である。」(第3頁右欄1?2行)との説明とともに第6図として以下の図面が記載されている。 4.刊行物1に記載された発明の認定 (あ)刊行物1には、記載アに、「二つの電極間にパルスパワーを印加して、液体中大容量ストリーマ状放電を生成する方法」が記載されているところ、記載エによれば、上記「方法」を実施する「装置」も記載されているといえる。 (い)そして、上記記載アの「二つの電極」は、記載イによれば、「高電圧電極」及び「アース電極」であって、「液体中において、高電圧電極を囲むように他方のアース電極を配置し、パルスパワーを印加する」ものといえる。 (う)また、上記記載アの「二つの電極」に関し、記載ウに、「円筒状電極1をアース電位とし、円筒軸上に置かれた高電圧電極2にパルスパワー電源3からのパルスパワーを印加する。」と記載されているところ、上記(い)の検討に照らしてみれば、上記(い)の検討における「アース電極」が「円筒状電極」であることは明らかであり、上記(い)の検討における「パルスパワー」は「パルスパワー電源」から印加されるものであるといえるから、上記記載アの「二つの電極」は、高電圧電極及び円筒状電極であって、液体中において、高電圧電極を囲むように円筒状電極を配置し、パルスパワー電源からのパルスパワーを印加するものといえる。 (え)さらに、上記記載アの「液体中大容量ストリーマ状放電」は、記載オによれば、「高電圧電極」と「円筒状電極」との間に生成するものである。 (お)上記(あ)?(え)の検討を踏まえ、刊行物1の記載事項を本願発明3の記載ぶりに則して整理すると、刊行物1には、 「液体中において、高電圧電極及び円筒状電極を、円筒状電極が高電圧電極を囲むように配置し、この二つの電極間にパルスパワー電源からパルスパワーを印加して、高電圧電極と円筒状電極との間に液体中大容量ストリーマ状放電を生成させる装置。」 の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されていると認められる。 5.対比 ここで、本願発明3と刊行1発明とを対比する。 (か)刊行1発明の「高電圧電極及び円筒状電極」は、上記(お)からみて、「液体中に」「配置」する二つの電極であり、本願発明3の「線状電極および他電極」も、本願請求項3の記載からみて、「液体中に配置する」二つの電極であるから、刊行1発明の「高電圧電極及び円筒状電極」と、本願発明3の「線状電極および他電極」とは、「液体中に配置する二つの電極」である点で共通するといえる。 しかし、本願発明3の「線状電極および他電極」は、一つの電極が「線状」であることが特定されているのに対し、刊行1発明の「高電圧電極及び円筒状電極」は、いずれの電極も「線状」であることが特定されていない。 (き)刊行1発明の「パルスパワー電源」は、上記(お)からみて、高電圧電極及び円筒状電極の、二つの電極間にパルスパワーを印加して、高電圧電極と円筒状電極との間に液体中大容量ストリーマ状放電を生成させる電源であるといえる。 他方、本願発明3の「電源」は、本願請求項3の記載からみて、「前記線状電極の表面の電界が40kV/mm以上となるようなパルスパワーを前記線状電極と他電極との間に印加することにより、前記線状電極と他電極との間にストリーマ状放電を生成させる電源」であるといえる。 そして、上記(か)で検討したように、刊行1発明の「高電圧電極及び円筒状電極」と、本願発明3の「線状電極および他電極」とは、「液体中に配置する二つの電極」である点で共通するといえるから、刊行1発明の「パルスパワー電源」と、本願発明3の「電源」とは、パルスパワーを液体中に配置する二つの電極間に印加することにより、この二つの電極間にストリーマ状放電を生成させる電源である点で共通するといえる。 (く)また、刊行1発明は、上記(お)からみて、「液体中大容量ストリーマ状放電を生成させる装置」であるから、本願発明3と同様、「放電装置」とみることができるものである。 (け)上記(か)?(く)の検討を踏まえると、本願発明3と刊行1発明とは、「液体中に配置する二つの電極と、パルスパワーを前記二つの電極間に印加することにより、前記二つの電極間にストリーマ状放電を生成させる電源とを備えた放電装置」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点(一):本願発明3では、電極として「線状電極および他電極」が用いられること、すなわち、二つの電極のうちの一つは「線状」であることが特定されているのに対し、刊行1発明では、電極として「高電圧電極および円筒状電極」が用いられ、二つの電極のうちのいずれも「線状」であることが特定されていない点。 相違点(二):本願発明3では、「線状電極の表面の電界が40kV/mm以上となるような」パルスパワーを印加するのに対し、刊行1発明では、どの程度のパルスパワーを印加するのか特定されていない点。 6.相違点についての判断 [相違点(一)について] 二つの電極間に電圧を印加する装置に関し、刊行物2には、記載カに、「円筒状電極と、該円筒の中心軸付近に該円筒と絶縁して配設された線状電極とにより構成される容器内に被処理液を保持し、上記線状電極と上記円筒状電極との間に高電圧パルスを印加することにより、上記被処理液中の細菌等を殺菌することを特徴とする高電圧パルスによる殺菌装置。」が記載されており、また、刊行物3には、記載サ及びシによれば、「酸素を含む気体の出入口を有するケーシングと、ケーシング内に対峙して設けられる互に絶縁された電極である線電極および円筒電極と、該電極間にパルス・ストリーマ・コロナ放電を起させる極短パルスの高電圧を印加する高電圧パルス電源とを備えたパルス放電による殺菌装置。」が記載されているといえ、さらに、刊行物4には、記載タ及びチによれば、「絶縁容器内に互いに対向する一対の電極として線電極と円筒電極を配置し、これらの電極の間に被処理液を満たし、前記電極間に高電圧パルスを印加することにより、前記被処理液中に含まれる細菌を殺菌する殺菌セルにおいて、前記電極の間に前記被処理液を通過させる微孔を有する絶縁隔壁を配設してなる殺菌セル。」が記載されているといえ、刊行物2?4のこれらの記載によれば、二つの電極間に電圧を印加して流体を処理するにあたり、二つの電極として、その一つを「線状」とした「線状電極および円筒状電極」を用いることは、周知の技術であるといえる(さらに必要であれば、国際公開第99/25471号(以下、「周知例1」という。)の明細書第1頁1?9行及び請求の範囲第1?4項等を参照。)。 そして、当該周知の技術に照らしてみれば、液体の殺菌等を行う刊行1発明は、「二つの電極間にパルスパワー電源からパルスパワーを印加」するものであり、「二つの電極間に電圧を印加して流体を処理する」点で当該周知の技術と共通するから、刊行1発明において、二つの電極として、その一つを「線状」とした「線状電極および円筒状電極」を用いること、換言すれば、二つの電極として「線状電極および他電極」を用いることは、当業者が容易になし得ることであると認められる。 [相違点(二)について] 刊行物1には、記載イに、「ストリーマ状放電からは、オゾン、紫外光、衝撃波が発生し、ストリーマ先端での高電界も加わって、固体の破砕、除去、分離や細菌、ウィルス、生物の活性化や死滅が生じる。」と記載され、記載エに、「細菌やバクテリア、生物を含んだ液体を大容量ストリーマ状放電にさらすことにより、殺菌、不活性化ができる。」と記載されているように、殺菌等の処理を効果的に行うために、ストリーマ状放電を高電界で大容量に生成させることは、当業者が普通に所望することであるから、刊行1発明において、ストリーマ状放電が高電界で生成するように、ストリーマ状放電が生成する電極間の電界を高くしようとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 そして、例えば、特開平9-206555公報(以下、「周知例2」という。)には、「一般的に、電極間の距離は0.1ないし100mmに、両極間の電圧は0.1ないし100KVにする。」(段落【0014】)と記載されているところ、これは、電界としては10^(-3)?10^(3)kV/mmの範囲にあり、この程度の電界は、当業者が適宜所望することであって、この周知例2に記載された技術が、液体中ではなく気体中での放電により被処理物を分解処理するものであるとしても、電界が高いほど放電による分解処理が効果的に行われるであろうことは、液体中か気体中かを問わないことであろうし、また、「線状電極の表面の電界が40kV/mm以上」とするという数値限定の意義について本願明細書の記載をみても、この数値限定に臨界的意義を見いだせない。 よって、刊行1発明において、「線状電極の表面の電界が40kV/mm以上となるような」パルスパワーを印加するとすることは、当業者が容易になし得ることであると認められる。 そして、上記相違点(一)及び(二)に係る本願発明3の発明特定事項を採用することにより奏される本願明細書に記載の効果も、当業者の予測を越えるものとはいえない。 したがって、本願発明3は、刊行物1に記載された発明並びに刊行物2?4及び周知例1?2に例示される周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7.むすび 以上より、本願の特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、刊行物1に記載された発明並びに刊行物2?4及び周知例1?2に例示される周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-06-29 |
結審通知日 | 2011-07-05 |
審決日 | 2011-07-20 |
出願番号 | 特願2000-152167(P2000-152167) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼岡 裕美 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
中澤 登 目代 博茂 |
発明の名称 | パルスパワーを用いた液体中大容量ストリーマ状放電の生成法 |
代理人 | 藤島 洋一郎 |