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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1242733
審判番号 不服2008-6325  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-13 
確定日 2011-09-02 
事件の表示 特願2001-343216「接着剤組成物、接着フィルム、半導体支持部材、半導体装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年5月21日出願公開、特開2003-147323〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成13年11月8日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成19年11月 7日付け 拒絶理由通知書
平成20年 1月15日 意見書・手続補正書
平成20年 2月 4日付け 拒絶査定
平成20年 3月13日 審判請求書
平成20年 6月 9日 手続補正書(方式)
平成23年 1月 5日付け 拒絶理由通知書
平成23年 3月14日 意見書・手続補正書

第2 本願発明
この出願の請求項1?9に係る発明は、平成23年3月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。

「熱硬化性樹脂と重量平均分子量1万以上の高分子化合物と、硬化剤と、イミダゾール系硬化促進剤とを含む接着剤組成物であって、該熱硬化性樹脂と該高分子化合物とのSP値の差の絶対値が0.3(cal/cm^(3))^(1/2)以上2(cal/cm^(3))^(1/2)以下であり、熱硬化性樹脂と高分子化合物が、ワニス状態では相溶し、ワニスの溶剤乾燥後あるいは熱硬化性樹脂の硬化後は相分離し、前記熱硬化性樹脂が、二官能エポキシ樹脂50?90重量%及び三官能以上の多官能エポキシ樹脂10?50重量%からなるエポキシ樹脂を含むことを特徴とする接着剤組成物。」

第3 当審で通知した拒絶理由
当審で通知した平成23年1月5日付けの拒絶の理由は、
「3.この出願の請求項1?9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
という理由を含むものであるところ、「刊行物1」とは、特開2001-220571号公報(原査定で引用された「引用文献1」と同じ。)である。

第4 当審の判断
1.刊行物の記載事項
刊行物1には、次の事項が記載されている。

(1-1)「【請求項1】Bステージ状態で相分離する2種類の樹脂A,Bの混合物を必須成分とする接着剤組成物であり、樹脂Aは未硬化状態での重量平均分子量が1万以下で、Bステージにおいて内部に分散相として不連続に分散し、樹脂Bは未硬化状態での重量平均分子量が10万以上で、Bステージにおいて連続相として連続的に存在し、Bステージ状態での分散相と連続相との体積比率が1:0.5?5であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】樹脂Aがエポキシ樹脂及び硬化剤であり、樹脂Bがアクリルゴムであることを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。」(特許請求の範囲)

(1-2)「なお本発明でいうBステージとは接着フィルムをDSCを用いて、硬化発熱量を測定した値が、未硬化状態での接着フィルムの硬化発熱量の10?40%である状態である。Cステージとは80%?100%である状態である。」(段落【0006】)

(1-3)「分散相を形成する成分としてはエポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、シアネート樹脂、アクリル共重合体などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。硬化後の耐熱性が良い点で特にエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は硬化して接着作用を呈するものであればよい。二官能基以上で平均分子量が5000未満が好ましく、平均分子量3000未満のエポキシ樹脂がより好ましい。二官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂などが例示される。」(段落【0007】)

(1-4)「エポキシ樹脂としては、高Tg(ガラス転移温度)化を目的に多官能エポキシ樹脂を加えてもよく、多官能エポキシ樹脂としてはフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが例示される。」(段落【0008】)

(1-5)「硬化剤とともに硬化促進剤を用いることが、硬化のための熱処理の時間を短縮できる点で好ましい。硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテートといった各種イミダゾール類等の塩基が使用できる。」(段落【0010】)

(1-6)「実施例1
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量210、平均分子量1200 東都化成株式会社製のYDCN-703を使用)60重量部、エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノールノボラック樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製のプライオーフェンLF2882を使用 平均分子量1000)40重量部、シランカップリング剤としてγ?グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー株式会社製のNUC A-187を使用)0.7重量部、グリシジルメタクリレート又はグリシジルアクリレート2?6重量%を含むアクリルゴム(平均分子量15万)150重量部、硬化促進剤として1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社製のキュアゾール2PZ-CNを使用)0.5重量部を添加し、攪拌モーターで30分混合し、ワニスを得た。ワニスを厚さ75μmの離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布し、140℃で5分間加熱乾燥して、膜厚が75μmのBステージ状態の塗膜を形成し、キャリアフィルムを備えた接着フィルムを作製した。なお、DSCを用いて硬化発熱量を測定した値は未硬化状態での接着フィルムの硬化発熱量の15%であった。

実施例2
重量平均分子量1万以下の成分としてアクリル重合体(ゲル パーミエーション クロマトグラフィーによる重量平均分子量2000、Tgは5℃、アクリロニトリル40モル%、グリシジルメタクリレート10モル%、エチルアクリレート50GMAゴムモル%を重合させたもの)、重量平均分子量3万以上の成分としてアクリルゴム(ゲル パーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量20万、Tgは-7℃、帝国化学産業株式会社製商品名HTR-860を使用)66重量部、硬化促進剤としてイミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業株式会社製キュアゾール2PZ-CNを使用)0.5重量部からなる組成物に、メチルエチルケトンを加えて撹拌混合し、真空脱気した。この接着剤ワニスを、厚さ75μmの離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、90℃20分間、さらに120℃で5分間加熱乾燥して膜厚が30μmの塗膜とした。接着剤フィルムを作製した。DSCを用いて測定した硬化度は5%であった。この接着剤フィルムを170℃で1時間加熱硬化させてその貯蔵弾性率を動的粘弾性測定装置(レオロジ社製、DVE-V4)を用いて測定(サンプルサイズ:長さ20mm、幅4mm、膜厚60μm、昇温速度5℃/分、引張りモード、10Hz、自動静荷重)した結果、25℃で600MPa、260℃で5MPaであった。

比較例1
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量210、東都化成株式会社製のYDCN-703を使用)60重量部の代わりに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量190、油化シェルエポキシ株式会社製のエピコート828を使用)60重量部を使用した他は実施例1と同様にフィルムを作製した。」(段落【0022】?【0024】)

(1-7)「フィルムの表面をSEMで観察したところ、実施例1及び実施例2は明確に海島の相分離が見られたのに対して、比較例1は相分離が見られなかった。また、動的粘弾性測定の結果などから、実施例1の島はエポキシ樹脂及びその硬化剤からなっており、その島の平均分子量は1200以下であった。実施例2のアクリル共重合体からなっており、その島の平均分子量は3000以下であった。また、島と海の面積比は3:1であった。得られた接着フィルムの両面に厚み50μmのポリイミドフィルムを、温度80℃、圧力0.3MPa、速度0.3m/分の条件でホットロールラミネーターを用いて貼りあわせた。」(段落【0025】)

(1-8)「タック性の評価:プローブタック方によるタック荷重を測定した。タック荷重が80gf以下をタック性良好、80gf超をタック性過剰とした。
流動性の評価:直径10mmの円形に切り抜いた接着フィルムをPETフィルムで挟んだものをサンプルとした。これを170℃、3分、1MPaの荷重をかけ、樹脂が侵みだした量を測定した。侵みだし量が0.3以上1.5mm以下を良好な範囲とした。侵みだし量が0.3未満を侵みだし不足、1.5mm超を侵みだし箇条とした。その後170℃で1時間硬化した。このサンプルについて、耐熱性、耐湿性を調べた。耐熱性の評価方法には、吸湿はんだ耐熱試験(85℃/相対湿度85%の環境下に48時間放置したサンプルを240℃のはんだ槽中に浮かべ、40秒未満で膨れが発生したものを×、40秒以上120秒未満で膨れが発生したものを○、120秒以上膨れが発生しなかったっものを◎とした。
【表1】(省略)
実施例1、実施例2は本発明の条件を満たしており、Bステージで相分離しているため、タック性が小さく、流動性が大きい。比較例1はBステージで相分離していないため、タック性が大きく、保護フィルムがはがれにくいなど、作業性が悪化した。」(段落【0026】?【0029】)

(1-9)「【発明の効果】以上説明したように、請求項1記載の接着剤組成物を用いることで、流動性が大きく、タック性が小さい接着部剤を製造することができる。この接着部剤はタック性が小さいため、加工がしやすい。また、流動性が高いため、ボイドなどが発生しにくく、信頼性が高い。また、請求項2記載の接着剤組成物から製造可能な接着部剤は、請求項1の発明の効果に加えてさらに耐熱性がよく、かつ接着性が高い点で優れる。よって、請求項3記載の接着フィルム及び、これを用いてなる請求項4記載の半導体搭載用基板は取り扱い性に優れて、接着後のボイドも発生しにくい。」(段落【0030】)

2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「Bステージ状態で相分離する2種類の樹脂A,Bの混合物を必須成分とする接着剤組成物であり、樹脂Aは未硬化状態での重量平均分子量が1万以下で、Bステージにおいて内部に分散相として不連続に分散し、樹脂Bは未硬化状態での重量平均分子量が10万以上で、Bステージにおいて連続相として連続的に存在し、Bステージ状態での分散相と連続相との体積比率が1:0.5?5であることを特徴とする接着剤組成物」(摘記(1-1)の請求項1)において、「樹脂Aがエポキシ樹脂及び硬化剤であり、樹脂Bがアクリルゴムである」接着剤組成物が記載されている(摘記(1-1)の請求項2)。
そうすると、刊行物1には、
「Bステージ状態で相分離する2種類の樹脂A,Bの混合物を必須成分とする接着剤組成物であり、樹脂Aは未硬化状態での重量平均分子量が1万以下のエポキシ樹脂及び硬化剤であって、Bステージにおいて内部に分散相として不連続に分散し、樹脂Bは未硬化状態での重量平均分子量が10万以上のアクリルゴムであって、Bステージにおいて連続相として連続的に存在し、Bステージ状態での分散相と連続相との体積比率が1:0.5?5であることを特徴とする接着剤組成物」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「未硬化状態での重量平均分子量が1万以下のエポキシ樹脂」、「未硬化状態での重量平均分子量が10万以上のアクリルゴム」、「硬化剤」は、それぞれ本願発明の「熱硬化性樹脂」、「重量平均分子量1万以上の高分子化合物」、「硬化剤」に相当する。
そうすると、引用発明の「2種類の樹脂A,Bの混合物を必須成分とする接着剤組成物であり、樹脂Aは未硬化状態での重量平均分子量が1万以下のエポキシ樹脂及び硬化剤であって、…樹脂Bは未硬化状態での重量平均分子量が10万以上のアクリルゴムであって、…接着剤組成物」は、本願発明の「熱硬化性樹脂と重量平均分子量1万以上の高分子化合物と、硬化剤とを含む接着剤組成物」に相当する。

また、引用発明における「Bステージ状態」とは、「接着フィルムをDSCを用いて、硬化発熱量を測定した値が、未硬化状態での接着フィルムの硬化発熱量の10?40%である状態」であって(摘記(1-2))、具体的には、ワニスを「140℃で5分間加熱乾燥して、膜厚が75μmのBステージ状態の塗膜を形成」したと記載されているから(摘記(1-6)の実施例1)、引用発明における「Bステージ状態」は、本願発明における「ワニスの溶剤乾燥後あるいは熱硬化性樹脂の硬化後」に相当する。
そうすると、引用発明の「Bステージ状態で相分離する」ことは、本願発明の「ワニスの溶剤乾燥後あるいは熱硬化性樹脂の硬化後は相分離」することに相当する。
さらに、引用発明は、「Bステージ状態で相分離する」ものであるから、Bステージ状態になる前、すなわち、「ワニス状態」では相分離しておらず、相溶しているものといえるから、本願発明と同様に「熱硬化性樹脂と高分子化合物が、ワニス状態では相溶し」ているものである。

そして、引用発明は、「未硬化状態での重量平均分子量が1万以下のエポキシ樹脂及び硬化剤」が、「Bステージにおいて内部に分散相として不連続に分散」し、「未硬化状態での重量平均分子量が10万以上のアクリルゴム」が、「Bステージにおいて連続相として連続的に存在」しているものであるところ、本願発明も、その具体例である実施例1において、エポキシ樹脂が分散相、アクリルゴムが連続相を形成しているから、「未硬化状態での重量平均分子量が1万以下のエポキシ樹脂及び硬化剤」が、「Bステージにおいて内部に分散相として不連続に分散」し、「未硬化状態での重量平均分子量が10万以上のアクリルゴム」が、「Bステージにおいて連続相として連続的に存在」しているものといえ、この点において、本願発明と引用発明に差異はない。
さらに、引用発明は、「Bステージ状態での分散相と連続相との体積比率が1:0.5?5である」ものであるところ、本願発明は、「Bステージ状態での分散相と連続相との体積比率」が特定の範囲に限定されるものでもなく、「Bステージ状態での分散相と連続相との体積比率が1:0.5?5である」ものも包含するといえるから、この点において本願発明と引用発明に差異はない。

以上によれば、本願発明と引用発明は、
「熱硬化性樹脂と重量平均分子量1万以上の高分子化合物と、硬化剤とを含む接着剤組成物であって、熱硬化性樹脂と高分子化合物が、ワニス状態では相溶し、ワニスの溶剤乾燥後あるいは熱硬化性樹脂の硬化後は相分離することを特徴とする接着剤組成物」
の点で一致し、次の点(以下「相違点1」?「相違点3」という。)で相違する。

(1)相違点1
本願発明は、「イミダゾール系硬化促進剤」を含むものであるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか明らかでない点

(2)相違点2
熱硬化性樹脂が、本願発明は、「二官能エポキシ樹脂50?90重量%及び三官能以上の多官能エポキシ樹脂10?50重量%からなるエポキシ樹脂を含む」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか明らかでない点

(3)相違点3
本願発明は、「該熱硬化性樹脂と該高分子化合物とのSP値の差の絶対値が0.3(cal/cm^(3))^(1/2)以上2(cal/cm^(3))^(1/2)以下」であるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか明らかでない点

4.相違点についての判断
(1)相違点1について
刊行物1には、「硬化剤とともに硬化促進剤を用いることが、硬化のための熱処理の時間を短縮できる点で好まし」く、硬化促進剤としては「イミダゾール類」が使用できることが記載されている(摘記(1-5))。
また、刊行物1記載の実施例1は、「硬化促進剤として1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール」、すなわち、「イミダゾール系硬化促進剤」を含むものであり、実施例2も「イミダゾール系硬化促進剤」を含むものである(摘記(1-6)の実施例1、2)。
そうすると、引用発明の接着剤組成物も「イミダゾール系硬化促進剤」を含むものであり、この点において、本願発明と引用発明に差異はない。

(2)相違点2について
刊行物1には、エポキシ樹脂として、「二官能エポキシ樹脂」が例示され(摘記(1-3))、「高Tg(ガラス転移温度)化を目的に多官能エポキシ樹脂を加えても」よいことが記載されている(摘記(1-4))。
そして、上記「多官能エポキシ樹脂」としては、「フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂」、すなわち、「三官能以上の多官能エポキシ樹脂」が例示されている(摘記(1-4))。
そうすると、引用発明におけるエポキシ樹脂として、「二官能エポキシ樹脂」に高Tg化を目的として「三官能以上の多官能エポキシ樹脂」を加えること、その際、高Tg化に必要十分な量の配合量を検討し、「二官能エポキシ樹脂50?90重量%及び三官能以上の多官能エポキシ樹脂10?50重量%からなるエポキシ樹脂を含む」ものとすることは、当業者が容易に行うことである。

(3)相違点3について
上記3.で述べたように、引用発明は、本願発明と同様に、「熱硬化性樹脂と高分子化合物が、ワニス状態では相溶し、ワニスの溶剤乾燥後あるいは熱硬化性樹脂の硬化後は相分離する」ものであるところ、熱硬化性樹脂と高分子化合物の相溶性を示すパラメータであるSP値の差の絶対値がゼロであると、互いに相溶して相分離することができないから、引用発明における「熱硬化性樹脂と該高分子化合物とのSP値の差の絶対値」は、当然に、ゼロよりも大きく、相分離が可能な程度の値を有するものといえる。
一方、この絶対値が大きくなりすぎると、溶剤が存在するワニス状態においてさえも、互いに相溶して存在することができなくなるといえる。
そうすると、これらの条件を勘案し、溶剤が存在するワニス状態においては相溶し、溶剤が乾燥した後は相分離できる程度の「熱硬化性樹脂と該高分子化合物とのSP値の差の絶対値」を決定すること、すなわち、「熱硬化性樹脂と該高分子化合物とのSP値の差の絶対値が0.3(cal/cm^(3))^(1/2)以上2(cal/cm^(3))^(1/2)以下」程度のものとすることは、当業者が容易に行うことである。

5.効果について
この出願の発明の詳細な説明の段落【0054】には、「本発明によれば、接着剤ワニスの安定性を向上させ、かつ硬化時には、相分離するため、耐熱性、接着性に優れる接着剤組成物を提供する。また、本発明の接着フィルムは保存安定性とに硬化性に優れ、また耐熱性、耐湿性が良好である。これらの効果により、優れた信頼性を発現する半導体装置に必要な接着材料を効率良く提供することができる。」と記載され、さらに、比較例1として、「溶剤を乾燥した状態での熱硬化性樹脂相と高分子化合物とのSP値の差の絶対値」が0.2と小さい例は相分離が観察されず、相分離が観察された実施例1、2は、比較例1よりも優れた効果を奏することが記載されている。

一方、刊行物1には、引用発明は、「耐熱性がよく、かつ接着性が高い」ことが記載され(摘記(1-9))、吸湿はんだ耐熱試験に優れていることが確認されているから耐湿性も良好であるといえる(摘記(1-8))。
さらに、相分離が観察されない比較例1よりも、相分離する実施例1の方が優れた効果を奏することも確認されている(摘記(1-6)、(1-7))。
したがって、上記本願発明の効果は、刊行物1の記載から予測し得る程度のものである。

6.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.請求人の主張について
請求人は、平成23年3月14日の意見書の2.(5)の(刊行物1に記載の発明と本願請求項1、2に係る発明とについて)において次の主張をしている。

(1)例えば刊行物1の比較例1で使用したビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート828、分子量370)は、刊行物1の樹脂Aの必須要件「未硬化状態での重量平均分子量が1万以下」及び「平均分子量3000未満のエポキシ樹脂がより好ましい」点をも満たし、[0007]に例示もされています。しかし、この比較例1のフィルムは刊行物1で規定する「Bステージで相分離」をしていません。すなわち、刊行物1からは、そもそも「Bステージで相分離する」組成物を調製するための具体的な解決手段が不明と言えるかもしれません。
これに対して、本願請求項1、2に係る発明は、樹脂の種類や組成を特定することにより、溶剤乾燥後(Bステージ)又は硬化後に相分離できるようにし、かつ指標としてSP値を採用したものです。このような構成は、刊行物1に記載された発明から容易に想到できません。さらに、「相分離できる程度の」本願請求項1、2のようなSP値の絶対値の範囲を決定することも、容易に行えることではありません。

(2)本願発明の効果については、刊行物1の実施例の耐湿性は、耐熱性と共に「85℃、湿度85%で48時間放置後、240℃のはんだ槽に浮かべて膨れ発生」を観察しています。一方、本願発明における耐湿性は、PCT(121℃、湿度100%、2気圧)72時間後の剥離です。また、耐熱性は(1)「240℃・20秒間のIRリフロー炉にサンプルを通し、室温で放冷」を2回繰り返した耐リフロークラック性、及び(2)「-55℃・30分+125℃・30分」を1000サイクル後の破壊です。よって、本願発明の評価は、刊行物1の評価と性質が異なる上、長時間高圧の高湿度での耐湿性、高温・低温長時間の耐熱性ですので、刊行物1が本願と同等に「耐湿性、耐熱性が良好」である、と判断するのは困難であります。
また、刊行物1には本願発明における条件での耐湿性や、耐熱性に優れることの技術的示唆もありません。さらに刊行物1には、溶剤乾燥後の状態のフィルムが保存性、硬化性に優れる記載も示唆もありません。
以上から、請求項1に係る発明の効果が、刊行物1の記載から予測し得る程度のものであるとはいえません。

そこで、上記主張について検討する。
(1)請求人は、刊行物1の記載からは、溶剤乾燥後又は硬化後に相分離するための具体的な解決手段が不明であるのに対して、本願発明は、樹脂の種類や組成を特定し、かつ指標としてSP値を採用したものであること、さらに、「相分離できる程度の」SP値の差の絶対値の範囲を決定することも、容易に行えることではないと主張している。
しかしながら、刊行物1には、本願発明の樹脂の種類である「二官能エポキシ樹脂」と「三官能以上の多官能エポキシ樹脂」について記載されており、さらに、その組成を「二官能エポキシ樹脂50?90重量%及び三官能以上の多官能エポキシ樹脂10?50重量%からなるエポキシ樹脂を含む」ものとすることは、当業者が容易に行うことであることは、上記4.(2)で述べたとおりである。
そして、指標としてSP値を採用し、その差の絶対値を決定することは、当業者が容易に行うことであることは、上記4.(3)で述べたとおりである。

(2)さらに、請求人は、刊行物1の実施例で行われている耐湿性、耐熱性の試験よりも、本願発明の実施例の方が、長時間高圧高湿度での耐湿性と、高温・低温長時間の耐熱性を確認しているから、本願発明は、刊行物1の記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するものであると主張している。
しかしながら、実際に行われた試験の種類が相違していても、上記5.で述べたとおり、刊行物1には、引用発明の接着剤組成物が耐熱性、耐湿性に優れたものであることが記載されているのであるから、本願発明が、耐熱性、耐湿性に優れたものであることは、刊行物1の記載から予測できるものといえる。
そして、耐熱性、耐湿性の程度についてみても、本願発明の耐熱性、耐湿性が、刊行物1の記載からは予測し得ない程に顕著に優れているともいえない。

したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-30 
結審通知日 2011-07-05 
審決日 2011-07-19 
出願番号 特願2001-343216(P2001-343216)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中西 聡  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
井上 千弥子
発明の名称 接着剤組成物、接着フィルム、半導体支持部材、半導体装置およびその製造方法  
代理人 三好 秀和  

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