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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J |
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管理番号 | 1244479 |
審判番号 | 不服2008-30939 |
総通号数 | 143 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-11-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-12-08 |
確定日 | 2011-10-05 |
事件の表示 | 特願2000-507741「低密度ポリエチレンのレオロジー修飾」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月 4日国際公開、WO99/10422、平成13年 9月11日国内公表、特表2001-514288〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成10年8月5日(パリ条約による優先権主張 1997年8月27日 アメリカ合衆国(US))の出願であって、平成12年2月25日に手続補正書(2件)が提出され、平成19年12月11日付けで拒絶理由が通知され、平成20年6月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月3日付けで拒絶査定がなされた。それに対して、同年12月8日に拒絶査定不服審判が請求され、平成21年1月7日に手続補正書が提出され、同年2月25日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年5月15日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年11月9日付けで審尋がなされ、期間を指定して回答書を提出する機会を与えたが、請求人から何らの応答もなかったものである。 第2.本願発明 本願の請求項1?12に係る発明は、平成21年1月7日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「(1)少なくとも0.89g/mLであり且つ0.935g/mLより小さい密度と、分子当たり2個より多く且つ20個より少ない炭素原子を有するα-オレフィンの0.5?50重量%のコモノマー含有率を有する少なくとも1種のエチレンポリマー又はエチレンポリマーのブレンドと、(2)連成量の少なくとも1種のポリ(スルホニルアジド)とを含有する混合物であって、ポリ(スルホニルアジド)の量が混合物中のポリマーの0.01?5重量%である混合物を、 ポリ(スルホニルアジド)の少なくとも80重量%が分解するのに十分な且つ連成されたポリマーを生成するのに十分な期間少なくともポリ(スルホニルアジド)の分解温度に加熱し、 該エチレンポリマー(1種以上)及び連成されたポリマーは、各々ASTM D-1238(190℃/2.16kg)により測定して5g/10minより少ないメルトインデックス(I2)を有しており、そして該連成されたポリマーはASTM D-2765-方法Aにより測定して1重量%より少ないゲル含有率を有する、 ことを特徴とする連成されたポリマーを製造する方法。」 第3.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由とされた平成19年12月11日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1の概要は、この出願の請求項1?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 記 引用文献1: 英国特許第1032907号明細書(1966) 第4.当審の判断 [1]刊行物 刊行物1: 英国特許出願公開第1032907号明細書 なお、刊行物1は、平成19年12月11日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1において引用された引用文献1である。 [2]刊行物1の記載事項 以下に示す刊行物1の記載事項は、当審において翻訳したものである。 摘示ア: 「4.ポリエチレンと、R(SO_(2)N_(3))xの一般式(Rは、橋かけ反応に対して不活性な有機基であり、xは2?8の整数)で表されるポリスルホンアジドの混合物を、スルホンアジドが分解する温度まで加熱することからなり、ポリスルホンアジドの量が、橋かけされたポリマーの重量を基準として0.001%?0.075%のスルホンアミドブリッジを含む橋かけされたポリマーが得られる量である、固体の橋かけ熱可塑性ポリエチレンを製造する方法。」(特許請求の範囲) 摘示イ: 「橋かけ反応は、ポリエチレンを、ポリスルホンアジドの存在下で、スルホンアジドが分解する温度、一般に100℃?250℃の範囲に加熱することによって実施される。使用されるポリスルホンアジドの量は、0.001重量%?0.075重量%のスルホンアミドブリッジを含む橋かけされたポリマーを得るのに十分な量である。」(第2頁左欄第17行?第25行) 摘示ウ: 「 実施例1-3 各実施例において、100部の細かく粉砕された密度が0.945でメルトインデックスが0.3の線状ポリエチレンを、所望の量のポリスルホンアジド橋かけ剤と0.1部の4,4’-チオビス(3-メチル,6-tert-ブチル-フェノール)安定剤を含むアセトンで湿らせた。 ・・・・・・ TABLE I スルホンアジド 実施例 部/100 ・・・ 1 0 ・・・ 2 0.03 ・・・ 3 0.05 ・・・ ・・・・・・ 実施例4 実施例1-3と同じポリエチレンを1,3-ベンゼンビス(スルホンアジド)と4,4’-チオビス(3-メチル,6-tert-ブチルフェノール)安定剤を実施例1-3と同じように混合した。 ・・・・・・ ・・・ 4 ・・・ 1,3-ベンゼンビス(スルホンアジド) 0.03 ・・・ メルトインデックス(I_(2) 190℃) 0.23 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・・・・ 実施例8-10 種々の量のポリスルホンアジドを含む成形ペレットを実施例1-3と同様に製造した。実施例1-3と同様に混合したスルホンアジドは橋かけ剤として使用された。各成形物から得たペレットのメルトインデックスを測定し、温度390゜F、圧力800psiで螺旋状の型に射出された。・・・ TABLE III スルホンアジド メルトインデックス 実施例 部/100 (I_(2) 190℃) ・・・ 8 0 0.27 ・・・ 9 0.025 0.21 ・・・ 10 0.050 0.21 ・・・ ・・・・・・ 実施例15-24 ポリスルホンアジド橋かけ剤の比較のために、密度が0.945でメルトインデックスが0.3である線状ポリエチレンのサンプルを、種々の量の1,10-デカンジスルホンアジド又は市販の過酸化物架橋剤と混合した。各サンプルは、実施例1?3と同様に、ブレンドし、押し出してペレットに切断した。各押出物の一部を水浴に供給し、・・・ペレットに切断し、メルトインデックスを測定した。・・・ ・・・・・・ TABLE IV 添加剤 実施例 添加剤 部/100 ・・・ メルトインデックス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 1,10-デカン 0.010 ・・・ 0.30 ジスルホンアジド 17 ” 0.020 ・・・ 0.27 18 ” 0.030 ・・・ 0.25 19 ” 0.050 ・・・ 0.21 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」 (第2頁右欄第52行?第5頁第16行) [3]刊行物1に記載された発明 摘示ア?ウからみて、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「ポリエチレンと、R(SO_(2)N_(3))xの一般式(Rは、橋かけ反応に対して不活性な有機基であり、xは2?8の整数)で表されるポリスルホンアジドの混合物を、スルホンアジドが分解する温度まで加熱することからなり、ポリスルホンアジドの量が、橋かけされたポリマーの重量を基準として0.001%?0.075%のスルホンアミドブリッジを含む橋かけされたポリマーが得られる量である、固体の橋かけ熱可塑性ポリエチレンを製造する方法。」に係る発明 [4]対比・判断 引用発明における「橋かけ」は、本願発明における「連成」に相当する。 引用発明における「ポリエチレン」及び「R(SO_(2)N_(3))xの一般式(Rは、橋かけ反応に対して不活性な有機基であり、xは2?8の整数)で表されるポリスルホンアジド」は、それぞれ、本願発明における「エチレンポリマー」及び「少なくとも1種のポリ(スルホニルアジド)」に相当する。 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、 「(1)少なくとも1種のエチレンポリマー又はエチレンポリマーのブレンドと、(2)少なくとも1種のポリ(スルホニルアジド)とを含有する混合物を、少なくともポリ(スルホニルアジド)の分解温度に加熱する、ことを特徴とする連成されたポリマーを製造する方法。」である点で一致し、以下の相違点1?5で相違する。 (相違点1) 本願発明は「少なくとも1種のエチレンポリマー又はエチレンポリマーのブレンド」が「少なくとも0.89g/mLであり且つ0.935g/mLより小さい密度と、分子当たり2個より多く且つ20個より少ない炭素原子を有するα-オレフィンの0.5?50重量%のコモノマー含有率を有する」旨特定されているのに対し、引用発明はその旨特定されない点。 (相違点2) 「少なくとも1種のポリ(スルホニルアジド)」の量が、本願発明は「連成量」すなわち「混合物中のポリマーの0.01?5重量%」に特定されているのに対し、引用発明は「橋かけされたポリマーの重量を基準として0.001%?0.075%のスルホンアミドブリッジを含む橋かけされたポリマーが得られる量」である点。 (相違点3) 本願発明は「加熱」が「ポリ(スルホニルアジド)の少なくとも80重量%が分解するのに十分な且つ連成されたポリマーを生成するのに十分な期間」行われる旨特定されているのに対し、引用発明はその旨特定されない点。 (相違点4) 本願発明は「エチレンポリマー(1種以上)及び連成されたポリマーは、各々ASTM D-1238(190℃/2.16kg)により測定して5g/10minより少ないメルトインデックス(I_(2))を有して」いる旨特定されているのに対し、引用発明はその旨特定されない点、 (相違点5) 本願発明は「連成されたポリマーはASTM D-2765-方法Aにより測定して1重量%より少ないゲル含有率を有する」旨特定されているのに対し、引用発明はその旨特定されない点。 4-1.相違点1について 本願明細書には、以下のとおり記載されている。 摘示エ: 「本発明の実施を適用できるポリマーは、狭い分子量分布及び広い(二頂型(bimodal)を含む)分子量分布を有するエチレンのホモポリマー及びコポリマー(以後エチレンポリマーと言う)を包含する。本発明の実施に使用するための1つのタイプの好ましいポリマーは、エチレンと、エチレンと重合可能な他のモノマーとの組み合わせから製造されたポリマーである。このようなモノマーには、α-オレフィン及び少なくとも1個の二重結合を有する他のモノマー、好ましくは、2個より多い、更に好ましくは5個より多い炭素を有するα-オレフィンが包含される。これらのポリマーは、コモノマーにより導入された短鎖分岐(short chain branches)、例えば構造 RCH=CH_(2)のモノマーにより導入されたRの分岐を有するという点で線状ポリエチレンとは異なる。他のタイプの好ましいポリマーは、後に述べるとおりその重合の際に導入された長鎖分岐(long chain branches)を有する。これらのエチレンポリマーは長い分岐又は短い分岐を有しており、従って(高密度)ポリエチレンホモポリマーの線状性(linearity)とは異なるけれども、或るものは、当業界では“LLDPE”又は線状低密度ポリエチレン又はSLEP”、実質的に線状のエチレンポリマーとよばれる。ここに、“線状”という用語は遊離基重合を使用して重合された従来の高度に分岐した低密度ポリエチレンから区別するために歴史的に使用されてきたものである。 本発明の実施のために有利には、長鎖分岐を有するこのようなエチレンポリマーは、低い密度、即ち、好ましくは0.935g/mLより少ない密度、更に好ましくは0.93g/mLより少ない密度、最も好ましくは0.92g/mLより少ない密度を有する。好ましくは密度(ASTM D-792に従って測定された)は少なくとも0.89g/mL、更に好ましくは少なくとも0.890g/mL、最も好ましくは少なくとも0.91g/mLである。」(段落【0010】?【0011】) 摘示オ: 「 実施例5及び6及び比較サンプルC ステアリン酸カルシウム1250ppm、商品名イルガノックス1010の下にチバ・ガイギー・コーポレーションから商業的に入手可能なヒンダードポリフェノール酸化防止剤200ppmを含有しそして比較サンプルC、実施例5及び実施例6ではそれぞれ4,4′-オキシビス(ベンゼンスルホニルアジド)CAS#[7456-68-0]0重量%、0.05重量%及び0.1重量%を含有する、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーから商品名ダウレックス(Dowlex)2045の下に商業的に入手可能な、Mw/Mn=3.96及びMw=114800、I_(2)=1.0g/10分、密度0.92g/ccを有する線状低密度エチレン/オクテンコポリマー(2.5モル%オクテン、実施例1の場合と同じくケール等からの式に基づいて評価)を使用して実施例1の方法を繰り返した。」(段落【0084】) そうすると、摘示エ、オ及び本願出願時の技術常識からみて、本願発明における「少なくとも0.89g/mLであり且つ0.935g/mLより小さい密度と、分子当たり2個より多く且つ20個より少ない炭素原子を有するα-オレフィンの0.5?50重量%のコモノマー含有率を有する少なくとも1種のエチレンポリマー又はエチレンポリマーのブレンド」は、一般的な線状低密度ポリエチレンを包含するものと認められる。 一方、刊行物1には引用発明における「ポリエチレン」の具体的なものとして「密度が0.945でメルトインデックスが0.3の線状ポリエチレン」(摘示ウ)が記載されているところ、刊行物1のすべての記載及び本願出願時の技術常識を参酌しても、該「ポリエチレン」として「密度が0.945でメルトインデックスが0.3の線状ポリエチレン」以外のポリエチレンを用いることが阻害されていると解する特段の理由は見いだせないから、引用発明において、「ポリエチレン」として周知慣用の種々のポリエチレンを用いることは当業者が適宜なし得たことである。 そうすると、引用発明において、「ポリエチレン」を、周知慣用のポリエチレンである一般的な線状低密度ポリエチレンすなわち「少なくとも0.89g/mLであり且つ0.935g/mLより小さい密度と、分子当たり2個より多く且つ20個より少ない炭素原子を有するα-オレフィンの0.5?50重量%のコモノマー含有率を有する少なくとも1種のエチレンポリマー」に特定することは、当業者が適宜なし得たことである。 また、本願明細書の記載をみても、本願発明は、「少なくとも1種のエチレンポリマー又はエチレンポリマーのブレンド」を「少なくとも0.89g/mLであり且つ0.935g/mLより小さい密度と、分子当たり2個より多く且つ20個より少ない炭素原子を有するα-オレフィンの0.5?50重量%のコモノマー含有率を有する少なくとも1種のエチレンポリマー又はエチレンポリマーのブレンド」に特定することによって、格別な効果を奏するとはいえない。 4-2.相違点2について 摘示ウには、引用発明の実施例1?4、8?10及び16?19において、ポリエチレン100部に対して特定の安定剤及びアセトンとともに混合したポリスルホンアジドの量が0.01?0.05部の範囲内の種々の値であることが記載されており、該値は、引用発明における「橋かけされたポリマーの重量を基準として0.001%?0.075%のスルホンアミドブリッジを含む橋かけされたポリマーが得られる量」の具体的な値であると解される。 そして、上記「ポリエチレン100部に対して特定の安定剤及びアセトンとともに混合したポリスルホンアジドの量」は、引用発明における「混合物」中の「ポリエチレン」に対する「ポリスルホンアジド」の量(以下、「引用アジド量」という。)を意味することは明らかであるから、引用アジド量は、本願発明における「混合物中のポリマー」に対する「ポリ(スルホニルアジド)の量」(以下、「本願アジド量」という。)に相当する。 そして、上記実施例1?4、8?10及び16?19における引用アジド量の値は、本願発明における本願アジド量の「0.01?5重量%」との範囲に含まれるものである。 したがって、引用発明における「橋かけされたポリマーの重量を基準として0.001%?0.075%のスルホンアミドブリッジを含む橋かけされたポリマーが得られる量」は、本願発明における「連成量」すなわち「混合物中のポリマーの0.01?5重量%」に相当する。 よって、相違点2は、実質的な相違点ではない。 4-3.相違点3について 引用発明の課題は、橋かけされたポリエチレンを製造する方法を提供することであるところ、該橋かけはポルスルホンアジドの分解とともになされ、また、該分解は「混合物」を加熱することによって起こるものである。 そして、先に教示したとおり、引用発明における「橋かけ」は、本願発明における「連成」に相当する。 そうすると、引用発明において、「加熱」を、ポリスルホンアジドを余すことなく分解してポリエチレンの連成がなされるのに十分な時間行うことは、当然に求められていると解される。 したがって、引用発明において、「加熱」は、当然に「ポリ(スルホニルアジド)の少なくとも80重量%が分解するのに十分な且つ連成されたポリマーを生成するのに十分な期間」行われるものと認められる。 よって、相違点3は、実質的な相違点ではない。 4-4.相違点4について 本願明細書には、以下のとおり記載されている。 摘示カ: 「本発明の実施に従って改良されたポリマーは、好ましくは、メルトインデックスがあまりにも高い場合に生じる不安定なバブルを避けるために、190℃及び2.16KgにおけるASTM1238方法Aの方法により測定して5g/10minより少ない、更に好ましくは1g/10minより少ないI_(2)を有する。」(段落【0069】) 摘示キ: 「フイルムのために最適化された組成物を製造するために、使用したアジドの量は最終の予想されたメルトインデックスに基づいていた。目標としたメルトインデックスは190℃、2.16KgにおけるASTM1238、方法Aにより測定してI_(2)=1.0g/10minであり、それ故必要な量のアジドは1200ppm(重量ppm)であった。」(段落【0090】) 摘示ク: 「データから、ポリ(スルホニルアジド)の量が増加するにつれて、ASTM1238の方法(I_(10)の測定には10kg重量を使用して)により測定されたI_(10)/I_(2)はより高くなり、・・・」(段落【0094】) すなわち、摘示カ?クには、ASTM D-1238(190℃及び2.16Kg)で測定したメルトインデックスがI_(2)と表記される旨記載され、ASTM D-1238(190℃及び10Kg)で測定したメルトインデックスがI_(10)と表記される旨記載されている。 そして、本願出願時の技術常識からみて、上記「ASTM D-1238(190℃及び2.16Kg)」及び「ASTM D-1238(190℃及び10Kg)」は、メルトインデックスの周知慣用の測定方法であり、また、メルトインデックスを上記のとおり「I_(2)」及び「I_(10)」と表記することは周知慣用であると認められる。 一方、摘示ウには、引用発明の実施例において、「ポリエチレン」として、メルトインデックスが0.3の線状ポリエチレンを用いたことが記載され、また、連成されたポリマーについて測定されたメルトインデックスが「I_(2) 190℃」と表記されている。 そうすると、摘示ウにおいて「I_(2) 190℃」と表記されるメルトインデックスは、摘示カ?ク及び本願出願時の技術常識からみて、ASTM D-1238(190℃及び2.16Kg)で測定したメルトインデックスであると解するのが相当である。 したがって、引用発明における「ポリエチレン」すなわち「エチレンポリマー」は、ASTM D-1238(190℃及び2.16Kg)で測定したメルトインデックスが0.3である場合を包含し、該メルトインデックスは、本願発明における「ASTM D-1238(190℃/2.16kg)により測定して5g/10minより少ないメルトインデックス(I_(2))」に相当する。 そして、引用発明における「橋かけされたポリマー」すなわち「連成されたポリマー」は、スルホンアミドブリッジにより複数のポリマー鎖が結合したものであるから、本願出願時の技術常識からみて、そのメルトインデックス値が、連成前のポリマーのメルトインデックス値以下になることは明らかであり、また、摘示ウには、実施例8?10及び16?19において、メルトインデックス0.3のポリエチレンを用いてメルトインデックスが0.3以下の種々の値を示す連成されたポリエチレンを得たことが記載されている。 そうすると、引用発明は、「エチレンポリマー」及び「連成されたポリマー」が、「各々ASTM D-1238(190℃/2.16kg)により測定して5g/10minより少ないメルトインデックス(I_(2))を有して」いる場合を包含するといえる。 したがって、相違点4は、実質的な相違点ではない。 4-5.相違点5について 本願明細書には、以下のとおり記載されている。 摘示ケ: 「レオロジー修飾のためには(本明細書では「連成するために」としても言及する)、ポリ(スルホニルアジド)は、レオロジー修飾量で、即ち、ポリマーの低剪断粘度(0.1rad/secの)を出発物質ポリマーと比べて好ましくは少なくとも5%増加させるのに有効な量で、しかし架橋量よりは少ない量で、即ち、ASTM D2765の方法Aにより測定して1重量%より少ないゲルを生じさせるのに十分な量で使用される。低剪断粘度を増加させ且つ1重量%より少ないゲルをもたらすのに十分なアジドの量は使用するアジドの分子量及びポリマーに依存するであろうということを当業者は認識するであろうが、その量は、ポリ(スルホニルアジド)が200?2000の分子量を有する場合には、ポリマーの全重量を基準として好ましくは5重量%より少ない、更に好ましくは2重量%より少ない、最も好ましくは1重量%より少ないポリ(スルホニルアジド)である。」(段落【0048】) すなわち、摘示ケには、本願発明において「連成されたポリマー」が「ASTM D-2765-方法Aにより測定して1重量%より少ないゲル含有率を有する」ためには、「ポリマーの低剪断粘度(0.1rad/secの)を出発物質ポリマーと比べて好ましくは少なくとも5%増加させるのに有効な量で、しかし架橋量よりは少ない量」のポリ(スルホニルアジド)によってポリマーを連成する必要がある旨記載され、該量は、「ポリ(スルホニルアジド)が200?2000の分子量を有する場合には、ポリマーの全重量を基準として好ましくは5重量%より少ない、更に好ましくは2重量%より少ない、最も好ましくは1重量%より少ない」量である旨記載されている。 そうすると、本願発明は、「連成されたポリマー」が架橋していないが故に、「連成されたポリマー」の「ゲル含有率」が「ASTM D-2765-方法Aにより測定して1重量%より少な」くなるものと解される。 一方、上記4-2.で教示したとおり、摘示ウには、引用発明1の実施例において、ポリエチレン100部に対しポリスルホンアジドを0.01?0.05部の範囲内の種々の量で混合して連成した旨記載されるところ、該ポリスルホンアジドの分子量が上記「200?2000」に相当することは明らかであり、また、該「0.01?0.05部」は、上記「ポリ(スルホニルアジド)が200?2000の分子量を有する場合には、ポリマーの全重量を基準として最も好ましくは1重量%より少ない」量の上限値である1重量%より極めて少ないといえる。 そうすると、摘示ウに記載の上記実施例においては、ポリスルホンアジドの分子量及び混合量からみて、「連成されたポリマー」が、架橋することなく「ASTM D-2765-方法Aにより測定して1重量%より少ないゲル含有率」を有する蓋然性が高い。 したがって、相違点5は、実質的な相違点ではない。 [5]まとめ よって、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5.請求人の主張 請求人は、平成21年2月25日付けで補正された審判請求書において、概略、以下のとおり主張している。 (主張1) 「段落[0062]に記載するように、カナダ特許第797917号に教示されたフィルムは、17.25cm/kgより少ない破壊抵抗を有し、500gより少ない縦方向エルメンドルフ引裂強さを有し、35%より多い曇り度を有すると、当業者は考えています。 これに対して、本願明細書の段落[0105]の表2「測定値のメートル法変換」には、本願発明の連成されたポリマーのフィルム(実施例9)が、40.25cm/kgの破壊抵抗を有し、縦(MD)方向で1104.00g、横(CD)方向で2060.80gのエルメンドルフ引裂強さを有し、27.2%の曇り度を有することが記載されており、いずれの特性もカナダ特許第797917号に教示されたフィルムが有するものよりも、きわめて優れていることが分かります。 また、本願の実施例10においても、50.6cm/kgの破壊抵抗、縦方向で1384.30g、横方向で1900.80gのエルメンドルフ引裂強さ、22.0%の曇り度の特性が得られており、いずれの特性もカナダ特許第797917号に教示されたフィルムが有するものよりも、きわめて優れていることが分かります。 すなわち、本願発明に係る改良された連成ポリマーは、少なくとも3つの極めて重要な機械的特性において、先行技術文献(カナダ特許第797917号、すなわち英国特許第1032907号明細書)に記載された連成ポリマーよりも極めて優れていることが明らかです。 ・・・・・・ 本願発明で得られるこのような効果は、先行技術文献(カナダ特許第797917号、すなわち英国特許第1032907号明細書)に記載されたものと比較して極めて顕著なものであり、本願発明の進歩性を十分に肯定できるものです。」 (主張2) 「『メルトインデックスが5g/10minが実質的に記載されていること』について、引用文献1には、メルトインデックスを測定する条件については一切記載されていません。メルトインデックスを測定する場合には、本願明細書に記載するように、温度や圧力の設定(ASTM D-1238)が必須となり、これらの設定が異なれば、測定値も変化します。 ・・・・・・ メルトインデックスの測定条件には、190℃で測定する場合でも、荷重を2.16kgにする測定条件(I_(2))、荷重を5kgにする測定条件(I_(5))、荷重を10kgにする測定条件(I_(10))、荷重を21.6kgにする測定条件(I_(21.6))など多くの測定条件があります・・・。 ・・・・・・ したがって、引用文献1の実施例の表に、本願発明におけるものと同じ範囲のメルトインデックス値が形式的に記載されていたとしても、該メルトインデックス値が、本願における「ASTM D-1238(190℃/2.16kg)により測定して5g/10minより少ないメルトインデックス(I_(2))」とどのような関係にあるかは、引用文献1からは全く分かりません。 したがって、引用文献1に記載されたポリマーのメルトインデックス値は、本願発明におけるものと対比した場合に、全く意味を成さないものであるため、引用文献1は引用例としての適格性がありません。」 (主張3) 「『ゲル含有率は1重量%である蓋然性が高いものと認められること』については、審査官殿も認めるとおり、引用文献1には『ゲル含有率は1重量%である』ことは記載も示唆もされていません。 (A)しかしながら、以下の検討から、引用文献1のポリマーはゲル含有量が極めて多いことが容易に推測されます。すなわち、上述するように、ポリマーマトリクス中のゲルの存在は、局所的な構造欠陥、マトリクスの不連続性、光学特性の異常などの欠陥を引き起こす原因になることはポリマー・フィルム業界ではよく知られたことです。ここで、本願発明の連成されたポリマーのフィルムは、22.0%?27.2%程度の低い曇り度を有するのに対して、引用文献1のフィルムは35%より多い曇り度を有します。曇り度は使用する樹脂などによって変動する場合もありますが、本願発明と引用文献1とにおける曇り度の差はこれらの他の要因を考慮しても有意なものであり、引用文献1のポリマーはゲル含有量が極めて多いことが容易に推測されます。」 (主張4) 「『エチレンポリマーの密度0.89?0.935g/mlについて、当業者が適宜設定し得るものであるか、エチレン系ポリマーとしてごく一般的な密度範囲であること』については、審査官殿も認めるとおり、引用文献1には上記密度範囲の記載は全くありません。そして、審査官殿は、上記範囲の密度は当業者が適宜設定し得るものであるなどとしていますが、これは後知恵です。 ・・・・・・ したがって、進歩性の判断は、創作できるか否かではなく、創作しようとしたか否か、採用しようとしたか否かで判断すべきものです。 この判断手法によれば、上述した本願発明の顕著な効果は、特定範囲の密度のエチレンポリマーを採用したことがひとつの原因となって初めて達成されたものですから、この効果と密度との関連について一切記載も示唆もされていない引用文献1に基づいて、本願発明に想到することはありません。」 5-1.主張1について 「カナダ特許第797917号」は刊行物1に対応するものであるから、「カナダ特許第797917号に教示されたフィルム」は、引用発明の方法によって製造されたポリマーを原料とするフィルム(以下、「引用フィルム」という。)である。 そして、請求人の指摘する本願明細書の段落[0062]には、引用フィルムの破壊抵抗、縦方向エルメンドルフ引裂強さ及び曇り度であるとされる値が記載されているが、その数値を示す具体的な引用フィルムを製造する際に採用した製造条件及び原料の組成比等は不明である。 そうすると、段落[0062]に記載された引用フィルムの破壊抵抗、縦方向エルメンドルフ引裂強さ及び曇り度の値は、客観的データによって裏付けられたものではない。 したがって、上記段落[0062]の記載を参酌しても、本願発明の方法によって製造されたポリマーを原料とするフィルム(以下、「本願フィルム」という。)が、引用フィルムと比較して、破壊抵抗、縦方向エルメンドルフ引裂強さ及び曇り度において格別顕著な効果を奏することが客観的に示されているとはいえない。 よって、主張1は採用できない。 5-2.主張2について 第4.[4]4-4.において教示したとおりであるから、主張2は採用できない。 5-3.主張3について 上記5-1.で教示したとおり、引用フィルムについて請求人が主張する「35%より多い曇り度」なる物性は、客観的データによって裏付けられたものではない。 また、本願出願時の技術常識からみて、通常、フィルムの曇り度は、原料ポリマーのゲル含有率のみによって決まるものではなく、原料の組成比、添加剤の種類及び製造手段等の種々の要件に応じて変化するから、たとえ、引用フィルムの曇り度の客観的データが得られたとしても、本願フィルムと引用フィルムの曇り度のみを比較することによって、それぞれの原料ポリマーの「ゲル含有率」を比較することはできない。 したがって、主張3は採用できない。 5-4.主張4について 本願明細書には、「少なくとも0.89g/mLであり且つ0.935g/mLより小さい密度」以外の密度を有する「エチレンポリマー」を用いた比較例が記載されていないし、また、請求人の主張は、「少なくとも0.89g/mLであり且つ0.935g/mLより小さい密度」以外の密度を有する「エチレンポリマー」を用いた場合に具体的にどのような結果が得られるのかを明らかにするものではない。 そうすると、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願発明の奏する効果が「少なくとも0.89g/mLであり且つ0.935g/mLより小さい密度」の「エチレンポリマー」を用いた場合にのみ達成されることが明らかであるとはいえない。 したがって、主張4は採用できない。 5-5.まとめ 以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-04-26 |
結審通知日 | 2011-05-10 |
審決日 | 2011-05-23 |
出願番号 | 特願2000-507741(P2000-507741) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 堀 洋樹 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 内田 靖恵 |
発明の名称 | 低密度ポリエチレンのレオロジー修飾 |
代理人 | 大森 規雄 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 井口 司 |
代理人 | 片山 英二 |