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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1244042
審判番号 不服2008-26718  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-16 
確定日 2011-09-29 
事件の表示 特願2002-115903「四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩及び四級アンモニウム無機酸塩の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年4月3日出願公開、特開2003-96031〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成14年4月18日(優先権主張 平成13年5月2日:特願2001-135339号及び特願2001-135340号、平成13年7月19日:特願2001-219740号及び特願2001-219741号)の出願であって、平成20年5月14日付けで拒絶理由が通知され、同年7月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月19日付けで拒絶査定がされたところ、同年10月16日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年10月27日に手続補正書が提出され、平成22年11月18日付けで審尋がされ、平成23年1月6日に回答書が提出されたものである。

第2 平成20年10月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成20年10月27日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正
平成20年10月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項1である
「下記式(2):
【化1】

(式中、R^(4)、R^(5)及びR^(6)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表し、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の2個は結合して、窒素原子と共に脂肪族環又は芳香族環を形成してもよいし、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の1個は残りの2個と結合して、窒素原子と共に二環構造を形成してもよい)
で表される三級アミンと一般式(1):
【化2】

(式中、R^(1)はアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表し、R^(2)及びR^(3)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表す)
で表されるヒドロキシカルボン酸エステルを反応させて下記式(3):
【化3】

(式中、R^(1)?R^(6)は前記と同様)
で表される四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩を得る工程を含み、該ヒドロキシカルボン酸エステルが2-ヒドロキシイソ酪酸メチルであることを特徴とする四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩の製造方法。」を、
「下記式(2):
【化1】

(式中、R^(4)、R^(5)及びR^(6)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表し、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の2個は結合して、窒素原子と共に脂肪族環又は芳香族環を形成してもよいし、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の1個は残りの2個と結合して、窒素原子と共に二環構造を形成してもよい)
で表される三級アミンと一般式(1):
【化2】

(式中、R^(1)はアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表し、R^(2)及びR^(3)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表す)
で表されるヒドロキシカルボン酸エステルを反応させて下記式(3):
【化3】

(式中、R^(1)?R^(6)は前記と同様)
で表される四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩を得る工程を含み、該ヒドロキシカルボン酸エステルが2-ヒドロキシイソ酪酸メチルであり、前記工程においてヒドロキシカルボン酸エステルを三級アミン1モルに対して0.1?10モル使用し、三級アミンとヒドロキシカルボン酸エステルとを80?130℃、0?2MPa(ゲージ圧)で0.5?20時間反応させることを特徴とする四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩の製造方法。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
請求項1についての補正は、本件補正前の請求項3及び4で特定されていた反応条件である、モル比、反応温度、反応圧力及び反応時間を繰り入れ、モル比及び反応温度についてはさらに数値範囲を限定して、「前記工程においてヒドロキシカルボン酸エステルを三級アミン1モルに対して0.1?10モル使用し、三級アミンとヒドロキシカルボン酸エステルとを80?130℃、0?2MPa(ゲージ圧)で0.5?20時間反応させる」と特定するものであり、願書に最初に添付された明細書(特に段落【0043】及び【0045】)の記載からみて新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。
また、上記補正は、特許請求の範囲を減縮し、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(上記補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

ア 本願補正発明
本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)は、
「下記式(2):
【化1】

(式中、R^(4)、R^(5)及びR^(6)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表し、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の2個は結合して、窒素原子と共に脂肪族環又は芳香族環を形成してもよいし、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の1個は残りの2個と結合して、窒素原子と共に二環構造を形成してもよい)
で表される三級アミンと一般式(1):
【化2】

(式中、R^(1)はアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表し、R^(2)及びR^(3)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表す)
で表されるヒドロキシカルボン酸エステルを反応させて下記式(3):
【化3】

(式中、R^(1)?R^(6)は前記と同様)
で表される四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩を得る工程を含み、該ヒドロキシカルボン酸エステルが2-ヒドロキシイソ酪酸メチルであり、前記工程においてヒドロキシカルボン酸エステルを三級アミン1モルに対して0.1?10モル使用し、三級アミンとヒドロキシカルボン酸エステルとを80?130℃、0?2MPa(ゲージ圧)で0.5?20時間反応させることを特徴とする四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩の製造方法。」
であると認められる。

イ 引用刊行物
特公昭48-42603号公報(原査定における「引用文献1」。以下、「刊行物1」という。)

ウ 刊行物に記載されている事項
この出願の出願前(優先権主張日前)に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。

1a「カルボン酸エステルと3級アミンを作用させ(但しサリチル酸メチルとジメチルアミノエタノールの場合を除く)4級アンモニウム化合物を製造し必要に応じこれに無機酸を作用して4級アンモニウム無機酸塩を製造する方法。」(特許請求の範囲第1項)

1b「本反応に用いられるカルボン酸エステルとはカルボン酸エステル基を有する総ての化合物を意味し、蓚酸ジメチルエステル、フタール酸ジメチルエステル等の多塩基性カルボン酸エステルおよびその他種々の複素置換カルボン酸エステルも含まれる。」(1頁2欄13?18行)

1c「また3級アミンとは総ての種類の3級アミンを意味し、ピリジン等の複素還式3級アミン化合物、およびその他の種々の複素置換3級アミンも含まれる。」(1頁2欄19?22行)

1d「すなわち、従来の方法では一般に次の反応式(a)による反応方式がとられていた。
(審決注:反応式(a)は省略)
(式中・・・R,R_(1),R_(2),R_(3)およびR_(4)はそれぞれ異種または同一のアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アラルキル基などを表わし、これらはNとともに閉環していてもよい、・・・)
しかるに、本発明方法は下記反応式(b)による反応方式をとるものである。

(式中R_(1),R_(2),R_(3)およびR_(4)はそれぞれ上記(a)におけるものと同様の基を表わす。)
すなわち、式(a)の反応では無機塩たとえば、食塩、硫酸ナトリウムが副生し、その分離、製品の精製が困難である。本発明によるとき、すなわち式(b)の反応においては、全然そのような副生物がないので、容易に高純度の製品が得られる。」(1頁2欄30行?2頁3欄18行)

1e「本法は危険なヂメチル硫酸、又は揮発性ハロゲン化メチル等の取扱に困難なアルキル化剤を用いず、特別な製造設備も必要としない有利な3級アミンのアルキル化法である。
また本反応で得られた種々の4級アンモニウムのカルボン酸塩は無機酸を作用することにより容易に無機酸塩とすることが出来る。」(2頁3欄26?32行)

1f「本発明の、カルボン酸エステルと3級アミンとの反応は無溶媒中、又は例えばトルエン、キシレン等の無極性溶媒中、又はアルコール類の極性溶媒中等いずれでも使用出来るが、副反応等が生じないかぎり大部分は無溶媒で反応を行う方が好ましい。本反応はカルボン酸エステルと3級アミンを約等モル混和し、それ等のエステルおよびアミンの性質により適当な温度で加熱を行う。一般に温度80?160℃で3?20時間の加熱で大部分反応が遂行される。一般に加熱時間の長い方が目的物の収量を増加させる傾向にあるが、高温度での反応は必ずしも目的物の収量増加の因子とはならない。沸点の低いカルボン酸エステルや3級アミンを用いる場合、または常圧で反応が進行しにくい場合は封管中で反応させることにより目的を達し得る場合がある。」(2頁3欄33行?4欄15行)

1g「上述の実施例と同様に製造し確認した化合物を次の表に示す。
・・・

・・・
* 4級アンモニウム・カルボン酸塩の収率」(3頁6欄20?21行、4頁表、5頁表外脚注)

エ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「カルボン酸エステルと3級アミンを作用させ・・・4級アンモニウム化合物を製造し必要に応じこれに無機酸を作用して4級アンモニウム無機酸塩を製造する方法。」(摘示1a)の「必要に応じ・・・作用」を行わない前段階のみの製造方法として、「カルボン酸エステルと3級アミンを作用させ・・・4級アンモニウム化合物を製造・・・する方法。」が記載されており、該方法が、反応式(b)



として表されている(摘示1d)。
そして、実施例No.26として、カルボン酸エステルである「メチルラクテート」2.08gと、3級アミンである「ジメチルアミノエタノール」1.78gを用い、110℃、13時間反応させ、対応する化合物が、「4級アンモニウム・カルボン酸塩の収率」として3.2gで得られることが記載されている(摘示1g)。
ここで、実施例No.26における生成物は、4級アンモニウムのハーライドである「コリン・クロライド」となっているが、該生成物は、摘示1aの「必要に応じこれに無機酸を作用」して得られる「4級アンモニウム無機酸塩」に該当するので、その前段階として、反応式(b)の生成物にあたる「4級アンモニウム・カルボン酸塩」が製造されていることは明らかであり、これは、摘示1aの前記「4級アンモニウム化合物」に対応するといえる。

そうすると、刊行物1には、
「反応式(b)

で表されるカルボン酸エステルと3級アミンを作用させ、4級アンモニウム・カルボン酸塩を製造する方法であって、前記カルボン酸エステルであるメチルラクテート(2.08g)と、前記3級アミンであるジメチルアミノエタノール(1.78g)とを110℃、13時間反応させ、4級アンモニウム・カルボン酸塩を製造する方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

オ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「メチルラクテート」は、乳酸メチルとも称されるもので、構造式H_(3)CCH(OH)COOCH_(3)で表され、本願補正発明の「一般式(1)・・・で表されるヒドロキシカルボン酸エステル」において、R^(1)がアルキル基(メチル基)、R^(2)がアルキル基(メチル基)、R^(3)が水素原子であるものに相当する。
次に、引用発明の「ジメチルアミノエタノール」は、構造式(H_(3)C)_(2)NCH_(2)CH_(2)OHで表され、本願補正発明の「下記式(2)・・・で表される三級アミン」において、R^(4)がアルキル基(メチル基)、R^(5)がアルキル基(メチル基)、R^(6)が置換基を有していてもよいアルキル基(ヒドロキシエチル基)であるものに相当する。
そして、引用発明の上記反応式(b)及び各出発原料からみて、引用発明の「4級アンモニウム・カルボン酸塩」は、本願補正発明の「下記式(3)・・・で表される四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩」に相当する。
また、引用発明の「メチルラクテート」は、分子量が104であるから、0.02モル(=2.08g/104)、「ジメチルアミノエタノール」は、分子量が90であるから、0.02モル(=1.78g/90)であるので、本願補正発明の「ヒドロキシカルボン酸エステルを三級アミン1モルに対して0.1?10モル使用」に相当し、引用発明の反応温度「110℃」及び反応時間「13時間」は、本願補正発明の「80?130℃」、「0.5?20時間」にそれぞれ相当し、さらに、摘示1gの実施例No.26は、封管条件でないことから、常圧で反応を行っているものと認められ、本願補正発明の「0?2MPa(ゲージ圧)」に相当する。

したがって、両者は、
「下記式(2):
【化1】

(式中、R^(4)、R^(5)及びR^(6)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表し、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の2個は結合して、窒素原子と共に脂肪族環又は芳香族環を形成してもよいし、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の1個は残りの2個と結合して、窒素原子と共に二環構造を形成してもよい)
で表される三級アミンと一般式(1):
【化2】

(式中、R^(1)はアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表し、R^(2)及びR^(3)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表す)
で表されるヒドロキシカルボン酸エステルを反応させて下記式(3):
【化3】

(式中、R^(1)?R^(6)は前記と同様)
で表される四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩を得る工程を含み、前記工程においてヒドロキシカルボン酸エステルを三級アミン1モルに対して0.1?10モル使用し、三級アミンとヒドロキシカルボン酸エステルとを80?130℃、0?2MPa(ゲージ圧)で0.5?20時間反応させることを特徴とする四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

A 本願補正発明においては、該ヒドロキシカルボン酸エステルが、「2-ヒドロキシイソ酪酸メチル」(一般式(1)において、R^(1)がメチル基、R^(2)がメチル基、R^(3)がメチル基)であり、対応する四級アンモニウム2-ヒドロキシイソ酪酸塩を製造するのに対し、引用発明においては、該ヒドロキシカルボン酸エステルが、「メチルラクテート」(乳酸メチル;一般式(1)において、R^(1)がメチル基、R^(2)がメチル基、R^(3)が水素原子)であり、対応する四級アンモニウム乳酸塩を製造する点
(以下、「相違点A」という。)

カ 検討
(ア)相違点Aについて
刊行物1に記載された出発原料の「カルボン酸エステル」には、「カルボン酸エステル基を有する総ての化合物」(摘示1b)が含まれ、実施例として記載された「メチルラクテート」のようなヒドロキシカルボン酸エステルも当然包含される。
そして、本願補正発明で目的とする2-ヒドロキシイソ酪酸のテトラメチルアンモニウム塩は、例えば、原査定において通知した「特開平9-127700号公報」(段落【0102】参照)にも記載されているように、周知ないし公知の化合物であり、その原料である2-ヒドロキシイソ酪酸メチルも周知のカルボン酸エステル(例えば、「特開昭63-188648号公報」の特許請求の範囲第1項における一般式(1)参照)であることを考慮すれば、上記「メチルラクテート」と構造が酷似したヒドロキシカルボン酸エステルであり、ただR^(3)が水素原子であるかメチル基であるかのみが異なる「2-ヒドロキシイソ酪酸メチル」を、引用発明の反応式(b)で表される反応における出発原料として採用し、周知ないし公知の化合物である「2-ヒドロキシイソ酪酸のテトラメチルアンモニウム塩」を製造する程度のことは、当業者が適宜なし得ることに過ぎない。
したがって、引用発明において、「メチルラクテート」を、「2-ヒドロキシイソ酪酸メチル」とし、対応する四級アンモニウム2-ヒドロキシイソ酪酸塩を製造することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、本件補正後の明細書(段落【0097】)の記載からみて、
「ヒドロキシカルボン酸エステルを四級化剤として用いる本発明の方法によれば、溶媒を用いることなく、三級アミンの四級化を容易に行うことができ、高純度の四級アンモニウム塩を工業的に有利に製造できる」ことであると認められる。
しかし、引用発明もヒドロキシカルボン酸エステルである「メチルラクテート」を四級化剤として用いる方法であり、本願補正発明が、ヒドロキシカルボン酸エステルを四級化剤として用いる点において格別の意義があるとはいえない。
請求人は、本件補正後の明細書における、四級化剤として酢酸メチルを用いた場合の収率3.2モル%との比較(段落【0081】の比較例2)により、本願補正発明の効果の顕著性を主張している。しかし、刊行物1の摘示1gには、「メチルアセテート」(酢酸メチル)を用いた実施例No.21においては、対応する「4級アンモニウム・カルボン酸塩」の収率が0.1g、すなわち、収率約3%であることが記載されているように、酢酸メチルを用いた場合に収率が低いことは既に刊行物1においても示されているところであり、他方、ヒドロキシカルボン酸エステルである「メチルラクテート」を用いた実施例No.26においては、対応する「4級アンモニウム・カルボン酸塩」の収率が3.2g、すなわち、収率約80%であり、酢酸メチルの上記結果よりも著しく高い収率であることが示されているから、本願補正発明によるヒドロキシカルボン酸エステルを四級化剤として用いた際の収率及び純度が、当業者の予測するところを超えて格別優れているとはいえない。
さらに、本件補正後の明細書には、ヒドロキシカルボン酸エステルの中でも、特に2-ヒドロキシイソ酪酸メチルを採用したことにより、格別優れた効果を奏したと認められる記載もない。
なお、平成20年7月18日付けの意見書には、メチルラクテートと2-ヒドロキシイソ酪酸メチルとを比較した「実験成績証明」が示されているが、反応温度が本願補正発明の範囲外での実験であるので、採用することはできない。
また、本願補正発明は、「無溶媒」との特定がされた発明ではないので(請求項2において初めて特定)、「溶媒を用いることなく」という効果は、本願補正発明全体にわたっての効果であるとはいえないうえ、刊行物1には、「無溶媒で反応を行う方が好ましい」(摘示1f)と記載されているように、引用発明も溶媒を用いることなく行う方法であるから、「溶媒を用いることなく」という効果は、当業者の予測を超えるものとはいえない。
したがって、本願補正発明が、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するとはいえない。

(ウ)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(エ)審判請求人の主張
請求人は、平成23年1月6日付けの回答書において、
「審査官殿の前置報告書の内容・・・請求項1、9についての補正は限定的減縮を目的としていると認めた上で、請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができないとし、よってこの補正は却下されるべきものであるとし、原査定の理由により拒絶されるべきと認定されました。
審査官殿の上記ご認定は概ね承服いたします。しかしながら、審査官殿は補正後の請求項9に係る発明に対しては拒絶理由を示していません。よって、請求項1?8を削除する補正を行えば、本願発明は特許査定が得られるべきものであると思料いたします。
現時点では補正ができませんので、是非とも請求項1?8を削除する補正の機会を賜りたく、拒絶理由の通知をお願いしたいと思います。」と主張する。
しかしながら、請求人が補正をすることができるのは、審判請求の日から所定の期間内の補正をする場合を除いては、審判合議体において、拒絶査定と異なる理由で拒絶すべき旨の審決をしようとする場合に限られ、「審尋」に対しては、請求人は回答書により意見を述べることはできるが、補正の機会が与えられるものではないので、上記主張は採用できない(知財高裁平成22年(行ケ)第10190号判決参照)。
したがって、上記回答書の主張は、上記(ウ)の判断を左右するものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
よって、上記補正は平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるので、その余の点を検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年10月27日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1?22に係る発明は、平成20年7月18日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「下記式(2):
【化1】

(式中、R^(4)、R^(5)及びR^(6)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表し、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の2個は結合して、窒素原子と共に脂肪族環又は芳香族環を形成してもよいし、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の1個は残りの2個と結合して、窒素原子と共に二環構造を形成してもよい)
で表される三級アミンと一般式(1):
【化2】

(式中、R^(1)はアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表し、R^(2)及びR^(3)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表す)
で表されるヒドロキシカルボン酸エステルを反応させて下記式(3):
【化3】

(式中、R^(1)?R^(6)は前記と同様)
で表される四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩を得る工程を含み、該ヒドロキシカルボン酸エステルが2-ヒドロキシイソ酪酸メチルであることを特徴とする四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩の製造方法。」

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定は、「この出願については、平成20年 5月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由2は、
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明・・・に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
理由1、2:請求項1、3?7、9?11:引用文献1
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特公昭48-042603号公報」というものである(該引用文献1を、上記と同様に「刊行物1」という。)。

3 刊行物の記載事項及び刊行物1に記載された発明
刊行物1の記載事項は、上記第2の2(2)ウに記載したとおりであり、刊行物1に記載された発明は、上記第2の2(2)エに記載したとおり(以下、同様に「引用発明」という。)である。

4 対比・検討
本願発明は、本願補正発明において、モル比、反応温度、反応圧力及び反応時間の特定がないものであるが、これらの特定は、本願補正発明と引用発明との対比においても相違点とはならなかったものであるから、本願発明と引用発明を対比すると、上記第2の2(2)オと同様の理由により、両者は、
「下記式(2):
【化1】

(式中、R^(4)、R^(5)及びR^(6)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表し、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の2個は結合して、窒素原子と共に脂肪族環又は芳香族環を形成してもよいし、R^(4)、R^(5)及びR^(6)の任意の1個は残りの2個と結合して、窒素原子と共に二環構造を形成してもよい)
で表される三級アミンと一般式(1):
【化2】

(式中、R^(1)はアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表し、R^(2)及びR^(3)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、またはアリール基を表す)
で表されるヒドロキシカルボン酸エステルを反応させて下記式(3):
【化3】

(式中、R^(1)?R^(6)は前記と同様)
で表される四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩を得る工程を含む四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

A’ 本願発明においては、該ヒドロキシカルボン酸エステルが、「2-ヒドロキシイソ酪酸メチル」(一般式(1)において、R^(1)がメチル基、R^(2)がメチル基、R^(3)がメチル基)であり、対応する四級アンモニウム2-ヒドロキシイソ酪酸塩を製造するのに対し、引用発明においては、該ヒドロキシカルボン酸エステルが、「メチルラクテート」(乳酸メチル;一般式(1)において、R^(1)がメチル基、R^(2)がメチル基、R^(3)が水素原子)であり、対応する四級アンモニウム乳酸塩を製造する点
(以下、「相違点A’」という。)
そして、相違点A’については、上記第2の2(2)カ(ア)において相違点Aについて述べたのと同様の理由により、当業者が容易に想到し得ることであり、本願発明の効果についても、上記第2の2(2)カ(イ)と同様の理由により、本願発明が、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するとはいえない。
そうすると、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の点を検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-22 
結審通知日 2011-07-26 
審決日 2011-08-16 
出願番号 特願2002-115903(P2002-115903)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07C)
P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松澤 優子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 松本 直子
木村 敏康
発明の名称 四級アンモニウムヒドロキシカルボン酸塩及び四級アンモニウム無機酸塩の製造方法  
代理人 永井 隆  

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