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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1243664
審判番号 不服2010-6067  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-19 
確定日 2011-09-15 
事件の表示 特願2004-109047号「電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月20日出願公開、特開2005-294627号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成16年4月1日の出願であって、平成21年12月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、明細書及び特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

II.平成22年3月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「電子部品が実装されている配線基板と、
前記配線基板を支持する本体及び、蓋部を備えた筐体と、
前記筐体の本体と前記蓋部において対向するようにそれぞれ絞り加工することで一体に形成された凸状の接続部と、
前記配線基板のネジ穴を設けた接地部とを備え、
前記接続部と前記接地部とをネジ止めすることにより電気的に接続することを特徴とする電子機器。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、補正前の請求項1(平成21年8月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である、「凸状の接続部」について、「絞り加工することで一体に形成され」るとの限定を付加したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
(1)特開2003-188571号公報
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-188571号公報(以下、「引用例1」という。)には、「プリント基板シールド装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【0016】先ず、図1は、本発明によるプリント基板シールド装置の第1実施形態の分解斜視図である。このプリント基板用シールド装置は、プリント基板に形成された複数の回路ブロック相互間をシールドするものである。このプリント基板シールド装置10は、プリント基板20、導電性の上面シールドカバー30および導電性の下面シールドカバー40により構成される。後述する如く、プリント基板20は、上面シールドカバー30および下面シールドカバー40によりサンドイッチ状に挟んでプリント基板シールド装置10に組み立てられる。
【0017】プリント基板20は、例えば送信回路、受信回路およびその他の回路等の複数のブロック21A、21Bおよび21Cに分割され、各ブロック21A?21Cに、上述の如き回路ブロックが配置形成される。このプリント基板20の一面(例えば、図1中の上面)には、実質的に全面にグランド(接地)用の導電層22が形成されている。一方、プリント基板20の他面(下面)には、上述したブロック21A?21Cの周縁部に沿って又は各ブロック21A?21Cを包囲する如くグランドパターン25が形成されている。また、プリント基板20の一面(上面)の導電層22には、スルーホール24の近傍を除き、各ブロック21A?21Cの境界に沿ってスリット23が形成されている。そして、プリント基板20の他面のグランドパターン25内には、複数のIC等の能動素子および受動素子により各回路ブロックが配置形成される。
【0018】上面シールドカバー30および下面シールドカバー40は、実質的にプリント基板20と同じ寸法形状である。これら両シールドカバー30、40には、それぞれプリント基板20の外周およびブロック21A?21Cの境界に対応する同じ位置に仕切板31、41が形成されている。更に、これら両シールドカバー30、40の仕切板31、41のコーナーおよび交差部には、それぞれねじ穴32、42が形成されている。」
イ.「【0021】図2(A)に示す如く、上面シールドカバー30の仕切板31とプリント基板20の上面の導電層22が接触する部分にはスリット23が形成されているので、左右の導電層22は分離されている。但し、図2(B)に示す如く、貫通ねじ50が取り付けられている部分の導電層22は、下面シールドカバー40および上面シールドカバー30と仕切板31、41において接触している。また、プリント基板20の上面に形成された導電層22および下面に形成されたグランドパターン25は、内面に導電層を有するめっきされたスルーホール24により接続される。」

これら記載事項(及び図示内容)を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「送信回路、受信回路およびその他の回路等が形成されているプリント基板20と、
前記プリント基板20を支持する下面シールドカバー40及び、上面シールドカバー30を備えた筐体と、
前記筐体の下面シールドカバー40と前記上面シールドカバー30において対向するように形成された凸状の仕切板31、41と、
前記プリント基板20に、めっきされたスルーホール24、プリント基板20の上面に導電層22、下面にグランドパターン25を備え、
前記仕切板31、41と、スルーホール24、導電層22、グランドパターン25が形成されたプリント基板20とをネジ止めすることにより電気的に接続するプリント基板シールド装置。」

(2)特開昭63-81954号公報
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-81954号公報(以下、「引用例2」という。)には、「半導体装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ウ.「半導体回路素子21.22は、例えばセラミック製の回路基板又はプリント基板回路に、半導体素子をパッケージに収容せず露出した状態(チップのまゝ)で取付け、CR部品なども取付けて増幅回路、発振回路、ミキサ回路などを構成させたものである。キャップ12で密封封止するのは、半導体素子が裸の状態にある等による。また高周波発振回路は周囲に電波を放出し、増幅回路などはこれを拾って誤動作、S/N劣化、歪発生などの問題を生じる恐れがあるが、容器11を小部屋に区分し各小部屋に増幅回路、発振回路を個々に収容し、キャップ12で密閉して相互を完全隔離するのは、上記の電波漏洩による悪影響を回避するためである。即ち容器及びキャップ12は金属製であるからこれらで密閉されゝば充分に電波遮蔽され、発振回路収容小部屋から電波が増幅回路収容小部屋へ漏洩することはない。」(第2ページ左上欄第6行?右上欄第2行)
エ.「しかしながらこの従来の容器構造では容器が高価になり、また作業性がよくない。即ち容器11は厚い(例えば10mm厚)アルミニウム、銅、または鉄などの金属板を切削して小部屋を作るという方法をとっているが、これでは手間がかゝり、加工費及び材料費が大になる。小部屋は、図面では直方体の単純な形状のものを示したが、回路整合を確保するため比較的複雑な形状を持つ場合もあり、この場合は加工の手間が一層大になる。」(第2ページ右上欄第4行?第12行)
オ.「これによれば、高周波領域回路を形成する半導体回路素子を収容する容器本体とキャップからなる容器において、キャップ側に間仕切りを設けるようにしてこれを絞り加工で作るので、容器本体側に複雑な切削加工を施す必要がなくなり、ローコストの容器を提供することができる。また容器本体側は平板状であるから半導体回路素子の搭載、細線接続等の組立作業が容易になり、特殊な組立装置を使用する必要がなくなる。こうして半導体装置の小型、軽量化と、量産性の著しい向上が得られ、コスト低減に寄与することができる。」(第2ページ左下欄第17行?右下欄第9行)

(3)特開2002-252491号公報
カ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電子機器の各素子、各回路間の電波干渉や、機器への電波入射、機器からの電波放射を防止するためのシールドケース、このシールドケースの製造方法、及びこのシールドケースが実装される電子機器に関する。」
キ.「【0022】シールドケース30の材料は板金ではなく、導電性線材、例えば鋼線を格子状に編み込んだメッシュ材料が使用される。メッシュの網の目サイズは波長の100分の1以下であれば十分なシールド効果が得られることが知られている。シールドケース30はメッシュ材料を絞り成形により製造される。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「送信回路、受信回路およびその他の回路等が形成されているプリント基板20」は、その意味又は機能などからみて、前者の「電子部品が実装されている配線基板」に相当し、以下同様に、「下面シールドカバー40」は「本体」に、「上面シールドカバー30」は「蓋部」に、「仕切板31、41」は「接続部」に、「プリント基板20に、めっきされたスルーホール24、プリント基板20の上面に導電層22、下面にグランドパターン25を備え」は「配線基板のネジ穴を設けた接地部とを備え」に、「仕切板31、41と、スルーホール24、導電層22、グランドパターン25が形成されたプリント基板20とをネジ止めすることにより電気的に接続する」は「接続部と前記接地部とをネジ止めすることにより電気的に接続する」に、「プリント基板シールド装置」は「電子機器」にそれぞれ相当する。したがって、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は、
[一致点]
「電子部品が実装されている配線基板と、前記配線基板を支持する本体及び、蓋部を備えた筐体と、前記筐体の本体と前記蓋部において対向するように形成された凸状の接続部と、前記配線基板のネジ穴を設けた接地部とを備え、
前記接続部と前記接地部とをネジ止めすることにより電気的に接続することを特徴とする電子機器。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明は、凸状の接続部が本体と蓋部をそれぞれ絞り加工することで一体に形成されたものであるのに対し、引用発明は、凸状の接続部が筐体の下面シールドカバー40と上面シールドカバー30に形成された凸状の仕切り板31,41である点。

4.判断
上記相違点について検討する。
電子回路からの電波を遮蔽するために、導電作用を備えると共に仕切りを有する蓋部材を用いること、及びその蓋部材を絞り加工することで仕切りを形成することは、引用例2(上記ウ.?オ.を参照)及び引用例3(上記カ.キ.を参照)に見られるように周知の技術に過ぎない。
コスト低減、組み立て作業の容易化は、当業者が普通に考慮する技術課題であり、引用発明において上記技術課題を解決する手段として引用例2及び引用例3に記載の周知技術を適用し、下面シールドカバー40,上面シールドカバー30を絞り加工して、凸状の接続部を一体に形成することは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得ることである。また、接続部を一体形成する際に、接続部の形状を円錐台形状、矩形状等、どのようなものとするかは、配線基板上の空間の大きさ等を考慮して当業者が適宜決定すべき設計事項に過ぎない。

そして、本願補正発明の効果も、引用例1に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「本願発明(審決注:本審決における「本願補正発明」に対応する。以下同様)は、『絞り加工することで一体に形成された凸状の接続部』を備えます。この構成は、引用文献1(審決注:本審決における「引用例1」に対応する。以下同様)及び2(審決注:特開2000-252676号公報。以下同様)に記載も示唆もされていません。この構成上の差異により本願発明は、例えば、接続部が筐体又は蓋部と別パーツである従来の電子機器と比べて、インピーダンスのばらつきを極力低減できるだけでなく、電子部品から漏れ出すノイズを低減できるという従来よりも有利で異質な効果を奏します。具体的には、本願発明は、従来の電子機器を構成する接続部の溶接具合又は組み立て具合によらずにインピーダンスをより安定化できるという効果を奏します。また、本願発明は、接続部のネジ止めによる装着具合によらずにノイズをより安定的に遮断又は低減できるという効果を奏します。つまり、本願発明によれば、測定時期に関わらず、安定したインピーダンス及びノイズの低減効果を発揮できるだけでなく、電子機器間(個体間)でのノイズ遮断及びインピーダンスのバラつきを軽減できます。
また、本願発明は、『絞り加工することで一体に形成された凸状の接続部』を備えます。一方で、引用文献1は、板形状の仕切り板31及び32を開示するだけであって、絞り加工により形成された形状の仕切り板31及び32については記載も示唆もしていません。この構成上の差異により、本願発明は、従来の電子機器に比べ、電子部品を搭載した配線基板から発せられる熱をこもらせ難い(つまり、放熱し易い)という有利で異質な効果を奏します。特に、本願発明によれば、配線基板上に空間をより広く確保できるため、配線基板上の熱がエアフロー及びシールド板である板金を通じて効率良く放熱されます。」と記載することにより、本願補正発明は「絞り加工することで一体に形成された凸状の接続部」を備えることで、インピーダンスのばらつきを低減する効果、配線基板から発せられる熱をこもらせない効果、を奏するものであることを主張している。
しかしながら、本願明細書には、筐体から放射されるノイズ(不要輻射)の低減という技術課題についての記載はあるものの、インピーダンスのばらつき、配線基板から発せられる熱についての技術課題については記載されておらず、当該審判請求人の主張は後付けの主張であって採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成21年8月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「電子部品が実装されている配線基板と、
前記配線基板を支持する本体及び、蓋部を備えた筐体と、
前記筐体の本体と前記蓋部において対向するようにそれぞれ設けられた凸状の接続部と、
前記配線基板のネジ穴を設けた接地部と、
前記接続部と前記接地部とをネジ止めすることにより電気的に接続することを特徴とする電子機器。」

2.引用例の記載事項
引用例1の記載事項並びに引用発明は、前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.1.の本願補正発明から、「凸状の接続部」についての限定事項である「絞り加工することで一体に形成され」るとの事項を省いたものであり、本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「送信回路、受信回路およびその他の回路等が形成されているプリント基板20」は、その意味又は機能などからみて、前者の「電子部品が実装されている配線基板」に相当し、以下同様に、「下面シールドカバー40」は「本体」に、「上面シールドカバー30」は「蓋部」に、「仕切板31、41」は「凸状の接続部」に、「プリント基板20に、めっきされたスルーホール24、プリント基板20の上面に導電層22、下面にグランドパターン25を備え」は「配線基板のネジ穴を設けた接地部とを備え」に、「仕切板31、41と、スルーホール24、導電層22、グランドパターン25が形成されたプリント基板20とをネジ止めすることにより電気的に接続する」は「接続部と前記接地部とをネジ止めすることにより電気的に接続する」に、「プリント基板シールド装置」は「電子機器」にそれぞれ相当し、本願発明と引用発明とに相違点はない。
したがって、本願発明と引用発明とには、相違する点がないのであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明である。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、その出願日前に日本国内において頒布された引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-14 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-03 
出願番号 特願2004-109047(P2004-109047)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
P 1 8・ 113- Z (H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川内野 真介  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 所村 陽一
川上 溢喜
発明の名称 電子機器  
代理人 片山 修平  

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