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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1244579
審判番号 不服2010-648  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-13 
確定日 2011-10-04 
事件の表示 特願2006-506449号「大腿骨折部の固定用の髄内ネイル」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日国際公開、WO2004/089232、平成18年10月 5日国内公表、特表2006-522637号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年4月7日(パリ条約による優先権主張 平成15年4月9日、スイス国)を国際出願日とする出願であって、平成21年9月8日付けで拒絶査定がなされ、同査定を不服として、平成22年1月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲を訂正する誤訳訂正書が提出されている。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年1月13日付け誤訳訂正書に記載された、特許請求の範囲の請求項1に記載される、以下の事項により特定されるものである。

「 近位大腿の骨折部を固定するための髄内ネイルであって、該髄内ネイルは、近位端部から大腿の髄質内領域内に挿入可能な大腿骨ネイル(1a、1b、1c)と、大腿骨ネイル(1a、1b、1c)の長さ方向軸線に対して斜めに延びる斜めの孔(7a、7b、7c)を通して大腿骨ネイル(1a、1b、1c)に横方向に挿入可能な大腿骨頚部ねじ(10a、10b)と、を含み、前記斜めの孔(7a、7b、7c)内で大腿骨頚部ねじ(10a、10b)の軸線方向移動を可能にしながら、大腿骨頚部ねじ(10a、10b)の回転を防止するように大腿骨頚部ねじを(10a、10b)を固定する要素が設けられており、大腿骨頚部ねじ(10a、10b)は、軸線方向に延びる少なくとも1つの長さ方向溝(13a、13b)と、大腿骨頚部ねじ(10a、10b)の軸線とほぼ平行な少なくとも1つの分岐部(18a、18b、18c、18d)を有する係止要素(16a、16b)とを有し、前記分岐部(18a、18b、18c、18d)は、大腿骨頚部ねじ(10a、10b)の長さ方向溝(13a、13b)内に挿入可能である髄内ネイルにおいて、前記係止要素(16a、16b)の分岐部(18a、18b、18c、18d)は、大腿骨ネイル(1a、1b、1c)を通して延びる前記斜めの孔(7a、7b、7c)に設けられた溝(8a、8b、8c)内で案内され、それによって前記分岐部(18a、18b、18c、18d)の高さの増大を可能にし、それによって荷重支持能力の増大を可能にする、大腿骨頚部ねじ(10a、10b)が回転することを防止する、前記係止要素(16a、16b)の遠位部分と大腿骨ネイル(1a、1b、1c)の近位部分との間の積極相互係止連結部を形成することを特徴とする髄内ネイル。」

3.引用刊行物の記載
本願優先日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された、特開2000-229093号公報、及び、米国特許第4657001号明細書には、それぞれ以下の記載がある。

(1)特開2000-229093号公報の記載
特開2000-229093号公報(以下、「引用例1」という。)」には、図面と共に次の事項が記載されている。

記載A.
「【発明の属する技術分野】本発明は、シャンクと、近位端に位置するおねじ部と、遠位端に位置するツールの係合のための表面とを有し、大腿骨に取付ける止めくぎ等の支持器具の孔に挿通可能に、かつ、上記孔内に保持可能に形成されたネックねじに関するものである。
【従来の技術】欧州特許第0257118号明細書により、止めくぎ(locking nail)とネックねじ(neck screw)からなる骨接合支援器具(osteosynthesis aid)が公知となった。この止めくぎは、近位端(proximal end)から大腿骨内に入り込まされる。近位部分において、止めくぎは傾斜孔を有していて、この傾斜孔の軸は、大腿骨頸(collum femoris)の軸にほぼ向けられている。ネックねじは、この孔に通される。ネックねじは、例えばセルフタッピングであり、大腿骨頭(head of femur)内に推進される。近位端から、固定ねじ(fixing screw)が、止めくぎの孔内に挿入され、その内側端部は、ネックねじのシャンク内の、周縁に配置され軸方向に互いに平行に走行する溝と相互作用してネックねじの回転を防止し、その際、ネックねじが軸方向にスライドすることは可能にする。このような骨接合支援器具は、主に、転子(trochanteral)骨折と転子下(subtrochanteral)骨折の治療に用いられるが、大腿骨頸の骨折や大腿骨頭の領域内の骨折の治療にも用いられる。」(【0001】、【0002】段落)

記載B.
「少なくとも一つの大腿骨頸ブレードが、ネックねじのおねじ部内に延びるか、または、これを僅かに越えて延びている。しかしながら、好ましくは、2つのブレードレッグの長さをほぼ等しくして、これらのブレードレッグが、双方とも、ネックねじのおねじ部内で負荷を印加される表面領域を広げるようにする。これにより、いかなる二次的なヘッド及びネック回転も効率的に防止することができる。本発明に係るネックねじは、顕著な骨粗しょう症に使用される場合、または、寛骨ねじ(coxa screw)が偏心位置にある場合に、特に好ましい。
溝またはブレードレッグは、好ましくは、ブレードレッグの外面が、ほぼ、ネックねじのシャンク領域内でシャンク外面のレベルに位置するように設計されている。本発明の別の態様では、溝は、おねじ部の領域内でより平面的に延び、ランプ部(ramp)が、深さが異なる溝部分区間の間に形成されている。その結果、ブレードレッグは、広げられて互いから離れ、したがって、より効率的に固定される。」(【0009】、【0010】段落)

記載C.
「図1のネックねじ10は、円筒形シャンク部12及びおねじ部14を有し、このシャンク部12は、テーパ部16を経て、おねじ部14に連通する。このおねじ部14のセルフタッピングねじの外径は、シャンク部12の外径にほぼ対応する。おねじ部14は、ネックねじ10の近位端(同図における右側)に延在する。遠位端(同図における左側)では、シャンク部12はめねじ部18を有し、このめねじ部18は貫通孔20へと続いている。この貫通孔20は、ネックねじ10を移植する際、とがったガイドバー(図示省略)を収容するのに用いられる。
径方向に関して全く反対側となるように、溝がネックねじ10の長さ方向に延在しており、図1には一方の溝22のみが示され、他方の溝24は図5及び図6に示されている。これらの溝22、24は、ほぼ方形の横断面を有する。溝壁には、図1に示すように、面取り部26が設けられていて、面取り状に広がって遠位端へと移行している。その溝底は、面取り部28を有していて、このため溝22、24は、遠位端側から見ると、最初の部分が残りの部分よりも深くなっている。溝22、24の残りの部分は、おねじ部14の領域内では、深さが僅かに浅くなっている。しかしながら、これは、図示されていない。
径方向に関して全く反対側となるように、スライド溝30、32は、シャンク部12の後部すなわち遠位側に形成され、それぞれ溝22に対して90度オフセットされている。このスライド溝30、32は、図1では破線により示されている。スライド溝30、32の機能は後述する。
ブレード34は、図3、図4、図7及び図8にそれぞれ示されている。ブレード34は、2つの互いに平行なブレードレッグ36、38からなり、このブレードレッグ36、38は、環状円筒部37と一体的に形成されている。ブレードレッグ36、38は方形横断面を有し、溝22、24に収容されて適切に係合するように寸法決めされていて、ブレードレッグ36、38の外面は、ほぼシャンク部12の外面の位置となる。ブレードレッグ36、38の外面は、シャンク部12の径に対応して丸くされていることもあるが、これは、必ずしも必要ではない。」(【0016】?【0019】段落)

記載D.
「移植のために、ネックねじ10は、例えば、適当な穴が大腿骨に穿孔された後に、止めくぎの傾斜貫通孔を通される。さらに、予備穴が、大腿骨のネックとヘッドに穿孔される。次いで、ネックねじ10が、それ自体は知られているように、大腿骨のネックまたはヘッドにねじ込まれる。くぎシャンクの近位端に取付けられた固定ねじは、スライド溝30、32のうちの一方と相互作用して、ネックねじ10がねじ込まれた後の更なる回転を阻止する。ネックねじ10の軸方向位置も固定するために、固定ねじを締付けて、スライド溝30、32のうちの一方と非係合的に相互作用させ、このようにして、ネックねじ10の軸方向安全性も提供する。このネックねじ10は、前もって入り込まされた、とがりガイドバー(図示省略)によりねじ込まれ、ネックねじ10は、自身上に”整列されている(lined up)”ネックねじ10を有し、とがりガイドバーは、中央の貫通孔20を貫通して延びる。
次いで、図1乃至図3、図4、図7及び図8に示されているブレードが、それぞれ、めねじ部40と相互作用する器具により入り込まされる。
ブレードレッグ36、38は溝22、24に挿入され、環状円筒部37がネックねじ10の遠位端に当接するまで、推進される。ブレードレッグ36、38のとがり端部は、ネックねじ10の近位端を僅かに越えて突出している。次いで、ブレード34は、締結ねじ50によりネックねじ10のシャンク部12に固定される。作動のために、締結ねじ50は、ねじ表面を有する皿もみ部(countersunkportion)58を有する(アレンタイプ(Allen type))。
ブレード34が、前述のように固定されると、固定ねじがスライド溝30、32のうちの一方に対して僅かに緩んで、ネックねじ10が依然として回転不能にされているにもかかわらず、軸方向にスライドできる。」(【0023】?【0026】段落)

ここで、図面の記載を併せみつつ、これら記載について検討すると、記載A.に、「【発明の属する技術分野】本発明は、・・大腿骨に取付ける止めくぎ等の支持器具の孔に挿通可能に、かつ、上記孔内に保持可能に形成されたネックねじに関するものである。・・このような骨接合支援器具は、主に、転子(trochanteral)骨折と転子下(subtrochanteral)骨折の治療に用いられるが、大腿骨頸の骨折や大腿骨頭の領域内の骨折の治療にも用いられる。」と、引用例1に記載されるネックねじは、大腿骨に取付ける止めくぎの孔に挿通、保持して用いるものである旨記載され、さらに、大腿骨頸の骨折や大腿骨頭の領域内の骨折の治療に用いられることが記載されている。ここで、骨折の治療が骨折部を固定することは自明の事項である。
そして、引用例1は、同じく記載A.に、「・・欧州特許第0257118号明細書により、止めくぎ(locking nail)とネックねじ(neck screw)からなる骨接合支援器具(osteosynthesis aid)が公知となった。この止めくぎは、近位端(proximal end)から大腿骨内に入り込まされる。近位部分において、止めくぎは傾斜孔を有していて、この傾斜孔の軸は、大腿骨頸(collum femoris)の軸にほぼ向けられている。ネックねじは、この孔に通される。・・」と、止めくぎは、大腿骨頸に向けられる傾斜孔を有することと、近位端から大腿骨内に入ることとが記載され、傾斜孔は、その文言及び欧州特許第0257118号明細書FIG.1の図示より、軸線方向に対して斜めに延びることは明白である。また、「大腿骨内に入り」とは、敢えて特段の記載がなされていない以上、大腿骨の骨髄に入るものと解される。
したがって、引用例1には、

大腿骨頸の骨折や大腿骨頭の領域内の骨折の骨折部を固定するための止めくぎであって、該止めくぎは、近位端から大腿の髄質内領域内に挿入可能な止めくぎ、及び、止めくぎの長さ方向軸線に対して斜めに延びる傾斜孔を通して止めくぎに横方向に挿入可能なネックねじ

が記載されている。

次に、引用例1は、ネックねじに関して、記載C.に、「・・径方向に関して全く反対側となるように、溝がネックねじ10の長さ方向に延在しており、図1には一方の溝22のみが示され、他方の溝24は図5及び図6に示されている。・・」と、軸線方向に延びる少なくとも1つの長さ方向に延びる溝22、24を記載しており、この溝に関連して、「・・ブレード34は、図3、図4、図7及び図8にそれぞれ示されている。ブレード34は、2つの互いに平行なブレードレッグ36、38からなり、このブレードレッグ36、38は、環状円筒部37と一体的に形成されている。ブレードレッグ36、38は方形横断面を有し、溝22、24に収容されて適切に係合するように寸法決めされていて、・・」と、この溝22,24にブレードレッグ36、38が挿入可能であること、及び、ブレード34が2つの平行に延びるブレードレッグ36、38を有することを記載している。
さらに、【図1】、【図3】及び【図4】によれば、ネックねじ10の軸線と2つの平行に延びるブレードレッグ36、38とは、ほぼ平行であると解される。
したがって、引用例1には、

ネックねじ10は、軸線方向に延びる少なくとも1つの長さ方向に延びる溝22、24と、ネックねじ10の軸線とほぼ平行な少なくとも1つのブレードレッグ36、38を有するブレード34とを有し、前記ブレードレッグ36、38は、ネックねじ10の長さ方向に延びる溝22、24内に挿入可能であること

が記載されている。

また、止めくぎとネックねじ10との相互関係について、引用例1の記載をみると、まず、記載D.に、「・・ブレードレッグ36、38は溝22、24に挿入され、環状円筒部37がネックねじ10の遠位端に当接するまで、推進される。ブレードレッグ36、38のとがり端部は、ネックねじ10の近位端を僅かに越えて突出している。次いで、ブレード34は、締結ねじ50によりネックねじ10のシャンク部12に固定される。・・」と、溝22、24にブレードレッグ36、38が挿入された状態で、ネックねじ10とブレード34とが固定されることを記載しており、そのようにブレード34を固定したネックねじ10と止めくぎとの関係に関して、さらに、記載D.に「移植のために、ネックねじ10は、例えば、適当な穴が大腿骨に穿孔された後に、止めくぎの傾斜貫通孔を通される。・・ネックねじ10が依然として回転不能にされているにもかかわらず、軸方向にスライドできる。」と、ネックねじ10は、止めくぎの傾斜貫通孔を通すこと、そして、軸線方向移動を可能な状態をとり得ることが記載されている。そして、そのための手段として、同じく、記載D.に、「・・次いで、ネックねじ10が、それ自体は知られているように、大腿骨のネックまたはヘッドにねじ込まれる。くぎシャンクの近位端に取付けられた固定ねじは、スライド溝30、32のうちの一方と相互作用して、ネックねじ10がねじ込まれた後の更なる回転を阻止する。ネックねじ10の軸方向位置も固定するために、固定ねじを締付けて、スライド溝30、32のうちの一方と非係合的に相互作用させ、このようにして、ネックねじ10の軸方向安全性も提供する。・・ブレード34が、前述のように固定されると、固定ねじがスライド溝30、32のうちの一方に対して僅かに緩んで、ネックねじ10が依然として回転不能にされているにもかかわらず、軸方向にスライドできる。」と記載されている。加えて、ここに記載されるスライド溝30、32に関して、引用例1は、記載C.に、「図1のネックねじ10は、円筒形シャンク部12・・を有し、このシャンク部12は、テーパ部16を経て、おねじ部14に連通する。・・径方向に関して全く反対側となるように、スライド溝30、32は、シャンク部12の後部すなわち遠位側に形成され、それぞれ溝22に対して90度オフセットされている。・・」と、ネックねじ10に設けることを記載している。即ち、ネックねじ10の回転を防止するように、ネックねじに設けたスライド溝30,32と固定ねじとにより、ネックねじ10を固定することが引用例1に記載され、これにより、ブレード34を固定したネックねじ10と、止めくぎとの間の相互係止連結が形成されることを、引用例1は、記載している。
したがって、引用例1には、

止めくぎの傾斜貫通孔内でネックねじ10の軸線方向移動を可能にしながら、ネックねじ10の回転を防止するようにネックねじ10を固定するスライド溝30,32及び固定ねじが設けられており、
スライド溝30,32及び固定ねじにより、ブレード34を固定したネックねじ10と止めくぎとの間の相互の係止連結を形成すること

が記載されている。

そして、止めくぎの傾斜貫通孔内に挿入されたブレード34を固定したネックねじ10の機能に関して引用例1の記載をみると、記載B.に、「・・これらのブレードレッグが、双方とも、ネックねじのおねじ部内で負荷を印加される表面領域を広げるようにする。これにより、いかなる二次的なヘッド及びネック回転も効率的に防止することができる。本発明に係るネックねじは、顕著な骨粗しょう症に使用される場合、または、寛骨ねじ(coxa screw)が偏心位置にある場合に、特に好ましい。
・・本発明の別の態様では、溝は、おねじ部の領域内でより平面的に延び、ランプ部(ramp)が、深さが異なる溝部分区間の間に形成されている。その結果、ブレードレッグは、広げられて互いから離れ、したがって、より効率的に固定される。」と、ブレードにより、回転を防止する旨記載し、さらに、ブレードが互いに離れるように拡げられることを記載している。加えて、記載C.に、「・・溝壁には、図1に示すように、面取り部26が設けられていて、面取り状に広がって遠位端へと移行している。その溝底は、面取り部28を有していて、このため溝22、24は、遠位端側から見ると、最初の部分が残りの部分よりも深くなっている。溝22、24の残りの部分は、おねじ部14の領域内では、深さが僅かに浅くなっている。しかしながら、これは、図示されていない。・・」と、溝22,24がおねじ部14で浅くなることを記載している。
さらに、引用例1の記載D.に、「・・ブレードレッグ36、38は溝22、24に挿入され、環状円筒部37がネックねじ10の遠位端に当接するまで、推進される。ブレードレッグ36、38のとがり端部は、ネックねじ10の近位端を僅かに越えて突出している。次いで、ブレード34は、締結ねじ50によりネックねじ10のシャンク部12に固定される。・・」と、ネックねじ10の溝22、24にブレードレッグ36、38が挿入された状態で、ネックねじ10とブレード34とは固定されることが記載されているので、引用例1には、

ブレード34のブレードレッグ36、38は、ネックねじの溝22、24内に挿入されてネックねじに固定され、止めねじの傾斜貫通孔に挿入され、
ブレードレッグ36、38が互いに離れるように拡げられ、それによって回転を防止する荷重支持能力の増大を可能にすること

が記載されている。

これら記載及び図示の内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

大腿骨頸の骨折や大腿骨頭の領域内の骨折部を固定するための止めくぎであって、該止めくぎは、近位端から大腿の髄質内領域内に挿入可能な止めくぎと、止めくぎの長さ方向軸線に対して斜めに延びる傾斜貫通孔を通して止めくぎに横方向に挿入可能なネックねじ10と、を含み、傾斜貫通孔内でネックねじ10の軸線方向移動を可能にしながら、ネックねじ10の回転を防止するようにネックねじ10を固定するスライド溝30,32及び固定ねじが設けられており、ネックねじ10は、軸線方向に延びる少なくとも1つの長さ方向に延びる溝22、24と、ネックねじ10の軸線とほぼ平行な少なくとも1つのブレードレッグ36、38を有するブレード34とを有し、前記ブレードレッグ36、38は、ネックねじ10の溝22、24内に挿入可能である止めくぎにおいて、前記ブレード34のブレードレッグ36、38は、止めくぎを通して延びる傾斜貫通孔内で案内され、それによってブレードレッグ36、38が互いに離れるように拡げられ、それによって回転を防止する荷重支持能力の増大を可能にし、ネックねじ10が回転することを防止する、スライド溝30,32及び固定ねじにより、ブレード34を固定したネックねじ10と止めくぎとの間の相互の係止連結を形成する止めくぎ。

(2)米国特許第4657001号明細書の記載
米国特許第4657001号明細書(以下、「引用例2」という。)」には、図面と共に次の事項が記載されている。(括弧内は当審による仮訳である。)

記載E.
「In general, the inventive hip compression screw 15 comprises a lag screw 16, a barrel plate 17 and an antirotational/locking pin assembly 18. Lag screw 16 comprises an elongated bar having a generally circular cross section as shown in FIGS. 2 and 3. A blind tapped hole 19 is provided in one end of screw 16 for purposes of removal of screw 16 should it be necessary to do so. (一般に、この発明の股関節圧縮ねじ15は、ラグねじ16、バレルプレート17および回転防止・ロッキングピン組み立て体18を含む。ラグねじ16は、図2、3に示されるような一般に円形の横断面である長い棒を含む。ねじ付けされためくら穴19は、ねじ16を除去するために、除去が必要な場合には、ねじ16の一端に設けられる。)」(第3欄第28?34行)

記載F.
「Pin antirotational/locking assembly 18 comprises a head 41 with a hole 42 therethrough and one or more extending elongated pins 43. In FIG. 1, only a portion of pin assembly 18 is shown for purposes of simplicity and clarification. The cross-sectional shape of pins 43 matches the combined shape of grooves 22 and 35. The circumferential location and number of pins 43 coincides with the location and number of grooves 22 and 35 in lag screw 16 and barrel 27, respectively. (回転防止・ロッキングピン組み立て体18は、それを通る穴42を有する頭部41と1またはそれ以上に伸びる延長ピン43を含む。図1では、ピン組立て18の一部だけを単純化し明確化する目的で図示される。ピン43の横断面の形状は、溝22および35の結合した形状と一致する。ピン43の周方向の配置および数は、ラグねじ16およびバレル27の溝22および35の配置および数とそれぞれ同様である。)」(第4欄第28?36行)

記載G.
「The positions of barrel plate 17, lag screw 16 and pin locking assembly 18 shown in FIG. 1 represents their relative positions when an operating surgeon has reduced the fracture 11 thereby seating fractured head 13 firmly against the broken main portion 12 of the femur 10 and fully inserted and applied the compression hip screw 15 to complete the operation.( 図1に示される配置は、執刀者が骨折11を復元し、それにより、大腿骨10の折れた主要部に砕かれた頭部13をしっかりと着座させ、手術を完結するために圧縮股関節ねじ15を完全に挿入し適用したときのバレルプレート17,ラグねじ16及びロッキングピン組み立て体18の相互位置を示す。)」(第4欄第44?50行)

記載H.
「Pin assembly 18 also serves to positively lock together lag screw 16 and barrel 27, and, therefore, barrel plate 17, so that lag screw 16 cannot rotate loose. The antirotational action of pins 43 and the lock between screw 16 and barrel 27 prevent any displacement of the femoral head following the surgery. Moreover, any continued impaction or reduction of the broken portions 12 and 13 of the femur 10 during the postoperative period is allowed by the inventive compression hip screw 15 because lag screw 16 can slide relative to barrel 27. Pins 43 prevent rotation of the femoral head 13 and lag screw 16 but allow sliding. Pin assembly 18 is prevented from being loosened from its assembled position as shown in FIG. 1 due to the friction or force fit between pins 43 and the bone.(ピン組み立て体18は、さらにラグねじ16およびバレル27を確実にロックし、したがってバレルプレート17をともにロックする役目をはたす。その結果、ラグねじ16は回転してゆるむことができない。ピン43の回転防止機能およびねじ16とバレル27間のロックは、手術に続く大腿骨骨頭のどんな移動も防ぐ。さらに、この発明の股関節圧縮ねじ15は、ラグねじ16がバレル27に相互にスライドできることにより、手術後の期間中のどんな継続的な大腿骨10の骨折部分12、13の圧縮あるいは縮小も許容される。ピン43は、大腿骨骨頭13およびラグねじ16の回動を防止するが、スライドは許可する。ピン組み立て体18は、ピン43と骨との間の適当な摩擦か力により図1に示されるようなその組み立てられた位置から緩められることを防止している。)」(第6欄第6?20行)

図面の記載を併せみつつ、これら記載について検討すると、引用例2には、ラグねじ16、バレルプレート17及び回転防止・ロッキングピン組み立て体18からなる股関節圧縮ねじ15が、大腿骨の骨折の治療に用いられるものとして記載されている(記載E.、記載G.参照。)。
そして、引用例2のFig.5及び記載F.には、回転防止・ロッキングピン組み立て体18が、頭部41から分岐して延びるピン43を有することが記載されており、このピン43は、横断面形状がラグねじ16の溝22、バレル27の溝35の形状と一致することが記載F.に記載されるとともに、FIG.2に図示され、それら溝に配置されることにより、回転を防止することが、記載H.に記載されている。
さらに、図面を見ると、Fig.1に、バレルプレート17に対してバレル部27が斜めに延びることが図示されており、バレル部27の穴33も同様にバレルプレート17に対して斜めに伸びるものと解され、同穴33の溝35に回転防止・ロッキングピン組み立て体18のピン43が配置され、これにより、回転防止・ロッキングピン組み立て体18は、バレル部27との間の連結がなされている。

以上を総合すると、引用例2には、骨折頭部13を大腿骨の主部12と密接に固定させ、骨折頭部13の回転を防ぐための技術として、以下の技術が記載されている。

回転止め・ロツキングピン組み立て体18のピン43は、ラグねじ16の溝22に配置されるとともに、プレート部30及びバレル部27からなるバレルプレート17のバレル部27を通して斜めに延びる穴33に設けられたみぞ35にも配置され、それによって荷重支持能力の増大を可能にする、ラグねじ16が回転することを防止するとともに、前記ピン組み立て体18とバレル部27との間の連結を行うこと

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「大腿骨頸の骨折や大腿骨頭の領域内」は、本願発明の「近位大腿」に相当し、引用発明の「止めくぎ」は、その骨折部を固定するためのものであり、大腿の髄質内領域内に挿入されるものであることから、本願発明の「髄内ネイル」に相当するとともに、引用発明の止めくぎに設けられる「傾斜貫通孔」は、溝を有するか否かは、さらに検討を加えるとしても、その孔の配置からみて、本願発明の「斜めの孔(7a、7b、7c)」に相当する。
そして、引用発明の傾斜貫通孔に挿入される「ネックねじ10」は、止めくぎに横方向に挿入されるものであり、斜貫通孔内で軸線方向移動を可能にしながら、回転を防止するように設けられるものであることから、本願発明の「大腿骨頚部ねじ(10a、10b)」に相当し、ネックねじ10に軸線方向に延びるように設けられる、引用発明の「溝22、24」は、本願発明の大腿骨頚部ねじ(10a、10b)の「長さ方向溝(13a、13b)」に相当する。
また引用発明の、傾斜貫通孔には溝を有していないが、止めくぎを通して延びる傾斜貫通孔に案内される、引用発明の「ブレード34」は、ネックねじ10が回転することを防止する機能の範囲においては、大腿骨ネイル(1a、1b、1c)を通して延びる斜めの孔(7a、7b、7c)に案内され、大腿骨頚部ねじ(10a、10b)の回転を防止することが特定される本願発明の「係止要素(16a、16b)」と差異はなく、引用発明の「ブレードレッグ36、38」は、そのブレード34に設けられ、傾斜貫通孔に案内され、互いに離れるように拡げられ、それによって荷重支持能力の増大を可能にするものであり、互いに離れるように拡げられ方向は、高さ方向であるから、本願発明の高さの増大を可能にし、それによって荷重支持能力の増大を可能にするとされる「分岐部(18a、18b、18c、18d)」に相当する。
次に、引用発明の「スライド溝30,32及び固定ねじ」と本願発明の「固定する要素」とを対比すると、引用発明の「スライド溝30,32及び固定ねじ」は、斜めの孔(7a、7b、7c)に相当する傾斜貫通孔内で、大腿骨頚部ねじ(10a、10b)の軸線方向に相当するネックねじ10の軸線方向の移動を可能にしながら、大腿骨頚部ねじ(10a、10b)に相当するネックねじ10の回転を防止するようにネックねじ10をを固定するための要素であることから、本願発明の「固定する要素」が「前記斜めの孔(7a、7b、7c)内で大腿骨頚部ねじ(10a、10b)の軸線方向移動を可能にしながら、大腿骨頚部ねじ(10a、10b)の回転を防止するように大腿骨頚部ねじを(10a、10b)を固定する」と特定される範囲において特段の差異がなく、引用発明の「スライド溝30,32及び固定ねじ」は、本願発明の「固定する要素」に相当するものである。
さらに、引用発明は、スライド溝30,32及び固定ねじにより、ブレード34を固定したネックねじ10と止めくぎとの間の相互の係止連結を形成するものであるから、結果としてブレード34を止めくぎに固定する機能をはたすものであり、ブレード34の遠位部分と止めくぎの近位部分も相互に係止されることとなる。したがって、本願発明が「前記係止要素(16a、16b)の分岐部(18a、18b、18c、18d)は、大腿骨ネイル(1a、1b、1c)を通して延びる前記斜めの孔(7a、7b、7c)に設けられた溝(8a、8b、8c)内で案内され、・・前記係止要素(16a、16b)の遠位部分と大腿骨ネイル(1a、1b、1c)の近位部分との間の積極相互係止連結部を形成する」と特定されることと対比すると、その手段に差異があるとしても、係止要素の遠位部分と大腿骨ネイルの近位部分との間の相互係止が形成される点では、共通する。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両発明は次の点で一致する。

(一致点)
近位大腿の骨折部を固定するための髄内ネイルであって、該髄内ネイルは、近位端部から大腿の髄質内領域内に挿入可能な大腿骨ネイルと、大腿骨ネイルの長さ方向軸線に対して斜めに延びる斜めの孔を通して大腿骨ネイルに横方向に挿入可能な大腿骨頚部ねじと、を含み、前記斜めの孔内で大腿骨頚部ねじの軸線方向移動を可能にしながら、大腿骨頚部ねじの回転を防止するように大腿骨頚部ねじを固定する要素が設けられており、大腿骨頚部ねじは、軸線方向に延びる少なくとも1つの長さ方向溝と、大腿骨頚部ねじの軸線とほぼ平行な少なくとも1つの分岐部を有する係止要素とを有し、前記分岐部は、大腿骨頚部ねじの長さ方向溝内に挿入可能である髄内ネイルにおいて、前記係止要素の分岐部は、大腿骨ネイルを通して延びる前記斜めの孔内で案内され、それによって前記分岐部の高さの増大を可能にし、それによって荷重支持能力の増大を可能にする、大腿骨頚部ねじが回転することを防止する、前記係止要素の遠位部分と大腿骨ネイルの近位部分との間の相互係止を形成する髄内ネイル。

そして、両発明は次の点で相違する(対応する引用発明の用語を( )内に示す。)。

(相違点)
本願発明の係止要素の分岐部は、斜めの孔に設けられた溝(8a、8b、8c)内で案内され、それによって、係止要素の遠位部分と大腿骨ネイルの近位部分との間の積極相互係止連結部を形成するのに対して、引用発明は、斜めの孔(傾斜貫通孔内)に溝を設けるものではなく、係止要素(ブレード34)の遠位部分と大腿骨ネイル(止めくぎ)の近位部分との間の相互係止は、スライド溝30,32及び固定ねじによりなされ、分岐部(ブレードレッグ36、38)は、斜めの孔(傾斜貫通孔)内で案内されるものの、斜めの孔(傾斜貫通孔)に設けられた溝(8a、8b、8c)内で案内されることによって、積極相互係止連結部を形成するものではない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
引用発明は、スライド溝30,32及び固定ねじにより、ブレード34と止めくぎとの間の相互係止がなされるものであるから、手段に差異を有するとしても、この間の相互係止がなされている。
してみれば、当業者は、ブレード34と止めくぎとの間の相互係止に係る手段として、スライド溝30,32及び固定ねじ以外にも、これに代替する公知の手段が存すれば、当然にその採用が試みられるべきものと思慮されるところ、同目的の技術として、引用例2には、ラグねじ16を挿通させるバレル27を通して斜めに延びる穴33に設けた溝35にピン43を配置することが記載されている。
そして、引用例2に記載されるピン43は、回転止め・ロツキングピン組み立て体18に設けられるピンであり、引用発明のネックねじ10と同様の機能をはたす、ラグねじ16の溝22に配置されるピン43を、さらに、プレート部30及びバレル部27からなるバレルプレート17のバレル部27を通して斜めに延びる穴33に設けられたみぞ35内にも配置し、それによって荷重支持能力の増大を可能し、ラグねじ16が回転することを防止するとともに、前記ピン組み立て体18とバレル部27との間の連結を行うものである。
したがって、引用例2は、ラグねじ16の溝22に配置されるピン43をラグねじ16を挿通させる穴33に設けた溝35にも配置することにより、回転止め・ロツキングを行うことを記載するものである。
そして、引用発明のブレードレッグ36、38は、ネックねじ10の溝に配置されるものであり、引用例2に記載される技術を適用して、引用発明のネックねじ10を挿入させる傾斜貫通孔に溝を設け、同溝にもブレードレッグ36、38を配置することは、引用発明の課題の範囲内で、そのための手段として、代替する同様機能の公知の技術を採用することに格別の困難性を認められない。
しかも、相違点に係る本願発明の特定事項が「積極相互係止連結部」なる文言を有するが、同文言によっても、上記引用例2に記載される技術を採用したものと、さらなる差異を特定するものではない。

したがって、相違点は、引用発明に引用例2に記載される技術を適用して、ブレード34の遠位部分とネックねじ10の近位部分との間に係止連結部を形成することにより、当業者が容易になしえたものと認める。

なお、請求人は、引用例2に記載される技術は、プレートを用いる型式のものである旨主張するが、ネイルとするか、プレートとするかに係る施術上の対比において、請求人が主張する差異があるとしても、引用例2に記載される技術は、部材相互間の係止技術としては、プレートを用いることにのみ起因して上記相互係止が達成されるものではなく、係止に係る技術は、ネイルとする型式のものの相互係止に採用可能な技術と認める。

そして、本願発明の効果は、引用発明、及び、引用例2に記載される技術から当業者が予測し得た以上の格別のものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載される技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載される技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-28 
結審通知日 2011-05-09 
審決日 2011-05-20 
出願番号 特願2006-506449(P2006-506449)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺澤 忠司  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 蓮井 雅之
田合 弘幸
発明の名称 大腿骨折部の固定用の髄内ネイル  
代理人 大塚 文昭  
代理人 弟子丸 健  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 井野 砂里  

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