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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1245036
審判番号 不服2010-9673  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-06 
確定日 2011-10-12 
事件の表示 特願2004-503951「流体テスタ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月20日国際公開,WO03/96009,平成17年 8月25日国内公表,特表2005-525553〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成15年5月8日(優先日:平成14年5月14日,米国)の国際出願であって,平成21年12月25日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年5月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
そして,本願の請求項1ないし80に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1ないし80に記載された技術的事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1は次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)

「【請求項1】
流体の複数の特性それぞれの値を判定するための流体テスト装置において、平面ベースと、前記平面ベース上に位置する複数のテスト領域からなり、前記テスト領域それぞれは、前記流体と反応物の反応の結果として、前記値に沿って色を表すテスト下部領域と、複数の互いに異なる基準色を含み、前記テスト下部領域に隣接して位置する基準領域とを含むことを特徴とする流体テスト装置。」

第2 引用刊行物およびその記載事項
1 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願昭58-143775号(実開昭60-51463号)のマイクロフィルム(以下,刊行物1という)には,図面と共に次の事項が記載されている。

(1-ア)
「2.実用新案登録請求の範囲
1) 本体に発色試薬部と、比色部とを設けた検査紙。
2) 上記比色部が発色試薬部と隣接或は近接していることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の検査紙。」(1頁4?9行)

(1-イ)
「本考案は、排泄物や体液中に含まれる成分を検査する検査紙に関するもので、その目的とする処は排泄物や体液を付着させることにより発色する試薬部の変色具合を一目で比色して健康状態を認識させることができる検査紙を提供せんとするものである。ここで排泄物や体液とは、糞便、血液、尿、汗、髄液等を言う。
その目的を達成する為の基本的な構成は、本体の発色試薬部に隣接或は近接せしめて比色部を設けたものである。」(1頁11行?2頁1行)

(1-ウ)
「以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
本体(A)は、医療業界で既に周知のもので、紙、プラスチック等で矩形やその他の所望形状に形成してなり、この本体(A)に発色試薬部(B)と比色部(C)とを設ける。」(2頁2?7行)

(1-エ)
「発色試薬部(B)は、ウロビリノーゲン,ビリルビン,ケトン体,ブドウ糖,蛋白質,潜血,PH,亜硝酸塩,アスコルビン酸等の成分と接触すると発色して成分の濃淡によって色調を表わすもので、この試薬部(B)の内検査したい試薬部(B)を1ヶ所、或は数箇所本体(A)上に設ける。
発色試薬部(B)を設ける位置は、第1図乃至第3図に示すように一列に適宜間隔をおいて設けることとするも、被検者や医者、検査士等が見易いように配設できるものならばいかなる配列でも任意である。」(2頁8?19行)

(1-オ)
「比色部(C)は、発色する試薬部(B)の発色具合、即ち色調を被検者、医者等に比色させて健康状態を判断させるもので、各々の発色試薬部(B)用の色調の異なる比色部(C)を1乃至数箇所その試薬部(B)と近接又は隣接せしめて本体(A)上に設ける。
比色部(C)の配設位置は、第1図乃至第3図に示すように試薬部(B)を挟むように設ける、試薬部(B)と並設して設ける、試薬部(B)の上位或は下位に設ける等、比色し易い位置に配設する。
尚、第4図に示すように発色試薬部(B)に隣接して非健康体であることを認識させる異常色付の比色部(C)のみを設けて検査紙を形成しても任意である。」(2頁末行?3頁14行)

(1-カ)
「本考案は、以上のように本体に発色試薬部の他に比色部を設けたので、排泄物や体液を付着させることにより発色する試薬部の変色具合を一目で比色して健康状態を被検者や医者等に認識させることができ、非常に便利である。」(3頁15?19行)

(1-キ)
そして,第1図?第3図には,矩形をした本体(A)の上に一列に適宜間隔をおいて複数設けられた発色試薬部(B)のそれぞれに対応して,間隔を互いに開けて複数設けられた比色部(C)には,その発色試薬部(B)の発色試薬が色調が表す体液等の成分の異なる濃度を示す数字や「+」記号の数がそれぞれ付記されていることが示されている。

上記記載事項(1-ア)?(1-キ)および図面を勘案すると,刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる。
「体液の複数の成分の濃淡状態を認識するための検査紙において,本体(A)と,該本体(A)上に位置する複数の発色試薬部(B)であって,該発色試薬部(B)のそれぞれが,前記体液と発色試薬部の試薬の反応の結果として前記成分の濃淡状態によって異なる色を表すものと,複数の互いに異なる色調の比色部(C)とを含み,各比色部(C)には対応する体液中の成分の濃度状態を示す数字や記号が付記されており,前記発色試薬部(B)に隣接あるいは近接して比色部(C)が位置する検査紙。」(以下,「引用発明」という)

2 同様に,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願昭59-183286号(実開昭61-97763号)のマイクロフィルム(以下,刊行物4という)には,図面と共に次の事項が記載されている。

(4-ア)
「2. 実用新案登録請求の範囲
容器内壁の適宜な位置に反応試薬部を設けると共に、この反応試薬部に沿って検査判断基準票を設けたことを特徴とする検査用容器。」(1頁4?7行)

(4-イ)
「〔実施例1〕
第1図は、本考案に係る検査用容器の第1の実施例の説明図である。
同図中、1は紙コップ、2は前記紙コップ1の内壁面に縦長に貼着した尿糖に反応する試薬を設けた尿糖試験紙、3は同じく尿糖試験紙2の隣りに並べて縦長に貼着した尿糖の有無及び尿糖の含有度を例えば黄色A(約0%)、黄緑色B(約1/10%)、薄緑色C(約1/4%)、緑色D(約1/2%)、濃緑色E(約2%以上)といったように複数段階に所定の色彩で表示した検査判断基準票、4は前記尿糖試験紙2と検査判断基準票3の全面を覆った防湿用のテープである。
上記の構成によれば、尿糖試験紙2と尿糖試験紙2の変色具合を対比するため検査判断基準票3を採尿容器となる紙コップ1の内壁面に縦長に貼着したので、尿糖の有無及び尿糖の含有量の程度をチェックするに際し、採尿は直接紙コップ1で行えばよく、採尿用の容器を採尿の都度準備する必要がないので煩わしさがなく、しかも採尿の手順は、第2図a,b,cに示す如く行えばよいので、チェック自体が非常に簡単に実施できる。
すなわち、採尿に先立って紙コップ1の内壁面に貼着して設けた尿糖試験紙2及び検査判断基準票3の表面を覆った防湿用のテープ4を剥離口(第1図中矢印×で示す部分)を摘んで引っぱることにより剥離する(図a参照)。
次に、採尿を行う。この場合尿の量が多く尿糖試験紙2が十分に浸漬する状態であれば採尿と同時に尿糖試験紙2は所定の化学反応をして糖の含有量にしたがった色を呈する。
(中略)
そして、最終的に第2図cに示す如く、紙コップ1を位置せしめて所定の色に変色した尿糖試験紙2の呈色と隣りの検査判断基準票3の基準色との対比を行い、尿糖のチェックを了するのである。」(4頁3行?6頁5行)

(4-ウ)
「〔実施例3〕
第4図は、本考案に係る検査用容器の第3の実施例の説明図である。
同図中、1は他の実施例と同様な紙コップ1,1’は前記紙コップ1の口縁にのり付けして、例えば図に示す矢印Yの如く紙コップ1内へ折り返えして挿入せしめることができる台紙、2は前記台紙1’の裏面に貼着した尿糖試験紙、3は前記台紙1’の裏面に貼着した検査判断基準票、4は前記尿糖試験紙2と検査判断基準票3の全体を覆った防湿用のテープ4である。
このような構成とした容器は、折り返えし可能な台紙1’に尿糖試験紙2及び基準票3、そして防湿用のテープ4を貼着するようにしたので、例えば第1の実施例、第2の実施例のように紙コップ1の内壁面に尿糖試験紙2、検査判断基準票3及び防湿用のテープ4を貼着するものに比べ貼着処理が非常に簡単となる。
その他の作用効果は第1及び第2の実施例と同様である。」(7頁1?末行)

(4-エ)
第1図,第3図,第4図には,尿糖試験紙2に対して検査判断基準票3のA?Eまでの複数段階の色彩表示領域が,その境界同士が隣接,すなわち,隙間なく接触した配置をとっていることが図示されている。

第3 対比・検討
1 本願発明と引用発明との対比
「体液」も「流体」の一種であり,引用発明においても,体液の複数の成分の濃淡状態の認識は,対応する体液中の成分の濃度状態を示す数字や記号が付記された互いに異なる色調の複数の比色部(C)と,前記体液と発色試薬部の試薬の反応の結果として前記成分の濃淡状態によって異なる色を表す発色試薬部(B)との比色,即ち色の比較によりおこなわれるものであるから,刊行物1においては明記されていないものの,それらの数字や記号により体液の特性の値が判定されているものといえる。そうすると,引用発明の「体液の複数の成分の濃淡状態を認識するための検査紙」は,本願発明の「流体の複数の特性それぞれの値を判定するための流体テスト装置」に相当するといえる。
そして,「検査紙」である以上,その「本体(A)」は,平面状の物体であることが普通であるから,引用発明の「本体(A)」は,本願発明の「平面ベース」に相当するといえる。
また,引用発明の「前記体液と発色試薬部の試薬の反応の結果として前記成分の濃淡状態によって異なる色を表す」「発色試薬部(B)」は,その機能・構造からみて,本願発明の「前記流体と反応物の反応の結果として、前記値に沿って色を表すテスト下部領域」に相当し,同様に,引用発明の「前記発色試薬部(B)に隣接して」位置する「複数の互いに異なる色調の比色部(C)」は,本願発明の「複数の互いに異なる基準色を含み、前記テスト下部領域に隣接して位置する基準領域」に相当することは明らかである。
さらに,本願発明における「テスト領域(test section)」とは,前記の「テスト下部領域(test sub-section)」と「基準領域」とを含む領域を意味するから,刊行物1においては「発色試薬部(B)と比色部(C)とを含む領域」に特別な用語を付けて記載されていないが,それらを含む領域は本体(A)(平面ベース)上に当然存在しているといえる。

してみると,両者は,
(一致点)
「流体の複数の特性それぞれの値を判定するための流体テスト装置において,平面ベースと,前記平面ベース上に位置する複数のテスト領域からなり,前記テスト領域それぞれは,前記流体と反応物の反応の結果として,前記値に沿って色を表すテスト下部領域と,複数の互いに異なる基準色を含み,前記テスト下部領域に隣接して位置する基準領域とを含む流体テスト装置。」
である点で一致し,相違するところはないといえる。

そして,引用発明が「・・・・・発色する試薬部の変色具合を一目で比色して・・・・・認識させることができ」(記載事項(1-カ)参照)ものであるのに対し,本願明細書には明記されていないものの,本願発明が「対象である『流体』との反応による色の変化を短時間で正確に読み取ることを可能に」(平成21年6月15日付け意見書参照)するものであるといえるから,両者は,作用・効果においても,実質的に同じであるといえる。

そうすると,本願発明は,引用発明と同一であり,刊行物1に記載された発明であるというべきである。

第4 請求人の主張について
1 請求人は,平成21年6月15日付け意見書において「本発明は、『平面ベース』上に、本願発明の『テスト下部領域』と『基準領域』がその境界同士が隙間なく接触した配置をとることを特徴としています。・・・・・本発明では、全ての実施例の図面からも明らかなように、当該2領域が境界に亘り接触する配置をとっています。一方、例えば引用文献1や2においては、その様な配置は、見出すことができないし、明細書や図面中にも、『接触する配置』というものを、明確に記載された箇所も示唆している箇所も見当たらず、意図していたということも言えません。」と主張し,また,審判請求書(平成22年6月17日付け手続補正書により補正)において「・・・・・本願のように、小さくなく細長い長方形の反応領域を製造することは、技術的に困難なことであったものです。また、そのための材料を領域同士が接触する配置に拡げることもまた困難であったことです。・・・・・本願において『接触する配置』をとるのは、従前の不正確な測定をも改善するためになされたものでありますが、・・・・・引用文献4についての『接触する配置』と、本願に係わる発明に必要な『接触する配置』との間には、実現すべき測定の精度において顕著な相違があるということであります。」と主張している。
しかしながら,刊行物1においては,概念図としての第1図?第4図には「比色部」と「発色試薬部」とが接触していない形態が示されているものの,上記記載事項(1-ア)の「比色部が発色試薬部と隣接或は近接している」,同(1-イ)の「発色試薬部に隣接或は近接せしめて比色部を設けた」および同(1-オ)の「比色部(C)を1乃至数箇所その試薬部(B)と近接又は隣接せしめて」の記載からみて(下線は当審にて付与する),上記図中の形態以外の「隣接した」,すなわち,接触している形態等を含む発明が刊行物1に記載されていることは明らかである。
また,刊行物1における「隣接或は近接」が「隙間のある配置」を意味するとしても,「流体と発色試薬反応物の反応の結果として,前記流体中の検査成分の値に応じた色を表すテストのための領域と,その領域の発色が検査成分のどのような存在量を示す色であるかを色を比べて判定するための複数の基準色を含む基準領域とを,その境界同士が隙間なく接触した配置をとるようにする」ことも,例えば,刊行物4に記載されているように,本願優先日前周知の事項に過ぎないから,引用発明において,該周知の事項を適用して,「発色試薬部(B)にその境界同士が隙間なく接触した配置をとる状態で隣接して複数の互いに異なる色調の比色部(C)を配置する」ことも,当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるといえる。そうすると,「隣接して位置する」という特定を請求人主張のように解釈した場合であっても,本願発明は,引用発明および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというべきである。
してみると,前記請求人の主張は採用できない。

なお,原審においては,本願発明に対して,特許法第29条第1項第3号および同第2項の規定により特許を受けることができない旨の拒絶理由が通知され,該拒絶理由の通知に対して,請求人は,前述の意見書において「本発明は、新規なものであり、当業者が想到さえもしえなかったものです。従って、特許法29条第1項または第2項の規定に該当するものではないと確信しています。」と,実質的に同第1項第3号の規定についても意見を述べている。そして,原査定は,同第2項の規定のみにより特許を受けることができないとした。
そうすると,本審決の理由が原査定の理由とは異なるものの,前記のとおり,請求人は,同第1項第3号の規定についての拒絶理由についても既に意見を述べる等の対応をしているのであるから,当審においてあらためて拒絶理由を通知せず,審決することとする。(審判便覧62-03ただし書き参照。)

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないから,他の請求項を検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-12 
結審通知日 2011-05-17 
審決日 2011-06-01 
出願番号 特願2004-503951(P2004-503951)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白形 由美子  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
石川 太郎
発明の名称 流体テスタ  
代理人 特許業務法人 英知国際特許事務所  

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