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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1244531
審判番号 不服2010-14236  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-29 
確定日 2011-10-05 
事件の表示 特願2004-541030「1次元アレイ超音波プローブに関する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月15日国際公開、WO2004/031802、平成18年 1月12日国内公表、特表2006-501005〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年9月1日(パリ条約による優先権主張日 平成14年10月4日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成22年2月23日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。さらに,同年9月21日付けで審尋がなされ,回答書が平成23年3月25日付けで請求人より提出されたものである。

第2 平成22年6月29日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち請求項1についてする補正は,以下のとおりである。

(1)補正前の請求項1(平成22年1月8日付けの手続補正によって補正されたもの。)
「【請求項1】
送信及び受信素子を有する超音波トランスデューサ素子の1次元アレイであって,関心領域に向けられる送信アコースティックビームを生成するように前記送信素子を動作させる送信器に応答する1次元アレイと,
前記1次元アレイに機能的に接続され,前記関心領域から受け取られる前記送信アコースティックビームのエコーに応じて,受信ビームを合成する受信ビームフォーマであって,前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給するアナログランダムアクセスメモリ素子を含むアナログランダムアクセスメモリ装置を有し,前記ビーム形成されたRF出力が前記関心領域の画像を形成するために使用するのに適している,受信ビームフォーマと,
を有し,
前記アナログランダムアクセスメモリ装置は,第1のクロックを受ける入力カウンタ及び第2のクロックを受ける出力カウンタを有し,アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供し,又は前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供する,フェイズドアレイ超音波走査装置。」

(2)補正後の請求項1(下線は,補正箇所を示す。)
「【請求項1】
送信及び受信素子を有する超音波トランスデューサ素子の1次元アレイであって,関心領域に向けられる送信アコースティックビームを生成するように前記送信素子を動作させる送信器に応答する1次元アレイと,
前記1次元アレイに機能的に接続され,前記関心領域から受け取られる前記送信アコースティックビームのエコーに応じて,受信ビームを合成する受信ビームフォーマであって,前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給するアナログランダムアクセスメモリ素子を含むアナログランダムアクセスメモリ装置を有し,前記ビーム形成されたRF出力が前記関心領域の画像を形成するために使用するのに適している,受信ビームフォーマと,
を有し,
前記アナログランダムアクセスメモリ装置は,
第1のクロックを受ける入力カウンタ及び第2のクロックを受ける出力カウンタを有し,
アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供し,前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供し,
更に前記送信アコースティックビームを遅延させるためにも使用される,フェイズドアレイ超音波走査装置。」

2 特許法第17条の2第3項の要件(新規事項の追加)について
(1)本願の願書に最初に添付した明細書(以下,「当初明細書」という。)の段落【0027】における「一実施例において,2つのカウンタ70及び72の間の時間差は,2つのカウンタへのクロック(CLK1及びCLK2)を同じにすることによって,アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる。この実施例は,固定の静止フォーカスを提供する。」の記載,および,同段落【0028】における「別の実施例において,2つのカウンタ70及び72の間の時間差は,2つのカウンタに対して異なるクロックを使用することによって,アコースティックラインに沿って変更される。2つのクロックについて適当なパルスストリームを選択することによって,フォーカスが,アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて維持されることができる。この実施例は,ダイナミックフォーカスを提供する。」の記載からみて,当初明細書には,「アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる入力及び出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供する」実施例と,「前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供する」実施例とが記載されているといえる。また,超音波診断装置の分野において,静的なフォーカシングと,ダイナミックフォーカシングの両者を提供することは,本願優先日前に周知である。
してみると,本件補正において,「アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供し,前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供し,」とする補正は,新たな技術的事項を加えるものではなく,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(2)当初明細書の段落【0023】における「代替例として,送信ビームフォーマは,受信ビームフォーマと同じアナログ遅延素子を使用することができる。この構造においては,スイッチが,送信中に送信信号を遅延させ,信号受信中に受信回路を遅延させるようにアナログ遅延回路を切り替えるために使用される。アナログ遅延回路は,アナログ信号又はデジタルパルスのいずれも遅延させるために使用されることができる。」の記載からみて,本件補正において,前記アナログランダムアクセスメモリ装置は,「更に前記送信アコースティックビームを遅延させるためにも使用される」とする補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

してみると,本件補正は,特許法第17条の2第3項の要件を満たすものである。

3 本件補正の目的
本件補正前の「アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供し,又は前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供する,」を,「アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供し,前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供し,」とする補正は,本件補正前に,選択事項であった「アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供」することと,「前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供」することとを,本件補正後では,両者を必須事項として限定して,特許特許請求の範囲を減縮するものである。
また,本件補正前の「アナログランダムアクセスメモリ装置」について,「更に前記送信アコースティックビームを遅延させるためにも使用される」とする補正は,アナログランダムアクセスメモリ装置の用途について限定を付加し,特許特許請求の範囲を減縮するものである。

以上のことから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下検討する。

4 引用刊行物の記載事項
本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開2000-33087号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下において,下線は当審にて付与したものである。
(1-ア)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,超音波,フェーズドアレイ撮像システムに関する。より詳細には非常に多くの数のトランスデューサ素子を有するトランスデューサアレイを利用した撮像システムに関する。また本発明は,ビームフォーマ(beamformer)チャンネルよりも多数のトランスデューサ素子を有するトランスデューサアレイを含む撮像システムに関する。」

(1-イ)
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】トランスデューサ素子にパルスを発生させるために,従来型超音波システムは通常パルス発生器を使って送信素子をトリガする。パルス発生器は,所望の遅延値に到達するまでクロックサイクルをカウントするための,さらにクロックサイクルをカウントして所望のパルス幅及びパルス数を得るための同期式カウンタを使用する。一般的には1つの同期式カウンタが1つのトランスデューサ素子に接続されているので,そのような大型の二次元トランスデューサアレイに接続されたシステムには,送信パルスを与えるために数百又は数千の同期式カウンタが必要とされ,これには多大な電力と空間が必要である。さらに非常に多数のトランスデューサ素子に接続された従来型の超音波システムには,大きい遅延と細密な遅延解像度を有する遅延線を持つ受信ビームフォーマチャンネルが多数必要とされる。
【0011】一般に二次元又は三次元画像を与えるためには,大型トランスデューサアレイを用いた超音波撮像システムが必要である。このシステムは,その大きさ,コスト及び複雑性において実用的である必要があり,また動く器官の画像を捉えるために充分に高速で動作することが必要である。」

(1-ウ)
「【0019】グループ内送信プロセッサはプログラム可能な遅延線を含む。プログラム可能な遅延線にはデュアルクロック(dual clock)フリップフロップが含まれる。」

(1-エ)
「【0023】グループ内受信プロセッサは,トランスデューサ信号を遅延させるように構成及び配列された,以下の素子の内の1つを含む。その素子とは,電荷結合素子,アナログRAM,サンプルアンドホールド(sample-and-hold)回路,能動フィルタ,L-Cフィルタ,スイッチキャパシタフィルタである。」

(1-オ)
「【0085】
【発明の実施の形態】図1を参照すると,フェーズドアレイ超音波撮像システム(10)は,トランスデューサハンドル(14)内に位置するトランスデューサ素子(12)のアレイを含んでいる。トランスデューサハンドル(14)は,トランスデューサケーブル(16)とトランスデューサコネクタ(18)を介してエレクトロニクスボックス(20)に接続されている。エレクトロニクスボックス(20)は,キーボード(22)とインターフェースで連結され,画像信号をディスプレイ(24)へと供給する。トランスデューサアレイ(12)は,二次元アレイ,大型の一次元アレイ又は1.5次元アレイとして配列した数百もしくは数千ものトランスデューサ素子を含む。トランスデューサアレイ(12)は,選択された領域(例えば円形,環状パターン)に分布する別個の送信及び受信アレイに配列されたトランスデューサ素子を有していても良い。代替的にトランスデューサ素子が,セミランダム(semi-random)パターンに分布していても良い。トランスデューサハンドル(14)は,送信パルス発生器と,関連の高電圧ドライバ,低ノイズ受信前置増幅器そして遅延及び加算回路を含む。重要なのは,一実施例において,素子が小さな体積内に集積されてトランスデューサハンドル(14)内に配置されていることである。トランスデューサケーブル(16)は,信号線,電力線,クロック線及びデジタル制御線とアナログ基準電流線を含むシリアルデジタルデータ線を含む。」

(1-カ)
「【0087】図2を参照すると,他の実施例においては,超音波撮像システム(10)は,被検体の人体器官の三次元画像データを得るための,例えば3000個のトランスデューサ素子を有する二次元トランスデューサアレイ(30)を利用している。トランスデューサアレイ(30)は,3000個のトランスデューサ素子を,各々のグループが5×5=25個の素子を含む120個のサブアレイにまとめられている。撮像システム(10)は,トランスデューサ素子の約半数を超音波エネルギーの送信に使用し,残りの半分を超音波エネルギーの受信に使用する。送信及び受信素子は,アレイ(30)中にランダムに分布している。送信及び受信素子を分けることにより,装置にはT/Rスイッチが不要となり,これによって装置の複雑性が低減される。」

(1-キ)
「【0092】またシステムコントローラ(52)は,遅延コマンドをバス(55)を介して受信ビームフォーマのチャンネルに提供し,またバス(56)を介してグループ内受信プロセッサに遅延コマンドを提供する。加えられた相対遅延は合成された受信ビームの向き及びフォーカスを制御する。受信ビームフォーマチャンネルの各々(48_(i))は,受信した信号深度の関数として利得を制御する可変利得増幅器と,合成されたビームのビーム方向制御及び動的集束を達成するために音響データを遅延させる遅延素子とを含む。加算素子(50)は,ビームフォーマチャンネル(48_(1),48_(2),・・・48_(N))からの出力を受信し,その出力を加算してその結果であるビームフォーマ信号を画像生成器(58)へ提供する。ビームフォーマ信号は,受信走査線に沿って合成された受信超音波ビームを表わす。画像生成器(58)は,合成された多数の往復ビームにより精査された部位の画像をセクタ形パターン,平行四辺形パターン又は三次元パターンを含むその他のパターンに構成する。
【0093】送信及び受信ビームフォーマの両方は,例えば米国特許4,140,022号,5,469,851号又は5,345,426号(これらは全て参考資料として添付)に記述されるアナログ又はデジタルのビームフォーマであって良い。
【0094】システムコントローラは,送信ビームフォーマチャンネル(41_(i))中の『粗い』遅延値及びグループ内送信プロセッサ(38_(i))の『細かな』遅延値を使用することによりトランスデューサ素子のタイミングを制御する。・・・」

(1-ク)
「【0100】図12を参照して,他の実施例においては,グループ内アナログ受信プロセッサ(115)には,加算素子(120)に接続する一組のプログラム可能な遅延線(118_(1),118_(2),・・・118_(R))が含まれる。出力(122)から,加算素子(120)が遅延及び加算された信号を受信ビームフォーマ(46)の1つの処理チャンネル(48_(i))へと提供する。プログラム可能な遅延線の各々(118_(i))は,アナログ遅延線としてもしくはデジタル遅延線として実現される。アナログ遅延線(118_(i))の各々は,図13?図25に関連して説明されるように,電荷結合素子,アナログRAM,サンプルアンドホールド回路,能動フィルタ,L-Cフィルタ,又はスイッチキャパシタフィルタを含むことができる。」

(1-ケ)
「【0108】図23を参照して,他の実施例において,アナログランダムアクセスメモリ(RAM)素子(210)が,プログラム可能な遅延素子として利用される。RAM素子(210)は,入力スイッチ(215_(1),215_(2),・・・215_(M))及び出力スイッチ(217_(1),217_(2),・・・217_(M))にそれぞれ接続するデコーダ(216,218)を使用してM個の入力サンプル信号を記憶するための一群のM個の記憶キャパシタ(214_(1),214_(2),・・・214_(M))を含む。入力バッファ(212)は,デコーダ(216)によって制御される入力スイッチ(215_(i))により記憶キャパシタ(214_(i))へと後に送られるトランスデューサ信号を受信する。出力スイッチ(217_(i))に結合するデコーダ(218)は,個々のキャパシタの電荷を,入力カウンタ(220)と出力カウンタ(222)間のタイミングの差異により決定される遅延時間でサンプリングする。したがってトランスデューサ信号は,入力バッファ(212)から出力バッファ(224)に送信される間に選択された遅延時間だけ遅延される。アナログRAM素子は,ノイズと信号ひずみを低減するため,超音波トランスデューサ信号を遅延させるために単一のキャパシタのみを使用する。」

(1-コ)
「【0113】図3を参照すると,撮像システムは,データバス(53?56)により概略が示されるように,遅延値をグループ内送信及び受信プロセッサと送信及び受信ビームフォーマに提供するためのデジタル制御回路を有するシステムコントローラ(52)を含む。ビームフォーマチャンネルは『粗い』遅延値を受信し,グループ内プロセッサは『細かい』遅延値を受信する。・・・」

(1-サ)
「【0130】10.被検体部位を画像化するためのフェーズドアレイ音響装置であって:多数のトランスデューサ素子を含む送信アレイ(30A)と;被検体部位に放射される送信音響ビームを生成するように構成及び配列されている前記トランスデューサ素子に接続される幾つかの送信ビームフォーマチャンネル(41_(1),41_(2),・・・41_(M))を含む送信ビームフォーマ(40)と;幾つかの受信サブアレイ(42_(1),42_(2),・・・42_(N))に割り付けられている多数のトランスデューサ素子を含む受信アレイ(30B)と;前記幾つかの受信サブアレイに接続する幾つかのグループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))と,このグループ内受信プロセッサの各々が前記接続するサブアレイの前記トランスデューサ素子から,前記送信音響ビームからのエコーに呼応してトランスデューサ信号を受信するように配列され,前記グループ内受信プロセッサの各々が,前記受信したトランスデューサ信号を遅延させるように配列される遅延素子(118_(1),118_(2),・・・118_(R))を形成するアナログRAM素子(210)と,前記遅延されたトランスデューサ信号を受信し,前記遅延されたトランスデューサ信号を加算するように構成されている加算素子(120)とを含み;受信ビームフォーマ(46)と,この受信ビームフォーマ(46)が,前記幾つかのグループ内受信プロセッサに接続されている幾つかの処理チャンネル(48_(1),48_(2),・・・48_(N))と,この処理チャンネルの各々が前記グループ内受信プロセッサから受信した信号を遅延することによって前記エコーから受信ビームを合成するように構成及び配列されているビームフォーマ遅延機構を含み,前記処理チャンネルから信号を受信して加算するように構成及び配列されているビームフォーマ加算機構(50)とを含み,そして;前記受信ビームフォーマから受信した信号を基にして前記被検体部位の画像を形成するように構成及び配列されている画像生成器(58)とを含むことを特徴とするフェーズドアレイ音響装置。」

上記摘記事項,特に,摘記事項(1-サ),(1-オ),(1-キ)および(1-ケ)からみて,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「被検体部位を画像化するためのフェーズドアレイ音響装置であって,
多数のトランスデューサ素子を含む送信アレイ(30A)と,
被検体部位に放射される送信音響ビームを生成するように構成及び配列されている前記トランスデューサ素子に接続される幾つかの送信ビームフォーマチャンネル(41_(1),41_(2),・・・41_(M))を含む送信ビームフォーマ(40)と,
幾つかの受信サブアレイ(42_(1),42_(2),・・・42_(N))に割り付けられている多数のトランスデューサ素子を含む受信アレイ(30B)と,
前記幾つかの受信サブアレイに接続する幾つかのグループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))であって,前記グループ内受信プロセッサの各々が,受信したトランスデューサ信号を遅延させるように配列される遅延素子(118_(1),118_(2),・・・118_(R))を形成するアナログRAM素子(210)と,前記遅延されたトランスデューサ信号を受信し,前記遅延されたトランスデューサ信号を加算するように構成されている加算素子(120)と,を含む前記グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))と,
受信ビームフォーマ(46)であって,前記幾つかのグループ内受信プロセッサに接続されている幾つかの処理チャンネル(48_(1),48_(2),・・・48_(N))と,前記処理チャンネルの各々が前記グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))から受信した信号を遅延することによって合成されたビームのビーム方向制御及び動的集束を達成するビームフォーマ遅延機構と,前記処理チャンネルから信号を受信して加算するように構成及び配列されているビームフォーマ加算機構(50)とを含む,前記受信ビームフォーマ(46)と,
前記受信ビームフォーマ(46)から受信した信号を基にして前記被検体部位の画像を形成するように構成及び配列されている画像生成器(58)とを含み,
前記送信アレイ(30A)と前記受信アレイ(30B)は,大型の一次元アレイを構成しており,
前記アナログRAM素子(210)は,入力スイッチ(215_(1),215_(2),・・・215_(M))と,出力スイッチ(217_(1),217_(2),・・・217_(M))と,前記入力スイッチおよび前記出力スイッチにそれぞれ接続するデコーダ(216,218)と,入力サンプル信号を記憶するための一群の記憶キャパシタ(214_(1),214_(2),・・・214_(M))と,を含み,前記出力スイッチ(217_(i))に結合するデコーダ(218)は,個々のキャパシタの電荷を,入力カウンタ(220)と出力カウンタ(222)間のタイミングの差異により決定される遅延時間でサンプリングする,
フェーズドアレイ音響装置。」(以下,「引用発明」という。)

5 対比・判断

(1)対比
補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「多数のトランスデューサ素子を含む送信アレイ(30A)と,被検体部位に放射される送信音響ビームを生成するように構成及び配列されている前記トランスデューサ素子に接続される幾つかの送信ビームフォーマチャンネル(41_(1),41_(2),・・・41_(M))を含む送信ビームフォーマ(40)と,幾つかの受信サブアレイ(42_(1),42_(2),・・・42_(N))に割り付けられている多数のトランスデューサ素子を含む受信アレイ(30B)と,」を含み,「前記送信アレイ(30A)と前記受信アレイ(30B)は,大型の一次元アレイを構成して」いる点は,補正発明の「送信及び受信素子を有する超音波トランスデューサ素子の1次元アレイであって,関心領域に向けられる送信アコースティックビームを生成するように前記送信素子を動作させる送信器に応答する1次元アレイ」を有する点に相当する。

イ 引用発明の「幾つかのグループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))」および「受信ビームフォーマ(46)」は,両者によって,受信したトランスデューサ信号からビームを合成しているから,その両者が,補正発明の「受信ビームフォーマ」に相当する。そして,引用発明の「幾つかのグループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))」および「受信ビームフォーマ(46)」,すなわち,受信ビームフォーマが,大型の1次元アレイに機能的に接続され,関心領域から受け取られる送信アコースティックビームのエコーに応じて,受信ビームを合成するものであることは,明白である。
そうすると,引用発明の「前記幾つかの受信サブアレイに接続する幾つかのグループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))であって,前記グループ内受信プロセッサの各々が,受信したトランスデューサ信号を遅延させるように配列される遅延素子(118_(1),118_(2),・・・118_(R))を形成するアナログRAM素子(210)と,前記遅延されたトランスデューサ信号を受信し,前記遅延されたトランスデューサ信号を加算するように構成されている加算素子(120)と,を含む前記グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))と,受信ビームフォーマ(46)であって,前記幾つかのグループ内受信プロセッサに接続されている幾つかの処理チャンネル(48_(1),48_(2),・・・48_(N))と,前記処理チャンネルの各々が前記グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))から受信した信号を遅延することによって合成されたビームのビーム方向制御及び動的集束を達成するビームフォーマ遅延機構と,前記処理チャンネルから信号を受信して加算するように構成及び配列されているビームフォーマ加算機構(50)とを含む,前記受信ビームフォーマ(46)と,」を含む点は,補正発明の「前記1次元アレイに機能的に接続され,前記関心領域から受け取られる前記送信アコースティックビームのエコーに応じて,受信ビームを合成する受信ビームフォーマ」を有する点に相当する。

ウ 本願明細書の段落【0040】および【0041】における「ほんのわずかな例示的な実施例だけを詳細に記述したが,当業者であれば,本開示の実施例の新しい教示及び利点から実質的に逸脱することなく,多くの変更が例示的な実施例において可能であることが分かるであろう。例えば,ビームフォーマを1つ又は複数のステージに分割することが可能であり,第1のステージは,素子のサブアレイのビーム形成を行い,第2のステージは,サブアレイのビームフォーマの出力をビーム形成する。・・・」(下線は,当審にて付加したものである。)の記載からみて,補正発明の「受信ビームフォーマ」は,2つのステージからなるビームフォーマを包含しているといえる。
また,本願明細書の段落【0026】における「ここで図4を参照して,アナログランダムアクセスメモリ(RAM)装置60は,プログラマブルな遅延素子として構成される。・・・」の記載からみて,補正発明の「アナログランダムアクセスメモリ素子を含むアナログランダムアクセスメモリ装置」は,「アナログランダムアクセスメモリ装置」が「アナログランダムアクセスメモリ素子」であることを包含しているといえる。
さらに,本願明細書の段落【0018】における「受信ビームフォーマ40のチャネル44_(i)は,サミング素子48(サミングジャンクション)に接続されるプログラマブルな遅延素子46を有する。受信ビームフォーマ40のそれぞれの個々のチャネルのプログラマブル遅延素子44iは,対応する個別のトランスデューサ信号を遅延させ,サミングジャンクション48に接続する。サミングジャンクションは,遅延された信号を加算し,受信ビームフォーマ40のチャネル出力50に合計された信号を供給する。」の記載からみて,補正発明の「アナログランダムアクセスメモリ素子」が,「遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給する」点は,アナログランダムアクセスメモリ素子が,遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に,サミングジャンクションを介して供給することを包含しているといえる(下線は,当審にて付加したものである。)。
他方,引用発明では,グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))が,受信ビームフォーマの第1のステージを構成し,受信ビームフォーマ(46)が,受信ビームフォーマの第2のステージを構成しているといえるから,引用発明の受信ビームフォーマは,2つのステージからなるビームフォーマである。
また,引用発明の「受信したトランスデューサ信号を遅延させるように配列される遅延素子(118_(1),118_(2),・・・118_(R))を形成するアナログRAM素子(210)」は,受信素子から受け取られる信号を遅延させるアナログランダムアクセスメモリ素子であるといえ,引用発明の「前記グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))から受信した信号を遅延することによって合成されたビームのビーム方向制御及び動的集束を達成するビームフォーマ遅延機構」は,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に,ビームフォーマ加算機構(50)を介して供給する遅延機構であるといえる。そうすると,引用発明の受信ビームフォーマは,アナログRAM素子(210)およびビームフォーマ遅延機構を有し,前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に,ビームフォーマ加算機構(50)を介して供給する,受信ビームフォーマであるといえる。
さらに,引用発明は「被検体部位の画像を形成する」「フェーズドアレイ音響装置」であるから,上記ビーム形成されたRF出力が,関心領域の画像を形成するために使用するのに適していることは,明白である。
以上を総合すると,引用発明の「前記幾つかの受信サブアレイに接続する幾つかのグループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))であって,前記グループ内受信プロセッサの各々が,受信したトランスデューサ信号を遅延させるように配列される遅延素子(118_(1),118_(2),・・・118_(R))を形成するアナログRAM素子(210)と,前記遅延されたトランスデューサ信号を受信し,前記遅延されたトランスデューサ信号を加算するように構成されている加算素子(120)と,を含む前記グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))と,受信ビームフォーマ(46)であって,前記幾つかのグループ内受信プロセッサに接続されている幾つかの処理チャンネル(48_(1),48_(2),・・・48_(N))と,前記処理チャンネルの各々が前記グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))から受信した信号を遅延することによって合成されたビームのビーム方向制御及び動的集束を達成するビームフォーマ遅延機構と,前記処理チャンネルから信号を受信して加算するように構成及び配列されているビームフォーマ加算機構(50)とを含む,前記受信ビームフォーマ(46)と,」を含む点と,補正発明の「前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給するアナログランダムアクセスメモリ素子を含むアナログランダムアクセスメモリ装置を有し,前記ビーム形成されたRF出力が前記関心領域の画像を形成するために使用するのに適している,受信ビームフォーマ」を有する点とは,「アナログランダムアクセスメモリ素子を含むアナログランダムアクセスメモリ装置を有し,前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給し,前記ビーム形成されたRF出力が前記関心領域の画像を形成するために使用するのに適している,受信ビームフォーマ」を有する点で共通する。

エ 引用発明は,「動的集束」すなわち「ダイナミックフォーカシング」を達成するものである。そして,ダイナミックフォーカシングは,受信ビームの焦点位置を時間とともに変化させるものであり,焦点位置を変化させるためには,各遅延素子による遅延時間を変更させなければならないのが技術常識である。
そうすると,引用発明の「アナログRAM素子(210)」は遅延素子であるから,ダイナミックフォーカシングを達成するために,アナログRAM素子(210)による遅延時間,すなわち,「入力カウンタ(220)と出力カウンタ(222)間のタイミングの差異」は,アコースティックラインに沿って変更されることが明白である。
してみると,引用発明の「前記アナログRAM素子(210)は,入力スイッチ(215_(1),215_(2),・・・215_(M))と,出力スイッチ(217_(1),217_(2),・・・217_(M))と,前記入力スイッチおよび前記出力スイッチにそれぞれ接続するデコーダ(216,218)と,入力サンプル信号を記憶するための一群の記憶キャパシタ(214_(1),214_(2),・・・214_(M))と,を含み,前記出力スイッチ(217_(i))に結合するデコーダ(218)は,個々のキャパシタの電荷を,入力カウンタ(220)と出力カウンタ(222)間のタイミングの差異により決定される遅延時間でサンプリングする」点と,補正発明の「前記アナログランダムアクセスメモリ装置は,第1のクロックを受ける入力カウンタ及び第2のクロックを受ける出力カウンタを有し,アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供し,前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供」する点とは,「前記アナログランダムアクセスメモリ装置は,第1のクロックを受ける入力カウンタ及び第2のクロックを受ける出力カウンタを有し,アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供」する点で共通する。

オ 引用発明の「フェーズドアレイ音響装置」は,補正発明の「フェイズドアレイ超音波走査装置」に相当する。

そうすると,両者は,

(一致点)
送信及び受信素子を有する超音波トランスデューサ素子の1次元アレイであって,関心領域に向けられる送信アコースティックビームを生成するように前記送信素子を動作させる送信器に応答する1次元アレイと,
前記1次元アレイに機能的に接続され,前記関心領域から受け取られる前記送信アコースティックビームのエコーに応じて,受信ビームを合成する受信ビームフォーマであって,アナログランダムアクセスメモリ素子を含むアナログランダムアクセスメモリ装置を有し,前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給し,前記ビーム形成されたRF出力が前記関心領域の画像を形成するために使用するのに適している,受信ビームフォーマと,
を有し,
前記アナログランダムアクセスメモリ装置は,
第1のクロックを受ける入力カウンタ及び第2のクロックを受ける出力カウンタを有し,
アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供する,
フェイズドアレイ超音波走査装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給するのが,補正発明では,「アナログランダムアクセスメモリ装置」であるのに対し,引用発明では,アナログRAM素子(210)およびビームフォーマ遅延機構である点。

(相違点2)アナログランダムアクセスメモリ装置が,補正発明では,「アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供し」,「更に前記送信アコースティックビームを遅延させるためにも使用される」のに対し,引用発明では,そのような構成ではない点。

(2)上記相違点1について
引用例1の摘記事項(1-キ)における「【0093】送信及び受信ビームフォーマの両方は,・・・アナログ・・・のビームフォーマであって良い。」の記載からみて,引用例1には,引用発明の「ビームフォーマ遅延機構」が,アナログのビームフォーマ遅延機構であることを示唆しているといえる。
また,アナログの遅延機構には,種々の形式のものがあることが,例えば,引用例1の摘記事項(1-ク)に「【0100】・・・アナログ遅延線(118i)の各々は,・・・電荷結合素子,アナログRAM,サンプルアンドホールド回路,能動フィルタ,L-Cフィルタ,又はスイッチキャパシタフィルタを含むことができる。」と記載されているように,技術常識である。
そして,引用発明では,グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))における遅延素子として,アナログRAM素子を採用していることから,引用発明の「ビームフォーマ遅延機構」における遅延素子として,グループ内受信プロセッサ(44_(1),44_(2),・・・44_(N))における遅延素子と同様に,アナログRAM素子を採用するようにすること,すなわち,受信ビームフォーマにおける遅延素子として,アナログRAM素子を統一的に採用して,上記相違点1における補正発明のようにすることは,当業者であれば,必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるといえる。

(3)相違点2について
ア アナログランダムアクセスメモリ装置が,「アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供」する点について
受信ビームフォーマにおける遅延素子として,アナログランダムアクセスメモリ素子を統一的に採用するのが,設計的事項であることは,上記「(2) 相違点1について」で検討のとおりである。
ところで,ダイナミックフォーカシングを提供する超音波診断装置において,静的なフォーカシングも提供できるようにすることは,例えば,実願平3-81594号(実開平5-33710号のCD-ROM)の段落【0018】に「・・・受信ビームフォーマ5は通常はダイナミックフォーカスを用いることによりフォーカスを変えているが,固定フォーカスの場合には制御器11は受信ビームフォーマ5に制御信号を送って送信ビームフォーマ2で行っているモードと同一のモードで動作をさせる。」と記載され,特開平5-237102号公報の段落【0018】に「・・・高解像度モードが選択された場合には,プログラムはステップP3からステップP4に移行する。ステップP4では,受波ダイナミックフォーカス用遅延データが第1整相加算回路3及び第2整相加算回路4に設定されるように遅延データ発生回路5に対して指示が出される。また,ステップP3でNOと判断された場合には,ステップP5において,その他のたとえば固定フォーカスモード等が選択されたか否かを判断する。・・・」と記載され,特開平9-322896号公報の段落【0027】に「なお,以上の説明では,受信フォーカス位置が固定された場合について説明してきたが,受信フォーカス位置が動的に移動するダイナミックフォーカスにおいても全く同様な動作で実施できる。」と記載され,特開平3-20665号公報の7頁右下欄17行?8頁左上欄1行に「ダイナミックフォーカスについてもエンコーダ14-2とスイッチ15-2を同様に,操作することで焦点距離を設定された範囲内で変えなから探傷を行ったり,固定焦点距離の設定して固定焦点の単一探触子のように扱ったりすることが出来る。」と記載されているように,本願優先日前に周知である(以下,「周知技術1」という。)。
また,静的なフォーカシングは,受信ビームの焦点位置を変化させないものであるから,静的なフォーカシングを提供するに際して,受信ビームフォーマの各遅延素子の遅延時間は,アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれるのが,技術常識であり,上記遅延素子が,アナログランダムアクセスメモリ装置である場合には,アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて,入力カウンタ及び出力カウンタ間の時間差が,一定値に保たれるのも技術常識である。
そして,(ア)引用発明も,上記周知技術1も,ダイナミックフォーカシングを提供する超音波診断装置である点で共通していること,(イ)ダイナミックフォーカシングを提供する超音波診断装置において,静的なフォーカシングも提供できるようにすれば,装置の汎用性が高まるのは明白であり,また,汎用性の向上は装置一般に共通する周知の技術的課題であること,(ウ)ダイナミックフォーカシングを提供する超音波診断装置において,単に,各遅延素子の遅延時間を一定値に保つこと,すなわち,新たな部品を追加することなく制御の簡易な変更のみで,静的なフォーカシングが提供できること,を総合的に考慮すれば,引用発明に,上記周知技術1および上記技術常識を適用し,アナログランダムアクセスメモリ装置が,「アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供」するようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易に想到し得る事項であるといえる。

イ アナログランダムアクセスメモリ装置が,「更に前記送信アコースティックビームを遅延させるためにも使用される」点について
受信ビームフォーマにおける遅延素子として,アナログランダムアクセスメモリ素子を統一的に採用するのが,設計的事項であることは,上記「(2) 相違点1について」で検討のとおりである。
ところで,超音波診断装置において,受信ビームフォーマの遅延素子と,送信ビームフォーマの遅延素子とを兼用するようにすることは,例えば,特開平11-104135号公報の段落【0011】に「・・・送受信回路13は,・・・増幅された電気信号を個別に遅延する送信兼用のディレーライン21と,遅延された複数の電気信号を加算することにより指向性を持ったエコー信号を形成する加算器27とを装備している。」と記載され,特開平8-308843号公報の段落【0017】に「・・・その基準クロックを受けて遅延駆動信号を生成するディレーライン21(後述する受信時の遅延も兼用)と,このディレーライン21からの遅延駆動信号を受けてプローブ11のアレイ型の圧電振動子群を励振させるパルサ22とを備えている。・・・」と記載され,特開昭63-150683号公報の1頁左下欄13?17行に「所定のタイミングに基づき受信時には前記主遅延手段を受信回路側に切換接続し,送信時には前記主遅延手段および前置遅延手段の直列体を送信回路側に切換え接続する」と記載されているように,本願優先日前に周知である(以下,「周知技術2」という。)。
そして,(ア)引用発明も,上記周知技術2も,超音波診断装置という同一の技術分野に属するものであること,(イ)受信ビームフォーマの遅延素子と,送信ビームフォーマの遅延素子とを兼用すれば,部品点数の低減につながることは自明であり,また,部品点数の低減は,装置一般に共通する周知の技術的課題であること,を総合的に考慮すれば,引用発明に,上記周知技術2を適用し,受信ビームフォーマの遅延素子であるアナログランダムアクセスメモリ素子が,「更に前記送信アコースティックビームを遅延させるためにも使用される」ようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易に想到し得る事項であるといえる。

そして,本願明細書に記載された補正発明によってもたらされる効果は,引用例1の記載事項および周知技術から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。

(4)付記(回答書における請求人の主張について)
請求人は,平成23年3月25日付けで提出された審尋に対する回答書の5頁3行?6頁4行において,請求項1を,次の補正案のとおり補正したい旨主張している。
「[請求項1]
送信及び受信素子を有する超音波トランスデューサ素子の1次元アレイであって,関心領域に向けられる送信アコースティックビームを生成するように前記送信素子を動作させる送信器に応答する1次元アレイと,
前記1次元アレイに機能的に接続され,前記関心領域から受け取られる前記送信アコースティックビームのエコーに応じて,受信ビームを合成する受信ビームフォーマであって,前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給するアナログランダムアクセスメモリ素子を含むアナログランダムアクセスメモリ装置を有し,前記ビーム形成されたRF出力が前記関心領域の画像を形成するために使用するのに適している,受信ビームフォーマと,
を有し,
前記アナログランダムアクセスメモリ装置は,
第1のクロックを受ける入力カウンタ及び第2のクロックを受ける出力カウンタを有し,
前記入力カウンタ及び前記出力カウンタへの前記第1のクロック及び前記第2のクロックを同じにすることによって,アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供し,前記入力カウンタ及び前記出力カウンタに対して異なる前記第1のクロック及び前記第2のクロックを使用することによって,前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供し,
更に前記送信アコースティックビームを遅延させるためにも使用される,
フェイズドアレイ超音波走査装置。」(以下,「補正案発明」という。)

しかし,アナログランダムアクセスメモリ装置において,「前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差」を「一定値に保」つためには,「前記入力カウンタ及び前記出力カウンタへの前記第1のクロック及び前記第2のクロックを同じに」しなければならないことが自明であり,「前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差」を「変更」するためには,「前記入力カウンタ及び前記出力カウンタに対して異なる前記第1のクロック及び前記第2のクロックを使用」しなければならないことが自明であるから,上記補正案発明は,補正発明と実質的に同一の発明である。
そうすると,請求項1に係る発明を,補正案発明のとおりに補正したとしても,進歩性を有するとはいえないから,請求人の上記主張は,採用することができない。

6 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
以上のとおり,本件補正は,却下されることとなったから,本件特許出願人が特許を受けようとする発明は,平成22年1月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ,そのうち請求項1に係る発明は,次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)
「【請求項1】
送信及び受信素子を有する超音波トランスデューサ素子の1次元アレイであって,関心領域に向けられる送信アコースティックビームを生成するように前記送信素子を動作させる送信器に応答する1次元アレイと,
前記1次元アレイに機能的に接続され,前記関心領域から受け取られる前記送信アコースティックビームのエコーに応じて,受信ビームを合成する受信ビームフォーマであって,前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給するアナログランダムアクセスメモリ素子を含むアナログランダムアクセスメモリ装置を有し,前記ビーム形成されたRF出力が前記関心領域の画像を形成するために使用するのに適している,受信ビームフォーマと,
を有し,
前記アナログランダムアクセスメモリ装置は,第1のクロックを受ける入力カウンタ及び第2のクロックを受ける出力カウンタを有し,アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供し,又は前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供する,フェイズドアレイ超音波走査装置。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例およびその記載事項は,上記「第2 4 引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,補正発明において,「アコースティックラインに沿ったすべてのピクセルについて一定値に保たれる前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,静的なフォーカシングを提供」することと,「前記アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供」することとを必須事項にしていたのを,選択事項に戻すとともに,補正発明から,「更に前記送信アコースティックビームを遅延させるためにも使用される」との限定を省いたものである。
そうすると,上記「第2 5 (1)対比」で検討したのと同様に,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は,

(一致点)
「送信及び受信素子を有する超音波トランスデューサ素子の1次元アレイであって,関心領域に向けられる送信アコースティックビームを生成するように前記送信素子を動作させる送信器に応答する1次元アレイと,
アナログランダムアクセスメモリ素子を含むアナログランダムアクセスメモリ装置を有し,前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給し,前記ビーム形成されたRF出力が前記関心領域の画像を形成するために使用するのに適している,受信ビームフォーマと,
を有し,
前記アナログランダムアクセスメモリ装置は,第1のクロックを受ける入力カウンタ及び第2のクロックを受ける出力カウンタを有し,アコースティックラインに沿って変更される前記入力及び前記出力カウンタの間の時間差に応じて,ダイナミックフォーカシングを提供する,フェイズドアレイ超音波走査装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点3)前記受信素子から受け取られる信号を遅延させ,前記遅延された信号を,ビーム形成されたRF出力として,前記受信ビームフォーマの出力に供給するのが,補正発明では,「アナログランダムアクセスメモリ素子」であるのに対し,引用発明では,アナログRAM素子(210)およびビームフォーマ遅延機構である点。

(2)上記相違点3について
上記相違点3は,上記「第2 5 (1)対比」で検討の相違点1と同一であるから,上記「第2 5 (2)上記相違点1について」で検討したのと同一の理由により,当業者であれば,必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるといえる。

そして,本願明細書に記載された本願発明によってもたらされる効果は,引用例1の記載事項から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。

そうすると,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-10 
結審通知日 2011-05-12 
審決日 2011-05-24 
出願番号 特願2004-541030(P2004-541030)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 順也  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 石川 太郎
後藤 時男
発明の名称 1次元アレイ超音波プローブに関する方法及び装置  
代理人 津軽 進  
代理人 笛田 秀仙  

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