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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06N
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06N
審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 G06N
管理番号 1243656
審判番号 不服2009-10599  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-02 
確定日 2011-09-15 
事件の表示 特願2004-285457「解析支援システム及び解析支援プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月13日出願公開、特開2006- 99482〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成16年9月29日の出願であって、平成20年9月25日付けで拒絶理由が通知され、同年12月8日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたものの、平成21年4月3日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年6月2日に審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ、平成22年11月30日付けで当審より審尋がなされ、平成23年2月7日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成21年6月2日付けの手続補正について却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成21年6月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正

平成21年6月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、

「【請求項1】
複数の説明変数に関する多変量データ空間を解析する解析支援システムであって、
前記多変量データ空間に対して作成された構造方程式モデルに含まれる因果・相関関係情報を抽出する構造方程式モデリング手段と、
前記構造方程式モデリング手段により抽出された前記因果・相関関係情報に基づいて、モンテカルロ法を利用し、前記多変量データ空間に対してサンプリング点を発生するサンプリング点発生手段と、
ニューラルネットワークモデルを用いて、前記サンプリング点発生手段が発生させた前記サンプリング点から非線形回帰モデルを作成する非線形回帰手段と
を備えることを特徴とする解析支援システム。
【請求項2】
前記多変量データ空間を多変量データ空間を類型化した複数の部分領域に分割する類型化手段を更に備え、
前記構造方程式モデリング手段は、前記部分領域毎に因果・相関関係情報を抽出し、
前記サンプリング点発生手段は、前記部分領域毎にサンプリング点を発生することを特徴とする請求項1に記載の解析支援システム。
【請求項3】
複数の説明変数に関する多変量データ空間を解析する解析支援プログラムであって、
前記多変量データ空間に対して作成された構造方程式モデルに含まれる因果・相関関係情報を抽出する構造方程式モデリング処理と、
前記構造方程式モデリング処理により抽出された前記因果・相関関係情報に基づいて、モンテカルロ法を利用し、前記多変量データ空間に対してサンプリング点を発生するサンプリング点発生処理と、
ニューラルネットワークモデルを用いて、前記サンプリング点発生処理により発生した前記サンプリング点から非線形回帰モデルを作成する非線形回帰処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とする解析支援プログラム。」(以下、補正前の請求項」という。)

から

「【請求項1】
複数の説明変数に関する多変量データ空間を解析する解析支援システムであって、
前記多変量データ空間に対して作成された構造方程式モデルから説明変数、目的変数、及び潜在変数に関する測定方程式と当該測定方程式の相関構造から算出される変数間の相関関係を示す情報とを因果・相関関係情報として抽出し、抽出された因果・相関関係情報を記憶手段に記憶する構造方程式モデリング手段と、
前記記憶手段から前記因果・相関関係情報を読み出し、読み出された前記因果・相関関係情報に基づいて、モンテカルロ法を利用して前記説明変数間の相関構造を満足する説明変数の値を複数生成し、生成した説明変数の値と当該説明変数の値に対応する目的変数の値をサンプリング点として発生し、発生させたサンプリング点を前記記憶手段に記憶するサンプリング点発生手段と、
前記記憶手段から前記サンプリング点を読み出し、読み出されたサンプリング点を用いてニューラルネットワークモデルのモデルパラメータを同定することにより、前記説明変数と前記目的変数を結ぶ非線形回帰モデルを作成する非線形回帰手段と
を備えることを特徴とする解析支援システム。
【請求項2】
前記多変量データ空間を類型化することにより多変量データ空間を複数の部分領域に分割する類型化手段を更に備え、前記構造方程式モデリング手段は、前記部分領域毎に因果・相関関係情報を抽出し、前記サンプリング点発生手段は、前記部分領域毎にサンプリング点を発生することを特徴とする請求項1に記載の解析支援システム。
【請求項3】
複数の説明変数に関する多変量データ空間を解析する解析支援プログラムであって、
前記多変量データ空間に対して作成された構造方程式モデルから説明変数、目的変数、及び潜在変数に関する測定方程式と当該測定方程式の相関構造から算出される変数間の相関関係を示す情報とを因果・相関関係情報として抽出し、抽出された因果・相関関係情報を記憶手段に記憶する構造方程式モデリング処理と、
前記記憶手段から前記因果・相関関係情報を読み出し、読み出された前記因果・相関関係情報に基づいて、モンテカルロ法を利用して前記説明変数間の相関構造を満足する説明変数の値を複数生成し、生成した説明変数の値と当該説明変数の値に対応する目的変数の値をサンプリング点として発生し、発生させたサンプリング点を前記記憶手段に記憶するサンプリング点発生処理と、
前記記憶手段から前記サンプリング点を読み出し、読み出されたサンプリング点を用いてニューラルネットワークモデルのモデルパラメータを同定することにより、前記説明変数と前記目的変数を結ぶ非線形回帰モデルを作成する非線形回帰処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とする解析支援プログラム。」(以下、補正後の請求項」という。)

に補正された。

2.本件補正について
(1)補正事項
(補正1)
請求項1の構造方程式モデリング手段に関して、補正前の「構造方程式モデルに含まれる因果・相関関係情報を抽出する」から、補正後は「構造方程式モデルから説明変数、目的変数、及び潜在変数に関する測定方程式と当該測定方程式の相関構造から算出される変数間の相関関係を示す情報とを因果・相関関係情報として抽出し、抽出された因果・相関関係情報を記憶手段に記憶する」とする補正。
(補正2)
請求項1のサンプリング点発生手段に関して、補正前の「モンテカルロ法を利用し、前記多変量データ空間に対してサンプリング点を発生する」から、補正後の「前記記憶手段から前記因果・相関関係情報を読み出し、・・・・・・・モンテカルロ法を利用して前記説明変数間の相関構造を満足する説明変数の値を複数生成し、生成した説明変数の値と当該説明変数の値に対応する目的変数の値をサンプリング点として発生し、発生させたサンプリング点を前記記憶手段に記憶する」とする補正。
(補正3)
請求項1の非線形回帰手段に関して、補正前の「ニューラルネットワークモデルを用いて、前記サンプリング点発生手段が発生させた前記サンプリング点から非線形回帰モデルを作成する」から、補正後の「前記記憶手段から前記サンプリング点を読み出し、読み出されたサンプリング点を用いてニューラルネットワークモデルのモデルパラメータを同定することにより、前記説明変数と前記目的変数を結ぶ非線形回帰モデルを作成する」とする補正。
(補正4)
請求項2について、「前記多変量データ空間を多変量データ空間を類型化した」から、補正後の「前記多変量データ空間を類型化することにより多変量データ空間を」とする補正。

また、請求項4についての補正は、請求項1についての補正1?3と同趣旨のものである。

(2)補正の適否(特許法第17条の2第3項)
補正1に対して、審判請求書において、「出願当初の明細書の段落0060,0062の記載に基づき、因果関係情報とは説明変数、目的変数、及び潜在変数に関する測定方程式である旨、相関関係情報とは測定方程式の相関構造から算出される変数間の相関関係を示す情報である旨を明確にした。」と主張している。
上述の事項に関し、当初明細書の記載には、次のように記載されている。

(当初明細書記載事項)
A.「【0021】
次に、ステップS102において、類型化した設計空間の各部分領域に対して、それぞれ構造方程式モデリングを行い、構造方程式モデルに含まれる、それぞれの部分領域の多変量間に潜む因果・相関関係情報を抽出する。ここで、「因果関係」とは、一の変数が他の変数に影響を与える関係を指し、「相関関係」とは、一の変数と他の変数がお互いに影響を与える関係を指す。
【0022】
具体的には、図4に示すように、四角い枠で表わされた観測変数のうち、説明変数群X1、X2、…と、目的変数群Y1、Y2、…間の統計モデルを、楕円で囲った潜在変数を介して作成する。各変数間の結びつきには因果関係の有無や相関関係の有無の組み合わせにより非常に多くの可能性があるが、モデル適合度を指標として、共分散構造分析を繰り返すことにより多変量データの関連構造を調べ、適合度の高い構造方程式モデルを抽出する。ここで、各変数間のダイアグラムと、パス係数値および相関係数値から、各変数の因果・相関関係情報を抽出することが可能である。」

B.「【図4】本実施形態に係る構造方程式モデリングを説明するための図である(その1)。」

また、審判請求書の請求人の主張に関連する記載として、当初明細書の段落【0037】以降には、構造方程式モデリングについての一般的な説明がなされている。
その項目と関連する記載を追っていく。
C.「【0037】
-構造方程式モデリングについて-
(1)構造方程式モデリングの概要
【0039】
構成概念を扱う代表的な分析法に因子分析がある。一方、因果関係を扱う分析法には回帰分析やパス解析がある。ただ、因子分析は構成概念と観測値の間の関係を明らかにするもので、因果関係を扱わない。一方、回帰分析やパス解析は観測変数の間の因果関係を扱うだけで、構成概念は扱わない。これに対して構造方程式モデリングは、観測変数と構成概念の両方を扱って、その因果関係を明らかにする。その意味で、構造方程式モデリングは因子分析と回帰分析をいったいにした分析法と理解することができる。
(2)構造方程式モデリングの特徴
(3)変数の分類
(4)パラダイアグラム
(5)測定方程式
(5-1)潜在変数
観測変数間に相関をもたらす潜在した共通原因を構成概念という。構成概念とは、とりあえずその存在を仮定することによって、複雑に込み入った現象を比較的単純に理解することを目的として構成した概念である。潜在した共通原因のために観測変数の間に相関が生じる現象を表現するために、測定方程式モデル(因子分析モデル)を用いることができる。
(中略)
平均偏差でなくxiを表現した測定方程式は、次式のように表される。
【0060】
x = μ + A f + e
(中略)
(5-2)測定方程式の共分散・相関構造
構造方程式は以下のように表現できる。
【0062】
Σ = E[(x -μ)(x -μ)’ ] = E[v v’ ]
= E[(A f + e)(A f + e)’ ] = E[(A f + e)(A’ f
’ + e’ )]
= A E[ f f ’ ] A ’ + E[e f ’ ] A ’ + A E[ f e ’ ] A
’ + E[e e ’ ]
= A E[ f f ’ ] A ’ + E[e f ’ ] A ’ + E[e e ’ ]
= A Σrf A ’ + Σe

(6)観測変数の構造方程式
(7)潜在変数の構造方程式モデル
(7-1)構造方程式モデル
これまで潜在変数(構成概念)の測定方程式と、観測変数の構造方程式について定義してきた。ここでは、測定方程式と構造方程式を統合した潜在変数の構造方程式モデルを論じる。
(以下、省略)」

(上記記載事項についての考察)
上記A.Bの記載によれば、「「因果関係」とは、一の変数が他の変数に影響を与える関係を指し、「相関関係」とは、一の変数と他の変数がお互いに影響を与える関係を指す。」「ここで、各変数間のダイアグラムと、パス係数値および相関係数値から、各変数の因果・相関関係情報を抽出することが可能である。」と記載され、図4の説明として「四角い枠で表わされた観測変数のうち、説明変数群X1、X2、…と、目的変数群Y1、Y2、…間の統計モデルを、楕円で囲った潜在変数を介して作成する。各変数間の結びつきには因果関係の有無や相関関係の有無の組み合わせにより非常に多くの可能性がある・・・」と記載されている。
これらの記載から理解されることは、「因果関係」や「相関関係」は、一の変数が他の変数に影響を与える関係のことであり、影響を与える方向が一方向のものを「因果関係」と呼び、相互に影響するものを「相関関係」と呼んでいることである。
そして、これらの記載からは、「因果関係」とは、変数間の関係のことであるから、「因果関係情報」が「測定方程式」のことであると把握することはできない。このように、「因果・相関関係情報」とは「説明変数、目的変数、及び潜在変数に関する測定方程式と当該測定方程式の相関構造から算出される変数間の相関関係を示す情報」を指すことは示されていないし、また、自明な事項であるとは認められない。

次に「測定方程式」に関しては、上記Cに記載されている事項を要約する。
・構成概念を扱う代表的な分析法に因子分析がある。因子分析は因果関係を扱わない。(【0039】)
・因果関係を扱う分析法には回帰分析やパス解析がある。回帰分析やパス解析は概念を扱わない。(【0039】)
・構造方程式モデリングは因子分析と回帰分析をいったいにした分析法と理解することができる。(【0039】)
・潜在した共通原因のために観測変数の間に相関が生じる現象を表現するために、測定方程式モデル(因子分析モデル)を用いることができる。(【0057】)
・測定方程式 x = μ + A f + e (【0060】)
・測定方程式の共分散・相関構造としての構造方程式(【0062】)
・潜在変数(構成概念)の測定方程式と、観測変数の構造方程式について定義してきた。ここでは、測定方程式と構造方程式を統合した潜在変数の構造方程式モデルを論じる。(【0080】)

本願明細書の段落【0037】以降には、構造方程式モデリングについての一般的な説明がなされているが、その中では、測定方程式とは、因果関係を扱わない因子分析モデルとして説明されている。また、潜在変数の構造方程式モデルとは、潜在変数(構成概念)の測定方程式と、観測変数の構造方程式を統合したものとして説明されている。しかしながら、構造方程式モデルから測定方程式及び相関関係情報を抽出することは記載されていない。また、測定方程式とは、因果関係情報と同一のものであることは記載されて無く、また、そのことを示唆する記載も見当たらない。従って、本願明細書の段落【0037】以降には、因子分析モデルとしての測定方程式は示されるものの、構造方程式モデルから測定方程式を抽出する点は記載されていないし、その点が自明なものでもない。

従って、補正1は、上記A,Bの記載及び上記Cに記載された構造方程式モデリングに関する一般的技術事項を考慮しても、当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものとは認められない。

(補正2について)
サンプリング点の発生に関しては、当初明細書には次の記載がある。

D.「【0028】
次に、ステップS103において、構造方程式モデリングにより得られた各部分領域に対する因果・相関結果に基づいて、図6に示すように、モンテカルロシミュレーションを実施し、部分領域に対してサンプリング点を発生する。ここでは、特定の説明変数Xと特定の目的変数Yとの関係に対して、サンプリング点の発生を複数行っている。」

補正2では、「説明変数間の相関構造を満足する説明変数の値を複数生成し」としているが、上記Dの記載によれば、「特定の説明変数Xと特定の目的変数Yとの関係に対して、サンプリング点を発生」しているだけであるから、説明変数間の相関構造を満足する説明変数の値を複数生成することは記載されて無く、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものとは認められない。

以上のとおり、本件補正は、少なくとも補正1,2について当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものでないから、特許法第17条の2第3項の規定を満たしていない。

なお、審判請求人は、平成23年2月7日付けで提出した回答書において、上記補正1の箇所について、「前記説明変数のそれぞれの間の因果関係または相関関係、前記説明変数と目的変数との間の因果関係、並びに前記説明変数及び前記目的変数のそれぞれと前記潜在変数との間の因果関係に対して、構造方程式モデリングによる数値化を複数回実施して生成した構造方程式モデルの中から、適合度の高い対象構造方程式モデルを抽出し、抽出された前記対象構造方程式モデルを記憶手段に記憶する構造方程式モデリング手段」とする補正案を提示しているので、この点について付言する。
まず、回答書補正案の性質、およびその扱いについて、平成22年(行ケ)第10190号(判決言い渡し平成23年4月27日)では、次のように判示している。
「審判手続の過程で請求人の提出した書面に記載された意見の当否について,審決において,個々的具体的に理由を示すことを義務づけた法規はない。したがって,審決において,請求人の提出に係る回答書(補正案が添付記載されている。)について,その当否について,個々的具体的な理由を示さなかったとしても,当然には裁量権の濫用又は逸脱となるものではない。
上記「審尋」と題する書面によれば,同書面は,(1)前置報告書の内容を示して,審判手続は,同報告書の内容を踏まえて実施する方針を伝え,(2)請求人に対して意見を求めた書面であると認められる。したがって,上記書面に沿って,請求人が,補正案の記載された回答書を提出したからといって,審判合議体において,請求人の提出した補正案の記載された回答書の内容を,当然に審理の対象として手続を進めなければならないものではなく,また,審決の理由中で,請求人の提出した回答書の当否を個別具体的に判断しなければならないものではない。」
上記判事事項が示すとおり、回答書補正案について、審判合議体が検討する必要はないが、一応の見解を述べておく。
本件の拒絶査定は、特許法第36条第6項第2号だけでなく、特許法第29条第1項柱書きの要件についてもなされている。請求人は請求項の記載を「抽出された因果・相関関係情報を記憶手段に記憶する」「前記記憶手段から前記因果・相関関係情報を読み出し」「発生させたサンプリング点を前記記憶手段に記憶する」「前記記憶手段から前記サンプリング点を読み出し」とし、ハードウエア資源としての記憶手段を用いてソフトウエアによる情報処理が実現されている点を主張している。
ところで、ソフトウエア関連発明が自然法則を利用した技術的思想の創作であるといえるためには、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」ことが必要である。ここで、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」とは、ソフトウエアがコンピュータに読み込まれることにより、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法が実現されることをいう。
これに対し、処理の途中結果となる中間データ等を一時的に記憶手段に記憶することは、如何なるソフトウエアを実行する際にもコンピュータが当然に実行していることに過ぎず、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働して使用目的に応じた処理手段を実現されているとは言えない。
従って、前記の回答書補正案によって、直ちに拒絶の理由が解消するものではない。

(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.補正却下を踏まえた検討

1.本願発明
平成21年6月2日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成20年12月8日付け手続補正書で補正された明細書及び図面からみて、その請求項1?3に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の説明変数に関する多変量データ空間を解析する解析支援システムであって、
前記多変量データ空間に対して作成された構造方程式モデルに含まれる因果・相関関係情報を抽出する構造方程式モデリング手段と、
前記構造方程式モデリング手段により抽出された前記因果・相関関係情報に基づいて、モンテカルロ法を利用し、前記多変量データ空間に対してサンプリング点を発生するサンプリング点発生手段と、
ニューラルネットワークモデルを用いて、前記サンプリング点発生手段が発生させた前記サンプリング点から非線形回帰モデルを作成する非線形回帰手段と
を備えることを特徴とする解析支援システム。
【請求項2】
前記多変量データ空間を多変量データ空間を類型化した複数の部分領域に分割する類型化手段を更に備え、
前記構造方程式モデリング手段は、前記部分領域毎に因果・相関関係情報を抽出し、
前記サンプリング点発生手段は、前記部分領域毎にサンプリング点を発生することを特徴とする請求項1に記載の解析支援システム。
【請求項3】
複数の説明変数に関する多変量データ空間を解析する解析支援プログラムであって、
前記多変量データ空間に対して作成された構造方程式モデルに含まれる因果・相関関係情報を抽出する構造方程式モデリング処理と、
前記構造方程式モデリング処理により抽出された前記因果・相関関係情報に基づいて、モンテカルロ法を利用し、前記多変量データ空間に対してサンプリング点を発生するサンプリング点発生処理と、
ニューラルネットワークモデルを用いて、前記サンプリング点発生処理により発生した前記サンプリング点から非線形回帰モデルを作成する非線形回帰処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とする解析支援プログラム。」

2.原査定の拒絶の理由の概要

平成20年9月25日付けの拒絶理由通知の概要は、以下のとおりである。

「 理 由

1.この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。
2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない

[理由1]
本願の請求項1,6に係る発明は、設計空間に対して構造方程式モデルを作成し、該構造方程式モデルに含まれる因果・相関関係情報を抽出し、前記因果・相関関係情報に基づいてモンテカルロ法を利用し、前記設計空間に対してサンプリング点を発生し、ニューラルネットワークモデルを用いて前記サンプリング点から非線形回帰モデルを作成するものであるが、当該設計空間の解析手順は、数学及び人為的な取決めのみに基づいたものであって、自然法則を利用したものではない。また、「設計空間に対して構造方程式モデルを作成」する動作は、人間が行う処理を含むものであるから、当該請求項に係る発明は、人間の精神活動を利用したものであって、この観点からしても自然法則を利用したものではない。
そして、当該解析手順における解析対象は、何らかの対象の物理的性質や技術的性質を反映したものではなく、また、請求項1,6においては、当該解析手順に係る処理を単に「手段」又は「プログラム」と表現しているにすぎず、当該各処理が、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によって実現されていることを何ら特定していないから、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているとも認められない。
したがって、請求項1-6に係る発明は特許法第29条第1項柱書にいう自然法則を利用した技術的思想の創作にあたるとは言えず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。

[理由2]
(1)請求項1,6において、「設計項目」、「設計空間」、「因果・相関関係情報」、及び「サンプリング点」なる各用語の意味するところが技術的に不明確である。
(2)請求項1,6の「前記設計空間に対して構造方程式モデルを作成し、該構造方程式モデルに含まれる因果・相関関係情報を抽出する」について、どのような情報をどのように用いて、どのような演算を行って「設計空間に対して構造方程式モデル」を作成するのか不明確である。また、どのようにして「構造方程式モデル」から「因果・相関関係情報」を抽出するのか不明確である。
(3)請求項1,6の「前記因果・相関関係情報に基づいて、モンテカルロ法を利用し、前記設計空間に対してサンプリング点を発生する」について、「モンテカルロ法」の具体的な処理内容が不明確であり、「因果・相関関係情報」をどのように用いて、どのようにして「設計空間に対してサンプリング点」を発生するのか不明確である。
(4)請求項1,6の「ニューラルネットワークモデルを用いて、前記サンプリング点から非線形回帰モデルを作成する」について、「サンプリング点」を用いて、「ニューラルネットワークモデル」の入力と出力に対してそれぞれどのような教師データを与え、どのようにして「非線形回帰モデル」を作成するのか不明確である。」

これに対し、平成20年12月8日付け意見書で、次のように主張している。

「(3)[理由2]について
(3-1)[理由2](1)?(4)について、
審査官殿は、拒絶理由通知書の[理由2](1)欄において、“「設計項目」、「設計空間」、「因果・相関関係情報」、及び「サンプリング点」なる各用語の意味するところが技術的に不明確である”とご説示されています。そこで特許出願人は、出願当初明細書の段落0020、0022、及び図4の記載に基づいて「設計項目」及び「設計空間」をそれぞれ「説明変数」及び「多変量データ空間」と補正致しました。なお設計空間Xの多変量データに対して、説明変数Xと潜在変数と目的変数Yから構成される構造方程式モデリングを適用する時、抽出される因果相関関係は明らかです。具体的には、出願当初明細書の図4に示すパスの係数が回帰係数、双方向矢印が相関係数を示します。このため、入力Xが与えられた時に図4に示すような因果相関関係を用いて出力Yを算出できることは自明であり、設計空間内の入力Xについて、Yを出力してサンプリング点を生成できることは公知の内容です。なおサンプリング点とは、出願当初明細書の段落0028に記載されています通り、説明変数Xと目的変数Yとの関係に対して図6に示すように発生させている点を意味します。以上のことから特許出願人は、「因果・相関関係情報」及び「サンプリング点」につきましては、各用語の意味するところが技術的に明確であると判断し、補正は致しませんでした。また拒絶理由通知書の[理由2](2)?(4)欄において審査官殿が指摘されている各事項は、本願発明の出願時点で既に公知な内容であるので(例えば文献1(小島降矢著,“Excelで学ぶ共分散構造分析とグラフィカルモデリング”,pp.92-139(オーム社))、文献2(廣畑賢治 他著,“カルマンフィルタ及び多重仮説検定を用いた応答曲面近似式の高精度化手法の提案”,機論,A,vol.69, no.683, pp1057-1065(2003.7))、文献3(安居院猛著,“ニューラルプログラム”,昭晃堂,pp.11-17(1993.7))参照)、当業者であれば容易に理解することができ明確であると思料致します。なお文献1には、構造方程式モデリングにより因果関係や相関関係を抽出する方法が記載されている。また文献2には、回帰式(応答曲面近似式)からサンプリング点を生成する方法が記載されている。また文献3には、ニューラルネットワークによる入力Xと出力Yの非線形回帰方法が記載されている。」

また、平成21年4月3日付け拒絶査定の備考の欄には、以下の事項が記載されている。

「・理由1
請求項1-3

出願人は、平成20年12月8日付け意見書において、「手続補正書により、「設計空間に対して構造方程式モデルを作成する」という構成要件を請求項1,6から削除すると共に、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によって実現されていることを特定するように請求項1,6の記載を補正致しました。」と述べている。
しかしながら、本件補正後の請求項1-3における「多変量データ空間を解析」する処理は、構造方程式モデルで因果・相関関係を抽出し、その因果・相関関係からモンテカルロシミュレーションでサンプリング点を生成した上でニューラルネットワークにより非線形回帰演算を行う、という数学的な計算手順を示したものであるから、自然法則を利用したものとは認められない。
そして、本件補正後の請求項1,2には、「構造方程式モデリング手段」、「サンプリング点発生手段」、「非線形回帰手段」等の機能手段を備えることを特定する記載がなされているものの、いずれの機能手段を特定する記載も、「構造方程式モデルに含まれる因果・相関関係情報を抽出」し、「サンプリング点を発生」し、「非線形回帰モデルを作成」する、という数学的な処理操作自体を単に「手段」と表現しているにすぎないものであり、それらの各処理操作を行うためにハードウェア資源をどのように用いているのか何ら特定していないから、結局、ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されたものが記載されているとは認められない。
また、本件補正後の請求項3には、「コンピュータ」を用いることの記載は認められるものの、単に「コンピュータ」を用いるということのみをもって、上記各処理操作がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているとはいえない。
したがって、本件補正後の請求項1-3に記載されたものは特許法第29条第1項柱書にいう自然法則を利用した技術的思想の創作にあたるとは言えず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。」

・理由2.(1)
請求項1-3

出願人は、上記意見書において、「説明変数Xと潜在変数と目的変数Yから構成される構造方程式モデリングを適用する時、抽出される因果相関関係は明らかです。具体的には、出願当初明細書の図4に示すパスの係数が回帰係数、双方向矢印が相関係数を示します。」及び「なおサンプリング点とは、出願当初明細書の段落0028に記載されています通り、説明変数Xと目的変数Yとの関係に対して図6に示すように発生させている点を意味します。」と述べている。
しかしながら、図4に示す「回帰係数」及び「相関係数」と、「因果・相関関係情報」との関係が不明確であるから、依然として「因果・相関関係情報」とは何を指すのか不明確である。また、本件補正後の請求項1-3には、「サンプリング点」とは、「説明変数Xと目的変数Yとの関係に対して図6に示すように発生させている点」であることについて何ら記載がないから、依然として「サンプリング点」とは何を指すのか不明確である。

・理由2.(3)(4)
請求項1-3

本件補正後の請求項1-3の「モンテカルロ法を利用し」及び「ニューラルネットワークモデルを用いて」について、「モンテカルロ法」をどのように利用するのか、また、「ニューラルネットワークモデル」をどのように用いるのか、依然として不明確である。
(以下、省略)


3.当審の判断
(1)特許法第29条第1項柱書きについて
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)における「多変量データ空間を解析」する処理手法は、構造方程式モデルで因果・相関関係を抽出し、その因果・相関関係からモンテカルロシミュレーションでサンプリング点を生成した上でニューラルネットワークにより非線形回帰演算を行う、という数学的な計算手順を示したものであるから、自然法則を利用したものとは認められない。
また、ソフトウエア関連発明が自然法則を利用した技術的思想の創作であるといえるためには、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」ことが必要である。ここで、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」とは、ソフトウエアがコンピュータに読み込まれることにより、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法が実現されることをいう。
これに対し、処理の途中結果となる中間データ等を一時的に記憶する記憶手段や入力手段や出力手段を設けることは、コンピュータが当然に有している形態に過ぎず、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働して使用目的に応じた処理手段を実現されているとは言えない。
本願発明では、「構造方程式モデリング手段」、「サンプリング点発生手段」、「非線形回帰手段」等の機能手段を備えることを特定する記載がなされているものの、いずれの機能手段を特定する記載も、「構造方程式モデルに含まれる因果・相関関係情報を抽出」し、「サンプリング点を発生」し、「非線形回帰モデルを作成」する、という数学的な処理操作自体を単に「手段」と表現しているにすぎないものであり、それらの各処理操作を行うためにハードウェア資源をどのように用いているのか何ら特定していないから、結局、ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されたものが記載されているとは認められない。

(2)特許法第36条第6項第2号について

本願明細書、図4,5および平成20年12月8日付け意見書からみて、請求項に記載された「因果・相関関係情報」というのは、「因果関係情報」と「相関関係情報」からなり、「因果関係情報」とは、図4では一方向の矢印で示される因果関係のことであり、図5では一方向で示されるパス係数のことと認められる。また、「相関関係情報」とは、図4では、双方向の矢印で示される相関関係のことであり、図5では、双方向の矢印で示される相関係数のことと認められる。
なお、上記意見書には「図4に示すパスの係数が回帰係数、双方向矢印が相関係数を示します。」と記載されているが、図4には「パスの係数」は記載されていないし、本願明細書には「回帰係数」なる用語は存在しないから、本願発明との関係において何を主張しているのか不明である。
請求項1には、「前記因果・相関関係情報に基づいて、モンテカルロ法を利用し、前記多変量データ空間に対してサンプリング点を発生する」と記載されている。
上述のように、「因果・相関関係情報」を、一方向の矢印で示される因果関係又はパス係数及び双方向の矢印で示される相関関係又は相関係数と捉えたときに、「多変量データ空間に対するサンプリング点」が図6に示される目的変数と設計変数(説明変数)の間のサンプリング点であるとしても、この「因果・相関関係情報」に基づいて、どのようにしてサンプリング点を発生するのか、依然として不明である。
従って、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

4.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であることを要件とする特許法第2条に規定する「発明」に該当せず、特許法第29条第1項柱書の規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。
また、本願は、特許請求の範囲の記載は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-29 
結審通知日 2011-07-05 
審決日 2011-07-25 
出願番号 特願2004-285457(P2004-285457)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G06N)
P 1 8・ 14- Z (G06N)
P 1 8・ 561- Z (G06N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北川 純次  
特許庁審判長 吉岡 浩
特許庁審判官 石井 茂和
▲吉▼田 美彦
発明の名称 解析支援システム及び解析支援プログラム  
代理人 三好 秀和  

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