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審決分類 |
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B21J |
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管理番号 | 1244969 |
審判番号 | 無効2010-800208 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2010-11-09 |
確定日 | 2011-08-26 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3663145号発明「極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を被覆圧延鋼板、特に被覆熱間圧延鋼板の帯材から型打ちによって製造する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 平成13年 4月 6日 本件出願 (優先権主張平成12年4月7日、フランス国) 平成17年 4月 1日 設定登録(特許第3663145号) 平成22年11月 9日 無効審判請求(請求項1,3,5,7,8) 平成23年 2月23日 答弁書、訂正請求書 平成23年 3月29日 請求人・口頭審理陳述要領書 平成23年 4月12日 被請求人・口頭審理陳述要領書、口頭審理 第2.訂正請求について 1.訂正請求の内容 被請求人が求めた訂正の内容は、 (ア)請求項1において、「ここで該熱処理は鋼板ブランクに700℃?1200℃の高温を作用させるものであり、」なる記載を追加し、 (イ)請求項2において、上記訂正との整合を図るため、「熱処理が、鋼板ブランクに700℃?1200℃の高温を作用せるものであり、且つ」の記載を削除する、というものである。 2.訂正請求についての当審の判断 訂正請求について検討する。 訂正事項(ア)は、熱処理の温度を、「700℃?1200℃」に限定する訂正であり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。 無効審判の請求がされていない請求項に係る訂正事項(イ)は、明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもなく、独立して特許を受けられないものでもない。 したがって、上記訂正は、特許法第134条の2第1項の規定に適合し、同条第5項で準用する特許法第126条第3項ないし第5項の規定にも適合するので、上記訂正を認める。 訂正請求が適法であることは、両当事者間に争いはない(口頭審理調書「両当事者 1」)。 第3.本件発明 本件特許の請求項1,3,5,7,8に係る発明は、訂正された明細書によれば、以下のとおりである。 「【請求項1】 鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する、亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって成形された部品を製造する方法であって、 鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階と、 鋼板ブランクを熱間型打ちして部品を得る段階と、 型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る、亜鉛-鉄ベース化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物からなる群から選択される合金化合物を熱処理により鋼板ブランクの表面に生じさせる段階と、ここで該熱処理は鋼板ブランクに700℃?1200℃の高温を作用させるものであり、 型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、 を含んで成る方法。 【請求項3】 被膜を形成する亜鉛または亜鉛ベース合金が5μm-30μmの範囲の厚みであることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項5】 型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れすることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項7】 亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物がケイ素を含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項8】 請求項1から7のいずれか一項に記載の方法に用いられる被覆された鋼板であって、前記鋼板の被覆される前の鋼板が0.15-0.25重量%の炭素、0.8-1.5重量%のマンガン、0.1-0.35重量%のケイ素、0.01-0.2重量%のクロム、0.1重量%以下のチタン、0.1重量%以下のアルミニウム、0.05重量%以下のリン、0.03重量%以下のイオウ及び0.0005-0.01重量%のホウ素を含むことを特徴とする鋼板。」 第4.請求人の主張 1.条文 特許法第36条第6項第1号及び第2号(第123条第1項第4号) 2.証拠 請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。 甲第1号証:本件特許公報 甲第2号証:欧州特許第1,143,029号の異議申立事件において特 許権者が提出した答弁書 甲第3号証:特願2004-221430(本件の分割出願)の審査にお いて出願人が提出した補正書及び意見書 3.概要 (1)審判請求書第2ページ「7-1 請求の理由の要約」 「(1)特許第3663145号(以下、「本件特許」という)の発明の詳細な説明には、「700℃-1200℃の範囲の高温」で熱処理することにより、「亜鉛-鉄ベース化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物からなる群から選択される合金化合物」を鋼板ブランクの表面に生じさせることが記載されているが、「700℃-1200℃」の範囲外の温度で熱処理することにより、「亜鉛-鉄ベース化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物からなる群から選択される合金化合物」を生じさせることについては全く記載されていないから、熱処理温度の規定されていない本件特許の請求項1、3、5、7及び8に係る発明(以下、まとめて「本件発明」という)は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。 (2)「熱処理」という規定では、どの程度の熱を加えて処理するのか明らかでないから、熱処理温度の規定されていない本件発明は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。」 (2)口頭審理陳述要領書第2ページ「6.(2)」 「以下の点が確認された場合には、無効理由が解消されたことを認める。 本願請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。 丸1 「鋼板ブランクに700℃?1200℃の高温を作用させる」熱処理を行うものである。 丸2 上記丸1の熱処理により、鋼板ブランクの表面に「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る、亜鉛-鉄ベース化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物からなる群から選択される合金化合物」を生じさせるものである。 丸3 鋼板ブランクは「鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する、亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された圧延鋼板」を裁断して得るものである。(全文訂正明細書の請求項1の第3行には、「鋼板」と記載されているが、この「鋼板」は、上記の「鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する、亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された圧延鋼板」を意味する。) 丸4 鋼板ブランクにする前の上記丸3の鋼板(圧延鋼板)には、「700℃?1200℃の高温を作用させる」熱処理は行われていない。 丸5 鋼板ブランクにする前の上記丸3の鋼板(圧延鋼板)には、「腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る、亜鉛-鉄ベース化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物からなる群から選択される合金化合物」は形成されていない。」 (丸囲み数字は「丸1」のように置き換えた。) 第5.被請求人の主張 これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。 その主張の概要は、以下のとおりである。 (1)答弁書第8ページ第13?22行(空行を含まない。以下同様。) 「今般の訂正により、本訂正後の請求項1に係る発明は、「鋼板ブランクに700℃?1200℃の高温を作用させる」熱処理を行うことに特定したのであるから、本願明細書に記載されていることが明らかである。具体的には、本審判請求人も審判請求書で述べている、本願明細書段落[0007]の「本発明の別の特徴は:-被膜を形成する金属または金属合金が5μm-30μmの範囲の厚みの亜鉛または亜鉛ベース合金から成る;-金属間合金が亜鉛-鉄ベース化合物または亜鉛-鉄-アルニミウムベース化合物である;-成形前及び/または熱処理前の被覆鋼板に700℃を上回る高温を作用させる;-主として型打ちによって得られた部品を臨界焼入れ温度を上回る速度で冷却することよって焼き入れする;などである。」等に記載されていることは明らかである。」 (2)答弁書第9ページ第26行?第10ページ第2行 「今般の訂正により、本訂正後の請求項1に係る発明は、「鋼板ブランクに700℃?1200℃の高温を作用させる」熱処理を行うことに特定したのであるから、熱処理温度「700℃?1200℃」が規定されていることは明らかである。」 (3)口頭審理調書 「被請求人 2 請求人の口頭審理陳述要領書の確認事項は、熱処理温度とは無関係であるから回答する必要はない。このことは、熱処理温度が特定されている請求項が無効審判請求の対象となっていないことからも明らかである。」 第6.当審の判断 1.本件発明 本件特許の請求項1,3,5,7,8に係る発明(以下「本件発明1,3,5,7,8」という。)は、上記第3.のとおりと認められる。 2.第36条第6項第1号の理由 訂正された請求項1には、以下の記載がある。 「該熱処理は鋼板ブランクに700℃?1200℃の高温を作用させる」 特許明細書の段落0021には、以下の記載がある。 「部品を成形するためまたは熱処理するために、炉で鋼板に好ましくは700℃-1200℃の範囲の高温を作用させる。」 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明1に係る特許が、第36条第6項第1号に違反してなされたものとは認められない。 本件発明3,5,7,8は、本件発明1に従属するものであるから、同様に、本件発明3,5,7,8に係る特許が、第36条第6項第1号に違反してなされたものとは認められない。 3.第36条第6項第2号の理由 上記2.のとおり、本件発明1,3,5,7,8は、熱処理温度が特定されている。 よって、本件発明1,3,5,7,8において、熱処理温度は明確であるから、本件発明1,3,5,7,8に係る特許が、第36条第6項第2号に違反してなされたものとは認められない。 4.請求人の主張について 請求人は、上記第4.3.(2)のとおり、本件発明1,3,5,7,8は、依然として不明確である旨、主張する。 しかし、請求人の主張は、本件発明1,3,5,7,8による作用、効果に関するものである。 訂正前において、熱処理温度が特定されていた請求項に係る特許発明が、無効審判請求の対象とされていなかったことからみても、上記主張は、第36条第6項第1号、第2号とは、異なる主張である。 よって、請求人の主張は、採用できない。 第7.むすび 以上、本件発明1,3,5,7,8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号、第2号の規定を満たすものであり、特許法第123条第1項第4号の規定に該当しないので、無効とすることはできない。 また、他に本件発明1,3,5,7,8に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。 審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を被覆圧延鋼板、特に被覆熱間圧延鋼板の帯材から型打ちによって製造する方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する、亜鉛または亜鉛ベース合金で被覆された圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって成形された部品を製造する方法であって、 鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階と、 鋼板ブランクを熱間型打ちして部品を得る段階と、 型打ち前に、腐食に対する保護及び鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る、亜鉛-鉄ベース化合物および亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物からなる群から選択される合金化合物を熱処理により鋼板ブランクの表面に生じさせる段階と、ここで該熱処理は鋼板ブランクに700℃?1200℃の高温を作用させるものであり、 型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、 を含んで成る方法。 【請求項2】 更に型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 被膜を形成する亜鉛または亜鉛ベース合金が5μm-30μmの範囲の厚みであることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項4】 炉中で鋼板ブランクに700℃?1200℃の高温を作用させ、且つ炉中雰囲気が管理されていないことを特徴とする請求項2に記載の方法。 【請求項5】 型打ちされた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れすることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項6】 作用させる高温が900℃を上回り、かつ1200℃以下であることを特徴とする請求項4に記載の方法。 【請求項7】 亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物がケイ素を含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項8】 請求項1から7のいずれか一項に記載の方法に用いられる被覆された鋼板であって、前記鋼板の被覆される前の鋼板が0.15-0.25重量%の炭素、0.8-1.5重量%のマンガン、0.1-0.35重量%のケイ素、0.01-0.2重量%のクロム、0.1重量%以下のチタン、0.1重量%以下のアルミニウム、0.05重量%以下のリン、0.03重量%以下のイオウ及び0.0005-0.01重量%のホウ素を含むことを特徴とする鋼板。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆された圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を製造する方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 高温下の成形または熱処理を要する鋼板に対しては、熱処理に対する被膜の耐性を考慮して被覆処理が行われていない。鋼の熱処理は一般に700℃を十分に上回る比較的高い温度で行われる。実際これまでは、金属表面に付着させた亜鉛被膜は、亜鉛の融点を上回る温度に加熱されると、溶融し流動して熱間成形用ツールの働きを妨害し、更に、急冷中に被膜が劣化すると考えられてきた。 【0003】 従って、被膜形成の処理は完成部品に対して行われており、このためには、該部品の表面及び中空部分の十分な清浄化が不可欠であった。このような清浄化には酸または塩基を使用する必要がある。このような酸または塩基は再利用及び保管に関する経済的な負担が大きく、また、作業員及び環境に対して危険である。更に、鋼の脱炭及び酸化を完全に防止するために、熱処理を管理雰囲気下で行う必要がある。加えて、熱間成形の場合に生じるカーボンデポジット(煤、calamine)がその研磨能力によって成形用ツールを損傷するので、得られる部品の品質、即ち寸法及び審美性の面で部品の品質を低下させたり、あるいは、ツールの頻繁な修理が必要になるのでコストが上がったりする。最後に、得られた部品の耐食性を強化するために、該部品の後処理が必要であるが、このような後処理は経費も高く作業も難しい。特に中空部分のある部品ではこのような後処理は不可能である。極めて高い機械的特性値をもつ鋼の後被覆はまた、電気亜鉛メッキ法では水素による脆化の危険、予め成形された部品の浸漬亜鉛メッキ法では鋼の機械的特性の変化、などの欠点がある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、特に熱間圧延後に被覆され、熱間成形または冷間成形及び熱処理による順次処理が必要な0.2mm-約4mmの厚みをもつ圧延鋼板と、これらの被覆圧延鋼板から熱間成形部品を製造する方法をユーザーに提供することである。本発明方法では、熱間成形及び/または熱処理の前、処理中または処理後のいずれの時期でも鋼板を構成する鋼の脱炭、鋼板の表面の酸化を全く生じることなく高温処理が可能である。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明の目的は、鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆した圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材を型打ちすることによって極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を製造する方法であって、 -鋼板を裁断して鋼板ブランク(生地板)を得る段階と、 -鋼板ブランクの型打ちによって部品を成形する段階と、 -型打ち前または型打ち後に、腐食に対する保護、鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る金属間合金化合物で表面を被覆する段階と、 -型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、 から成る方法を提供することである。 【0006】 【発明の実施の形態】 本発明の好ましい実施態様においては、方法が、 -鋼板を裁断して鋼板ブランクを得る段階と、 -部品を熱間成形するために被覆鋼板ブランクに高温を作用させる段階と、 -腐食に対する保護、鋼の脱炭に対する保護を確保し且つ潤滑機能を確保し得る金属間合金化合物で表面を被覆する段階と、 -鋼板ブランクを型打ちによって成形する段階と、 -鋼の硬度及び被膜の表面硬度などの機械的特性を強化するために形成部品を冷却する段階と、 -型打ち処理に必要であった鋼板の余剰部分を裁断によって除去する段階と、 から成る。 【0007】 本発明の別の特徴は: -被膜を形成する金属または金属合金が5μm-30μmの範囲の厚みの亜鉛または亜鉛ベース合金から成る; -金属間合金が亜鉛-鉄ベース化合物または亜鉛-鉄-アルミニウムベース化合物である; -成形前及び/または熱処理前の被覆鋼板に700℃を上回る高温を作用させる; -主として型打ちによって得られた部品を臨界焼入れ速度を上回る速度で冷却することによって焼入れする; などである。 【0008】 本発明はまた、型打ち、特に熱間型打ちによる部品の成形によって高い機械的硬度、高い表面硬度などの特性及び極めて優れた耐摩耗性をもつ部品を得るための、鋼板の表面及び内部の鋼を確実に保護する金属または金属合金で被覆された圧延鋼板、特に熱間圧延鋼板の帯材の使用に関する。 【0009】 以下の記載及び添付の図面から本発明がより十分に理解されよう。 【0010】 図1は、本発明方法の1つの実施態様を示す概略工程図である。 【0011】 図2は、本発明方法の別の実施態様を示す概略工程図である。 【0012】 図3a及び3bは、本発明方法によって形成された亜鉛被膜をもつ部品の一部分のそれぞれ熱処理前及び熱処理後の断面を表す写真である。 【0013】 図4a及び4bは、本発明方法によって形成された亜鉛アルミニウム被膜をもつ部品の一部分のそれぞれ熱処理前及び熱処理後の断面を表す写真である。 【0014】 図1の概略図に示す本発明の方法では、特に熱間圧延し亜鉛または亜鉛ベースの合金で被覆した熱処理用または熱成形用の鋼板から、型打ちプレスのようなツールによって熱成形部品を製造する。 【0015】 亜鉛または亜鉛合金の被膜は、ロール化された基本の鋼板を腐食から保護するように選択されている。 【0016】 従来の定説と違って、熱処理のときまたは熱間成形を行うために温度を上昇させたときに、被膜は帯材の鋼と合金化した層を形成し、この瞬間から被膜の金属の溶融が生じない機械的強度をもつようになる。形成された化合物は、腐食、摩滅、損耗及び疲労に対して高い耐性を有している。被膜は鋼の成形加工性を変化させないので、得られた鋼に対して極めて多様な冷間成形及び熱間成形を行うことが可能である。 【0017】 更に、亜鉛または亜鉛合金を使用するので、鋼ブランクまたは鋼部品に打抜き部分があるときの切断面が亜鉛メッキによって保護される。 【0018】 熱間圧延後、被膜を形成する前に、帯材を酸洗い及び冷間圧延してもよい。鋼板を冷間圧延する場合には、被膜を形成する前に鋼板を焼鈍処理してもよい。 【0019】 圧延鋼板を例えば亜鉛または亜鉛-アルミニウム合金によって被覆し得る。 【0020】 図2の概略図では、部品を得るために鋼板を冷間型打ちする。得られた部品を次に熱処理して、部品に高い機械的特性値を与える。例えば、約500MPaの破壊強度Rmを有する基本の鋼の熱処理によって、1,500MPaを上回る破壊強度Rmを有する部品が得られる。 【0021】 部品を成形するためまたは熱処理するために、炉で鋼板に好ましくは700℃-1200℃の範囲の高温を作用させる。被膜によって酸化に対する障壁が形成されるので炉の雰囲気は管理不要である。亜鉛ベースの被膜は温度上昇に伴って処理温度に依存する種々の相を含む表面合金層に変態し、600HV/100gを上回る高い硬度をもつようになる。 【0022】 優れた成形性及び優れた耐食性を有する厚み0.2mm-4mmの鋼板を本発明方法に使用し得る。 【0023】 被覆処理される鋼板は、高温処理中、成形中、熱処理中及び最終成形部品の使用中に優れた耐食性を維持している。 【0024】 被膜の存在は、熱処理中または熱間成形中の基本の鋼の腐食防止に加えて、鋼の脱炭防止の効果がある。これは、例えば型打ちプレス内で熱間成形するときに明らかな利点を与える。即ち、形成された金属間合金はカーボンデポジットの形成を阻止し、カーボンデポジットによるツールの損耗を防止し、その結果として、ツールの平均使用寿命を延長させる。熱間形成された金属間合金が高温で潤滑機能を有することも知見された。更に、金属間合金が脱炭防止効果を有するので、管理されない雰囲気の炉で900℃を上回る高温を使用することが可能であり、このような高温加熱時間が数分間に及んでもよい。 【0025】 得られた部品を炉から取り出した後で酸洗いする必要がない。即ち、最終部品の酸洗い浴が不要なので経済的に有利である。 【0026】 被膜が高温処理によって得られた特性を有するので、成形部品の耐疲労性、耐損耗性、耐摩耗性及び耐食性が強化されている。亜鉛は鋼に対するメッキ作用を有するので、部品の切断面でも同様の特性強化が得られる。更に、被膜は高温処理の前後いずれの時期でも溶接可能である。 【0027】 鋼板を構成する鋼は焼入れ硬化されるので、成形後に得られる部品は高い機械的特性値を有し得る。また、被膜は高温で金属間合金に変態し潤滑性及び耐摩擦性を有するので、成形性、特に熱間型打ちの分野での成形性が改善される。 【0028】 【実施例】 実施例1:鋼に設けた亜鉛被膜 1つの実施態様では、以下の重量組成をもつ鋼から熱間圧延鋼板の帯材を製造する: 炭素:0.15%-0.25% マンガン:0.8%-1.5% ケイ素:0.1%-0.35% クロム:0.01%-0.2% チタン:0.1%以下 アルミニウム:0.1%以下 リン:0.05%以下 イオウ:0.03%以下 ホウ素:0.0005%-0.01% 【0029】 厚み1mmの冷間圧延鋼板から、厚み約10μmの亜鉛被膜が両面に連続的にメッキされた部品を製造する。成形前の鋼板を950℃でオーステナイト化し、ツール内で焼入れする。被膜は低温及び高温の腐食防止及び脱炭防止などの本来の機能に加えて、成形処理中に潤滑剤の機能を果たす。合金被膜は焼入れ処理中にツールからの排熱を妨害することがなく、この排熱をむしろ促進する。全処理工程にわたって部品が基本の被膜によって確実に保護されているので、成形及び焼入れの後、部品の酸洗いまたは保護はもはや不要である。 【0030】 成形後に、従って熱処理後に得られた部品は、無光沢な灰色の表面状態を有しており、流れ跡や気泡がなく、剥離や亀裂がなく、切断面にカーボンデポジットがない。走査型電子顕微鏡で観察すると、表面及び断面の被膜が均質な構造及び組織を維持しており、950℃で5分以内にFe-Zn合金が形成されていることが判明する。 【0031】 それぞれ熱処理の前及び後の厚み5-10μmの被膜の断面のZnの拡散界面を表す図3a及び3bの比較から明らかなように、被膜は亜鉛マトリックス中の球状化Zn-Fe合金によって形成された層であり、層は10-15μmの厚みを有している。 【0032】 DIN 50017規格に従う湿度及び温度で行った腐食試験では、本発明の被膜が30サイクル後に優れた腐食防止効果を示し、部品の表面がその無光沢状態を維持していることが示された。 【0033】 以下の表1は、被膜のない対照鋼板、亜鉛被膜をメッキしたが熱処理しない対照鋼板、本発明の2つの実施態様で得られた鋼板のそれぞれについて、500-1000時間の塩水噴霧による腐食試験後の減量を表す。 【0034】 【表1】 【0035】 表から明らかなように、熱処理した被膜は塩水噴霧に対して十分に耐性である。更に、亜鉛と鉄とから成る被膜の表面は従来のトリカチオンリン酸化型の表面処理浴でリン酸化し得る。リン酸化及び電気塗装(peinture cataphorese)後に行った腐食試験は優れた結果を示す。亜鉛鉄合金層は更に、カソード保護型の亜鉛メッキによって切断面を保護する。 【0036】 実施例2:鋼に設けた亜鉛アルミニウム被膜 約1mmの鋼板に10μmの被膜を形成する。この被膜は50-55%のアルミニウムと45-50%の亜鉛とから成り、任意に少量のケイ素を含有する。 【0037】 熱間成形後のこの被膜の断面の状態を図4a及び4bに示す。 【0038】 熱間成形中に、亜鉛とアルミニウムと鉄とが合金化して密着性の均質な亜鉛-アルミニウム-鉄被膜が形成される。腐食試験では、この合金層が極めて優れた腐食防止効果を有していることが示される。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明方法の1つの実施態様を示す概略工程図である。 【図2】 本発明方法の別の実施態様を示す概略工程図である。 【図3】 3a及び3bは、本発明方法によって形成した亜鉛被膜をもつ部品の一部分のそれぞれ熱処理前及び熱処理後の断面を表す写真である。 【図4】 4a及び4bは、本発明方法によって形成した亜鉛アルミニウム被膜をもつ部品の一部分のそれぞれ熱処理前及び熱処理後の断面を表す写真である。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2011-04-19 |
出願番号 | 特願2001-109121(P2001-109121) |
審決分類 |
P
1
123・
537-
YA
(B21J)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 金澤 俊郎 |
特許庁審判長 |
千葉 成就 |
特許庁審判官 |
長屋 陽二郎 刈間 宏信 |
登録日 | 2005-04-01 |
登録番号 | 特許第3663145号(P3663145) |
発明の名称 | 極めて高い機械的特性値をもつ成形部品を被覆圧延鋼板、特に被覆熱間圧延鋼板の帯材から型打ちによって製造する方法 |
代理人 | 特許業務法人川口國際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人川口國際特許事務所 |
代理人 | 松本 悟 |
代理人 | 奥井 正樹 |