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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1243681
審判番号 不服2010-21218  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-21 
確定日 2011-09-15 
事件の表示 特願2005-309928「フィルム状接着剤および該接着剤からなる接続部材」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月23日出願公開、特開2006- 77258〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成8年4月25日になされた特願平8-105270号(以下「原出願」という。)の一部を平成17年10月25日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成21年 8月21日付け 拒絶理由通知
平成21年10月21日 意見書・手続補正書
平成22年 6月14日付け 拒絶査定
平成22年 9月21日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成22年 9月29日付け 手続補正指令
平成22年11月 4日 手続補正書(審判請求理由補充書)
平成22年11月 9日付け 前置審査移管
平成22年12月17日付け 前置報告書
平成22年12月24日付け 前置審査解除
平成23年 1月31日付け 審尋
平成23年 4月 1日 回答書

第2 平成22年9月21日付け手続補正の却下の決定

<補正の却下の決定の結論>
平成22年9月21日付けの手続補正を却下する。

<理由>
I.補正の内容
上記手続補正(以下「本件補正」という。)では、特許請求の範囲につき以下の補正がなされている。

1.補正前
「【請求項1】
硬化剤と反応性を有する2種以上の接着剤成分よりなる反応性接着剤において、硬化剤と該硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、それぞれマイクロカプセル化してなり、
硬化剤がイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、2-フェニルイミダゾリウム・イソシアヌレート及び2,4-ジアミノ-6-{2-ウンデシルイミダゾリル-(1)}-エチル-s-トリアジンから選ばれるイミダゾール系であり、第1の接着剤成分がトリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノフェニルメタン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシロキサン、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、ヘキサグリシジルメシチレントリアミン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アモノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、イソプロピル(ドデシルベンゼンスルホニル)4-アミノベンゼンスルホニルチタネート及びイソプロピルイソステアロイルジ4-アミノベンゾイルチタネートから選ばれるアミノ化合物であり、
硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分がビスフェノール型エポキシ樹脂である、フィルム状接着剤。
【請求項2】
硬化剤と反応性を有する2種以上の接着剤成分よりなる反応性接着剤において、硬化剤と該硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、それぞれマイクロカプセル化してなり、
硬化剤がカチオン性熱重合開始剤であり、第1の接着剤成分がビニルシクロヘキセンジエポキシド、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル─3,4─エポキシシクロヘキサンカルボキシレート及びβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランから選ばれる脂環式エポキシ化合物であり、
硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分がビスフェノール型エポキシ樹脂である、フィルム状接着剤。
【請求項3】
硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分をマイクロカプセル化し、第1の接着剤成分に比べ当該硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分中に含有してなる請求項1又は2に記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
片面にマイクロカプセル化された硬化剤含有層を形成し、他の面に硬化剤と最も反応性の高いマイクロカプセル化された第1の接着剤成分含有層を形成してなる請求項1、2又は3に記載の複層構造のフィルム状接着剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のフィルム状接着剤に対し、0.1?20体積%の導電粒子を含有してなる接続部材。
【請求項6】
導電粒子が表面絶縁処理粒子である請求項5に記載の接続部材。」
(以下、各請求項毎に「旧請求項1」?「旧請求項6」という。)

2.補正後
「【請求項1】
硬化剤と反応性を有する2種以上の接着剤成分よりなる反応性接着剤において、硬化剤と該硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、それぞれマイクロカプセル化してなり、
硬化剤がイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、2-フェニルイミダゾリウム・イソシアヌレート及び2,4-ジアミノ-6-{2-ウンデシルイミダゾリル-(1)}-エチル-s-トリアジンから選ばれるイミダゾール系であり、第1の接着剤成分がトリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノフェニルメタン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシロキサン、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン及びヘキサグリシジルメシチレントリアミンから選ばれるアミノ化合物であり、
硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分が、加水分解性塩素が300ppm以下であるビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂である、フィルム状接着剤。
【請求項2】
硬化剤と反応性を有する2種以上の接着剤成分よりなる反応性接着剤において、硬化剤と該硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、それぞれマイクロカプセル化してなり、
硬化剤がカチオン性熱重合開始剤であり、第1の接着剤成分がビニルシクロヘキセンジエポキシド、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート及びβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランから選ばれる脂環式エポキシ化合物であり、
硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分が、加水分解性塩素が300ppm以下であるビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂である、フィルム状接着剤。
【請求項3】
硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分をマイクロカプセル化し、第1の接着剤成分に比べ当該硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分中に含有してなる請求項1又は2に記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
片面にマイクロカプセル化された硬化剤含有層を形成し、他の面に硬化剤と最も反応性の高いマイクロカプセル化された第1の接着剤成分含有層を形成してなる請求項1、2又は3に記載の複層構造のフィルム状接着剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のフィルム状接着剤に対し、0.1?20体積%の導電粒子を含有してなる接続部材。
【請求項6】
導電粒子が表面絶縁処理粒子である請求項5に記載の接続部材。」
(以下、各請求項毎に「新請求項1」?「新請求項6」という。)

II.補正事項に係る検討

1.新規事項の追加の有無
そこで、まず、上記新請求項1?新請求項6に記載された各事項が、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものかにつき検討すると、上記各新請求項における記載事項は、全ての事項につき上記明細書又は図面に記載されているか、上記明細書又は図面に記載された事項に基づき当業者に一応自明な事項のみである。
したがって、上記手続補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内で行われたものである。

2.補正の目的の適否
次に、上記手続補正は、特許請求の範囲に係るものであるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる改正前の(以下「平成18年改正前」という。)特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。
上記手続補正では、旧請求項1における「第1の接着剤成分」の並列的選択枝の一部を削除すると共に、旧請求項1及び旧請求項2につき明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき「硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分」が「加水分解性塩素が300ppm以下であるビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂である」と限定して、新請求項1及び2としている。
そして、旧請求項3ないし6につき、引用関係及び記載事項は従前どおりとして、新請求項3ないし6としている。
してみると、旧請求項1から新請求項1への補正については、旧請求項1に記載されている「第1の接着剤成分」の並列的選択枝の一部を削除するとともに、「硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分」につき「加水分解性塩素が300ppm以下であるビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂である」と種類を限定し新請求項1とするものであって、旧請求項1に記載された発明と新請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲を限定的に減縮するものである。
また、旧請求項2から新請求項2への補正についても、旧請求項2に記載されている「硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分」につき「加水分解性塩素が300ppm以下であるビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂である」と種類を限定し、新請求項2とするものであって、旧請求項2に記載された発明と新請求項2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲を限定的に減縮するものである。
そして、旧請求項3ないし6から新請求項3ないし6への各補正についても、旧請求項3ないし6がいずれも旧請求項1又は2を引用するものであり、引用関係は従前どおりであるから、引用関係の被引用項である上記旧請求項1又は2の新請求項1又は2への減縮に伴い、特許請求の範囲を限定的に減縮するものといえる。
したがって、上記手続補正に係る補正事項は、いずれも特許請求の範囲を限定的に減縮しているものであるから、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

3.独立特許要件
上記2.のとおり、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新請求項1?6に記載されている事項で特定される各発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、特に新請求項1に記載されている事項で特定される発明につき検討する。

(1)新請求項1に係る発明
新請求項1に係る発明は、再掲すると以下のとおりの記載事項により特定されるものである。
「硬化剤と反応性を有する2種以上の接着剤成分よりなる反応性接着剤において、硬化剤と該硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、それぞれマイクロカプセル化してなり、
硬化剤がイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、2-フェニルイミダゾリウム・イソシアヌレート及び2,4-ジアミノ-6-{2-ウンデシルイミダゾリル-(1)}-エチル-s-トリアジンから選ばれるイミダゾール系であり、第1の接着剤成分がトリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノフェニルメタン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシロキサン、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン及びヘキサグリシジルメシチレントリアミンから選ばれるアミノ化合物であり、
硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分が、加水分解性塩素が300ppm以下であるビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂である、フィルム状接着剤。」(以下「本件補正発明」という。)

(2)独立特許要件に係る当審の判断
しかるに、上記本件補正発明は、下記の理由により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

理由:本件補正後の本願は、本件補正発明に係る新請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項に規定する要件を満たしていないものであって、同法第49条第4号に該当し拒絶すべきものであるから、結局、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。



ア.前提
特許法第36条第6項には、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、同条同項第1号には、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定されている。
そして、特許請求の範囲の記載が、上記「第1号」に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するものであるか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照。)から、以下当該観点に基づいて検討する。

イ.本件補正発明の解決課題
本件補正後の本願明細書(以下「本件補正明細書」という。)の発明の詳細な説明の【発明が解決しようとする課題】には、
「接続部材が必要とする保存性と速硬化性の両立は、近年の接着作業の自動化の著しい進展により要求がますます厳しくなっている。例えば保存性は従来の冷蔵もしくは冷凍保管から、接着作業雰囲気である常温保存で2ヵ月以上である。また速硬化性は従来の170℃20秒程度であるのに対し、170℃10秒以下といった短時間硬化が生産性の向上から求められている。さらに加えて130℃20秒以下といった低温短時間硬化の要求が強い。これは低温硬化が可能であると、例えば液晶や配向膜等の周辺部材に対する熱損傷の防止に有効であり、またプラスチックフィルムやガラスエポキシ等の回路基板の熱膨張による接続時の電極の位置ずれの防止からも重要である。すなわち接続部材として、近年では保存性と低温速硬化性の両立が要求されるが、従来のマイクロカプセル型硬化剤のみの手法では対応が困難になっている。本発明はかかる状況に鑑みなされたもので、保存性と低温速硬化性の両立が可能なフィルム状接着剤およびこれらを用いた接続部材を提供するものである。」
と記載されていることからみて、本件補正発明の解決しようとする課題は、
「接着作業雰囲気である常温保存で2ヵ月以上程度の保存性と170℃10秒以下、さらに加えて130℃20秒以下といった低温速硬化性の両立が可能な接着剤組成物もしくはフィルム状接着剤およびこれらを用いた接続部材の提供」
にあるものと認められる。

ウ.検討
本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載につき、その技術的意味などを検討し、当該記載に基づき、上記課題が解決できると当業者が認識できるものであるか否かについて検討する。

(ア)実施例などに係る記載について
a.本件補正明細書の発明の詳細な説明の実施例などに係る記載(【0033】?【0041】)では、「実施例1」ないし「実施例10」、「比較例1」ないし「比較例4」、「参考例1」及び「参考例2」なる実験例が記載されている。
しかるに、「実施例3」及び「比較例2」を除く他の実験例は、いずれも本件補正発明に係る新請求項1に記載された事項を具備しないものである(「実施例1?2」、「実施例4?10」及び「比較例1」は特定のアミノ化合物を、「参考例1?2」及び「比較例3?4」はイミダゾール化合物を、いずれも使用していない。)。

b.また、「実施例3」及び「比較例2」に係る記載(【0036】)には、「実施例3は、良好な保存性と信頼性の両立を得た。比較例2・・の場合、活性温度が116℃に低下し反応性の向上が得られた」と記載されている。
しかるに、上記「活性温度」は、本件補正明細書の発明の詳細な説明(【0017】)からみて、接着剤成分と硬化剤との配合物を試料としてDSCを用いて測定した発熱ピーク温度であるものと解されるところ、本件補正発明で使用する「第1の接着剤成分」である「アミノ化合物」は、一分子中に(第3級)アミノ基とエポキシ基を有するものであり、技術常識からみて、自己硬化性(すなわち硬化剤とは無関係に硬化反応が生起する物性)を有する蓋然性が高いものである(必要ならば下記参考文献参照)から、当該「第1の接着剤成分」である「アミノ化合物」のマイクロカプセル化の有無を問わず、当該「アミノ化合物」に特有の自己硬化に係る「活性温度」が測定値として得られるものと認められる。
してみると、上記「実施例3」及び「比較例2」に係る「反応性」の尺度である「活性温度」は、本願補正発明に係る「低温速硬化性」及び「保存性」との技術的対応関係が存するとはいえない事項である。
(なお、マイクロカプセル化潜在性硬化剤の「活性温度」についてのみは、当該「活性温度」なる温度条件により「潜在性」が解除される(マイクロカプセルが破壊され周りのエポキシ樹脂と接触・硬化反応が開始される)ことを意味するから、本件補正発明に係る「低温速硬化性」及び「保存性」との技術的対応関係が存することが当業者に自明である。)
さらに、上記「実施例3」につき検討すると、本件補正発明で使用する「第1の接着剤成分」である「アミノ化合物」は、技術常識からみて、自己硬化性を有する蓋然性が高いものであるから、マイクロカプセル化された「アミノ化合物」につき保存中にマイクロカプセル中において(自己)硬化反応が生起・完了している可能性が高く、長期保存後のマイクロカプセル化された「アミノ化合物」は、当該「アミノ化合物」の(自己)硬化反応が完了した硬化物を核とするマイクロカプセル化物となっていることが当業者に自明である。
(なお、比較例2の記載からみて、フィルム状接着剤の常温保存による接着特性の変化は、マイクロカプセル化されていない「第1の接着剤成分」である「アミノ化合物」の(自己)硬化反応の生起・進行及び当該「アミノ化合物」と「第2の接着剤成分」であるビスフェノール型エポキシ樹脂との硬化共重合反応の生起・進行により起こっていることが当業者に自明であるから、「アミノ化合物」の(自己)硬化は常温においても生起するものと認められる。)
してみると、「実施例3」における上記「アミノ化合物」は、常温における長期(例えば2か月以上)保存後において(自己)硬化反応が完了した硬化物であり、それ以上に「硬化剤」と(硬化)反応性を有するものとはいえず、保存性を信頼性測定により検知する際の「実施例3」に係るフィルム状接着剤における「アミノ化合物」は、本件補正発明でいう「硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分」に該当するとはいえない。

c.なお、上記実施例などに係る記載からみて、実験例の全てにおいて、「130℃-20kg/cm^(2)-20秒」なる接続条件による接続信頼性試験が行われており、少なくとも保存初期においては、いずれも接続信頼性につき良好であるものと解されるから、全ての実験例(実施例、比較例及び参考例)において、「低温速硬化性」なる効果のみは達成されているものと認められる。

d.上記a.ないしc.を総合すると、本件補正明細書の発明の詳細な説明の実施例などに係る記載を検討しても、本件補正発明が上記解決課題に係る「常温保存で2ヵ月以上程度の保存性と130℃20秒以下といった低温速硬化性の両立」なる効果を達成することができると当業者が認識することができるとはいえない。

参考文献1:新保正樹編「エポキシ樹脂ハンドブック」昭和62年12月25日、日刊工業新聞社発行、第99?101頁

(イ)実施例などに係る部分以外の記載について
本件補正明細書の発明の詳細な説明には、「第1の接着剤成分」に関連して、以下のa.?c.の事項が記載されている。
a.「本発明は、硬化剤と反応性を有する2種以上の接着剤成分よりなる反応性接着剤において、硬化剤と、その硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、それぞれマイクロカプセル化してなるフィルム状接着剤である。硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、第1の接着剤成分に比べ当該硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分から隔離してなるフィルム状接着剤に関し、硬化剤と、該硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分をそれぞれマイクロカプセル化して隔離し、第1の接着剤成分に比べ当該硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分中に含有してなるフィルム状接着剤、もしくは片面にマイクロカプセル化した硬化剤含有層を形成し、他の面にマイクロカプセル化した硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分含有層を形成してなる複層構造のフィルム状接着剤に関するものである。」(【0006】)
b.「マイクロカプセル3における核1は、硬化剤と最も反応性を有する第1の接着剤成分である。これらはメルカプト化合物やポリアミド化合物、水、酸などがある。これらは一般的な選択の目安として、第2の接着剤成分と混合した時に常温でも速やかに反応するものがよく、また以下に述べるように硬化剤に対し特別に速硬化性を示すものがより好ましい。
硬化剤がイミダゾール系の場合、第1の接着剤成分がアミノ化合物が好ましい。アミノ化合物としては、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノフェニルメタン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシロキサン、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、ヘキサグリシジルメシチレントリアミン等のグリシジルアミン樹脂類、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アモノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤類、イソプロピル(ドデシルベンゼンスルホニル)4-アミノベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジ4-アミノベンゾイルチタネート等のシランカップリング剤類を例示できる。」(【0018】?【0019】)
c.「本発明においては、硬化剤と最も反応性を有する第1の接着剤成分を他の接着剤成分から隔離してなるので、従来困難であった長期保存性と低温速硬化性という矛盾した特性の両立が可能となる。第1の接着剤成分は硬化剤と最も反応性を有し、例えば爆発的に反応が進み反応系全体に対し起爆剤として作用するので、組成物全体の反応性が著しく向上する。また隔離手段がマイクロカプセルの場合、硬化剤と最も反応性を有する第1の接着剤成分をマイクロカプセル化し、第1の接着剤成分に比べ当該硬化剤との反応性に劣る第2の接着剤成分中に前記マイクロカプセルを含有してなる接着剤であり、マイクロカプセルなのでフィルム状接着剤全体への分散性がよく、均一反応が得られ安定した特性が得られる。硬化剤のみをマイクロカプセル化する従来の手法では、被覆層の欠陥を考慮すると、このような硬化剤と最も反応性を有する第1の接着剤成分の導入は、保存性と低温速硬化性の両立が工業的に困難であったが、本発明により可能となる。また本発明の形態である硬化剤もまたマイクロカプセルしているので、長期保存性と低温速硬化性である本発明の効果が一層大きく期待できる。」(【0032】)

しかるに、上記b.の「硬化剤と最も反応性を有する第1の接着剤成分である。これらはメルカプト化合物やポリアミド化合物、水、酸などがある。これらは一般的な選択の目安として、第2の接着剤成分と混合した時に常温でも速やかに反応するものがよく、また以下に述べるように硬化剤に対し特別に速硬化性を示すものがより好ましい」なる記載からみて、「第1の接着剤成分」は、「第2の接着剤成分と混合した時に常温でも速やかに反応するもの」であるから、「第2の接着剤成分」の「硬化剤」とでも称呼すべきものである。それに対して、「第1の接着剤成分」として例示されている「メルカプト化合物やポリアミド化合物、水、酸」は、技術常識からみて、いずれもイミダゾール系化合物などの「硬化剤」と直接(硬化)反応するものではないから、「硬化剤と最も反応性を有する第1の接着剤成分」なる表現では、いかなる事項を基準として「第1の接着剤成分」を選定するのか技術的意義が不明である。
また、上記c.の「硬化剤のみをマイクロカプセル化する従来の手法では、被覆層の欠陥を考慮すると、このような硬化剤と最も反応性を有する第1の接着剤成分の導入は、保存性と低温速硬化性の両立が工業的に困難であったが、本発明により可能となる」なる記載からみて、「第1の接着剤成分」をマイクロカプセル化したからといって、当該マイクロカプセルが、上記「従来の手法」における「被覆層の欠陥」を有するのであれば、上記で説示したとおり、当該「第1の接着剤成分」が「第2の接着剤成分」の「硬化剤」として働くのであるから、保存中であっても「第1の接着剤成分」と「第2の接着剤成分」との硬化反応が生起し、依然として「保存性と低温速硬化性の両立が工業的に困難」であろうことは、当業者に自明である。そして、仮に、「第1の接着剤成分」のマイクロカプセル化を完全に(被覆層の欠陥がないように)行えるのであれば、「硬化剤」についても同様に行えるであろうから、そもそも「硬化剤のみをマイクロカプセル化する従来の手法では、保存性と低温速硬化性の両立が工業的に困難」であったことを技術的に説明することができないものと解される。
なお、特に本件補正発明の場合につき検討すると、上記(イ)のb.で説示したとおり、使用される「第1の接着剤成分」である「アミノ化合物」は、技術常識からみて、常温であっても自己硬化性を有する蓋然性が高いものであり、常温における長期(例えば2か月以上)保存後において(自己)硬化反応が完了した硬化物であることから、当該(自己)硬化反応が完了した硬化物である「第1の接着剤成分」が、保存後のフィルム状接着剤の「低温速硬化性」の改善につき寄与できるものと認めることができない。
してみると、本件補正明細書の発明の詳細な説明の「第1の接着剤成分」に関連する上記a.?c.の記載を当業者が技術常識に照らして検討したとしても、本願補正発明に係る「硬化剤と該硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、それぞれマイクロカプセル化してな」ることを具備することにより、上記解決課題に係る「常温保存で2ヵ月以上程度の保存性と130℃20秒以下といった低温速硬化性の両立」を達成することができると当業者が認識することができるとはいえない。
また、本件補正明細書の発明の詳細な説明の他の記載を検討しても、本件補正発明1が、上記解決課題に係る「常温保存で2ヵ月以上程度の保存性と130℃20秒以下といった低温速硬化性の両立」を達成することができると当業者が認識することができるとはいえない。

(ウ)小括
以上を総合すると、本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、さらに当業界の技術常識に照らしても、新請求項1に記載された特許を受けようとする発明が、上記解決課題に係る「常温保存で2ヵ月以上程度の保存性と130℃20秒以下といった低温速硬化性の両立」を達成することができると当業者が認識することができるとはいえない。

エ.まとめ
したがって、新請求項1に記載された発明は、本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記本件補正発明の課題を解決できると当業者が認識できるものであるとはいえず、また、(原)出願時の当業界の技術常識に照らしたとしても、上記発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるということができないから、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
よって、新請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、本件補正後の本願は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない。

(3)独立特許要件に係るまとめ
以上のとおり、本願の新請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものでなく、本件補正後の本願は、同法同条同項に規定する要件を満たしていないから、特許法第49条第4項の規定に該当し、拒絶すべきものであって、本願の新請求項1に係る本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

III.補正の却下の決定のまとめ
以上のとおりであるから、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で読み替えて準用する同法第126条第5項に違反する補正事項を含むものであるから、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成22年9月21日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は平成21年10月21日付け手続補正により補正された本願明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりの下記のものである。
「【請求項1】
硬化剤と反応性を有する2種以上の接着剤成分よりなる反応性接着剤において、硬化剤と該硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、それぞれマイクロカプセル化してなり、
硬化剤がイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1─シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、2-フェニルイミダゾリウム・イソシアヌレート及び2,4-ジアミノ-6-{2-ウンデシルイミダゾリル-(1)}-エチル-s-トリアジンから選ばれるイミダゾール系であり、第1の接着剤成分がトリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノフェニルメタン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシロキサン、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、ヘキサグリシジルメシチレントリアミン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アモノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、イソプロピル(ドデシルベンゼンスルホニル)4-アミノベンゼンスルホニルチタネート及びイソプロピルイソステアロイルジ4-アミノベンゾイルチタネートから選ばれるアミノ化合物であり、
硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分がビスフェノール型エポキシ樹脂である、フィルム状接着剤。
【請求項2】
硬化剤と反応性を有する2種以上の接着剤成分よりなる反応性接着剤において、硬化剤と該硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分を、それぞれマイクロカプセル化してなり、
硬化剤がカチオン性熱重合開始剤であり、第1の接着剤成分がビニルシクロヘキセンジエポキシド、ビニルシクロヘキセンモノエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル─3,4─エポキシシクロヘキサンカルボキシレート及びβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランから選ばれる脂環式エポキシ化合物であり、
硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分がビスフェノール型エポキシ樹脂である、フィルム状接着剤。
【請求項3】
硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分をマイクロカプセル化し、第1の接着剤成分に比べ当該硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分中に含有してなる請求項1又は2に記載のフィルム状接着剤。
【請求項4】
片面にマイクロカプセル化された硬化剤含有層を形成し、他の面に硬化剤と最も反応性の高いマイクロカプセル化された第1の接着剤成分含有層を形成してなる請求項1、2又は3に記載の複層構造のフィルム状接着剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のフィルム状接着剤に対し、0.1?20体積%の導電粒子を含有してなる接続部材。
【請求項6】
導電粒子が表面絶縁処理粒子である請求項5に記載の接続部材。」
(以下、請求項の項番に従い、「本願発明1」?「本願発明6」という。)

第4 原審の拒絶査定の概要
原審において、平成21年8月21日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「理由1
・・(中略)・・
理由2
この出願の請求項1?8に係る発明は、同日出願された下記の出願Fに係る発明と同一と認められ、かつ、下記の出願Fに係る発明は特許されており協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。

・・(中略)・・
F.特願平8-105270
・・(中略)・・
2 理由2について
引用発明(この出願のもとの出願に係る発明:特許第3755614号)は、本願請求項1?8に係る発明と同一のものと認められる。

理由3
この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)・・(中略)・・
(2) 請求項1に係る発明のフィルム状接着剤について、明細書の発明の詳細な説明には、従来の課題を解決しつつこの発明の課題・目的を解決・達成し、所期の効果を得るための手段として、本願請求項1に記載された発明特定事項を採用したことが一応記載されるものの、その発明特定事項を採用することの有効性を示すための具体例としては、実施例において極めて限定的な(成分組成の)接着フィルム例が示されるにとどまり、そして、このような極めて限定的な具体例のみをもって、請求項1に係るであれば、発明の詳細な説明に記載されている発明の課題・目的を解決・達成することができ、発明の詳細な説明に記載されている効果を得ることができることを的確に裏付けているとは到底いうことができない。
その他、発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明特定事項と、発明の詳細な説明に記載されている発明の課題・目的及び効果との関係を裏付けるに足る記載は存在しない。
そうすると、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明特定事項と、発明の詳細な説明に記載されている発明の課題・目的及び効果との関係について、特許出願時において、当業者に理解できる程度に記載するものではなく、また、このような関係が当業者の技術常識であるとも認められない。
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された事項及び本願出願時の技術常識からは、従来の課題を解決しつつこの発明の課題・目的を解決・達成し、所期の効果を得るために、請求項1に係る発明であれば、所望の効果が得られると当業者において認識することができないから、発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明が記載されているということはできず、結局、特許請求の範囲の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであるというほかはない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項についても同様である。

したがって、この出願の特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件及び「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件に適合しないから、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
・・(後略)」

<拒絶査定>
「この出願については、平成21年8月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由2及び3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
1 理由2(特許法第39条第2項関係)について
・・(中略)・・

2 理由3について
発明の詳細な説明には、請求項1?6に係る構成を採用することが一応形式的に記載されているものの、具体的に開示されているのは、実施例として記載されている、極めて限定的なフィルム状接着剤又は接続部材にすぎず、そして、当分野の技術的特性をも考慮すると、所期の目的を達成し、所期の課題を解決し、所期の効果を得ることができる発明として発明の詳細な説明に記載されている発明は、結局のところ、実施例において具体的に開示されている、フィルム状接着剤又は接続部材に係る発明にとどまり、また、このような発明の詳細な説明に記載された発明を、特許請求の範囲で特許請求する発明にまで拡張又は一般化するのは困難である。
したがって、特許請求の範囲の記載は、依然として特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであるから、先の拒絶理由3(の指摘(2)の点。)が解消していない。
・・(後略)」

第5 当審の判断
上記原査定における「理由3」と同一の理由が成立するか否かにつき検討する。

1.検討
上記第2の「補正の却下の決定」のII.3.(2)において説示した理由のとおり、本願発明1に係る旧請求項1を減縮した新請求項1につき、当該新請求項1に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明(本件補正発明1)でさえ、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないのであるから、上記第2のII.3.(2)において説示した理由と同一の理由により、減縮前の旧請求項1に係る本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえない。

なお、本願発明1における「硬化剤と最も反応性の高い第1の接着剤成分」につき検討すると、本願明細書の発明の詳細な説明(【0018】)には、当該「第1の接着剤成分」は、第2の接着剤成分と混合した時に常温でも速やかに反応するものがよく、硬化剤に対し特別に速硬化性を示すものがより好ましい旨記載されている。
しかるに、本願発明1における上記「第1の接着剤成分」の「アミノ化合物」として記載されているシラン(カップリング剤)化合物及びチタネート(チタンカップリング剤)化合物は、いずれの化合物もアミノ基を有するものであるから、技術的常識からみて「硬化剤との反応性に劣る他の接着剤成分」(第2の接着剤成分)であるエポキシ樹脂との(常温)反応性を有するものではあるものの、「硬化剤」であるイミダゾール化合物との間で(直接)反応性を有するものではなく、硬化剤に対し速硬化性を示すものとは認められない。
してみると、「アミノ化合物」としてのシラン(カップリング剤)化合物及びチタネート(チタンカップリング剤)化合物は、本願発明1でいう「第1の接着剤成分」に該当するものではない。

したがって、本願発明1に係る旧請求項1の記載では、同項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものとはいえない。

3.中括
以上のとおりであるから、本願の旧請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本願は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない。

第6 まとめ
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものであるから、特許法第49条第4号の規定に該当し、その余につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-14 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-02 
出願番号 特願2005-309928(P2005-309928)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09J)
P 1 8・ 537- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 東 裕子
橋本 栄和
発明の名称 フィルム状接着剤および該接着剤からなる接続部材  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 城戸 博兒  
代理人 平野 裕之  
代理人 池田 正人  
代理人 沖田 英樹  

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