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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23Q
管理番号 1243039
審判番号 不服2010-10931  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-21 
確定日 2011-09-05 
事件の表示 特願2000-153097「クランプ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月27日出願公開、特開2001-328042〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本件発明
本件出願は平成12年5月24日の出願であって、同22年2月18日付で拒絶査定されたものであり、これを不服として同22年5月21日に本件審判が請求されたものである。その後、当審による平成22年10月27日付審尋に対して同22年12月24日に回答書が提出され、また、同23年3月24日付拒絶理由通知に対して同23年5月20日に意見書と手続補正書が提出されている。

本件出願の請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、平成23年5月20日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1には次のとおり記載されている。
「二つのクランプ部材の相対的な接近運動により、両部材間に配置された薄板状で表面に凹凸を有するワークをクランプし、かつ形状の異なるワークが流れるラインに設置されるクランプ装置において、一方のクランプ部材に、ワークとの当接により弾性変形する変形部を設け、該変形部が、ワークの周縁部に沿って複数の舌部を有するものであり、各舌部が、一方のクランプ部材にスリットを形成することで、ワークとの対向領域外からワーク周縁部との対向領域にかけて延びるように形成されたものであり、各舌部が全て弾性変形可能で、かつ先端面と、先端面から基端方向に延び、前記相対的な接近運動方向に離反する二つの面とを有し、各舌部の前記二つの面のうち、一方をクランプ時にワークの前記表面と接触するクランプ面にしていることを特徴とするクランプ装置。」(以下、「本件発明」という。)

2.当審の拒絶理由の概要
当審が平成23年3月24日付で通知した拒絶理由の概要は、本件発明が、本件出願の出願日前に頒布された刊行物である特開平6-226577号公報(以下、「刊行物」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.刊行物記載の発明
刊行物には、以下の記載が認められる。
a.(明細書段落12?16)
「【0012】
【実施例】以下、この発明に係るワーククランプ装置を一実施例について具体的に説明する。図1は要部の一部縦断側面図、図2は同じく正面図であり、図中の従来装置と同一ないし均等の部分については前記と同一の符号をもって示し、重複した説明は省略する。すなわち、20は油圧シリンダ14におけるピストンロッド14aの先端に軸支して取りつけた押圧板 21は押圧板20の下面部に取りつけた平やすり状の当接体で、当接面aを押圧板20の下面より低く設定する。
【0013】次に23は、テーブル2の後端の段部25に取付ねじ24、24によって固定した口金状の当接体 この当接体23は、上記の当接体21と同様に平やすり状に構成し、当接面bをテーブル2面より僅かに突出する。上記の当接面a、bは周知の突起状、突条状に形成するもので、凹凸量は実施例において0.5mm程度に設定する。
【0014】一実施例に係るワーククランプ装置の構成は上記の通りであり、図1のようにワークWをクランプしたとき、油圧シリンダ14の押圧力がワークWの先端の切削部近くに集中して作用する。このため、当接面a、bがワークWに食い込んで係止し、強固なクランプが行われる。よって大きな摩擦係止力が発揮され、切削時の振動で横ズレを生ずることがない。
【0015】またワークWの表面(上面、下面)に例えば反り、凹凸などがあっても、確実に係合し、押圧することができる。よって確実なクランプを行うことができ、高い切削精度を保証することができる。なお図3の実施例は、下部の当接体26を櫛状に構成し、各小片cに弾性を持たせることで、上記のワークWの反り等にうまく対応させたものである。なお上記の小片cは、分割して構成しても良い。
【0016】上記の一実施例では、当接体をテーブル2と押圧板20の両方に備えたが、何れか一方であってもそれなりに効力を発揮する。上記の当接面a、bは要するに多数の接触点をもつ点接触、または線接触によりワークWに当接するものであれば良い。また、ワークWに食い込むことにより、大きな摩擦係止力を得るものであるから、耐久性の点から硬質材で製作する必要がある。」
b.(図2)
二つの当接体21,23の相対的な接近運動により、両当接体間に配置された板状のワークWをクランプすることが理解可能に示されていると認める。
c.(図3)
当接体26にスリットを形成することによって、各小片cが櫛状に構成されており、各小片cがワークの周縁部に沿って位置すること及び、各小片cが弾性変形可能で、先端面と、先端面から基端方向に延び、当接体がワークに対して相対的な接近運動方向に離反する二つの面とを有し、各小片cの前記二つの面のうち、一方をクランプ時にワークの表面と接触するクランプ面にしていること、が理解可能に示されていると認める。

摘記事項a、段落15の記載から、各小片cがワークWとの当接により弾性変形してワークの反り等に対応する変形部を構成することは当業者が容易に理解し得るものであるから、上記を本件発明の記載に沿って整理すると、刊行物には次の発明が記載されていると認められる。
「二つの当接体の相対的な接近運動により、両当接体間に配置された板状で表面に反り等を有するワークをクランプするワーククランプ装置において、一方の当接体に、ワークとの当接により弾性変形する変形部を設け、該変形部が、ワークの周縁部に沿って複数の小片を有するものであり、各小片が、一方の当接体にスリットを形成することにより構成され、ワークとの対向領域内からワーク周縁部との対向領域にかけて延びるように形成されたものであり、各小片が全て弾性変形可能で、かつ先端面と、先端面から基端方向に延び、前記相対的な接近運動方向に離反する二つの面とを有し、各小片の前記二つの面のうち、一方をクランプ時にワークの前記表面と接触するクランプ面にしているワーククランプ装置。」(以下、「刊行物記載の発明」という。)

4.対比
本件発明と刊行物記載の発明とを対比すると、後者の「当接体」、「小片」及び「ワーククランプ装置」が前者の「クランプ部材」、「舌部」及び「クランプ装置」にそれぞれ相当することは明白である。したがって、両者は次の点で一致及び相違すると認められる。
<一致点>
「二つのクランプ部材の相対的な接近運動により、両部材間に配置された板状のワークをクランプするクランプ装置において、一方のクランプ部材に、ワークとの当接により弾性変形する変形部を設け、該変形部が、ワークの周縁部に沿って複数の舌部を有するものであり、各舌部が、一方のクランプ部材にスリットを形成することにより形成され、各舌部が全て弾性変形可能で、かつ先端面と、先端面から基端方向に延び、前記相対的な接近運動方向に離反する二つの面とを有し、各舌部の前記二つの面のうち、一方をクランプ時にワークの前記表面と接触するクランプ面にしているクランプ装置」である点。
<相違点1>
ワークが、前者では薄板状で表面に凹凸を有するワークであるのに対し、後者では板状で表面に反り等を有するワークである点。
<相違点2>
クランプ装置が、前者では形状の異なるワークが流れるラインに設置されるのに対し、後者ではこのような特定がない点。
<相違点3>
舌部が、前者ではワークとの対向領域外からワーク周縁部との対向領域にかけて延びるように形成されたものであるのに対し、後者ではワークとの対向領域内からワーク周縁部との対向領域にかけて延びるように形成されたものである点。

5.当審の判断
以下、上記各相違点について検討する。

5.1 相違点1について
本件発明も、刊行物記載の発明も、ワークが板状であり、その表面が凹凸または反り等によって不均一な高さにあるものである限りにおいて、共通する。
本件発明と刊行物記載の発明との間に、板状のワークの厚さの違いに起因する構成の違いも、ワークの表面の不均一な高さの原因によって生じる構成の違いも、何ら認められないため、相違点1に係るワークの違いは、単なるクランプ対象物の限定にすぎないものである。

5.2 相違点2について
刊行物記載の発明も、クランプ装置は反り等によって表面の高さに不均一があるワークをクランプするものであり、ワークの反り等はワークごとに異なることが通常である。
そうしてみると、刊行物記載の発明も、ワークごとに形状が異なるものをクランプするものということができるから、相違点2は実質的な相違ではない。

5.3 相違点3について
刊行物記載の発明では、板状のワークの開先を加工する回転カッターがワークの周縁部に接近することを可能とする目的で、ワークの対向領域外の周囲を解放するため、舌部がワークとの対向領域内からワーク周縁部との対向領域にかけて延びるように形成されていることは、当業者であれば容易に理解し得るものである。そうしてみると、ワークの開先以外の部分を加工する場合は、同様に加工工具の接近を可能とする目的で、ワークの対向領域外の周囲の代わりにワークの対向領域を開放するため、舌部をワークとの対向領域外からワーク周縁部との対向領域にかけて延びるように形成することは、例えば当審の審尋に引用した特開平5-293774号公報のアーム13に見られるように、クランプ装置の舌部をワークとの対向領域外からワーク周縁部との対向領域にかけて延びるように形成することは、ワークの保持技術分野では従来より周知の技術であることも勘案すると、当業者が容易に想到し得るものである。

5.4 本件発明の作用効果について
本件発明には、刊行物記載の発明及び従来周知の技術に基づいて普通に予測される域を超える格別の作用効果を見出すこともできない。
したがって、本件発明は、刊行物記載の発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は平成23年5月20日付意見書において、刊行物記載の発明について、
a.「刊行物1記載発明が点接触もしくは線接触によるクランプ力の強化を目的とするのに対し、本願発明はクランプ力を極力分散・均一化しようとするものであり、両者の発明の目的は相反する関係にあります。」、
b.「当接面bをテーブル2面より僅かに突出させる以上、クランプ時には添付参考図3に示すように、当接体26の小片cはワークWに対して非接触となるはずです。そうであれば、小片cの存在意義が理解できません。なぜ「ワークWの反り等にうまく対応できる」のか、「うまく対応できる」とは何を意味するのか、が判然とせず、小片cを設けることによる作用効果は不明確であると考えます。」、
c.「刊行物1の構成であれば、添付参考図2に示すように、小片cよりも基端側の剛体部分がワークと干渉するため、凹凸を有するワークをクランプした際にはクランプが安定せず、クランプ力の均等化という本願発明の作用効果(段落0007)を得ることはできません。」、
と主張しているので、ここで検討しておく。
まず、主張aについて検討すると、刊行物記載の発明の目的がクランプ面において点接触もしくは線接触させることによるクランプ力強化にあるとしても、刊行物記載の発明で図3に示すようなクランプ部材を採用した場合、ワークに当接するクランプ面においてそれぞれ点接触もしくは線接触する複数の舌部の間でクランプ力が分散されることは、当業者であれば容易に理解し得るものであり、本件発明と刊行物記載の発明の目的が相反することはない。
次に主張bについて検討すると、刊行物記載の発明においてワークの開先を加工する場合、ワークのびびり振動を抑制するためにはクランプ位置が回転カッターの切削位置に極力近いことが望ましいことは当業者間の常識であり、意見書の添付参考図3のようなクランプの態様はこの常識に反するものである。したがって、刊行物に明記はされていないが、クランプ部材の当接面がテーブル面より突出している場合でも、クランプ部材の舌部がワークの表面に当接するように、何らかの手段が講じられていると考えることが普通であり、舌部(小片c)の存在意義に疑問はない。
主張cについては、主張bの検討で述べたとおり、クランプ部材の舌部がワークの表面に当接するような手段が講じられていると考えることが普通であり、また、5.3において相違点3について述べたとおり、加工態様に応じてクランプ部材の舌部をワークとの対向領域外からワーク周縁部との対向領域にかけて延びるように形成することは、当業者にとって容易であるため、理由がない。

6.むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は刊行物記載の発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるため、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件出願は拒絶するべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
.
 
審理終結日 2011-07-11 
結審通知日 2011-07-12 
審決日 2011-07-25 
出願番号 特願2000-153097(P2000-153097)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 真  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
豊原 邦雄
発明の名称 クランプ装置  
代理人 熊野 剛  
代理人 田中 秀佳  
代理人 城村 邦彦  

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