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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1242796
審判番号 不服2010-7078  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-05 
確定日 2011-09-08 
事件の表示 特願2004-308006「太陽電池及び太陽電池の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月16日出願公開、特開2005-159320〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年10月22日(優先権主張平成15年10月27日)の出願であって、平成18年10月31日付けの拒絶理由の通知に応答して平成19年1月4日に手続補正がされるとともに意見書が提出され、平成20年11月11日付けの拒絶理由の通知に応答して平成21年1月19日に意見書が提出されたが、同年12月28日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成22年4月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、これと同時に手続補正がされ、当審による平成23年4月15日付けの拒絶理由の通知に応答して平成23年6月20日に手続補正がされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項10に係る発明は、平成23年6月20日に補正された本願の請求項10に記載された次のとおりのものと認める。
「絶縁性基板上に、第1透明電極と、pin構造またはnip構造の多結晶シリコン層と、第2透明電極とが少なくとも順次積層されてなる太陽電池であり、
前記多結晶シリコン層は、p型シリコン層またはn型シリコン層と、i型シリコン層と、n型シリコン層またはp型シリコン層とが順次積層されてなり、該i型シリコン層の前記絶縁性基板側にあるp型シリコン層またはn型シリコン層が、前記i型シリコン層を積層する前に熱処理装置に移され、不活性ガス雰囲気で熱処理されてなることを特徴とする太陽電池。」(以下「本願発明」という。)

第3 引用発明の認定
当審による拒絶理由の通知で引用した特開平7-115215号公報(以下「引用例」という。)には、以下の記載(1)ないし(7)が、図とともにある。
(1) 「【請求項1】 基板上に酸化亜鉛薄膜層、非単結晶シリコン系半導体材料からなるpin層(p層、i層、n層)を積層してなる光起電力素子において、該酸化亜鉛薄膜層がc軸配向性を有する結晶性であり、表面に0.1?1.0μmの凹凸を有し、且つ該酸化亜鉛薄膜層はフッ素を含有し、該含有量が層厚方向に変化し、基板との界面で最小、pin層に向かって徐々に多くなっていることを特徴とする光起電力素子。」

(2) 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は非単結晶シリコン系半導体材料からなるpin層を有する光起電力素子において、基板とpin層との間に酸化亜鉛薄膜層があるものに関する。該光起電力素子は太陽電池、フォトダイオード、電子写真感光体、発光素子等に利用されるものである。」

(3) 「【0033】以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。図1は本発明概念を説明するための光起電力素子の模式的説明図である。図1において、本発明の光起電力素子は基板101、表面に凹凸を有し、且つc軸配向性を有するZnO薄膜層102、非単結晶シリコン系半導体材料からなるpin層103、透明電極104、集電電極105等から構成される。」

(4) 「【0034】図1の光起電力素子では通常、透明電極104側から光を照射して用いるが、基板101の裏面側から光を照射して用いてもよい。その場合、基板101は光を透過する材料からなり、また透明電極104の代わりに金属材料からなる光反射層をpin層上に形成してもよい。」

(5) 「【0039】またZnO薄膜中で微量のフッ素は価電子制御剤として働くため、膜の導電率を向上させることができ、しかもZnO薄膜の光の透過率を損なうことがない。すなわち透明電極104側から光を照射する場合にはpin層で吸収しきれなかった光を効率よく透過することができ、短絡電流を向上させることができる。また基板101の裏側から光を照射する場合には効率よく光をpin層に導くものである。」

(6) 「【0045】本発明の光起電力素子ではp層またはn層、及びi層はRFプラズマCVD法(RFPCVD法)またはマイクロ波プラズマCVD法(MWPCVD法)を用いて形成するのが望ましい。(途中省略)さらにMWPCVD法で形成すると良質な微結晶シリコン系半導体材料、またはバンドギャップの広い良質な非晶質シリコン系半導体材料を比較的容易に形成することができ、ドーピング層の形成方法として有効である。またi層はp層、n層に比べて層厚が厚く、特に有効である。」

(7) 「【0085】基板
基板は導電性材料、絶縁性材料の単体で構成されたものでもよく、または導電性材料、絶縁性材料からなる支持体上に薄膜層を形成したものであってもよい。」

上記(2)より、上記(1)における光起電力素子は、太陽電池等に利用されるものである。

上記(3)及び(4)が参照する引用例の図1からは、基板101上に、ZnO薄膜層102と、pin層103と、透明電極104とが順次積層されていることが看取できる。

上記(4)には、「基板101の裏面側から光を照射して用いてもよい。」とあるが、これは、上記(5)における「基板101の裏側から光を照射する場合」である。この場合、上記(5)より、基板101の裏側から照射される光は、ZnO薄膜を透過してpin層に導かれる。

上記(6)より、p層、n層、及びi層は、微結晶シリコン系半導体材料として形成されてもよい。

上記(7)より、基板は絶縁性材料で構成されたものでもよい。

してみると、引用例には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「絶縁性材料で構成された基板上に、酸化亜鉛薄膜層と、微結晶シリコン系半導体材料からなるpin層(p層、i層、n層)と、透明電極とを、順次積層してなる光起電力素子であって、
前記基板の裏面側から照射した光が、前記酸化亜鉛薄膜層を透過してpin層に導かれる、
太陽電池等に利用される光起電力素子。」(以下「引用発明」という。)

第4 対比
引用発明と本願発明とを対比する。
引用発明の「絶縁性材料で構成された基板」、「微結晶シリコン系半導体材料からなるpin層(p層、i層、n層)」、「透明電極」及び「太陽電池等に利用される光起電力素子」は、それぞれ、本願発明の「絶縁性基板」、「pin構造またはnip構造の多結晶シリコン層」、「第2透明電極」及び「太陽電池」に相当する。

引用発明の「酸化亜鉛薄膜層」は、「絶縁性基板」の上にあり、かつ光を透過するのであるから、本願発明の「第1透明電極」に相当する。

引用発明の「pin層」を構成する「p層」、「i層」及び「n層」は、それぞれ、本願発明の「p型シリコン層」、「i型シリコン層」及び「n型シリコン層」に相当する。

してみれば、本願発明と引用発明とは、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点>で相違する。
<一致点>
「絶縁性基板上に、第1透明電極と、pin構造またはnip構造の多結晶シリコン層と、第2透明電極とが少なくとも順次積層されてなる太陽電池であり、
前記多結晶シリコン層は、p型シリコン層またはn型シリコン層と、i型シリコン層と、n型シリコン層またはp型シリコン層とが順次積層されてなる、太陽電池。」

<相違点>
本願発明は「i型シリコン層の絶縁性基板側にあるp型シリコン層またはn型シリコン層が、前記i型シリコン層を積層する前に熱処理装置に移され、不活性ガス雰囲気で熱処理されてなる」と特定されるのに対して、引用発明は該特定を有しない点。

第5 判断
<相違点>について検討する。
(1) 太陽電池を製造する際に、ドーパント活性化のため、i型シリコン層を積層する前のp型シリコン層またはn型シリコン層に熱処理を行うことは周知技術である。例えば、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-68709号公報及び特開2003-69059号公報の以下の記載を参照されたい。

特開2001-68709号公報
「【0016】次に、前記裏電極2b上に、1×10^(19)atoms/cm^(3) 程度の高濃度にドープされたp型の非単結晶Si下地層3を形成する。具体的には、プラズマCVD法、スパッタリング法などの薄膜形成技術で膜厚2μm以下で形成する。この後、結晶化促進およびドーパント活性化率向上をはかるために、600℃程度の熱処理を行ってもよい。この場合、前記TiN膜2bが高耐熱性の拡散バリアとして機能するために、600℃程度の比較的高温プロセスであっても、裏電極金属膜2bとSi下地層3との反応を防止することができる。
【0017】次に、前記非単結晶Si層3上にこれと同一導電型(すなわちp型)もしくはi型のSi光活性層4となる多結晶あるいは微結晶Si層を、CVD法などで厚さ1μm?30μm程度に形成する。」

特開2003-69059号公報
「【0031】次に、1E19/cm^(3)程度の高濃度にドープされたp型あるいはn型の非晶質、多結晶もしくは微結晶を含む非単結晶Si下地層3を前記裏面電極2上に形成する。具体的には、プラズマCVD法、スパッタリング法等の薄膜形成技術で膜厚0.1μm以下に形成する。この後、結晶化促進およびドーパント活性化率向上を図るために熱処理を行ってもよい。
【0032】次に、前記非単結晶Si層3上にこれと同一導電型もしくはi型の結晶質Si層4になる多結晶あるいは微結晶Si層を、CVD法等で厚さ1μm?10μm程度に形成する。」

太陽電池の製造方法において、ドーパントを活性化することは一般的に望ましいことであるから、引用発明において、i型シリコン層を積層する前のp型シリコン層またはn型シリコン層の積層に続けてドーパントを活性化すべく熱処理を行うことは、上記周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(2) 太陽電池の製造過程で熱処理を行う場合に、半導体層を成膜する成膜室とは別の熱処理装置にて行うことは一般的になされていることである。
例えば、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-236105号公報の図1には、成膜室280と加熱処理室282を備えた製造装置が記載され、同じく特開2003-273135号公報には、成膜室3と熱処理室5を備えた製造装置が記載されている。
また、熱処理装置内に反応を生じやすいなんらかの気体が存在すると、その気体が熱処理する対象物と望ましくない反応を生じることが予想されるから、この反応を防ぐべく、熱処理装置内に不活性ガスを導入し、不活性ガス雰囲気で熱処理することは、当業者が適宜採用し得ることである。例えば、引用例には以下の記載がある。
「【0051】本発明の光起電力素子の作製は以下のように行われるものである。まず図2の堆積室201内に設置されたヒーター205に基板204を密着させ、堆積室内を1×10^(-5)Torr以下に十分に排気する。この排気にはターボ分子ポンプまたは油拡散ポンプまたはクライオポンプが適している。その後、Ar等の不活性ガスを堆積室内に導入し、ヒーターのスイッチを入れ、基板を加熱する。」
以上のことから、引用発明において、周知技術に基づいて、i型シリコン層を積層する前のp型シリコン層またはn型シリコン層の積層に続けてドーパントを活性化すべく熱処理を行う際に、熱処理装置に移し、不活性ガス雰囲気で熱処理することは、当業者が適宜なし得ることである。

(3) まとめ
上記(1)及び(2)より、引用発明において、本願発明の相違点に係る構成を備えることは、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
また、該構成を備えることによる効果は、当業者が予想し得る程度のものである。

第6 むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-06 
結審通知日 2011-07-12 
審決日 2011-07-25 
出願番号 特願2004-308006(P2004-308006)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 幸浩瀬川 勝久柏崎 康司  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 松川 直樹
稲積 義登
発明の名称 太陽電池及び太陽電池の製造方法  
代理人 藤田 考晴  
代理人 上田 邦生  

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