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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06F |
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管理番号 | 1243712 |
審判番号 | 不服2010-19195 |
総通号数 | 143 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-11-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-25 |
確定日 | 2011-09-16 |
事件の表示 | 特願2005-277027号「衣類乾燥機および衣類洗濯乾燥機」拒絶査定不服審判事件〔平成19年4月5日出願公開、特開2007-82863号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成17年9月26日の出願であって、平成22年5月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年8月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものであって、その請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。 なお、平成22年8月25日付け手続補正は請求項の削除を目的とするものである。 「水槽と、前記水槽内に配設されたドラムと、前記ドラム内に温風を流入させる風路と、前記風路内の温風を送り出す送風ファンと、前記送風ファンの回転数を制御する制御部と、 前記ドラムから排気される空気の温度を検出する排気温度センサと、 を備え、前記ドラム内に収容された衣類を乾燥させる衣類乾燥機であって、 前記制御部は、乾燥開始時の前記送風ファンの回転数を乾燥終了時の前記送風ファンの回転数よりも大きい値となるように制御するとともに、送風ファンの回転数を乾燥開始時のものから乾燥終了時のものへと下げるタイミングを、排気温度センサの検出温度に基づいて制御することを特徴とする衣類乾燥機。」 第2 引用例の記載事項 これに対して、原査定の拒絶の理由で引用した、実願昭53-113402号(実開昭55-30645号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 ア 「(1) 被乾燥物を収納するドラムと、このドラムを回転駆動するモータと、乾燥空気をドラム内に送風するファンと、前記乾燥空気を加熱するヒータと、モータおよびヒータの作動を時間設定するタイマーと、乾燥工程の途中で乾燥空気風量を切替える手段とを備え、前記風量の切替え手段が前記タイマーの所定の残り時間における接点の切替え手段であることを特徴とする衣類乾燥機。」(1ページ5?12行) イ 「第1図はその側断面概略図で、1は衣類乾燥機本体、2は本体1内に回転自在に軸支されたドラムで、後壁部にはフイルターカバー3、フイルタ4を装備している。5はヒータカバーで、内部にはヒータ6を装備し、本体1の裏板に設けられた吸気口7より流入した空気がヒータ6で加熱されてドラム2内に流入するようになっている。8はドラム2の後部に設けられた排気風胴で、内部にはファン9を装備していると共に、ドラム2と連通し、乾燥空気の排気を排気口10に導くようになっている。11はモータで、プーリ12,13,14,ベルト15,16を介して、ドラム2、ファン9を回転駆動するように成していると共に、タイマー17の接点の切替えにより、正転,反転が可能である。18はドアーである。」(2ページ13行?3ページ7行) ウ 「モータ11は正転回転を行ない、風量Aで乾燥が開始される。乾燥時間が進行して、残り時間Cの点で、接点24がb側になりモータ11が逆転し、今までの風量より少ない風量Bで乾燥が持続されることになる。」(4ページ10?14行) エ 「第5図は乾燥工程の途中で風量を初期風量より少なくした時の乾燥時間と排気温度との関係を、また第6図は同条件下における乾燥時間と乾燥率との変化をそれぞれ示したものであり、両図において、Aの曲線はファンの回転方向が正転の場合すなわち、風量Aで乾燥を進行した場合である。 一般に乾燥工程は3つの工程に分類でき、これは排気温度曲線で判断できる。即ち、第5図中に示した加熱期間イ、恒率期間ロ、減率期間ハの3つの乾燥期間である。Bの曲線は、減率期間ハの開始時間で風量を少なくした場合で、ヒータ10(注:6の誤記)で加熱後の乾燥空気温度が上昇するため、排気温度も上昇している。 また、乾燥率においてもBのように上昇し、Aに比し時間短縮ΔHが図れる。」(5ページ2?16行) そして、第1図には、記載イに関連して、ファン9の回転により、吸気口7より流入した空気がヒータ6で加熱されて、ヒータカバー5とドラム2との間の通路(以下、便宜上「給気風胴」という。)を通ってドラム2内に流入し、その後ドラム2の後部に設けられた排気風胴8を通って排気口10から排気される状態が矢印で示されている。 また、第5図には、記載エに関連して、排気温度が上昇し始める減率期間ハの開始時に風量を少なくすると曲線Bで示すように、風量が変わらない場合(曲線A)に比べ排気温度の上昇率が大きいことが示され、第6図には、乾燥率の上昇も早まり、乾燥時間が短縮されることが示されている。 上記記載について検討すると、記載アには、被乾燥物を収納するドラムと、ドラム内にヒータで加熱された乾燥空気を送風するファンと、乾燥工程の途中で、モータの作動を時間設定するタイマーにより乾燥空気風量を切替える風量切替え手段とを備えた衣類乾燥機が記載されている。 記載イには、本体1の裏板に設けられた吸気口7より流入した空気がヒータ6で加熱されてドラム2内に流入するようになっていること、及び、内部にファン9を装備した排気風胴8を介してドラム2内の乾燥空気が排気口10に導かれることが記載されている。第1図の図示事項を参酌すると、ヒータ6で加熱された乾燥空気は、ヒータカバー5とドラム2との間の通路である給気風胴を通ってドラム2内に流入している。また、給気風胴内の乾燥空気は、排気風胴8内のファン9によってドラム2内に引き出されている。 また、記載イには、タイマー17の接点の切替えによりファン9を回転駆動するモータ11が正転、反転することが記載されている。 記載ウには、始めにモータ11が正転回転を行ない、風量Aで乾燥が開始され、乾燥時間が進行して、残り時間Cの点で、接点24がb側になりモータ11が逆転し、今までの風量より少ない風量Bで乾燥が持続されることが記載されている。 すなわち、記載ウには、乾燥工程中、ファンの正逆転により風量をAから、これより少ないBに変化させることが記載されている。 記載エ、及び第5,6図には、乾燥工程中、排気温度がほぼ一定な恒率期間ロに続く排気温度が上昇し始める減率期間ハの開始時点で風量を初期風量より少なくすることが記載され、これにより所要乾燥時間を短縮することができることが記載されている。 上記記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「ドラム2と、前記ドラム2内に加熱された乾燥空気を流入させる給気風胴と、前記給気風胴内の加熱された乾燥空気を引き出すファン9と、前記ファン9の回転方向を制御する風量切替え手段と、タイマー17と、 を備え、前記ドラム2内に収容された被乾燥物を乾燥させる衣類乾燥機であって、 前記風量切替え手段は、乾燥開始時のファン9の風量を乾燥終了時の前記ファン9の風量よりも大きい値となるように制御するとともに、ファン9の風量を乾燥開始時のものから乾燥終了時のものへと下げるタイミングをタイマー17の設定時間に基づいて制御する衣類乾燥機。」 第3 対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「ドラム2」は、本願発明の「ドラム」に相当し、以下同様に、「前記ドラム2内に加熱された乾燥空気を流入させる」「給気風胴」は「前記ドラム内に温風を流入させる」「風路」に、「前記給気風胴内の加熱された乾燥空気を引き出す」「ファン9」は、実質的に給気風胴内の乾燥空気をドラム内に送り込むものであるから、「前記風路内の温風を送り出す」「送風ファン」に、それぞれ相当する。 また、引用発明の「前記ファン9の回転方向を制御する」「風量切替え手段」と、本願発明の「前記送風ファンの回転数を制御する」「制御部」とを対比すると、本願発明では送風ファンの回転数を制御することによって、結果的に風量も制御されることから、両者は、「前記送風ファンの風量を制御する」「風量制御手段」である点で共通している。そして、引用発明の「タイマー17」と、本願発明の「前記ドラムから排気される空気の温度を検出する排気温度センサ」とは、風量制御手段に風量を切替えるタイミングを指示する「タイミング指示手段」である点で共通している。 また、引用発明の「前記ドラム2内に収容された被乾燥物を乾燥させる」「衣類乾燥機」は、「被乾燥物」が衣類であることが明らかなことから、本願発明の「前記ドラム内に収容された衣類を乾燥させる」「衣類乾燥機」に相当する。 次に、引用発明の「前記風量切替え手段は、乾燥開始時のファン9の風量を乾燥終了時の前記ファン9の風量よりも大きい値となるように制御するとともに、ファン9の風量を乾燥開始時のものから乾燥終了時のものへと下げるタイミングをタイマー17の設定時間に基づいて制御する」と、本願発明の「前記制御部は、乾燥開始時の前記送風ファンの回転数を乾燥終了時の前記送風ファンの回転数よりも大きい値となるように制御するとともに、送風ファンの回転数を乾燥開始時のものから乾燥終了時のものへと下げるタイミングを、排気温度センサの検出温度に基づいて制御する」とを対比すると、両者は、「前記風量制御手段は、乾燥開始時の前記送風ファンの風量を乾燥終了時の前記送風ファンの風量よりも大きい値となるように制御するとともに、送風ファンの風量を乾燥開始時のものから乾燥終了時のものへと下げるタイミングを、タイミング指示手段に基づいて制御する」点で共通する。 したがって、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。 (一致点) 「ドラムと、前記ドラム内に温風を流入させる風路と、前記風路内の温風を送り出す送風ファンと、前記送風ファンの風量を制御する風量制御手段と、タイミング指示手段と、 を備え、前記ドラム内に収容された衣類を乾燥させる衣類乾燥機であって、 前記風量制御手段は、乾燥開始時の前記送風ファンの風量を乾燥終了時の前記送風ファンの風量よりも大きい値となるように制御するとともに、送風ファンの風量を乾燥開始時のものから乾燥終了時のものへと下げるタイミングを、タイミング指示手段に基づいて制御する衣類乾燥機。」 そして、両者は、次の点で相違する(対応する引用発明(引用例記載)の用語を( )内に示す。)。 (相違点a) 本願発明は水槽を備え、ドラムは水槽内に配設されているのに対し、引用発明は水槽を備えず、ドラム(ドラム2)は水槽内に配設されていない点。 (相違点b) 送風ファンの風量を制御する風量制御手段が、本願発明では送風ファンの回転数を制御する制御部であるのに対し、引用発明では送風ファン(ファン9)の回転方向を制御する風量切替え手段である点。 (相違点c) タイミング指示手段が、本願発明ではドラムから排気される空気の温度を検出する排気温度センサであって、タイミングは排気温度センサの検出温度に基づいて制御されるのに対し、引用発明ではタイマー17であって、タイミングはタイマー17の設定時間に基づいて制御される点。 第4 判断 上記相違点について検討する。 (相違点aについて) 引用例に記載されるタイプの衣類乾燥機において、その内部にドラムが配設される水槽を備えるもの、すなわち、洗濯機と乾燥機とを兼用させたものは、例えば特開2002-66186号公報(外槽5と回転ドラム6から構成される洗濯槽2を有する業務用洗濯脱水乾燥装置:【要約】、【請求項1】、図1,2等参照)や、特開昭56-91794号公報(外槽3内にドラム5を配設したドラム式乾燥洗濯機:2ページ右上欄18行?右下欄15行、第2図等参照)に示すように周知である。 そこで、引用発明の衣類乾燥機を洗濯機と兼用のものとすべく、引用発明に、かかる水槽を適用し、相違点aに係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得た事項にすぎない。 (相違点bについて) 送風ファンの風量を増減させる手段として、送風ファンの回転数を増減させることは、例えば、特開2004-337519号公報(乾燥工程終期の第IV段階で、除湿送風ファン10の回転速度を低下させて最小風量とする点:段落【0057】等参照)、特開平2-271900号公報(送風ファンの回転数を下げると、乾燥用空気の流量が減る点:2ページ左上欄19?20行参照)、及び原査定の拒絶の理由で周知例として引用した特開2000-140493号公報(乾燥率がほぼ90%となると、ファン用モータの回転数を半分に低減させ風量を減らす点:段落【0044】等参照)に示すように衣類乾燥機の技術分野において周知であることから、かかる周知技術を、送風ファン(ファン9)の回転方向を切替えることに代えて、引用発明に適用し、相違点bに係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。 (相違点cについて) 引用例には、排気温度が上昇し始める減率期間ハの開始時点のタイミングで風量が減るようにする旨記載されており、(上記記載エ等)、引用発明は、風量を減らすタイミングをタイマー17の設定時間に基づいて制御しているが、減率期間の開始時点は一定とはいえず、被乾燥物の量や、外気温度、湿度等により変動するものであるから、排気温度が上昇し始める減率期間の開始を、より精度良く検出しようとすることは、当業者が当然考慮し得た事項であるといえる。 一方、衣類乾燥機において乾燥がどの程度進んでいるかを排気温度センサの検出温度に基いて検知することは、例えば、特開平6-142399号公報(温度センサ25で検出した排気の温度から乾燥の進行具合を判断する点:段落【0010】等参照)や、特開2001-794号公報(出口温度センサ35で検出したドラムからの排気温度と基板温度との差により乾燥の進行具合を判断する点:段落【0024】、【0034】等参照)等に示すように周知となっている。 そこで、排気温度が上昇し始める減率期間の開始をより精度良く検出するために、引用発明にこの周知技術を適用し、タイマーの設定時間に代え、排気温度センサが検出した排気温度に基づいて風量を減らすタイミングを判断するようにし、相違点cに係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 なお、請求人は、本願が提示している課題が、本願発明に至るために不可欠であるという前提のもとに、本願発明の課題と引用発明の課題の相違をもって、本願発明は引用発明から容易に想到し得ない旨の主張をしているが、本願発明の課題による動機以外であっても、他の様々な動機によって、技術の適用を試みることや技術を結びつけることは当業者の通常の創作能力の発揮であるといえるので、請求人のかかる主張は採用できない。 そして、送風ファンの回転数を下げることにより騒音を減らすことが出来るという本願発明による効果も、例えば、相違点bについて周知例として示した特開平2-271900号公報(一般に衣類乾燥機の騒音は、送風ファンの回転数を下げることにより低減できるとの記載:2ページ左上欄10?13行参照)に示すように、それ自体周知の作用効果であり、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-07-15 |
結審通知日 | 2011-07-19 |
審決日 | 2011-08-04 |
出願番号 | 特願2005-277027(P2005-277027) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(D06F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 五十嵐 康弘、長馬 望 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
長崎 洋一 稲垣 浩司 |
発明の名称 | 衣類乾燥機および衣類洗濯乾燥機 |
代理人 | 村上 加奈子 |
代理人 | 稲葉 忠彦 |
代理人 | 中鶴 一隆 |
代理人 | 高橋 省吾 |
代理人 | 村上 加奈子 |
代理人 | 稲葉 忠彦 |
代理人 | 高橋 省吾 |
代理人 | 中鶴 一隆 |