• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09H
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09H
管理番号 1244034
審判番号 不服2008-2631  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-06 
確定日 2011-09-29 
事件の表示 特願2001-386760「ゲル化特性に優れたゼラチン」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月3日出願公開、特開2003-183595〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年12月19日に出願され、平成19年8月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月5日に意見書が提出され、同年12月26日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、それに対して、平成20年2月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同年4月18日に手続補正書(方式)が提出され、当審において平成23年3月24日付けで拒絶理由が通知され、同年5月20日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年5月20日付け手続補正書により補正された明細書及び図面(以下、それぞれ「本願明細書」及び「本願図面」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「パギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析における、溶出開始からの時間が22.4分未満の間に溶出した成分をγ成分、22.4分以降24.4分未満の間に溶出した成分をβ成分、24.4分以降26.7分未満の間に溶出した成分をα成分、26.7分以降に溶出した成分を低分子量成分としたとき、
これら4つの成分を含有し、
各成分の前記クロマトグラフ分析での面積百分率が、
54(重量%)≧α成分(重量%)+β成分(重量%)≧48(重量%)
かつ、
低分子量成分(%)≦23(重量%)、
なる関係を有する、ゼラチン。」

第3.拒絶理由の概要
これに対して、当審において平成23年3月24日付けで通知した拒絶理由の理由2は、明細書の特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号で規定する要件を満たしていない、というものである。そして、次の点を付記している。
「(1)本願発明は、パギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析での面積百分率で「α成分(%)+β成分(%)」が48%以上、かつ「低分子量成分(%)」が23%以下と特定するものである。
しかし、実施例においては、「α成分+β成分」が53.3%?54.0%、また「低分子量成分」が20.3%?21.0%の極めて狭い範囲のものしか具体的に開示されていない。
そうすると、このような実施例の記載から、たとえ比較例と対比したとしても、本願発明で特定するように「α成分+β成分」が48%以上、かつ、「低分子量成分」が23%以下との要件を満足すれば、所期の効果を奏するものということはできない。
(2)本願発明は、「α成分+β成分」の合計含有率をパギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析での面積百分率で48%以上と特定するのみで、両成分の個別の含有率は何ら特定していないことから、両成分を必ずしも必要とするものではない。
しかし、実施例においては、実施例1としてα成分が17.3%、β成分が36.0%のゼラチン1、また、実施例2として、α成分が17.8%、β成分が36.2%のゼラチン2が記載されているのみで、α成分及びβ成分のいずれも一定量含むものである。
そして、本願明細書段落0008には、「上記シングルへリックス分子(α鎖)成分とダブルへリックス分子(β鎖)成分とは、ゲル化の際、共に絡み合ってヘリックス構造となることによってゼラチンゼリーとして実用的に求められる一定のゼリー強度を達成し得る成分である」と記載されており(段落0012にも同趣旨の記載がある。)、α成分とβ成分の両者が存在しなければ一定のゼリー強度を達成し得ないものと認められる。
そうすると、このような実施例の記載から、本願発明における「α成分」と「β成分」の合計含有率が48%以上との要件を満足すればα成分とβ成分の個々の含有率とは無関係に所期の効果を奏するものということはできない。
(3)本願発明は、「γ成分」の含有率について何ら特定しておらず、「γ成分」必ずしも必要としないものといえる。
しかし、実施例において「γ成分」の含有率を計算すれば(パギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析の溶出時間の区分けからみて、α成分、β成分及び低分子量成分以外はすべてγ成分とした。)、実施例1のゼラチン1では26.4%、また実施例2のゼラチン2では25.0%含むものである。
そして、本願明細書段落0014には、「また、本発明に係るゼラチンは、上記パギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析における、溶出開始からの時間が22.4分未満の間に溶出した成分すなわちγ成分を、クロマトグラフ分析における面積百分率で29?52%含むことが好ましく、より好ましくは30?52%、さらにより好ましくは31?52%である。このγ成分の面積百分率が上記範囲内であると、ゲル化の際、上記α成分とβ成分とが絡み合ってなるヘリックス構造が速やかに形成されゲル化速度を増加させることができる。また、29%未満の場合は、上記へリックス構造の形成が速やかに進行せずゲル化速度が低下するおそれがあり、52%を超える場合は、ゼラチン溶液としての粘性が高くなりすぎ取扱いが困難となるほか、ゼリー強度が低いゼラチンゼリーとなり実用性に欠け、ゲル化速度も低下してしまう。」と記載されているとおり、γ成分の含有率もゲル化速度及びゼリー強度に影響を与えることが明らかである。
そうすると、このような実施例の記載から、本願発明で特定するように「α成分+β成分」が48%以上、かつ、「低分子量成分」が23%以下との要件を満足すれば、「γ成分」の有無(含有率)とは無関係に所期の効果を奏するものということはできない。
上記(1)?(3)で示した理由にかんがみれば、発明の詳細な説明に具体的に開示された事項から本願発明で特定する範囲まで拡張ないし一般化することはできず、本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。」

第4.拒絶理由の妥当性
そこで、本願発明が発明の詳細な説明に記載したものであるかどうかについて、さらに検討する。

1.本願明細書及び図面の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。
ア.「【発明の属する技術分野】
本発明は、ゲル化特性に優れたゼラチンに関する。さらに詳しくは、速やかにゲル化すると共に、その後のゲル強度変化が少ない、新規なゼラチンに関する。」(段落0001)

イ.「【発明が解決しようとする課題】
ゼラチンゼリーを作る際に、所望の強度に到達するまでの時間を短くすることができ、かつ、その後のゲル強度変化が少なくできれば、広い範囲の冷却時間で高品質(食感、味など)のゼリーを得ることが出来る。
また、ゲル化速度が速ければ、その後のゼリーの二次加工(多層化、トッピング、デコレーションなど)を速やかに行うことができる。さらに、ゼリーの出荷・販売が短時間で可能となるため、迅速な商品流通が要求されるコンビニエンス業界においては特に好ましいものとなる。
しかし、そのような特性を有するゼラチンは従来得られていなかった。
そこで、本発明の解決しようとする課題は、速やかにゲル化するとともに、その後のゲル強度変化が少ない、新規なゼラチンを提供することにある。」(段落0003?0004)

ウ.「ゼラチンは一般にトリプルへリックス構造を有するコラーゲンへリックス分子の集合体であるコラーゲンを水中で加熱し変性させて得られ、前記コラーゲンへリックス分子に由来するシングルへリックス分子(α鎖)成分、ダブルへリックス分子(β鎖)成分、ダブルへリックス分子(β鎖)成分よりも高分子量の成分、シングルへリックス分子(α鎖)成分よりも低分子量の成分を含有し、これら成分の含有割合に基づく分子量分布を形成する。
本発明者は、速やかにゲル化するとともに、その後のゲル強度変化が少ない、新規なゼラチンを提供するという課題を解決するために、この分子量分布に着目した。そして、分子量分布をこれまでにない特定の分布状態に制御することにより、目的とする新規なゼラチンが得られることを見出したのである。
具体的には、ゼラチンの分子量分布を、分子量が約10万程度のシングルへリックス分子(α鎖)成分と分子量が約20万程度のダブルへリックス分子(β鎖)成分との合計含有率を一定割合以上となるように制御するとともに、シングルへリックス分子(α鎖)成分より低分子量の成分の割合を一定割合以下となるように制御することにより、速やかにゲル化するとともに、その後のゲル強度変化が少ない、新規なゼラチンを提供できることを見出した。
すなわち、本発明に係るゼラチンは、トリプルへリックス構造を有するコラーゲンへリックス分子の集合体であるコラーゲンを水中で加熱し変性させて得られるゼラチンであって、該ゼラチン中の、前記コラーゲンへリックス分子に由来するシングルへリックス分子(α鎖)成分とダブルへリックス分子(β鎖)成分との合計含有率が48重量%以上、54重量%以下であであり、かつ、シングルへリックス分子(α鎖)成分より低分子量の成分の含有率が23重量%以下であることを特徴とする。」(段落0006?0008)

エ.「本発明に係るゼラチンは、パギイ法(写真用ゼラチン試験法、第8版、1997年)に基づく高速液体クロマトグラフ分析における、溶出開始からの時間が22.4分以降24.4分未満の間に溶出した成分をβ成分、24.4分以降26.7分未満の間に溶出した成分をα成分、26.7分以降に溶出した成分を低分子量成分としたときの各成分のクロマトグラフ分析における面積百分率において、α成分(%)、β成分(%)、低分子量成分(%)の3者が、
54(%)≧α成分(%)+β成分(%)≧48(%)、かつ、低分子量成分(%)≦23(%)、
なる関係を有することが重要である。
この関係は、ゼラチンの分子量分布を、分子量が約10万程度のシングルへリックス分子(α鎖)成分(α成分)と分子量が約20万程度のダブルへリックス分子(β鎖)(β成分)成分との合計含有率を一定割合以上となるように制御するとともに、シングルへリックス分子(α鎖)成分より低分子量である上記低分子量成分の割合を一定割合以下となるように制御することについて、よく知られたパギイ法に基づく分子量分布測定で得られる数値で表現したものである。」(段落0010?0011)

オ.「上記α成分とβ成分とは、ゲル化の際、共に絡み合ってヘリックス構造となることによってゼラチンゼリーとして実用的に求められる一定のゼリー強度を達成し得る成分である。
α成分+β成分の面積百分率が48%未満の場合には、ゼリー強度が低いゼラチンゼリーとなり実用性に欠け、ゲル化速度も低下してしまうおそれがある。また、一旦ゲル化した後のゲル強度変化(冷却時間の経過に対するゲル強度の増加分)が大きくなってしまうおそれがある。」(段落0012;0008?0009も同旨)

カ.「上記低分子量成分は、ゼラチンゼリーのゲル化の促進に関して積極的に作用するものではなく、上記α鎖成分とβ鎖成分とのへリックス構造に影響を及ぼし結果的にゲル化には消極的に作用し得る成分であるが、……。低分子量成分の面積百分率が23%を超えると、ゲル化速度が著しく低下し、ゼラチンゼリーが必要以上にべたつき感を有するものとなるおそれがあるとともに、一旦ゲル化した後のゲル化速度が大きくなってしまうおそれがある。」(段落0013;0009?0010も同旨)

キ.「本発明に係るゼラチンは、上記パギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析における、溶出開始からの時間が22.4分未満の間に溶出した成分すなわちγ成分を、クロマトグラフ分析における面積百分率で29?52%含むことが好ましく、……。このγ成分の面積百分率が上記範囲内であると、ゲル化の際、上記α成分とβ成分とが絡み合ってなるヘリックス構造が速やかに形成されゲル化速度を増加させることができる。また、29%未満の場合は、上記へリックス構造の形成が速やかに進行せずゲル化速度が低下するおそれがあり、52%を超える場合は、ゼラチン溶液としての粘性が高くなりすぎ取扱いが困難となるほか、ゼリー強度が低いゼラチンゼリーとなり実用性に欠け、ゲル化速度も低下してしまう。」(段落0014)

ク.「上述した本発明に係るゼラチンは、その特有の分子量分布形態により、速やかにゲル化するとともに、その後のゲル強度変化が少ない、新規なゼラチンである。
本発明に係るゼラチンは、従来のゼラチンに比べて速やかにゲル化することができる。具体的には、下記実施例において詳述する「ゲル化速度(ゲル強度が10gに到達するまでに必要な時間)」が、好ましくは2.5時間以下、……である。従来のゼラチンのゲル化速度は3.0時間程度を超えるものが通常であったので、本発明に係るゼラチンはゲル化速度で約1時間程度以上の速度促進である。この1時間程度以上のゲル化速度促進の効果は非常に大きく、その後のゼリーの二次加工(多層化、トッピング、デコレーションなど)を速やかに行うことができるとともに、さらに、ゼリーの出荷・販売が短時間で可能となるため、迅速な商品流通が要求されるコンビニエンス業界においては特に好ましいものとなる。
本発明に係るゼラチンは、さらに、従来のゼラチンに比べてゲル化後のゲル強度の経時的変化が少ない。具体的には、下記実施例において詳述する「ゲル強度変化比(冷却開始4時間後のゲル強度と16時間後のゲル強度との比)」が、好ましくは1.8以下、……である。従来のゼラチンのゲル強度変化比は1.8を超えるものが通常であるため、本発明に係るゼラチンはゲル化後のゲル強度の変化(ゲル強度の増加)が非常に少ないのである。よって、ゼラチンゼリーの二次加工や出荷・販売が速やかに行えることに加え、その後、長時間適度なゲル強度、ひいては長時間高品質を保つことができる。」(段落0015?0016)

ケ.「[実施例1]
製造例1で得られたゼラチン1について、粘度、ゼリー強度、pHを測定した。さらに、パギイ法(写真用ゼラチン試験法、第8版、1997年)に基づく高速液体クロマトグラフ分析を行い、溶出開始からの時間が22.4分以降24.4分未満の間に溶出した成分をβ成分、24.4分以降26.7分未満の間に溶出した成分をα成分、26.7分以降に溶出した成分を低分子量成分としたときの各成分の面積百分率α成分(%)、β成分(%)、低分子量成分(%)を求めた。また、上記ゲル化条件下でゲル強度の経時変化を測定し、ゲル化速度(ゲル強度が10gに到達するまでの時間)およびゲル強度変化比を求めた。さらにこれらの結果を表1、2に示した。
表2から分かるように、ゼラチン1のゲル化速度は1.8hであり、後述する市販品に比べて約1時間程度以上の速度促進が見られた。
[実施例2]
製造例2で得られたゼラチン2について、実施例1と同様に、粘度、ゼリー強度、pH、α成分(%)、β成分(%)、低分子量成分(%)、ゲル化速度およびゲル強度変化比を求めた。結果を表1、2に示した。
表2から分かるように、ゼラチン2のゲル化速度は1.9hであり、後述する市販品に比べて約1時間程度以上の速度促進が見られた。
[比較例1]
市販品1(新田ゼラチン社製のゼラチン、製品名:#250)について、実施例1と同様に、粘度、ゼリー強度、pH、α成分(%)、β成分(%)、低分子量成分(%)、ゲル化速度およびゲル強度変化比を求めた。結果を表1、2に示した。
[比較例2]
市販品2(新田ゼラチン社製のゼラチン、製品名:ゼラチン21)について、実施例1と同様に、粘度、ゼリー強度、pH、α成分(%)、β成分(%)、低分子量成分(%)、ゲル化速度およびゲル強度変化比を求めた。結果を表1、2に示した。
[比較例3]
市販品3(新田ゼラチン社製のゼラチン、製品名:ニューシルバー)について、実施例1と同様に、粘度、ゼリー強度、pH、α成分(%)、β成分(%)、低分子量成分(%)、ゲル化速度およびゲル強度変化比を求めた。結果を表1、2に示した。
【表1】

【表2】

次に、ゼラチン1、2および市販品1?3について、ゲル強度の経時時間変化を表すグラフを図1に示した。
図1のグラフによれば、市販品1?3に比べて、本発明のゼラチンであるゼラチン1およびゼラチン2は、ゲル強度10gに達した後、時間を経過するにつれて、ゲル強度の増加速度(単位時間あたりのゲル強度増加量:グラフの傾きの大きさ)が明らかに小さくなっていることが分かる。したがって、本発明のゼラチンであるゼラチン1およびゼラチン2は、速やかにゲル化するとともに、その後のゲル強度変化が少ないゼラチンであるといえる。」(段落0047?0053)

コ.「【発明の効果】
本発明によれば、速やかにゲル化するとともに、その後のゲル強度変化が少ない、新規なゼラチンを提供することができる。」(段落0054)

また、本願図面には次の記載がある。
サ.「【図1】

」(図面の図1)

2.特許法第36条第6項第1号に規定する要件について
本願発明は、「ゲル化特性に優れたゼラチン」、すなわち「速やかにゲル化するとともに、その後のゲル強度変化が少ないゼラチン」を得ることをその課題とするものであることは、本願明細書等の記載から明らかである(摘示ア?ウ、ク?サ)。

(a)本願発明は、上記課題を解決するために、ゼラチンにおいて、
「パギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析における、溶出開始からの時間が22.4分未満の間に溶出した成分をγ成分、22.4分以降24.4分未満の間に溶出した成分をβ成分、24.4分以降26.7分未満の間に溶出した成分をα成分、26.7分以降に溶出した成分を低分子量成分としたとき、
これら4つの成分を含有し、
各成分の前記クロマトグラフ分析での面積百分率が、
54(重量%)≧α成分(重量%)+β成分(重量%)≧48(重量%)
かつ、
低分子量成分(%)≦23(重量%)、
なる関係を有する」ことをその発明を特定するために必要と認める事項(以下、「発明特定事項」という。)とするものである。
この発明特定事項に基づけば、本願発明に係るゼラチンは、α成分、β成分、γ成分及び低分子量成分の4つの成分からなるものであるから、「α成分+β成分」を所定量範囲(48重量%以上54重量%以下)とした場合に、「低分子量成分」を23重量%以下(下限値はない。)の範囲において少なくすればするほど、逆に「γ成分」は多くしなければならないものといえる。
ところで、本願明細書には、
・「低分子量成分」は、「パギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析における、溶出開始からの時間が26.7分以降に溶出した成分」(請求項1及び摘示エ)であり、「シングルヘリックス分子(α鎖)成分よりも低分子量の成分」(摘示ウ及びエ)であって、「α鎖成分とβ鎖成分とのヘリックス構造に影響を及ぼし結果的にゲル化には消極的に作用する成分」(摘示カ)であり、「23%を超えるとゲル化速度が著しく低下し、ゼラチンゼリーが必要以上にべたつき感を有するものとなるおそれがあるとともに、一旦ゲル化した後のゲル化速度(審決注:「ゲル化強度変化」の錯誤と認められる。)が大きくなってしまうおそれがある」(摘示カ)こと、
・「γ成分」は、「パギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析における、溶出開始からの時間が22.4分未満の間に溶出した成分」(請求項1及び摘示キ)であり、「ダブルヘリックス分子(β鎖)成分よりも高分子量の成分」(摘示ウ)であって、「29%未満の場合は、(ゲル化の際にα成分とβ成分とが絡み合ってなる)ヘリックス構造の形成が速やかに進行せずゲル化速度が低下するおそれがあり、52%を超える場合は、ゼラチン溶液としての粘性が高くなりすぎ取扱いが困難となるほか、ゼリー強度が低いゼラチンゼリーとなり実用性に欠け、ゲル化速度も低下してしまう」(摘示キ)こと、
が示されている。
すなわち、「低分子量成分」と「γ成分」とはゼラチンのゲル化特性において同等の影響を与えるものではなく、代替関係にあるものとは認められないことから、「低分子量成分」を少なくし、その分「γ成分」を増加させると、ゼラチンのゲル化特性は大きく変化するものとなるはずである。このことは、たとえば、比較例2と比較例3とは「α成分+β成分」はほぼ同じ量含まれ、比較例2は比較例3より「低分子量成分」が少ないものであるが(その分「γ成分」が多くなる。)、両者は「ゼリー強度」及び「ゲル化速度」において顕著に相違していることからも明らかである(摘示ケの【表1】及び【表2】)。
しかし、実施例においては、「α成分+β成分(%)」が53.3?54.0%、及び「低分子量成分(%)」が20.3?21.0%(なお、γ成分の量は示されていないが、α成分、β成分及び低分子量成分以外はγ成分とすると、γ成分は25.0?26.4%と計算できる。)という極めて狭い範囲のものしか具体的に開示されていない(摘示ケの【表2】)。そして、そのような各成分の含有量において、「速やかにゲル化するとともに、その後のゲル化強度変化が少ない」、ゲル化特性の優れたゼラチンが得られることが開示されているにすぎない(摘示ケ?サ)。
したがって、実施例1及び2において、「α成分+β成分」の量はそのままにして、「低分子量成分」が20.3?21.0%より少なくすると、当然「γ成分」の量は実施例1及び2の場合より増加することになるが、そのような各成分の含有量を有するゼラチンが実施例1や2と同等のゲル化特性を有するものとは認められない。
そうすると、このような実施例の記載から、本願発明が特定するように、
・α成分、β成分、γ成分及び低分子量成分の4つの成分を含有
・「α成分+β成分」が48重量%以上、54重量%以下
・「低分子量成分」が23重量%以下
との要件をすべて満足したとしても、実施例1や2で得られるような所期の効果を奏するものということはできない。

(b)本願発明において、α成分とβ成分とは合計量で48重量%以上、54重量%以下含有することのみが特定され、両成分のそれぞれの含有量は特に規定されていない。(ただし、両成分とも含有することは必要とされている。)
しかし、実施例においては、α成分が17.3?17.8%、β成分が36.0?36.2%という極めて狭い範囲のものしか具体的に開示されていない(摘示ケの【表2】)。そして、このようなα成分とβ成分の含有割合の場合に、「速やかにゲル化するとともに、その後のゲル化強度変化が少ない」、ゲル化特性の優れたゼラチンが得られることが開示されているにすぎない(摘示ケ?サ)。
ところで、α成分とは、パギイ法に基づく高速液体クロマトグラフ分析における、溶出開始から24.4分以降26.7分未満の間に溶出する成分であり、β成分とは、同じく溶出開始から22.4分以降24.4分未満の間に溶出する成分であるが(請求項1及び摘示エ)、これらは、それぞれ分子量が約10万程度のシングルヘリックス分子(α鎖)成分、及び分子量が20万程度のダブルヘリックス分子(β鎖)成分に相当するものである(摘示ウ及びエ)。そして、α成分とβ成分とは、ゲル化の際、共に絡み合ってヘリックス構造となることによってゼラチンゼリーとして実用的に求められる一定のゼリー強度を達成するものである(摘示オ)。
そうすると、α成分とβ成分とは同等の作用を有する代替関係にあるものではなく、ゼラチンが所期のゲル化特性を得るためには両者が共に絡み合ってヘリックス構造をとることが必要であり、そのためには両者が一定割合で存在する必要があるものといえる。(なお、実施例1及び2では、α成分とβ成分は重量比で約1:2の割合で存在しており、α成分とβ成分の分子量の比も約10万:20万=1:2であるから、α成分とβ成分とはおおよそ等モル量含まれているものと解される。)
そうすると、実施例の記載から、単に「α成分+β成分」が28重量%以上、54重量%以下との要件を満足すれば、両成分の個々の含有割合とは無関係に所期の効果を奏するものということはできない。

(c)したがって、明細書の発明の詳細な説明に具体的に開示された事項から本願発明で特定する範囲まで拡張ないし一般化することはできず、本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、平成23年3月24日付けで通知した拒絶理由の理由2は妥当なものといえる。
そうすると、他の拒絶理由について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-01 
結審通知日 2011-08-02 
審決日 2011-08-18 
出願番号 特願2001-386760(P2001-386760)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C09H)
P 1 8・ 536- WZ (C09H)
P 1 8・ 537- WZ (C09H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 藤本 保
大島 祥吾
発明の名称 ゲル化特性に優れたゼラチン  
代理人 松本 武彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ