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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1244505
審判番号 不服2010-219  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-06 
確定日 2011-10-06 
事件の表示 特願2007-242870「読み出し専用の光情報記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月 9日出願公開、特開2009- 76129〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成19年9月19日の出願であって、平成21年9月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年1月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、当審において平成23年5月9日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年7月11日付けで手続補正がなされたものである。


2.本願発明

本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成23年7月11日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
基板上にAl基合金からなる反射膜および光透過層が少なくとも1層ずつ順次積層された読み出し専用の光情報記録媒体であって、
前記反射膜の算術平均粗さRaは0.5nm以下であり、
前記反射膜の厚さは25nm以上であり、
前記Al基合金は、Ti、Ta、Cr、W、Mo、Nb、およびVよりなる群から選択される少なくとも一種を7.0?20%(特記しない限り、%は原子%を意味する。以下、同じ。)含有することによって高い反射率を有し、耐久性および再生安定性が高められたものであることを特徴とする読み出し専用の光情報記録媒体。」


3.引用例

これに対して、当審の拒絶理由において引用した本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2006-66003号公報(以下、「引用例1」という。)には図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

ア)
「【0014】
即ち、本発明のROM型光記録媒体は、その表面に複数の凹状ピットが形成された基板と、光透過層と、前記基板と前記光透過層との間に形成された反射層とを備え、前記光透過層を介して、レーザービームが照射されて、データが再生されるように構成されたROM型光記録媒体であって、前記凹状ピットが、記録すべきデータに応じて決定される基本長BLよりも長い長さを有し、トラック方向に隣り合う前記凹状ピット間のスペースの長さが、前記基本長BLよりも短い長さを有し、かつ、前記反射層が、アルミニウム(Al)を主成分としこれに添加物が加えられた材料からなることを特徴とするものである。
(中略)
【0016】
また、反射層を、アルミニウム(Al)を主成分としこれに添加物が加えられた材料からなるものとしたことで、環境負荷を抑制しつつ、所望の高い再生特性(変調度、反射率等)を得ることができる。即ち、アルミニウム(Al)に添加物が加えられた材料は、高い反射率を有していることから、レーザビームに対する光反射率を十分に高めることができるとともに、添加物によりその表面性が改善されるために、成膜終了面側からレーザビームが照射される次世代型のROM型光記録媒体においても、高い反射率を確保することが可能となるのである。」

イ)
「【0020】
また、本発明において「主成分」とは、当該層内において含有率(原子%=atm%)が最も高い元素を指す。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、良好なジッタ特性を有する再生信号を得ることができ、所望のように、データを再生することができるとともに、地球環境に与える負荷の小さい反射層を備えるROM型光記録媒体を提供することが可能になる。」

ウ)
「【0029】
また、後述するように、本実施形態に係る光記録媒体1は、光入射面とは反対側から順次成膜が行われる次世代型のROM型光記録媒体であるため、CDやDVDのように光入射面側から順次成膜が行われるタイプの光記録媒体に比べ、光入射面側における反射層表面が粗くなる傾向にある。これは、CDやDVDのように光入射面側から順次成膜が行われるタイプの光記録媒体では、反射層の表面のうち成膜開始面が光入射面側に位置するため、その表面性は下地の表面性とほぼ一致するが、図示する本実施形態に係る光記録媒体1のように、光入射面とは反対側から順次成膜が行われる次世代型の光記録媒体では、反射層3の表面のうち成膜終了面13aが光入射面側に位置するため、成膜過程における結晶成長により表面性が低下するからである。従って、本発明に係る反射層3の材料としては、成膜終了面13aにおける表面性に優れた材料を選択する必要がある。
【0030】
以上を考慮して、本実施形態においては、反射層3の材料として、アルミニウム(Al)を主成分とし、これに添加物が加えられた材料を用いる。アルミニウム(Al)は、波長λが380nm?450nmのレーザビームに対して十分に高い反射率を有することから、レーザビームLに対する光反射率を十分に高めることができ、所望の高い再生特性を得ることが可能となる。また、コスト性および保存信頼性に優れるという利点も有している。
【0031】
アルミニウム(Al)に添加する添加物としては、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)および金(Au)が好適であり、中でも、マグネシウム(Mg)およびタングステン(W)が特に好ましい。これらの添加物を加えることにより、反射層3が純粋なアルミニウム(Al)からなる場合に比べて表面性が向上することから、本実施形態に係る光記録媒体1におけるように、光入射面とは反対側から順次成膜を行った場合においても、反射層3の成膜終了面13aにおける表面性を改善することが可能となる。」

エ)
「【0036】
また、上述した表面性の改善効果は、タングステン(W)を添加した場合においても顕著に得ることができる。添加する元素がタングステン(W)である場合には、その添加量としては5?16atm%に設定することが好ましく、10atm%程度に設定することが特に好ましい。タングステン(W)の添加量を5?16atm%に設定することで、反射率を大きく損なうことなく表面性の改善効果を十分に得ることが可能となり、さらに、タングステン(W)の添加量を10atm%程度に設定することで、反射率と表面性の改善効果を最も好ましく両立させることが可能となる。」

オ)
「【0038】
反射層3の厚さとしては、5?300nmに設定することが好ましく、20?200nmに設定することが特に好ましい。これは、反射層3の厚さが5nm未満であると反射層3による上記効果を十分に得ることができない一方、反射層3の厚さが300nmを超えると、反射層3の成膜終了面13aの表面性が低下するばかりでなく、成膜時間が長くなって生産性が低下してしまうからであり、反射層3の厚さを5?300nm、特に20?200nmに設定すれば、反射層3による上記効果を十分に得ることができるとともに、成膜終了面13aの表面性を維持することができ、さらに、生産性の低下を防止することが可能となる。」

前掲ア)ないしオ)の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「基板と、光透過層と、前記基板と前記光透過層との間に形成された反射層とを備え、前記光透過層を介して、レーザービームが照射されて、データが再生されるように構成されたROM型光記録媒体であって、
反射層の材料として、アルミニウム(Al)を主成分とし、これに添加物が加えられた材料を用いるものであり、添加物としては、タングステン(W)が特に好ましく、この添加物を加えることにより、反射層が純粋なアルミニウム(Al)からなる場合に比べて表面性が向上するものであり、特にタングステン(W)の添加量を10atm%程度に設定することで、反射率と表面性の改善効果を最も好ましく両立させることが可能となるものであり、
反射層の厚さとしては、20?200nmに設定することが特に好ましいROM型光記録媒体。」


同じく、当審の拒絶理由において引用した本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2002-230840号公報(以下、「引用例2」という。)には図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

カ)
「【0021】図4に、文献に報告された高い開口数(NA=0.7)を有する再生専用光ディスクにおいて反射膜の表面粗さによる信号比(C/N)の変化を示した。このような反射膜の表面粗さによる媒体雑音の影響は開口数が大きくなるに連れて大きくなり、特に、近接場を用いる、即ち、有効開口数(effective NA)が大きい場合(NAeff>>1)ほど反射膜の表面粗さによる媒体雑音の影響は更に大きくなることから、積層された反射膜の表面粗さを減らすことが信号比向上のための必須的な要件となることが明らかとなった。」

キ)
「【0033】図6においては、一般的に多く用いられるAl-Cr合金反射膜(a)と本発明にて提供する反射膜(b)とのX線回折(X-ray diffraction;XRD)パターンを比較した。本発明に係る薄膜は、Al-Y-Ni合金からなり、その組成はAl-Y(7%)-Ni(7%)であり、同図にて示されるとおり、アモルファス状態であることが明らかである。
【0034】図7(b)は本発明にて提供する薄膜材料をSi基板に100nm成長させた後、表面をAFM(Atomic Force Microscopy)で測定した写真であり、Al-Cr合金膜の場合(図7(a))と比べた写真である。
【0035】本発明にて提供するアモルファス反射膜の場合、表面粗さが0.15?0.3nm程度であり、常用反射膜材料であるAl-Cr反射膜の表面粗さである2.1nmと比べると、約1/10程度にしかならないことから大変優れた表面状態を提供することが明らかとなった。」


同じく、当審の拒絶理由において引用した本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2004-79131号公報(以下、「引用例3」という。)には図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

ク)
「【0014】
前記中心面平均粗さSRaが30nmを超えると、すなわち光反射層の表面粗さが粗くなると、反射光が散乱しやすくなり、ノイズの増大、ジッタ及びエラーレートの特性劣化の原因となる。中心面平均粗さSRaは、好ましくは0.25?10nmであり、より好ましくは、0.25?2.5nmである。なお、中心面平均粗さSRaは製造上0とすることは不可能である。
同様に、光反射層表面の基準面からの高さが50nm以上の突起数が30(個/90μm角)を超えると、反射光が散乱しやすくなり、ノイズの増大、ジッタ及びエラーレートの特性劣化の原因となる。また、極端な場合には、記録層の塗布ムラを生じ、記録抜けを引き起こし、ノイズの増大、ジッター及びエラーレートの特性劣化を引き起こすことがある。該突起数は、好ましくは、15(個/90μm角)以下、より好ましくは5(個/90μm角)以下であり、該突起数の下限は理想的には0(個/90μm角)である。
光反射層の表面の中心面平均粗さSRaと突起数とを上記数値とすることにより、ノイズ増大、ジッタの特性劣化等を防ぐことができる。」

ケ)
「【0043】
(実施例3)
実施例1において、Agのスパッタ条件を、スパッタパワー0.25kW、アルゴン流量1cm3/secに変更してスパッタすることにより層厚60nmの光反射層を形成したこと以外、実施例1と同様に実施例3の光情報記録媒体を作製した。」

コ)
【0055】の【表1】に示される実施例3では、光反射層の表面の中心面平均粗さSRa=0.36nmであることが示されている。」


4.対比

本願発明と引用発明1と対比する。

(1)引用発明1の「基板」、「光透過層」、「反射層」、「ROM型光記録媒体」は、それぞれ本願発明の「基板」、「光透過層」、「反射膜」、「読み出し専用の光情報記録媒体」に相当し、引用発明1の「基板と、光透過層と、前記基板と前記光透過層との間に形成された反射層とを備え」た「ROM型光記録媒」は、本願発明の「基板上に反射膜および光透過層が少なくとも1層ずつ順次積層された読み出し専用の光情報記録媒体」に相当する。

(2)引用発明1の「反射層」は、「アルミニウム(Al)を主成分」とするものであるから、「Al基合金からなる反射層」であるといえ、さらに、これに加える添加物として「タングステン(W)が特に好ましく、タングステン(W)の添加量を10atm%程度に設定する」としていることから、引用発明1は、実質的に、「タングステン(W)を10atm%添加するAl基合金からなる反射層」を開示しているといえる。
そして、引用発明1の前記「タングステン(W)を10atm%添加するAl基合金かなる反射層」は、本願発明の「Ti、Ta、Cr、W、Mo、Nb、およびVよりなる群から選択される少なくとも一種を7.0?20%(特記しない限り、%は原子%を意味する。以下、同じ。)含有する」「Al基合金からなる反射膜」のうち、「Wを10%(特記しない限り、%は原子%を意味する。以下、同じ。)含有する」「Al基合金からなる反射膜」に相当する。

(3)引用発明1では、アルミニウム(Al)を主成分とする反射層に「タングステン(W)の添加量を10atm%程度に設定することで、反射率と表面性の改善効果を最も好ましく両立させることが可能となる」としており、ここで、反射率の改善効果とは、反射率を高めることを意味していることは明らかであるから、引用発明1の反射層も、タングステン(w)を添加することによって「高い反射率を有し」ているといえる。

以上のことからすると、本願発明と引用発明1とは、

<一致点>
「基板上にAl基合金からなる反射膜および光透過層が少なくとも1層ずつ順次積層された読み出し専用の光情報記録媒体であって、
前記Al基合金は、Wを10%(特記しない限り、%は原子%を意味する。以下、同じ。)含有することによって高い反射率を有したものである読み出し専用の光情報記録媒体。」

である点で一致し、次の相違点で相違する。

<相違点1>
反射膜の表面粗さに関して、本願発明では、「反射膜の算術平均粗さRaは0.5nm以下」としているのに対して、引用発明1では、そのような特定をしていない点。

<相違点2>
反射膜の厚さに関して、本願発明では、「25nm以上」としているのに対して、引用発明1では、「20?200nmに設定することが特に好ましい」としている点。

<相違点3>
Al基合金からなる反射膜がWを10%含有することによって生じる作用効果に関して、本願発明では「耐久性および再生安定性が高められた」としているのに対して、引用発明1ではこのような作用効果を特定していない点。


5.当審の判断

上記相違点について検討する。

<相違点1>について
引用例2、3に示されるように、ジッタなどの信号特性を向上させるためには反射層の表面粗さを低減させる必要があることはよく知られており、引用発明1においても、前掲ウ)に示されるように、「本実施形態に係る光記録媒体1は、光入射面とは反対側から順次成膜が行われる次世代型のROM型光記録媒体であるため、CDやDVDのように光入射面側から順次成膜が行われるタイプの光記録媒体に比べ、光入射面側における反射層表面が粗くなる傾向にある」、「光入射面とは反対側から順次成膜が行われる次世代型の光記録媒体では、反射層3の表面のうち成膜終了面13aが光入射面側に位置するため、成膜過程における結晶成長により表面性が低下する」としているところ、タングステン(W)を添加することにより、「純粋なアルミニウム(Al)からなる場合に比べて表面性が向上する」としていることから、引用発明1では、Alを主成分とする反射層の表面粗さを低減するためにタングステン(W)を添加していることは明らかである。
してみると、本願発明も引用発明1も、Al基合金からなる反射膜の表面粗さを低減させるという目的のためにWを添加している点は共通しており、かつ、かかるWの添加量も同一であることから、引用発明1の反射層も本願発明の反射膜と同等の表面粗さの低減を達成していると解するのが妥当である。
そして、引用発明1と同様に反射層の表面粗さを低減することを目的とした前記引用例2、3には、表面粗さを0.15?0.3nm程度とした反射層、中心面平均粗さSRa=0.36nmとした反射層が開示されており、表面粗さが0.5nm以下である反射層も格別のものではないと認められるところ、引用発明1において、反射層の表面粗さを「算術平均粗さRaは0.5nm以下」と特定することは、表面粗さを低減するという目的や、表面粗さが0.5nm以下である反射層が従来から実施されていることを勘案すると、当業者であれば適宜設定しうる事項であり、この点に格別の臨界的意義も認められない。

<相違点2>について
反射膜の厚さを成膜時間、反射率、及び耐久性など考慮して適切な範囲に設定することは、当業者であれば適宜設定しうる程度の事項である。引用発明1では、反射膜の厚さを「20?200nmに設定することが特に好ましい」としていることから、厚さの下限値を「20nm以上」と設定していることは明らかであるところ、かかる下限値をやや厚く「25nm以上」と設定することは、当業者であれば通常の創作活動の範囲内において適宜実施しうる程度の事項である。

<相違点3>について
本願発明の反射膜も引用発明1の反射層も、Al基合金にWを10%添加しているという組成は同一であって、その膜厚にも格段の差異は認められないことから、引用発明1の反射層も本願発明と同様に「耐久性および再生安定性が高められ」るという作用効果を有すると解されるものであり、かかる作用効果を特定していないことが、本願発明の反射膜と引用発明1の反射層とに実質的な差異をもたらすものとは認められない。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明の効果は、引用発明1及び引用例2、3に記載された発明から、当業者が十分に予測しうる程度のものにすぎず、顕著なものがあるとはいえない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1及び引用例2、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


6. むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明1及び引用例2、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-04 
結審通知日 2011-08-09 
審決日 2011-08-22 
出願番号 特願2007-242870(P2007-242870)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 雅昭  
特許庁審判長 小松 正
特許庁審判官 月野 洋一郎
山田 洋一
発明の名称 読み出し専用の光情報記録媒体  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 植木 久彦  
代理人 竹岡 明美  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久一  

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