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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1243941
審判番号 不服2008-26680  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-16 
確定日 2011-09-22 
事件の表示 特願2003-327754「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月 7日出願公開、特開2005- 93874〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年9月19日の出願であって、平成20年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、当審において平成23年1月17日付けで拒絶理由通知がなされ、同年3月18日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされ、さらに、当審において同年4月14日付けで最後の拒絶理由通知がなされ、同年6月16日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成23年6月16日付けの手続補正について
【補正の却下の決定の結論】
平成23年6月16日付けの手続補正を却下する。

【理由】
(1)補正の内容
平成23年6月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を補正するものであり、補正前後の請求項1は、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
絶縁層上の半導体層に電界効果型トランジスタが形成された半導体装置であって、
前記半導体層には、ボディ領域を挟んでソース領域とドレイン領域とが設けられ、
前記半導体層を覆うようにゲート絶縁膜が設けられ、
前記ボディ領域には、前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられ、
前記ドレイン領域側の前記半導体層の膜厚が前記ソース領域側の前記半導体層の膜厚に比べて厚く、
前記ボディ領域と前記ドレイン領域との間の前記半導体層に電界緩和領域が設けられ、
前記ボディ領域と前記ソース領域とが接しており、前記ボディ領域と前記ソース領域との間の前記半導体層には他の領域は存在せず、
前記ドレイン領域は、第1濃度を有する第1不純物層を有し、
前記電界緩和領域は、
前記第1不純物層と同一の導電型で第2濃度を有する第2不純物層と、
前記第2不純物層と接しており、前記第1不純物層と同一の導電型で第3濃度を有する第3不純物層と、を有し、
前記第3濃度は前記第2濃度よりも低濃度であり、前記第2濃度は前記第1濃度よりも低濃度であり、
前記第2不純物層は前記ドレイン領域側に設けられ、
前記第3不純物層は前記ボディ領域側から前記第2不純物層の下側にかけて連続して設けられ、
前記第1不純物層と前記第2不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成され、
前記第1不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成され、
前記第2不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成され、
前記第3不純物層と前記ボディ領域との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成されていることを特徴とする半導体装置。」

(補正後)
「【請求項1】
絶縁層上の半導体層に電界効果型トランジスタが形成された半導体装置であって、
前記半導体層には、ボディ領域を挟んでソース領域とドレイン領域とが設けられ、
前記半導体層を覆うようにゲート絶縁膜が設けられ、
前記ボディ領域には、前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられ、
前記ドレイン領域側の前記半導体層の膜厚が前記ソース領域側の前記半導体層の膜厚に比べて厚く、
前記ボディ領域と前記ドレイン領域との間の前記半導体層に電界緩和領域が設けられ、
前記ボディ領域と前記ソース領域とが接しており、前記ボディ領域と前記ソース領域との間の前記半導体層には他の領域は存在せず、
前記ドレイン領域は、第1濃度を有する第1不純物層を有し、
前記電界緩和領域は、
前記第1不純物層と同一の導電型で第2濃度を有する第2不純物層と、
前記第2不純物層と接しており、前記第1不純物層と同一の導電型で第3濃度を有する第3不純物層と、を有し、
前記第3濃度は前記第2濃度よりも低濃度であり、前記第2濃度は前記第1濃度よりも低濃度であり、
前記第2不純物層は前記ドレイン領域側に設けられ、
前記第3不純物層は前記ボディ領域側から前記第2不純物層の下側にかけて連続して設けられ、
前記第1不純物層と前記第2不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第1不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第2不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第3不純物層と前記ボディ領域との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第3濃度を有する前記第3不純物層は、
前記第2不純物層と接しており、前記第2不純物層と同一の導電型で第4濃度を有する第4不純物層と、
前記第4不純物層と前記ボディ領域とに接しており、前記第4不純物層と同一の導電型で第5濃度を有する第5不純物層と、を含み、
前記第5濃度は前記第4濃度よりも低濃度であり、
前記第4不純物層と前記第5不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成されていることを特徴とする半導体装置。」

(2)補正事項の整理
(補正事項a)補正前の請求項1の「前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成され」を、補正後の請求項1の「前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され」と補正すること。

(補正事項b)
補正前の請求項1に、
「前記第3濃度を有する前記第3不純物層は、
前記第2不純物層と接しており、前記第2不純物層と同一の導電型で第4濃度を有する第4不純物層と、
前記第4不純物層と前記ボディ領域とに接しており、前記第4不純物層と同一の導電型で第5濃度を有する第5不純物層と、を含み、
前記第5濃度は前記第4濃度よりも低濃度であり、
前記第4不純物層と前記第5不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成されている」
という事項を追加すること。

(3)補正の目的の適否および新規事項の追加の有無についての検討
(3-1)補正事項aについて
補正前の請求項1の「円弧状に湾曲して形成され」を、補正後の請求項1の「湾曲して形成され」と拡張するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)の第1ないし4号に掲げる請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれの事項をも目的とするものではないので、補正事項aは、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。

(3-2)補正事項bについて
補正前の請求項1の発明特定事項である「第3濃度を有する第3不純物層」について、「前記第2不純物層と接しており、前記第2不純物層と同一の導電型で第4濃度を有する第4不純物層と、
前記第4不純物層と前記ボディ領域とに接しており、前記第4不純物層と同一の導電型で第5濃度を有する第5不純物層と、を含み、
前記第5濃度は前記第4濃度よりも低濃度であり、
前記第4不純物層と前記第5不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成されている」と限定的に減縮する事項を付加する補正である。
そして、この補正は、本願の願書に最初に添付した明細書の【0039】ないし【0041】段落及び図6の記載に基づく補正である。
したがって、補正事項bは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(以下「特許法第17条の2第3項」という。)に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしており、特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(4)小括
上記(3-1)で検討したとおり、補正事項aは、特許法17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(5)本件補正が適法なものとした場合
(5-1)検討の前提
上記(3-1)において検討したとおり、補正事項aは、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないが、仮に当該要件を満たすものであるとした場合、すなわち、補正事項aが明りょうでない記載の釈明に該当するとした場合、上記(3-2)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項(以下「特許法第17条の2第5項」という。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、一応検討する。

(5-2)当審において平成23年4月14日付けで通知した拒絶の理由
当審において平成23年4月14日付けで通知した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
(5-2-1)平成23年3月18日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。(以下「拒絶理由1」という。)
(5-2-2)本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平5-326556号公報及び特開平4-180634号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(以下「拒絶理由2」という。)
(5-2-3)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。(以下「拒絶理由3」という。)

(5-3)拒絶理由2についての検討
(5-3-1)補正後の請求項1に係る発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後の発明」という。)は、上記2.(1)において、補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(5-3-2)引用刊行物に記載された発明
(5-3-2-1)当審において平成23年4月14日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の出願前である平成5年12月10日に頒布された刊行物である特開平5-326556号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、図1とともに、以下の事項が記載されている。(なお、下線は、当審において付与したものである。以下同様。)

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体装置,特に薄膜SOI(Silicon On Insulator)MOSトランジスタの形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】絶縁膜上に成長させた単結晶シリコン膜(以下SOI膜という)に形成したMOSトランジスタ(以下SOI素子という)は、シリコン基板上に形成したMOSトランジスタ(以下バルク素子という)にはない特長を有する。例えば、ラッチアップが起こり難いこと,放射線耐性が高いこと,浮遊容量が低いこと,そして三次元ICへ適用が可能であること等である。
【0003】しかしながら、従来のSOI素子はSOI膜の結晶性が良好ではないため、キャリアの移動度がバルク素子よりも小さく、動作性能がバルク素子には及ばなかった。また、SOIを接地しないことにより、ドレイン飽和電流が一定しないキンク効果が生じて動作性能を悪化させ、回路設計上の障害となる等の欠点があった。
【0004】このような欠点の対策として、1982年にSOI膜の膜厚を従来の5000?8000Åから略1000Åとした薄膜SOI素子が考えられた。薄膜SOI素子はSOI膜を充分薄くすることにより、トランジスタが動作するときに、SOI膜が全て空乏化され、これによりキャリアの移動度が大きくなる。また、この薄膜SOI素子は、キンク効果を抑制するという報告がなされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、薄膜SOI素子ではSOI膜が薄膜化されるに伴い、ドレイン電界が強化されるために、薄膜SOI素子のドレイン破壊電圧が低下する。また、ドレイン電界が強化されるために、シリコン原子がイオン化し、インパクトイオン率が増加するという問題があった。
【0006】これらの問題を解決し、SOI素子の利点を損なわない薄膜SOI素子が考えられている(財団法人新機能素子研究開発協会編“三次元回路素子研究開発プロジェクト (1981年度?1990年度) -研究成果概要,波及効果と展望-”, p 97?p104)。
【0007】図1はこの薄膜SOI素子の模式的断面図である。Si基板1上に絶縁膜2が堆積され、この上に厚膜のSOI層3が形成される。その後に、リソグラフィ工程を行ってドレイン領域6にマスクを形成し、反応性イオンエッチングまたは、熱酸化してHFで除去することにより、ドレイン領域6以外のSOI層3の領域を薄くする。そしてゲート電極形成領域下部の反転領域11上にゲート酸化膜7を形成し、その上にゲート電極4を形成する。そしてイオン注入を行ってドレイン領域6及びソース領域5を形成する。」

したがって、引用刊行物1には、以下の発明(以下「刊行物発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「Si基板1上に堆積された絶縁膜2の上のSOI層3に形成され、ドレイン領域6以外のSOI層3の領域が薄くされ、反転領域11上にゲート酸化膜7が形成され、その上にゲート電極4が形成され、反転領域11を挟んでドレイン領域6及びソース領域5が形成された薄膜SOIMOSトランジスタ。」

(5-3-2-2)当審において平成23年4月14日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の出願前である平成4年6月26日に頒布された刊行物である特開平4-180634号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、第1及び2図とともに、以下の事項が記載されている。

「第1図は本発明の第1の実施例を説明するための半導体チップの断面図である。
第1図に示すように、P型シリコン基板1の一主面に選択的にフィールド酸化膜2を形成して素子形成領域を区画し、素子形成領域の表面にゲート酸化膜3を設ける。次に、ゲート酸化膜3の上にゲート電極4を選択的に設け、ゲート電極4及びフィールド酸化膜2をマスクとしてリンイオンを加速エネルギー10keV、ドーズ量1×10^(13)cm^(-2)でイオン注入し、第1のN型低濃度拡散層8を形成する。次に、ゲート電極4の側面に絶縁膜の側壁部5を形成し、側壁部5に整合してリンイオンを加速エネルギー20keV、ドーズ量1.2×10^(13)cm^(-2)でイオン注入し、低濃度拡散層8に接続した第2のN型低濃度拡散層9を設ける。次に、同様にして側壁部6を設け、リンイオンを加速エネルギー30keV、ドーズ量1.4×10cm^(-2)で(当審注:「1.4×10^(13)cm^(-2)」の誤記と認められる。)イオン注入し、第3のN型低濃度拡散層10を設ける。次に、側壁部7を設け、ヒ素イオンを加速エネルギー50keV、ドーズ量1×10^(14)cm^(-2)でイオン注入し、N型の高濃度拡散層11を形成する。
第2図は本発明の第2の実施例を説明するための半導体チップの断面図である。
第2図に示すように、イオン注入の加速エネルギーを順次低下させて、低濃度拡散層8,9,10の拡散深さを順次浅くして設けた以外は第1の実施例と同じ構成を有しており、ゲート電極側の深い領域に低濃度のドレイン領域を設けて濃度勾配を緩やかにできる利点がある。
〔発明の効果〕
以上説明したように本発明は、ゲート電極側から高濃度拡散層側へ濃度勾配をゆるやかに変化させた複数の低濃度拡散層を形成することにより、チャネル側の電界強度を低下させる事ができる。よって、ホットキャリア効果による基板電流を低減できる事になり、半導体装置の信頼性を向上させる効果がある。」(第2頁右上欄第14行?同頁右下欄第11行)

上記記載からは、
「P型シリコン基板1の主表面にゲート酸化膜を介して形成されたゲート電極4と前記ゲート電極を挟むように、前記P型シリコン基板1の前記主表面に形成された1対のN型の高濃度拡散層11と、
前記ゲート電極4の下方の前記P型シリコン基板1の前記主表面と前記N型の高濃度拡散層11に接し、前記P型シリコン基板1の前記主表面に形成された第1のN型低濃度拡散層8と、
前記N型の高濃度拡散層11に接し、前記第1のN型低濃度拡散層8内の前記主表面に形成された第2のN型低濃度拡散層9と、
前記N型の高濃度拡散層11に接し、前記第2のN型低濃度拡散層9内の前記主表面に形成された第3のN型低濃度拡散層10を有し、
第1のN型低濃度拡散層8の濃度は、第2のN型低濃度拡散層9の濃度よりも小さく、
第2のN型低濃度拡散層9の濃度は、第3のN型低濃度拡散層10の濃度よりも小さく、
第3のN型低濃度拡散層10の濃度は、N型の高濃度拡散層11の濃度よりも小さい、LDD構造のMOSトランジスタ。」の構造が読み取れる。

ここで、「第1のN型低濃度拡散層8」、「第2のN型低濃度拡散層9」、「第3のN型低濃度拡散層10」及び「N型の高濃度拡散層11」は、イオン注入を用いて形成されていることから、イオン注入後に熱処理を行って不純物の活性化を行っていることは、当業者にとって自明である。そうすると、「第1のN型低濃度拡散層8」、「第2のN型低濃度拡散層9」、「第3のN型低濃度拡散層10」及び「N型の高濃度拡散層11」の底面角部は、熱処理の際の拡散現象により湾曲して形成されているものと認められる。
以上のことから、引用刊行物2には、以下の発明(以下「刊行物発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「P型シリコン基板1の主表面にゲート酸化膜を介して形成されたゲート電極4と前記ゲート電極を挟むように、前記P型シリコン基板1の前記主表面に形成された1対のN型の高濃度拡散層11と、
前記ゲート電極4直下の前記P型シリコン基板1の領域と前記N型の高濃度拡散層11に接し、前記P型シリコン基板1の前記主表面に形成された第1のN型低濃度拡散層8と、
前記N型の高濃度拡散層11に接し、前記第1のN型低濃度拡散層8内の前記主表面に形成された第2のN型低濃度拡散層9と、
前記N型の高濃度拡散層11に接し、前記第2のN型低濃度拡散層9内の前記主表面に形成された第3のN型低濃度拡散層10を有し、
第1のN型低濃度拡散層8の濃度は、第2のN型低濃度拡散層9の濃度よりも小さく、
第2のN型低濃度拡散層9の濃度は、第3のN型低濃度拡散層10の濃度よりも小さく、
第3のN型低濃度拡散層10の濃度は、N型の高濃度拡散層11の濃度よりも小さい、LDD構造のMOSトランジスタであって、
前記型の高濃度不純物層11と前記第3のN型低濃度拡散層10との界面は、断面視で、ゲート電極4側からP型シリコン基板1の内部に向かうに従って、前記ゲート電極4直下の前記P型シリコン基板1の前記領域から離れるように湾曲して形成され、
前記N型の高濃度不純物層11と前記第1のN型低濃度拡散層8、前記第2のN型低濃度拡散層9との界面は、断面視で、前記ゲート電極4側から前記P型シリコン基板1の内部に向かうに従って、前記ゲート電極4直下の前記P型シリコン基板1の前記領域から離れるように湾曲して形成され、
前記第3のN型低濃度拡散層10と前記第2のN型低濃度拡散層9との界面は、断面視で、前記ゲート電極4側から前記P型シリコン基板1の内部に向かうに従って、前記ゲート電極4直下の前記P型シリコン基板1の前記領域から離れるように湾曲して形成され、
前記第1のN型低濃度拡散層8と前記ボディ領域との界面は、断面視で、前記ゲート電極4側から前記P型シリコン基板1の内部に向かうに従って、前記ゲート電極4直下の前記P型シリコン基板1の前記領域から離れるように湾曲して形成され、
前記第2のN型低濃度拡散層9と前記第1のN型低濃度拡散層8との界面は、断面視で、前記ゲート電極4側から前記P型シリコン基板1の内部に向かうに従って、前記ゲート電極4直下の前記P型シリコン基板1の前記領域から離れるように湾曲して形成されている、
LDD構造のMOSトランジスタ。」

(5-3-3)補正後の発明と刊行物発明1との対比
(5-3-3-1)刊行物発明1の「薄膜SOIMOSトランジスタ」は、補正後の発明の「絶縁層上の半導体層に電界効果型トランジスタが形成された半導体装置」に相当する。

(5-3-3-2)刊行物発明1の「絶縁膜2」、「SOI層3」、「反転領域11」及び「ゲート酸化膜7」は、各々補正後の発明の「絶縁層」、「半導体層」、「ボディ領域」及び「ゲート絶縁膜」に相当する。

(5-3-3-3)刊行物発明1において、「反転領域11」と「ソース領域5」とが接しており、「反転領域11」と「ソース領域5」との間の「SOI層3」には他の領域が存在しないことは明らかである

(5-3-3-4)すると、補正後の発明と刊行物発明1とは、
「絶縁層上の半導体層に電界効果型トランジスタが形成された半導体装置であって、
前記半導体層には、ボディ領域を挟んでソース領域とドレイン領域とが設けられ、
前記半導体層を覆うようにゲート絶縁膜が設けられ、
前記ボディ領域には、前記ゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられ、
前記ドレイン領域側の前記半導体層の膜厚が前記ソース領域側の前記半導体層の膜厚に比べて厚く、
前記ボディ領域と前記ソース領域とが接しており、前記ボディ領域と前記ソース領域との間の前記半導体層には他の領域は存在せず、
前記ドレイン領域は、第1濃度を有する第1不純物層を有する半導体装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
補正後の発明では、「前記ボディ領域と前記ドレイン領域との間の前記半導体層に電界緩和領域が設けられ、」
「前記電界緩和領域は、
前記第1不純物層と同一の導電型で第2濃度を有する第2不純物層と、
前記第2不純物層と接しており、前記第1不純物層と同一の導電型で第3濃度を有する第3不純物層と、を有し、
前記第3濃度は前記第2濃度よりも低濃度であり、前記第2濃度は前記第1濃度よりも低濃度であり、
前記第2不純物層は前記ドレイン領域側に設けられ、
前記第3不純物層は前記ボディ領域側から前記第2不純物層の下側にかけて連続して設けられ、
前記第1不純物層と前記第2不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第1不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第2不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第3不純物層と前記ボディ領域との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第3濃度を有する前記第3不純物層は、
前記第2不純物層と接しており、前記第2不純物層と同一の導電型で第4濃度を有する第4不純物層と、
前記第4不純物層と前記ボディ領域とに接しており、前記第4不純物層と同一の導電型で第5濃度を有する第5不純物層と、を含み、
前記第5濃度は前記第4濃度よりも低濃度であり、
前記第4不純物層と前記第5不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成されている」のに対して、刊行物発明1では、「電界緩和領域」に相当するものが形成されていない点。

(5-3-4)判断
刊行物発明2において、「第3のN型低濃度拡散層10」、「第2のN型低濃度拡散層9」及び「第1のN型低濃度拡散層8」から構成される部分と、補正後の発明において、「第2不純物層」、「第4不純物層」及び「第5不純物層」から構成される部分は、ともにMOSトランジスタにおける電界緩和領域であって、刊行物発明2の「N型の高濃度不純物層11」、「第3のN型低濃度拡散層10」、「第2のN型低濃度拡散層9」及び「第1のN型低濃度拡散層8」は、各々補正後の発明の「第1不純物層」、「第2不純物層」、「第4不純物層」及び「第5不純物層」に相当し、刊行物発明2において「第1のN型低濃度拡散層8」と「第2のN型低濃度拡散層9」を合わせた領域は、補正後の発明の「第3不純物層」に相当する。
そして、引用刊行物2には、「ゲート電極側から高濃度拡散層側へ濃度勾配をゆるやかに変化させた複数の低濃度拡散層を形成することにより、チャネル側の電界強度を低下させることができる。よって、ホットキャリア効果による基板電流を低減できる事になり、半導体装置の信頼性を向上させる効果がある。」(第2頁右下欄第5?11行)と記載されており、刊行物発明2が、MOSトランジスタにおけるチャネル側の電界強度を低下させることを課題の一つとしていることは明らかである。
ところで、刊行物発明1は、絶縁膜上のシリコン薄膜に形成されたMOSトランジスタであるから、刊行物発明2のようなバルクシリコンに形成されたMOSトランジスタと異なり、基板電流が流れることはない。
しかしながら、絶縁膜上のシリコン薄膜に形成されたMOSトランジスタであっても、チャネル側の電界強度が高くなれば、リーク電流の増大等の種々の悪影響が生ずることは当業者における技術常識であり、電界強度を低下させるために、例えば、後記周知例1及び2にも記載されているように、電界緩和領域を設けることが従来から行われてきているところである。
したがって、当業者であれば、刊行物発明1においても、チャネル側の電界強度を低下させるという課題が存在することは直ちに察知し得たことであるから、刊行物発明1に対して刊行物発明2の電界強度緩和のための構成を適用することは、当業者が容易になし得たことである。
さらに、MOSトランジスタにおいて、電界緩和領域をボディ領域とドレイン領域の間のみに形成することは、以下の周知例1、2に記載されているように、周知の技術である。

(周知例1)特開平10-154814号公報には、図3とともに、以下の記載がなされている。
「【0037】続いて、図3(C)に示すように、N型の駆動回路用TFT10およびN型の画素用TFT30の形成領域をレジストマスク71で覆ったままの状態で、約10^(15)cm^(-2)のドーズ量でボロンイオン(高濃度の第2導電型不純物)を斜め上方(不純物の導入方向を矢印Dで示す。)から打ち込む。その結果、P型の駆動回路用TFT20では、不純物濃度が約10^(20)cm^(-3)の高濃度ソース・ドレイン領域26を備えるソース領域28およびドレイン領域29が形成される。但し、P型の駆動回路用TFT20では、図2(B)を参照して説明したように、ゲート電極24は平面的には不純物の導入方向に直交する方向に延びているため、ドレイン領域29のうちゲート電極24の影になった部分には不純物が導入されない。従って、この部分の低濃度P型領域23は不純物濃度が約10^(18)cm^(-3)のLDD領域27として残る。このようにして、ドレイン領域29がLDD構造で、ソース領域28がセルフアライン構造のP型の駆動回路用TFT20を形成する。しかる後にレジストマスク71を除去する。」

(周知例2)特開2001-290171号公報には、図3とともに、以下の記載がなされている。
「【0036】次に、nチャネル型TFTにおいて、ソース領域またはドレイン領域として機能する不純物領域の形成を行った。レジストのマスク125?128を形成し、n型を付与する不純物元素が添加して不純物領域129?132を形成した。これは、フォスフィン(PH_(3))を用いたイオンドープ法で行い、この領域のリン(P)濃度を1×10^(20)?1×10^(21)atoms/cm^(3)とした。本明細書中では、ここで形成された不純物領域129?132に含まれるn型を付与する不純物元素の濃度を(n^(+))と表す。マスク126により、後の第1のnチャネル型TFTの活性層となる半導体層には、チャネル形成領域とドレイン領域との間だけに不純物が添加されない領域を形成する。アクティブマトリクス型液晶表示装置において、高速動作を重視するのは、シフトレジスタ回路、分周波回路、信号分割回路、レベルシフタ回路、バッファ回路等のロジック回路である。チャネル形成領域の片側(ドレイン領域側)のみに不純物領域を形成することで、できるだけ抵抗成分を低減させつつホットキャリア対策を重視した構造にすることができる。また、後の保持容量の下部電極となる半導体層(第2の領域)上には、マスクが形成されていないため、半導体層(第2の領域)に不純物元素が添加される。これにより下部電極の導電率をあげることができる(図3(B))。
【0037】不純物領域129?132には、既に前工程で添加されたリン(P)またはボロン(B)が含まれているが、それに比して十分に高い濃度でリン(P)が添加されるので、前工程で添加されたリン(P)またはボロン(B)の影響は考えなくても良い。また、不純物領域129に添加されたリン(P)濃度は図3(A)で添加されたボロン(B)濃度の1/2?1/3なのでp型が確保され、TFTの特性に何ら影響を与えることはなかった。
【0038】そして、画素TFTのLDD領域を形成するためのn型を付与する不純物添加の工程を行った。ここではゲート電極122をマスクとして自己整合的にn型を付与する不純物元素をイオンドープ法で添加した。添加するリン(P)の濃度は1×10^(16)?5×10^(18)atoms/cm^(3)であり、図3(A)および図3(B)で添加する不純物元素の濃度よりも低濃度で添加することで、実質的には不純物領域133、134、が形成される。本明細書中では、この不純物領域133、134、に含まれるn型を付与する不純物元素の濃度を(n^(-))と表す(図3(C))。」

そうすると、刊行物発明1の「反転領域11」と「ドレイン領域6」の間の電界を緩和するために、周知技術を勘案しつつ、刊行物発明2に記載された構成を適用し、補正後の発明のように、
「前記ボディ領域と前記ドレイン領域との間の前記半導体層に電界緩和領域が設けられ、」
「前記電界緩和領域は、
前記第1不純物層と同一の導電型で第2濃度を有する第2不純物層と、
前記第2不純物層と接しており、前記第1不純物層と同一の導電型で第3濃度を有する第3不純物層と、を有し、
前記第3濃度は前記第2濃度よりも低濃度であり、前記第2濃度は前記第1濃度よりも低濃度であり、
前記第2不純物層は前記ドレイン領域側に設けられ、
前記第3不純物層は前記ボディ領域側から前記第2不純物層の下側にかけて連続して設けられ、
前記第1不純物層と前記第2不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第1不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第2不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第3不純物層と前記ボディ領域との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成され、
前記第3濃度を有する前記第3不純物層は、
前記第2不純物層と接しており、前記第2不純物層と同一の導電型で第4濃度を有する第4不純物層と、
前記第4不純物層と前記ボディ領域とに接しており、前記第4不純物層と同一の導電型で第5濃度を有する第5不純物層と、を含み、
前記第5濃度は前記第4濃度よりも低濃度であり、
前記第4不純物層と前記第5不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成されている」構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。
よって、上記相違点は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものであり、補正後の発明は、引用刊行物1、2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明できたものである。

(5-3-5)拒絶理由2についてのまとめ
以上、検討したとおり、補正後の発明と刊行物発明1との相違点は、当業者が、刊行物発明2及び周知技術を勘案することにより容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎず、補正後の発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たしていない。

(5-4)拒絶理由3についての検討
(5-4-1)当審の判断
補正後の発明は、本願明細書の第3実施形態に係るものと認められるところ、本願明細書の「【0039】
図6は、本発明の第3実施形態に係る半導体装置の概略構成を示す断面図である。
図6において、半導体基板31上には絶縁層32が形成され、絶縁層32上には単結晶半導体層33が形成されている。ここで、単結晶半導体層33には、膜厚の異なる領域が形成されとともに、膜厚の異なる領域間には傾斜面33aが形成されている。
そして、ゲート電極35の一端が単結晶半導体層33の薄膜領域にかかるとともに、ゲート電極35の他端が単結晶半導体層33の厚膜領域にかかるようにして、ゲート絶縁膜34を介してゲート電極35が傾斜面33a上に配置されている。そして、単結晶半導体層33の薄膜領域側にソース層37aが配置されるとともに、単結晶半導体層33の厚膜領域側にドレイン層37bが配置されている。
【0040】
そして、ゲート電極35下のボディ領域とドレイン層37bとの間には、電界緩和層36a?36cが形成されている。ここで、電界緩和層36a?36cは、ドレイン層37bの不純物濃度よりも薄い不純物拡散層から構成することができる。そして、電界緩和層36a?36cは、単結晶半導体層23の深さ方向にずらして配置され、電界緩和層36a?36cの形成位置が浅くなるに従って不純物濃度を高くすることができる。
【0041】
例えば、nチャネルトランジスタの場合、不純物としてリンPを用いることができ、電界緩和層36aを形成するための条件として、注入エネルギー40keV、不純物濃度5E12cm^(-3)、電界緩和層36bを形成するための条件として、注入エネルギー30keV、不純物濃度8E12cm^(-3)、電界緩和層36cを形成するための条件として、注入エネルギー20keV、不純物濃度1E13cm^(-3)とすることができる。
【0042】
これにより、しきい値電圧に影響を与えることなく、ドレイン層37b側の電界を緩和することが可能となるとともに、イオン注入用のレジストマスクを付け直すことなく、電界緩和層36a?36cを形成することができる。このため、電界効果型トランジスタの低電圧駆動を可能としつつ、ドレイン耐圧を向上させることが可能となるとともに、電界緩和層36a?36cを形成する際の工程増を抑制することができる。」という記載からは、電界緩和層36a、36b、36cが、単に下から順に形成された構成になるものと考えられ、補正後の発明において特定される「前記第3不純物層は前記ボディ領域側から前記第2不純物層の下側にかけて連続して設けられている」構成を得るための具体的な製造方法は、記載も示唆もされていない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が補正後の発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(5-4-2)請求人の主張
この点につき、請求人は、平成23年6月16日付け意見書において、
「電界緩和層36a?36cの形成において、不純物をイオン注入する場合、飛程(即ち、不純物が打ち込まれる距離)は同じイオン種であれば、打ち込みエネルギーが高くなる程、深くなります。従って、例えばリン(P)を40keVで打ち込んだ飛程をd1、30keVで打ち込んだ飛程をd2、20keVで打ち込んだ飛程をd3とすると、
d1>d2>d3
の関係が成り立ちます。この時、注入するPのドーズ量に応じて不純物濃度を調整することもできます。さらに、40keV、30keV、20keVと打ち込みエネルギーを変えるとともに、不純物の打ち込み位置を変えることもできます。こうすることで、イオン注入用のレジストマスクを付け直すことなく、電界緩和層36a?36cを形成することができます。」と主張している。
しかしながら、レジストマスクを用いてイオン注入を行う場合、レジストマスクで覆われていない領域は、すべて同じ条件で一様にイオン注入されるはずであり、レジストマスクで覆われていない領域内において、不純物の打ち込み位置を変えるということ、すなわち、図6の36aないし36cの構成が実現できるということは、技術常識からみて考えがたいことである。
したがって、請求人の主張は、採用できない。

(5-4-3)拒絶理由3についてのまとめ
以上、検討したとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が補正後の発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たしていない。

(6)むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしておらず、また、仮に、当該要件を満たすものであったとしても、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たしていないから、いずれにしても、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)拒絶理由1についての検討
平成23年6月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年3月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記2.(1)において、補正前の請求項1として記載したとおりのものである。
ここで、請求人は、平成23年3月18日付け手続補正において、請求項1に以下の事項を追加している。
「前記第1不純物層と前記第2不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成され、
前記第1不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成され、
前記第2不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成され、
前記第3不純物層と前記ボディ領域との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成されている」
ここで、上記「第1不純物層」、「第2不純物層」及び「第3不純物層」は、各々本願明細書の第3実施形態における「電界緩和層36c」、「電界緩和層36b」及び「電界緩和層36a」を指すものと認められるが、これらの界面が「円弧状に湾曲して形成されている」点については、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には記載も示唆もされていない。
仮に、上記「円弧状に湾曲して形成されている」ということが、単に「湾曲して形成されている」という意味であるとしても、上記追加事項の内、「前記第1不純物層と前記第3不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成され」る点、すなわち、電界緩和層36cと電界緩和層36aとが界面を有し、その界面が、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように円弧状に湾曲して形成される点については、当初明細書等に、記載も示唆もされていない。
よって、上記事項を追加する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえない。
したがって、平成23年3月18日付け手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定を満たさないものである。

(2)拒絶理由2についての検討
(2-1)本願発明
本願発明は、上記2.(1)において、補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

(2-2)引用刊行物に記載された発明
これに対して、当審において平成23年4月14日付けで通知した拒絶の理由に引用された引用刊行物1及び2には、上記2.(5-3-2)に記載したとおりの事項及び上記2.(5-3-2)において認定したとおりの発明が記載されているものと認められる。

(2-3)判断
上記2.(3)において検討したとおり、補正後の発明は、補正前の請求項1の発明特定事項である「第3濃度を有する第3不純物層」について、「前記第2不純物層と接しており、前記第2不純物層と同一の導電型で第4濃度を有する第4不純物層と、
前記第4不純物層と前記ボディ領域とに接しており、前記第4不純物層と同一の導電型で第5濃度を有する第5不純物層と、を含み、
前記第5濃度は前記第4濃度よりも低濃度であり、
前記第4不純物層と前記第5不純物層との界面は、断面視で、前記ゲート電極側から前記絶縁層側に向かうに従って、前記ゲート電極直下の前記半導体層から離れるように湾曲して形成されている」と限定したものである。逆に言えば本件補正前の請求項1に係る発明(本願発明)は,補正後の発明から上記の限定をなくしたものである。
そうすると、上記2.(5-3)において検討したように、補正後の発明が,引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)拒絶理由3についての検討
上記2.(5-4)において検討したとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-22 
結審通知日 2011-07-26 
審決日 2011-08-08 
出願番号 特願2003-327754(P2003-327754)
審決分類 P 1 8・ 57- WZ (H01L)
P 1 8・ 536- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
P 1 8・ 575- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 綿引 隆  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 小野田 誠
松田 成正
発明の名称 半導体装置  
代理人 森 哲也  
代理人 坊野 康博  
代理人 内藤 嘉昭  

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