• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1244463
審判番号 不服2008-4503  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-25 
確定日 2011-10-05 
事件の表示 特願2000-593568「アゾイミノエーテル及びアゾカルボン酸エステルの製造方法並びに新規のアゾカルボン酸混合エステル」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月20日国際公開、WO00/42000、平成14年10月15日国内公表、特表2002-534495〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2000年1月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1999年1月15日、フランス国)を国際出願日とする出願であって、平成13年7月10日に特許協力条約第34条補正の翻訳文が提出され(補正書の提出年月日2000年10月20日)、
平成19年4月20日付けで拒絶理由が通知され、同年10月19日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月20日付けで拒絶査定がされ、平成20年2月25日に拒絶査定に対する審判が請求され、同年3月26日に誤訳訂正書が提出され、同年5月22日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成22年9月9日付けで審尋が通知され、平成23年1月21日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?20に係る発明は、平成13年7月10日に提出された特許協力条約第34条補正の翻訳文(補正書の提出年月日2000年10月20日)、平成19年10月19日付け手続補正書及び平成20年3月26日付け誤訳訂正書により補正及び誤訳訂正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】 15?25℃の温度で8?24時間の間、アゾニトリルと、エタノール、より高級のアルコール又はアルコールの混合物から選ばれるアルコール及び塩化水素酸とを芳香族溶剤中において反応させることを含むアゾイミノエーテルヒドロクロリドの製造方法であって、モル比R=HCl/アゾニトリルは4?6である、方法。
【請求項2】 アゾニトリルは対応するヒドラゾニトリルと塩素との反応によりその場で生成される、請求項1記載の方法。
【請求項3】 溶剤はトルエン、クロロベンゼン、キシレン及びベンゼンからなる群より選ばれる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】 溶剤はクロロベンゼンである、請求項2記載の方法。
【請求項5】 アルコールはエタノールである、請求項1?4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】 使用されるアルコールはアルコールの混合物からなる、請求項1?4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】 前記混合物はメタノールを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】 前記混合物はメタノール及びエタノールを含む、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】 アゾイミノエーテルヒドロクロリドは下記式(II)
【化1】


(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一であるか又は異なり、未置換であるか、又は、ヒドロキシル、C_(1)?C_(6)アルコキシ又はハロゲン置換基から選ばれる1個以上の置換基により置換されている、直鎖もしくは枝分かれC_(1)?C_(9)(好ましくはC_(1)?C_(4))アルキル、
未置換であるか、又は、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、ヒドロキシル又はハロゲンから選ばれる1個以上の置換基により置換されている、C_(3)?C_(6)シクロアルキル、
未置換であるか、又は、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、ヒドロキシル又はハロゲンから選ばれる1個以上の置換基により置換されている、C_(7)?C_(12)アラルキル、
未置換であるか、又は、C_(1)?C_(6)アルキル、C_(1)?C_(6)アルコキシ、ヒドロキシル又はハロゲンから選ばれる1個以上の置換基により置換されている、C_(7)?C_(12)アリール、
からなる群より独立に選ばれ、
R1-R2及びR3-R4の組み合わせの少なくとも1つが場合により脂肪族環を形成することができ、
R及びR’は、同一であるか又は異なり、直鎖もしくは枝分かれC_(1)?C_(10)、好ましくはC_(1)?C_(4)脂肪族基からなる群より独立に選ばれる)である、請求項1?8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】 式(II)において、R及びR’は互いに異なり、そして直鎖C_(1)?C_(4)脂肪族基から選ばれる、請求項9記載の製造方法。
【請求項11】 式(II)において、R1、R2、R3及びR4はC_(1)?C_(4)アルキル基である、請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項12】 請求項1?11のいずれか1項記載の方法によりアゾイミノエーテルヒドロクロリドを合成すること、及び、このように得られたアゾイミノエーテルヒドロクロリドを水の存在下に加水分解することを含む、アゾカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項13】 15℃?50℃の温度において、反応混合物を水中に通過させるか、又は、反応混合物に水を連続添加することにより加水分解を行なう、請求項12記載の製造方法。
【請求項14】 前記温度は20℃?35℃である、請求項13記載の製造方法。
【請求項15】 合成の後に、アゾイミノエーテルヒドロクロリドをろ過により分離し、有機溶剤で洗浄し、そして、15℃?50℃の温度において、水中にろ過ケークを徐々に添加することにより加水分解する、請求項12記載の方法。
【請求項16】 前記温度は25℃?35℃である、請求項15記載の製造方法。
【請求項17】 請求項6、7、8、9又は10記載のとおりにアゾイミノエーテルヒドロクロリドを合成すること、このように得られた塩を水の存在下に加水分解すること、及び、アゾカルボン酸エステルを含む有機相を分離することを含む、アゾカルボン酸エステルの液体組成物の製造方法。
【請求項18】 最も重質のアルコールを第一の工程で反応させ、次いで、最も軽質のアルコールを第二の工程で反応させる、請求項17記載の方法。
【請求項19】 請求項12?18のいずれか1項記載の方法によりアゾカルボン酸エステルを合成すること、そして、適切ならば、このエステルを既知の方法により重合開始剤に転化させることを含む、重合開始剤の製造方法。
【請求項20】 請求項1?11のいずれか1項記載の方法によりアゾイミノエーテルヒドロクロリドを製造すること、及び、それをアルコールの存在下にアンモニア又はアミンと反応させることを含む、アゾグアニル誘導体の製造方法。

(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」といい、上記補正及び誤訳訂正された明細書を「本願明細書」という。)

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願請求項1?20に係る発明は、先の拒絶理由で引用した刊行物A?Eに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 刊行物及び記載事項
刊行物1?4は次のとおりであって、以下の事項が記載されている。
刊行物1:特開昭49-125317号公報
(原査定における「刊行物D」に同じ。)
刊行物2:特公昭58-2230号公報
(同「刊行物A」に同じ。)
刊行物3:特開昭62-164655号公報
(同「刊行物B」に同じ。)
刊行物4:特開昭64-26545号公報
(同「刊行物E」に同じ。)

(1)刊行物1:特開昭49-125317号公報
(1a)「(1)、一般式


(式中Rは直鎖のまたは、側鎖をもつアルキルを示す。)なる化合物の鉱酸塩を加水分解する、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレリアン酸)ジアルキルエステルの製造方法。」(特許請求の範囲第1項)

(1b)「本発明は、新規アゾ重合開始剤である、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレリアン酸)ジアルキルエステルの製造方法に関する。」(1頁左欄下から6?4行)

(1c)「本発明の新規重合開始剤は、その重合活性が、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(以下ADVNと略す。)と2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)(以下ADMVNと略す。)との中間の重合活性を有する為、・・・重合物が得られる。」(1頁右欄7?16行)

(1d)「本発明の方法を式で示すと次の通りである。

(式中Rは、直鎖のまたは側鎖をもつアルキルを示し、Xは鉱酸残基を示す。)」(2頁左下欄表の下?末行)

(1e)「化合物Bを製造するには、原料及び生成物と相互に作用することのない溶剤、例えば、トルエン、ジオキサン、n-ヘキサン等の存在、または溶剤を使用しないで、化合物Aに鉱酸として例えば塩化水素ガスの存在下アルコールと混じ攪拌のもと反応させる。」(2頁右下欄1?6行)

(1f)「アルコールとしては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、オフチルアルコール、イソブチルアルコール、ドデシルアルコール等が使用される。使用するアルコールの量は、アルコールの種類、反応溶剤の存在、非存在等により異なるが、例えば当量乃至当量の数倍が使用され、特に限定されるものではない。」(2頁右下欄7?14行)

(1g)「反応温度は、一般的に30℃以下で行うのが好ましい。」(2頁右下欄15?16行)

(1h)「化合物Cを製造するには、化合物Bに好ましくは30℃以下の温度で水を加え、アルカリで中和し、そのまま分液したり、溶剤抽出して濃縮するかして、化合物Cを取得する。」(2頁右下欄17行?3頁左上欄3行)

(1i)「以下に実施例を記す。実施例中数量を表わす部は重量部である。
実施例1.
ADVN124部、n-ヘキサン200部、メタノール64部に10℃以下で塩化水素ガス75部を導入した。20乃至25℃で5時間反応し、水200部を加え、中和、分液後濃縮し、淡黄色油状物112部を得る。」(3頁左上欄4?11行)

(1j)「実施例2.
ADVN124部、ベンゼン200部、イソプロピルアルコール90部に塩化水素ガス73部を導入した。20乃至25℃で8時間反応後、水200部を加え、中和、分液後濃縮し、淡黄色油状物123部を得る。」(3頁左上欄下から2行?右上欄4行)

(1k)「実施例3.
ADVN62部、トルエン100部、エタノール69部に塩化水素ガス46部を導入した。室温7時間反応後、水100部を加え、中和、分液後濃縮し、淡黄色油状物55部を得る。」(3頁右上欄の上の表の下1?5行)

(1l)「実施例4.
ADVN62部、エチルエーテル100部、n-オクチルアルコール96部に塩化水素ガス40部を導入した。室温10時間反応後、水100部を加え、中和、分液後濃縮し、淡黄色油状物93部を得る。」(3頁左下欄1?6行)

(2)刊行物2:特公昭58-2230号公報
(2a)「1 一般式



(式中R^(1)、R^(2)はアルキル、シクロアルキル基を示す。)なる化合物を塩酸ガスの存在下、アルコールと反応させイミノエーテルを製造する際、塩酸ガスの溶解性の少ない溶媒中で反応させることを特徴とする、式


(式中はR^(1)、R^(2)は前記と同じ。R^(3)はアルキル基を示す。)なる化合物の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)

(2b)「本発明は、高分子化合物製造における重合開始剤として有用な、アゾグアニル化合物やアゾエステル化合物等の中間体イミノエーテルの工業的有利な製造方法に関する。」(1頁2欄4?7行)

(3)刊行物3:特開昭62-164655号公報
(3a)「(1)分子内にヒドラゾ基-NH-NH-と少なくとも1個のニトリル基-CNとを有するヒドラゾニトリルを、塩化水素の存在でニトリル基をイミノエーテル化し得るアルコールの存在下、塩素と反応させることを特徴とする、分子内にアゾ基-N=N-と少なくとも1個のイミノエーテル基-C(=NH)-O-とを有するアゾイミノエーテルの製造法。」(特許請求の範囲第1項)

(3b)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、高分子化合物製造に於ける重合開始剤として有用な、アゾグアニル化合物、アゾアミド化合物、アゾエステル化合物等の中間体アゾイミノエーテルの新規な製造法に関する。
〔発明の背景〕
アゾグアニル化合物は、その鉱酸塩が水溶性である為、特に水溶液中での重合開始剤として有用な化合物である。また、アゾアミド化合物は非塩型で効果的な重合開始剤として、アゾエステル化合物は溶解性に優れた重合開始剤として夫々有用な化合物である。」(1頁左欄13行?右欄4行)

(3c)「実施例1
トルエン111mlに、メタノール11.5g(0.36mol)を混合し、これに2,2’-ヒドラゾビス(2-メチルプロピオニトリル)24.9g(0.15mol)を加え、冷却、攪拌下、10?25℃で塩素ガス11.2g(0.158mol)を導入し、25?30℃で5時間反応後一夜放置した。反応終了後、結晶をろ(審決注:「ろ」は「さんずい」に「戸」)取、乾燥し、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-メトキシ-2-メチルプロパン)二塩酸塩38.5gを得た。m.p.124℃(dec.)。」(3頁左下欄5?14行)

(4)刊行物4:特開昭64-26545号公報
(4a)「(1)下記一般式○1(審決注:「○1」は「丸付き数字の1」を表す。以下、同様。)

(・・・)
で表わされるアゾビスニトリル類を、酸のアルコール類溶液中に逐次添加して反応させ、次いで得られる中間体アゾビスイミノエーテル塩類に下記一般式○2

(・・・)
で表わされるアミン類を反応させることを特徴とする、下記一般式○3

で表わされるアゾビスアミジン塩類の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)

(4b)「これらの中、C_(1)?C_(18)のアルコール類が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、・・・好ましい。これらのアルコール類は、それぞれ単独で、又は、2種以上混合して使用することができる。」(5頁左上欄15行?左下欄1行)

第5 当審の判断
1 引用発明
刊行物1の特許請求の範囲には、「一般式

なる化合物の鉱酸塩を加水分解する、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレリアン酸)ジアルキルエステルの製造方法。」(摘記(1a))が記載され、さらに「本発明は、新規アゾ重合開始剤である、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレリアン酸)ジアルキルエステルの製造方法に関する。」(摘記(1b))とされるところ、発明の詳細な説明には、「本発明の方法を式で示すと次の通りである。」として化学反応式が記載されている(摘記(1d))ので、この(1d)に摘記された方法についても検討する。
該化学反応式によれば、「化合物A」は「2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)」であり、(1c)に摘記されるように「ADVN」と略され、これにアルコールROHと鉱酸HXを反応させることで「化合物B」が製造され、これに水H2Oを加えて加水分解することで「化合物C」が製造されるとされており、該化学反応式に続いて、「化合物B」を製造する際の溶剤やアルコールや反応温度等の条件につき、「原料及び生成物と相互に作用することのない溶剤、例えば、トルエン」(摘記(1e))、「アルコールとしては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、オフチルアルコール、イソブチルアルコール、ドデシルアルコール等が使用される。」(摘記(1f))、「反応温度は、一般的に30℃以下で行うのが好ましい。」(摘記(1g))等の説明がされ、次いで、「化合物C」を製造する際の手順につき、「化合物Bに好ましくは30℃以下の温度で水を加え、アルカリで中和し、そのまま分液したり、溶剤抽出して濃縮するかして」(摘記(1h))等の説明がされている。

そこで実施例をみると、いずれの実施例においても、「ADVN・・・塩化水素ガス・・・部を導入した。・・・乃至・・・℃で・・・時間反応し、」と、上記(1d)及び(1e)?(1g)に摘記されたとおりの反応条件が記載されているから、これによって「化合物B」に該当するアゾイミノエーテル鉱酸塩が製造され、次いで、「水・・・を加え、中和、分液後濃縮し、・・・を得る。」と、上記(1d)及び(1h)に摘記されたとおりの手順が記載されているから、これによって「化合物C」に該当するアゾエステルが製造されていることがわかる(摘記(1i)?(1l))。

そうしてみると、特許請求の範囲には、「「化合物B」であるアゾイミノエーテル鉱酸塩を加水分解して「化合物C」であるアゾエステルを製造する方法」の発明が記載されているのであるが、刊行物1には、該発明に加えて、「「化合物A」であるADVNから「化合物B」であるアゾイミノエーテル鉱酸塩を製造し、次いで加水分解して「化合物C」であるアゾエステルを製造する方法」の発明についても、記載されているといえ、具体的には、例えば、実施例2や実施例3における個々の条件(摘記(1j)、(1k))を取り入れたところの、
「ADVN、ベンゼンやトルエン等の溶剤、イソプロピルアルコールやエタノール等のアルコールに塩化水素ガスを導入し、20乃至25℃や室温で8時間あるいは7時間反応させてアゾイミノエーテル塩酸塩を製造した後、加水分解してアゾエステルを製造する方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明における「アゾニトリル」には、本願明細書の段落【0037】に、「このようなアゾニトリルの具体的な例は、・・・2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)・・・である。」と記載され、この「2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)」は「ADVN」のことであるから、引用発明の「ADVN」は、本願発明の「アゾニトリル」に相当する。
引用発明の「イソプロピルアルコールやエタノール等のアルコール」は、本願発明の「エタノール、より高級のアルコールから選ばれるアルコール」に相当する。
「塩酸塩」と「ヒドロクロリド」とは同じ意味であるから、引用発明の「アゾイミノエーテル塩酸塩」は、本願発明の「アゾイミノエーテルヒドロクロリド」に相当する。
引用発明の「ベンゼンやトルエン等の溶剤」は芳香族溶剤であるから、本願発明の「芳香族溶剤」に相当する。
反応温度、反応時間についてみるに、引用発明の「20乃至25℃や室温」と本願発明の「15?25℃の温度」とは重複するものであり、引用発明の「8時間あるいは7時間」と本願発明の「8?24時間の間」とも重複するものである。
そして、両者ともに「アゾイミノエーテルヒドロクロリドを製造する方法」を含むから、両者は、
「20?25℃程度の温度で8時間、ADVNであるアゾニトリルと、エタノール、より高級のアルコールから選ばれるアルコール及び塩化水素酸とをベンゼンやトルエン等の芳香族溶剤中において反応させることを含むアゾイミノエーテルヒドロクロリドを製造する方法」
で一致し、次の(i)、(ii)の点で相違する。

(i)「塩化水素酸」と「アゾニトリル」とのモル比について、本願発明においては、「モル比R=HCl/アゾニトリルは4?6である」と規定されているのに対し、引用発明においては、このような規定はされていない点
(ii)「製造する方法」が、本願発明においては、「アゾイミノエーテルヒドロクロリドの製造方法」であるのに対し、引用発明においては、「アゾイミノエーテルヒドロクロリドを製造した後、加水分解してアゾエステルを製造する方法」である点

3 判断
上記した相違点及び発明の効果について検討する。
(1)相違点(i)について
引用発明においては、上記のモル比Rは何ら規定されていないのであるが、しかし、塩化水素ガスもアゾニトリルも使用されており、塩化水素ガスと塩化水素酸とは同じものといえるから、引用発明で、具体的にどの程度の「モル比R=HCl/アゾニトリル」のものを使用しているのか、実施例2と実施例3について、検討する。
いずれの例においても、「部」は「重量部」であり(摘記(1i))、また、ADVNの分子量は248、塩化水素ガスの分子量は36.5といえるから、この数値を用いて計算する。
すると、実施例2においては、ADVNを124重量部用い、塩化水素ガスを73重量部用いており、これは、ADVNを0.50モル、塩化水素ガスを2.00モル用いることに相当するから、「モル比R=HCl/アゾニトリル」は「4」となる。
また、実施例3においては、ADVNを62重量部(0.25モル)用い、塩化水素ガスを46重量部(1.26モル)用いているから、同様に「モル比R=HCl/アゾニトリル」は「5.04」となる。
ちなみに、実施例4は、溶剤は本願発明のそれと異なるものの、アルコールは、本願発明の「より高級のアルコール」に相当するn-オクチルアルコールを用いるものであって、この場合、ADVNを62重量部(0.25モル)用い、塩化水素ガスを40重量部(1.10モル)用いているから、「モル比R=HCl/アゾニトリル」は「4.4」となる。
そうすると、引用発明においても、本願発明に包含されるアルコールを用いた場合は、いずれの場合も「モル比R=HCl/アゾニトリルは4?6」という規定を満たすものであるから、相違点(i)は、実質的に相違していない。

(2)相違点(ii)について
引用発明は「アゾエステルを製造する方法」ではあるものの、アゾニトリルであるADVNから出発し、「アゾイミノエーテルヒドロクロリド」を製造していることは確かであって、この「アゾイミノエーテルヒドロクロリド」が種々の化合物の中間体として有用であることは公知である。
すなわち、刊行物2には、アゾイミノエーテルヒドロクロリドの製造方法について記載され(摘記(2a))、かつ、このアゾイミノエーテルヒドロクロリドが、「高分子化合物製造における重合開始剤として有用な、アゾグアニル化合物やアゾエステル化合物等の中間体」であることが記載されている(摘記(2b))。
また、刊行物3には、アゾイミノエーテルの製造法について記載され(摘記(3a))、アゾイミノエーテルが「高分子化合物製造に於ける重合開始剤として有用な、アゾグアニル化合物、アゾアミド化合物、アゾエステル化合物等の中間体」であることも記載され(摘記(3b))、さらに、その実施例(摘記(3c))をみれば、このアゾイミノエーテルは塩酸塩として得られていることがわかる。
これらのことからすると、アゾイミノエーテルヒドロクロリドは、場合によってはアゾエステルよりも有用性が高いものであるといえ、そうすると、ADVNから出発してアゾイミノエーテルヒドロクロリドを製造した後、加水分解してアゾエステルを製造する、という引用発明の方法に代えて、加水分解をせずに、アゾエステル等の中間体であるアゾイミノエーテルヒドロクロリドを得ようとすることは、当業者であれば当然に試してみる範囲内のことといえる。
そうしてみると、引用発明において、「アゾイミノエーテルヒドロクロリドを製造した後、加水分解してアゾエステルを製造する方法」に代えて、加水分解をせずに、「アゾイミノエーテルヒドロクロリドの製造方法」とすることは、当業者にとって容易である。

(3)本願発明の効果について
(1)に示したように、「アゾイミノエーテルヒドロクロリドを製造する方法」については、本願発明と引用発明において、実質的に相違するものとはいえないから、「アゾイミノエーテルヒドロクロリドを製造する方法」においては、両者ともに同等の効果を奏するものと推認される。
したがって、本願発明の効果が、当業者の予測を超えて優れているものであるとはいえない。

(4)まとめ
以上のことから、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4 請求人の主張について
請求人は、平成20年5月22日に提出した審判請求書の手続補正書において、
(ア)「刊行物Dは「2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレリン酸)ジアルキルエステルの製造法」を開示しています。実施例3では、室温で7時間、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)をトルエン中でエタノール及び塩化水素ガスと反応させることを開示しています。しかしながら、刊行物B(審決注:「刊行物D」の誤記と認める。)では、室温で7時間の反応を行うのに対して、本願発明では15℃?25℃で8?25時間(審決注:本願の特許請求の範囲においては、25時間ではなく、24時間である。)の反応を行う点で構成が異なり、本願発明の条件ではアゾニトリルからのアゾイミノエステルの収率が90%付近であることからも本願発明の条件が有効であるものと認められます。」
と主張し、さらに、平成23年1月21日に提出した回答書において、
(イ)「本願請求項1における「エタノール、より高級のアルコール又はアルコールの混合物から選ばれるアルコール」なる記載を『アルコールの混合物』又は『メタノールとエタノールとの混合物』に補正するために、審判官殿から新たな拒絶理由通知を頂きたく存じます。
・・・
本願発明は、メタノール及びエタノールを異なるモル比で使用して、メチルエステル、メチル/エチルエステル及びエチルエステルを得る方法により、これらのエステルの全収率を高めるという有利な効果(例えば、実施例5では収率が85%です)を奏することが分かります。」
と主張する。

主張(ア)について
請求人は、刊行物1(審決注:請求人のいう刊行物Dのこと。)の実施例3を取り上げ、本願発明における反応温度及び反応時間はこれと異なる旨主張しているが、刊行物1の実施例2においては、20乃至25℃で8時間反応させており、本願発明における条件と変わりがなく、このことは、上記2に示したとおりである。しかも、アゾイミノエーテルヒドロクロリドを製造する方法について、本願発明と引用発明とで実質的に相違しないことは上記3(1)に示したとおりである。また、そうである以上、本願発明と引用発明が同等の効果を奏するものと推認されることも上記3(3)に示したとおりである。
したがって、請求人の主張(ア)は採用することができない。

主張(イ)について
本願発明が、アルコールとして「エタノール」単独の場合や「より高級のアルコール」単独の場合を含むことは、特許請求の範囲の請求項1の記載から明らかであって、このようなアルコールを用いる場合に、本願発明が当業者が容易になし得たものであることは、上記3(4)に示したとおりであるから、請求人のさらに補正したい旨の主張はそもそも採用できないものである。

なお、主張(イ)の実質的内容を汲み取って、アルコールが『アルコールの混合物』又は『メタノールとエタノールとの混合物』であった場合についても、念のために検討すると、刊行物4には、アゾビスニトリル類と酸とアルコールを反応させて中間体アゾビスイミノエーテル塩類を製造することが記載されるところ(摘記(4a))、そこで用いるアルコールとして、「メタノール、エタノール」が例示され、さらに「それぞれ単独で、又は、2種以上混合して使用することができる。」(摘記(4b))とされているのであるから、最終的に得たい「中間体アゾビスイミノエーテル塩類」の化学構造に応じて、『アルコールの混合物』又は『メタノールとエタノールとの混合物』を用いることは当業者が普通になし得ることの範囲内のものといえ、その結果混合物が得られることも当業者の予測の範囲内といえる。
したがって、仮に、本願発明が『アルコールの混合物』又は『メタノールとエタノールとの混合物』のものだったとしても、そのような発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである、とせざるを得ない。

5 まとめ
よって、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-27 
結審通知日 2011-05-10 
審決日 2011-05-23 
出願番号 特願2000-593568(P2000-593568)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康井上 千弥子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 橋本 栄和
東 裕子
発明の名称 アゾイミノエーテル及びアゾカルボン酸エステルの製造方法並びに新規のアゾカルボン酸混合エステル  
代理人 永坂 友康  
代理人 小林 良博  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ