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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09C
管理番号 1243914
審判番号 不服2007-10852  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-16 
確定日 2011-09-15 
事件の表示 平成10年特許願第549832号「多層干渉性顔料」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月26日国際公開、WO98/53011、平成12年12月26日国内公表、特表2000-517374〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1997年5月23日を国際出願日とする出願であって、平成18年4月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月16日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月22日付けで拒絶査定がされ、その後、平成19年4月16日に拒絶査定を不服とする審判請求がされるとともに、同年5月16日に手続補正書が提出され、同年6月27日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成21年8月18日付けの審尋に対し、平成22年2月25日に回答書が提出されたが、平成19年5月16日付けの手続補正については、平成22年4月14日付けの補正の却下の決定により却下され、さらに、同日付けで拒絶理由が当審より通知され、同年10月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成23年3月4日に上申書が提出されたものである。

第2 本願発明
上記のとおり、平成19年5月16日付けの手続補正は決定をもって却下されたので、この出願の請求項1?10に係る発明は、平成18年11月16日付け及び平成22年10月20日付けの手続補正により補正された明細書及び図面(以下、「本願明細書等」という。なお、上記手続補正によっては、特許請求の範囲以外は補正されていないので、特許請求の範囲以外の本願明細書等の摘示に際しては、この出願の公表公報(特表2000-517374号公報)の該当頁及び行で表す。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「低屈折率を有する金属酸化物および高屈折率を有する金属酸化物の精密に規定された厚さの交互干渉層で被覆されている透明担体材料からなり、この屈折率の差が少なくとも0.1であって、高屈折率を有する金属酸化物層は、TiO_(2)またはFe_(2)O_(3)からなり、低屈折率を有する金属酸化物層は、SiO_(2)からなり、各層が夫々独立して20?500nmの厚さを有する多層干渉性顔料を製造する方法であって、透明担体材料を水中に懸濁し、次いで対応する水溶性無機金属化合物の添加および加水分解によって、高屈折率を有する水化金属酸化物、および低屈折率を有する水化金属酸化物を交互に被覆し、この際、酸または塩基と前記水溶性無機金属化合物とを同時的計量添加することにより、加水分解および対応する水化金属酸化物の沈殿に必要なpHを一定に保持し、次いでこの被覆された担体材料を水性懸濁液から分離採取し、乾燥させ、次いで所望により、焼成することを特徴とする、前記方法。」

第3 当審において通知した拒絶の理由
平成22年4月14日付けで当審において通知した拒絶の理由は、
「この出願は、下記理由1ないし理由3により拒絶すべきものである。
・・・
(理由3)この出願の請求項3?6に係る発明は、下記のとおり、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物1、3及び4に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・・・
3 理由3について
(1)本願発明3について
ア 刊行物及びその記載事項
(ア)特開平7-246366号公報(・・・「刊行物1」という。)・・・
(イ)刊行物3:特公昭49-49173号公報(以下、「刊行物3」という。・・・)・・・
(ウ)刊行物4:特開平6-136284号公報(以下、「刊行物4」という。・・・)・・・・
オ 本願発明3についてのまとめ
したがって、本願発明3は、刊行物1、3及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」という「理由3」を含むものである。

なお、「本願発明」は、前記拒絶の理由通知時の「本願発明3」(請求項3に係る発明)の「交互層」を「精密に規定された厚さの交互層」に、各層を「高屈折率を有する金属酸化物層は、TiO_(2)またはFe_(2)O_(3)からなり、低屈折率を有する金属酸化物層は、SiO_(2)からなり、」に、「水溶性金属化合物」を「水溶性無機金属化合物」に、「この際、各水化金属酸化物の加水分解および沈殿に必要なpHを酸または塩基の添加により、一定に保持し、」を「この際、酸または塩基と前記水溶性無機金属化合物とを同時的計量添加することにより、加水分解および対応する水化金属酸化物の沈殿に必要なpHを一定に保持し、」に、それぞれ補正するものである。

第4 刊行物に記載された事項
(1)刊行物1
この出願の出願前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】 基材に高屈折率材層と低屈折率材層とを交互に、各々、設定干渉光の略1/4波長の奇数倍の光学的厚さで積層したことを特徴とする光干渉材。
【請求項2】 請求項1に記載の光干渉材において、上記基材は、その屈折率が、この直上に積層される屈折率材層の屈折率とは高低が反対のものであることを特徴とする光干渉材。
【請求項3】 請求項1,2に記載の光干渉材において、トータルの反射率が90%以上であることを特徴とする光干渉材。
【請求項4】 請求項1に記載の光干渉材をベース塗料樹脂中に混ぜたことを特徴とする塗料。
【請求項5】 請求項2に記載の光干渉材をベース塗料樹脂中に混ぜたことを特徴とする塗料。
【請求項6】 請求項3に記載の光干渉材をベース塗料樹脂中に混ぜたことを特徴とする塗料。」(特許請求の範囲)
(1b)「本発明の目的は、上記課題を解決し、顔料を使わずに単体だけで発色材と称するに値する強さで鮮やかに発色ができ又は熱線が反射できる光干渉材及びそれを含有する塗料を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の光干渉材は、基材に高屈折率材層と低屈折率材層とを交互に、各々、設定干渉光の略1/4波長の奇数倍の光学的厚さ(幾何学的厚さ×屈折率)で積層した構成のものである(請求項1)。」(段落【0009】?【0010】)
(1c)「図12に示すように、高屈折率材層(屈折率n1 )と低屈折率材層(屈折率n2 )とが交互に、密、疎、密、疎で積層されている場合、光が密から疎に行くときに反射する光a,cについては光の位相は変化しないが、疎から密に行くときに反射する光bについては光の位相が半波長変化する。そこで、これらの位相を揃えてやれば、例えばaとbの光は干渉する。ここで、aとbの光の位相のずれを考えるに、屈折率n2の低屈折率材層の厚さをxとすると、bの光学的距離については2x・n2となるが、光bは反射した際に位相が半波長変化しているので、実際には(2x+(1/2)λ)・n2 になる。一方、aの光部分は位相が変化していないので、bの光は、
(2x+(1/2 )λ)・n2 =mλ (m=1,2,3…)
のとき、aの光と強め合う。これをxについて解くと、
x=(2m-1)λ/(4n2) (m=1,2,3…)
となり、bの光は、低屈折率材層(屈折率n2)がλ/(4n2)の奇数倍の厚さのときに光aと強め合う。
本発明は、このような原理を応用したものである。」(段落【0015】?【0016】)
(1d)「即ち、従来の二酸化チタン一層の場合には光線反射率が43%以下となっていたため、見た目の色が非常に薄くなっていたが、上記積層構造により、トータルの光線反射率を簡単な構成により有効に高めることができ、結果、濃い干渉光を発色できる。また、二酸化チタンの膜厚が1/4波長の奇数倍になっているため、狙った色以外の光が混ざらない鮮やかな発色が得られる。」(段落【0019】)
(1e)「【実施例】以下、本発明の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。図1は本発明の干渉発色材たる干渉フレーク10の断面を示したものであり、そのA部を拡大して示した図2から解るように、微薄片状の基材1に高屈折率材層2と低屈折率材層3とを交互に、各々、設定干渉発色光の略1/4波長の光学的厚さ(幾何学的厚さ×屈折率)で積層し、反射率を90%以上としたものである。
ここでは、微薄片状の基材1としてガラスフレーク(屈折率n=1.5)を用いている。この基材1は、ベースとなる材料であれば何でも良いが、実際ここを平滑にして湾曲を揃えることが好ましいため、ここではガラスフレークを使っている。また、この基材1上に積層する高屈折率材層2として二酸化チタンTiO_(2)(屈折率n=2.7)を、そして、その上に積層する低屈折率材層3としてシリカSiO_(2)(屈折率n=1.5)を使っている。これらの材料は比較的安価であり、高屈折率材2と低屈折率材3との屈折率差が比較的大きいことから選定したものであり、他の公知の材料を使用することもできる。」(段落【0023】?【0024】)
(1f)「次に、上記干渉フレーク10及びそれを含有する塗料の製造方法について、乾式法と湿式法とに分けて説明する。
[乾式法]図3は乾式法による場合を示している。
○1(審決注:丸付き数字。以下同様。) まず、薄ガラス板に二酸化チタンTiO_(2)とシリカSiO_(2)とを1/4波長膜厚で交互にスパッタリング又は蒸着する。ガラス板に対して、TiO_(2) ,SiO_(2) ,TiO_(2 ),SiO_(2 ),TiO_(2) の順に行う。薄ガラスは、その材質にSiO_(2 )を用い、膜厚10μmとする。スパッタリング又は蒸着するTiO_(2)とSiO_(2)の膜厚は、波長480nmの青色が目的の色相である場合、次のようになる。
TiO_(2 )の膜厚…1/4×480nm÷2.7(屈折率)=44.4nm
SiO_(2) の膜厚…1/4×480nm÷1.5(屈折率)=80.0nm
○2 上記のように薄いガラスに一旦蒸着したものを、ローラにより屈折破断する。普通はボールミル等で粉砕することになるが、それでは表面を砕いてしまわずに粉砕することは難しい。そこで図4に示すような曲げ破断機により、ローラによる屈折破断する。破断されて得られた小片を図5に示す。
○3 次に、この破断小片11を、必要な大きさ(約20μm以下)にふるい分けして、必要な大きさの干渉フレーク分だけを取る。
○4 最後に、この干渉フレークをベース塗料樹脂中に混ぜる。干渉フレークは破砕されているため混ぜる前は白く見えるが、屈折率がベース塗料樹脂とほぼ同じであるため、ベース塗料樹脂中に混ぜてしまえばもう判別できなくなる。即ち、後から塗料として塗ってしまうと白の部分は消えてしまう。図6は、母材12の上に上記構成の塗料13を塗り、更にクリア層14を設けた塗装形態を示している。
[湿式法]図7に湿式法による製造方法を示す。これは最初にガラスフレークを作るものである。
○1 原料として、耐蝕性に優れるCガラスを用意する。このCガラスの組成は、通常、SiO_(2) (65%)、ZnO(4%)、B_(2) O_(3) (5%)、その他から成る。
○2 成形、粉砕、分級。最初に薄いガラスを作らなければならないので、(1) 上記Cガラスを約1,000゜Cで溶融し、(2) 空気で風船状にして冷却することにより、一定の厚みに整形する。なお、冷却すると自然に粉砕(一次粉砕)される。(3) この一次粉砕されたものをボールミル(スチール)により更に細かく粉砕する。(4) 風で飛ばして、軽いものは遠くに、重いものは近くに落下することを利用して、分級する。
○3 二酸化チタンをコーティングする。
(1) ガラスフレークを水に分散させる。
(2) チタン塩とスズ塩を加えて、加水分解し、生成する酸化チタン水和物をガラスフレーク表面に沈着させる。この付ける時間により膜厚をコントロールする。(3) 生成物を水洗いし乾燥させる。(4) 800゜C?1,000゜Cで焼成し、酸化チタンとする。
○4 シリカをコーティングする。
(1) ガラスフレークを水に分散させる。(2) テトラエトキシシランSi(OC_(2) H_(5) )_(4 )、塩酸HCl,エタノールC_(2) H_(5) OHを加えて、加水分解させて、水和物を生成させる。続いて重縮合反応が起こり、次式によりシリカSiO_(2) がフレーク表面に沈着する。
nSi(OC_(2) H_(5) )_(4) +4nH_(2) O→nSi(OH)_(4) +4nC_(2) H_(5) OH
nSi(OH)_(4) →nSiO_(2 )+2nH_(2) O
(3) 生成物を水洗いし乾燥させる。(4) 400゜C?500゜Cで加熱する。
○5 上記ステップ○3と同様にして二酸化チタンをコーティングする。
○6 上記ステップ○4と同様にしてシリカをコーティングする。
○7 上記ステップ○3と同様にして二酸化チタンをコーティングする。
○8 最後に、ベース塗料樹脂に混ぜて吹き付け可能な塗料化を図る。」(段落【0030】?【0045】)
(1g)「上記乾式法及び湿式法の塗料化工程において、下地のベース塗料樹脂としては顔料を混ぜたものを用いることもできるが、下地のベース塗料樹脂としては光を吸収する色又は同色系の色を用いることが好ましい。狙った色とあまりに異なる色相系の色が入ると、他の色に変わる可能性が強くなるからである。」(段落【0046】)
(1h)「ところで、上記実施例では、交互に積層される高屈折率材層と低屈折率材層の各々を設定干渉光の略1/4波長としたが、かかる膜厚は非常に薄いため実際上の製造に困難を伴うことがある。例えば、湿式法の場合、一度のコーティングで付く膜厚が1/4波長を越えることが多く、膜厚が合わせ難い。
そこで、図9に示すように、交互に積層される高屈折率材層2と低屈折率材層3の各々の膜厚dを、次式を満足するような略1/4波長膜の奇数倍(設定干渉発色光の略1/4波長の光学的厚さの奇数倍)とする。
d=〔(2m+1)λ〕/4n …(2)
ただし、λ:光の波長
n:屈折率材層の屈折率
m:0,1,2,3…
これによれば、各屈折率材層の膜厚dが1/(4n)波長の奇数倍(設定干渉発色光の略1/4波長の光学的厚さの奇数倍)であれば良い、という緩やかな条件になるので、その膜厚を合わせ易くなり、製造が容易となるという利点がある。ただしm=0とした場合は、上記の全てを略1/4波長膜とした場合と同じ結果に帰する。なお、図9では屈折率が上から順に小、大、小の場合について示しているが、屈折率が上から順に大、小、小の場合であっても結果は同じである。
このように、交互に積層される高屈折率材層2と低屈折率材層3の厚さを、設定干渉光の略1/4n波長(n:屈折率材層の屈折率)の奇数倍とするが、この場合、積層膜厚dが上記式を満足すれば良いだけであって、必ずしも高屈折率材層2と低屈折率材層3の一方又は全てが同じ膜厚、即ちmが同じである必要はない(ただし、m=整数とする)。」(段落【0052】?【0055】)
(1i)「しかし、交互に積層される高屈折率材層2と低屈折率材層3の一方のみ、上記膜厚dの(2)式を満足させてもよい。この場合、高屈折率材層と低屈折率材層のどちらを1/(4n)波長の奇数倍という条件に合致させるかについては全く自由であるが、製造上、その膜厚の整合は湿式法よりも乾式法による方が容易であり、また乾式法は一般に高屈折率材のものを扱うので、高屈折率材層の側で膜厚を整合させるとよい。ただし乾式法であれば膜厚を合わせ易いことから、低屈折率材層の方で合わせるようにしても良い。いずれにしても、湿式又は乾式によるコーティングの膜厚コントロールのし易さに差がある場合、そのコーティングの膜厚コントロールの容易な方の屈折率材を調整対象とすることにより、膜厚が合わせ易くなる。」(段落【0057】)
(1j)「上記では、干渉発色材としての光干渉材、つまり可視光の場合について述べてきたが、上記光干渉材は赤外線を反射する熱線反射材及びそれを含有する塗料として構成することもできる。
この熱線反射材の目的は、例えば、黒色塗料の車は太陽光によりエネルギーが熱に変換されやすく車内の温度が上昇しやすいので、それを透明な熱線反射フレークを混入することで防止するものである。
熱線である赤外線の波長は770nm?1mmであり、この光に対する異なる屈折率の材料を上記(2)式を満足する膜厚で、ガラス、マイカ等の透明材料から成る基材に交互に積層し、反射率を上げた透明フレークつまり光干渉材たる熱線反射材を得る。この赤外線の波長に対して異なる屈折率を示す材料の積層は、各層毎に上記(2)式を満足する膜厚としてもよいし、事情によっては高屈折率材層と低屈折率材層の一方を、設定干渉光の略1/4n波長(n:屈折率材層の屈折率)の奇数倍の厚さとしてもよい。いずれにしても、このような透明フレークつまり光干渉材たる熱線反射材を、塗膜中へ混入させることにより、目視では濃色系の塗料に見えても、淡色系と同様の温度上昇に抑えることのできる塗料を得ることができる。
ここでは、赤外線波長が広範囲に亘ることを考慮し、その熱線波長全域をカバーするため、膜厚(波長を決定する)が様々な干渉フレークを複数種類作り、それらを塗料中に混合して用いた。即ち、波長800?850nm用、1000?1100nm用、2000?2100nm用、5000?5100nm用、10000?10100nm用、20000?20100nm用の計6種の波長用の熱線反射材たる干渉フレーク10を作製した。各干渉フレーク10は、図11に示すように、ガラスから成る微薄片状の基材1に、TiO_(2) から成る高屈折率材層2とSiO_(2) から成る低屈折率材層3とを交互に9層積層し、その反射率を90%以上としたものである。この6種の熱線反射材たるフレークを、黒色塗料に20w%添加して混合し、鋼板に塗布し太陽光を照射して、温度差を測定した。その結果、通常の黒色塗料の場合は、塗料温度が70゜Cまで塗面温度が上がるのに対し、上記熱線反射材たるフレークを20w%添加した塗料の場合には、塗面温度が58゜Cぐらいに抑えられた。即ち、目視では濃色系の塗料に見えても、淡色系と同様の温度上昇に抑えることができた。」(段落【0058】?【0061】)
(1k)「以上要するに本発明によれば、次のような優れた効果が得られる。
1)請求項1,2,3の光干渉材によれば、トータルの光線反射率を簡単な構成により有効に高めることができ、結果として、濃い干渉光を発色させ又は熱線を反射させることができる。また、膜厚が1/4波長の奇数倍になっているため、狙った色以外の光が混ざらない鮮やかな発色が得られると共に、製造しやすい膜厚で積層させることができる。
2)特に請求項3の光干渉材では反射率が90%以上であるので、実用的な強さの鮮やかな発色が得られる。
3)請求項4,5,6によれば、上記の発色材が混入され、これがある波長の色だけに十分に色濃く干渉発色し或いは熱線反射するため、顔料なしで所望の鮮やかな色を発現する塗料や熱線による温度上昇を抑える塗料を得ることができる。
4)本発明によって得られた光干渉材ないし塗料は、車輌用塗料(乗用車・オートバイ・自転車)をはじめ、各種塗料・各種プラスチックへの練り込み、建材、壁装材、印刷インキ、合成皮革、スポーツ用品、家具、絵具、捺染、漆器、ボタン、文房具、アクセサリー等々の用途に幅広く使用することができる。」(段落【0062】)
(1l)「

」(図1)
(1m)「

」(図2)

(2)刊行物3
この出願の出願前に頒布された刊行物3には、以下の事項が記載されている。

(3a)「所望の層の厚さになるまでフレーク状雲母上に金属酸化物を沈積させかつ得られた生成物を場合によりか焼(当審注:「か」は、「暇」の「日」が「火」。以下同様。)することにより、金属酸化物で被覆されたフレーク状雲母を主成分とする多層の光沢顔料を製造するに当り、温度50?100℃かつフレーク状雲母の水性懸濁液のpH-値0.5?5.0で次のように供給する:
a) チタン塩及び(又は)ジルコニウム塩を濃度0.01?4.0モル/lで並びに少なくとも1種の他の金属塩を全濃度0.02?1モル/lで含有し、モル規定0.002?3に相応する遊離酸分を有する金属塩水溶液;
b) 引続いてモル規定0.002?3に相応して遊離酸分を有するチタン塩-及び(又は)ジルコニウム塩水溶液0.01?4モル;
c) a)及びb)と同時にアルカリ水酸化物-ないしは水酸化アンモニウム水溶液0.025?10モルないしは当量のガス状アンモニア;
を次の割合で:
d) 塩基の供給は、沈積の間殆んど一定のpH-値を保持するように制御する、
e) 供給せる塩の量は1分間当りかつ雲母表面1m^(2)当り約0.01?25・10^(-5)モルである;
f) a)溶液により沈積せる金属酸化物層の厚さは沈積せる酸化物層の全厚の約1/3である
ことを特徴とする真珠光沢の顔料の製法。」(特許請求の範囲第2項)
(3b)「従来の方法の欠点は、着色性金属イオンをチタン塩溶液に添加する際に特に明らかになる。殊に金色、赤色、青色及び緑色の色調は、不均一な被覆が原因となつて極めて薄色である。従来、必要な均一層はガス相を介して製造されるに過ぎなかつたが、そのような方法は工業的に実施するのが困難でありかつ経済的に価値がない。」(1頁2欄14?21行)
(3c)「過剰量でかつ変化する濃度で存在する金属塩、加水分解の間の一定でないpH-値及び変化する被覆速度が淡い干渉色及び金属酸化物の固有色と干渉色から組成されている。相応して淡いかつ不満足な色調の主要原因である、更に、顔料の8重量%を上回る着色金属酸化物の添加がそれらの固有色により干渉色を著しく抑制し、従つて真珠光沢は損われる。全酸化物層中に他の金属酸化物を混合することもまた光沢顔料の性質に不利に作用する。
それ故、本発明の主要目的は新規な多層の真珠光沢顔料並びに使用に供するための改良されたそれらの製法であるが、これらの多層の真珠光沢顔料中の金属酸化物の固有色及び著しい着色干渉色は混合して新規なかつ特に強く着色されかつ光沢のある色調になる。」(1頁2欄22行?末行)
(3d)「新規の真珠光沢顔料は非常に滑らかな表面を有し、これは使用したフレーク状雲母の滑かな被覆される表面に相当することは重要である。このことからこれらの真珠光沢顔料は厳密な方法条件を保持する場合にのみ製造することができる。それ故、加水分解は一定の温度、一定のpH-値及び金属溶液の一定の供給速度で実施する。その場合に懸濁液中の過剰の金属イオンを回避することは重要である。それ故、水和金属酸化物として単位時間当りに雲母により吸収されるような金属塩量を単位時間当り供給してよい。遊離水和金属イオン又は雲母面上に結合しない金属酸化物粒子が懸濁液中に存在するのを回避する場合にのみ、同一のかつ均一な層の厚さの均質で無定形の層が得られる。」(2頁4欄19?33行)
(3e)「有利にも、本発明による新規な真珠光沢顔料中に存在する他の金属酸化物は、場合により無色の酸化物との混合物で使用することのできる着色金属酸化物である。」(3頁5欄6?9行)
(3f)「新規顔料は、他の金属酸化物との混合物を含む下層がその都度選択した層の全厚の約1/3及びTi-及び(又は)Zr-酸化物を含有するに過ぎない上層がその都度2/3であるように製造する。
それ故、本発明による美しい金色顔料は層の全厚約60?80nm(混合酸化物層は約20?27nmかつ上層は40?54)で得られる。本発明による深紅色顔料はか焼後約90?100nmの層の全厚を有し、この場合約30?33nmが混合酸化物層にかつ相応して約60?66nmが外部の酸化物層上に沈降する。」(3頁5欄38行?同6欄5行)
(3g)「A:顔料の製造
例 1
粒径約10?30ミクロン、厚さ約0.1ミクロンの白雲石型の粉砕した淡色雲母15kgを完全脱塩水150l中に懸濁する。懸濁液を塩酸性四塩化チタン溶液(TiCl_(4)250g/l及び遊離塩酸30g/l)でpH-値2に調節する。懸濁液を攪拌下に70℃に加熱しかつ全被覆工程の間この温度に保持する。加熱後約6に上昇したpH-値は10%の塩酸を添加して再びpH2に調節する。
他の容器中でFeCl_(3)・6H_(2)O 1.7kgを塩酸1.0l及び水10l中に溶かしかつ25%の塩酸性四塩化チタン溶液36lに混合する(塩酸の含有率3%)。そのようにして得られた褐色のチタン塩/鉄塩溶液を1時間当り9lの流速で懸濁液中に流入する。同時に35%の水酸化ナトリウムを添加するか又はガス状アンモニアを導入することにより懸濁液のpH-値を一定に2に保持する。
褐色の含鉄チタン溶液の供給が終結した場合に、25%の塩酸性四塩化チタン溶液を同一の速度でこの懸濁液中に導入する。この溶液は前以て37%のHCl(d=1.19)48.5lの添加下に完全脱塩水25l中にTiCl_(4)18kgを溶かすことにより製造する。
被覆時間は約12時間である。沈積の終結は標準との色調比較により確認する。合計してTiCl_(4)約27kgとFeCl_(3)・6H_(2)O 1.7kgを使用した場合に沈積を中断する。その場合に得られる光沢性の顔料は干渉色の橙々色及び金黄色の粉末を呈示する。
懸濁液中の顔料を70℃で更に約2?4時間加熱処理すると有効である。その際に、懸濁液のpH-値はカセイソーダを徐々に添加することにより5?7に高める。次に、金色顔料は水で洗浄して塩を除去しかつ約120℃で浅皿中で乾燥する。
乾燥後、顔料を950℃で60分間か焼する。」(5頁9欄22行?同10欄16行)
(3h)「本発明方法により得られる、それぞれの雲母小板の表側と裏側にそれぞれ2相を有する真珠光沢顔料はすべての常法により後処理することができかつ反応混合物から単離することができる。有利にも約50?100℃で2?4時間懸濁液中で攪拌しながら後焼戻ししかつそれによつて固化する。引続いて顔料を、場合によりpH-値を5?7に前以つて調節して洗浄すると有利である。顔料を中性範囲で水で洗浄することができることは等別な利点である。常法で乾燥は行なう。
乾燥した顔料を、光-及び温度作用に対して安定にするために自体公知の方法で500?1100℃でか焼すると有効である。」(4頁7欄26?38行)

(ウ)刊行物4
この出願の出願前に頒布された刊行物4には、以下の事項が記載されている。

(4a)「実施例1 比較実験のための5%のSiO_(2 )によるコーテイング
イリオデイン123(粒径5-20μmをもつTiO_(2 )-/SnO_(2) -雲母、E.メルク社、ダルムシュタット、商品番号4842)200gからなる水3lによる顔料懸濁液を60℃に加熱し、10%のカセイソーダ溶液でpH9に調製する。ケイ酸塩ナトリウム溶液(1:1の比で水で希釈する。54mlを水1500mlに溶解する)を徐々に顔料懸濁液に添加する。pH値はこの際10%の塩酸溶液の添加で一定に保つ。その後に先ず15分間pH9で攪拌し、さらに15分間pH6.5で攪拌する。懸濁液は95℃に加熱し、この温度で1時間攪拌する。冷却後に溶媒を吸引濾過によって除去し、塩化物が認められなくなるまで洗浄し、乾燥する。生成物の一部を850℃でか焼する。」(段落【0019】)
(4b)「【請求項1】 沈降挙動および分散挙動を改良するために、シリカ、アルミナおよび酸化ジルコニウムから成るグループから選択された2種類の金属酸化物から成る混合物で再コーテイングされている微小板状基体に基いている表面改質顔料。
【請求項2】 シリコン、アルミニウム、ジルコニウムの2種類の水溶性の化合物を微小板状基体の水性懸濁液に添加し、その結果含水酸化物が基体上に析出し、そのようにして再コーテイングされた顔料が分離、洗浄、乾燥され、さらに、希望するならば、か焼されることを特徴とする2種類の金属酸化物の混合物が微小板状基体の上に沈殿する請求項1による顔料の製造方法。
【請求項3】 使用された微小板状基体が1種またはそれ以上の金属酸化物でコーテイングされた雲母片顔料であることを特徴とする請求項2による製造方法。
【請求項4】 使用された無機の水溶性のシリコン化合物がケイ酸ナトリウムであることを特徴とする請求項2による製造方法。」(請求項1?4)
(4c)「金属酸化物の割合は全顔料に対して0.3-50%であり、好ましくは0.5-30重量%であり、特に、1-15重量%である。再コーテイングには、金属酸化物は相互に如何なる割合でも混合することができる。好ましくは、SiO_(2)/Al_(2) O_(3) 、ZrO_(2 )/SiO_(2) 、ZrO_(2) /Al_(2) O_(3) 混合物が重量比1:5から5:1で使用され、特に1:1混合物と2:1混合物が好ましい。」(段落【0013】)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「基材に高屈折率材層と低屈折率材層とを交互に、各々、設定干渉光の略1/4波長の奇数倍の光学的厚さで積層したことを特徴とする光干渉材。」(摘示(1a))が記載されており、該光干渉材の「一実施例」として、「図1」の断面図及びそのA部を拡大した「図2」に示される構造を有し(摘示(1l)、(1m))、「微薄片状の基材1としてガラスフレーク(屈折率n=1.5)」を用い、「この基材1上に積層する高屈折率材層2として二酸化チタンTiO_(2)(屈折率n=2.7)を、そして、その上に積層する低屈折率材層3としてシリカSiO_(2)(屈折率n=1.5)」を用いたものが記載されている(摘示(1e))。
そして、該光干渉材を製造する方法の1つである「湿式法」として、最初にガラスフレークを作り(○1?○2)、二酸化チタン及びシリカを交互にコーティングし(○3?○7)、最後に、ベース塗料樹脂に混ぜて吹き付け可能な塗料化を図る(○8)方法が記載されている(摘示(1f))。そして、該二酸化チタン及びシリカのコーティング、すなわち、被覆については、それぞれ以下の工程が記載されている。
・二酸化チタンの被覆について
「(1) ガラスフレークを水に分散させる。
(2) チタン塩とスズ塩を加えて、加水分解し、生成する酸化チタン水和物をガラスフレーク表面に沈着させる。この付ける時間により膜厚をコントロールする。(3) 生成物を水洗いし乾燥させる。(4) 800゜C?1,000゜Cで焼成し、酸化チタンとする。」(摘示(1f)の○3)
・シリカの被覆について
「(1) ガラスフレークを水に分散させる。(2) テトラエトキシシランSi(OC_(2) H_(5) )_(4 )、塩酸HCl,エタノールC_(2) H_(5) OHを加えて、加水分解させて、水和物を生成させる。続いて重縮合反応が起こり、次式によりシリカSiO_(2) がフレーク表面に沈着する。
nSi(OC_(2) H_(5) )_(4) +4nH_(2) O→nSi(OH)_(4) +4nC_(2) H_(5) OH
nSi(OH)_(4) →nSiO_(2 )+2nH_(2) O
(3) 生成物を水洗いし乾燥させる。(4) 400゜C?500゜Cで加熱する。」(摘示(1f)の○4)

そうすると、刊行物1には、
「基材に高屈折率材層と低屈折率材層とを交互に、各々、設定干渉光の略1/4波長の奇数倍の光学的厚さで積層したことを特徴とする光干渉材を製造する方法であって、
基材は、ガラスフレークであり、
高屈折率材層は、二酸化チタンTiO_(2)(屈折率n=2.7)であり、
低屈折率材層は、シリカSiO_(2)(屈折率n=1.5)であり、
ガラスフレークを水に分散し、次いでチタン塩を加えて加水分解し、生成する酸化チタン水和物をガラスフレーク表面に沈着させ、生成物を水洗いし乾燥させ、800゜C?1,000゜Cで焼成して、二酸化チタンTiO_(2)を被覆し、
次いで、テトラエトキシシラン、塩酸等を加えて、加水分解させて、水和物の生成及び重縮合反応により、シリカSiO_(2) をフレーク表面に沈着させ、生成物を水洗いし乾燥させて、400゜C?500゜Cで加熱して、シリカSiO_(2)を被覆し、
さらに、前記二酸化チタンとシリカの被覆を繰り返す、前記方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「基材」は「ガラスフレーク」であるところ、摘示(1j)の「ガラス、マイカ等の透明材料」との記載からみても、透明で、かつ、高屈折率材層と低屈折率材層を担持させる担体であることが明らかであるから、本願発明の「透明担体材料」に相当する。
そして、引用発明の「高屈折率材層」及び「高屈折率材層は、二酸化チタンTiO_(2)(屈折率n=2.7)であり、」は、二酸化チタンが金属酸化物であることが明らかであるので、本願発明の「高屈折率を有する金属酸化物(・・・層)」及び「高屈折率を有する金属酸化物層は、TiO_(2)・・・からなり、」に相当し、引用発明の「低屈折率材層」及び「低屈折率材層は、シリカSiO_(2)(屈折率n=1.5)であり、」は、シリカが金属酸化物であることが明らかであるので、本願発明の「低屈折率を有する金属酸化物(・・・層)」及び「低屈折率を有する金属酸化物層は、SiO_(2)からなり、」に相当する。
また、引用発明の、「基材に高屈折率材層と低屈折率材層とを交互に、・・・積層した」は、ガラスフレークに「二酸化チタンとシリカの被覆を繰り返す」ことにより積層すること、これら交互に積層した層は、光干渉材を構成するので干渉層であるといえることから、本願発明の「交互干渉層で被覆されている」に相当し、前記「二酸化チタンTiO_(2)(屈折率n=2.7)」と「シリカSiO_(2)(屈折率n=1.5)」の屈折率の差は1.2であるから、本願発明の「この屈折率の差が少なくとも0.1」に相当する。
さらに、引用発明の「ガラスフレークを水に分散し」は、本願発明の「透明担体材料を水中に懸濁し」に相当する。
ところで、高屈折率及び低屈折率を有する金属酸化物の層の形成にあっては、引用発明は、「チタン塩」及び「テトラエトキシシラン」を用い、本願発明は、「対応する水溶性無機金属化合物」を用いるところ、いずれの化合物も、TiO_(2)及びSiO_(2)なる金属酸化物による層を形成するために使用される金属化合物であるから、「対応する金属化合物」であるといえる。
そして、引用発明は、上記のように、加水分解、水洗い、乾燥、焼成又は加熱工程を含むところ、本願発明も、加水分解、水性懸濁液から分離採取、乾燥、(所望により)焼成工程を含み、引用発明の「水洗い」は、本願発明の「水性懸濁液から分離採取」に相当するといえる。また、最終的に、高屈折率を有する金属酸化物および低屈折率を有する金属酸化物を交互に被覆する点でも共通する。
加えて、引用発明の「光干渉材」は、基材に高屈折率材層と低屈折率材層とを交互に積層したものであるから、多層であり、本願発明の「干渉性顔料」と引用発明の「光干渉材」は、共に干渉性材料であるといえる。

そうすると、両者は、
「低屈折率を有する金属酸化物および高屈折率を有する金属酸化物の交互干渉層で被覆されている透明担体材料からなり、この屈折率の差が少なくとも0.1であって、高屈折率を有する金属酸化物層は、TiO_(2)からなり、低屈折率を有する金属酸化物層は、SiO_(2)からなる多層干渉性材料を製造する方法であって、透明担体材料を水中に懸濁し、次いで対応する金属化合物の添加および加水分解、水性懸濁液から分離採取、乾燥、焼成工程を含む方法によって、高屈折率を有する金属酸化物および低屈折率を有する金属酸化物を交互に被覆する、前記方法。」
である点で一致し、以下の点で相違するということができる。

A 添加および加水分解工程について、本願発明は、金属化合物が「水溶性無機金属化合物」であり、かつ、「酸または塩基と前記水溶性無機金属化合物とを同時的計量添加することにより、加水分解および対応する水化金属酸化物の沈殿に必要なpHを一定に保持し」と特定するのに対し、引用発明は、金属化合物が「チタン塩」又は「テトラエトキシシラン」であり、同時的計量添加やpHの保持を行う工程ではない点
B 被覆する各層の厚さが、本願発明においては「夫々独立して20?500nmの厚さを有する」もので、かつ、「精密に規定された」厚さであるのに対し、引用発明においては「各々、設定干渉光の略1/4波長の奇数倍の光学的厚さ」を有し、精密に規定されたとの特定がない点
C 干渉性材料が、本願発明においては「干渉性顔料」であるのに対し、引用発明においては、「光干渉材」である点
D 金属酸化物の交互層を作成するに際し、本願発明は、「水化」金属酸化物を交互に被覆し、「次いでこの被覆された担体材料を水性懸濁液から分離採取し、乾燥させ、次いで所望により、焼成する」のに対し、引用発明は、各層ごとに、水洗い、乾燥及び焼成又は加熱を行う点
(以下、それぞれ「相違点A」?「相違点D」という。)

3 検討
(1)相違点Aについて
(1-1)本願発明の「同時的計量添加」工程について
本願発明の「酸または塩基と前記水溶性無機金属化合物とを同時的計量添加することにより、加水分解および対応する水化金属酸化物の沈殿に必要なpHを一定に保持し」との特定について、本願明細書等には、
「二酸化チタン層を施す場合、・・・水性チタン塩溶液は、約50?100℃・・・に加熱されている塗布する物質の懸濁液にゆっくりと添加し、次いで塩基、例えば・・・水性アルカリ金属水酸化物溶液の同時的計量添加により、約0.5?5、特に約1.5?2.5の実質的に一定のpHを保持する。所望の層厚さを有するTiO_(2)沈殿が達成されたならばすぐに、このチタン塩溶液および塩基の添加を停止する。
この方法はまた、滴定法(titration process)と称され、過剰のチタン塩が回避されるという点で特筆される。これは、水化TiO_(2)による均一塗膜に必要であり、粒子の被覆に利用できる表面積によって単位時間あたりで受入れることができる、単位時間あたりの量のみを加水分解に供給することによって達成される。
従って、被覆される表面上に沈殿物を有していない水化二酸化チタン粒子は製造されない。
二酸化ケイ素層を施す場合、次の方法を使用することができる:約50?100℃、特に70?80℃に加熱されている被覆する物質の懸濁液に、ケイ酸ナトリウム溶液を計量添加する。10%塩酸の同時的添加により、pHを4?10、好ましくは6.5?8.5の一定に保持する。ケイ酸塩の添加後、撹拌を30分間行う。」(特表2000-517374号公報(以下、単に「公報」という。)8頁11?26行)と記載されている。
つまり、本願発明の「酸または塩基と前記水溶性無機金属化合物とを同時的計量添加することにより、加水分解および対応する水化金属酸化物の沈殿に必要なpHを一定に保持し」とは、酸または塩基と前記水溶性無機金属化合物とを、同時に、いわゆる滴定法で計量添加し、その際、被覆される表面上に沈殿しない過剰の水化二酸化チタン又は水化二酸化ケイ素粒子が製造されない程度に、加水分解し、対応する水化金属酸化物が全て沈殿するのに必要なpHを一定に保持することであるということができる。

(1-2)刊行物3の記載について
刊行物3には、「チタン塩」を含む金属塩を用い、「所望の層の厚さになるまでフレーク状雲母上に金属酸化物を沈積」させる「真珠光沢の顔料の製法」(摘示(3a))について記載されており、「フレーク状雲母の水性懸濁液」に対し、「pH-値0.5?5.0」で、一層目として、「a)」の「チタン塩」及び「他の金属塩」並びに「遊離酸分」を有する金属塩水溶液を、二層目として、「b)」の「遊離酸分」を有する「チタン塩・・・水溶液」をそれぞれ供給し、該チタン塩は、例えば「四塩化チタン」(摘示(3g))であり、その供給の際、「a)及びb)と同時にアルカリ水酸化物-ないしは水酸化アンモニウム水溶液0.025?10モルないしは当量のガス状アンモニア」を供給すること、その条件として、「d) 塩基の供給は、沈積の間殆んど一定のpH-値を保持するように制御」し、金属塩については、「e) 供給せる塩の量は1分間当りかつ雲母表面1m^(2)当り約0.01?25・10^(-5)モルである」と記載されている(摘示(3a))。
つまり、刊行物3には、雲母の水性懸濁液に、チタン塩(又はチタン塩と他の金属塩)を一定の速度で供給し、これと同時に塩基を沈積の間殆んど一定のpH-値を保持するように制御して供給する、すなわち、同時に、いわゆる滴定法で計量添加し、その際、沈殿に必要なpHを一定に保持することが記載されているといえる。
また、従来の製法には、「色調は、不均一な被覆が原因となつて極めて薄色」となるという欠点があり(摘示(3b))、「過剰量でかつ変化する濃度で存在する金属塩、加水分解の間の一定でないpH-値及び変化する被覆速度」が「淡いかつ不満足な色調の主要原因」である(摘示(3c))こと、その他、「均一層」を得る従来法としては、「ガス相を介して製造される」方法があるに過ぎなかつたが、「そのような方法は工業的に実施するのが困難でありかつ経済的に価値がない」ものである(摘示(3b))ことが記載されている。
それに対し、上記刊行物3記載の顔料の製法では、「加水分解は一定の温度、一定のpH-値及び金属溶液の一定の供給速度で実施する」ことにより、「遊離水和金属イオン又は雲母面上に結合しない金属酸化物粒子が懸濁液中に存在するのを回避」し、「同一のかつ均一な層の厚さの均質で無定形の層」を得る(摘示(3d))ことができたことが記載されているから、上記チタン塩は加水分解されて水化二酸化チタン(水化金属酸化物)となって、層が形成されているものと認められる。しかも、該層の厚さとしては、「約30?33nmが混合酸化物層にかつ相応して約60?66nmが外部の酸化物層上に沈降する」(摘示(3f))と記載されており、各層の厚さは、いずれも「20?500nmの厚さ」の範囲に包含されるものである。
してみると、刊行物3に記載の塩基と四塩化チタンである水溶性無機金属化合物とを同時に、いわゆる滴定法で計量添加し、その際、「遊離水和金属イオン又は雲母面上に結合しない金属酸化物粒子が懸濁液中に存在するのを回避」し、すなわち、被覆される表面上に沈殿しない過剰の水化二酸化チタン粒子が製造されない程度に、加水分解し、対応する水化金属酸化物が全て沈殿するのに必要なpHを一定に保持する方法が記載されているということができる。また、該方法によって、「約30?33nmが混合酸化物層にかつ相応して約60?66nmが外部の酸化物層上に沈降する」、「同一のかつ均一な層の厚さの均質で無定形の層」を得ることができるのであるから、該方法は、「20?500nmの厚さ」の範囲に相当する精密に規定された厚さで積層させることができる方法であるといえる。

(1-3)刊行物4の記載について
他方、刊行物4には、顔料である「TiO_(2 )-/SnO_(2) -雲母」(粒径5-20μm)に、SiO_(2 )によるコーテイングを施す際に、「ケイ酸塩ナトリウム溶液・・・を徐々に顔料懸濁液に添加」し、「pH値はこの際10%の塩酸溶液の添加で一定に保つ」(摘示(4a))工程を有する顔料の製造方法が記載されている。該方法は、刊行物4の請求項2に記載の「シリコン」を含む「2種類の水溶性の化合物」からの「2種類の金属酸化物の混合物」の析出による顔料の製造方法に対し、従来法(比較例)である1種類の金属酸化物の析出による顔料の製造方法という位置づけであるものの、該請求項2に記載の方法における2種類の金属酸化物の割合が、「全顔料に対して0.3-50%・・・好ましくは0.5-30重量%」(摘示(4c))であることを考慮すれば、1種類の金属酸化物である「SiO_(2 )によるコーテイング」を施すに際しても、摘示(4a)の「5%」という被覆量は一例を示したに過ぎず、上記「0.3-50%・・・好ましくは0.5-30重量%」の範囲で、十分な厚さをもって被覆することができることが示唆されているといえる。
なお、本願明細書等の「例1」(公報10頁16行?末行)において、「雲母150g(粒子サイズ:10?40μm)」に対し、「ケイ酸ナトリウム溶液250ml(SiO_(2) 125g/リットル)」、すなわち、SiO_(2)として31.25g(=125×0.250)であり、透明担体材料である雲母に対して約17%のSiO_(2)が被覆されており、このときのSiO_(2)層の厚さが、平成22年10月20日付けの意見書(参考資料1の「顔料の各層の厚さの実験結果」)を参酌すると、「49nm」であることを考慮すれば、上記刊行物4の「全顔料に対して0.3-50%・・・好ましくは0.5-30重量%」の範囲で金属酸化物をコーテイングすると、本願発明の「20?500nmの厚さ」と重複すると認められる。
してみると、刊行物4には、上記(1-2)の二酸化チタンにおける「20?500nmの厚さ」の範囲に相当する精密に規定された厚さで積層させることができる方法と同様の条件で、金属酸化物であるSiO_(2 )の層を形成するに際して、塩酸とケイ酸塩ナトリウムを同時に、計量添加し、塩酸の添加により、pH値を一定に保持する方法が記載されているということができる。

(1-4)相違点Aの容易想到性について
上記(1-2)及び(1-3)に示されるように、加水分解により、二酸化チタンTiO_(2 )、シリカSiO_(2 )等の金属酸化物の層を形成するに際し、酸または塩基と対応する四塩化チタン、ケイ酸塩ナトリウム等の水溶性無機金属化合物とを同時的計量添加することにより、加水分解および対応する水化金属酸化物の沈殿に必要なpHを一定に保持し、精密に規定された厚さの層を得ることは、当業者にとって周知慣用技術であるということができる。
ところで、引用発明の製造方法は、「各々、設定干渉光の略1/4波長の奇数倍の光学的厚さ」なる特定の厚さに積層する方法であり、「二酸化チタンの膜厚が1/4波長の奇数倍になっているため、狙った色以外の光が混ざらない鮮やかな発色が得られる」(摘示(1d))もので、刊行物1に、加水分解による沈着の際に「付ける時間」により「膜厚をコントロール」(摘示(1f))すると記載されているように、所定の正確かつ均一な膜厚としなければ、求める鮮やかな光の干渉が生じないことは明らかであるから、本来、膜厚を精密に規定したいという動機付けがあったといえる。
加えて、刊行物1には、光干渉材の製造方法として、「湿式法」と「乾式法」(摘示(1f))が挙げられているところ、「膜厚の整合は湿式法よりも乾式法による方が容易」(摘示(1i))と記載されているものの、図1(摘示(1l))のような全体を被覆する形状(いわゆるエンベロープ型)にしたいことを考慮すれば、通常ガラス板の基材の片方に「スパッタリング又は蒸着」され、また、フレークにするために「破断」しなければならず、よって非被覆の破断面が生じる「乾式法」(摘示(1f))より、全体が被覆される「湿式法」が望ましいことも明らかである。
してみると、引用発明と、刊行物3及び4に記載された上記周知慣用技術とは、湿式法において層の厚さを精密に規定するという課題が共通するといえる。
よって、湿式法の一工程である添加および加水分解工程について、引用発明の「チタン塩」又は「テトラエトキシシラン」を用いる方法に代えて、精密に規定された厚さに規定するために、上記(1-2)及び(1-3)に示される周知慣用技術を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、添加および加水分解工程について、引用発明の金属化合物に代えて、「水溶性無機金属化合物」を用い、かつ、「酸または塩基と前記水溶性無機金属化合物とを同時的計量添加することにより、加水分解および対応する水化金属酸化物の沈殿に必要なpHを一定に保持」することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点Bについて
引用発明は、各層の厚さを、「設定干渉光の略1/4波長の奇数倍の光学的厚さ」と特定しているところ、刊行物1に記載されているとおり、「光学的厚さ」とは「幾何学的厚さ×屈折率」(摘示(1b))を意味するものである。そして、刊行物1には、「波長480nmの青色が目的の色相である場合」について具体的な幾何学的厚さが示されており、1/4波長の1倍の光学的厚さとするためには、各層の幾何学的厚さ、つまり、膜厚は、計算上、「TiO_(2 )の膜厚…1/4×480nm÷2.7(屈折率)=44.4nm」、「SiO_(2) の膜厚…1/4×480nm÷1.5(屈折率)=80.0nm」(摘示(1f))となる。該膜厚は、本願発明の「夫々独立して20?500nmの厚さ」に包含されるものである。
また、刊行物1には、「実施例では、交互に積層される高屈折率材層と低屈折率材層の各々を設定干渉光の略1/4波長としたが、かかる膜厚は非常に薄いため実際上の製造に困難を伴うことがある。例えば、湿式法の場合、一度のコーティングで付く膜厚が1/4波長を越えることが多く、膜厚が合わせ難い」(摘示(1h))ため、各層の膜厚を、「略1/4波長膜の奇数倍(設定干渉発色光の略1/4波長の光学的厚さの奇数倍)とする」ことにより、「膜厚を合わせ易くなり、製造が容易となるという利点がある」ことが記載されている(摘示(1h))。
そうすると、湿式法においては、上記「1/4波長の光学的厚さ」とすることは実際上製造困難であるものの、略1/4波長膜の奇数倍(設定干渉発色光の略1/4波長の光学的厚さの奇数倍)とすれば、製造が比較的容易であることが記載されているといえる。
そこで、上記の「波長480nmの青色が目的の色相である場合」についての各層の膜厚を、摘示(1h)の式(2)を用いて計算すると、以下のとおりとなる。
奇数倍の倍率 TiO_(2 )の膜厚 SiO_(2) の膜厚
1倍(m=0) 44.4nm 80.0nm
3倍(m=1) 133.2nm 240.0nm
5倍(m=2) 222.0nm 400.0nm
よって、「波長480nmの青色が目的の色相である場合」、「設定干渉光の略1/4波長の奇数倍」である「1倍」、「3倍」及び「5倍」の「光学的厚さ」に相当するTiO_(2 )及びSiO_(2) の膜厚は、いずれも本願発明の「夫々独立して20?500nmの厚さ」に包含されるものである。
以上のことから、引用発明の各層の膜厚として、波長480nmの青色が目的の色相である場合に、TiO_(2 )の膜厚では、44.4?222.0nmのものが、SiO_(2) の膜厚では、80.0?400.0nmのものが実質的に記載されているといえるのであり、たとえ、刊行物1記載の湿式法において、上記1/4波長の1倍の膜厚を製造することが実際上困難であったとしても、3倍及び5倍の膜厚とすることにより達成可能であるといえるから、本願発明の「夫々独立して20?500nmの厚さ」の範囲に該当するものが実質的に記載されているといえる。
しかも、上記(1-2)及び(1-3)に示される周知慣用技術を採用すれば、上記1/4波長の3倍及び5倍の膜厚のみならず、上記1/4波長の1倍の膜厚である44.4nm又は80.0nmについても精密に規定された厚さが得られると認められるから、被覆する各層の厚さを「夫々独立して20?500nmの厚さ」の範囲に相当する「精密に規定された」厚さとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、相違点Bにかかる引用発明の「設定干渉光の略1/4波長の奇数倍の光学的厚さ」は、本願発明の「夫々独立して20?500nmの厚さ」と実質的に相違するものではなく、また、引用発明において、「夫々独立して20?500nmの厚さ」の範囲に相当する「精密に規定された」厚さとすることは、上記周知慣用技術も考慮すれば、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)相違点Cについて
引用発明の製法で得られる「光干渉材」について、刊行物1には、「顔料を使わずに単体だけで発色材と称するに値する強さで鮮やかに発色ができ又は熱線が反射できる光干渉材」(摘示(1b))と記載されており、一見すると、「顔料」とは区別した記載となっている。
しかしながら、引用発明における「光干渉材」は、上記のとおり、発色材として機能し、塗料等に配合される(摘示(1k))ものであり、製造に際し、水に分散させるので(摘示(1f))、水不溶性のものであることは明らかであるから、実質上顔料と同等の機能を有するということができる。しかも、上記2で述べたように、引用発明と本願発明とは、共に、担体材料及び被覆される金属酸化物層を有する点で材質として相違するものではないから、本願発明が「干渉性顔料」と称することによって、引用発明における「光干渉材」と実質的に相違するということはできない。
したがって、相違点Cは、実質的な相違点であるとはいえない。

(4)相違点Dについて
刊行物3には、「真珠光沢の顔料の製法」において、フレーク状雲母上に、「a) チタン塩・・・並びに・・・他の金属塩・・・を有する金属塩水溶液」を供給し、「b) 引続いて・・・チタン塩・・・水溶液」を供給し、その際、いずれの工程も、「d) 塩基の供給は、沈積の間殆んど一定のpH-値を保持するように制御する」ことが記載されており(摘示(3a))、上記刊行物3記載の顔料の製法では、「加水分解は一定の温度、一定のpH-値及び金属溶液の一定の供給速度で実施する」ことにより、「遊離水和金属イオン又は雲母面上に結合しない金属酸化物粒子が懸濁液中に存在するのを回避」し、「同一のかつ均一な層の厚さの均質で無定形の層」を得る(摘示(3d))ことができたことが記載されているから、上記チタン塩は加水分解されて水化二酸化チタン(水化金属酸化物)となって、層を形成しているものと認められる。
そして、上記層を形成した後の後処理については、摘示(3h)に、「雲母小板の表側と裏側にそれぞれ2相を有する真珠光沢顔料はすべての常法により後処理することができかつ反応混合物から単離することができる」と記載され、該後処理として、「洗浄」、「乾燥」及び「か焼」を行うことが記載されているから、刊行物3に記載の製法において、「洗浄」、「乾燥」及び「か焼」といった後処理工程は、上記「a)」及び「b)」の金属塩水溶液による水化二酸化チタン(水化金属酸化物)の2層の沈積が終了した後であると認められる。
このことは、実施例において、摘示(3a)の「a)」?「f)」の工程に相当する「沈積の終結」後に、「水で洗浄して塩を除去しかつ約120℃で浅皿中で乾燥」し、「乾燥後、顔料を950℃で60分間か焼する」(摘示(3g))ことからも認められる。
よって、水性無機金属化合物の加水分解による2種の金属酸化物層の形成においては、各層ごとに、水洗い、乾燥及び焼成又は加熱を行う必要はなく、水化金属酸化物を交互に被覆し、その後に、後処理として、「水で洗浄して塩を除去」し、「乾燥」及び「か焼」を行うことによって、「均一な層の厚さ」を有する2層顔料を得ることができるといえる。そして、刊行物3に接した当業者であれば、3層以上の金属酸化物層の形成においても、上記水性無機金属化合物の加水分解による工程を繰り返すことによって、「均一な層の厚さ」を有する多層顔料を得ることが実現可能なことも自明である。
してみると、上記(1)で述べたとおり、添加および加水分解工程について、引用発明の金属化合物に代えて、刊行物3及び刊行物4に記載された周知慣用技術に基づき、「水溶性無機金属化合物」を用い、かつ、「酸または塩基と前記水溶性無機金属化合物とを同時的計量添加することにより、加水分解および対応する水化金属酸化物の沈殿に必要なpHを一定に保持」する工程を採用するにつき、併せて、刊行物3に記載された水化金属酸化物を交互に被覆し、その後に、後処理として、「水で洗浄して塩を除去」、すなわち、金属酸化物層が形成された顔料を水性懸濁液から分離採取し、「乾燥」させ、次いで「か焼」、すなわち焼成する工程を採用することも、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、金属酸化物の交互層を作成するに際し、引用発明の各層ごとに、水洗い、乾燥及び焼成又は加熱を行うことに代えて、「水化」金属酸化物を交互に被覆し、次いで、「被覆された担体材料を水性懸濁液から分離採取し、乾燥させ、次いで所望により、焼成する」方法を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。

(5)本願発明の効果について
本願明細書等に、
「本発明の目的は、強力な干渉色および(または)干渉色の強い角度依存性を有する本質的に透明な干渉性顔料を提供することにある。さらにまた、本発明の目的は、可視領域および赤外領域で特異なスペクトル特性を有する顔料を提供することにある。」(公報4頁24?27行)
「この目的はさらにまた、新規顔料の製造方法によって本発明に従い達成され・・・る。」(公報5頁19?25行)
「純粋に無機の出発材料を用いて、水性媒質中の微粉砕されている小片状基質上に正確に定められた厚さで、相違する屈折率を有する2枚または3枚以上の干渉層を湿式化学法により製造することは、従来開示されたことはない。」(公報9頁3?5行)
と記載されていることからみて、
本願発明の効果は、
「強力な干渉色および(または)干渉色の強い角度依存性を有する本質的に透明な干渉性顔料を特定の湿式化学法による製造方法によって得ることができた」ことであると認められる。
しかしながら、引用発明の方法によって得られる光干渉材も、「単体だけで発色材と称するに値する強さで鮮やかに発色ができ」る(摘示(1b))ものであり、また、摘示(1c)に記載の原理を考慮し、また、「二酸化チタンの膜厚が1/4波長の奇数倍になっているため、狙った色以外の光が混ざらない鮮やかな発色が得られる」(摘示(1d))との記載も参酌すれば、各層の膜厚を精密に規定された厚さとすれば、より強く鮮やかな発色が期待できることは当業者が容易に予測し得ることであるところ、刊行物3及び4に記載された周知慣用技術を採用することにより、「同一のかつ均一な層の厚さの均質で無定形の層」(摘示(3d))を得ることができ、それにより、「強く着色されかつ光沢のある色調」(摘示(3c))が得られるのであるから、引用発明において、光干渉材を精密に規定された厚さとなるような製法を採用することにより、さらに、強く鮮やかな干渉色となることは当業者が予測し得る程度のことである。
よって、本願発明によって奏される上記効果は、刊行物1、3及び4の記載からみて、当業者の予測を超える格別顕著なものとはいえない。

4 本願発明についてのまとめ
したがって、本願発明は、刊行物1、3及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 請求人の主張について
1 刊行物1について
(1)請求人は平成22年10月20日付けの意見書の3.において、刊行物1に関し、
「刊行物1には、・・・湿式法による方法が記載されていますが、層厚について具体的な記載がないばかりか、その反応条件たとえば、温度、pH値、用いる量についての具体的記載すらありません。そのTiO_(2)膜の膜厚のコントロールについて、「付ける時間により膜厚をコントロールする」旨の記載があるもの、基材自体のサイズおよび添加するチタン塩の量について何らの開示もない刊行物1が、その記載のみで44.4nmの膜厚を厳密にコントロールできるものではありません。また、同刊行物には、SiO_(2)膜に関し、具体的に、段落番号[0041]において「<4>シリカをコーティングする。・・・」旨記載されていますが、SiO_(2)膜コーティングは、いわゆるゾルゲル法によるものです。・・・「水溶性無機金属化合物」を用いる本願発明とは製法ばかりでなく材料が異なります。さらに添付の参考資料3にもありますように、ゾルゲル法は、反応条件に大きく依存し、開始材料の濃度、反応温度、触媒の種類およびその濃度によって、形成される膜の構造、密度およびその孔隙率が変化し、とりわけ、上述のように膜の孔隙率については、膜の均一性および屈折率に大きな影響を与えます。したがって、刊行物1の上記開示のみで、所望の層厚を決定し、干渉性の顔料が得られるとは到底考えられず、「精密に規定された厚さの低屈折率金属酸化物および高屈折率金属酸化物の交互干渉層で被覆されている」本願発明の多層干渉性顔料が、刊行物1に記載されているとは到底考えられません。」と主張し、
さらに、平成23年3月4日付けの上申書の1.において、該ゾルゲル法に関し、
「刊行物1に記載のゾルゲル法では、酸を触媒とする溶液で行っていますが、一般的に、酸性の溶液で行った場合には、添付の参考資料2(参考資料2:「ゾル-ゲル法の科学 -機能性ガラスおよびセラミックスの低温合成-」、160?161頁参照)および参考資料3(参考資料3: ゾルゲル化学に関する参考資料(Mauritz Research Groupのホームページより抜粋)C.Summary参照)にも記載の通り、加水分解によって得られる重合体は、長い一次元に発達した線状の高分子の一次元重合体が生じてしまい、干渉効果を得るのに十分な厚みを有するSiO_(2)層を形成するように制御することは不可能であります。すなわち、酸性溶液中では、通常、塩基性溶液で得られる三次元的に進む架橋結合の著しい網目構造を得ることはできず、単なる鎖状の重合体からなるいわば二次元的な平面的構造を-得るに過ぎず、刊行物1の上記開示のみで、所望の層厚を決定し、本願発明の厚み20?500nmSiO_(2)層を形成することができるとは到底考えられません。」
と主張する。

(2)しかしながら、刊行物1の摘示(1f)の記載に接した当業者であれば、刊行物1には「湿式法」について具体的な方法が記載されていると認識することができ、反応条件たとえば、温度、pH値、用いる量についての詳細な記載がなくとも、適宜それらの反応条件を設定し、所望の膜厚の層を形成することができると認められる。
また、請求人は、「一般的に、酸性の溶液で行った場合には、・・・加水分解によって得られる重合体は、長い一次元に発達した線状の高分子の一次元重合体が生じて」しまうと主張するが、上記上申書の「参考資料2」には、「酸を触媒とする溶液で,水含有量が少ない場合には,・・・線状の高分子が生じやすくなる.・・・長い一次元的に発達した重合体が生成すると思われる.・・・酸性溶液中では架橋結合の少ない長い粒子が生じていることを示している.」(160頁3?10行)と記載されている一方で、「触媒が酸であっても,出発溶液中の水含有量が大きいときには,分子中のOR基で加水分解される部分の割合が大きくなり,架橋結合が増し,したがって長い一次元重合体ではなく,それらがつながった形の網目的な構造になると考えられる.」(160頁14?17行)と記載されている。
そして、刊行物1の摘示(1f)に記載された「○4 シリカをコーティングする。
(1) ガラスフレークを水に分散させる。(2) テトラエトキシシランSi(OC_(2) H_(5) )_(4 )、塩酸HCl,エタノールC_(2) H_(5) OHを加えて、加水分解させて、水和物を生成させる。続いて重縮合反応が起こり、次式によりシリカSiO_(2) がフレーク表面に沈着する。
nSi(OC_(2) H_(5) )_(4) +4nH_(2) O→nSi(OH)_(4) +4nC_(2) H_(5) OH
nSi(OH)_(4) →nSiO_(2 )+2nH_(2) O」という工程においては、「ガラスフレークを水に分散させる」ことから、上記参考資料2の条件のうち、後者の「触媒が酸であっても,出発溶液中の水含有量が大きいとき」に相当するといえるので、請求人が主張する前者の「酸を触媒とする溶液で,水含有量が少ない場合に」、「長い一次元に発達した線状の高分子の一次元重合体が生じて」しまう場合には当てはまらず、これを根拠とする請求人の主張は採用できない。しかも、刊行物1には、上記摘示(1f)に記載のとおり操作を行えば、上記反応式に示されるとおり、加水分解された水和物「Si(OH)_(4) 」から、シリカ「SiO_(2 )」が生じ、「シリカSiO_(2) がフレーク表面に沈着」すると記載されているのであり、「線状の高分子の一次元重合体」を生じさせる工程であるともいえない。
しかも、特開平6-93206号公報(【請求項1】、段落【0011】、【0017】、?【0019】)、特開平1-158077号公報(特許請求の範囲第1項、4頁左下欄1?9行、同頁右下欄10行?左上欄12行、6頁左上欄12?17行、9頁右上欄3行?同頁左下欄8行)の記載からみても、顔料の表面に二酸化チタンやシリカの被膜を形成する際に、四塩化チタン、チタンのアルコキシドといったチタン化合物や、ケイ酸ナトリウム、テトラエトキシシランのようなアルコキシドといったケイ素化合物のいずれを用いても、加水分解し、所望の膜厚で沈着させることができることは、当業者に周知慣用技術であったといえるのである。
よって、上記第5の1で述べたとおり、摘示(1f)等に基づき、上記刊行物1に記載された発明(「引用発明」)が認定できるのであり、請求人の上記主張によっても該認定についての判断が左右されるものではない。
また、「精密に規定された厚さ」については、当審による平成22年4月14日付けの拒絶理由通知の後に、同年10月20日付けの手続補正により請求項3に追加された事項であるところ、上記第5の2において、刊行物1に「精密に規定されたとの特定がない」として、相違点Bに挙げているから、上記「刊行物1に記載されているとは到底考えられません」との主張は成り立たず、また、相違点Bについての検討は、上記第5の3(2)で述べたとおりである。
したがって、上記(1)の主張は、上記第5の4の判断を左右するものではない。

2 刊行物3について
(1)請求人は、上記意見書の3.において、刊行物3について、
「pHを保持する旨記載されているものの同時的に計量添加されるものでもありません。そして・・・同文献に記載された同一かつ均一な厚みの層とされるTiO_(2)層は、無定形、すなわちアモルファスTiO_(2)層であって、後述のREM写真が示すとおり本願発明のように結晶性のTiO_(2)層ではありません。」及び
「刊行物3にはpHを一定に保持し加水分解する方法が記載されているものの、同一かつ均一な厚みであるとされるTiO_(2)層は、同刊行物に記載のとおり、無定形、すなわちアモルファスなTiO_(2)層であって本願発明によって得られるTiO_(2)層は、上述のように結晶性のTiO_(2)層でありますから、刊行物3に記載の顔料が本願発明の多層干渉性顔料と構成上の違いを有するばかりでなく、そのTiO_(2)層自体を比較しても全く違うものであることがわかります」
と主張する。

(2)しかしながら、刊行物3に記載された顔料の製法が同時的計量添加に相当することは、上記第5の3(1)(1-2)で述べたとおりであり、刊行物3に記載された製法を採用することの容易性及び効果の予測性についても、上記第5の3において述べたとおりである。
そして、請求人は、「TiO_(2)層」が、「無定形」であるか、「結晶性」であるかについて主張するが、本願発明は、該TiO_(2)層の結晶状態について何ら特定するものではなく、本願明細書等を参酌しても、「結晶性」であるかについて何ら記載も示唆もされていないのであるから、上記主張は本願明細書等の記載に基づくものであるとはいえない。
したがって、上記(1)の主張も、上記第5の4の判断を左右するものではない。

3 刊行物4について
(1)請求人は、上記上申書の2.において、
「刊行物4の実施例1には、「比較実験のための5%のSiO_(2)によるコーティング層を有する顔料」が記載され、かかるコーティング層を施す方法として、ケイ酸塩ナトリウム溶液を添加し、pHを一定に保つ旨記載されています。このときの厚みを同刊行物の記載に従って計算すると以下のようになります。・・・
SiO_(2)膜の厚みは、・・・約4.7nmとなります。かかる厚みのSiO_(2)コーティングは、全く干渉効果を有さない層であり、そのような薄いSiO_(2)コーティング上層は、イリオデイン123の光学的特性を変えることができません。
以上のとおり、実際に干渉性を有する厚みのSiO_(2)層を湿式法で形成することは従来の方法では、不可能であり、本願発明の交互干渉層で被覆された多層干渉性顔料の進歩性は認められるべきであると思料します。」と主張する。

(2)しかしながら、刊行物4の実施例1に記載された「SiO_(2)によるコーティング層」が薄いものであったとしても、刊行物4に記載のケイ酸ナトリウム塩溶液を用いる方法では、本願発明の「20?500nmの厚さ」を達成することが不可能であったということにはならず、むしろ、上記第5の3(1)(1-3)及び(1-4)で述べたとおり、刊行物4の記載から、ケイ酸ナトリウム溶液を用いて同時的計量添加により均一な厚さの層を得ることは、当業者にとって周知慣用技術であったといえ、本願発明の「20?500nmの厚さ」で被覆することができることも示唆されているといえる。
したがって、上記(1)の主張も、上記第5の4の判断を左右するものではない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-01 
結審通知日 2011-04-12 
審決日 2011-04-25 
出願番号 特願平10-549832
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 泰之  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 松本 直子
橋本 栄和
発明の名称 多層干渉性顔料  
代理人 葛和 清司  
復代理人 稲宮 真衣子  

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