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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1244578
審判番号 不服2009-25315  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-22 
確定日 2011-10-03 
事件の表示 特願2005-318499「リソグラフィシステムおよびリソグラフィシステムによるリソグラフィ方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月25日出願公開、特開2006-135324〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願 :平成17年11月 1日
(優先日 平成16年11月2日 アメリカ合衆国)
拒絶理由 :平成20年10月10日(起案日)
意見及び手続補正:平成21年 4月14日
拒絶査定 :平成21年 8月27日(起案日)
審判請求 :平成21年12月22日
手続補正 :平成21年12月22日
審尋 :平成22年11月 4日(起案日)
回答書 :平成23年 2月 4日

第2 本願発明
本願の請求項1及び3に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」及び「本願発明3」という。)は,下記のとおりのものである。



【請求項1】
光源からの光をパターンによりパターニングし,そのパターン光を表面へ投影するリソグラフィシステムにおいて,
放射の投影ビームを形成する照明系と,
所望のパターンにしたがって前記投影ビームをパターニングするパターニングデバイスと,
前記パターン化されたビームを基板のターゲット部分へ投影する投影系と,
前記照明系と前記表面とのあいだに配置された可変偏光素子と
を有し,
前記可変偏光素子は少なくとも3つのモード,すなわち第1の直線偏光,これに直交する第2の直線偏光,及び円偏光のうち,選択された1つのモードで駆動され,
前記偏光は,投影される像の配向に基づいて選択される,リソグラフィシステム。

【請求項3】
前記可変偏光素子が,第1の1/4波プレート及び第2の1/4波プレートを含む,請求項1又は2に記載のシステム。

第3 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/051717号(以下「引用例」という。)には,各図とともに以下の事項が記載されている(引用箇所の表示に際しては,各葉の上部中央の数字をページ番号と見たてた。また,行は空白行を除いて数えた。)。

記載事項ア
「技術分野
本発明は照明光学装置,露光装置および露光方法に関し,特に半導体素子,撮像素子,液晶表示素子,薄膜磁気ヘッド等のマイクロデバイスをリソグラフィー工程で製造するための露光装置に関する。」(1ページ3ないし6行)

記載事項イ
「 第1図は,本発明の実施形態にかかる照明光学装置を備えた露光装置の構成を概略的に示す図である。第1図において,感光性基板であるウェハWの法線方向に沿ってZ軸を,ウェハ面内において第1図の紙面に平行な方向にY軸を,ウェハ面内において第1図の紙面に垂直な方向にX軸をそれぞれ設定している。なお,第1図では,照明光学装置が輪帯照明を行うように設定されている。
本実施形態の露光装置は,露光光(照明光)を供給するためのレーザ光源1を備えている。レーザ光源1として,たとえば248nmの波長の光を供給するKrFエキシマレーザ光源や193nmの波長の光を供給するArFエキシマレーザ光源などを用いることができる。レーザ光源1からZ方向に沿って射出されたほぼ平行な光束は,X方向に沿って細長く延びた矩形状の断面を有し,一対のレンズ2aおよび2bからなるビームエキスパンダ2に入射する。各レンズ2aおよび2bは,第1図の紙面内(YZ平面内)において負の屈折力および正の屈折力をそれぞれ有する。したがって,ビームエキスパンダ2に入射した光束は,第1図の紙面内において拡大され,所定の矩形状の断面を有する光束に整形される。
整形光学系としてのビームエキスパンダ2を介したほぼ平行な光束は,折り曲げミラー3でY方向に偏向された後,位相部材10,デポラライザ(非偏光化素子)20,および回折光学素子4を介して,アフォーカルズームレンズ5に入射する。位相部材10およびデポラライザ20の構成および作用については後述する。一般に,回折光学素子は,基板に露光光(照明光)の波長程度のピッチを有する段差を形成することによって構成され,入射ビームを所望の角度に回折する作用を有する。具体的には,回折光学素子4は,矩形状の断面を有する平行光束が入射した場合に,そのファーフィールド(またはフラウンホーファー回折領域)に円形状の光強度分布を形成する機能を有する。
したがって,回折光学素子4を介した光束は,アフォーカルズームレンズ5の瞳位置に円形状の光強度分布,すなわち円形状の断面を有する光束を形成する。回折光学素子4は,照明光路から退避可能に構成されている。アフォーカルズームレンズ5は,アフォーカル系(無焦点光学系)を維持しながら所定の範囲で倍率を連続的に変化させることができるように構成されている。アフォーカルズームレンズ5を介した光束は,輪帯照明用の回折光学素子6に入射する。アフォーカルズームレンズ5は,回折光学素子4の発散原点と回折光学素子6の回折面とを光学的にほぼ共役に結んでいる。そして,回折光学素子6の回折面またはその近傍の面の一点に集光する光束の開口数は,アフォーカルズームレンズ5の倍率に依存して変化する。
輪帯照明用の回折光学素子6は,平行光束が入射した場合に,そのファーフィールドにリング状の光強度分布を形成する機能を有する。回折光学素子6は,照明光路に対して挿脱自在に構成され,且つ4極照明用の回折光学素子60や円形照明用の回折光学素子61やX方向2極照明用の回折光学素子62やY方向2極照明用の回折光学素子63と切り換え可能に構成されている。4極照明用の回折光学素子60,円形照明用の回折光学素子61,X方向2極照明用の回折光学素子62,およびY方向2極照明用の回折光学素子63の構成および作用については後述する。
回折光学素子6を介した光束は,ズームレンズ7に入射する。ズームレンズ7の後側焦点面の近傍には,マイクロレンズアレイ(またはフライアイレンズ)8の入射面が位置決めされている。マイクロレンズアレイ8は,縦横に且つ稠密に配列された多数の正屈折力を有する微小レンズからなる光学素子である。一般に,マイクロレンズアレイは,たとえば平行平面板にエッチング処理を施して微小レンズ群を形成することによって構成される。
ここで,マイクロレンズアレイを構成する各微小レンズは,フライアイレンズを構成する各レンズエレメントよりも微小である。また,マイクロレンズアレイは,互いに隔絶されたレンズエレメントからなるフライアイレンズとは異なり,多数の微小レンズ(微小屈折面)が互いに隔絶されることなく一体的に形成されている。しかしながら,正屈折力を有するレンズ要素が縦横に配置されている点でマイクロレンズアレイはフライアイレンズと同じ波面分割型のオプティカルインテグレータである。
上述したように,回折光学素子4を介してアフォーカルズームレンズ5の瞳位置に形成される円形状の光強度分布からの光束は,アフォーカルズームレンズ5から射出された後,様々な角度成分を有する光束となって回折光学素子6に入射する。すなわち,回折光学素子4は,角度光束形成機能を有するオプティカルインテグレータを構成している。一方,回折光学素子6は,平行光束が入射した場合に,そのファーフィールドにリング状の光強度分布を形成する光束変換素子としての機能を有する。したがって,回折光学素子6を介した光束は,ズームレンズ7の後側焦点面に(ひいてはマイクロレンズアレイ8の入射面に),たとえば光軸AXを中心とした輪帯状の照野を形成する。
マイクロレンズアレイ8の入射面に形成される輪帯状の照野の外径は,ズームレンズ7の焦点距離に依存して変化する。このように,ズームレンズ7は,回折光学素子6とマイクロレンズアレイ8の入射面とを実質的にフーリエ変換の関係に結んでいる。マイクロレンズアレイ8に入射した光束は二次元的に分割され,マイクロレンズアレイ8の後側焦点面には,第2A図に示すように,入射光束によって形成される照野と同じ輪帯状の多数光源(以下,「二次光源」という)が形成される。
マイクロレンズアレイ8の後側焦点面に形成された輪帯状の二次光源からの光束は,コンデンサー光学系9の集光作用を受けた後,所定のパターンが形成されたマスクMを重畳的に照明する。マスクMのパターンを透過した光束は,投影光学系PLを介して,感光性基板であるウェハW上にマスクパターンの像を形成する。こうして,投影光学系PLの光軸AXと直交する平面(XY平面)内においてウェハWを二次元的に駆動制御しながら一括露光またはスキャン露光を行うことにより,ウェハWの各露光領域にはマスクMのパターンが逐次露光される。」(17ページ4行ないし19ページ25行)

記載事項ウ
「 第4図は,第1図の位相部材およびデポラライザの構成を概略的に示す図である。第4図を参照すると,位相部材10は,光軸AXを中心として結晶光学軸が回転自在に構成された1/2波長板により構成されている。一方,デポラライザ20は,楔形状の水晶プリズム20aと,この水晶プリズム20aと相補的な形状を有する楔形状の石英プリズム20bとにより構成されている。水晶プリズム20aと石英プリズム20bとは,一体的なプリズム組立体として,照明光路に対して挿脱自在に構成されている。レーザ光源1としてKrFエキシマレーザ光源またはArFエキシマレーザ光源を用いている場合,これらの光源から射出される光の偏光度は典型的には95%以上の偏光度を有するため,1/2波長板10にはほぼ直線偏光の光が入射する。
1/2波長板10の結晶光学軸が入射する直線偏光の偏光面に対して0度または90度の角度をなすように設定された場合,1/2波長板10に入射した直線偏光の光は偏光面が変化することなくそのまま通過する。また,1/2波長板10の結晶光学軸が入射する直線偏光の偏光面に対して45度の角度をなすように設定された場合,1/2波長板10に入射した直線偏光の光は偏光面が90度だけ変化した直線偏光の光に変換される。さらに,水晶プリズム20aの結晶光学軸が入射する直線偏光の偏光面に対して45度の角度をなすように設定された場合,水晶プリズム20aに入射した直線偏光の光は非偏光状態の光に変換(非偏光化)される。
本実施形態では,デポラライザ20が照明光路中に位置決めされたときに水晶プリズム20aの結晶光学軸が入射する直線偏光の偏光面に対して45度の角度をなすように構成されている。ちなみに,水晶プリズム20aの結晶光学軸が入射する直線偏光の偏光面に対して0度または90度の角度をなすように設定された場合,水晶プリズム20aに入射した直線偏光の光は偏光面が変化することなくそのまま通過する。また,1/2波長板10の結晶光学軸が入射する直線偏光の偏光面に対して22.5度の角度をなすように設定された場合,1/2波長板10に入射した直線偏光の光は,偏光面が変化することなくそのまま通過する直線偏光成分と偏光面が90度だけ変化した直線偏光成分とを含む非偏光状態の光に変換される。
本実施形態では,上述したように,レーザ光源1からの直線偏光の光が1/2波長板10に入射するが,以下の説明を簡単にするために,P偏光(第1図中で1/2波長板の位置においてZ方向に偏光面を持つ直線偏光,以下Z方向偏光と称する)の光が1/2波長板10に入射するものとする。デポラライザ20を照明光路中に位置決めした場合,1/2波長板10の結晶光学軸が入射するP偏光(Z方向偏光)の偏光面に対して0度または90度の角度をなすように設定すると,1/2波長板10に入射したP偏光(Z方向偏光)の光は偏光面が変化することなくP偏光(Z方向偏光)のまま通過して水晶プリズム20aに入射する。水晶プリズム20aの結晶光学軸は入射するP偏光(Z方向偏光)の偏光面に対して45度の角度をなすように設定されているので,水晶プリズム20aに入射したP偏光(Z方向偏光)の光は非偏光状態の光に変換される。
水晶プリズム20aを介して非偏光化された光は,光の進行方向を補償するためのコンペンセータとしての石英プリズム20bを介して,非偏光状態でマスクM(ひいてはウェハW)を照明する。一方,1/2波長板10の結晶光学軸が入射するP偏光(Z方向偏光)の偏光面に対して45度の角度をなすように設定すると,1/2波長板10に入射したP偏光(Z方向偏光)の光は偏光面が90度だけ変化し,S偏光(第1図中で1/2波長板の位置においてX方向に偏光面を持つ直線偏光,以下X方向偏光と称する)の光になって水晶プリズム20aに入射する。水晶プリズム20aの結晶光学軸は入射するS偏光(X方向偏光)の偏光面に対しても45度の角度をなすように設定されているので,水晶プリズム20aに入射したS偏光(X方向偏光)の光は非偏光状態の光に変換され,石英プリズム20bを介して,非偏光状態でマスクMを照明する。
これに対し,デポラライザ20を照明光路から退避させた場合,1/2波長板10の結晶光学軸が入射するP偏光(Z方向偏光)の偏光面に対して0度または90度の角度をなすように設定すると,1/2波長板10に入射したP偏光(Z方向偏光)の光は偏光面が変化することなくP偏光(Z方向偏光)のまま通過し,P偏光(Z方向偏光)状態の光でマスクMを照明する。一方,1/2波長板10の結晶光学軸が入射するP偏光(Z方向偏光)の偏光面に対して45度の角度をなすように設定すると,1/2波長板10に入射したP偏光の光は偏光面が90度だけ変化してS偏光の光になり,S偏光(X方向偏光)状態の光でマスクMを照明する。
以上のように,本実施形態では,デポラライザ20を照明光路中に挿入して位置決めすることにより,非偏光状態でマスクMを照明することができる。また,デポラライザ20を照明光路から退避させ且つ1/2波長板10の結晶光学軸が入射するP偏光(Z方向偏光)の偏光面に対して0度または90度の角度をなすように設定することにより,P偏光(Y方向偏光)状態でマスクMを照明することができる。さらに,デポラライザ20を照明光路から退避させ且つ1/2波長板10の結晶光学軸が入射するP偏光(Z方向偏光)の偏光面に対して45度をなすように設定することにより,S偏光(X方向偏光)状態でマスクMを照明することができる。
換言すれば,本実施形態では,1/2波長板10とデポラライザ20とからなる偏光状態切換手段の作用により,被照射面としてのマスクM(ひいてはウェハW)を照明する光の偏光状態を直線偏光状態と非偏光状態との間で切り換えることができ,直線偏光の光で照明する場合にはP偏光状態とS偏光状態との間(互いに直交する偏光状態の間)で切り換える(直線偏光の偏光面を可変とする)ことができる。その結果,本実施形態では,マスクMのパターン特性に応じて光量損失を抑えつつ照明光の偏光状態を変化させて適切な照明条件を実現することができるので,マスクMのパターン特性に応じて実現された適切な照明条件のもとで良好な露光を行うことができる。特に,直線偏光の光で照明する場合には,光源1からの直線偏光を偏光状態切換手段において実質的に光量損失することなく被照射面へ導くことができる。」(22ページ15行ないし25ページ10行)

記載事項エ
「 次に,具体的にどのようなマスクパターンに対してどのような偏光状態の光でマスクを照明することにより,投影光学系の結像性能(焦点深度や解像力など)を向上させて良好で忠実な転写を行うことができるかという点について例示的に説明する。まず,たとえば2極照明(一般には間隔を隔てた2つの光強度分布が高い領域を瞳面またはその近傍に形成する照明)の場合,第14図に示すように,マスクに形成されたライン・アンド・スペース・パターン141のピッチ方向(x方向:マスク上のX方向に対応)に沿って間隔を隔てた2つの面光源142aおよび142bを形成し,2つの面光源142aと142bとが間隔を隔てている方向(x方向:瞳面上のX方向に対応)と直交する方向(y方向:瞳面上のZ方向に対応)に偏光面(図中両方向矢印F1で示す)を有する直線偏光状態の光でマスクを照明することにより,マスクパターン141に対して投影光学系の結像性能の向上を図ることができる。ちなみに,縦方向パターンと横方向パターンとが混在するような二次元マスクパターンに対しては,たとえば非偏光状態の光でマスクを照明することにより,縦方向パターンと横方向パターンとの間に線幅異常を発生させることなくパターン転写を高スループットで行うことができる。」(37ページ26行ないし38ページ12行)

記載事項オ
「 以上説明したように,本発明の照明光学装置では,たとえば1/2波長板とデポラライザ(非偏光化素子)とからなる偏光状態切換手段の作用により,被照射面を照明する光の偏光状態を特定の偏光状態(たとえば直線偏光状態)と非偏光状態との間で切り換えることができる。したがって,たとえば露光装置に本発明の照明光学装置を搭載した場合,マスクのパターン特性に応じて光量損失を抑えつつ照明光の偏光状態を変化させて適切な照明条件を実現することができる。」(59ページ20ないし25行)

これら記載事項及び各図を考慮して引用例に記載された発明を分説して記載すると,下記のとおりとなる(以下,この発明を「引用発明」といい,また,分説された構成を「構成要件A」などという。)。



A 露光光(照明光)を供給するためのレーザ光源(1)を備え,レーザ光源(1)からZ方向に沿って射出されたほぼ平行な光束は,一対のレンズ(2aおよび2b)からなるビームエキスパンダ(2),折り曲げミラー(3),位相部材(10),デポラライザ(20),回折光学素子(4),アフォーカルズームレンズ(5),輪帯照明用の回折光学素子(6),ズームレンズ(7),マイクロレンズアレイ(8),及び,コンデンサー光学系(9)を介して,所定のパターンが形成されたマスク(M)を重畳的に照明し,
B マスク(M)のパターンを透過した光束は,投影光学系(PL)を介して感光性基板であるウェハ(W)上にマスクパターンの像を形成し,投影光学系(PL)の光軸(AX)と直交する平面(XY平面)内においてウェハ(W)を二次元的に駆動制御しながら一括露光またはスキャン露光を行う露光装置において,
C 位相部材(10)は,光軸(AX)を中心として結晶光学軸が回転自在に構成された1/2波長板により構成され,
D デポラライザ(20)は,楔形状の水晶プリズム(20a)と,この水晶プリズム(20a)と相補的な形状を有する楔形状の石英プリズム(20b)とにより構成され,
E デポラライザ(20)を照明光路中に挿入して位置決めすることにより,非偏光状態でマスク(M)を照明することができ,デポラライザ(20)を照明光路から退避させ且つ1/2波長板(10)の結晶光学軸が入射するP偏光(Z方向偏光)の偏光面に対して0度または90度の角度をなすように設定することにより,P偏光(Y方向偏光)状態でマスク(M)を照明することができ,デポラライザ(20)を照明光路から退避させ且つ1/2波長板(10)の結晶光学軸が入射するP偏光(Z方向偏光)の偏光面に対して45度をなすように設定することにより,S偏光(X方向偏光)状態でマスクMを照明することができ,
F たとえば2極照明の場合,マスクに形成されたライン・アンド・スペース・パターン(141)のピッチ方向(x方向:マスク上のX方向に対応)に沿って間隔を隔てた2つの面光源(142a)および(142b)を形成し,2つの面光源(142a)と(142b)とが間隔を隔てている方向(x方向:瞳面上のX方向に対応)と直交する方向(y方向:瞳面上のZ方向に対応)に偏光面を有する直線偏光状態の光でマスクを照明することにより,マスクパターン(141)に対して投影光学系の結像性能の向上を図ることができ,縦方向パターンと横方向パターンとが混在するような二次元マスクパターンに対しては,たとえば非偏光状態の光でマスクを照明することにより,縦方向パターンと横方向パターンとの間に線幅異常を発生させることなくパターン転写を高スループットで行うことができ,
G たとえば1/2波長板(10)とデポラライザ(20)とからなる偏光状態切換手段の作用により,被照射面を照明する光の偏光状態を特定の偏光状態(たとえば直線偏光状態)と非偏光状態との間で切り換えることができ,マスク(M)のパターン特性に応じて光量損失を抑えつつ照明光の偏光状態を変化させて適切な照明条件を実現することができる,露光装置。

また,引用例には「偏光面が変化することなくそのまま通過する直線偏光成分と偏光面が90度だけ変化した直線偏光成分とを含む非偏光状態の光」(記載事項ウ)と記載されている。したがって,引用発明でいう「非偏光状態」とは,「光が非偏光である状態」に限られるものではなく,例えば「光がXY方向との関係において依存性がない状態」をも含む広い概念である。

第4 周知例
1 周知例1
特開2004-111500号公報(平成16年4月8日公開,以下「周知例1」という。)には,以下のとおり記載されている。
「【0072】・・・円偏光変換部300Aは,例えば,1/4波長板310Aと,駆動部320Aとを有し,直線偏光の偏光特性を有する光を円偏光に変換する。1/4波長板310Aは,駆動部320Aに駆動可能に保持され,入射した直線偏光の光を円偏光に変換して出射する。駆動部320Aは,1/4波長板310Aを保持し,光源部100Aから出射する光の偏光面に対して正確に円偏光が1/4波長板310Aから出射されるように回転させる。」

「【0080】・・・図8は,微小開口432Aと円偏光の露光光との関係を示す概略平面図である。本実施形態では,露光光に円偏光の光を用いることにより,露光光に全ての偏光成分が含まれることになり,微小開口432Aの長手方向に対する角度依存性がなくなる。」

2 周知例2
特開平8-203806号公報(平成8年8月9日公開,以下「周知例2」という。)には,以下のとおり記載されている。
「【0038】このラインアンドスペース等が格子状の構造を有しているとき,偏光の方向依存性をなくすため,偏光状態を円偏光にする。円偏光は,どの方向に対してもどのパターンに対しても空間的に電気ベクトルの振幅が等しいので,露光部8_(TE),8_(TM)では,図4(b)に示すように,それぞれ方向に依存しない同じ解像度が得られる。直線偏光を円偏光に変換するには,例えば1/4波長板2を用いればよい。」

3 周知例3
特開平5-241324号公報(平成5年9月21日公開,以下「周知例3」という。)には,以下のとおり記載されている。
「【0033】・・・ラインアンドスペースパターンでは,上述したようにパターンの辺と平行な方向に振動する直線偏光によって結像することが望ましいが,円形や正方形等の等方的なパターンについては,対称性の良いランダム偏光(非偏光状態)又は円偏光で結像する方が良い。」
「【0040】・・・方向性のないEの部分では,1/4波長板に相当する偏光膜16を設けることで,直線偏光である照明光を円偏光に変換している。」

4 周知例4
特開2004-179172号公報(平成16年6月24日公開,以下「周知例4」という。)には,以下のとおり記載されている。
「【0077】ところで,上述した実施の形態においては,レチクル18にX方向に平行な偏光方向を主成分とする照明光I_(4)を照射するようにしたが,露光するパターンによっては,レチクル18上に照射される照明光の偏光状態を非偏光(自然光)又は円偏光ないし楕円偏光とすることが好ましい場合もある。そこで,本実施の形態において,偏光制御素子5を,着脱可能な構成とし,あるいは照明光の進行方向を回転軸として回転可能な構成とすることが望ましい。
【0078】例えば,光源1が概ね直線偏光の光束を発するレーザー光源であり,偏光制御素子5として1/2波長板を使用する場合には,図6に示すように,偏光制御素子5を2枚の1/4波長板51,52から構成し,照明光I_(0)の進行方向を回転軸としたそれぞれの回転によって,射出される光束I_(1)を直線偏光としたり円偏光としたりすることができる。
【0079】即ち,射出光I_(1)を直線偏光とする場合には,1/4波長板51,52の互いの長軸方向を揃えると共に,その方向を入射光I_(0)の偏光方向と射出光I_(1)の所望の偏光方向の中間の方向に設定すれば良く,射出光I_(1)を円偏光とするには,光源側の1/4波長板51の長軸方向を入射光I_(0)の偏光方向と一致させ,他方の1/4波長板52の長軸方向を,上記偏光方向に対して45度回転した方向に設定すれば良い。」

第5 本願発明
1 対比
事案にかんがみて,本願発明3と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。

(1) 照明系
構成要件Aからみて,引用発明の「レーザ光源(1)」から「コンデンサー光学系(9)」に至る構成と本願発明3の「照明系」は,「放射の投影ビームを形成する照明系」の点で一致する。

(2) パターニングデバイス
構成要件A及びBからみて,引用発明の「マスク(M)」と本願発明3の「パターニングデバイス」は,「所望のパターンにしたがって前記投影ビームをパターニングするパターニングデバイス」の点で一致する。

(3) 投影系
構成要件Bからみて,引用発明の「投影光学系(PL)」と本願発明3の「投影系」は,「前記パターン化されたビームを基板のターゲット部分へ投影する投影系」の点で一致する。

(4) 可変偏光素子
本願の明細書の発明の詳細な説明には「光源と処理表面とのあいだの任意の位置に偏光制御装置を配置して偏光を制御するアプローチは本発明の範囲に含まれる。例えば偏光制御装置を投影光学系内または照明源の機構内に設けることができる。」(段落0032)と記載されているから,本願発明3の可変偏光素子は照明系の一部をなす光源と処理表面とのあいだに配置されているものである。そうしてみると,構成要件A,B及びGからみて,引用発明の「偏光状態切換手段」(1/2波長板(10)とデポラライザ(20)とからなるもの)と本願発明3の「可変偏光素子」は「前記照明系と前記表面とのあいだに配置された可変偏光素子」の点で一致する。
また,構成要件Eからみて,引用発明の「偏光状態切換手段」と本願発明3の「可変偏光素子」は,「前記可変偏光素子は少なくとも3つのモード」「のうち,選択された1つのモードで駆動され」という構成の点で共通する。

(5) リソグラフィシステム
構成要件AないしG及び(1)ないし(4)の対比結果からみて,引用発明の「露光装置」と本願発明3の「リソグラフィシステム」は,「光源からの光をパターンによりパターニングし,そのパターン光を表面へ投影するリソグラフィシステム」の点で一致する。

そうしてみると,本願発明3と引用発明は,
「 光源からの光をパターンによりパターニングし,そのパターン光を表面へ投影するリソグラフィシステムにおいて,
放射の投影ビームを形成する照明系と,
所望のパターンにしたがって前記投影ビームをパターニングするパターニングデバイスと,
前記パターン化されたビームを基板のターゲット部分へ投影する投影系と,
前記照明系と前記表面とのあいだに配置された可変偏光素子と
を有し,
前記可変偏光素子は少なくとも3つのモードのうち,選択された1つのモードで駆動される,
リソグラフィシステム。」
の点で一致し,以下の点で,一応,相違する。

(相違点1)
本願発明3の「3つのモード」は,「第1の直線偏光,これに直交する第2の直線偏光,及び円偏光」の3つのモードであり,また,3つのモードをなす「前記偏光は,投影される像の配向に基づいて選択される」のに対して,引用発明の偏光状態及び偏光は,この構成を備えるか否か明らかではない点。

(相違点2)
本願発明3の「可変偏光素子」は「第1の1/4波プレート及び第2の1/4波プレートを含む」のに対して,引用発明の「偏光状態切換手段」は,これとは異なる点。

2 判断
(相違点1及び2について)
引用発明の「P偏光(Y方向偏光)状態」,「S偏光(X方向偏光)状態」は,それぞれ,本願発明3の「第1の直線偏光」のモード,「これに直交する第2の直線偏光」のモードに相当するから,3つのモードのうち2つのモードについては相違点ではない。
また,引用発明でいう「非偏光状態」とは「光がXY方向との関係において依存性がない状態」をも含む概念であるところ,方向依存性のない偏光状態として非偏光の他に円偏光が存在すること,及び,露光光の方向依存性を解消するために直線偏光を円偏光に変換する手段として1/4波長板を用いることができることは,原理的に見て明らかであり,しかも,露光装置の当業者に周知かつ慣用されていることである(必要ならば,周知例1ないし4を参照。)。
そうしてみると,引用発明の1/2波長板(10)とデポラライザ(20)とからなる偏光状態切換手段を第1の1/4波プレート及び第2の1/4波プレートを含む偏光状態切換手段に変更して引用発明の「非偏光状態」を「円偏光状態」とすることは当業者が容易に出来ることである。そして,引用発明の構成要件F及びGにかんがみると,このように変更してなるものにおける偏光は「投影される像の配向に基づいて選択される」ものといえる。

また,本願発明3の作用効果は,引用発明から当業者が予測できる範囲内のものである。

3 小括
以上のとおりであるから,本願発明3は,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法第29条第2項の規定に違反するから,特許を受けることができない。

第6 結論
したがって,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-12 
結審通知日 2011-05-13 
審決日 2011-05-24 
出願番号 特願2005-318499(P2005-318499)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 浩司杉浦 淳  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 吉川 陽吾
樋口 信宏
発明の名称 リソグラフィシステムおよびリソグラフィシステムによるリソグラフィ方法  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  

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