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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B |
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管理番号 | 1242692 |
審判番号 | 不服2009-3206 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-02-12 |
確定日 | 2011-09-01 |
事件の表示 | 特願2000- 93403「アルミナセメント組成物及びそれを用いた不定形耐火物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月10日出願公開、特開2001-278654〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成12年3月30日に特許出願されたものであって、平成21年1月30日付けで拒絶査定が起案され(発送日は同年2月3日)、それに対し、同年2月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。 そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年11月14日付けで提出された手続補正書により補正された本願明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「CaO・Al_(2)O_(3)20?80質量部、CaO・2Al_(2)O_(3)5?50質量部、及び12CaO・7Al_(2)O_(3)1?20質量部の鉱物組成を含有し、平均粒子径が1?10μm、BET比表面積が0.1?2m^(2)/g、ガラス化率が20%以下であるアルミナセメント100質量部と、式(1)及び/又は式(2)に示す構成単位を有する混和剤0.1?5質量部とを含有してなるアルミナセメント組成物。 【化1】 R_(1) | -CH_(2)-C- ・・・・・・・・・・(1) | COOM_(1) (式中、R_(1)は水素又は炭素数1?12の直鎖アルキル基、M_(1)は水素、一価金属、及びアンモニウム基を示す) 【化2】 R_(2) | -CH_(2)-C- ・・・・・・・・・・(2) | COO(AO)_(n)-R_(3) (式中、R_(2)とR_(3)は水素又は炭素数1?12の直鎖アルキル基、Aは炭素数2?4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基又はスチレン基、nは100?200の自然数を示す)」 2.引用発明の認定 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された特開平10-25136号公報(以下、「引用文献1」という。)には次の事項が記載されている。 (あ)「クリンカーの粉砕には、通常、粉塊物の微粉砕用に使用される、例えば、ローラーミル、ジェットミル、チューブミル、ボールミル、及び振動ミル等の粉砕機の使用が可能である。これら粉砕機によってクリンカーを、ブレーン比表面積が、好ましくは3,000m^(2)/g以上、より好ましくは4,000m^(2)/g以上になるまで粉砕する。水硬性物質のブレーン比表面積は、水硬性物質の重要特性である流動性、硬化性、及び強度発現性に関連し、要求特性を得るためには重要な管理ポイントであって、4,500 ?6,000cm^(2)/gが最も好ましい。」(段落【0015】) (い)「本発明において、水硬性物質とα-アルミナとを含有するアルミナセメントを製造する際の混合・粉砕方法は特に限定されるものではないが、α-アルミナを単独でアルミナセメント相当の粒度まで、好ましくはDp50が2?10μ程度まで粉砕後水硬性物質と混合するか、クリンカーと混合粉砕する方法が可能である。」(段落【0017】) (う)「実施例1 CaO原料とAl_(2)O_(3)原料とを表1に示すクリンカーの鉱物組成比になるように配合し、ボールミルで混合粉砕し、ロータリーキルンで1,000?1,600℃の温度で焼成後、放冷してクリンカーを製造した。製造したクリンカーの化学成分のCaOとAl_(2)O_(3)を表1に併記する。このクリンカーをバッチ式ボールミルで粉砕して、ブレーン値約4,500 ?6,000cm^(2)/gの水硬性物質を製造した。製造した水硬性物質をアルミナセメントとし、その25重量部と、耐火骨材a75重量部とを混合して不定形耐火物を調製した。調製した不定形耐火物100重量部に、水11重量部を添加し、25℃恒温室内で、モルタルミキサーで3分間混練りして成形し、養生し、不定形耐火物の硬化体を作成し、その物性の測定を行った。結果を表1に併記する。」(段落【0039】) (え)「【表1】 」(段落【0042】) (お)「実施例4 クリンカー<7>60重量部とα-アルミナ40重量部とからなるアルミナセメント20重量部と、アルミナセメント100重量部に対して、表4に示す各種添加剤を1重量部配合してアルミナセメント組成物とし、このアルミナセメント組成物20重量部、耐火骨材b80重量部、及びアルミナセメント組成物と耐火骨材からなる不定形耐火物100重量部に対して、8.3重量部の水を添加し、20℃恒温室内で、混練りから養生までを行い、実施例1と同様に不定形耐火物の硬化体を作成しその特性を評価した。結果を表4に併記する。比較のため市販のアルミナセメントを使用して同様の試験を行った。結果を表4に併記する。 <使用材料> 耐火骨材b:焼結アルミナ、昭和電工社製商品名「SRW」、3.36?1.19mm28重量部、1.19?0.59mm17重量部、0.59?0.297mm15重量部、0.297mm下14重量部、及び325 メッシュ下6重量部 添加剤A :クエン酸ナトリウム、石津製薬社製試薬1級品 添加剤B :炭酸ナトリウム、石津製薬社製試薬1級品 添加剤C :ポリアクリル酸ナトリウム、市販品 添加剤D :ポリメタクリル酸ナトリウム、市販品 添加剤E :アクリル酸ナトリウム/メタクリル酸ナトリウム7/3共重合体 添加剤F :ホウ砂、石津製薬社製試薬1級品 市販品α :アルミナセメント、電気化学工業社製商品名「S-2」 市販品β :アルミナセメント、アルコア社製商品名「CA25R」 市販品γ :アルミナセメント、ラファージュ社製商品名「セカール80」(段落【0051】?【0052】) (か)「【表4】 」(段落【0053】) 上記記載事項について検討すると、記載事項(え)には、表1に示すクリンカー<7>(審決注:丸数字を表記の都合上<数字>で表す。)の鉱物組成比が「CA55重量%、CA_(2)30重量%、C_(12)A_(7)8重量%、ガラス成分を含む他として7重量%の鉱物組成を含有してなるクリンカーのブレーン値(cm^(2)/g)が5400」であることが記載されている。ここで、「CA、CA_(2)、C_(12)A_(7」)」がそれぞれ「CaO・Al_(2)O_(3)、CaO・2Al_(2)O_(3)、12CaO・7Al_(2)O_(3)」に相当することは引用文献1の【0010】にも明記されるように当業者において自明である。そして、記載事項(お)には、実施例4においてクリンカー<7>60重量部α-アルミナ40重量部からなる「アルミナセメント100重量部に対して、表4に示す各種添加剤を1重量部配合してアルミナセメント組成物」とすることが記載され、「添加剤C :ポリアクリル酸ナトリウム」は、表4において「実験No.4-4」において実施例として添加されている。 以上の記載事項を本願発明の記載振りに則して整理すると、引用文献1には、 「CaO・Al_(2)O_(3)55重量%、CaO・2Al_(2)O_(3)30重量%、及び12CaO・7Al_(2)O_(3)8重量%、ガラス成分を含むその他として7重量%の鉱物組成を含有してなるブレーン値5400cm^(2)/gのアルミナセメントクリンカーを含有し、クリンカー<7>からなるアルミナセメント60重量部に対してポリアクリル酸ナトリウムである添加剤Cを1重量部配合したアルミナセメント組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の【表1】において質量部で表される鉱物組成とこれに含まれないガラス化率を併せて100となることからみて、相対的な組成比を表す質量部は、ほぼ質量%であると認められ、質量と重量は、地上において同じ値をとるから、結局、引用発明の「重量%」は、本願発明の「質量部」に相当するということができる。したがって、引用発明の「CaO・Al_(2)O_(3)55重量%、CaO・2Al_(2)O_(3)30重量%、及び12CaO・7Al_(2)O_(3)8重量%」は、本願発明の「CaO・Al_(2)O_(3)20?80質量部、CaO・2Al_(2)O_(3)5?50質量部、及び12CaO・7Al_(2)O_(3)1?20質量部の鉱物組成を含有してなるガラス化率が20%以下であるアルミナセメントクリンカー」と、「CaO・Al_(2)O_(3)55質量部、CaO・2Al_(2)O_(3)30質量部、及び12CaO・7Al_(2)O_(3)8質量部の鉱物組成を含有」する点で共通すると認められる。そして、引用発明の「ガラス成分を含むその他として7重量%の鉱物組成を含有」することは、本願発明の「ガラス化率が20質量%以下である」ことに相当するということができる。さらに、ポリアクリル酸ナトリウムがCH_(2)CHCOONaであるから、本願発明の式(1)に示す構成単位即ち、 「 R_(1) | -CH_(2)-C- ・・・・・・・・・・(1) | COOM_(1) (式中、R_(1)は水素、M_(1)は、一価金属であるNaを示す) を有する添加剤」であることは当業者において自明であるから、引用例1発明の「クリンカー<7>からなるアルミナセメント60重量部に対してポリアクリル酸ナトリウムである添加剤Cを1重量部配合」することは、クリンカー<7>からなるアルミナセメント100重量部に対してポリアクリル酸ナトリウムである添加剤Cを1.7重量部配合すると換算できるから、本願発明と「アルミナセメント100質量部と、式(1)に示す構成単位を有する混和剤1.7質量部とを含有してなる」点で共通するものと認められる。 したがって、両者は「CaO・Al_(2)O_(3)55質量部、CaO・2Al_(2)O_(3)30質量部、及び12CaO・7Al_(2)O_(3)8質量部の鉱物組成を含有し、ガラス化率が20質量%以下であるアルミナセメント100質量部と、式(1)に示す構成単位を有する混和剤1.7質量部とを含有してなるアルミナセメント組成物。 【化1】 R_(1) | -CH_(2)-C- ・・・・・・・・・・(1) | COOM_(1) (式中、R_(1)は水素、M_(1)は、一価金属であるNaを示す)」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点a:本願発明は、アルミナセメントが「平均粒子径が1?10μm」であるのに対して、引用発明では、「平均粒子径」については特定されていない点。 相違点b:本願発明は、アルミナセメントが「BET比表面積が0.1?2m^(2)/g」であるのに対して、引用発明では、アルミナセメントのクリンカーが「ブレーン値5400cm^(2)/g」である点。 4.当審の判断 (相違点aについて) 引用文献1には、記載事項(い)で「本発明において、水硬性物質とα-アルミナとを含有するアルミナセメントを製造する際の混合・粉砕方法は特に限定されるものではないが、α-アルミナを単独でアルミナセメント相当の粒度まで、好ましくはDp50が2?10μ程度まで粉砕後水硬性物質と混合するか、クリンカーと混合粉砕する方法が可能である。」と記載され、「Dp50」が、「平均粒子径(Dp50)」と記載される例(必要であれば、例えば特開平9-165240号公報、段落【0036】「α-Al_(2)O_(3)の粒度は、粉砕前の一次粒子径が平均粒子径(Dp50)で、30?100μが好ましい。」参照。)があることからみれば、引用発明においても、アルミナセメントは、平均粒子径が2?10μ程度であることが推認される。 そうすると、両発明は、平均粒子径が「2?10μ程度」で一致するから、相違点aは、実質的な相違ではないということができる。 (相違点bについて) 本願明細書の比表面積に関する記載をみてみると、「本発明で使用するアルミナセメントを製造する時は、通常、粉塊物の微粉砕用に使用される、例えば、ローラーミル、ジェットミル、チューブミル、ボールミル、及び振動ミル等の粉砕機の使用が可能である。本発明のアルミナセメントの粒度は、平均粒子径で1?10μmが好ましく、2?8μmがより好ましい。この範囲以外では硬化時間の温度依存性が高くなり、流動性が低下する場合がある。また、本発明のアルミナセメントの粒度は、BET比表面積で0.1?2m^(2)/gが好ましく、0.5?1.5m^(2)/gがより好ましい。この範囲以外では硬化時間の温度依存性が高くなり、流動性が低下する場合がある。」(段落【0015】)とあるだけで、数値範囲の臨界的意義については、何も記載されておらず、理由は、硬化時間の温度依存性が高くなり、流動性が低下する場合があるとされるだけである。一方、引用文献1には、記載事項(あ)に「クリンカーの粉砕には、通常、粉塊物の微粉砕用に使用される、例えば、ローラーミル、ジェットミル、チューブミル、ボールミル、及び振動ミル等の粉砕機の使用が可能である。これら粉砕機によってクリンカーを、ブレーン比表面積が、好ましくは3,000m^(2)/g以上、より好ましくは4,000m^(2)/g以上になるまで粉砕する。水硬性物質のブレーン比表面積は、水硬性物質の重要特性である流動性、硬化性、及び強度発現性に関連し、要求特性を得るためには重要な管理ポイントであって、4,500 ?6,000cm^(2)/gが最も好ましい。」とされ、本願発明は、アルミナセメントが「BET比表面積が1000?20000cm^(2)/g」であるから、本願発明は、比表面積の測定方法は異なるものの、引用発明の「5400cm^(2)/g」を含むことは明らかである。さらに、上記したように両発明は、比表面積と関連する物性である平均粒子径が「2?10μ程度」で一致することからみても、引用発明において、当然必要とされる流動性を得るために、測定方法を換えて、アルミナセメントが「BET比表面積が0.1?2m^(2)/g」と数値限定することは、当業者であれば容易になし得るということができる。 そして、相違点a及び相違点bにかかる本願発明の特定事項を採用することによる効果についても、引用発明の効果からみて流動性及び高強度等の点で同質であり、格別顕著であるとはいえない。 なお、請求人は審判請求書において「(ハ)本願発明 [従来の技術とその課題](段落[0003])に記載されている、水溶性のポリアクリル酸類及び/又はメタクリル酸-アクリル酸共重合体、スルホン酸系アニオン界面活性剤、或いは、HIGH ALUMINA CEMENT AND CONCRETES. (T.D ROBSON 1962年発行)に記載された混和剤を添加したアルミナセメントは、「これらの特許や文献に記載されているアルミナセメントは、硬化時間の温度依存性が高く、さらに高強度発現性が劣っており、従来の市販品の範疇を逸脱するものではなかった。」とあります。本願発明の出願当時に入手できるどの混和剤を使用しても、本願発明の課題を解決して本願発明の作用効果を得ることができなかったのであります。 即ち、本願発明の出願当時に入手できるどの混和剤を使用しても、本願発明の実施例で規定された温度依存性(段落[0053])は不可(×)であります。10℃と30℃の硬化時間の差が2時間を超えるものであります。」と主張するが、係る主張は、「本願発明の出願当時に入手できるどの混和剤を使用しても、本願発明の課題を解決して本願発明の作用効果を得ることができなかった」ということが記載されていない点で、本願明細書段落【0003】の記載に基づくものではないし、鉱物組成の重量部が範囲外であることのみにより、硬化時間の温度依存性が不可となることを示す【表2】(段落【0054】)の内容と矛盾するので、採用することはできない。 さらに、請求人の主張する硬化時間の温度依存性が極めて少ないという効果についても例えば、原査定の拒絶理由において引用された特開平7-232941号公報の段落【0087】において「本発明のアルミナセメント又はアルミナセメント組成物を使用するに当たり、従来から水硬セメントの流動性、可使時間、硬化時間、及び強度発現性等の性状を改善する目的で使用されている、メラミン類、ナフタレンスルホン酸類、ポリカルボン酸類、及びホルムアルデヒドの縮合物等の界面活性剤(新コンクリート用混和材料、1989年7月31日発行、シーエムシー社製)、AE減水剤(セメント・コンクリート、NO.556 P36-45 6月号 1993年)、ヘキサメリン酸、トリポリリン酸、及びピロリン酸等のリン酸類又はそのナトリウムやカリウム塩、並びに、ショ糖、サッカロース、デキストリン、及び澱粉等の糖類等の硬化遅延剤や、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウム等の水酸化アルカリ、並びに、塩化リチウム、炭酸リチウム、及びクエン酸リチウム等のリチウム化合物等の硬化促進剤を必要に応じて配合することが可能である。」と記載されるように、当業者であれば、当然考慮すべき硬化時間の改善に関する効果であるから、格別顕著であったり異質のものということはできない。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-07-04 |
結審通知日 | 2011-07-05 |
審決日 | 2011-07-19 |
出願番号 | 特願2000-93403(P2000-93403) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 正 知晃、武重 竜男 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
深草 祐一 中澤 登 |
発明の名称 | アルミナセメント組成物及びそれを用いた不定形耐火物 |