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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1244043
審判番号 不服2008-29772  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-21 
確定日 2011-09-29 
事件の表示 特願2004-286255「デジタル放送チャンネルスキャン装置およびデジタル放送チャンネルスキャン方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月13日出願公開、特開2006-101304〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年9月30日の出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成20年4月25日(起案日)
手続補正 :平成20年6月30日
拒絶理由通知(最後) :平成20年7月18日(起案日)
手続補正 :平成20年9月19日
拒絶査定 :平成20年10月20日(起案日)
審判請求 :平成20年11月21日
手続補正 :平成20年12月18日
拒絶理由(当審) :平成23年1月24日(起案日)
手続補正 :平成23年3月28日

第2 本願発明
本願の請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年3月28日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項3】
周波数情報取得装置が、キャリアの周波数とそのキャリア強度を示す情報とを含むキャリアマップを取得し、前記キャリアマップを参照して、キャリア強度が一定値以上のキャリアの周波数をチャンネルスキャン対象周波数範囲として選択するステップと、
放送波チューナが、選局指示に応じて、選局周波数の電波を検波し、検波の結果、キャリア(放送波)が存在する場合、キャリアの存在を知らせる放送局情報を送信するステップと、
前記チャンネルスキャン装置が、前記チャンネルスキャン対象周波数範囲に含まれる周波数を前記選局周波数とし、前記選局周波数を含む前記選局指示を送信するステップと、
前記放送波チューナから受信した複数の周波数を示す情報を含む前記放送局情報を前記チャンネルデータベースに格納するステップとを具備し、
前記放送局情報は、複数の周波数を示す情報を含む、
デジタル放送チャンネルスキャン方法。

なお、上記本願発明の「前記チャンネルスキャン装置が、・・・」および「前記チャンネルデータベースに・・・」の、「前記」に相当する構成はないから、これらに付加された「前記」は誤記であり、意味のないものとして判断する。

第3 刊行物の記載事項
当審における拒絶の理由の通知において引用された特開2002-218335号公報(平成14年8月2日出願公開。以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、デジタルTV放送、デジタル音声放送を受信するデジタル放送受信機に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のテレビ放送受信機では、受信機への受信可能チャンネル番号、サービス情報等のチャンネル情報の登録は、1つのチャンネル毎にチャンネルスキャン(サーチ)を実行することにより行なわれている。従来においては、チャンネル情報を取得するためのサーチは、チューナの受信可能なチャンネル範囲内で順番に、実際に放送の行なわれていないチャンネルをも含めた全てのチャンネルに対して実行される。
【0003】ところで、サービス情報を取得するためには、復調/FEC回路がロックするまで待つ必要がある。ところが、実際に放送の行なわれていないチャンネルに対してサーチを行なった場合には、復調/FEC回路はロックしない。そこで、従来は、所定時間、復調/FEC回路がロックするか否かを判定し、ロックしなければ、次のチャンネルのサーチに移行させている。このように従来においては、実際に放送の行なわれていないチャンネルに対しても復調/FEC回路がロックするか否かを判定しているため、チャンネル情報の登録作業に非常に時間がかるという問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、チャンネル情報の登録作業時間の短縮化が図れるデジタル放送受信機を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】この発明によるデジタル放送受信機におけるチャンネル情報登録処理方法は、予め設定された各チャンネルに対して順次選局を行なって、各チャンネルの受信信号に一定以上の品質があるか否かを調べ、受信信号が一定以上の品質があるチャンネル番号を受信可能チャンネル候補として記憶装置に仮登録する予備スキャン処理を行なう第1ステップ、および第1ステップにおいて記憶装置に仮登録された各受信可能チャンネル候補に対して順次選局を行なって、必要なチャンネル情報を取得して登録する本スキャン処理を行なう第2ステップを備えていることを特徴とする。

【0012】図1において、1は受信アンテナである。2は、アンテナ1からのRF信号を選局し中間周波信号(IF信号)に変換するチューナである。
【0013】3は、チューナ2の初段増幅器である。4は、外部からの制御電圧でゲイン可変可能なAGCアンプである。5は、電圧制御発振器6で発生するローカル周波数信号と受信RF信号との差周波数であるIF信号に受信RF信号を変換するダウンコンバータである。7は、CPU21からの選局データによって電圧制御発振器6の出力信号の周波数を所望の一定周波数に制御するPLL回路である。8は、CPU21からの制御データによってAGCアンプ4のゲイン制御電圧を生成するD/Aコンバータである。
【0014】9、11および17は、中間周波増幅器である。10は、周波数変換後の信号(中間周波増幅器9の出力信号)からIF信号を取り出すバンドパスフィルタである。12は、中間周波増幅器11から出力されるIF信号をデジタルデータに変換するA/Dコンバータである。13は、A/Dコンバータ12によってデジタルデータに変換された受信信号を復調するとともにエラー訂正を行なう復調/FEC回路である。14は、復調/FEC回路13によって復調されたMPEGフォーマットのトランスポートストリームをベースバンド信号に変換するMPEGデコーダである。
【0015】復調/FEC回路13は、デジタル放送波を正常に受信している場合には、ロック信号(d)を出力する。また、復調/FEC回路13は、アナログ変調波の水平同期信号を抽出できたか否かに基づいて、受信している放送波がアナログ放送波であるか否かを判定する機能を備えている。復調/FEC回路13は、アナログ放送波を正常に受信している場合には、アナログ放送波フラグ(c)を出力する。
【0016】15は、ベースバンド映像信号出力端子である。16はベースバンド音声信号出力端子である。18は、中間周波増幅器17から出力されるIF信号の検波を行なう検波回路である。19は、選局されているチャンネルが受信可能か否かを判定するために、検波回路18によって得られた検波後のIF信号レベルと基準電圧とを比較するコンパレータである。20は、CPU21からのデータを電圧に変換することによって、コンパレータ19の基準電圧を生成するD/Aコンバータである。
【0017】21は、CPUである。22はメモリである。23は、視聴者が操作を行なう操作部である。24は、リモコン(図示略)からの信号を受信し、操作部23に指令を送るリモコン受信部である。25は、各物理チャンネルに多重されているサービス情報を復調するためのSIデコーダである。

【0024】図7は、チャンネルスキャンモードが選択された際にCPU21によって実行されるチャンネル情報登録処理手順を示している。
【0025】チャンネル情報登録処理は、予備スキャン処理と、本スキャン処理とからなる。まず、予備スキャン処理について説明する。
【0026】チャンネルスキャンモードが選択されると、CPU21はAGCアンプ4のゲインが最大となるようにD/Aコンバータ8にデータを送る(ステップ1)。また、CPU21は、受信チャンネルが受信可能か否かを判定するための基準電圧をコンパレータ19に与えるために、D/Aコンバータ20にデータを送る(ステップ2)。
【0027】また、CPU21は、選局チャンネルの初期値を設定する(ステップ3)。この初期値としては、チャンネル範囲の最小値、国内UHFの場合にはチャンネル13が初期値として設定される。そして、設定されたチャンネル番号の選局を行なうために、PLL7に対して選局データを送る(ステップ4)。
【0028】アンテナ1で受けた電波は、チューナ2内の初段増幅器3によって増幅され、さらにCPU21の指示によってゲインが最大値に設定されたAGCアンプ4で増幅された後、ダウンコンバータ5に送られる。電圧制御発振器6で発生するローカル信号もダウンコンバータ5に送られる。
【0029】ダウンコンバータ5の出力信号は、増幅器9を介してバンドバスフィルタ10に送られる。バンドパスフィルタ10からは、所望の受信チャンネルのIF信号が出力される。このIF信号は、増幅器17で増幅された後、検波回路18を介してコンパレータ19に送られる。コンパレータ19では、選局されているチャンネルが受信可能か否かを判定するために、検波回路18の出力電圧と、D/Aコンバータ20から出力されている基準電圧とが比較される。
【0030】検波回路18の出力電圧が基準電圧より大きいときには、コンパレータ19からは選局されているチャンネルが受信可能であることを示すHレベルの信号が出力され、検波回路18の出力電圧が基準電圧以下のときには、コンパレータ19からは選局されているチャンネルが受信不可能であることを示すLレベルの信号が出力される。CPU21は、コンパレータ19の出力に基づいて、選局されているチャンネルが受信可能であるか否かを判定する(ステップ5)。
【0031】CPU21は、選局されているチャンネルが受信可能であると判定した場合には、当該チャンネル番号を受信可能チャンネル候補としてメモリ22に書き込んだ後(ステップ6)、選局チャンネル番号を次のチャンネル番号に更新する(ステップ7)。一方、CPU21は、選局されているチャンネルが受信不可能であると判定した場合には、当該チャンネル番号を受信可能チャンネル候補としてメモリ22に書き込むことなく、選局チャンネル番号を次のチャンネル番号に更新する(ステップ7)。
【0032】CPU21は、ステップ7で更新されたチャンネル番号が上限値(この例では62チャンネル)を越えたか否かを判定し(ステップ8)、上限値を越えていなければステップ4に戻って、同様な処理を行なう。ステップ7で更新されたチャンネル番号が上限値を越えている場合には、予備スキャン処理を終了し、本スキャン処理に移行する。
【0033】ところで、一定以上の信号品質でデジタル放送波を受信すると、復調/FEC回路13から、復調可能であることを示すロック信号(図1の信号(d))が出力されるが、予備スキャン処理においては、ロック信号を調べることなく、選局されているチャンネルが受信可能か否かを判定している。予備スキャン処理においては、コンパレータ19からは、図4に示すような波形が得られる。
【0034】次に、本スキャン処理について説明する。
【0035】本スキャン処理においては、CPU21は、AGCアンプ4のゲインの固定を解除する(ステップ9)。これにより、AGCアンプ4のゲインは、通常受信時と同様に、受信信号レベルに合わせて最適ゲインに制御される。
【0036】CPU21は、予備スキャン処理によってメモリ22に格納された受信可能チャンネル候補のチャンネル番号のうちから、1つのチャンネル番号を読み出す(ステップ10)。図3及び図4の例では、チャンネル13、15、17、18、…、57、59、60、62が受信可能チャンネル候補としてメモリ22に格納されているので、まず、チャンネル13が読み出される。
【0037】そして、CPU21は、メモリ22から読み出されたチャンネル番号を選局するために、PLL7にデータを送る(ステップ11)。選局が行なわれると、チューナ2からは選局されたチャンネルに対応するIF信号が出力され、A/D変換器12によってデジタルデータに変換された後、復調/FEC回路13に送られて、復調及びエラー訂正が行なわれる。
【0038】上述したように、デジタル放送波の受信が正常に行なわれると、復調/FEC回路13からはロック信号(d)が出力される。また、アナログ放送波の受信が正常に行なわれると、復調/FEC回路13からはアナログ放送波フラグ(c)が出力される。
【0039】CPU21は、復調/FEC回路13からロック信号(d)が出力されたか否か(ステップ12)、復調/FEC回路13からアナログ放送波フラグ(c)が出力されたか否か(ステップ13)、ステップ11による選局が行なわれてから所定時間が経過したか否か(ステップ14)を判定する。
【0040】CPU21は、復調/FEC回路13からのロック信号(d)を受信した場合には(ステップ12でYES)、SIデコーダ25によって復調データからサービス情報をデコードさせ(ステップ15)、デコードされたサービス情報を選局されているチャンネルに対するサービス情報としてメモリ22に登録する(ステップ16)。そして、ステップ18に移行する。
【0041】CPU21は、復調/FEC回路13からのアナログ放送波フラグ(c)を受信した場合には(ステップ13でYES)、選局されているチャンネルがアナログ放送のチャンネルであることをメモリ22に登録する(ステップ17)。そして、ステップ18に移行する。
【0042】また、CPU21は、復調/FEC回路13からロック信号(d)およびアナログ放送波フラグ(c)のいずれも受信することなく、ステップ11による選局が行なわれてから所定時間が経過した場合には、ステップ18に移行する。
【0043】ステップ18では、メモリ22内の受信可能チャンネル候補の全てに対してステップ10以降の処理を行なったか否かを判定する。メモリ22内の受信可能チャンネル候補の全てに対してステップ10以降の処理を行なっていない場合には、チャンネル番号を次の受信可能チャンネル候補のチャンネル番号に更新した後(ステップ19)、ステップ10に戻る。
【0044】メモリ22内の受信可能チャンネル候補の全てに対してステップ10以降の処理を行なっている場合には、予備スキャン処理においてメモリ22に格納された受信可能チャンネル候補のチャンネル番号を消去した後(ステップ20)、本スキャン処理を終了する。

第4 刊行物に記載された発明
以上の記載によれば、刊行物1には次の発明が記載されている。

a.デジタル放送受信機におけるチャンネル登録処理方法
刊行物1の【0001】?【0005】の記載によれば、刊行物1に開示された発明は、デジタル放送受信機に関するものであって、受信機への受信可能チャンネル番号、サービス情報等のチャンネル情報の登録をするとき、チャンネルスキャン(サーチ)を行うが、上記登録時間を短縮するため、予備スキャン処理を行う第1ステップと、本スキャン処理を行う第2ステップを備えたデジタル放送受信機におけるチャンネル登録処理方法である。

b.予備スキャン
刊行物1の【0028】?【0032】の記載によれば、「アンテナ1で受けた電波は、チューナ2内の初段増幅器3によって増幅され、・・・ダウンコンバータ5に送られ・・・ダウンコンバータ5の出力信号は、増幅器9を介してバンドバスフィルタ10に送られ・・・所望の受信チャンネルのIF信号が出力され・・・検波回路18を介してコンパレータ19に送られる。コンパレータ19では、選局されているチャンネルが受信可能か否かを判定するために、検波回路18の出力電圧と、D/Aコンバータ20から出力されている基準電圧とが比較され・・・検波回路18の出力電圧が基準電圧より大きいときには、コンパレータ19からは選局されているチャンネルが受信可能であることを示すHレベルの信号が出力され、検波回路18の出力電圧が基準電圧以下のときには、コンパレータ19からは選局されているチャンネルが受信不可能であることを示すLレベルの信号が出力される。CPU21は、コンパレータ19の出力に基づいて、選局されているチャンネルが受信可能であるか否かを判定する・・・CPU21は、選局されているチャンネルが受信可能であると判定した場合には、当該チャンネル番号を受信可能チャンネル候補としてメモリ22に書き込んだ後(ステップ6)、選局チャンネル番号を次のチャンネル番号に更新する(ステップ7)。一方、CPU21は、選局されているチャンネルが受信不可能であると判定した場合には、当該チャンネル番号を受信可能チャンネル候補としてメモリ22に書き込むことなく、選局チャンネル番号を次のチャンネル番号に更新する・・・CPU21は、ステップ7で更新されたチャンネル番号が上限値(この例では62チャンネル)を越えたか否かを判定し(ステップ8)、上限値を越えていなければステップ4に戻って、同様な処理を行なう。ステップ7で更新されたチャンネル番号が上限値を越えている場合には、予備スキャン処理を終了し、本スキャン処理に移行する。」とあるから、予備スキャンとして、選局されている受信チャンネルのIF信号が基準電圧より大きいか判定し、大きいときは、受信可能であると判定し当該チャンネルの番号を受信可能チャンネル候補としてメモリに書き込む構成を有しているということができる。

c.本スキャン処理におけるチャンネル番号の選局
刊行物1の【0036】、【0037】の記載によれば、「CPU21は、予備スキャン処理によってメモリ22に格納された受信可能チャンネル候補のチャンネル番号のうちから、1つのチャンネル番号を読み出す(ステップ10)。図3及び図4の例では、チャンネル13、15、17、18、…、57、59、60、62が受信可能チャンネル候補としてメモリ22に格納されているので、まず、チャンネル13が読み出される。そして、CPU21は、メモリ22から読み出されたチャンネル番号を選局するために、PLL7にデータを送る(ステップ11)。」とあるから、CPUは、「予備スキャン処理によってメモリ22に格納された受信可能チャンネル候補のチャンネル番号のうちから、1つのチャンネル番号を読み出し、読み出したチャンネル番号を選局するために、PLL7にデータを送る」処理を行っている。

d.本スキャン処理におけるチューナの動作
刊行物1の【0037】?【0040】の記載によれば、「CPU21は、メモリ22から読み出されたチャンネル番号を選局するために、PLL7にデータを送る(ステップ11)。選局が行なわれると、チューナ2からは選局されたチャンネルに対応するIF信号が出力され、A/D変換器12によってデジタルデータに変換された後、復調/FEC回路13に送られて、復調及びエラー訂正が行なわれ・・・、デジタル放送波の受信が正常に行なわれると、復調/FEC回路13からはロック信号(d)が出力される。・・・CPU21は、復調/FEC回路13からロック信号(d)が出力されたか否か(ステップ12)、・・・を判定する。・・・CPU21は、復調/FEC回路13からのロック信号(d)を受信した場合には(ステップ12でYES)、SIデコーダ25によって復調データからサービス情報をデコードさせ(ステップ15)、デコードされたサービス情報を選局されているチャンネルに対するサービス情報としてメモリ22に登録する(ステップ16)。」とあるから、チューナはCPUから送られたデータから選局を行い、デジタル放送波の受信が正常に行われると、復調/FEC回路からロック信号を出力し、ロック信号が出力されると、SIデコーダからサービス情報を(メモリに登録するため)出力する構成であることが理解できる。

e.メモリに登録
刊行物1の【0040】の記載によれば、「CPU21は、復調/FEC回路13からのロック信号(d)を受信した場合には(ステップ12でYES)、SIデコーダ25によって復調データからサービス情報をデコードさせ(ステップ15)、デコードされたサービス情報を選局されているチャンネルに対するサービス情報としてメモリ22に登録する(ステップ16)。」とあるから、選局されているチャンネルに対するサービス情報をメモリに登録する構成であることが理解できる。

f.まとめ
以上まとめると、刊行物1に記載された発明(以下「刊行物1発明」という)として、以下のとおりのものを認定することができる。

デジタル放送受信機に関するものであって、受信機への受信可能チャンネル番号、サービス情報等のチャンネル情報の登録をするとき、チャンネルスキャン(サーチ)を行うが、上記登録時間を短縮するため、予備スキャン処理を行う第1ステップと、本スキャン処理を行う第2ステップを備えたデジタル放送受信機におけるチャンネル登録処理方法であって、
予備スキャンとして、
選局されている受信チャンネルのIF信号が基準電圧より大きいか判定し、大きいときは、受信可能であると判定し当該チャンネルの番号を受信可能チャンネル候補としてメモリに書き込む構成、
本スキャンとして、
CPUは、予備スキャン処理によってメモリ22に格納された受信可能チャンネル候補のチャンネル番号のうちから、1つのチャンネル番号を読み出し、読み出したチャンネル番号を選局するために、PLL7にデータを送り、
チューナはCPUから送られたデータから選局を行い、デジタル放送波の受信が正常に行われると、復調/FEC回路からロック信号を出力し、ロック信号が出力されると、SIデコーダからサービス情報を(メモリに登録するため)出力し、
選局されているチャンネルに対するサービス情報をメモリに登録する構成、
を有する方法。

第5 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

a.「周波数情報取得装置が、キャリアの周波数とそのキャリア強度を示す情報とを含むキャリアマップを取得し、前記キャリアマップを参照して、キャリア強度が一定値以上のキャリアの周波数をチャンネルスキャン対象周波数範囲として選択するステップ」について
刊行物1発明は「予備スキャンとして、選局されている受信チャンネルのIF信号が基準電圧より大きいか判定し、大きいときは、受信可能であると判定し当該チャンネルの番号を受信可能チャンネル候補としてメモリに書き込む構成」を有している。
本願発明の「キャリア」とは、請求項3の記載に「キャリア(放送波)」とあることからみて、(ある周波数を用いて)放送局が送信する放送波のことをいうものと認めることができる。
そして、本願発明の「キャリア強度が一定値以上のキャリアの周波数」とは、(受信機において受信した放送波)信号の強度が一定値以上の放送波の周波数ということができる。
これに対して、刊行物1発明の「選局されている受信チャンネルのIF信号」とは、選局されている受信チャンネルの放送波信号であるということができるから、選局されている放送波信号ということができ、「選局されている受信チャンネルのIF信号が基準電圧より大きいか判定し、大きいとき」とは、「選局されている放送波信号(の強度)が基準電圧より大きい(一定値以上)のとき」ということができる。
そして、「大きいときは、受信可能であると判定し当該チャンネルの番号を受信可能チャンネル候補としてメモリに書き込む」のであるから、「選局されている放送波信号の強度が一定値以上のとき、当該(放送波信号の強度が一定値以上の)チャンネルの番号を受信可能チャンネル候補として選択してメモリに書き込む」ということができる。
そして、以下(b.、c.)で検討するとおり、刊行物1発明は、受信可能チャンネル候補として選択されたチャンネルについてのみ本スキャンを行っているから、「受信可能チャンネル候補」はチャンネルスキャン(本スキャン)対象チャンネルということができる。
以上のことから、刊行物1発明は「放送波信号(すなわち、キャリア)の強度が一定値以上のチャンネルの番号をチャンネルスキャン対象チャンネルとして(メモリに書き込むために)選択」しているのであるから、当該選択(する)ステップを有しているということができる。
本願発明および刊行物1発明はともにテレビ放送受信機に係る発明であるが、当該テレビ放送受信機の技術分野において、チャンネルとは、ある放送局に割り当てられた周波数の帯域であって、放送局は上記割り当てられた周波数の帯域にて放送波を送信している、その割り当てられた周波数の帯域(例えば、1チャンネルは90?96MHzが(ある放送局に)割り当てらており、(ある放送局は)当該割り当てられた周波数帯域で放送波を送信し、2チャンネルは96?102MHzが(他の放送局に)割り当てられており、(他の放送局は)その割り当てられ周波数帯域で放送波を送信する)であることは、技術常識であるから、チャンネルとは、(ある放送局に割り当てられ、当該放送局が送信する)放送波の周波数(帯域)ということができるから、刊行物1発明において、「チャンネルの番号を選択する」ことは、すなわち、上記放送局に割り当てられた放送波の周波数帯域(範囲)を選択することに等しいことは技術常識である。(例えば、1チャンネルを選択すれば90?96MHzを選択したことと、2チャンネルを選択すれば96?102MHzを選択したことと等しい。)
したがって、刊行物1発明は「放送波信号(すなわち、キャリア)の強度が一定値以上の放送波(キャリア)の周波数(帯域)をチャンネルスキャン対象周波数範囲として(メモリに書き込むために)選択」(する)ステップを有しているということができる。

次に、本願発明の「キャリアマップ」について検討する。
本願発明の「キャリアマップ」とは何か発明の詳細な説明を参酌すると以下のとおりの記載がある。
「(3)キャリアマップ(強度含む)
キャリアマップとは、チャンネルスキャン対象周波数範囲に、キャリア(放送波)が存在するか否か、存在する場合その強度を示した情報である。強度とは、CN比などを指す。キャリアマップのイメージとしては、例えば横軸に周波数、縦軸にCN比などを示した表がある。」(【0052】)
「キャリアマップでは、チューナ24により当該位置におけるキャリアの周波数とそのキャリア強度(CN比等)が取得される。」(【0071】)

すなわち、チューナにより取得された、当該位置における(例えば横軸周波数・縦軸CN比のような)周波数と強度の関係を表したものであると認めることができる。
してみると、本願発明の「周波数情報取得装置が、キャリアの周波数とそのキャリア強度を示す情報とを含むキャリアマップを取得し、前記キャリアマップを参照して、キャリア強度が一定値以上のキャリアの周波数をチャンネルスキャン対象周波数範囲として選択する」とは、「チューナにより取得された、当該位置における(例えば横軸周波数・縦軸CN比のような)周波数と強度の関係を表したもの」を取得し、参照して、「(キャリア)強度が一定値以上の(キャリアの)周波数を選択する」ことをいうものと認めることができる。
これに対して、刊行物1発明は、「予備スキャンとして、選局されている受信チャンネルのIF信号が基準電圧より大きいか判定し、大きいときは、受信可能であると判定し当該チャンネルの番号を受信可能チャンネル候補としてメモリに書き込む構成」を有しており、上記予備スキャンは、発明の詳細な説明(【0027】-【0032】)によれば、初期値(国内UHFの場合13チャンネル)から上限値(62チャンネル)まで、上記選局・判定・書き込みを行うものである。
先に検討したとおり、刊行物1発明のチャンネルは周波数の帯域のことをいうから、上記予備スキャンは、下限の周波数から上限の周波数まで、周波数と強度の関係を求めているということができ、そのうちの、所定値以上の強度のチャンネル(すなわち、周波数帯域)を選択しているものということができる。
以上のことからみて、本願発明は、(対象周波数の)下限の周波数から上限の周波数まで、周波数と強度の関係を一度キャリアマップという形であらわしたものを取得し、それを参照して強度が一定値以上の周波数を選択しているのに対し、刊行物1発明は、(対象周波数の)下限の周波数から上限の周波数まで、周波数と強度の関係をチャンネル(周波数帯域)が変わるごとに求め、さらに、その強度が一定値以上のもののみを選択しているということができる。
すなわち、本願発明は、周波数の下限から上限までの周波数と強度との関係を、一度キャリアマップとして取得するのに対し、刊行物1発明は、そのようなマップは取得していない点で相違しているということができ、刊行物1発明は「キャリアの周波数とそのキャリア強度を示す情報とを含むキャリアマップを取得し、前記キャリアマップを参照して」の構成を有していない。
本願発明の「周波数情報取得装置」は「チャンネルスキャン対象周波数範囲」という「周波数情報」を取得するものであり、刊行物1発明も「チャンネルスキャン対象周波数範囲」という「周波数情報」を取得しているから、両者はこの点でも一致する。
以上まとめると、刊行物1発明は「周波数情報取得装置が、キャリア強度が一定値以上のキャリアの周波数をチャンネルスキャン対象周波数範囲として選択するステップ」を有する点で本願発明と一致する。
もっとも、刊行物1発明は「キャリアの周波数とそのキャリア強度を示す情報とを含むキャリアマップを取得し、前記キャリアマップを参照して」の構成を有さない点で、本願発明と相違する。

b.「放送波チューナが、選局指示に応じて、選局周波数の電波を検波し、検波の結果、キャリア(放送波)が存在する場合、キャリアの存在を知らせる放送局情報を送信するステップ」について
刊行物1発明は「チューナはCPUから送られたデータから選局を行い、デジタル放送波の受信が正常に行われると、復調/FEC回路からロック信号を出力し、ロック信号が出力されると、SIデコーダからサービス情報を(メモリに登録するため)出力し(する構成)」を有している。
刊行物1発明の「チューナ」はデジタル放送を受信しているから、放送波チューナである。
そして、刊行物1発明のチューナは「CPUから送られたデータから選局を行」っているから、(CPUの)選局指示に応じて選局しているということができる。
刊行物1発明の「デジタル放送波の受信が正常に行われる」とは、チューナが(あるチャンネルを選局し)受信を行ったとき、(選局したチャンネルで)放送波を受信することができたときであることは明らかであるから、(選局したチャンネルで)放送波が存在する場合ということができる。
そして刊行物1発明は、「デジタル放送波の受信が正常に行われると、SIデコーダからサービス情報を(メモリに登録するため)出力」しているから、「(選局したチャンネルで)放送波が存在する場合、SIデコーダからサービス情報を(メモリに登録するため)出力」するということができる。
これに対して、本願発明の「選局指示に応じて、選局周波数の電波を検波し、検波の結果、キャリア(放送波)が存在する場合」とは、「選局指示に応じて、選局を行って(その結果)キャリア(放送波)が存在する場合」であることは明らかである。
本願発明の「放送局情報」は、発明の詳細な説明を参酌すると「チャンネルスキャン装置40に放送波チューナ10からキャリアの存在を知らせる放送局情報(NIT)を入力すると」(【0075】)の記載があるから、「NIT」も含むということができ、「NIT」は、刊行物1発明の「サービス情報(SI)」の概念に含まれるものであるから、本願発明において、「NITを送信」することは、「サービス情報(SI)を送信」することということができる。
以上まとめると、刊行物1発明は、「放送波チューナが、選局指示に応じて選局を行って、キャリア(放送波)が存在する場合、キャリアの存在を知らせる放送局の情報(SI)を送信するステップ」を有している点で、本願発明と相違がない。
もっとも、本願発明では「選局指示に応じて選局を行って、キャリア(放送波)が存在する場合」、「キャリアの存在を知らせる放送局の情報(SI)を送信」が「選局指示に応じて、選局周波数の電波を検波し、検波の結果、キャリア(放送波)が存在する場合」、「キャリアの存在を知らせる放送局情報(NIT)」である点で相違している。

c.「前記チャンネルスキャン装置が、前記チャンネルスキャン対象周波数範囲に含まれる周波数を前記選局周波数とし、前記選局周波数を含む前記選局指示を送信するステップ」について
刊行物1発明は「CPUは、予備スキャン処理によってメモリ22に格納された受信可能チャンネル候補のチャンネル番号のうちから、1つのチャンネル番号を読み出し、読み出したチャンネル番号を選局するために、PLL7にデータを送り(送る構成)」を有している。
刊行物1発明の「予備スキャン処理によってメモリ22に格納された受信可能チャンネル候補のチャンネル番号」、「1つのチャンネル番号」は、上記a.で検討したとおり「チャンネルスキャン対象周波数範囲」、「1つの周波数範囲」ということができる。
そして、刊行物1発明は当該1つのチャンネル番号を(読み出し)、選局するために、(CPUは)PLL7にデータを送る構成を有しているから、刊行物1発明は「CPUは、チャンネルスキャン対象周波数範囲を、選局するための周波数範囲とし、選局周波数(範囲)を含む選局指示を送信している」ということができるから、当該ステップを有しているといえる。
本願発明の「チャンネルスキャン装置(40)」は、発明の詳細な説明を参酌すると、「チャンネルスキャン装置40は、バスライン41に接続されたCPU42と、ROM43と、RAM44とを備えている。ROM43には、チャンネルスキャンを効率化して実施するためのチャンネルスキャンプログラムおよび放送局情報編集プログラムが保存されている。周波数情報取得装置20で取得される周波数情報はチャンネルスキャン装置40に送信されて、一時的にRAM44に保存される。」(【0072】)、「周波数情報取得装置20により取得された周波数情報は、順次チャンネルスキャン装置40のRAM44に送信されて保存される。周波数情報取得装置20による周波数情報の取り込みが終了してチャンネルスキャンが開始されると、チャンネルスキャン装置40のCPU42により、ROM43に保存されているチャンネルスキャンプログラムが実行され、RAM44に保存された周波数情報に基づいて放送波チューナ10の選局部12に、サーチされるべき周波数範囲を指示する信号が送信される。」(【0075】)と説明されている。
すなわち、「CPU42と、ROM43と、RAM44」を備え、ROM43に記憶されたプログラムに従い、CPU42にてチャンネルスキャンプログラムを実行するものを「チャンネルスキャン装置(40)」と称している。
これに対して、刊行物1発明のCPUは、発明の詳細な説明を参酌すると、他にメモリ22を備え、「チャンネルスキャン対象チャンネルのチャンネル番号を、選局するためのチャンネル番号とし、選局チャンネルを含む選局指示を送信」するプログラム(チャンネルスキャンのためのプログラム)を実行しているということができる。
上記CPUが実行するプログラムは、格別記載はなくともROM等の記憶手段に記憶されていることは普通の構成であるから、刊行物1発明が備えるCPU、メモリ22、(格別記載のない)ROM等は、チャンネルスキャン装置と呼ぶことができる。
以上まとめると、刊行物1発明は「チャンネルスキャン装置が、チャンネルスキャン対象周波数範囲を、選局(するための)周波数範囲とし、選局周波数(範囲)を含む選局指示を送信するステップ」を有しているということができ、本願発明と相違がない。

d.「前記放送波チューナから受信した複数の周波数を示す情報を含む前記放送局情報を前記チャンネルデータベースに格納するステップ」について
刊行物1発明は「選局されているチャンネルに対するサービス情報をメモリに登録する構成」を有している。
刊行物1発明の「選局されている」とは、上記b.で検討した「放送波チューナ」によって、あるチャンネルを選局・受信している状態のことをいうことは明らかであるから、「前記放送波チューナから受信したチャンネル(周波数)」ということができる。
刊行物1発明の「サービス情報をメモリに登録する」動作は、発明の詳細な説明の【0036】ないし【0044】の記載によれば「予備スキャン処理によってメモリ22に格納された受信可能チャンネル候補のチャンネル番号のうちから、1つのチャンネル番号を読み出」し、「ロック信号(d)を受信した場合・・・デコードされたサービス情報を選局されているチャンネルに対するサービス情報としてメモリ22に登録する」ことを「メモリ22内の受信可能チャンネル候補の全てに対してステップ10以降の処理を行な」う構成であるから、1つのチャンネル番号に対して、当該チャンネルに対応するサービス情報を(受信可能チャンネル候補の数だけ、すなわち複数)登録している。
また、上記チャンネルに対するサービス情報を登録するときには、当該選局したチャンネル番号(周波数帯域の情報)を記憶することが普通であるから、1つの周波数を示す情報も登録することは明らかである。
上記チャンネルに対応する情報を(複数)登録し記録しておくメモリ(記憶手段)をチャンネルデータベースと称してもよいことは明らかである。
また、刊行物1発明の「サービス情報」が、本願発明の「放送局情報」を含むものであり、この点で両者が一致することは、上記b.にて検討したとおりである。
以上のことからみて、刊行物1発明は「前記放送波チューナから受信した(1つの)周波数を示す情報を含むサービス情報を(複数)チャンネルデータベースに格納するステップ」を有しているということができる。
もっとも、本願発明は、「(1つの)周波数を示す情報を含むサービス情報」が「複数の周波数を示す情報を含む前記放送局情報」である点で相違する。

e.「前記放送局情報は、複数の周波数を示す情報を含む」について
上記d.にて検討したとおり、刊行物1発明は「1つの周波数を示す情報を含むサービス情報」であるから、「前記サービス情報は、1つの周波数情報を含む」ということができ、「前記放送局情報は、複数の周波数を示す情報を含む」構成を有していない。

f.「デジタル放送チャンネルスキャン方法」について
刊行物1発明は「デジタル放送受信機に関するものであって、受信機への受信可能チャンネル番号、サービス情報等のチャンネル情報の登録をするとき、チャンネルスキャン(サーチ)を行うが、上記登録時間を短縮するため、予備スキャン処理を行う第1ステップと、本スキャン処理を行う第2ステップを備えたデジタル放送受信機におけるチャンネル登録処理方法」に関する発明である。
すなわち、デジタル放送受信機に関するチャンネルスキャン時に予備スキャンと本スキャンを行う方法ということができ、さらにまとめていうと、「デジタル放送チャンネルスキャン方法」に関する発明であるということができる。

g.「放送波チューナが、選局指示に応じて、選局周波数の電波を検波し、検波の結果、キャリア(放送波)が存在する場合、キャリアの存在を知らせる放送局情報を送信するステップ」と「前記チャンネルスキャン装置が、前記チャンネルスキャン対象周波数範囲に含まれる周波数を前記選局周波数とし、前記選局周波数を含む前記選局指示を送信するステップ」の関係について
「方法」の発明にあっては、複数のステップが順に記載されている場合、その記載順に各ステップが動作するのが普通である。
したがって、本願発明において「放送波チューナが、選局指示に応じて、選局周波数の電波を検波し、検波の結果、キャリア(放送波)が存在する場合、キャリアの存在を知らせる放送局情報を送信するステップ」(以下、ステップAという)と「前記チャンネルスキャン装置が、前記チャンネルスキャン対象周波数範囲に含まれる周波数を前記選局周波数とし、前記選局周波数を含む前記選局指示を送信するステップ」(以下、ステップBという)が、順に記載されている場合、ステップAが先に存在し、その後ステップBが存在するというのが普通である。
しかしながら、ステップAにある「選局指示に応じて」の「選局指示」は、ステップBにてなされる「選局指示を送信」の「選局指示」ことであるから、ステップAはステップBにて送信された選局指示に応じて動作するものであることからみて、ステップAとステップBは、まずステップBがあって、その後ステップAがあると解するのが自然である。
この点について、発明の詳細な説明を参酌すると、【0075】に以下のとおり記載されている。
「チャンネルスキャン装置40のCPU42により、ROM43に保存されているチャンネルスキャンプログラムが実行され、RAM44に保存された周波数情報に基づいて放送波チューナ10の選局部12に、サーチされるべき周波数範囲を指示する信号が送信される。放送波チューナ10は、RFアンテナ50により、外部からのデジタル波放送の電波を受信する。選局部12は、RFアンテナ50から入力されるデジタル波放送のRF電波と、チャンネルスキャン装置40により指示されたサーチ周波数帯域の範囲内で発振されるローカル周波数とを位相に関して比較検波する。キャリアがある場合には選局部12において双方の位相がロックし、選局部12から復調部13に向けてキャリアの存在を知らせるロック信号、およびロックした時の周波数を含む当該キャリアの放送局情報(NIT)の信号が送信される。」
すなわち、上記「チャンネルスキャン装置40のCPU42」の動作が「ステップB」に相当し、「放送波チューナ10」の動作(比較検波、放送局情報(NIT)の信号が送信・・等)が「ステップA」に相当することは明らかであり、かつ、まずステップBの動作があり、その後ステップAの動作がある構成である。そして、放送波チューナとチャンネルスキャン装置の処理の前後関係がこれ以外の場合である記載は、発明の詳細な説明にない。
したがって、本願発明は「ステップA」、「ステップB」の順に記載されているが、当該ステップの動作は、まず「ステップB」があって、その後「ステップA」があるものとして判断する。
これに対して、刊行物1発明は、まず「ステップB」に対応する「CPUは、予備スキャン処理によってメモリ22に格納された受信可能チャンネル候補のチャンネル番号のうちから、1つのチャンネル番号を読み出し、読み出したチャンネル番号を選局するために、PLL7にデータを送り(送る構成)」があって、その後
ステップAに対応する「チューナはCPUから送られたデータから選局を行い、デジタル放送波の受信が正常に行われると、復調/FEC回路からロック信号を出力し、ロック信号が出力されると、SIデコーダからサービス情報を(メモリに登録するため)出力し(出力する構成)」があるから、動作する順という点で一致している。

第6 一致点、相違点
本願発明と刊行物1発明との上記対比によれば、本願発明と刊行物1発明とは、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。

《一致点》
周波数情報取得装置が、キャリア強度が一定値以上のキャリアの周波数をチャンネルスキャン対象周波数範囲として選択するステップと、
放送波チューナが、選局指示に応じて選局を行って、キャリア(放送波)が存在する場合、キャリアの存在を知らせる放送局の情報(SI)を送信するステップと、
チャンネルスキャン装置が、前記チャンネルスキャン対象周波数範囲に含まれる周波数を前記選局周波数とし、前記選局周波数を含む前記選局指示を送信するステップと、
前記放送波チューナから受信した周波数を示す情報を含むサービス情報をチャンネルデータベースに格納するステップと、を具備する
デジタル放送チャンネルスキャン方法

《相違点》
相違点1
本願発明は「キャリアの周波数とそのキャリア強度を示す情報とを含むキャリアマップを取得し、前記キャリアマップを参照して」の構成を有しているのに対し、
刊行物1発明は「キャリアの周波数とそのキャリア強度を示す情報とを含むキャリアマップを取得し、前記キャリアマップを参照して」の構成を有さない点。

相違点2
本願発明では「選局指示に応じて選局を行って、キャリア(放送波)が存在する場合」が「選局指示に応じて、選局周波数の電波を検波し、検波の結果、キャリア(放送波)が存在する場合」である点。

相違点3
本願発明では、「キャリアの存在を知らせる放送局の情報(SI)を送信」が「キャリアの存在を知らせる放送局情報(NIT)」である点。

相違点4
本願発明は、「(1つの)周波数を示す情報を含むサービス情報」が「複数の周波数を示す情報を含む前記放送局情報」である点。

相違点5
刊行物1発明は「前記放送局情報は、複数の周波数を示す情報を含む」構成を有していない点。

第7 判断
上記相違点について検討する。

a.相違点1について
上記第5 a.にて検討したとおり、『本願発明は、周波数の下限から上限までの周波数と強度との関係を、一度キャリアマップとして取得するのに対し、刊行物1発明は、そのようなマップは取得していない点で相違しているということができ、刊行物1発明は「キャリアの周波数とそのキャリア強度を示す情報とを含むキャリアマップを取得し、前記キャリアマップを参照して」の構成を有していない。』ということができる。
刊行物1発明は、本願発明と異なり、キャリアマップを取得することはない。しかしながら、周波数の下限から上限までの範囲で、周波数と強度との関係を得ていることは本願発明と変わらない。
また、本願発明は上記周波数と強度との関係からキャリアマップを取得し、刊行物1発明では上記キャリアマップを取得していないものの、結局、上記周波数と強度との関係から、強度が一定値以上の周波数を選択している点で本願発明と刊行物1発明発明との間に相違はない。
そして、周波数の下限から、周波数の上限まで周波数と強度との関係を得て、周波数と強度との関係から、強度が一定値以上の周波数を選択するという処理の結果は、キャリアマップを取得して行っても、取得せずに行っても得ることができる。
さらに、何らかの処理を行い当該処理により生じた処理結果を必要に応じて記憶しておくことは当業者が適宜行っており、刊行物1発明において、周波数の下限から周波数の上限まで、周波数と強度との関係求めたとき、その結果を記憶することは、当業者が適宜なしえたことである。
以上のことからみて、刊行物1発明にて「キャリアマップ」の構成を採用することは当業者が適宜採用し得たことである。

b.相違点2について
本願発明の「放送波チューナが、選局指示に応じて、選局周波数の電波を検波し、検波の結果、キャリア(放送波)が存在する場合」における「検波」について、発明の詳細な説明には、以下のとおりの記載がある。
「選局部12は、指示された周波数帯域の範囲内でローカル周波数を発振し、RFアンテナ50から入力されるデジタル波放送のRF電波とローカル周波数とを位相に関して比較検波し、キャリアがある場合には周波数信号、あるいはキャリアの存在を知らせる信号を送信する。」(【0070】)
「選局部12は、RFアンテナ50から入力されるデジタル波放送のRF電波と、チャンネルスキャン装置40により指示されたサーチ周波数帯域の範囲内で発振されるローカル周波数とを位相に関して比較検波する。キャリアがある場合には選局部12において双方の位相がロックし、選局部12から復調部13に向けてキャリアの存在を知らせるロック信号、およびロックした時の周波数を含む当該キャリアの放送局情報(NIT)の信号が送信される。」(【0075】)
すなわち、本願発明は、検波を行い、(この検波の結果を利用して)選局周波数にキャリアが存在するか否かを判定している、という程度の技術思想しか読み取ることができない。
これに対して、刊行物1発明は「検波」なる表現は用いていないが、選局指示に応じて選局を行って、キャリア(放送波)が存在するか否かを検出している。
そして、選局指示に応じて選局を行って、キャリア(放送波)が存在するか否かを検出する際、「検波を行い、その検波の結果を利用して、キャリアが存在するか否かを検出する」ことは、当該技術分野において普通に行われており、刊行物1発明においても、選局指示に応じて検波を行い、その検波の結果を利用して、キャリアが存在するか否かを検出する構成を採用することは当業者が適宜なし得たことである。

c.相違点3ないし5について
相違点3ないし相違点5は、まとめると、本願発明が放送局の情報として「NIT」を用いているのに対し、刊行物1発明は、放送局の情報として「SI(サービス情報)」を採用している点で相違するという相違点(相違点a)と、本願発明の放送局情報は「複数の周波数を示す情報を含む(前記放送局情報)」であるのに対し、刊行物1発明のサービス情報は「1つの周波数を示す情報を含む(サービス情報)」であるという相違点(相違点b)を含んでいるから、以下それぞれについて検討する。

c-1(相違点aについて)
NITはSIに含まれる一つの情報であることは前記したとおりである。
また、NITには「地上分配システム記述子」が含まれることは、規格(デジタル放送に使用する番組配列情報 標準規格<ARIB STD-B10>、改訂1.3版(平成12年6月20日))に定められた周知の技術事項であって、当該規格には以下のように説明されている。
「地上分配システム記述子は、地上伝送路の物理的条件を示す。」
「地上分配システム記述子の意味:・・・・
frequency(周波数):この16 ビットのフィールドは、中心周波数を示す。周波数単位は地上デジタル放送方式のチューニングステップと同じ1/7MHz とする。MFN の場合は、使用周波数を複数列記する。」
刊行物1発明において、「キャリアの存在を知らせる放送局の情報」、「放送波チューナから受信した1つの周波数を示す情報を含む・・・情報」に、キャリアの周波数(チャンネル)の情報を含む必要があることは当然のことであり、SIに含まれるNITには、上記必要であるキャリアの周波数の情報が含まれていることは、上記規格に定められているように、当業者にとって周知の技術事項であるのであるから、刊行物1発明において、周波数の情報としてNITを採用することは、当業者が適宜採用し得たことである。

c-2(相違点bについて)
本願発明の「複数の周波数を示す情報を含む前記放送局情報」、「前記放送局情報は、複数の周波数を示す情報を含む」の構成は、平成23年3月28日付けの手続補正により新たに付加された構成であり、当該補正の根拠として、請求人は同日付けの意見書にて、【0045】?【0049】、【0071】であると述べている。上記補正の根拠としてあげられた発明の詳細な説明を参酌すると、以下のとおり説明されている。
「(1)NIT
NITとは、変調周波数など伝送路の情報と放送サービスを関連付けるPSI(Program Specific Information)情報であり、ネットワーク全体のサービス構成を示す。NITには以下の情報を含む。」(【0045】)
「(d)周波数:当該TSが放送されている各周波数。単位は(1/7MHz)。」(【0049】)
すなわち、NITの周波数情報には複数の周波数情報が含まれるといった意味であると認めることができる。
ところで、上記c-1にて検討したとおり、規格(デジタル放送に使用する番組配列情報 標準規格<ARIB STD-B10>)では、NITに含まれる「frequency(周波数)」の項には「MFN の場合は、使用周波数を複数列記する。」の記載があり、必要に応じて複数の周波数を記憶することも周知の技術事項であることは明らかである。
したがって、刊行物1発明において、SIに複数の周波数情報を含むようにすることは当業者が容易になし得たことである。

d.〈効果等について〉
以上のように、相違点にかかる構成は当業者が容易に想到できたものである。そして、本願発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものでもない。

e.請求人の主張について
請求人は、平成23年3月28日付け意見書にて
「しかしながら、引用文献には、格納されるチャンネルデータベースにTSが放送されている各周波数の情報まで含んだ放送局情報をチャンネルデータベースに格納する点については、開示も示唆もされておりません。
このように、本願発明と、引用文献に記載の発明とは、構成及び作用効果において相違し、本願発明が引用文献に記載の発明から容易に想到できたものとは考えられません。」と主張しているが、上記で検討したとおり、刊行物1発明のSIにはNIT情報を含むこと、また、そのNIT情報には、必要に応じて複数の周波数情報を含むことが、規格にも規定されているとおり当業者には周知の技術事項であり、「サービス情報をチャンネルデータベースに格納する」刊行物1発明において、複数の周波数を示す情報を含む放送局情報(NIT)を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

第8 むすび
以上、本願の請求項3に係る発明は、刊行物1に記載された発明ならびに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について特に検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-29 
結審通知日 2011-07-05 
審決日 2011-08-15 
出願番号 特願2004-286255(P2004-286255)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 嘉宏  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 梅本 達雄
乾 雅浩
発明の名称 デジタル放送チャンネルスキャン装置およびデジタル放送チャンネルスキャン方法  
代理人 丸山 隆夫  

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