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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1242710
審判番号 不服2010-9184  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-28 
確定日 2011-09-01 
事件の表示 特願2005-187058「複数のプラスチックレンズから成る光学機器」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 8日出願公開、特開2005-338869〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年(2001年)3月23日に出願した特願2001-84926号の一部を平成17年(2005年)6月27日に新たな特許出願として出願した特願2005-187058号であって、平成21年8月10日付けで手続補正がなされ、同年9月14付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年12月14日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成22年1月28日付けで平成21年12月14付けの手続補正に対する補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年4月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成22年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成22年4月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成21年8月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の、

「鏡筒内に第1のプラスチックレンズ及び第2のプラスチックレンズを含む複数のプラスチックレンズを収納し、その各プラスチックレンズをマージナルコンタクトにより当接させて鏡筒内に固定した光学機器であって、前記鏡筒と前記各プラスチックレンズとの間に径方向のクリアランスを保つように各プラスチックレンズの外径を前記鏡筒の内径より僅かに小さく形成するとともに、前記鏡筒には各プラスチックレンズを挿入する開口側と反対側に位置して光軸方向に対して垂直な垂直受け面を形成し、前記各プラスチックレンズは、レンズ部分とコバ部分とから成り、前記第2のプラスチックレンズのコバ部分には、前記鏡筒の垂直受け面側の面に、前記第1のプラスチックレンズの円錐当接面と当接するように、光軸を中心とした円錐当接面を有しており、前記鏡筒内の垂直受け面に対して前記第1のプラスチックレンズの垂直当接面が当接した状態において、順次、次段のプラスチックレンズを挿入し、前記各プラスチックレンズのそれぞれの円錐当接面を当接させ、かつ、最終段のプラスチックレンズのコバ外周部を光軸方向に加圧してその最終段のプラスチックレンズから前記第1のプラスチックレンズの方向に荷重を加えることによって、前記第1のプラスチックレンズの円錐当接面が次段のプラスチックレンズの円錐当接面を規制して、前記各プラスチックレンズの光軸を一致させた状態で前記鏡筒の挿入部付近で最終段プラスチックレンズのコバ外周部と鏡筒とを固定するように構成したことを特徴とする複数のプラスチックレンズから成る光学機器。」が

「鏡筒内に第1のプラスチックレンズ及び第2のプラスチックレンズを含む複数のプラスチックレンズを収納し、前記鏡筒内に収納した第1のプラスチックレンズから順次、次段のプラスチックレンズをマージナルコンタクトにより当接させて鏡筒内に固定した光学機器であって、前記鏡筒と前記各プラスチックレンズとの間に径方向のクリアランスを保つように各プラスチックレンズの外径を前記鏡筒の内径より僅かに小さく形成するとともに、前記鏡筒には各プラスチックレンズを挿入する開口部反対側に位置して光軸方向に対して垂直な垂直受け面を形成し、前記各プラスチックレンズは、レンズ部分と、コバ部分とから成り、前記第2のプラスチックレンズのコバ部分には、前記鏡筒の垂直受け面側の面に、前記第1のプラスチックレンズの円錐当接面と当接するように、光軸を中心とした円錐当接面を有しており、前記鏡筒内の垂直受け面に対して前記第1のプラスチックレンズの垂直当接面が当接した状態において、順次、次段のプラスチックレンズを前記鏡筒に挿入し、前記各プラスチックレンズのそれぞれの円錐当接面を当接させ、かつ、最終段のプラスチックレンズの前記コバ外周部を光軸方向に加圧してその最終段のプラスチックレンズから前記第1のプラスチックレンズの方向に荷重を加えることによって、第1のレンズと鏡筒が光軸方向においてのみ当接した状態で、各プラスチックレンズは鏡筒の内周面と僅かにクリアランスを保った状態で鏡筒に対して遊嵌され、前記第1のプラスチックレンズの円錐当接面が次段のプラスチックレンズの円錐当接面を規制することによって前記各プラスチックレンズの光軸を一致させた状態で前記鏡筒の挿入部付近で最終段プラスチックレンズのコバ外周部と鏡筒とを接着固定するように構成したことを特徴とする複数のプラスチックレンズから成る光学機器。」に補正された。

そして、この補正は、本件補正前の請求項1に対して、
(1)各プラスチックレンズと鏡筒の関係について「各プラスチックレンズは鏡筒の内周面と僅かにクリアランスを保った状態で鏡筒に対して遊嵌され」ることを特定する補正事項、及び、
(2)最終段プラスチックレンズのコバ外周部と鏡筒との固定(のしかた)について、「接着固定」であることを特定する補正事項、
を含む。
上記(1)及び(2)の補正事項は、いずれも、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正事項であるから、本件補正による請求項1に係る発明の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものを含む。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成22年4月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-113783号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はレンズ保持鏡筒及びそれを用いた光学機器に関し、特に2つのレンズをマージナルコンタクトしてレンズ鏡筒内に保持した写真用カメラや光学測定機等の光学機器に好適なものである。」

「【0009】本発明は、マージナルコンタクトをして2つのレンズをレンズ鏡筒に保持する際、マージナルコンタクトをするレンズ面の接触面形状を適切に設定すると共にマージナルコンタクトしたレンズ面の周辺領域に遮光手段を設けることにより、2つのレンズを高精度にレンズ鏡筒に収納保持することができ、しかもマージナルコンタクトした周辺領域からフレアーやゴースト等の有害光が発生するのを効果的に防止し、良好なる画像が得られるレンズ保持鏡筒及びそれを用いた光学機器の提供を目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明のレンズ保持鏡筒は、
(2-1)2つのレンズをマージナルコンタクトさせて、レンズ鏡筒に保持する際、マージナルコンタクトさせる2つのレンズ面のうち一方のレンズ面の周辺領域の曲率を他方のレンズ面の曲率と一致させ、該周辺領域でマージナルコンタクトすると共に該周辺領域に遮光手段を設けていることを特徴としている。」

「【0037】次に図4の実施形態3について説明する。図4において41,42は何れもプラスチックレンズ、43はプラスチックレンズ41,42を保持する鏡筒、44は光軸、45はプラスチックレンズ41と鏡筒43を固定する接着剤である。プラスチックレンズ41は光軸44と平行な少なくとも1本のダボ41aを有し、鏡筒43の光軸44と平行な穴部43bと嵌合しており、これにより鏡筒43とプラスチックレンズ41との位置関係を決めている。
【0038】プラスチックレンズ42は鏡筒43との接触部42aとレンズ41の右側の曲面を有する部分42bを有し、遮光手段16を介してこの部分42bでプラスチックレンズ41,42は接触(マージナルコンタクト)している。
【0039】プラスチックレンズ41はツバ部41cを有し、プラスチックレンズ42はツバ部42cを有している。遮光手段16は2つのプラスチックレンズ41,42のマージナルコンタクトしている周辺領域42bに設けている。又遮光手段16は必要に応じてプラスチックレンズ41のツバ部41c又はプラスチックレンズ42のツバ部42cにも設けている。
【0040】鏡筒43は接着剤塗布用のスペース43bを有し、ここに接着剤45を注入し、プラスチックレンズ41と鏡筒43を固定している。又プラスチックレンズ42と鏡筒43はその光軸44方向においてのみ接触部42aと受け面43aとが接触し、光軸44と垂直方向にはクリアランスを有している。又プラスチックレンズ41はダボ41aでのみ鏡筒43と嵌合している。
【0041】本実施形態は実施形態1のレンズ11をプラスチックレンズに変えている。そしてレンズ11と鏡筒43との光軸と垂直方向の位置決めを実施形態1ではレンズの外周部と鏡筒の内周部を嵌合させることにより行っているが、本実施形態ではプラスチックレンズ41のダボ41aと鏡筒43の穴部43bにより行っていることが大きく異なっている。
【0042】本実施形態における組立方法としては、まず鏡筒43にプラスチックレンズ42を接触部42aが受け面43aと接触するように図中矢印SA方向より挿入し、次にプラスチックレンズ41を図中矢印SA方向にダボ41aと穴部43bが嵌合し、又プラスチックレンズ41の右側の面がプラスチックレンズ42の部分42bと遮光手段16を介して接触するように挿入している。このときプラスチックレンズ41,42はその外周部で鏡筒43と嵌合させたり、圧入したりするとプラスチックレンズ41,42に変形を生じる恐れが大きいのでプラスチックレンズ41,42の外径は鏡筒23の内径より小さく設定している。又接触部42aと受け面43aは光軸44と垂直な面となっている。
【0043】そして鏡筒43を固定し、図中矢印SA方向よりプラスチックレンズ41に荷重を加えるとプラスチックレンズ41と鏡筒43は光軸44と平行なダボ41aと穴43bが嵌合している為、光軸44に対し殆ど傾くことなく光軸44と平行に図中右方向へ移動し、プラスチックレンズ42と接触する。更にプラスチックレンズ41に荷重を加えると受け面43aとプラスチックレンズ41の図中右側の曲面に規制され、プラスチックレンズ42は光軸44と垂直方向へ移動し、プラスチックレンズ41とプラスチックレンズ42の中心が光軸44と一致した状態となる。そしてスペース43bに接着剤45を注入し、プラスチックレンズ41と鏡筒43を固定している。図4はこのときの状態を示している。
【0044】又、プラスチックレンズ41と42がその外周部で接触しているため、接着剤45がプラスチックレンズ41と42の間に流れ込むことはない。プラスチックレンズ42は接着剤等により直接鏡筒43に固定されてはいないが、プラスチックレンズ41と鏡筒43に挟み込まれている為にその位置がずれることはない。又プラスチックレンズ41,42と鏡筒43の線膨張係数が大きく異なるときは、接着剤に弾性接着剤を用いるのが良く、これによれば熱によるプラスチックレンズ41,42の膨張、収縮を接着剤45により吸収することができ、プラスチックレンズ42が熱等により変形するのを防止することができる。又ここでは接着時にプラスチックレンズ41が変形するのを防止する為、使用する接着剤はその硬化時に生じる収縮が小さいものが望ましい。
【0045】又本実施形態においてはプラスチックレンズ42にプラスチックレンズ41の右側曲面と同じ曲面を有する部分42bを設けたが、これはプラスチックレンズ41の右側曲面の周辺部にプラスチックレンズ42の左側曲面と同じ曲面部分を設けても良いし、又プラスチックレンズ41の右側曲面の周辺部及びプラスチックレンズ42の左側曲面の周辺部にプラスチックレンズ41の右側曲面及びプラスチックレンズ42の左側曲面と異なる曲面部を設けても良いし、又この部分をテーパー面としても、本実施形態と同じ効果が得られる。」

「【図4】



イ 引用例1に記載された発明の認定
上記【0045】には、プラスチックレンズ42におけるプラスチックレンズ41の右側曲面と同じ曲面を有する部分42bについて「この部分をテーパー面と」することについても記載されていること、及び、【図4】から、鏡筒43におけるプラスチックレンズ42受け面43aは、プラスチックレンズ挿入部と反対側にあり、かつ、光軸と垂直な面であることが記載されているといえること、を踏まえると、上記記載(図面の記載も含む)から、引用例1には、
「鏡筒43はプラスチックレンズ41,42を保持し、プラスチックレンズ41は光軸44と平行な少なくとも1本のダボ41aを有し、鏡筒43の光軸44と平行な穴部43bと嵌合しており、これにより鏡筒43とプラスチックレンズ41との位置関係を決め、プラスチックレンズ42は鏡筒43との接触部42aとレンズ41の右側のテーパー面と同じテーパー面を有する部分42bを有し、遮光手段16を介してこの部分42bでプラスチックレンズ41,42はマージナルコンタクトし、プラスチックレンズ41はツバ部41cを有し、プラスチックレンズ42はツバ部42cを有し、
プラスチックレンズ42と鏡筒43はその光軸44方向においてのみ接触部42aと受け面43aとが接触し、上記の受け面43aは、プラスチックレンズ挿入部と反対側にあり、かつ、光軸と垂直な面であり、光軸44と垂直方向にはクリアランスを有し、
組立方法としては、まず鏡筒43にプラスチックレンズ42を接触部42aが受け面43aと接触するように光軸方向より挿入し、次にプラスチックレンズ41を光軸方向にダボ41aと穴部43bが嵌合し、又プラスチックレンズ41の右側の面がプラスチックレンズ42の部分42bと遮光手段16を介して接触するように挿入し、このときプラスチックレンズ41,42はその外周部で鏡筒43と嵌合させたり、圧入したりするとプラスチックレンズ41,42に変形を生じる恐れが大きいのでプラスチックレンズ41,42の外径は鏡筒23の内径より小さく設定し、又接触部42aと受け面43aは光軸44と垂直な面となっており、
光軸方向よりプラスチックレンズ41に荷重を加えるとプラスチックレンズ41と鏡筒43は光軸44と平行なダボ41aと穴43bが嵌合している為、光軸44に対し殆ど傾くことなく光軸44と平行に移動し、プラスチックレンズ42と接触し、更にプラスチックレンズ41に荷重を加えると受け面43aとプラスチックレンズ41のテーパー面に規制され、プラスチックレンズ42は光軸44と垂直方向へ移動し、プラスチックレンズ41とプラスチックレンズ42の中心が光軸44と一致した状態となり、そしてスペース43bに接着剤45を注入し、プラスチックレンズ41と鏡筒43を固定する、光学機器。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)本願補正発明と引用発明の対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明においては「まず鏡筒43にプラスチックレンズ42を・・・挿入し、次にプラスチックレンズ41を・・・挿入」することから、引用発明の「プラスチックレンズ42」及び「プラスチックレンズ41」が、それぞれ、本願補正発明の「第1のプラスチックレンズ」及び「第2のプラスチックレンズ」に相当し、よって、引用発明の「鏡筒43はプラスチックレンズ41,42を保持」することが、本願補正発明の「鏡筒内に第1のプラスチックレンズ及び第2のプラスチックレンズを含む複数のプラスチックレンズを収納」することに相当する。

引用発明の「まず鏡筒43にプラスチックレンズ42」を「挿入し」、「次にプラスチックレンズ41」を「挿入」すること、及び、「プラスチックレンズ41,42はマージナルコンタクト」していることが、本願補正発明の「前記鏡筒内に収納した第1のプラスチックレンズから順次、次段のプラスチックレンズをマージナルコンタクトにより当接させて鏡筒内に固定」することに相当する。

引用発明の「プラスチックレンズ41,42の外径は鏡筒23の内径より小さく設定」していることが、本願補正発明の「前記鏡筒と前記各プラスチックレンズとの間に径方向のクリアランスを保つように各プラスチックレンズの外径を前記鏡筒の内径より僅かに小さく形成する」ことに相当する。

引用発明の「プラスチックレンズ42と鏡筒43はその光軸44方向においてのみ接触部42aと受け面43aとが接触し、上記の受け面43aは、プラスチックレンズ挿入部と反対側にあ」ることが、本願補正発明の「前記鏡筒には各プラスチックレンズを挿入する開口部反対側に位置して光軸方向に対して垂直な垂直受け面を形成」することに相当する。

引用発明におけるプラスチックレンズの「ツバ部(41c、42c)」及び「テーパー面(41b、42b)」は、レンズ本来の機能を有するところではなく、鏡筒への保持及び隣接するプラスチックレンズとの接続のための部分であるから、その機能面から考えて、本願補正発明の「(各プラスチックレンズの)コバ部分」に相当するといえる。また、上記「テーパー面(41b、42b)」はプラスチックレンズ41,42をマージナルコンタクトさせるためのものであるから、プラスチックレンズ41,42の周縁部を連続的につなげるように形成されているもの、すなわち、円錐面の一部であると認められる。したがって、引用発明の「プラスチックレンズ42は鏡筒43との接触部42aとレンズ41の右側のテーパー面と同じテーパー面を有する部分42bを有し、遮光手段16を介してこの部分42bでプラスチックレンズ41,42はマージナルコンタクトし」、「プラスチックレンズ41はツバ部41cを有し」、「プラスチックレンズ42はツバ部42cを有」することが、本願補正発明の「前記各プラスチックレンズは、レンズ部分と、コバ部分とから成り、前記第2のプラスチックレンズのコバ部分には、前記鏡筒の垂直受け面側の面に、前記第1のプラスチックレンズの円錐当接面と当接するように、光軸を中心とした円錐当接面を有して」いることに相当する。

引用発明の「プラスチックレンズ42は鏡筒43との接触部42aとレンズ41の右側のテーパー面と同じテーパー面を有する部分42bを有し、遮光手段16を介してこの部分42bでプラスチックレンズ41,42はマージナルコンタクト」すること、及び、「まず鏡筒43にプラスチックレンズ42を接触部42aが受け面43aと接触するように光軸方向より挿入し、次にプラスチックレンズ41を光軸方向にダボ41aと穴部43bが嵌合し、又プラスチックレンズ41の右側の面がプラスチックレンズ42の部分42bと遮光手段16を介して接触するように挿入」することが、本願補正発明の「前記鏡筒内の垂直受け面に対して前記第1のプラスチックレンズの垂直当接面が当接した状態において、順次、次段のプラスチックレンズを前記鏡筒に挿入し、前記各プラスチックレンズのそれぞれの円錐当接面を当接させ」ることに相当する。

引用発明の「プラスチックレンズ41に荷重を加えると」「プラスチックレンズ42と接触し」、(その後)「更にプラスチックレンズ41に荷重を加える」ことが、本願補正発明の「最終段のプラスチックレンズの前記コバ外周部を光軸方向に加圧してその最終段のプラスチックレンズから前記第1のプラスチックレンズの方向に荷重を加える」ことに相当する。

引用発明の「まず鏡筒43にプラスチックレンズ42を接触部42aが受け面43aと接触するように光軸方向より挿入し、次にプラスチックレンズ41を光軸方向にダボ41aと穴部43bが嵌合し、又プラスチックレンズ41の右側の面がプラスチックレンズ42の部分42bと遮光手段16を介して接触するように挿入し、このときプラスチックレンズ41,42はその外周部で鏡筒43と嵌合させたり、圧入したりするとプラスチックレンズ41,42に変形を生じる恐れが大きいのでプラスチックレンズ41,42の外径は鏡筒23の内径より小さく設定」することと、本願補正発明の「第1のレンズと鏡筒が光軸方向においてのみ当接した状態で、各プラスチックレンズは鏡筒の内周面と僅かにクリアランスを保った状態で鏡筒に対して遊嵌され」ることとは、「第1のレンズと鏡筒が光軸方向においてのみ当接した状態で、各プラスチックレンズは鏡筒の内周面と僅かにクリアランスを保った状態で鏡筒に対して嵌入され」る点で一致する。

引用発明の「更にプラスチックレンズ41に荷重を加えると受け面43aとプラスチックレンズ41のテーパー面に規制され、プラスチックレンズ42は光軸44と垂直方向へ移動し、プラスチックレンズ41とプラスチックレンズ42の中心が光軸44と一致した状態」となることと、本願補正発明の「前記第1のプラスチックレンズの円錐当接面が次段のプラスチックレンズの円錐当接面を規制することによって前記各プラスチックレンズの光軸を一致させた状態」となることとは、「一方のプラスチックレンズの円錐当接面が他方のプラスチックレンズの円錐当接面を規制することによって前記各プラスチックレンズの光軸を一致させた状態」となる点で一致する。

引用発明の「プラスチックレンズ41とプラスチックレンズ42の中心が光軸44と一致した状態となり、そしてスペース43bに接着剤45を注入し、プラスチックレンズ41と鏡筒43を固定する」ことが、本願補正発明の「各プラスチックレンズの光軸を一致させた状態で前記鏡筒の挿入部付近で最終段プラスチックレンズのコバ外周部と鏡筒とを接着固定する」ことに相当する。

引用発明の「プラスチックレンズ41,42を」を有する「光学機器」が、本願補正発明の「複数のプラスチックレンズから成る光学機器」に相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「鏡筒内に第1のプラスチックレンズ及び第2のプラスチックレンズを含む複数のプラスチックレンズを収納し、前記鏡筒内に収納した第1のプラスチックレンズから順次、次段のプラスチックレンズをマージナルコンタクトにより当接させて鏡筒内に固定した光学機器であって、前記鏡筒と前記各プラスチックレンズとの間に径方向のクリアランスを保つように各プラスチックレンズの外径を前記鏡筒の内径より僅かに小さく形成するとともに、前記鏡筒には各プラスチックレンズを挿入する開口部反対側に位置して光軸方向に対して垂直な垂直受け面を形成し、前記各プラスチックレンズは、レンズ部分と、コバ部分とから成り、前記第2のプラスチックレンズのコバ部分には、前記鏡筒の垂直受け面側の面に、前記第1のプラスチックレンズの円錐当接面と当接するように、光軸を中心とした円錐当接面を有しており、前記鏡筒内の垂直受け面に対して前記第1のプラスチックレンズの垂直当接面が当接した状態において、順次、次段のプラスチックレンズを前記鏡筒に挿入し、前記各プラスチックレンズのそれぞれの円錐当接面を当接させ、かつ、最終段のプラスチックレンズの前記コバ外周部を光軸方向に加圧してその最終段のプラスチックレンズから前記第1のプラスチックレンズの方向に荷重を加えることによって、第1のレンズと鏡筒が光軸方向においてのみ当接した状態で、各プラスチックレンズは鏡筒の内周面と僅かにクリアランスを保った状態で鏡筒に対して嵌入され、一方のプラスチックレンズの円錐当接面が他方のプラスチックレンズの円錐当接面を規制することによって前記各プラスチックレンズの光軸を一致させた状態で前記鏡筒の挿入部付近で最終段プラスチックレンズのコバ外周部と鏡筒とを接着固定するように構成した複数のプラスチックレンズから成る光学機器。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1:
各プラスチックレンズが鏡筒に嵌合される態様に関して、本願補正発明が「遊嵌」されるのに対して、引用発明においてはその点が明確でない点。

(イ)相違点2:
最終段の(最後に挿入した)プラスチックレンズ側から加圧することにより「一方のプラスチックレンズの円錐当接面が他方のプラスチックレンズの円錐当接面を規制する」ことに関して、本願補正発明が「第1のプラスチックレンズの円錐当接面が次段のプラスチックレンズの円錐当接面を規制する」すなわち、最初に挿入したプラスチックレンズが最後に挿入したプラスチックレンズを規制するのに対して、引用発明においては、プラスチックレンズ42が、(受け面43aと)プラスチックレンズ41のテーパー面に規制される、すなわち、最初に挿入したプラスチックレンズが最後に挿入したプラスチックレンズからの規制を受ける点。

(4)当審の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
本願補正発明における「遊嵌」は、「嵌入」する状態に関して嵌め具合が緩やかであることを意味するものであるが、その程度については明確でないので、本願の明細書の発明の詳細な説明(平成21年8月10日付けの手続補正により補正されている)の記載を参酌すると、第1のレンズ及び第2のレンズの双方の鏡筒に対する嵌め具合については【0017】段落において「上記実施例におけるプラスチックレンズ位置決め保持方法としては、先ず、第1のプラスチックレンズ1を鏡筒4の右側より鏡筒4内に挿入し、次に、次段の第2のプラスチックレンズ2を同じく鏡筒4の右側より鏡筒4内に挿入する。このとき、プラスチックレンズ1,2をその外周部で鏡筒4に嵌合させたり圧入したりするとプラスチックレンズ1,2に変形を生じる恐れが大きいので、第1及び第2のプラスチックレンズ1,2の外径は鏡筒4の内径より小さく設定してある。」と記載されているのみである。そうすると、上記の本願補正発明における「遊嵌」は、嵌入した際にレンズに変形を生じる恐れがない程度の緩やかさであることを意味し、それ以上のものではないといえる。
それならば、引用発明も「プラスチックレンズ41,42はその外周部で鏡筒43と嵌合させたり、圧入したりするとプラスチックレンズ41,42に変形を生じる恐れが大きいのでプラスチックレンズ41,42の外径は鏡筒23の内径より小さく設定」するものであるから、引用発明においても、プラスチックレンズ41,42は鏡筒23に「遊嵌」されているものであるといえるから、上記相違点1は実質的な相違点とはならない。

なお、仮に、引用発明においては、プラスチックレンズ41はダボ41aと穴43bの嵌合によって鏡筒に組み込まれるものであるから、鏡筒に「遊嵌」されるものではないとしても、引用発明において上記の「ダボ41aと穴43b」を設けたのは、プラスチックレンズ41が光軸44に対し殆ど傾くことなく光軸44と平行に移動できるようにするため(引用例1の【0043】参照)であるから、「プラスチックレンズ41が光軸44に対し殆ど傾くことなく光軸44と平行に移動できるようにする」という要請よりも、他の要請(例えば、簡易に製作するという要請)の優先度が高いような場合においては、上記のダボ41aと穴43bを取り去って、或いは、ダボ41aと穴43bの嵌合をクリアランスのある緩やかなものとして、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
相違点2に関して、「一方のプラスチックレンズの円錐当接面が他方のプラスチックレンズの円錐当接面を規制する」のは、2つのプラスチックレンズの光軸を一致させることを目的とするものであり、その意味において、両者に格別の差異はないといえる。すなわち、どちらのプラスチックレンズが規制する側となるかは、鏡筒に対する移動の大小の関係から決まることであり、引用発明においては、プラスチックレンズ41はダボ41aと穴43bの嵌合によって鏡筒に組み込まれるものであるから、プラスチックレンズ41の鏡筒43に対する移動が小さいものであるということができ、プラスチックレンズ41(最後に挿入したプラスチックレンズ)が規制する側となったのである。このように、どちらのプラスチックレンズが規制する側となるかは、各プラスチックレンズと鏡筒との関連構造に依存することであるが、それ自体は当業者が適宜設定し得る事項に過ぎないから、格別の差異とはいえない。
また、引用発明は、プラスチックレンズ42(最初に挿入されたプラスチックレンズ)が、受け面43aとプラスチックレンズ41のテーパー面に規制されるものであるが、上記(1)と同様に、他の要請(例えば、簡易に製作するという要請)の優先度が高いような場合においては、上記のダボ41aと穴43bを取り去って、或いは、ダボ41aと穴43bの嵌合をクリアランスのある緩やかなものとし、プラスチックレンズ42(最初に挿入されたプラスチックレンズ)の受け面43aによる拘束力の方を相対的に大きくしてプラスチックレンズ42の鏡筒に対する移動を相対的に小さなものとし、プラスチックレンズ42(最初に挿入されたプラスチックレンズ)がプラスチックレンズ41(最後に挿入されたプラスチックレンズ)を規制するものとして、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年4月28日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年8月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成22年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成22年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成22年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、(1)及び(2)を含む補正事項によって限定して特定したものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定して特定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成22年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(4)当審の判断」において記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-30 
結審通知日 2011-07-05 
審決日 2011-07-20 
出願番号 特願2005-187058(P2005-187058)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 辻本 寛司  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 吉川 陽吾
森林 克郎
発明の名称 複数のプラスチックレンズから成る光学機器  
代理人 中村 守  

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