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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B32B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1243446
審判番号 無効2010-800069  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-04-16 
確定日 2011-08-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3904262号発明「積層体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3904262号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3904262号の請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨・手続の経緯

1.本件特許
本件特許第3904262号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、特願平8-191651号として、優先日を平成7年11月6日とする優先権主張を伴って平成8年7月3日になされ、平成19年1月19日に特許権の設定登録がなされたものである。

2.本件請求の趣旨及びその理由の概要
審判請求人(以下「請求人」という。)は、本件特許第3904262号の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明についての特許が、概略、下記(1)又は(2)の理由により特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とする、との審決を求め、下記証拠方法を提示した。
(1)請求項1又は2に記載された各発明は、いずれも、甲第1号証又は甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
(2)請求項1ないし3に記載された発明は、いずれも、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであり、請求項1ないし3に記載された発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

請求人提示の証拠方法:
<請求時>
(書証)
甲第1号証:「チバ スペシャルティケミカルズ社(現ビーエーエスエフ エスイー)が販売する低揮発性紫外線吸収剤「TINUVIN1577FF」(以下、「チヌビン1577」という。)に関する技術情報を記載したパンフレット」なる全15頁の英文書面(全訳添付)(ただし、右肩部に「4.05.95」なる記載があるもの)
甲第2号証の1ないし20:「日本チバガイギー株式会社(現BASFジャパン株式会社)の添加剤事業部」の「担当 香川」が作成した20名の名あて人に対する送付状「書類・サンプル等送付御案内(副)」又は「書類・サンプル等送付御案内(控)」
甲第3号証:特開平7-223298号公報
甲第4号証:英国特許出願公開明細書第2290745号(全訳添付)
甲第5号証:「添付書類」として「資料1」ないし「資料4」が添付された「旭化成特許の無効審査の件」と題されたチバ・ジャパン株式会社香川 正が作成した書面
甲第6号証の1及び2:本件特許に係る出願の審査過程における拒絶理由通知書及び意見書
甲第7号証:特開平5-93089号公報
甲第8号証:本件特許に係る出願の優先権主張の基礎出願の願書に最初に添付した明細書
甲第9号証:特開平2-175246号公報
(人証)
BASFジャパン株式会社勤務の香川 正の証人尋問申請
<弁駁時>
甲第10号証:特公昭47-19119号公報
甲第11号証:「Plastics additives」第3版、1990年発行、第251頁(弁駁書内抄訳添付)
甲第12号証の1ないし5:特開平9-85903号公報(特願平7-268038号)及びこの出願の審査過程における拒絶理由通知書、意見書及び拒絶査定書
甲第13号証:特開昭57-191053号公報
甲第14号証:インターネットにおける「添加剤ドットコム」なるホームページの掲載情報の写し(URL:http://www.tenkazai.com/ciba/syousai_taikou.html)
甲第15号証:株式会社パーキンエルマージャパンが作成した「Infrared Spectroscopy1700Xシリーズ フーリエ変換赤外分光分析装置」のカタログの写し
<平成23年1月7日付け上申時>
甲第16号証:BASFジャパン株式会社勤務の香川 正の陳述書
甲第17号証(いったん「甲第1号証(差替)」として提出されたが下記の上申時に証拠番号がつけ直された。):「チバ スペシャルティケミカルズ社(現ビーエーエスエフ エスイー)が販売する低揮発性紫外線吸収剤「TINUVIN1577FF」(以下、「チヌビン1577」という。)に関する技術情報を記載したパンフレット」なる全15頁の英文書面(全訳添付)(ただし、右肩部に「1.06.95」なる記載があるもの)
<平成23年2月4日付け上申時>
甲第18号証:BASFジャパン株式会社勤務の香川 正の陳述書
甲第19号証:住友ダウ株式会社勤務の泊 幸男の陳述書(添付資料あり)
(以下、「甲第1号証」などを「甲1」などと略していう。)

(なお、請求人は、第1回口頭審理の際、甲5及び人証に係るBASFジャパン株式会社勤務の香川 正の証人尋問申請をいずれも取り下げた。)

3.以降の手続の経緯
本件審判は、上記2.の請求の趣旨及び理由により、平成22年4月16日に請求されたものであり、以降の手続の経緯は、以下のとおりである。(なお、以下、審判被請求人を「被請求人」という。)
平成22年 5月12日付け 答弁指令・請求書副本の送付
平成22年 7月13日 答弁書・訂正請求書
平成22年 7月16日付け 弁駁指令・答弁書副本及び訂正請求書副本
の送付
平成22年 9月 9日 弁駁書
平成22年10月14日付け 弁駁書副本送付
平成22年10月18日付け 審理事項通知書(両当事者あて)
平成22年12月 3日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成22年12月10日 上申書(被請求人)
同日 上申書(請求人)
平成22年12月17日 口頭審理
平成23年 1月 7日 上申書(請求人)
平成23年 1月21日 上申書(被請求人)
平成23年 2月 4日 上申書(請求人)
平成23年 2月 8日付け 無効理由通知
同日付け 職権審理結果通知
平成23年 3月10日 意見書(被請求人)
平成23年 3月11日 意見書(請求人)

4.答弁の趣旨
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、とし、以降、下記の証拠方法を提示の上、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をしている。

・被請求人提示の証拠方法
<答弁時>
乙第1号証:豊嶋眞一の陳述書
<上申書(被請求人第2回)提出時>
乙第2号証:ポリカーボネート樹脂関係の英文技術文書であり、「Ciba-Geigy Ltd AD 5.5/1994/t360ml.prs JT1577-PC1」ないし「Ciba-Geigy Ltd AD 5.5/1994/t360ml.prs JT1577-PC8」が左下部に記載された8葉及び「Ciba-Geigy Ltd Dr A.Schmitter AD 5.52」が左上部に記載された2葉からなるもの(訳文なし)
(以下、「乙第1号証」などを、「乙1」などということがある。)

第2 訂正の適否についての当審の判断

1.訂正の内容
平成22年7月13日付けの訂正請求は、願書に添付した明細書(設定登録時のもの。以下「本件特許明細書」という。)を、同訂正請求の請求書に添付した訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正(以下「本件訂正」という。)するものであって、下記訂正事項1ないし6からなるものである。

(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
請求項1を引用する請求項2において、「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」の範囲を「90?300」とし、
「【請求項1】 ポリカーボネート樹脂成形体の表面に10?150μmの厚みのアクリル系樹脂層が被覆された積層体において、該被覆層アクリル系樹脂が2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノールからなる紫外線吸収剤を含有し、かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=90?300を満足していることを特徴とする積層体。」と訂正する。

(3)訂正事項3
被請求人が訂正請求書に記載した訂正事項3は、「請求項3を繰り上げ、請求項2に訂正する。」である。
しかるに、本件訂正明細書の【請求項2】につき検討すると、訂正前の「請求項3」における「請求項1または2記載の積層体」なる記載につき、「請求項1記載の積層体」に訂正されている。
したがって、訂正事項3は、
「請求項3を繰上げ、請求項2に訂正すると共に、請求項3における「請求項1または2記載の積層体」を「請求項1記載の積層体」に訂正する。」
であると認められる。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0007】において、
「かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=20?300を満足している」とあるのを、
「かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=90?300を満足している」と訂正する。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の段落【0041】において、
「(実施例2?5)」とあるのを、
「(実施例2?3、参考例6?7)」と訂正する。

(6)訂正事項6
本件特許明細書の段落【0042】の【表1】において、
「実施例2」とあるのを「参考例6」と、「実施例3」とあるのを「実施例2」と、「実施例4」とあるのを「参考例7」と及び「実施例5」とあるのを「実施例3」と、それぞれ訂正する。

2.訂正の適否に係る判断

(1)特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするか否かについて

ア.訂正事項1ないし3について
上記訂正事項1に係る訂正では、訂正前の請求項1を削除している。
そして、訂正事項2に係る訂正では、訂正前の請求項1を引用して記載された実施態様に係る請求項2につき、「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」の範囲を減縮した上で、項番を繰上げ「請求項1」としたものである。
してみると、本件訂正後の請求項1は、訂正前の請求項1を引用する請求項2につき、「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」の範囲についてさらに減縮されていることが明らかである。
また、訂正事項3につき検討すると、訂正前の請求項3は、訂正の前後のいずれにおいても訂正前の請求項1及び2又は訂正後の請求項1を引用し記載されているから、上記訂正事項1及び2に係る訂正に基づき、訂正前の請求項3に記載された発明において、同様に「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」の範囲について減縮されるものといえる。
したがって、上記訂正事項1ないし3に係る訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

イ.訂正事項4ないし6について
上記訂正事項4ないし6に係る訂正は、いずれも上記訂正事項1ないし3に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、不整合となった発明の詳細な説明の記載を単に整合させたものであり、明りょうでない記載の釈明をするものといえる。
したがって、上記訂正事項4ないし6に係る訂正は、明りょうでない記載の釈明をするものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。

ウ.小括
以上のとおり、上記1ないし6の各訂正事項に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合するか否かについて
当審は、知財高裁特別部平成18年(行ケ)第10563号判決における見地に照らして、本件訂正が特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合するか否かにつき検討すべきものと考える。
しかるに、「ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物紫外線吸収剤」としての「2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノール」及び「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(%)」の「20?300」なる範囲は、いずれも本件特許明細書に具体的に記載されている事項である。
そして、本件訂正により、「被覆層アクリル系樹脂層厚み×被覆層中の紫外線吸収剤濃度」の範囲につき「90?300」と限定した点に、全く新たな効果などが発現するなどの格別な技術的意義が存するものでもないから、本件訂正は、何ら新しい技術的事項を導入しないといえる。
してみると、本件の訂正事項1ないし6に係る訂正は、いずれも本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということができるから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定に適合するものである。

(3)特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するか否かについて
上記ア.で説示したとおり、上記訂正事項1ないし3は、いずれも訂正前の請求項1ないし3に記載されている事項により特定される発明の範囲をそれぞれ実質的に減縮するものであって、何ら新しい技術的事項を導入しないものといえるのであるから、各請求項に係る特許請求の範囲をそれぞれ実質的に減縮するものであって、変更するものではないといえる。
そして、上記イ.で説示したとおり、上記訂正事項4ないし6は、いずれも上記訂正事項1ないし3に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、不整合となった発明の詳細な説明の記載を単に整合させたものであり、何ら新しい技術的事項を導入しないものであるから、実質的に特許請求の範囲を減縮し、拡張し又は変更するものではない。
してみると、上記訂正事項1ないし6に係る本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるといえないから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

(4)請求人の主張について

ア.主張の内容
請求人は、平成22年9月9日付け弁駁書において、本件訂正につき、本件特許明細書の段落【0010】を摘示した上で、
「この明細書の記載は、訂正前の特許請求の範囲の構成要件の一つである数値を実施例、比較例と共に意味付け、強調するものである。
被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)の値を、「20?300」とし、好ましくは「30?100」を満足することが必要であるとしているのであるから、これを「90?300」と訂正することは根拠のないことである。
被請求人は、訂正に当たり「実施例の記載に基づき、被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)の値を90以上の値に限定する」(前掲訂正請求書)としているが、明細書段落【0010】の記載からすると好ましい範囲は「30?100」なのであるから、実施例の記載に基づく訂正としても、90以上の値即ち90?300に限定することの根拠がなく、特許請求の範囲の減縮にあたらないのである。しかも、表1に表した90、240及び300の試験結果も後述のように評価できるものではない(弁駁書第14頁(2-4)項参照)。
以上のことから、この訂正は、本件特許の願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしていないものであり、しかも、この訂正は実質上、特許請求の範囲を変更するものである。」(弁駁書第4頁下から第9行?第5頁第9行)
と主張し、また、平成22年12月3日付け口頭審理陳述要領書において、上記弁駁書におけるものと略同旨の主張を行うと共に、加えて
「本件特許の訂正は、確かに、明細書に新たな効果を加えた訂正をしておらず、実施例に現れているA×Bの値に基づいて訂正したので、形式的に見ると通知書おいて指摘された通りといえる。しかし、同時に、訂正前の特許請求の範囲において「20?300」にした点並びに発明の詳細な説明の項で、好ましい範囲として「30から100」した点は、本件特許の表1、実施例1?実施例5の知見に基づいて特定したのであり、その構成から「ポリカーボネート樹脂の透明性や良好な外観を損なうことなく着色と耐候性が同時に改良され、屋外で使用される用途、分野への拡大が期待できる。」という効果を奏するものである。
本件特許の訂正においては、実施例1?実施例5において、ヘイズ差(ΔH%)並びに黄変度(ΔYI)が「ゼロ」値を有する実施例・・に基づいて上記値を「90?300」に限定した。この限定は上記の好ましい範囲を外れる範囲であり、「90」と「240」の間及び「240」と「300」との間についてはデーターがないのに含ませている。言い換えると、この値とすることによって、結果として、ヘイズ差(ΔH%)並びに黄変度(ΔYI)が「ゼロ」値となる新たな作用効果を伴う構成としたことになり、ポリカーボネート樹脂の透明性や良好な外観を損なうことなく着色と耐候性が同時に改良されるという効果を奏することとなるので、新しい技術的事項を導入したものといえる。・・
以上のような全く新しい効果が発現し格別な技術的意義が窺われる以上、本件特許の訂正は特許請求の範囲の「減縮」ではなく「変更」といえるのである。」(要領書第5頁第13行?第6頁第6行)
と主張している。

イ.検討
そこで、まず本件特許明細書における段落【0010】の記載及び実施例(参考例)並びに比較例に係る【表1】並びに【表2】の記載を検討する。
段落【0010】には、
「該紫外線吸収剤を添加する被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=20?300、好ましくは30?100を満足することが必要である。即ち被覆層熱可塑性樹脂層の厚みが薄ければ被覆層中の紫外線吸収剤の濃度を濃くし、逆に被覆層熱可塑性樹脂層が厚い場合被覆層中の紫外線吸収剤濃度は薄くする必要がある。被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)の数値が20未満の場合被覆層での紫外線吸収効果が小さく紫外線が基材部ポリカーボネート樹脂に到達し劣化させてしまう。一方この値が300を超えても耐候性改良効果に有意差がないばかりか被覆層熱可塑性樹脂が濁ったり着色してしまい、その結果積層体全体で見たときの透明性が損なわれたり着色が目立つ等の問題が発生してしまう。」
と記載されている。
また、【表1】及び【表2】は、




」と記載されている。
上記段落【0010】の記載からみて、技術常識に照らすと、「紫外線吸収剤を添加する被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=20?300・・を満足することが必要であ」り、「即ち被覆層熱可塑性樹脂層の厚みが薄ければ被覆層中の紫外線吸収剤の濃度を濃くし、逆に被覆層熱可塑性樹脂層が厚い場合被覆層中の紫外線吸収剤濃度は薄くする必要がある」のであるから、「被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」なる数値は、被覆層に存在する紫外線吸収剤の存在量を表すものといえる。
そして、その「被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」なる数値が減少し、「20」未満となると、「被覆層での紫外線吸収効果が小さく紫外線が基材部・・に到達し劣化させてしまう」、すなわち基材層の耐候性改良効果に乏しくなる傾向があり、反対に「被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」なる数値が増大し、「300」を超えると、「耐候性改良効果に有意差がない」、すなわち耐候性改良効果は十分になり飽和状態になるものの、「被覆層熱可塑性樹脂が濁ったり着色してしまい、その結果積層体全体で見たときの透明性が損なわれたり着色が目立つ等の問題が発生してしまう」、すなわち積層体の透明性及び着色が悪化する傾向があることをいうものといえる。
また、上記【表1】及び【表2】の記載を検討すると、耐候性試験に係る「ヘイズ差(ΔH%)」及び「黄変度(ΔYI)」が「ゼロ」となる実施例1、3及び5につき、「ヘイズ差(ΔH%)」及び「黄変度(ΔYI)」が「ゼロ」でない実施例2及び4に比して、「ヘイズ(H%)」及び「黄色度(YI)」がそれぞれ同等かそれ以上となり、積層体の透明性が損なわれ、黄色着色が強くなることが認識できる。さらに、「ヘイズ差(ΔH%)」及び「黄変度(ΔYI)」が「ゼロ」となる比較例9及び11につき、実施例1、3及び5に比して、「ヘイズ(H%)」及び「黄色度(YI)」がさらに増大し、積層体の透明性及び着色が更に悪化していることも認識できる。そして、「ヘイズ差(ΔH%)」及び「黄変度(ΔYI)」が「ゼロ」でない比較例8及び10につき、実施例1、3及び5に比して、耐候性試験に係る各物性については悪化しているものの、「ヘイズ(H%)」及び「黄色度(YI)」がそれぞれ同等かそれ以下となり、積層体の透明性及び着色が良化していることも認識できる。
してみると、上記段落【0010】及び【表1】並びに【表2】を含む本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」なる数値につき、減少すると、積層体の透明性の向上及び着色の防止はできるものの、基材層の耐候性改良効果に乏しくなる傾向があり、増大すると、耐候性改良効果が向上し「ヘイズ差(ΔH%)」及び「黄変度(ΔYI)」が「ゼロ」となる飽和状態になるものの、積層体の透明性(「ヘイズ(H%)」)及び着色(「黄色度(YI)」)が悪化する傾向があることを認識することができるといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=20?300」の範囲のうち、実施例1、3及び5の「90」、「240」及び「300」なる数値を含む範囲である「90?300」とすることにより、積層体の透明性(「ヘイズ(H%)」)及び着色(「黄色度(YI)」)が悪化する傾向とのバランスをみつつ、耐候性改良効果の点で「ヘイズ差(ΔH%)」及び「黄変度(ΔYI)」が「ゼロ」となる飽和状態にする、すなわち「ポリカーボネート樹脂の透明性や良好な外観を損なうことなく着色と耐候性が同時に改良されるという効果を奏する」ことができるであろうと認識することができたものといえるから、本件訂正において、「被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=20?300」なる範囲を「90?300」なる範囲に訂正したことは、新たな効果を奏するものとはいえず、新たな技術的事項を導入したものということができないし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものともいえない。
よって、請求人の上記主張は、当を得ないものであり、採用する余地がなく、上記(1)ないし(3)で説示した当審の本件訂正に係る検討・判断の結論を左右するものでない。

3.訂正に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の各規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 訂正後の本件審判請求の趣旨
本件審判請求の趣旨は、請求時において、特許第3904262号の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、というものであったところ、本件訂正後の請求項1及び2は、訂正前の請求項1ないし3に係る特許請求の範囲の減縮を目的として訂正されたものであるから、本件訂正後の審判請求の趣旨は、特許第3904262号の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、であるといえる。

第4 請求人主張の無効理由について
請求人が主張する無効理由の趣旨及び概略については、上記第1の2.で示したとおりであるが、本件訂正を踏まえ、以下整理する。

(1)本件審判請求書に記載された無効理由
本件審判請求書において請求人が主張する無効理由は、甲1ないし9の提示及び証拠調べ(証人尋問)の請求を証拠方法とし、大別して以下のア.又はイ.に示すとおりであると解される。

ア.特許法第29条第1項第3号に係る無効理由
・甲1に記載された発明を引用発明とし、本件特許発明1及び2につき同一とするもの(以下「無効理由1-1」という。)
・甲4に記載された発明を引用発明とし、本件特許発明1につき同一とするもの(以下「無効理由1-2」という。)

イ.特許法第29条第2項に係る無効理由
・甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、甲9又は甲3の知見を組み合わせることにより、本件特許発明1及び2につき当業者が容易に発明することができ、さらに甲5の知見を組み合わせることにより、本件特許発明3につき当業者が容易に発明することができたとするもの(以下「無効理由2-1」という。)
・甲3に記載された発明を主たる引用発明とし、甲1の知見を組み合わせることにより、本件特許発明1及び2につき当業者が容易に発明することができ、さらに甲5の知見を組み合わせることにより、本件特許発明3につき当業者が容易に発明することができたとするもの(以下「無効理由2-2」という。)
・甲4に記載された発明を主たる引用発明とし、必要に応じて甲1の知見を組み合わせることにより、本件特許発明1につき当業者が容易に発明することができ、さらに甲5の知見を組み合わせることにより、本件特許発明3につき当業者が容易に発明することができたとするもの(以下「無効理由2-3」という。)

(2)弁駁書に記載された無効理由
請求人が甲10ないし15を新たに添付して提出した平成22年9月9日付け弁駁書の記載を検討すると、主張の論理構成が必ずしも明確ではないが、概略、請求人が主張する無効理由は以下のa.ないしc.のとおりであると解される。
a.甲3に係る発明を主たる引用発明とし、甲1又は甲7の知見を組み合わせることにより、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明1」という。)につき当業者が容易に発明することができたとするもの(弁駁書第5頁?第16頁、以下「無効理由3」という。)
b.甲3に係る発明を主たる引用発明とし、甲1又は甲7の知見を組み合わせ、さらに甲5の知見を組み合わせることにより、本件訂正後の請求項2に係る発明(以下「本件訂正発明2」という。)につき当業者が容易に発明することができたとするもの(弁駁書第16頁?第27頁、以下「無効理由4」という。)
c.上記訂正後の本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明2を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえないものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとするもの(弁駁書第27頁?第29頁、以下「無効理由5」という。)

ただし、上記無効理由5については、平成22年12月3日付け口頭審理陳述要領書において、請求人により撤回されている。

(3)まとめ
上記(1)及び(2)の無効理由を本件訂正に基づき整理すると、本件訂正では、訂正前の請求項1が削除され、訂正前の請求項1を引用して記載されていた訂正前の請求項2につき、請求項1の記載事項を加入して(書き下して)独立項とし、さらに減縮した上で新たな請求項1としているから、本件特許発明1及びそれを引用する本件特許発明3についてのみ主張され、本件特許発明2につき主張されていない上記無効理由1-2及び無効理由2-3は、詳細な検討を行うまでもなく本件訂正発明1及びそれを引用する本件訂正発明2に対して成立しないことが明らかである。
してみると、本件において、請求人が主張する無効理由は、以下のとおりである。
無効理由1-1:甲1に記載された発明を引用発明とし、本件訂正発明1につき同一とするもの
無効理由2-1:甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、甲9又は甲3の知見を組み合わせることにより、本件訂正発明1につき当業者が容易に発明をすることができ、さらに甲5の知見を組み合わせることにより、本件訂正発明2につき当業者が容易に発明をすることができたとするもの
無効理由2-2:甲3に記載された発明を主たる引用発明とし、甲1の知見を組み合わせることにより、本件訂正発明1につき当業者が容易に発明をすることができ、さらに甲5の知見を組み合わせることにより、本件訂正発明2につき当業者が容易に発明をすることができたとするもの
無効理由3:甲3に係る発明を主たる引用発明とし、甲1又は甲7の知見を組み合わせることにより、本件訂正発明1につき当業者が容易に発明をすることができたとするもの
無効理由4:甲3に係る発明を主たる引用発明とし、甲1又は甲7の知見を組み合わせ、さらに甲5の知見を組み合わせることにより、本件訂正発明2につき当業者が容易に発明をすることができたとするもの

第5 当審が通知した無効理由について
当審は、平成23年2月8日付けで無効理由を通知したが、その概要は以下のとおりである。

「(前略)・・
II.無効理由
(なお、以下、本件訂正後の請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件訂正発明」という。)

本件訂正発明は、下記の理由により、本件無効審判請求人が提示した本件特許に係る出願の日(優先日)前に頒布された刊行物である甲第3号証及び甲第7号証に記載された各発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
・・(後略)」

第6 当審の判断
当審は、
訂正後の請求項1に係る発明についての特許は、当審が通知した無効理由について理由があり、
訂正後の請求項2に係る発明についての特許は、請求人が主張するいずれの無効理由についても理由がない、
と判断する。
以下、各請求項ごとに詳述する。

I.前提事項
本件審判における各無効理由につき判断を行うにあたり、前提となる事項につき整理・検討する。

1.本件訂正発明1及び2について
本件訂正発明1及び2は、訂正後の請求項1及び2に記載された事項で特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 ポリカーボネート樹脂成形体の表面に10?150μmの厚みのアクリル系樹脂層が被覆された積層体において、該被覆層アクリル系樹脂が2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノールからなる紫外線吸収剤を含有し、かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=90?300を満足していることを特徴とする積層体。
【請求項2】 該積層体の被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂成形体の間に被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂がお互いくい込んだ混合層を有し、該混合層が厚み0.1?2μm、かつ波打ちの最大振幅が幅5mmあたり10μm以下であることを特徴とする請求項1記載の積層体。」
(以下、併せて「本件訂正発明」ということがある。)

2.訂正後の本件特許に係る出願についての優先権主張の適否について
上記第2で説示したとおり、本件訂正は適法なものである。
そして、本件訂正発明1及び2は、いずれも本件特許に係る出願の優先権主張の基礎となる出願(特願平7-309743号)の願書に最初に添付された明細書に記載した事項により特定されるものと認められる。
したがって、本件特許に係る出願についての優先権主張は有効であり、優先日を基準として、上記本件訂正発明についての特許法第29条各項の適否に係る判断をすべきものである。

II.本件訂正発明1についての特許について

1.当審が通知した無効理由について
上記第5に示した当審が通知した無効理由の当否につき以下再度検討する。

(1)本件訂正発明1
本件訂正発明1は、本件訂正後の請求項1に記載された事項で特定されるとおりのものであり、再掲すると以下のものである。
「ポリカーボネート樹脂成形体の表面に10?150μmの厚みのアクリル系樹脂層が被覆された積層体において、該被覆層アクリル系樹脂が2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノールからなる紫外線吸収剤を含有し、かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=90?300を満足していることを特徴とする積層体。」

(2)各甲号証に記載された事項

ア.甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア-1)
「ポリカーボネート樹脂からなる基板層と、この基板層の片面もしくは両面に、アクリル系樹脂組成物からなる厚みが10?200μmの被覆層を設けた積層ポリカーボネート樹脂平板であって、該アクリル系樹脂組成物が、・・被覆層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=50?250を満足する量の紫外線吸収剤とからなるアクリル系樹脂組成物であることを特徴とする積層ポリカーボネート樹脂平板」(【請求項1】)
(ア-2)
「しかしながら、特に屋外で用いられる自動販売機の前面板等については、耐候性に優れていることが必要であるが、一般にポリカ-ボネ-ト樹脂の耐候性はアクリル樹脂に比べて劣り、屋外に暴露されると黄変や白化、失透が発生しやすい。そこで、ポリカ-ボネ-ト樹脂の耐候性を改良するための検討が様々になされており、例えば、ポリカ-ボネ-ト等の樹脂基材を紫外線吸収剤を含んだアクリル樹脂で被覆する手法が報告されてきた(例えば、特公昭47-19119号公報、特開昭55-59929号公報)。」(【0007】)
(ア-3)
「本発明のアクリル樹脂組成物に用いる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾ-ル系、2-ヒドロキシベンゾフェノン系またはサリチル酸フェニルエステル系のもの等が挙げられる。・・
ここで、紫外線吸収剤のうちでも、分子量が400以上の紫外線吸収剤は、高沸点で揮発しにくく、高温成形時にも飛散しにくいため、比較的少量の添加で効果的に耐候性を改良することができる。また、特に薄い被覆層から基板層への移行性も小さく、積層板の表面にも析出しにくいため、含有された紫外線吸収剤量が長時間維持され、耐候性改良効果の持続性に優れるなどの点から好ましい。分子量が400以上の紫外線吸収剤としては、・・が挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上を併用して使用することができる。」(【0048】?【0049】)
(ア-4)
「本発明は、被覆層に紫外線吸収剤を濃縮して存在させることにより、樹脂板全体に対する紫外線吸収剤量を低減でき、かつ効果的にポリカ-ボネ-ト基盤層の耐候性を改良することができるところに最大の特徴がある。・・
本発明の被覆層に含有される紫外線吸収剤の量は、被覆層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=50?250を満足することが必要である。この条件を満足する範囲で、紫外線吸収剤の濃度と被覆層の厚みは、基板層を紫外線から効果的に遮断しうるように、さらに加熱成形後の紫外線吸収剤の残存量をも考慮して決定すれば良い。即ち、被覆層の厚みが厚ければ、被覆層中の紫外線吸収剤の濃度は相対的に低く、被覆層の厚みが薄ければ、濃度は高くする必要がある。被覆層の厚み(μm)×紫外線吸収剤濃度(重量%)の数値が50未満の場合は、得られる前面板の耐候性が不足し、一方、250を超えても耐候性改良効果においてあまり差が無いばかりか、かえって機械的強度の低下を招き、さらに被覆層が紫外線吸収剤特有の黄色系の着色を呈するようになるので、いずれも好ましくない。一例として、紫外線吸収剤を3重量%含むアクリル系樹脂組成物を厚さ40μmの被覆層とした場合、その積は120となる。」(【0050】?【0051】)
(ア-5)
「本発明の被覆層の厚みは、前述の条件を満足するように選ばれるが、実用上は10?200μmの範囲が好ましく、20?100μmの範囲がさらに好ましい。被覆層の厚みが10μm未満では、基板層を均一に被覆することが難しく、一方200μmを越えて被覆層を設けても、耐候性改良効果に顕著な向上が見られないばかりか、板の機械的強度を低下させ好ましくない。」(【0052】)
(ア-6)
「本発明の基板層および被覆層からなる積層ポリカーボネート樹脂平板を製造するための方法について、特に制限は無い。例えば、基板層および被覆層の原料樹脂を同時に溶融押出してシ-ト化する共押出法や、押出成形されたポリカ-ボネ-ト樹脂基板層に被覆層の原料樹脂をTダイより溶融押出しラミネ-トする方法、あらかじめフィルム状に成形された被覆層をポリカ-ボネ-ト樹脂基板層に加熱ロ-ル間で連続的にラミネ-トする方法、シ-ト状に成形されたポリカ-ボネ-ト樹脂基板層とフィルム状に成形された被覆層をプレスで熱圧着する方法等を用いて、まず積層ポリカーボネート樹脂平板を作製し、この積層板を真空成形等により自動販売機前面板などに加工するのが一般的な製造方法である。あるいは真空成形時に基板層と被覆層を積層して一体化する方法なども用いうる。
本発明の積層ポリカーボネート樹脂平板の作製においては、共押出法が積層時に両層の流動性を合わせ、均一にすることができるので、両層の密着性が良く成形歪みも類似になるなどの点で優れている。」(【0060】?【0061】)

イ.甲7
甲7には以下の事項が記載されている。
(イ-1)
「【請求項1】 a)主鎖中にヘテロ原子を含有する熱可塑性ポリマー、および
b)次式I:
【化1】


(式中、Rは水素原子、炭素原子数1ないし18のアルキル基、ハロゲン原子もしくは炭素原子数1ないし12のアルコキシ基で置換された炭素原子数2ないし6のアルキル基、またはベンジル基を表しならびにR’は水素原子またはメチル基を表す。)で表されるヒドロキシフェニルトリアジン化合物からなる、光、酸素および熱による損傷に対して安定化されたポリマー組成物。
・・(中略)・・
【請求項5】 成分b)が式Iの化合物であり、式中、Rが炭素原子数3ないし6のアルキル基を表す、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項6】 成分b)が式Iの化合物であり、式中、R’が水素原子を表す、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項7】 成分a)のポリマー100重量部に対して、成分b)の安定剤0.1ないし15重量部を含有する請求項1に記載のポリマー組成物。
・・(中略)・・
【請求項10】 請求項1に記載のポリマー組成物からなる成形品。
【請求項11】 外層が10ないし100μmの厚さの請求項1に記載のポリマー組成物からなる多層系。」(【特許請求の範囲】)
(イ-2)
「【産業上の利用分野】
本発明は、安定剤として特定の置換基を持つ2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンを含有する、主鎖にヘテロ原子を持つ安定化ポリマーに関する。
【従来の技術】
米国特許US-A-3244708号およびスイス国特許CH-B-480091号に見るように、次式:
【化3】


(式中、Rは水素原子または有機基を表すことができ、およびArはヒドロキシ基を持たない芳香族基を表す。)で表される2-ヒドロキシフェニル-s-トリアジンの添加により、光、酸素および熱による損傷に対してポリマーを安定化することが知られている。
これらの化合物は紫外線吸収剤でありおよび写真材料(米国特許US-A-3843371号)または塗料(米国特許US-A-4619956号)を安定化する目的のためにも提案されている。」(【0001】?【0002】)
(イ-3)
「【課題を解決するための手段】
驚いたことには、主鎖にヘテロ原子を含有する熱可塑性ポリマーにおいて、Arがフェニル基またはp-トルイル基を表すこのようなトリアジンは特によい安定化作用を示し、Arが2,4-ジメチルフェニル基であるトリアジンに比較して明らかに優れていることが見出された。」(【0004】)
(イ-4)
「使用される安定剤の量は安定化するポリマーの量および安定化されたポリマーの意図する用途に依存している。通常、本発明によるポリマー組成物はポリマー(成分a)100重量部に対して安定剤(成分b)0.1ないし15、特に0.1ないし5重量部を含有している。」(【0014】)
(イ-5)
「安定剤および、所望ならば他の添加剤のポリマーへの添加は、例えば、粉末組成物の混合によってまたはポリマーの溶融または溶液への安定剤の添加によって、成形前に行われるのが都合がよい。
・・(中略)・・
得られる安定化ポリマー組成物を熱圧縮成形、紡糸、押出または射出成形のような慣用の方法で、例えば、繊維、フィルム、スモールストリップ(small strip)、シート、プロファイル板材、容器、パイプおよび他の形材のような成形品に変換することができる。
本発明はそれゆえまた、本発明によるポリマー組成物の成形品製造のための使用方法にも関する。
多層系における本発明によるポリマー組成物の使用方法もまた重要である。その場合、式Iの安定剤の比較的高い量、例えば5ないし15重量%を持つ本発明のポリマー組成物は式Iの極少量の安定剤を含有するポリマーから作られた成形品に薄層(10ないし100μm)で用いられる。例えばいわゆる同時押出により、層を基材製品の成形と同時に行うことができる。層は、しかし、例えばフィルムを用いた積層または溶液を用いたコーティングによって既成形基礎製品 (ready-shaped basic article) にも適用できる。外層または完成品の被膜は、製品の内部を紫外線に対して保護する紫外線フィルターとして作用する。外層は好ましくは少なくとも1種の式Iの安定剤、5ないし15重量%、とくに5ないし10重量%を含有する。
本発明はそれゆえさらに、内層は式Iの安定剤をほとんどまたは全く含まないでよいポリマーからなるが、外層は厚さ10ないし100μmの本発明の組成物である、多層系の製造のための本発明によるポリマー組成物の使用方法に関する。」(【0048】?【0053】)
(イ-6)
「その方法で安定化したポリマーは良い耐候性および特に紫外線に対する高程度の抵抗性で特徴づけられる。それゆえこれらは屋外での使用においても、その機械的性質ならびにその色彩および光沢を長期間にわたり保持する。」(【0055】)
(イ-7)
「【実施例】
以下に続く実施例は、それよって限定することなく、本発明を詳細に説明するために提示する。実施例中、部および%は重量に基づき、室温は20ないし25℃の温度を指す。以下に続く紫外線吸収剤が使用される:
・・(中略)・・
Ph-4 2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン;
・・(後略)」(【0056】)

(3)判断

ア.甲3に記載された発明
甲3には、「ポリカーボネート樹脂からなる基板層と、この基板層の片面もしくは両面に、アクリル系樹脂組成物からなる厚みが10?200μmの被覆層を設けた積層ポリカーボネート樹脂平板であって、該アクリル系樹脂組成物が、・・被覆層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=50?250を満足する量の紫外線吸収剤とからなるアクリル系樹脂組成物であることを特徴とする積層ポリカーボネート樹脂平板」が記載されており(上記摘示(ア-1)参照)、その「積層ポリカーボネート樹脂平板」が、「ポリカーボネート樹脂からなる基板層」と「アクリル系樹脂組成物からなる被覆層」とからなる「積層体」であることは、当業者に自明である。
してみると、上記(ア-1)?(ア-6)の記載からみて、甲3には、本件訂正発明に倣い表現すると、
「ポリカーボネート樹脂成形体の表面に10?200μmの厚みのアクリル系樹脂層が被覆された積層体において、該被覆層アクリル系樹脂が紫外線吸収剤を含有し、かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=50?250を満足していることを特徴とする積層体」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

イ.対比・検討

(ア)対比
本件訂正発明1と甲3発明とを対比すると、下記の2点でのみ相違し、その余の「ポリカーボネート樹脂成形体の表面に10?200μmの厚みのアクリル系樹脂層が被覆された積層体において、該被覆層アクリル系樹脂が紫外線吸収剤を含有していることを特徴とする積層体」に係る点で一致しているといえる。
相違点1:紫外線吸収剤につき、本件訂正発明1では、「2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノール」であるのに対し、甲3発明では、「紫外線吸収剤」である点
相違点2:「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」の範囲につき、本件訂正発明1では、「90?300」であるのに対して、甲3発明では、「50?250」である点

(イ)検討
(a)相違点1について
上記甲7にも記載されているとおり、本件訂正発明1でいう「2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノール」と同一の化合物である「2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」なるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物(上記摘示(イ-7)参照)が、「光、酸素および熱による損傷に対してポリマーを安定化する」「特によい作用」を有すること(上記摘示(イ-2)及び(イ-3)参照)、当該化合物の添加により「安定化したポリマーは良い耐候性および特に紫外線に対する高程度の抵抗性で特徴づけられ」、「屋外での使用においても、その機械的性質ならびにその色彩および光沢を長期間にわたり保持する」こと(上記摘示(イ-6)参照)及び当該化合物を含有するポリマー組成物を「多層系」の「外層」とした場合、当該「外層」が当該化合物を「ほとんどまたは全く含まないでよいポリマーからなる」「内層」などの「製品の内部を紫外線に対して保護する紫外線フィルターとして作用する」こと(上記摘示(イ-5)参照)は、いずれも少なくとも本件特許に係る出願の日(優先日)前に公知の事項である。
してみると、高い紫外線遮断性能の発揮をもって積層体の耐候性をさらに改善することなどを意図し、甲3発明における「紫外線吸収剤」として、当該「2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」なるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を使用することは、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
(b)相違点2について
上記甲3にも記載されている(摘示(ア-4)参照)とおり、「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」なる数値は、小さくなると耐候性の改善が不十分となり、大きくなると耐候性の改善について十分となるものの黄変などの着色又は機械的強度の低下などの弊害が生起する傾向にある指標となる事項であると解される。
してみると、甲3発明において、使用する紫外線吸収剤の種別に応じて、耐候性の改善と他の黄変などの着色等の弊害の発現とのバランスをみつつ試行錯誤的(実験的)に例えば「90?300」の範囲を決定することは、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
(c)本件訂正発明1に係る効果について
上記甲7にも記載されているとおり、「2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」なるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物が、ポリマーに添加されて組成物として使用され、当該ポリマー組成物を「多層系」の「外層」とした場合、当該「外層」が当該化合物を「ほとんどまたは全く含まないでよいポリマーからなる」「内層」などの「製品の内部を紫外線に対して保護する紫外線フィルターとして作用する」ことは、少なくとも本件特許に係る出願の日(優先日)前に公知である(上記(a)で示した各記載参照)。
してみると、甲3発明における紫外線吸収剤として、甲7の公知技術に基づき、当該「2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」を使用した場合、紫外線吸収剤を含まない「内層」に相当するポリカーボネート樹脂の透明性や良好な外観を損なうことなく着色と耐候性が同時に改良されるという効果を奏するであろうことは、当業者が予期し得るものといえる。
したがって、本件訂正発明1が、甲3発明及び甲7の公知技術を組み合わせた場合に比して、格別顕著な効果を奏するものとはいえない。
(d)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲3発明及び甲7の公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(ウ)被請求人の主張について
被請求人は、平成23年3月10日付け無効審判事件意見書において、
(a)「甲第7号証に記載された紫外線吸収剤は、・・段落【0012】にも記載されているように種々のものが存在し、実施例で使用されている化合物だけをとっても、Ph-1?Ph-5及びTo-1?To-5で示される多数の化合物が記載されている。
したがって、これら多数の紫外線吸収剤の中から、特定の紫外線吸収剤であるPh-4の化合物(・・)を特に選択し、該紫外線吸収剤を甲第3号証に記載された発明に適用することは、それら多数の紫外線吸収剤の分子量が同程度であることからも、当業者にとって容易であるとはいえない。」(意見書第4頁第7行?第18行)
と主張し、また、
(b)「被覆層アクリル系樹脂層にPh-4の化合物を紫外線吸収剤として使用した場合の「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」の範囲についても、本件特許発明者が試行錯誤の結果、初めてその効果的な範囲を見出したものであり、その効果からみて十分に特許性を有するものであり、当業者にとって容易であるとはいえない。
上記効果については、ポリカーボネート樹脂の透明性や良好な外観を損なうことなく着色と耐候性が同時に改良され、屋外で使用される用途、分野への拡大が期待できると本件特許明細書に記載されているとおりであり・・、特に、実施例に示すように、被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)が90以上のときは、耐候性試験後のヘイズ差(ΔH%)、黄変度(ΔYI)の値が0であり、極めて優れた効果を奏するものである(表1参照)。」(意見書第4頁第19行?第5頁第7行)
と主張している。

しかるに、上記(a)の主張につき検討すると、甲7には、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物(上記摘示(イ-7)参照)が、「光、酸素および熱による損傷に対してポリマーを安定化する」「特によい作用」を有すること(上記摘示(イ-2)及び(イ-3)参照)、当該化合物の添加により「安定化したポリマーは良い耐候性および特に紫外線に対する高程度の抵抗性で特徴づけられ」、「屋外での使用においても、その機械的性質ならびにその色彩および光沢を長期間にわたり保持する」こと(上記摘示(イ-6)参照)及び当該化合物を含有するポリマー組成物を「多層系」の「外層」とした場合、当該「外層」が当該化合物を「ほとんどまたは全く含まないでよいポリマーからなる」「内層」などの「製品の内部を紫外線に対して保護する紫外線フィルターとして作用する」こと(上記摘示(イ-5)参照)がそれぞれ記載されており、さらに実施例として「Ph-1」?「Ph-5」及び「To-1」?「To-5」なるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を使用した場合すべてにつき、紫外線吸収剤を添加しない場合に比して又は他のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物(「Xy-1」?「Xy-5」)を使用した場合に比してさえも、「YI=7までの曝露時間(h)」及び「フィルムが脆化するまでの曝露時間(h)」で表される耐候性改良効果が特に優れること(【0056】?【0061】)も記載されている。
また、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、「本発明で用いられるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物からなる紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、・・2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、・・2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、・・等が挙げられるが特に2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノール〔別名2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン〕が好まし」い旨が記載されているのみ(【0010】参照)であって、本件訂正発明に係る「2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」を使用した場合につき、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(甲7における「Ph-5」化合物である。)又は2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(甲7における「To-1」化合物である。)などの他のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物からなる紫外線吸収剤を使用した場合に比して有意な効果上の差異が存することを当業者が客観的に認識することができる記載又は示唆もない。
そして、甲3発明において、「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」なる数値は、小さくなると耐候性の改善が不十分となり、大きくなると耐候性の改善について十分となるものの黄変などの着色又は機械的強度の低下などの弊害が生起する傾向にある指標となる事項であることが認識されていた(上記摘示(ア-4)参照)のであるから、甲3発明において、紫外線吸収剤につき濃度あたりの耐候性改善効果がさらに高いものを使用し、もって被覆層に含まれる紫外線吸収剤の濃度を低減化して、耐候性改善効果を維持しつつ上記弊害の生起を可能な限り防止しようとすることは、当業者が通常想起する技術課題であるといえる。
してみると、甲3発明において、紫外線吸収剤を選定するにあたり、上記技術課題に基づいて、甲7の公知技術における耐候性改良効果が特に優れた「Ph-1」?「Ph-5」及び「To-1」?「To-5」なるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物を使用するべき積極的な動機が存するものといえるとともに、これら10種の化合物から「Ph-4」を選定することは、当業者が適宜なし得ることというほかはなく、「Ph-4」の化合物を選定したことに格別な技術的創意が存するものともいえない。
したがって、被請求人の上記(a)の主張は、当を得ないものであり、採用することができない。

次に、上記(b)の主張につき検討すると、上記(a)の主張に係る検討においても説示したとおり、甲3発明において、「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」なる数値は、小さくなると耐候性の改善が不十分となり、大きくなると耐候性の改善について十分となるものの黄変などの着色又は機械的強度の低下などの弊害が生起する傾向にある指標となる事項であることが認識されていた(上記摘示(ア-4)参照)のであり、「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」なる数値について、耐候性改善効果と黄変などの着色又は機械的強度の低下などの弊害の生起とが負の相関関係を有することが当業者に自明であったものといえる。
してみると、甲3発明と甲7の公知技術を組み合わせた場合において、「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」なる数値の範囲を決定するにあたり、耐候性改善効果を特に重視した上で(すなわちヘイズ差(ΔH%)、黄変度(ΔYI)の値が0であるものとした上で)上記弊害の生起を最小限許容するとするバランスのもとに通常の試行錯誤を行った結果により、甲3発明における「50?250」なる範囲を「90以上」とすることは、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
したがって、被請求人の上記(b)の主張についても、当を得ないものであり、採用することができない。

結局、被請求人の上記意見書における主張は、いずれも当を得ないものであり、採用することができず、当審の上記(イ)の検討結果を左右するものではない。

(エ)対比・検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、本件特許に係る出願の日(優先日)前に頒布された刊行物である甲第3号証及び甲第7号証に記載された各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.当審が通知した無効理由に係る判断のまとめ
よって、本件訂正発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件訂正発明1についての特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

2.本件訂正発明1についての特許に係る判断のまとめ
以上のとおり、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許は、請求人が主張した無効理由につき検討するまでもなく、当審が通知した無効理由により無効とすべきものである。

III.本件訂正発明2についての特許について

1.本件訂正発明2
本件訂正発明2は、再掲すると、下記の本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項で特定されるとおりのものである。
「該積層体の被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂成形体の間に被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂がお互いくい込んだ混合層を有し、該混合層が厚み0.1?2μm、かつ波打ちの最大振幅が幅5mmあたり10μm以下であることを特徴とする請求項1記載の積層体。」
なお、上記請求項2で引用する請求項1は、
「ポリカーボネート樹脂成形体の表面に10?150μmの厚みのアクリル系樹脂層が被覆された積層体において、該被覆層アクリル系樹脂が2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノールからなる紫外線吸収剤を含有し、かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=90?300を満足していることを特徴とする積層体。」
であるから、結局、本件訂正発明2は、以下の事項で特定されるとおりのものである。
「ポリカーボネート樹脂成形体の表面に10?150μmの厚みのアクリル系樹脂層が被覆された積層体において、該被覆層アクリル系樹脂が2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノールからなる紫外線吸収剤を含有し、かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=90?300を満足しており、該積層体の被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂成形体の間に被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂がお互いくい込んだ混合層を有し、該混合層が厚み0.1?2μm、かつ波打ちの最大振幅が幅5mmあたり10μm以下であることを特徴とする積層体。」

2.本件訂正発明2についての特許に係る無効理由について
上記第4に示した請求人が主張する各無効理由のうち無効理由1-1及び3並びに第5に示した当審が通知した無効理由は、いずれも専ら本件訂正発明1についての特許に係るものであるから、本件訂正発明2についての特許に係る無効理由は、上記第4に示した無効理由2-1、2-2及び4である。
事案にかんがみ、まず、上記無効理由2-2及び4につき併せて検討し、さらに無効理由2-1について検討する。

(1)無効理由2-2及び無効理由4について
無効理由2-2と無効理由4は、いずれも、上記II.1.(3)ア.で示した甲3発明を主たる引用発明として、本件訂正発明2が容易に発明することができたとするものである。
そして、本件訂正発明2と甲3発明とを対比したときの相違点は、下記相違点1’、2’及び3’であり、一致点は、上記II.1.(3)イ.(ア)で示したとおりである。

相違点1’:紫外線吸収剤につき、本件訂正発明2では、「2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノール」であるのに対し、甲3発明では、「紫外線吸収剤」である点
相違点2’:「被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)」の範囲につき、本件訂正発明2では、「90?300」であるのに対して、甲3発明では、「50?250」である点
相違点3’:本件訂正発明2では、「該積層体の被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂成形体の間に被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂がお互いくい込んだ混合層を有し、該混合層が厚み0.1?2μm、かつ波打ちの最大振幅が幅5mmあたり10μm以下である」のに対し、甲3発明では、当該「混合層」の存在が特定されていない点

しかるに、上記相違点1’及び2’については、上記II.1.(3)イ.(ア)で指摘した相違点1及び2と同一であるから、上記II.1.(3)イ.(イ)で説示した理由と同一の理由により、請求人が提示した甲7の公知技術を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることといえる。
しかしながら、上記相違点3’に係る本件訂正発明2の技術事項を甲3発明に適用することが容易想到であるとする根拠として、請求人が提示した甲5は取り下げられたものである。
また、請求人が提示した全証拠をみても、ほかに上記相違点3’についての想到容易性を認めるに足るものはない。
なお、請求人は、平成22年9月9日付け弁駁書において、上記相違点3’につき、甲12の1ないし5を提示し、るる主張している。
しかしながら、甲12の1ないし5は、いずれも本件特許に係る出願の優先日以降の頒布刊行物又は作成書証であり、また、甲12の1に記載された事項は、当該書証に係る出願時の関係者(発明者・出願人・作成者等)以外の他の当業者が認識していた事項であるか否か不明であるから、当該各証の直接的記載をもって、本件特許の出願(の優先日)当時の技術常識につき立証することができるとはいえない。
さらに、甲12の1に係る特許出願が、本件特許に係る出願の後に、当該出願の発明の進歩性欠如を理由として拒絶査定を受け、当該査定が確定したという事実が、直接的に本件訂正発明の進歩性の判断に影響を与えるものでもない。
してみると、当該甲12の1ないし5の記載に基づく請求人の上記弁駁書における主張を採用することはできない。
したがって、甲3発明において、相違点3’に係る本件訂正発明2の技術事項を適用することが容易であるということはできない。
よって、本件訂正発明2に係る無効理由2-2及び無効理由4については、いずれも理由があるとすることができない。

(2)無効理由2-1について
無効理由2-1は、甲1に記載された発明を主たる引用発明とし、甲9又は甲3の知見を組み合わせ、さらに甲5の知見を組み合わせることにより、本件訂正発明2につき当業者が容易に発明をすることができたとするものである。
なお、甲1については、本件特許に係る「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物」であるか否かについて疑義があるものであるが、仮に甲1を上記「刊行物」であるとした場合、甲1には、上記ア.で示した相違点3’に係る本件訂正発明2の技術事項が記載されているとは認められないから、甲1に記載されたいかなる発明を認定したとしても本件訂正発明2と対比したときに、少なくとも上記相違点3’に係る本件訂正発明2の技術事項の点で相違するといえる。
そして、上記相違点3’に係る本件訂正発明2の技術事項を甲1に記載された発明に適用することが容易想到であるとする根拠として、請求人が提示した甲5は取り下げられたものである。
また、請求人が提示した全証拠をみても、ほかに上記相違点3’に係る本件訂正発明2の技術事項についての想到容易性を認めるに足るものはない。
したがって、甲1に記載された発明において、相違点3’に係る本件訂正発明2の技術事項を適用することが容易であるということはできない。
よって、本件訂正発明2に係る無効理由2-1についても、理由があるとすることができない。

3.本件訂正発明2についての検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正発明2についての特許は、請求人が主張する理由及び証拠方法では無効とすることができず、ほかにこの特許を無効とすべき理由を発見しない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1に係る発明についての特許は、請求人主張の無効理由を検討するまでもなく、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
また、本件訂正後の請求項2に係る発明についての特許は、請求人が主張する理由及び証拠方法では無効とすることができない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第64条の規定により、その費用を2分し、その1を請求人が負担し、その余を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
積層体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂成形体の表面に10?150μmの厚みのアクリル系樹脂層が被覆された積層体において、該被覆層アクリル系樹脂が2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノールからなる紫外線吸収剤を含有し、かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=90?300を満足していることを特徴とする積層体。
【請求項2】
該積層体の被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂成形体の間に被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂がお互いくい込んだ混合層を有し、該混合層が厚み0.1?2μm、かつ波打ちの最大振幅が幅5mmあたり10μm以下であることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は耐候性に優れたポリカーボネート樹脂の積層体に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート樹脂は透明性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性などに優れ道路資材や建築材料などに広く用いられており今後も用途の拡大が期待されている。
しかしながらポリカーボネート樹脂は一般に耐候性が悪く屋外等紫外線に長期間さらされると黄変したり透明性が失われ、しかも機械強度も劣化するといった問題点があった。そこでポリカーボネート樹脂の耐候性を改良するための検討が様々になされている。ごく一般的にはポリカーボネート樹脂を劣化させる紫外線を吸収するため、ポリカーボネート樹脂に紫外線吸収剤を配合する方法が用いられている。しかしこの方法の場合には改良効果が不十分であるばかりか、紫外線吸収剤による着色や濁りが目立ち実用に適さない。
【0003】
そこでポリカーボネート樹脂そのものを改良するのではなく、ポリカーボネート樹脂の表面に耐候性のよい樹脂を被覆し紫外線から保護する方法が検討されている。そのなかでも紫外線吸収剤を多量に添加したアクリル系樹脂を共押出やラミネート等で表面を被覆する方法がよく用いられている(例えば、特公昭47-19119号公報、特開昭55-59929号公報、特公平6-41162号公報)。これはポリカーボネート樹脂を劣化させる紫外線を被覆樹脂層に配合した紫外線吸収剤で吸収し、基材部のポリカーボネート樹脂に紫外線が到達しないよう保護するものである。
【0004】
この方法により基材部ポリカーボネート樹脂自体は確かに紫外線から保護され得るが、紫外線吸収剤を被覆層樹脂に多量に添加する必要があるため、被覆層樹脂が濁ったり着色してしまう。その結果積層体全体で見たときの透明性が損なわれたり着色が目立つ等の問題があった。逆に被覆層樹脂の濁りや着色を防ぐため紫外線吸収剤の量を減らすと被覆層で紫外線を完全に吸収してしまうことができず、透過した紫外線によって基材部のポリカーボネート樹脂が黄変したり透明性が失われたり機械強度が低下するなど耐候性が悪かった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は耐候性と被覆層の着色及び透明性とを同時に改良されたポリカーボネート樹脂積層体を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明者らは鋭意検討の結果、特定の化合物からなる紫外線吸収剤が、従来より少量で紫外線吸収効果があることを見出し、この紫外線吸収剤を特定量配合した熱可塑性樹脂をポリカーボネート樹脂成形体の表面に被覆することによって上記問題点を解決できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明はポリカーボネート樹脂成形体の表面に10?150μmの厚みのアクリル系樹脂層が被覆された積層体において、該被覆層アクリル系樹脂がヒドロキシフェニルトリアジン系化合物からなる紫外線吸収剤を含有し、かつ被覆層アクリル系樹脂層厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=90?300を満足していることを特徴とする積層体である。また、該ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物が2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノールである積層体である。また、該積層体の被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂成形体の間に被覆アクリル系樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂がお互いくい込んだ混合層を有し、該混合層が厚み0.1?2μm、かつ波打ちの最大振幅が幅5mmあたり10μm以下であることを特徴とする積層体である。
【0008】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明でポリカーボネート樹脂成形体の表面に被覆される熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。このうち好ましくはポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は一種、または二種以上用いてもよく共重合体あるいは混合体であってもよい。これら被覆層熱可塑性樹脂には必要に応じて酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、離型剤、界面活性剤、分散剤、滑剤、光拡散剤、着色剤、無機フィラー、ガラス繊維、架橋剤、可塑剤等の各種添加剤等を含有させることもできる。
【0009】
該被覆層熱可塑性樹脂層の厚みは10?150μmが必要であり、好ましくは20?100μmである。10μm未満の場合均一な厚みでポリカーボネート樹脂成形体の表面に該被覆層熱可塑性樹脂を被覆させることが困難になり外観不良が発生する。また、150μmより厚い場合耐候性改良効果に有意差がないばかりか機械的強度など物性の低下が発生してきて問題となる。
【0010】
本発明で用いられるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物からなる紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-(2-ブトキシエトキシ)フェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジ-p-トルイル-6-(2-ヒドロキシ-4-(2-ヘキシルオキシエトキシ)フェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられるが特に2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノール〔別名2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン〕が好ましく、該紫外線吸収剤を添加する被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)=20?300、好ましくは30?100を満足することが必要である。即ち被覆層熱可塑性樹脂層の厚みが薄ければ被覆層中の紫外線吸収剤の濃度を濃くし、逆に被覆層熱可塑性樹脂層が厚い場合被覆層中の紫外線吸収剤濃度は薄くする必要がある。被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)の数値が20未満の場合被覆層での紫外線吸収効果が小さく紫外線が基材部ポリカーボネート樹脂に到達し劣化させてしまう。
一方この値が300を超えても耐候性改良効果に有意差がないばかりか被覆層熱可塑性樹脂が濁ったり着色してしまい、その結果積層体全体で見たときの透明性が損なわれたり着色が目立つ等の問題が発生してしまう。
【0011】
紫外線吸収剤を被覆層熱可塑性樹脂に混合する方法には特に制限はなく、ドラムブレンダーやヘンシルミキサーなどでドライブレンドする方法や、混合したあと押出機を通してペレット化する方法や被覆層熱可塑性樹脂を押出機を用いて押出ながら紫外線吸収剤を定量ポンプによって押出機に注入し押出機内部で混合する方法などのいずれを用いることもできる。
【0012】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、下記化1で表される繰り返し単位からなる主鎖を有する。
【化1】

(式中、Arは二価の芳香族残基であり、例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフィニレン、ピリジレンや、化2で表されるものが挙げられる。)
【0013】
【化2】

(式中Ar^(1)及びAr^(2)はそれぞれアリレーン基である。例えばフェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレン等の基を表し、Yは化3及び化4で表されるアルキレン基または置換アルキレン基である。)
【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

(式中R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)はそれぞれ水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基であって、場合によりハロゲン原子、アルコシ基で置換されていてもよく、kは3?11の整数であり、化4の水素原子は、低級アルキル基、アリール基、ハロゲン基等で置換されてもよい。)
【0016】
また、化5で示される二価の芳香族残基を共重合体成分として含有していてもよい。
【化5】

〔式中Ar^(1)、Ar^(2)は化2と同じ。Zは単なる結合、または、-O-、-CO-、-S-、-SO_(2)-、-CO_(2)-、-CON(R^(1))-、(R^(1)は前記と同様)等の二価の基である。〕これら二価の芳香族残基の例としては、下記化6及び化7で表されるもの等が挙げられる。
【0017】
【化6】

【0018】
【化7】

【0019】
(式中R^(5)及びR^(6)はそれぞれ水素、ハロゲン、C_(1)?C_(10)アルキル基、C_(1)?C_(10)アルコキシ基、C_(1)?C_(10)シクロアルキル基またはフェニル基である。m及びnは1?4の整数で、mが2?4の場合には各R^(5)はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2?4の場合は各R^(6)はそれぞれ同一でも異なるものであってもよい。)
【0020】
中でも、下記化8で表されるものが好ましい一例である。特に、下記化8をArとする繰り返しユニットを85モル%以上含むものが好ましい。
【化8】

【0021】
また、本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は、三価以上の芳香族残基を共重合成分として含有していてもよいし、脂肪族または芳香族のエステル成分を共重合成分として含有してもよい。
ポリマー末端の分子構造は特に限定されないが、ヒドロキシ基、アリールカーボネート基、アルキルカーボネート基から選ばれた1種以上の末端基を結合することができる。アリールカーボネート末端基は、下記化9で表され、具体例としては例えば化10が挙げられる。
【0022】
【化9】

(式中Ar^(3)は一価の芳香族残基であり、芳香環は置換されていてもよい。)
【0023】
【化10】

【0024】
アルキルカーボネート末端基は、下記化11で表され、具体例としては例えば下記化12等が挙げられる。
【化11】

(式中R^(7)は炭素数1?20の直鎖もしくは分岐アルキル基)
【0025】
【化12】

【0026】
これらの中で、フェニルカーボネート基、p-t-ブチルフェニルカーボネート基、p-クミルフェニルカーボネート基等が好ましく用いられる。またヒドロキシ基末端と他の末端との比率は特に限定されず、用途に応じて1:1000?1000:1の範囲で用いられる。
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂の分子量は特に限定されない。
【0027】
これらポリカーボネート樹脂は公知の方法で製造できる。具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応せしめる公知の方法、例えば芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンを水酸化ナトリウム水溶液及び塩化メチレン溶媒の存在下に反応させる界面重合法(ホスゲン法)、芳香族ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネートを反応させるエステル交換法(溶融法)、結晶化カーボネートプレポリマーを固相重合する方法(特開平1-158033、特開平1-271426、特開平3-68627)等の方法により製造できる。
【0028】
該ポリカーボネート樹脂には成形加工時の熱分解性や熱着色性を改良するため各種の酸化防止剤、熱安定剤を添加することもできる。また、必要に応じて紫外線吸収剤、難燃剤、光拡散剤、着色剤、無機フィラー、ガラス繊維、架橋剤、可塑剤その他各種添加剤を添加することもできる。
ポリカーボネート樹脂積層体の厚みは1?30mmが好ましく、更に好ましくは2?20mmである。
【0029】
ポリカーボネート樹脂成形体の表面に該紫外線吸収剤を配合した被覆層熱可塑性樹脂を被覆させる方法についても特に制限はない。例えば、基材部ポリカーボネート樹脂と該被覆層熱可塑性樹脂を同時に溶融押出してシート化する共押出法や、押出成形されたポリカーボネート樹脂成形体に紫外線吸収剤含有被覆層熱可塑性樹脂をTダイより溶融押出してラミネートする方法、あらかじめフイルム状に成形された紫外線吸収剤含有被覆層熱可塑性樹脂をポリカーボネート樹脂成形体の製造工程途中で加熱ロール等を用い該成形体表面にに連続的にラミネートする方法、シート状に成形されたポリカーボネート樹脂成形体とフイルム状に成形された該紫外線吸収剤含有被覆層熱可塑性樹脂をプレスで熱圧着する方法などを挙げることができる。
【0030】
また、本発明の積層体は被覆層熱可塑性樹脂層と基材部ポリカーボネート樹脂成形体の間に混合層が存在し、かつ該混合層を特定の形状、厚みに調整する必要がある。混合層は積層界面に必ず存在し、被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂の両成分がくい込んだ形で構成されている。
【0031】
本発明の積層体の混合層の成形形態としては被覆層熱可塑性樹脂及び基材部ポリカーボネート樹脂がともに溶融している状態で積層する場合、被覆層熱可塑性樹脂もしくは基材部ポリカーボネート樹脂のどちらかが溶融している状態で積層する場合、または被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂がともに溶融していない状態で積層する場合があるが、いずれの場合も被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂の層界面に樹脂圧等接着に寄与する力を得ることにより両層がくい込み合う現象が生じ接着された結果積層界面は被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂両樹脂の組成を持つ。
【0032】
積層体をつくる条件としては被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂がともに溶融した状態で積層する場合は両樹脂の流動性を合わせることが重要であり、例えば被覆層熱可塑性樹脂のメルトフローレイトは基材部ポリカーボネート樹脂のメルトフローレイトに対し0.5?2倍であることが好ましい。0.5倍未満では積層時被覆層熱可塑性樹脂が基材層ポリカーボネート樹脂を押し込み積層界面での専断応力が不均一になり混濁が発生する。また、2倍をこえると逆に被覆層熱可塑性樹脂が基材部ポリカーボネート樹脂に押し込まれ混濁したり被覆層熱可塑性樹脂が流れにくくなった部分で積層界面が波状になりスジ模様の外観不良が発生してしまう。また、被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂のどちらかが溶融した状態で積層する場合、溶融している樹脂の熱が溶融していない樹脂を溶融し相互にくい込み現象が発生し混合層をつくり接着するため温度や接着に寄与する外圧の調整に技術を要する。また、両樹脂ともに溶融していない状態で積層する場合は外部からの大きな圧力が必要となる。この場合には両樹脂の融点に近い温度が必要で、一般的に常温では混合層を形成するのは難しい。
【0033】
該混合層の厚みは0.1?2μmであることが好ましく、さらに好ましくは0.15?1.8μmの範囲である。0.1μm未満では実質的なくい込み現象が発生せず接合力が弱く積層体に曲げ加工や穴あけ加工等の二次加工を施したり長期使用によって接着層が簡単に剥がれてしまう。また2μmを超える場合は積層体表面が乱れ外観不良を呈しかつ機械強度等物性が低下する。
該混合層の波打ちの最大振幅は幅5mmあたり10μm以下であることが好ましい。より好ましくは5μm以下である。10μmを超えると外観不良や波打ちの凹凸部分に応力集中が発生した場合強度低下等物性低下が発生する。
【0034】
該混合層は前述のとおり被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂の混合層である。混合層の組成は好ましくは被覆層熱可塑性樹脂0.1?99.9重量%に対し基材部ポリカーボネート樹脂99.9?0.1重量%である。さらに好ましくは被覆層熱可塑性樹脂0.5?99.5重量%に対し基材部ポリカーボネート樹脂99.5?0.5重量%である。両樹脂が混合しない場合は混合層が生成せず被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂は接着しない。該混合比は混合層の厚み方向に段階的に変化していたほうが好ましい。
くい込み現象とは前述の被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂の混合状態に他ならず、混合することによって被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂がからみあうことをいう。
【0035】
【実施例】
以下に実施例、比較例を用いて本発明、およびその効果をさらに具体的に説明する。
なお、実施例及び比較例で用いた評価、試験方法を以下に示す。
(1)ヘイズ(H%)及び黄色度(YI)
JIS K7103に準拠して雰囲気温度23℃における試験片の透明性(曇りの度合)を示すヘイズ(H%)と試験片の着色を示す黄色度(YI)を測定した。
ヘイズ(H%)の値が大きいほど透明性がなく、この値が1%を超えると曇りが目立つ。また黄色度(YI)の値が大きいほど黄色味が強く、この値が4を超えると目視でも黄色味が目立つ。
【0036】
(2)耐候性試験
スガ試験機製のサンシャインウエザーメーターでサンシャインスーパーロングライフカーボンを使用し、温度63℃一定下、降雨無し2時間と降雨18分のサイクルを繰り返す条件で試験片を1000時間暴露した。
評価として暴露前の試験片からのヘイズと黄色度の変化を測定した。
ヘイズ差(ΔH%)=(暴露後のヘイズ)-(暴露前のヘイズ)
黄変度(ΔYI)=(暴露前の黄色度)-(暴露前の黄色度)
ヘイズ差(ΔH%)の値が大きいと初期値に比べて耐候性試験の結果曇りが大きくなったことを意味し、このヘイズ差(ΔH%)が2を超えると透明感の喪失が目視で明らかにわかる。また黄変度(ΔYI)の値が大きいと初期値に比べて耐候性試験の結果黄色味が濃くなった(着色した)ことを意味し、この黄変度(ΔYI)が4を超えると着色したことが目視で明らかにわかる。
【0037】
(参考例1)
被覆層熱可塑性樹脂として出光石油化学製ポリカーボネート樹脂(商品名;タフロンIV2500)、紫外線吸収剤として2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-(ヘキシル)オキシ-フェノール(チバガイギー社製:商品名;チヌビン1577FF)を用い、該ポリカーボネート樹脂97重量%と紫外線吸収剤3重量%をドラムブレンダー内で予備混合し、更に30mmベント付2軸押出機(ナカタニ機械製:商品名;A型)を用いて270℃で押出・造粒した。
【0038】
このようにして得られた紫外線吸収剤含有被覆層熱可塑性樹脂を東芝機械製、直径50mm、L/D=32の押出機を用い、同時に基材部となるポリカーボネート樹脂(出光石油化学製:商品名;タフロンIV2500)を東芝機械製、直径100mm、L/D=32の押出機を用い共押出によってポリカーボネート樹脂の両面に紫外線吸収剤含有被覆層熱可塑性樹脂が被覆された2種3層のポリカーボネート樹脂積層板を得た。共押出ダイはマルチマニホールド方式、ダイ設定温度は270℃、押出機シリンダー温度はいずれも290℃で実施した。被覆層熱可塑性樹脂層の厚みは片面30μmずつになるよう押出機の吐出量とダイの流量調整ボルトを調整することによって調整を行った。従ってこの場合被覆層熱可塑性樹脂層の厚み(μm)×被覆層中の紫外線吸収剤濃度(重量%)の数値は90となる。またダイから吐出された積層溶融樹脂は100℃に温調された艶付けロールによって板厚8mmに調整し、外観上良好な積層板を得た。得られた積層板の被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂両樹脂間には、日立製作所製超高分解能走査電子顕微鏡(型式:S-5000)を用い積層体断面を観察した結果、厚みが1μm、波打ちの最大振幅は2μmの接合層が確認された。この接合層を日本分光製レーザーラマン分光装置(型式:PE1700X)を用い該接合層に焦点を合わせ接合層中の組成分析を行った結果、被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂両方のピークが存在し、この接合層が被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂の混合層であることが確認された。
こうして得られたポリカーボネート樹脂積層板の評価結果を表1に示す。
【0039】
(参考例2?5)
被覆層熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂)に配合する紫外線吸収剤の量、被覆層熱可塑性樹脂層の厚みを表1に示す通りに変えた以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0040】
(実施例1)
被覆層熱可塑性樹脂の原料をアクリル樹脂(旭化成工業製:商品名;デルパウダ0H)に変更し、また共押出時の被覆層熱可塑性樹脂を押し出す押出機シリンダー温度を270℃に変更した以外は参考例1と同様にしてポリカーボネート樹脂積層板を得た。得られた積層板の被覆熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂両樹脂間には、日立製作所製超高分解能走査電子顕微鏡(型式:S-5000)を用い積層体断面を観察した結果、厚みが1μm、波打ちの最大振幅は2μmの接合層が確認された。この接合層を日本分光製レーザーラマン分光装置(型式:PE1700ーX)を用い該接合層に焦点を合わせ接合層中の組成分析を行った結果、被覆層熱可塑性樹脂と基材部ポリカーボネート樹脂両方のピークが存在し、この接合層が被覆層熱可塑性樹脂と基材符ポリカーボネート樹脂の混合層であることが確認された。
こうして得られたポリカーボネート樹脂積層板の評価結果を表1に示す。
【0041】
(実施例2?3、参考例6?7)
被覆層熱可塑性樹脂(アクリル樹脂)に配合する紫外線吸収剤の量、被覆層熱可塑性樹脂層の厚みを表1に示す通りに変えた以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
被覆層熱可塑性樹脂に紫外線吸収剤を配合せず参考例1と同様にポリカーボネート樹脂積層板を作製した。結果を表2に示すが、耐候性試験後の透明性が損なわれ黄変していることがわかる。
【0044】
(比較例2)
被覆層熱可塑性樹脂に配合する紫外線吸収剤を2,2-メチレンビス〔4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール〕(旭電化工業製:商品名;MARK LA-31)に変更した以外は参考例1と同様に実施した。結果を表2に示す。実施例1に比べ耐候性試験後の透明性が損なわれかつ黄変している。つまりMARK LA-31の場合には増量しなければ効果がないことを示している。
【0045】
(比較例3)
被覆層熱可塑性樹脂に配合する紫外線吸収剤を2-〔2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール(チバガイギー社製:商品名;TINUVIN 234)に変更した以外は参考例1と同様に実施した。結果を表2に示す。参考例1に比べ耐候性試験後の透明性が損なわれかつ黄変している。つまりTINUVIN234の場合も増量しなければ効果がないことを示している。
【0046】
(比較例4?7)
被覆層熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂)に配合する紫外線吸収剤の量、被覆層熱可塑性樹脂層の厚みを表2に示す通りに変えた以外は参考例1と同様に実施した。結果を表2に示す。いずれの例も初期の透失や着色が目立ったり、耐候性試験によって透明性が損なわれたり黄変したりしている。
【0047】
(比較例8?11)
被覆層熱可塑性樹脂(アクリル樹脂)に配合する紫外線吸収剤の量、被覆層熱可塑性樹脂層の厚みを表2に示す通りに変えた以外は実施例1と同様に実施した。結果を表2に示す。いずれの例も初期の透失や着色が目立ったり、耐候性試験によって透明性が損なわれたり黄変したりしている。
【0048】
【表2】

【0049】
【発明の効果】
本発明によればポリカーボネート樹脂の透明性や良好な外観を損なうことなく着色と耐候性が同時に改良され、屋外で使用される用途、分野への拡大が期待できる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-03-18 
結審通知日 2011-03-23 
審決日 2011-04-06 
出願番号 特願平8-191651
審決分類 P 1 113・ 121- ZD (B32B)
P 1 113・ 113- ZD (B32B)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
東 裕子
登録日 2007-01-19 
登録番号 特許第3904262号(P3904262)
発明の名称 積層体  
代理人 萼 経夫  
代理人 武井 英夫  
代理人 武井 英夫  
代理人 伴 知篤  
代理人 松井 佳章  
代理人 小山 京子  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 加藤 勉  
代理人 松井 佳章  

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