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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M |
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管理番号 | 1242694 |
審判番号 | 不服2009-16116 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-09-01 |
確定日 | 2011-09-01 |
事件の表示 | 特願2003- 15322「音声入出力装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月12日出願公開、特開2004-229016〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯と本願発明 本願は、平成15年1月23日の出願であって、平成20年5月27日付け拒絶理由通知に対して同年7月30日付けで意見書と手続補正書が提出されたが、平成21年5月27日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として同年9月1日付けで審判請求がなされたものであって、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年7月30日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。 「通話相手の音声を出力する音声出力手段と、 話者の音声を入力する音声入力手段と、 前記通話相手から送信された音声信号に対して人の聞き取れる音声に対応した周波数帯域以外の信号を減衰する検出信号減衰手段と、 前記話者の音声とともに前記音声出力手段から出力された音声を含む前記音声入力手段が入力した入力信号に対して話者の音声およびエコー成分に比べて低い周波数の信号を減衰させる入力信号減衰手段と、 前記入力信号減衰手段によって減衰された入力信号から前記検出信号減衰手段によって減衰された音声信号を除去する除去手段と、 前記除去手段によって前記音声信号が除去された前記入力信号を前記通話相手へ送信し、前記通話相手から送信された音声信号を受信する通信手段とを備えることを特徴とする音声入出力装置。」 2.引用発明 原査定の拒絶理由に引用された刊行物である特開2001-7933号公報(以下、「引用例」という。)には、「拡声式インターホン装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。 「【発明の実施の形態】 以下、本発明による拡声式インターホン装置における好ましい実施形態例を図面にしたがって説明する。この拡声式インターホン装置は、図1に示すように、ラインL1で接続された親機M1と、子機T1とを備えたものである。親機M1はレシーバM111及びマイクM112より構成されるハンドセットM11を備え、レシーバM111及びマイクM112は、それぞれ接続されるアンプM12、M13を介してラインL1に接続される親機ハイブリッド回路M14が接続される。子機T1はマイクT11及びスピーカT18を備え、マイクT11はアンプT12及び第2のフィルタT13を介して、エコーキャンセラT14に接続される。また、スピーカT18はアンプT17を介して子機ハイブリッド回路T15に接続される。エコーキャンセラT14は、ハンズフリー通話を可能とするため特に必要なものであり、いわゆる音響エコーを除去するためマイクT11に入力された音声入力信号S11に音響エコー除去信号を付加するものである。エコーキャンセラT14は、ラインL1に接続される子機ハイブリッド回路T15が接続され、子機ハイブリッド回路T15の出力側に第1のフィルタT16を介してエコーキャンセラT14に接続されている。このような構成の拡声式インターホン装置における通話は、以下のようにして行われる。親機M1のマイクM112に入力された音声入力信号S14は、アンプM13にて増幅され、親機ハイブリッド回路M14に入力され、ラインL1を介して子機T1に伝送される。子機T1に伝送された音声伝送信号S15は、子機ハイブリッド回路T15を介して第1のフィルタT16に入力され電話帯域に帯域制限された後、エコーキャンセラT14にて、参照信号として使用されるとともに、アンプT17を介してスピーカT18より音声出力信号S16として放音される。このとき音声出力信号S16の通話帯域は電話帯域に制限されず、より広い通話帯域となる。一方、子機T1のマイクT11に入力された音声入力信号S11は、アンプT12にて増幅され、第2のフィルタT13にて電話帯域に帯域制限され、エコーキャンセラT14にて音響エコー除去信号が付加されることにより、スピーカT18からの放音による音響エコー成分S17が除去されて子機ハイブリッド回路T15に入力され、ラインL1を介して親機M1に伝送される。親機M1に伝送された音声伝送信号S12は、親機ハイブリッド回路M14、アンプM12を介してレシーバM111より音声出力信号S13として放音される。」(第2頁右欄第43行-第3頁左欄第32行) 上記引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、引用例記載の拡声式インターホン装置において、 ・親機M1の音声入力信号S14は、ラインL1および子機ハイブリッド回路T15を介して音声伝送信号S15として子機T1に伝送された後、音声出力信号S16として子機T1のスピーカT18より放音され、 ・子機T1の音声入力信号S11は、子機T1のマイクT11に入力され、 ・前記音声伝送信号S15は、第1のフィルタT16により、通話帯域から電話帯域に帯域制限され、 ・前記音声入力信号S11と子機T1のスピーカT18から放音された音響エコー成分S17とを含む、子機T1のマイクT11に入力された信号は、第2のフィルタT13により、通話帯域から電話帯域に帯域制限され、 ・前記第2のフィルタT13によって帯域制限された信号は、エコーキャンセラT14にて音響エコー除去信号が付加されるが、該音響エコー除去信号が第1のフィルタT16の出力信号である参照信号であることは自明であり、 ・上記エコーキャンセラT14にて音響エコー除去成分が付加された信号は、子機ハイブリッド回路T15およびラインL1を介して音声伝送信号S12として親機M1に伝送され、 以上を総合すれば、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「音声出力信号S16を出力するスピーカT18と、 音声入力信号S11を入力するマイクT11と、 親機M1から伝送された音声伝送信号S15に対して通話帯域から電話帯域に帯域制限する第1のフィルタT16と、 前記音声入力信号S11とともに前記スピーカT18から出力された音響エコー成分S17を含む前記マイクT11が入力した入力信号に対して通話帯域から電話帯域に帯域制限する第2のフィルタT13と、 前記第2のフィルタT13によって帯域制限された入力信号から、前記第1のフィルタT16によって帯域制限された参照信号を除去するエコーキャンセラT14と、 前記エコーキャンセラT14によって前記参照信号が除去された前記入力信号を音声伝送信号S12として親機M1に伝送し、前記親機M1から伝送された音声伝送信号S15を子機T1に伝送する、ラインL1および子機ハイブリッド回路T15を備えた拡声式インターホン装置。」 3.対比 本願発明と引用発明とを対比するに、 ・引用発明の「音声出力信号S16」はもともと親機M1に入力された音声入力信号S14であって、子機T1の話者にとっては通話相手の音声といえるから、本願発明の「通話相手の音声」に相当し、また、引用発明の「音声入力信号S11」は子機T1の話者の音声であるから本願発明の「話者の音声」に相当し、 ・引用発明の「スピーカT18」、「マイクT11」は、それぞれ本願発明の「音声出力手段」、「音声入力手段」に相当することは明らかであり、 ・引用発明の「親機M1から伝送された音声伝送信号S15」はもともと親機M1に入力された音声入力信号S14であって、本願発明の「通話相手から送信された音声信号」とは、「通話相手から伝送された音声信号」である点で共通し、 ・引用発明の「通話帯域から電話帯域に帯域制限する第1のフィルタT16」と本願発明の「人の聞き取れる音声に対応した周波数帯域以外の信号を減衰する検出信号減衰手段」を対比するに、信号を帯域制限することは帯域外の信号を減衰させることに他ならず、また、引用発明の第1のフィルタT16に入力される信号が親機M1から子機T1に伝送される信号であって子機T1により「検出」される信号と言いうることも勘案すれば、両者は「特定の帯域外の信号を減衰する検出信号減衰手段」である点で共通し、 ・引用発明の「音響エコー成分S17」は通話相手の音声であることは自明であるから、引用発明の「前記スピーカT18から出力された音響エコー成分S17」は本願発明の「前記音声出力手段から出力された音声」に相当し、 ・引用発明の「通話帯域から電話帯域に帯域制限する第2のフィルタT13」と本願発明の「話者の音声およびエコー成分に比べて低い周波数の信号を減衰させる入力信号減衰手段」を対比するに、本願発明の「話者の音声およびエコー成分」が特定の帯域内の信号であることは自明であり、さらに、信号を帯域制限することは帯域外の信号を減衰させることに他ならなず、また、引用発明の第2のフィルタT13に入力される信号が入力信号であることも勘案すれば、両者は「特定の帯域外の信号を減衰する入力信号減衰手段」である点で共通し、 ・引用発明の「帯域制限された入力信号」は本願発明の「減衰された入力信号」に相当し、 ・引用発明の「参照信号」はもともと親機M1に入力された音声入力信号S14であって、これが音声信号であることは自明であるから、本願発明の「音声信号」に含まれ、また、引用発明の「帯域制限された参照信号」は本願発明の「減衰された音声信号」に相当し、 ・引用発明の「エコーキャンセラT14」は不要なエコー成分を除去する手段であるから本願発明の「除去手段」に含まれ、 ・引用発明の「前記入力信号を音声伝送信号S12として親機M1に伝送し」と本願発明の「前記入力信号を通話相手へ送信し」を対比するに、親機M1側には通話相手がいることは自明であり、「送信」は「伝送」の一種であるから、両者は「前記入力信号を通話相手へ伝送し」の点で共通し、 ・同様に、引用発明の「前記親機M1から伝送された音声伝送信号S15を子機T1に伝送する」と本願発明の「前記通話相手から送信された音声信号を受信する」は「前記通話相手から伝送された音声信号を伝送する」点で共通し、 ・引用発明の「ラインL1および子機ハイブリッド回路T15」は、音声伝送信号S12,S15を、親機M1と子機T1という距離的に離間した装置間で伝送する手段であるから、本願発明の「通信手段」に含まれ、 ・引用発明の「拡声式インターホン装置」は、マイクおよびスピーカを備え、音声を入出力する装置であるから、本願発明の「音声入出力装置」に含まれ、 したがって、両発明は以下の点で一致及び相違する。 (一致点) 「通話相手の音声を出力する音声出力手段と、 話者の音声を入力する音声入力手段と、 前記通話相手から伝送された音声信号に対して特定の帯域外の信号を減衰する検出信号減衰手段と、 前記話者の音声とともに前記音声出力手段から出力された音声を含む前記音声入力手段が入力した入力信号に対して特定の帯域外の信号を減衰する入力信号減衰手段と、 前記入力信号減衰手段によって減衰された入力信号から前記検出信号減衰手段によって減衰された音声信号を除去する除去手段と、 前記除去手段によって前記音声信号が除去された前記入力信号を前記通話相手へ伝送し、前記通話相手から伝送された音声信号を伝送する通信手段とを備える音声入出力装置。」 (相違点1) 「検出信号減衰手段」が、本願発明では「人の聞き取れる音声に対応した周波数帯域以外の信号を減衰する」のに対し、引用発明では「通話帯域から電話帯域に帯域制限する」点。 (相違点2) 「入力信号減衰手段」が、本願発明では「話者の音声およびエコー成分に比べて低い周波数の信号を減衰させる」のに対し、引用発明では「通話帯域から電話帯域に帯域制限する」点。 (相違点3) 「音声信号」や「入力信号」の「伝送」に関し、 本願発明では、「前記通話相手から送信された音声信号」、「前記除去手段によって前記音声信号が除去された前記入力信号を前記通話相手へ送信し、前記通話相手から送信された音声信号を受信する通信手段」とあるように、「送信」や「受信」と限定されているのに対し、 引用発明では、「親機M1から伝送された音声伝送信号S15」、「前記エコーキャンセラT14によって前記参照信号が除去された前記入力信号を音声伝送信号S12として親機M1に伝送し、前記親機M1から伝送された音声伝送信号S15を子機T1に伝送する、ラインL1および子機ハイブリッド回路T15」とあるように、単に「伝送」である点。 4.検討 以下に、上記各相違点につき検討する。 (相違点1)について 一般に、エコーキャンセラにおいて、参照信号として入力される信号の帯域を、除去すべき信号の帯域と同じ帯域とすることは、技術常識であるところ、引用発明において、除去すべき信号は、スピーカT18から放音されてマイクT11に入力される、通話相手の音声(音響エコー成分S17)であって、これが「人の聞き取れる音声に対応した周波数帯域」の信号であることは自明である。 とすると、引用発明において、エコーキャンセラに参照信号として入力される信号の帯域を、除去すべき信号の帯域である「人の聞き取れる音声に対応した周波数帯域」とするために、エコーキャンセラの前段のフィルタである「検出信号減衰手段」を、本願発明のように「人の聞き取れる音声に対応した周波数帯域以外の信号を減衰する」ようにすることは当業者であれば容易になし得たものと認められる。 (相違点2)について 一般に、音声入出力装置において、マイク等の入力手段から入力した信号のうち、音声帯域以外の信号をフィルタで除去することは周知慣用技術に過ぎないが、音声帯域以外の信号のうちどの帯域成分を除去するかは当業者が必要に応じて適宜選択すべきものである。 したがって、引用発明において、マイクT11の後段に設けられたフィルタT13からなる「入力信号減衰手段」を、本願発明のように「話者の音声およびエコー成分に比べて低い周波数の信号を減衰させる」ようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たものと認められる。 (相違点3)について ハイブリッド回路が音声信号に方向性を与える回路であることは技術常識であり、引用発明の子機T1の側からみれば、子機ハイブリッド回路T15から親機M1に伝送される信号は子機T1から「送信」される信号であり、親機M1から子機ハイブリッド回路T15に伝送される信号は親機M1から「送信」され、子機T1に「受信」される信号であるといえる。 したがって、本願発明における信号の「送信」あるいは「受信」と、引用発明における信号の「伝送」は、単なる表現上の相違に過ぎないと認められるから、上記相違点3は格別の相違ということはできない。 そして、本願発明の作用・効果も引用発明から当業者が予測し得る範囲のものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、上記引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-07-04 |
結審通知日 | 2011-07-05 |
審決日 | 2011-07-19 |
出願番号 | 特願2003-15322(P2003-15322) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H04M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鶴谷 裕二、西脇 博志 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
神谷 健一 新川 圭二 |
発明の名称 | 音声入出力装置 |
代理人 | 矢作 和行 |
代理人 | 久保 貴則 |
代理人 | 野々部 泰平 |