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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1243964
審判番号 不服2010-2506  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-04 
確定日 2011-09-22 
事件の表示 特願2000-403460「非水電解質二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成14年7月19日出願公開、特開2002-203556〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年12月28日の出願であって、平成21年5月8日付けで拒絶理由が通知され、同年7月10日付けで手続補正がされ、同年10月30日付けで拒絶査定がされ、この査定を不服として、平成22年2月4日に審判請求がされるとともに手続補正がされ、当審において、平成23年4月15日付けで前置報告書に基づく審尋をしたところ、同年6月20日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年2月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成22年2月4日付けの手続補正を却下する。

【理由】
I.補正の内容
平成22年2月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の記載を、以下の(A)から(B)とする補正事項を含む(下線部は補正部分である。)。

(A)「【請求項1】 正極活物質として一般式Li_(x)Mn_(2-y)M’_(y)O_(4)(但し、xの値はx=1、yの値は0.01≦y≦0.5の範囲とし、M’はFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・マンガン複合酸化物と、一般式LiNi_(1-z)M’’_(z)O_(2)(但し、zの値は0.01≦z≦0.5の範囲とし、M’’はFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・ニッケル複合酸化物とを、質量比が上記リチウム・マンガン複合酸化物10wt%乃至80wt%に対して上記リチウム・ニッケル複合酸化物90wt%乃至20wt%となるように混合した混合材料を使用する正極と、
負極活物質としてリチウム金属、リチウム合金、又はリチウムを吸蔵、脱離可能な材料のうち少なくとも1種類以上を含有する負極と、
非水電解質とを備え、
上記正極活物質を含有する正極合剤層の体積密度が2.5g/cm^(3)乃至3.3g/cm^(3)とされ、
上記正極合剤層は、帯状の電極集電体の両面に形成された非水電解質二次電池。
【請求項2】 正極活物質として一般式Li_(x)Mn_(2-y)M’_(y)O_(4)(但し、xの値はx=1、yの値は0.01≦y≦0.5の範囲とし、M’はFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・マンガン複合酸化物と、一般式LiNi_(1-z)M’’_(z)O_(2)(但し、zの値は0.01≦z≦0.5の範囲とし、M’’はFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・ニッケル複合酸化物とを、質量比が上記リチウム・マンガン複合酸化物10wt%乃至80wt%に対して上記リチウム・ニッケル複合酸化物90wt%乃至20wt%となるように混合した混合材料を使用する正極と、
負極活物質としてリチウム金属、リチウム合金、又はリチウムを吸蔵、脱離可能な材料のうち少なくとも1種類以上を含有する負極と、
非水電解質とを備え、
上記正極活物質を含有する正極合剤層の空隙率が20%乃至40%とされ、
上記正極合剤層は、帯状の電極集電体の両面に形成された非水電解質二次電池。」

(B)「【請求項1】 正極活物質として一般式Li_(x)Mn_(2-y)M’_(y)O_(4)(但し、xの値はx=1、yの値は0.01≦y≦0.5の範囲とし、M’はFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・マンガン複合酸化物と、
一般式LiNi_(1-z)M’’_(z)O_(2)(但し、zの値は0.01≦z≦0.5の範囲とし、M’’はFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・ニッケル複合酸化物とを、質量比が上記リチウム・マンガン複合酸化物10wt%乃至80wt%に対して上記リチウム・ニッケル複合酸化物90wt%乃至20wt%となるように混合した混合材料と、導電材として炭素材料と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンとを含有し、帯状の集電体の両面に形成され、加圧成形された正極合剤層を有する正極と、
負極活物質としてリチウム金属、リチウム合金、又はリチウムを吸蔵、脱離可能な材料のうち少なくとも1種類以上を含有する負極と、
非水電解質とを備え、
上記正極合剤層の体積密度が2.5g/cm^(3)乃至3.3g/cm^(3)とされた非水電解質二次電池。
【請求項2】 正極活物質として一般式Li_(x)Mn_(2-y)M’_(y)O_(4)(但し、xの値はx=1、yの値は0.01≦y≦0.5の範囲とし、M’はFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・マンガン複合酸化物と、一般式LiNi_(1-z)M’’_(z)O_(2)(但し、zの値は0.01≦z≦0.5の範囲とし、M’’はFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・ニッケル複合酸化物とを、質量比が上記リチウム・マンガン複合酸化物10wt%乃至80wt%に対して上記リチウム・ニッケル複合酸化物90wt%乃至20wt%となるように混合した混合材料と、導電材として炭素材料と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンとを含有し、帯状の集電体の両面に形成され、加圧成形された正極合剤層を有する正極と、
負極活物質としてリチウム金属、リチウム合金、又はリチウムを吸蔵、脱離可能な材料のうち少なくとも1種類以上を含有する負極と、
非水電解質とを備え、
上記正極合剤層の空隙率が20%乃至40%とされた非水電解質二次電池。」

II.当審の判断
1.新規事項の追加について
上記の補正事項は、請求項1及び2それぞれについて、正極合剤層が、導電材として炭素材料及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを含有し、加圧成形されたものであることを限定したものである。
しかしながら、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、導電剤の具体的な材料として、【0021】に、「また、正極合剤層8には、上述した正極活物質のほか、必要に応じて更に、黒鉛等の導電材やポリビニリデンフルオロライド等の結着剤が含有される。」と記載されているのみであって、黒鉛以外の炭素材料を導電材として用いることは具体的に記載されておらず、かつ、黒鉛を炭素材料に上位概念化して導電材として用いることは、当業者にとって必ずしも自明な事項とはいえないから、当該補正事項を含む本件補正は、新たな技術的事項を追加するものであって、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
したがって、上記補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2.目的要件違反について
仮に、上記補正事項が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであったとしても、補正前の請求項1又は2には、導電材及び結着剤の材料に関する特定並びに正極合剤層の形成方法に関する特定は含まれていないから、当該補正事項は、請求項の限定的減縮を目的とするものには該当しない。
なお、請求人は、平成23年6月20日付けで回答書において、当該補正事項は正極を限定することにより、下位概念化したものであって、請求項の限定的減縮に該当する旨を主張しているが、当該補正事項は、補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の限定でないことは明らかであるから(すなわち、補正前の請求項では、導電材及び結着剤の材料並びに正極合剤層の形成方法は、発明特定事項ではない。)、請求人の主張は採用できない。
さらに、上記補正事項は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものでもない。
したがって、仮に、上記補正事項が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであったとしても、上記補正事項を含む本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 原査定の理由についての検討
I.本願発明
本願の平成22年2月4日付けの手続補正は、上記のとおり、却下されることとなる。
したがって、本願の請求項1,2に係る発明は、平成21年7月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は上記「第2 I.(A)」に【請求項1】として示すとおりのものである(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

II.原査定の理由の概要
原審における本願発明に対する拒絶査定の理由の一部は、概略、以下のものである。

本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(以下、「引用文献1,3?6」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:特開2000-315503号公報
引用文献3:特開平11-288716号公報
引用文献4:特開平10-125323号公報
引用文献5:特開2000-235868号公報
引用文献6:特開2000-90982号公報

III.引用文献の記載事項
(1)引用文献1:特開2000-315503号公報
[1a]「【請求項1】 リチウムと、マンガンと、マンガンとは異なる金属と、酸素とから実質的に構成されるスピネル系酸化物からなる第一酸化物と、
リチウムと、ニッケルと、コバルトと、ニッケル及びコバルトとは異なる金属と、酸素とから実質的に構成され、前記第一酸化物とは異なる第二酸化物とからなる混合物を正極材料とすることを特徴とする非水電解質二次電池。」
[1b]「【請求項8】 前記混合物における、前記第一酸化物と第二酸化物とが重量比20:80?80:20で混合されていることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載の非水電解質二次電池。」
[1c]「【0011】本発明の目的は、容量維持率が高くサイクル特性の良好な非水電解質二次電池を提供することにある。」
[1d]「【0029】本発明に使用する正極材料以外の他の電池材料については、非水電解質二次電池用として、従来公知の材料を特に制限なく使用することができる。そして、負極材料としては、リチウム金属、または、リチウムを吸蔵放出可能な物質であるリチウム-アルミニウム合金、リチウム-鉛合金、リチウム-錫合金などのリチウム合金、黒鉛、コークス、有機物焼成体等の炭素材料、SnO_(2)、SnO、TiO_(2) 、Nb_(2)O_(3) などの電位が正極活物質に比べて卑な金属酸化物が例示される。」
[1e]「【0033】(実施例)先ず、正極の作製について記述する。水酸化リチウム(LiOH)と硫酸マンガン(Mn(NO_(3))_(2))と硝酸アルミニウム(Al(NO_(3))_(3))とを、LiとMnとがAlが1:1.95:0.05のモル比となるように混合した後、大気中で800℃で20時間熱処理後、粉砕し、平均粒径15μmの組成式LiMn_(1.95)Al_(0.05)O_(4)で表されるリチウム-マンガン系複合酸化物(第一酸化物)を得た。この第一酸化物は、スピネル構造を有するものである。
【0034】また、LiOHと硝酸ニッケル(Ni(NO_(3))_(2))と硝酸コバルト(Co(NO_(3))_(2))と硝酸マンガン(Mn(NO_(3))_(2))とを、LiとNiとCoとMnが1:0.6:0.3:0.1のモル比となるように混合した後、酸素雰囲気中で750℃で20時間熱処理後、粉砕し、平均粒径10μmの組成式LiNi_(0.6)CO_(0.3)Mn_(0.1)O_(2)で表されるリチウム-ニッケル-コバルト系複合酸化物(第二酸化物)を得た。
【0035】このようにして得られた第一酸化物と第二酸化物とを、重量比で1:1となるように混合して、正極材料(正極活物質)とした。この正極活物質の粉末90重量部と、人造黒鉛粉末5重量部と、ポリフッ化ビニリデン5重量部のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液とを混合してスラリーを調整した。このスラリーをアルミニウム箔の両面にドクターブレード法により塗布して活物質層を形成した後、150℃で2時間真空乾燥して、正極を作製した。
【0036】次に、天然黒鉛95重量部と、ポリフッ化ビニリデン5重量部のNMP溶液とを混合し炭素スラリーを調整した。この炭素スラリーを銅箔の両面にドクターブレード法により塗布して炭素層を形成した後、150℃で2時間真空乾燥して、負極を作製した。
【0037】そして、非水電解液としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積比1:1の混合溶媒に、1モル/リットルのLiPF_(6)を溶かして調製したものを用いた。
【0038】上記の正極、負極及び非水系電解液を用いて、AAサイズの非水系電解質二次電池(電池寸法:直径14mm;高さ50mm、公称容量580mAh)の本発明電池Aを作製した。尚、セパレータとしてポリプロピレン製の微多孔膜を用いている。
【0039】?【0051】略
【0052】また、本発明電池Aと比較電池X3?X5の比較から、LiMn_(1.95)Al_(0.05)O_(4)にLiNi_(0.6)Co_(0.3)Mn_(0.1)O_(2)を混合することにより1C容量維持率及び0.2C容量維持率が大きく改善され、また1C容量維持率と0.2C容量維持率の差が大きく減少し、サイクルに伴う負荷特性の低下が抑制できることが判る。これはリチウム-マンガン系複合酸化物とリチウム-ニッケル-コバルト系複合酸化物それぞれに異種元素を固溶させることにより、第一、第二酸化物からなる活物質の電子状態が変化し全体の電子伝導性が向上したため、またそれらの充放電に伴う膨張収縮挙動が変化し、サイクルの経過に伴う第一酸化物と第二酸化物の粒子同志の接触が安定に維持されたためと考えられる。」(当審注:【0034】に記載の「LiNi_(0.6)CO_(0.3)Mn_(0.1)O_(2)」は、「LiNi_(0.6)Co_(0.3)Mn_(0.1)O_(2)」の誤記と認められる。また、下線は当審にて付与。以下同様。)

(2)引用文献3:特開平11-288716号公報
[2a]「【請求項1】 リチウムイオンをインターカレーション・デインターカレーションし得る活物質を主たる成分とする正極および負極を用いるリチウムイオン二次電池において、正極活物質として一次粒子が放射状に集まって平均粒径5?20μmの球状ないし楕円状の二次粒子を形成している下記の一般式(I)
Li_(x )Ni_(y)Co_(1-y )O_(2) (I)
(式中、xは充放電により変化する値であり、0<x<1.10、0.75<y<0.90)で表されるニッケルコバルト酸リチウムを含有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】?【請求項4】略
【請求項5】 正極の充填密度が2.8?3.5g/cm^(3)であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池。」
[2b]「【0031】本発明において、正極は、例えば、上記のような材料を溶剤中で分散機を用いて充分に混合分散して正極合剤ペーストを調製し(ただし、結着剤はあらかじめ溶剤に溶解させておいてから正極活物質などと混合してもよい)、その正極合剤ペーストをスムージングを行いながら、集電体に塗布し、乾燥して、集電体上に正極合剤層を形成し、該正極合剤層の充填性を向上するためにロールプレスによる圧延処理を施して作製される。この際、活物質と結着剤などからなる正極合剤層の充填密度を2.8?3.5g/cm^(3)にすることが好ましい。正極合剤層の充填密度を上記範囲にすることにより、より一層高容量化を図ることができる。ただし、正極の作製方法は上記方法に限られることなく、他の方法を採用してもよい。」
[2c]「【0049】実施例1
---略---
【0050】この正極合剤ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔に、乾燥後の厚みが両面で180μmになるように均一に塗布し乾燥した。同様に、アルミニウム箔の裏面にも正極合剤ペーストを塗布し、真空乾燥した。このシート状電極をロールプレスで圧力を加えて、圧延処理し、シート状の正極を作製した。なお、このようにして作製した正極の正極合剤の充填密度は3.0g/cm^(3)であった。」
[2d]「【0062】実施例2
正極活物質として製造例2で製造したニッケルコバルト酸リチウム〔一般式(I)におけるx=1.00、y=0.80〕を用い、負極活物質として(002)面の面間隔(d002)が0.336nm、結晶子サイズ(Lc)が42nm、アスペスト比が10、平均粒径が10μmの鱗片状炭素材料を用い、正極活物質と負極活物質との重量比を2.3:1にした以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。なお、このようにして作製した電池の正極合剤の充填密度を測定したところ、3.3g/cm^(3)であった。」

(3)引用文献4:特開平10-125323号公報
[3a]「【請求項1】正極と、負極と、有機電解液とを含み、リチウムイオン挿入脱離反応を利用したリチウム二次電池において、
前記正極は、正極活物質と炭素材料もしくは金属材料が担持又は融合した複合材料を含むことを特徴とするリチウム二次電池。」
[3b]「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について比較例とともに詳細に説明する。
〔比較例1〕導電剤の人造黒鉛(8.7重量%)と正極活物質のニッケル酸リチウム(87重量%)に、N-メチル-2-ピロリドン(以下NMPと略記する)に溶解させた結着剤のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)(4.3重量%)を混合し、ペースト状にした後、厚さ20μmのAl箔に両面塗布し、80℃で3時間乾燥した。その後、約2ton/cm^(2)の圧力で加圧成型した後、真空中120℃で3時間熱処理して、正極を得た。この正極の合剤層の密度は約3.0g/cm^(3)であった。
---略---
【0016】
---略---
〔実施の形態1〕10?20μmの黒鉛に、正極活物質である粒径約5μmに粉砕したニッケル酸リチウムを表面融合装置〔ホソカワミクロン(株)製、メカノフュージョンシステム〕により機械的に融合することにより正極活物質を担持した複合材料を合成した。この複合材料は、黒鉛の表面にニッケル酸リチウムがコーティングされており、その断面の模式図は図1あるいは一部の正極活物質2が導電材料1に融合し、母材である炭素表面の一部が露出した図3に示すような構造である。
【0017】この複合材料3を正極活物質(95.7重量%)に用い、結着剤としてのPVDF(4.3重量%)と混合して、比較例1と同様の方法で電極を作製し、電池の特性を評価した。その結果、図4の5に示したように、放電容量維持率は200サイクル後も約98%を維持し、良好なサイクル特性を示した。図4の4に示す比較例1のものよりも、大幅にサイクル特性が改善された。
〔実施の形態2〕実施の形態1で合成した複合材料と同様に、非晶質系炭素であるアセチレンブラックにLiNi_(0.8)Co_(0.2)O_(2)を融合させた複合材料を正極活物質として、実施の形態1と同様にして電池を作成した。」
[3c]「【0021】以上のように、金属材料との複合でも顕著な効果があることが認められた。
〔比較例2〕平均粒径が約6μmでその格子定数がa=8.21?8.25オングストロームのLiMn_(2)O_(4)を正極活物質として用いて電池を作製した。正極合剤の組成は、正極活物質:アセチレンブラック:PVDF=87:9:4であり、その他の正極の作製方法は比較例1と同様である。この正極の合剤層の密度は約2.8g/cm^(3)であった。
【0022】この正極と、Li金属対極及びセパレータとしてポリエチレン系の多孔質膜を組み合わせ、電解液に1M-LiPF_(6)/EC+MEC(1:1)、参照極にLi金属を用いて単極評価用のセルを作製した。4.3V?3.0Vの電位幅で充放電試験を実施し、125mAh/gの初期容量を確認した。この電池を、放電速度を変えて評価した結果、図5の11に示すように放電レートが高くなると容量が急激に低下し、大電流の充放電が難しかった。図5に示した特性は、4.3V?3.0Vの電位幅で放電電流密度を変化させることにより得た。
〔実施の形態5〕10?50μmの黒鉛に、正極活物質である粒径1?5μmに粉砕したLiMn_(2)O_(4)を実施の形態1に用いた表面融合装置を用いて機械的に融合することにより複合材料を合成した。この合成炭素材は、炭素材外側にLiMn_(2)O_(4)がコーティングされており、その断面図の模式図は図1のようになる。また、図3に示すような、一部の正極活物質だけが導電材に融合し炭素表面が露出していて、導電材すべてを被覆していないものもあった。
【0023】この複合材料(96重量%)に結着剤としてPVDF(4重量%)を加えて正極とし、比較例2と同様に電池を作製した。この電池を評価したところ、正極活物質当たり128mAh/gの初期容量を確認した。この電池を、放電速度を変えて評価した結果を図5の12に示す。図5の11に示す比較例2の場合と比べて明らかなように、放電レートが高いところでも放電容量が大きく、大幅な改善がみられた。」

(4)引用文献5:特開2000-235868号公報
[4a]「【請求項1】 正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出する材料を含む負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されるセパレータとを備える電極群;前記電極群に含浸され、非水溶媒と、前記非水溶媒に溶解されるリチウム塩とを含む非水電解液;前記電極群が収納され、樹脂層を含む厚さが0.5mm以下のシート製の外装材;を具備し、
前記非水溶媒は、γ-ブチロラクトンを非水溶媒全体の50体積%より多く、95体積%以下含有することを特徴とする非水電解液二次電池。」
[4b]「【0213】(実施例1)
<正極の作製>まず、リチウムコバルト酸化物(Li_(x) CoO_(2);但し、Xは0≦X≦1である)粉末91重量%をアセチレンブラック3.5重量%、グラファイト3.5重量%及びエチレンプロピレンジエンモノマ粉末2重量%とトルエンを加えて共に混合し、10cm^(2)当たり10個の割合で直径0.5mmの孔が存在する多孔質アルミニウム箔(厚さが15μm)からなる集電体の両面に塗布した後、プレスすることにより電極密度が3g/cm^(3)で、正極層が集電体の両面に担持された構造の正極を作製した。」

(5)引用文献6:特開2000-90982号公報
[5a]「【請求項1】 シート状の集電体と、該集電体上に形成され、リチウムイオンを放出できる正極活物質より主としてなる正極活物質層とから構成されている正極と、該正極から放出された該リチウムイオンを吸蔵および放出できる負極活物質より構成されている負極と、該正極と該負極との間で該リチウムイオンを移動させる非水電解質とを備え、該正極及び該負極の端子間に少なくとも3Vの電圧を生じさせることのできる非水電解質二次電池において、
放電容量の30%を充電した後に、放電を開始してから少なくとも10秒後の該電圧が3Vとなるように定電流で放電させたときの放電率を最大放電率(R_(max);単位C)とすると、前記正極活物質層の電池容量1Ah当たりの表面積が20R_(max)?75R_(max)(単位cm^(2))にあることを特徴とする非水電解質二次電池。」
[5b]「【0054】先ず、正極活物質と、導電剤であるグラファイト粉と、結着剤であるPVDFとを86:10:4の重量比で混合した後、適量のNMPを加えて混練し、スラリー状の正極合剤を得た。次いで、正極集電体としてAl箔上を用意し、この正極集電体上に正極合剤を一様な厚さで塗布して、正極活物質層を形成した。この正極活物質層をロールプレスによって圧縮を行い、正極を完成した。なお、この正極の作製では、正極活物質層の密度が2.85g/cm^(3)なるように正極合剤の塗布量を調整した。」

IV.当審の判断
1.引用文献1に記載された発明
引用文献1には、[1a]及び[1c]によれば、「容量維持率が高くサイクル特性の良好な非水電解質二次電池を提供すること」を目的とする「リチウムと、マンガンと、マンガンとは異なる金属と、酸素とから実質的に構成されるスピネル系酸化物からなる第一酸化物と、リチウムと、ニッケルと、コバルトと、ニッケル及びコバルトとは異なる金属と、酸素とから実質的に構成され、前記第一酸化物とは異なる第二酸化物とからなる混合物を正極材料とする非水電解質二次電池。」に関して、[1b]では、「第一酸化物と第二酸化物とが重量比20:80?80:20で混合」させること、[1d]では、非水電解質二次電池の負極材料として、リチウム金属、または、リチウムを吸蔵放出可能な物質であるリチウム合金や炭素材料を用いることが記載されている。また、[1e]には、実施例において、第一酸化物としてLiMn_(1.95)Al_(0.05)O_(4)を、第二酸化物としてLiNi_(0.6)Co_(0.3)Mn_(0.1)O_(2)を、重量比で1:1となるように混合して正極活物質とし、アルミニウム箔の両面に活物質層を形成することで正極を作成し、LiPF_(6)を溶かした非水電解液を用いて、直径14mmのAAサイズの非水電解質二次電池を製造することが記載されている。

以上によると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「正極活物質としてLiMn_(1.95)Al_(0.05)O_(4)と、LiNi_(0.6)Co_(0.3)Mn_(0.1)O_(2)とを、重量比が1:1となるように混合した正極活物質を使用した正極と、
負極材料として、リチウム金属、または、リチウムを吸蔵放出可能な物質であるリチウム合金や炭素材料を用いた負極と、
LiPF_(6)を溶かした非水電解液とを備え、
上記正極活物質を含む活物質層は、アルミニウム箔の両面に形成されているものであって、直径14mmのAAサイズの非水電解質二次電池。」

2.対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「LiMn_(1.95)Al_(0.05)O_(4)」、「LiNi_(0.6)Co_(0.3)Mn_(0.1)O_(2)」、「LiPF_(6)」、「活物質層」及び「アルミニウム箔」は、それぞれ、本願発明の「一般式Li_(x)Mn_(2-y)M’_(y)O_(4)(但し、xの値はx=1、yの値は0.01≦y≦0.5の範囲とし、M’はFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・マンガン複合酸化物」、「一般式LiNi_(1-z)M’’_(z)O_(2)(但し、zの値は0.01≦z≦0.5の範囲とし、M’’はFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・ニッケル複合酸化物」、「非水電解質」、「正極合剤層」及び「電極集電体」に相当し、リチウム・ニッケル複合酸化物とリチウム・マンガン複合酸化物の「重量比が1:1」とは、「質量比がリチウム・マンガン複合酸化物10wt%乃至80wt%に対してリチウム・ニッケル複合酸化物90wt%乃至20wt%となる」ことに該当するものであって、「リチウム金属、または、リチウムを吸蔵放出可能な物質であるリチウム合金や炭素材料」とは「リチウム金属、リチウム合金、又はリチウムを吸蔵、脱離可能な材料」である。そして、直径14mmのAAサイズの非水電解質二次電池は、各電極を渦巻き型に多数回巻回したものであるから、電極集電体であるアルミニウム箔は帯状であるものといえる。

よって、両者は、
「正極活物質として一般式Li_(x)Mn_(2-y)M’_(y)O_(4)(但し、xの値はx=1、yの値は0.01≦y≦0.5の範囲とし、M’はFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・マンガン複合酸化物と、一般式LiNi_(1-z)M’’_(z)O_(2)(但し、zの値は0.01≦z≦0.5の範囲とし、M’’はFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si、Geの内一つ又は複数とする。)で表されるリチウム・ニッケル複合酸化物とを、質量比が上記リチウム・マンガン複合酸化物10wt%乃至80wt%に対して上記リチウム・ニッケル複合酸化物90wt%乃至20wt%となるように混合した混合材料を使用する正極と、
負極活物質としてリチウム金属、リチウム合金、又はリチウムを吸蔵、脱離可能な材料のうち少なくとも1種類以上を含有する負極と、
非水電解質とを備え、
上記正極合剤層は、帯状の電極集電体の両面に形成された非水電解質二次電池。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明は、正極活物質を含有する正極合剤層の体積密度が2.5g/cm^(3)乃至3.3g/cm^(3)とされているのに対し、引用発明1は、正極合剤層の体積密度が不明である点

上記相違点について検討する。
引用文献3の[2a]及び[2b]には、非水電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池について、正極合剤層の体積密度である充填密度を2.8?3.5g/cm^(3)にすることにより、より一層高容量化を図ることができ、[2c]及び[2d]における実施例では、正極合剤層に圧延処理を施し、正極合剤層の体積密度を3.0又は3.3g/cm^(3)とする例が記載されている。同様に、引用文献4?6には、圧延処理を行い、体積密度を2.5g/cm^(3)乃至3.3g/cm^(3)とする例が具体的に記載されている。
そうすると、高容量化の観点から非水電解質二次電池の正極合剤層の体積密度を2.5g/cm^(3)乃至3.3g/cm^(3)とすることは、本願出願前において通常選択されている体積密度の範囲と認められるから、引用発明1において、正極合剤層の体積密度を通常選択される2.5g/cm^(3)乃至3.3g/cm^(3)とすることは、当業者が容易になし得る設計的事項に過ぎないものである。
なお、請求人は、本願発明は所定範囲に加圧成形された正極合剤層によって、充放電時の変動を分散・吸収することができる効果を奏するものであって、引用文献1,3?6には、このことについて記載ないし示唆されていない旨の主張をしている。しかしながら、上記の効果の主張は、本願明細書に記載されたサイクル特性(サイクル試験による容量維持率)を根拠とするものであるところ、引用発明1も、充放電に伴う正極の膨張収縮の変化を抑制することにより、容量維持率が高く、サイクル特性の良好な電池を得ることを目的とし、実施例においてサイクル試験による容量維持率の向上した電池を得ているから、請求人が主張する本願発明の効果が、引用発明1の効果の比して格別のものであるとは認めることはできない。

したがって、本願発明は、引用発明1及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、原査定は妥当である。
したがって、本願発明は特許を受けることができないものであるから、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-14 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-10 
出願番号 特願2000-403460(P2000-403460)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (H01M)
P 1 8・ 572- WZ (H01M)
P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 康小森 利永子  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 野田 定文
山本 一正
発明の名称 非水電解質二次電池  
代理人 杉浦 正知  

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