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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1243946
審判番号 不服2008-32749  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-25 
確定日 2011-09-22 
事件の表示 特願2002- 20219「アンテナコイルを有するIC素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月29日出願公開、特開2002-343877〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年2月22日(特許法第41条に基づく優先権主張 平成11年2月24日及び同年3月8日)に出願した特願2000-44765号特許出願(以下「原出願」という。)の一部を平成14年1月29日に新たな特許出願としたものであって、平成18年11月8日付けの拒絶理由通知に対して平成19年1月12日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに同年6月27日付けの最後の拒絶理由通知に対して同年8月23日に意見書が提出されたが、平成20年11月21日付けで拒絶査定がなされたところ、それに対して同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成19年1月12日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】無線通信用のアンテナコイルを有するIC素子の製造方法において、所定のプロセスを経て回路が形成されたウエハの表面保護膜上に金属スパッタ層又は金属蒸着層を形成する工程と、前記金属スパッタ層又は前記金属蒸着層とその上に積層された金属めっき層とからなる複数のアンテナコイルを形成する工程と、アンテナコイルが複数形成されたウエハをスクライビングしてアンテナコイルが前記表面保護膜上に形成されたIC素子を得る工程を少なくとも含むことを特徴とするアンテナコイルを有するIC素子の製造方法。」

第3.引用刊行物に記載された発明
1.本願の出願時とみなされる原出願の出願時よりも前(以下「本願の出願前」という。)に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平7-153912号公報(以下「引用例」という。)には、図1?6及び12と共に次の記載がある(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。以下同じ。)。

a.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、モノリシックマイクロ波集積回路に用いられるインダクタ、インダクタを搭載したモノリシックマイクロ波集積回路及びその製造方法に関する。」

b.「【0002】
【従来の技術】GaAs基板上に形成されたモノリシックマイクロ波集積回路(以下、MMICと称する)は800MHz以上の高周波帯のICとして期待され、移動体通信分野を中心にその需要が高まっている。この様なMMICは、GaAsなどの化合物半導体基板上に形成された金属半導体電界効果型トランジスタ(以下、MESFETと称する)、ヘテロ接合型電界効果型トランジスタ(以下、ヘテロJFETと称する)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(以下、HBTと称する)等の能動素子と、キャパシタやインダクタ等の受動素子を含んでいる。
(中略)
【0005】インダクタは所定のパターンを有する配線からなる。図12(a)及び12(b)は従来のMMICに用いられるインダクタの断面図及び平面図をそれぞれ示している。半絶縁性GaAs基板101上に窒化ケイ素膜102及び103が堆積されており、窒化ケイ素膜103上に、金からなり、スパイラル形状を有する配線105が形成されている。配線105の一端は窒化ケイ素膜103と窒化ケイ素膜105との間に設けられた金からなる配線104に接続されている。配線105が実質的にインダクタとして機能する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の従来技術においては、スパイラル形状を有するインダクタは大きなインダクタンスを得ることができるが、所望のインダクタンスを得るために、所定の回数巻かれた配線が必要となるため、インダクタの面積を縮小することは困難であった。
【0007】本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、小さな占有面積で高インダクタンスを有するインダクタ及びそのようなインダクタを有するMMICを提供することにある。」

c.「【0038】
【実施例】以下に、本発明の実施例について、図1-図6を参照しながら説明する。
【0039】図1(a)-(c)は実施例に係るMMICの製造工程を示し、そのうち図1(c)は、最終的に形成されるMMIC20の断面を部分的に示している。そこで、まず、図1(c)を参照しながら、以下に、MMIC20の構造について説明する。
【0040】MMIC20はMESFET21及びインダクタ22を有しており、MESFET21及びインダクタ22はそれぞれ能動素子及び受動素子として機能する。MESFET21は、GaAsからなる半絶縁性基板23の表面付近に形成された活性領域24と、半絶縁性基板23上に設けられたソース電極25及びドレイン電極26と、ソース電極25及びドレン電極26に挟まれ、活性領域24上に形成されたゲート電極27とを有している。ソース電極25及びドレイン電極26はそれぞれ半絶縁性基板23中に設けられたn+領域28及び29を介してそれぞれ活性領域24に電気的に接続されている。
【0041】第1保護膜30がMESFET21を覆うように半絶縁性基板23上に形成されており、ソース電極25の一部及びドレン電極26の一部が露出するように、コンタクトホール31及び32が第1保護膜30中に設けられている。配線33及び34がコンタクトホールを介してソース電極25の一部及びドレン電極26にそれぞれ電気的に接続されている、さらに、配線33及び34を覆うように第2保護膜35が第1保護膜30上に設けられている。
【0042】インダクタ22は第2保護膜35上に形成された導体層36及び導体層36上に形成された軟磁性層37を有している。導体層36は金などの低抵抗金属からなり、軟磁性層37はスピネル構造を有するニッケル-亜鉛-フェライト軟磁性薄膜からなる。
【0043】図2は、インダクタ22の導体層36の部分を抜き出した平面図である。図2に示されるように、インダクタ22はスパイラル形状を有しており、導体層36の外方の端部38はMMIC20内の他の能動素子や受動素子に電気的に接続されている。導体層36の中心端部39は第2保護膜35中に形成された配線41(図1(c)参照)を介して配線34に電気的に接続されている。図2では示されていないが、図1(c)から明らかなように、導体層36上には、導体層36と実質的に同じスパイラル形状をした軟磁性膜37が形成されている。」

d.「【0044】次に、MMIC20の製造方法について、図1(a)-(c)を参照しながら説明する。
【0045】図1(a)に示すように、GaAsからなる半絶縁性基板23上に、通常のプロセス、例えばイオン注入法により、活性領域24、n+領域28及び29を形成後、ソース電極25、ドレイン電極26、及びゲート電極27を形成し、MESFET21を作製する。ソース電極25及びドレイン電極26としてAuGeNi系のオーミック電極を形成する。また、ゲート電極27としてAl系のショットキー電極を形成する。MESFET21を作製した後、MESFET21全体を覆うように、窒化ケイ素からなる第1保護膜30を半絶縁性基板23上に形成する。
【0046】次に、図1(b)に示すように、第1保護膜30にコンタクトホール31および32を形成した後、配線33及び34を、コンタクトホール31及び32を覆って第1保護膜30の上に形成する。配線33及び34はTiAuからなり、イオンミリング法やリフトオフ法によって形成される。続いて、層間絶縁膜として、窒化ケイ素からなる第2保護膜35を第1保護膜30上に形成する。
【0047】第2保護膜にコンタクトホール40をドライエッチング法等により形成した後、リフトオフ法等を用いてコンタクトホール40をTiAuからなる配線41で埋め込み、更に、金属膜36a(Ti/Au二層膜)を第2保護膜35上に真空蒸着法で形成する。
【0048】次に、レーザーアブレーション法により、この金属膜36a上に軟磁性膜37aを形成する。その際、図3に示すように、真空チャンバー装置42のヒーター43上に半絶縁性基板23を配置しておく。そして、KrFエキシマレーザー44を用いて、波長248nmのパルスレーザー光を水晶窓45を通して、ターゲット46に45度の角度で入射させる。ターゲット46はレーザ光により溶融し、その蒸発物が半絶縁性基板23上に堆積され、軟磁性膜37a(図1(b))が形成される。
【0049】ここで、上記ターゲット46として(Fe_(2)O_(3)):(NiO):(ZnO)=5:2:3の組成を有するニッケル-亜鉛-フェライト板を用い、ヒータ43によって半絶縁性基板23を200?350℃に加熱し、チャンバー内をN_(2)Oガスで1?10Paに保ちながらレーザーパワー300?500mJ/パルスでターゲット46を溶融させニッケル-亜鉛-フェライト軟磁性膜37aを形成するようにしている。堆積されたニッケル-亜鉛-フェライト軟磁性膜37aは、Ni_(0.4)Zn_(0.6)Fe_(2)O_(4)の組成比を有するスピネル構造を有しており、比抵抗0.3MΩcm、初透磁率200である。この工程において、すでに形成されているMESFET21のデバイス特性は、基板温度が低いため劣化しない。
【0050】次に、図1(c)に示すように、フォトレジスト膜(図示せず)をマスクとしてArイオンミリング法により、ニッケル-亜鉛-フェライト軟磁性薄膜37a及び金属膜36aを選択的にエッチングして、スパイラル形状を有する導体層36及び軟磁性層37を得る。」

2.ここにおいて、0042段落の「インダクタ22は第2保護膜35上に形成された導体層36及び導体層36上に形成された軟磁性層37を有している。導体層36は金などの低抵抗金属からなり、軟磁性層37はスピネル構造を有するニッケル-亜鉛-フェライト軟磁性薄膜からなる。」という記載等から、0050段落に記載された工程により、「スパイラル形状を有する導体層36及び軟磁性層37」からなる「インダクタ22」が形成されていることは明らかである。
したがって、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「インダクタ22を有するモノリシックマイクロ波集積回路の製造方法において、
GaAsからなる半絶縁性基板23上にMESFET21を作製し、前記MESFET21全体を覆うように、窒化ケイ素からなる第1保護膜30を前記半絶縁性基板23上に形成し、前記第1保護膜30にコンタクトホール31および32を形成した後、配線33及び34を、前記コンタクトホール31及び32を覆って前記第1保護膜30の上に形成し、窒化ケイ素からなる第2保護膜35を前記第1保護膜30上に形成し、金属膜36aを前記第2保護膜35上に真空蒸着法で形成し、前記金属膜36a上に軟磁性膜37aを形成し、前記軟磁性薄膜37a及び前記金属膜36aを選択的にエッチングして、スパイラル形状を有する導体層36及び軟磁性層37とからなるインダクタ22を形成する工程を含む、
インダクタ22を有するモノリシックマイクロ波集積回路の製造方法。」

第4.本願発明と引用発明との対比
1.引用発明の「インダクタ」と本願発明の「無線通信用のアンテナコイル」とは、「コイル」である点で一致する。
したがって、引用発明の「インダクタ22を有するモノリシックマイクロ波集積回路の製造方法」と本願発明の「無線通信用のアンテナコイルを有するIC素子の製造方法」とは、「コイルを有するIC素子の製造方法」である点で一致する。

2.引用発明の「GaAsからなる半絶縁性基板23上にMESFET21を作製し、前記MESFET21全体を覆うように、窒化ケイ素からなる第1保護膜30を前記半絶縁性基板23上に形成し、前記第1保護膜30にコンタクトホール31および32を形成した後、配線33及び34を、前記コンタクトホール31及び32を覆って前記第1保護膜30の上に形成し、窒化ケイ素からなる第2保護膜35を前記第1保護膜30上に形成」するというプロセスにより、少なくとも「MESFET21」及び「配線33及び34」からなる回路が形成されていることは明らかである。
また、引用発明においては、「GaAsからなる半絶縁性基板23上にMESFET21を作製し、前記MESFET21全体を覆うように、窒化ケイ素からなる第1保護膜30を前記半絶縁性基板23上に形成し、前記第1保護膜30にコンタクトホール31および32を形成した後、配線33及び34を、前記コンタクトホール31及び32を覆って前記第1保護膜30の上に形成し、窒化ケイ素からなる第2保護膜35を前記第1保護膜30上に形成し、金属膜36aを前記第2保護膜35上に真空蒸着法で形成し、前記金属膜36a上に軟磁性膜37aを形成し、前記軟磁性薄膜37a及び前記金属膜36aを選択的にエッチングして、スパイラル形状を有する導体層36及び軟磁性層37とからなるインダクタ22を形成する工程」という一連の工程がウエハに対して行われることについては特定されていないが、一般に、「モノリシックマイクロ波集積回路の製造方法」において(更に言えば、「モノリシックマイクロ波集積回路」に限らず、ほとんどのモノリシック集積回路の製造方法において)、ウエハ(引用例の場合にはGaAsウエハ)に多数の集積回路を作り込み、後に個々の集積回路に切り分けるという手順で製造が行われることは、例えば、本願の出願前に頒布された下記周知例1にも記載されているように、当業者の技術常識である。

a.周知例1:特開平8-116031号公報
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スパイラルインダクタを備えている半導体装置、特に、スパイラルインダクタの機械的強度を向上させる技術に関し、例えば、モノリシック・マイクロウエーブ・インテグレーテッド・サーキット(以下、MMICという。)に利用して有効な技術に関する。」
「【0013】本実施例において、本発明に係るスパイラルインダクタを備えている半導体装置は、MMICとして構成されている。但し、MMICはペレットの一部分のみが図示されている。このMMICのペレット1は、半導体装置の製造工程における所謂前工程において半導体ウエハの状態で所定の集積回路を作り込まれて、各単位毎にダイシングされることによって製造されており、ガリウム・砒素(GaAs)ウエハから形成されたサブストレート2、このサブストレート2を基板とした小信号FET(電界効果トランジスタ)部3、パワーFET部4、抵抗部5、MIM容量6およびスパイラルインダクタ7を備えている。」

3.したがって、引用発明における各プロセスも、ウエハ上の多数の集積回路に対して行われているものと認められる。
よって、引用発明の「GaAsからなる半絶縁性基板23上にMESFET21を作製し、前記MESFET21全体を覆うように、窒化ケイ素からなる第1保護膜30を前記半絶縁性基板23上に形成し、前記第1保護膜30にコンタクトホール31および32を形成した後、配線33及び34を、前記コンタクトホール31及び32を覆って前記第1保護膜30の上に形成し、窒化ケイ素からなる第2保護膜35を前記第1保護膜30上に形成」するというプロセスが、本願発明の「所定のプロセス」に相当し、引用発明の「窒化ケイ素からなる第2保護膜35」が、本願発明の「所定のプロセスを経て回路が形成されたウエハの表面保護膜」に相当する。

4.引用発明の「金属膜36aを前記第2保護膜35上に真空蒸着法で形成し、前記金属膜36a上に軟磁性膜37aを形成し、前記軟磁性薄膜37a及び前記金属膜36aを選択的にエッチングして、スパイラル形状を有する導体層36及び軟磁性層37とからなるインダクタ22を形成する工程」と、本願発明の「ウエハの表面保護膜上に金属スパッタ層又は金属蒸着層を形成する工程と、前記金属スパッタ層又は前記金属蒸着層とその上に積層された金属めっき層とからなる複数のアンテナコイルを形成する工程」とは、「『ウエハの表面保護膜上に』導電層を備えた『複数の』『コイルを形成する工程』」である点で一致する。

5.以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、

「コイルを有するIC素子の製造方法において、所定のプロセスを経て回路が形成されたウエハの表面保護膜上に導電層を備えた複数のコイルを形成する工程を少なくとも含むことを特徴とするコイルを有するIC素子の製造方法。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、「コイル」が「無線通信用のアンテナコイル」であるのに対して、引用発明はそのような特定がなされていない点。

(相違点2)
「コイルを形成する工程」についての相違であって、本願発明は、「金属スパッタ層又は金属蒸着層を形成する工程と、前記金属スパッタ層又は前記金属蒸着層とその上に積層された金属めっき層とからなる」「コイルを形成する工程」を備えているのに対して、引用発明は、「金属膜36aを前記第2保護膜35上に真空蒸着法で形成し、前記金属膜36a上に軟磁性膜37aを形成し、前記軟磁性薄膜37a及び前記金属膜36aを選択的にエッチングして、スパイラル形状を有する導体層36及び軟磁性層37とからなるインダクタ22を形成する工程」を備えている点。

(相違点3)
本願発明は、「アンテナコイルが複数形成されたウエハをスクライビングしてアンテナコイルが前記表面保護膜上に形成されたIC素子を得る工程」を含んでいるのに対して、引用発明は、そのような工程を含むことが特定されていない点。

第5.相違点についての当審の判断
1.相違点1について
(1)一般に、IC素子に搭載したコイルを無線通信用のアンテナコイルとして利用することは、例えば、本願の出願前に頒布された下記周知例2にも記載されているように、当業者における周知技術である。

a.周知例2:国際公開第96/42110号
「技術分野
本発明は、インダクタ等として用いられる導体を集積回路の一部に形成した半導体装置に関する。」(明細書1ページ3行?5行)
「また、上述した実施形態では、チップ10上のインダクタ導体14を、チップ10に形成された集積回路の一部を構成するインダクタとして使用する例を説明したが、電波を送受信する送受信回路を集積化した場合には、インダクタ導体14をアンテナコイルとして使用することができる。また、インダクタ導体14を電磁誘導コイルとして使用し、インダクタ導体14の両端に誘導起電力を発生させることにより、チップ10に形成した集積回路に動作電圧を供給することもできる。」(同4ページ29行?5ページ6行)

(2)したがって、当該周知技術を勘案すれば、引用発明において、「インダクタ22」をアンテナコイルとして利用することは、当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点1は当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

2.相違点2について
(1)一般に、平面型のコイルを、絶縁層上に金属スパッタ層又は金属蒸着層を形成する工程と、その上に金属めっき層を積層する工程により形成することは、例えば、本願の出願前に頒布された下記周知例3及び4にも記載されているように、当業者における周知技術である。

a.周知例3:特開平9-252087号公報
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ICのリアクタンス形成方法に関し、更に詳細には、リアクタンスを構成する平面型コイル素子の形成に際し、コイルの巻線とそれに隣合う巻線との間で短絡が生じないようにし、かつ大きな値のリアクタンスを形成するように工夫された、ICのリアクタンス形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】モノリシックマイクロ波集積回路(以下、簡単にMMICと言う)は、マイクロ波集積回路を構成する能動素子と受動素子とが一括してGaAs、Siなどの半導体基板上に形成されたマイクロ波集積回路である。MMICの回路特性の一つであるリアクタンスは、通常、所定パターンに従ってAuを半導体基板上にメッキして得た平面型コイルにより構成されている。
「【0011】
【発明の実施の形態】以下に、添付図面を参照し、実施例を挙げて本発明の実施の形態を具体的かつ詳細に説明する。
実施例
本実施例は、MMICの回路素子の一つとしてGaAs基板上に平面型コイルを形成し、これによりIC中にリアクタンスを形成する工程に、本発明に係るICのリアクタンス形成方法を適用した例である。先ず、図1(a)に示すように、半絶縁性GaAs基板12上にTiAuからなる下地導電膜14をスパッタリング等により成膜し、次いで下地導電膜14をエッチングして平面型コイルの所望平面パターンと同じ平面パターンにパターニングする。
(中略)
【0014】次に、紫外線露光を使用するホトリソグラフィにより、第2層フォトレジスト膜20及び第1層フォトレジスト膜16を所定パターンにパターニングする。その結果、図2(e)に示すように、第2層フォトレジスト膜20及び第1フォトレジスト膜16を貫通して下地導電膜14に達し、パターンの長手方向中心線に直交する面で略T字状の断面を有し、かつ平面型コイル素子と同じパターンの溝状の開口22が開口する。次いで、図2(f)に示すように、溝22内の下地導電膜14上に金属、例えばAuをメッキして平面型コイル24を形成する。」

b.周知例4:特開平10-241983号公報
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、平面インダクタ素子とその製造方法に関し、特にコイル導体膜に使用されるものである。」
「【0012】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1及び図2は、本発明の平面インダクタ素子の第1の実施例の製造工程を示す断面図である。また、図3は、本発明の平面インダクタ素子の第1の実施例の上面図を示す。図1及び図2は、図3におけるBB’線における断面図を示す。以下、同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0013】まず、基板20上に下部磁性膜21、絶縁膜22、メッキ電極用導体膜23を順次スパッタ法により形成する。下部磁性膜21はFeCoBC系の材料よりなり、その膜厚は例えば2μmである。絶縁膜22はSiO_(2)膜であり、その膜厚は例えば1μmである。また、メッキ電極用導体膜23はCuよりなり、その膜厚は例えば1μmである。
【0014】続いて、メッキ電極用導体膜23上にレジスト24を塗布する。第1のコイル用フォトマスクを用いて、紫外線露光・現像により第1のレジストパターン24を形成する。レジスト24の膜厚tR1は例えば55μmである。レジストパターン24の幅wR1は例えば60μm、レジスト24間のスペース部25の幅wM1は例えば60μmである。図1(a)は、この段階におけるインダクタ素子の断面を示す。
【0015】次に、電気メッキ法により、レジスト間のスペース部25にCuよりなるメッキ導体膜26を形成する。メッキ導体膜26の厚さtM1は例えば50μmである。メッキ導体膜の形状と膜厚を良好にするために、tM1<tR1としてある。図1(b)は、この段階におけるインダクタ素子の断面を示す。
【0016】さらに、第1のレジストパターン24及び第1のメッキ導体膜26上に第2のレジスト膜34を塗布する。このレジスト34の厚さtR2は例えば50μmである。第2のコイル用フォトマスクを用いて紫外線露光・現像により第2のレジストパターン34を形成する。第1のコイル用フォトマスクと第2のコイル用フォトマスクは、同じマスクパターンである。図1(c)は、この段階におけるインダクタ素子の断面を示す。
【0017】続いて、電気メッキ法により、第1のメッキ導体膜26の上に例えばCuよりなる第2のメッキ導体膜36を形成する。図2(a)は、この段階におけるインダクタ素子の断面を示す。この第2のメッキ導体膜36の膜厚tM2は、例えば50μmである。第2のメッキ導体膜36の幅wM2は、第1のメッキ導体膜26の幅wM1と同じく60μmである。第1のメッキ導体膜26と第2のメッキ導体膜36よりなるメッキ導体膜の厚さは、tM1+tM2=100μmであり、第1のレジスト24と第2のレジスト34の厚さの和tR1+tR2=105μmよりも薄くしてある。
【0018】次に、第2のレジストパターン34と第1のレジストパターン24を除去し、さらにメッキ電極用導体膜23の露出部を除去する。図2(b)は、この段階におけるインダクタ素子の断面を示す。その後、メッキ導体膜間のスペース部37及び第2のメッキ導体膜36の上部を絶縁材料であるポリイミド樹脂38で塗布・充填する。その後、ポリイミド樹脂38上に上部磁性膜39を形成する。図2(c)は、この段階におけるインダクタ素子の断面を示す。こうして、コイルの上下を磁性膜で挟み込んだ平面インダクタ素子が形成される。」

(2)したがって、当該周知技術を勘案すれば、引用発明において、「インダクタ22」を形成するに当たり、「金属膜36aを前記第2保護膜35上に真空蒸着法で形成」する工程に替え、「前記第2保護膜35」上に金属スパッタ層又は金属蒸着層を形成する工程と、その上に金属めっき層を積層する工程を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、引用発明においては、引用例の0007段落の記載等から明らかなように、インダクタを金属層のみで形成していた従来技術よりも高いインダクタンスを実現することを目的として、「前記金属膜36a上に軟磁性膜37aを形成」する構成としているから、引用発明において、「金属膜36aを前記第2保護膜35上に真空蒸着法で形成」する工程に替え、「前記第2保護膜35」上に金属スパッタ層又は金属蒸着層を形成する工程と、その上に金属めっき層を積層する工程を採用するに際して、「軟磁性膜37aを形成」することを省略すれば、「軟磁性膜37aを形成」した場合に比べてインダクタンスは低くなるもののそれなりに機能することは、当業者であれば直ちに察知し得たことである。
したがって、引用発明において、「インダクタ22」を形成するに当たり、「金属膜36aを前記第2保護膜35上に真空蒸着法で形成」する工程に替え、「前記第2保護膜35」上に金属スパッタ層又は金属蒸着層を形成する工程と、その上に金属めっき層を積層する工程を採用し、「前記金属膜36a上に軟磁性膜37aを形成」することを省略すること、すなわち、本願発明のように、「金属スパッタ層又は金属蒸着層を形成する工程と、前記金属スパッタ層又は前記金属蒸着層とその上に積層された金属めっき層とからなる」「コイルを形成」する工程とすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、相違点2は当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

3.相違点3について
(1)上記第4.2.において検討したとおり、一般に、「モノリシックマイクロ波集積回路の製造方法」において、ウエハに多数の集積回路を作り込み、後に個々の集積回路に切り分けるという手順で製造が行われることは当業者の当業者の技術常識である。
したがって、引用発明においても、最終的に「インダクタ22を有するモノリシックマイクロ波集積回路」が完成されるまでに、「インダクタ22を有するモノリシックマイクロ波集積回路」が多数形成されたウエハを切り分けて、個々の「インダクタ22を有するモノリシックマイクロ波集積回路」とする工程を経ていることは、当業者にとって自明である。
そして、ウエハを切り分ける手法として、スクライビング(スクライブ)は、例えば、本願の出願前に頒布された下記周知例5にも記載されているように、当業者における周知技術である。

a.周知例5:特開平7-74131号公報
「【0002】
【従来の技術】半導体デバイス/ICは通常SiやGaAsなどの半導体ウエハ上に多数形成され、スクライブやダイシング等のチップ加工プロセスにより単体チップに分割され、組立/実装して使用される。」

(2)したがって、当該周知技術を勘案すれば、引用発明において、本願発明のように、「アンテナコイルが複数形成されたウエハをスクライビングしてアンテナコイルが前記表面保護膜上に形成されたIC素子を得る工程」を含むものとすることは、当業者が容易になし得たことであるから、相違点3は当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

4.判断についてのまとめ
本願発明と引用発明との相違点は、いずれも周知技術を勘案することにより、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものであるから、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-19 
結審通知日 2011-07-26 
審決日 2011-08-09 
出願番号 特願2002-20219(P2002-20219)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 棚田 一也河口 雅英  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 小川 将之
加藤 浩一
発明の名称 アンテナコイルを有するIC素子の製造方法  
代理人 武 顕次郎  

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