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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1244521
審判番号 不服2010-9732  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-07 
確定日 2011-10-06 
事件の表示 特願2001-253463「密閉型冷却装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月 7日出願公開、特開2003- 69269〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成13年8月23日の出願であって、平成22年2月9日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年5月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに明細書に対する手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成23年4月20日(起案日)付けで審尋がなされ、平成23年7月5日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

【2】平成22年5月7日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年5月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に対し、以下のような補正を含むものである。なお、下線は、審判請求人が付した補正箇所である。

(1)本件補正前の請求項1(平成22年1月12日付け手続補正)
「【請求項1】 電子部品或いは電気機器を収納した密閉型筐体内にヒートパイプの受熱部が配され、前記ヒートパイプの放熱部が前記密閉筐体外に配された密閉型冷却装置であって、前記ヒートパイプの放熱部は前記密閉筐体側壁に沿って配され、放熱部側が受熱部側より上に位置し、
前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられたケーシング内に配され、
前記ケーシングには、前記放熱部の近傍に配された小型ファンが設けられていることを特徴とする密閉型冷却装置。」

(2)本件補正後の請求項1(平成22年5月7日付け手続補正)
「【請求項1】 電子部品或いは電気機器を収納した密閉型筐体内にヒートパイプの受熱部が配され、前記ヒートパイプの放熱部が前記密閉筐体外に配された密閉型冷却装置であって、
前記ヒートパイプの前記受熱部は前記密閉型筐体内で横方向に配され、前記ヒートパイプの前記放熱部は前記密閉筐体側壁に沿って上下方向に配され、放熱部側が受熱部側より全長にわたって上に位置し、
前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられ且つ前記放熱部の周囲が上下壁のないケーシング内に配され、前記放熱部には、該放熱部の上下方向に沿って延設された複数の面を有する放射状フィンが取り付けられ、
前記ケーシングには、前記放熱部の上方近傍に配された小型ファンが設けられていることを特徴とする密閉型冷却装置。」

2.補正の適否

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項について、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0008】?【0010】、【0013】、図3(イ)、及び図4(ロ)の記載に基づき、本件補正前の「前記ヒートパイプの放熱部は前記密閉筐体側壁に沿って配され、放熱部側が受熱部側より上に位置し、」を「前記ヒートパイプの前記受熱部は前記密閉型筐体内で横方向に配され、前記ヒートパイプの前記放熱部は前記密閉筐体側壁に沿って上下方向に配され、放熱部側が受熱部側より全長にわたって上に位置し、」と更に限定し、同じく「前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられたケーシング内に配され、」を「前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられ且つ前記放熱部の周囲が上下壁のないケーシング内に配され、前記放熱部には、該放熱部の上下方向に沿って延設された複数の面を有する放射状フィンが取り付けられ、」と更に限定し、同じく「前記ケーシングには、前記放熱部の近傍に配された小型ファンが設けられている」を「前記ケーシングには、前記放熱部の上方近傍に配された小型ファンが設けられている」と更に限定するものである。
すなわち、上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の各請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項の規定に違反する新規事項を追加するものではない。
以上のとおり、上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明について

3-1.本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記「【2】1.(2)」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

3-2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1.特開平9-162580号公報
刊行物2.実願昭59-192338号(実開昭61-106095号)のマイクロフィルム
刊行物3.特開平7-83582号公報
刊行物4.特開昭52-27550号公報

以下、周知事項を例示するための刊行物
(刊行物5.実願昭56-104850号(実開昭58-10577号)のマイクロフィルム)
(刊行物6.実願昭56-173498号(実開昭58-77278号)のマイクロフィルム)
(刊行物7.特開昭61-6585号公報)

[刊行物1]
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物1(特開平9-162580号公報)には、「ヒートパイプ式筐体放熱器」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体素子や電子機器等を収納する筐体内で発生した熱を外部へ逃がすために用いられるヒートパイプ式筐体放熱器に関し、特に、小型で、かつ高性能なヒートパイプ式筐体放熱器に関する。」

(イ)「【0009】本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、従来の放熱器よりも放熱効率を上げることができ、かつ、筐体の外部を自然循環にする必要がある場合であっても、設置スペースを小さくできる、小型で高性能なヒートパイプ式筐体放熱器を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0014】本発明によれば、筐体の外部に設けられた放熱フィンが筐体の一部を形成しているので、筐体内の熱はヒートパイプを介して放熱されるとともに、直接放熱フィンを介して放熱される。また、ヒートパイプの凝縮部が、筐体から離れた放熱フィンの部分に取り付けられるので、熱伝導に伴う放熱効率の低下をヒートパイプの放熱機能によって防止することができる。」

(エ)「【0016】図1に示すように、密閉の筐体1の内部には、光信号を電気信号に変換する変換機器等が搭載されており、リレー機能を有したリレーカードユニット2、制御機能を有した制御カードユニット3、補助電源であるバッテリー4等が設けられている。これらのリレーカードユニット2や制御カードユニット3の基板上に取り付けた素子やバッテリー4等の機器からの発熱により、筐体1内の温度が上昇し、それによって素子や機器は使用限界温度を越えてしまうので、筐体1内の熱を放熱するためのヒートパイプ式筐体放熱器5が設けられている。
【0017】このヒートパイプ式筐体放熱器5は、筐体1内の熱を集熱する集熱フィン6、筐体1の外部に設けられた放熱フィン7、集熱フィン6に取り付けられた蒸発部8aと、放熱フィン7に取り付けられた凝縮部8bとを備えたヒートパイプ8と、を有する。また、集熱フィン6の下部には、筐体1の内部で発生した熱を強制的に集熱させる強制循環手段としてのファン9が設けられている。
【0018】集熱フィン6及び放熱フィン7は、アルミニウム等の放熱性(伝導性)の優れた金属で形成されており、それぞれ蒸発部フィン取付部10、凝縮部フィン取付部11に所定間隔を隔てて複数枚配置されている。
【0019】ヒートパイプ8は、両端部が密閉された金属管内に作動液を減圧して封入したものである。通常は、銅ー水系のものが用いられるが、寒冷地で使用する場合等は、作動液として代替フロンやパーフルオロカーボン等を用いるのが好ましい。また、コンテナは銅以外にアルミニウム、ステンレス等で形成されているものでもよい。
【0020】ヒートパイプ8の集熱部8aは、水平方向に延びて形成され、その凝縮部8bは、設置スペースを小さくするため、筐体1の側面と略平行であり、かつ、筐体1の高さ方向に沿って延びて形成される。
【0021】また、ヒートパイプ8は、バーリング加工を施した薄板を圧入したり、押出あるいは機械加工により穴あるいは窪みを設けた型材のフィンに、ハンダや熱伝導性の充填材を介して取り付けられたり、カシメにより取り付けられる。
【0022】図2は、本発明のヒートパイプ式筐体放熱器を示す側断面図である。図2に示すように、ヒートパイプ8の凝縮部8bは、筐体1の側面から離れた放熱フィン7の先端部分に取り付けられている。このような構造により、熱伝導に伴う放熱効率の低下をヒートパイプ8の放熱機能によって防止することができ、放熱器5の高性能化を図ることができる。
【0023】図3は、放熱フィン7の内部構造を示す水平断面図である。図3に示すように、放熱フィン7は、筐体1の一部として形成されており、筐体1の側面に形成された開口部1aに取り付けられた平板部7aと、その平板部7aに筐体1の外側に突出して形成された外側突出部7bと、その外側突出部7bの先端部に形成され、ヒートパイプ8を支持するヒートパイプ支持部7cとを有する。このような構造により、筐体1内の熱が直接放熱フィン7を介して放熱されるので、従来の放熱器に比べ10%放熱効率を上げることができる。」

(オ)「【0026】図5は、筐体1の内気及び外気の流れを示す説明図である。図5に示すように、筐体1の内気K1は、ファン9により筐体1の高さ方向とは逆方向に流動され、時計方向に強制循環される。一方、筐体1の外気K2では、熱交換により温度上昇した空気が比重差により、下から上へ効率的に自然循環する。
【0027】図6は、筐体1の高さ位置と筐体1内外の温度との関係を示す特性図である。図6からわかるように、筐体1の外気K2の温度は、ヒートパイプ8の凝縮部8bの長手方向に沿って徐々に温度上昇していくため、筐体1の上部においては、筐体1の内気K1との温度差がとりにくくなる。そこで、本発明の放熱器5では、図5に示すように、筐体1の内気K1の温度が最も高くなる部分、すなわちヒートパイプ8の蒸発部8aの通過前の部分が放熱フィン7の上部から接するように強制循環されるので、図6に示すように、筐体1の内外の温度差が確保され、約2%性能を向上させることができる。
【0028】なお、本発明の放熱器5は、筐体1の外部を自然循環とした場合に特に効果を発揮するが、外部に強制循環用のファン13(図5参照)を設けてもよい。この場合、ファン13による強制循環で放熱すると、約50%放熱効率を向上させることができる。」

(カ)図1、図2、図5、及び上記記載事項(オ)の段落【0026】の記載から見て、放熱フィン7は、熱交換により温度上昇した空気が比重差により下から上へ効率的に自然循環することを考慮して、凝縮部8bの上下方向に沿って延設された複数の面を有するフィンであるものと解される。

(キ)図5及び上記記載事項(オ)の段落【0028】の記載から見て、強制循環用のファン13は、凝縮部8bの放熱のために設けられているものと解される。

そうすると、上記記載事項(ア)?(キ)及び図面の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「半導体素子や電子機器等を収納する密閉の筐体1内にヒートパイプ8の集熱部8aを有し、ヒートパイプ8の凝縮部8bが密閉の筐体1の外部に設けられたヒートパイプ式筐体放熱器5であって、
ヒートパイプ8の集熱部8aは密閉の筐体1内に水平方向に延びて形成され、ヒートパイプ8の凝縮部8bは密閉の筐体1の側面と略平行で、かつ、密閉の筐体1の高さ方向に沿って延びて形成され、
ヒートパイプ8の凝縮部8bは、密閉の筐体1の外部に設けられ、かつ、凝縮部8bは、密閉の筐体1の一部として形成され、凝縮部8bの上下方向に沿って延設された複数の面を有する放熱フィン7が取り付けられ、
密閉の筐体1の外部には凝縮部8bの放熱のための強制循環用のファン13が設けられている、ヒートパイプ式筐体放熱器5。」

[刊行物2?7]
相違点の判断において適宜引用個所を記載する。

3-3.発明の対比

本願補正発明と刊行物1発明を対比する。
刊行物1発明の「半導体素子や電子機器等を収納する密閉の筐体1」は、その機能からみて、本願補正発明の「電子部品或いは電気機器を収納した密閉型筐体」に相当し、以下同様に、「ヒートパイプ8」は「ヒートパイプ」に相当し、「集熱部8a」は「受熱部」に相当し、「凝縮部」は「放熱部」に相当し、「密閉の筐体1」は「密閉型筐体」に相当し、「ヒートパイプ式筐体放熱器5」は「密閉型冷却装置」に相当する。
刊行物1発明の「放熱フィン7」と本願補正発明の「放射状フィン」とは、いずれも「冷却フィン」である点で共通している。
そうすると、刊行物1発明の「半導体素子や電子機器等を収納する密閉の筐体1内にヒートパイプ8の集熱部8aを有し」は、実質的に、本願補正発明の「電子部品或いは電気機器を収納した密閉型筐体内にヒートパイプの受熱部が配され」に相当し、以下同様に、「ヒートパイプ8の凝縮部8bが密閉の筐体1の外部に設けられたヒートパイプ式筐体放熱器5であって」は、「前記ヒートパイプの放熱部が前記密閉筐体外に配された密閉型冷却装置であって」に相当し、「ヒートパイプ8の集熱部8aは密閉の筐体1内に水平方向に延びて形成され」は、「前記ヒートパイプの前記受熱部は前記密閉型筐体内で横方向に配され」に相当する。刊行物1発明の「ヒートパイプ8の凝縮部8bは密閉の筐体1の側面と略平行で、かつ、密閉の筐体1の高さ方向に沿って延びて形成され」は、上記刊行物1の図1、図2及び図5に記載された構造から見て、凝縮部8bが集熱部8aより全長にわたって上に位置していることは明らかであるから、実質的に、本願補正発明の「前記ヒートパイプの前記放熱部は前記密閉筐体側壁に沿って上下方向に配され、放熱部側が受熱部側より全長にわたって上に位置し」に相当する。
また、刊行物1発明の「ヒートパイプ8の凝縮部8bは、密閉の筐体1の外部に設けられ、かつ、凝縮部8bは、密閉の筐体1の一部として形成され」と、本願補正発明の「前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられ」とは、凝縮部8bが密閉の筐体1の一部として形成されている点を相違点において検討することとすると、少なくとも「前記放熱部は、前記密閉筐体の外側に設けられ」ている限りにおいて共通するものである。
刊行物1発明の「凝縮部8bの上下方向に沿って延設された複数の面を有する放熱フィン7が取り付けられ」と、本願補正発明の「前記放熱部の周囲が上下壁のないケーシング内に配され、前記放熱部には、該放熱部の上下方向に沿って延設された複数の面を有する放射状フィンが取り付けられ」とは、ケーシングの有無を相違点において検討することとすると、少なくとも「前記放熱部には、該放熱部の上下方向に沿って延設された複数の面を有する冷却フィンが取り付けられ」ている限りにおいて共通するものである。
刊行物1発明の「密閉の筐体1の外部には凝縮部8bの放熱のための強制循環用のファン13が設けられている」と、本願補正発明の「前記ケーシングには、前記放熱部の上方近傍に配された小型ファンが設けられている」とは、少なくとも「前記放熱部の近傍にファンが設けられている」限りにおいて共通するものである。

したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、
「電子部品或いは電気機器を収納した密閉型筐体内にヒートパイプの受熱部が配され、前記ヒートパイプの放熱部が前記密閉筐体外に配された密閉型冷却装置であって、
前記ヒートパイプの前記受熱部は前記密閉型筐体内で横方向に配され、前記ヒートパイプの前記放熱部は前記密閉筐体側壁に沿って上下方向に配され、放熱部側が受熱部側より全長にわたって上に位置し、
前記放熱部は、前記密閉筐体の外側に設けられ、
前記放熱部には、該放熱部の上下方向に沿って延設された複数の面を有する冷却フィンが取り付けられ、
前記放熱部の近傍にファンが設けられている、密閉型冷却装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明は、「前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられ且つ前記放熱部の周囲が上下壁のないケーシング内に配され、前記放熱部には、該放熱部の上下方向に沿って延設された複数の面を有する放射状フィンが取り付けられ、前記ケーシングには、前記放熱部の上方近傍に配された小型ファンが設けられている」のに対し、刊行物1発明では、凝縮部8bが密閉の筐体1の一部として形成され、上記のようなケーシングが取り付けられておらず、上記冷却フィンが放射状ではない放熱フィン7であり、上記冷却ファンがケーシングに設けられたものではなく、小型といえるものか否かも明らかではない点。

3-4.当審の判断

(1)相違点1について
ヒートパイプを用いた冷却装置において、放熱部から効果的に熱交換して冷却効率を向上させるには、熱交換をする表面積を増大させること、及び放熱部に送風する空気量を多くすることが有力な手段であり、上記表面積を増大させる手段として冷却フィンを設けること、及び上記空気量を多くする手段として冷却ファンを設けることは技術常識として広く知られていることである。そして、上記冷却フィンの形状・構造・大きさなどをどのようにするかは、放熱部に送風する空気の流れ、空気量、設置スペース、熱交換の表面積などの設計上の観点から当業者が決定し得る事項である。また、冷却フィンとの関連や放熱部の空気の流れの方向を考慮しつつ、上記冷却ファンについて、どの程度の空気量を放熱部に送風する必要があるか、放熱部に対してどの位置に設けるかなどということも、設計上の観点から当業者が決定し得る事項である。上記刊行物1には、放熱フィン7を筐体1の一部として形成することにより従来の放熱器に比べ10%放熱効率を上げることができることや(上記記載事項(エ)の段落【0023】)、ファン13による強制循環で放熱すると約50%放熱効率を向上させることができること(上記記載事項(オ)の段落【0028】)が記載されていることからも、当業者が冷却フィンや冷却ファンによって得られる冷却の効果を設計上考慮していることが理解できる。そうすると、必要な放熱量と冷却フィンの大きさや冷却ファンの空気量との関連において、刊行物1発明の凝縮部8bを密閉の筐体1の一部として形成して放熱効率を上げるか、当該凝縮部8bを密閉の筐体1の一部とすることなく別の手段によって放熱効率を上げるかは、当業者が適宜選択できる設計事項である。そして、上記冷却フィンとして放射状フィンを用いることは、上記刊行物5の第1図、上記刊行物6の第1図、上記刊行物7の第4図などに記載されているように周知事項であるから、刊行物1発明の凝縮部8bが密閉の筐体1の一部として形成されているとしても、上記設計事項に照らせば、凝縮部8bを密閉の筐体1の一部とすることなく、放射状フィンを選択して「前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられ」、かつ「前記放熱部には、該放熱部の上下方向に沿って延設された複数の面を有する放射状フィンが取り付けられ」ているようにすることは、刊行物1発明に上記周知事項を適用して当業者が容易に推考できたことである。
また、上記冷却装置において、熱交換によって生じる空気の自然対流を考慮することは、上記刊行物1の記載事項(オ)の段落【0026】に「筐体1の外気K2では、熱交換により温度上昇した空気が比重差により、下から上へ効率的に自然循環する。」や、上記刊行物3の段落【0036】の「図9は側壁面取り付け型の例であって、冷却装置筐体3-1、3-2は煙突効果向上用の風洞を兼ねて冷却装置基本ユニット全体を覆って垂直に設けられてある。その形状は実験結果に基づいて、対流吸入排出口の位置を対流の流入部に於ては出来るだけフィンに近く、対流の流出部に於てはフィンから十分に遠くなるよう構成されてある。」と記載されているように、技術常識である。そして、上記自然対流を考慮するにあたって、放熱部の周囲が上下壁のないケーシング内に配されるようにすることは、上記刊行物2の第2図の低温通風路14、上記刊行物3の図9の冷却装置筐体3-1、上記刊行物4の第4図(B)に記載され、ケーシングの放熱部の近傍に冷却ファンを設けることは、上記刊行物2の第2図のブロワ15、及び上記刊行物4の第4図の外気側ファン7に記載されているところ、上記冷却ファンは、その直径と回転数などによって送出できる空気量が変わるものであり、大型か小型かということは、スペースとの関連はあるとしても、冷却する機能において有意な差異をもたらすものではなく、冷却ファンを上記ケーシングに対して、上方近傍に設けるか、下方近傍に設けるか、側方近傍に設けるかなどといった配置は、空気の流れを考慮して適宜決定できる設計事項にすぎないから、「前記放熱部の周囲が上下壁のないケーシング内に配され」かつ「前記ケーシングには、前記放熱部の上方近傍に配された小型ファンが設けられている」ようにすることは、刊行物1発明に刊行物2?4に記載された発明を適用して当業者が容易に推考できたことである。
したがって、刊行物1発明に上記刊行物2?4に記載された発明及び上記周知事項を適用して、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)効果について
本願補正発明が奏する受熱効果の向上や交換熱量の増大といった効果は、刊行物1?4に記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できるものである。

(3)まとめ
本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年5月7日付け審判請求書において、刊行物1発明は、「放射状フィンが筐体側壁の外側に設けられ且つ該放射状フィンが取り付けられた凝縮部の周囲が上下壁のないケーシング内に配されているものではなく、加えて、放射状フィンが内部に配されたケーシングに、凝縮部の上方近傍に配された小形ファンが設けられているものでもありません。」(審判請求書の【請求の理由】4.(3)の項を参照。)などと述べて、本願は特許されるべき旨主張している。
しかしながら、審判請求人が主張する上記の構成は、いずれも刊行物1発明に上記刊行物2?4に記載された発明又は周知事項を適用して当業者が容易に想到し得たものであり、本願補正発明が上記刊行物2?4に記載された発明又は周知事項から予測されないような効果を奏するものとも認められない。
また、審判請求人は、審尋に対する平成23年7月5日付けの回答書において、同旨のことを主張するとともに、補正案を提示しているが、上記の判断を左右するものではない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

4.むすび

以上のとおり、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、刊行物1?4に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成22年5月7日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成22年1月12日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「【請求項1】 電子部品或いは電気機器を収納した密閉型筐体内にヒートパイプの受熱部が配され、前記ヒートパイプの放熱部が前記密閉筐体外に配された密閉型冷却装置であって、前記ヒートパイプの放熱部は前記密閉筐体側壁に沿って配され、放熱部側が受熱部側より上に位置し、
前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられたケーシング内に配され、
前記ケーシングには、前記放熱部の近傍に配された小型ファンが設けられていることを特徴とする密閉型冷却装置。」

2.引用刊行物とその記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は次のとおりであり、その記載事項は、上記【2】3-2.のとおりである。

刊行物1.特開平9-162580号公報
刊行物2.実願昭59-192338号(実開昭61-106095号)のマイクロフィルム
刊行物3.特開平7-83582号公報
刊行物4.特開昭52-27550号公報

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明の「前記ヒートパイプの前記受熱部は前記密閉型筐体内で横方向に配され、前記ヒートパイプの前記放熱部は前記密閉筐体側壁に沿って上下方向に配され、放熱部側が受熱部側より全長にわたって上に位置し、」を、「前記ヒートパイプの放熱部は前記密閉筐体側壁に沿って配され、放熱部側が受熱部側より上に位置し、」と拡張し、同じく「前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられ且つ前記放熱部の周囲が上下壁のないケーシング内に配され、前記放熱部には、該放熱部の上下方向に沿って延設された複数の面を有する放射状フィンが取り付けられ、」を、「前記放熱部は、前記密閉筐体側壁の外側に設けられたケーシング内に配され、」と拡張し、同じく「前記ケーシングには、前記放熱部の上方近傍に配された小型ファンが設けられている」を、「前記ケーシングには、前記放熱部の近傍に配された小型ファンが設けられている」と拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-3.発明の対比」、及び「【2】3-4.当審の判断」に示したとおり、刊行物1?4に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記のとおり、構成を拡張した本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物1?4に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1?4に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2011-07-25 
結審通知日 2011-07-26 
審決日 2011-08-15 
出願番号 特願2001-253463(P2001-253463)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川内野 真介  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 山岸 利治
所村 陽一
発明の名称 密閉型冷却装置  
代理人 江村 美彦  
代理人 宮城 康史  
代理人 住吉 秀一  
代理人 大久保 恵  
代理人 茜ヶ久保 公二  

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