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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1245109
審判番号 不服2009-19771  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-15 
確定日 2011-10-11 
事件の表示 平成10年特許願第282101号「ペンタフルオロペンタノールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年7月6日出願公開、特開平11-180914〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成10年9月18日(パリ条約による優先権主張1997年10月14日、1997年11月5日、ドイツ(DE))の出願であって、平成20年5月20日付けで拒絶理由が通知され、同年9月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成21年6月9日付けで拒絶査定がされ、同年10月15日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、平成22年10月18日付けで審尋がされたが、これに対し、何ら応答がされなかったものである。

第2 平成21年10月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成21年10月15日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正
平成21年10月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項1である
「4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-1-ペンタノールをヨウ化パーフルオロエチルから製造する方法であって、亜ニチオン酸塩/重炭酸塩混合物、ならびに鉄、コバルト及びニッケルからなる群からの1又はそれ以上の中心原子を含み、且つジエニルおよび/またはカルボニル配位子を含む錯体金属化合物、からなる群から選択されるラジカル開始剤の存在下で最初にヨウ化パーフルオロエチルをアリルアルコールに添加した後、その結果として生じた4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-2-ヨード-1-ペンタノールの水添分解脱ハロゲン化を触媒、重炭酸塩、第一級、第二級および第三級アミン類もしくはアルカノールアミン類からなる群から選択される酸結合剤、および希釈剤の存在下で行うことを含む方法。」を、
「4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-1-ペンタノールをヨウ化パーフルオロエチルから製造する方法であって、亜ニチオン酸塩/重炭酸塩混合物、ならびに鉄、コバルト及びニッケルからなる群からの1又はそれ以上の中心原子を含み、且つジエニルおよび/またはカルボニル配位子を含む錯体金属化合物、からなる群から選択されるラジカル開始剤の存在下で最初にヨウ化パーフルオロエチルをアリルアルコールに添加した後、その結果として生じた4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-2-ヨード-1-ペンタノールの水添分解脱ハロゲン化を、4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-2-ヨード-1-ペンタノールに対して0.01?0.1重量%の炭素支持パラジウムおよびラネーニッケルからなる群から選択される触媒、重炭酸塩、第一級、第二級および第三級アミン類もしくはアルカノールアミン類からなる群から選択される酸結合剤、および希釈剤の存在下で行うことを含む方法。」
とする補正である。
(なお、上記「亜ニチオン酸塩」の「ニ」は、カタカナの「ニ」で表記されているが、漢数字の「二」の明らかな誤記と認められるので、以下、漢数字の「二」であると解して判断を行う。)

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
請求項1についての補正は、「触媒」の種類と配合割合を限定して、「4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-2-ヨード-1-ペンタノールに対して0.01?0.1重量%の炭素支持パラジウムおよびラネーニッケルからなる群から選択される触媒」とするものであり、願書に最初に添付された明細書(特に段落【0018】)の記載からみて新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。
また、該補正は、特許請求の範囲を減縮し、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

ア 本願補正発明
本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)は、
「4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-1-ペンタノールをヨウ化パーフルオロエチルから製造する方法であって、亜二チオン酸塩/重炭酸塩混合物、ならびに鉄、コバルト及びニッケルからなる群からの1又はそれ以上の中心原子を含み、且つジエニルおよび/またはカルボニル配位子を含む錯体金属化合物、からなる群から選択されるラジカル開始剤の存在下で最初にヨウ化パーフルオロエチルをアリルアルコールに添加した後、その結果として生じた4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-2-ヨード-1-ペンタノールの水添分解脱ハロゲン化を、4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-2-ヨード-1-ペンタノールに対して0.01?0.1重量%の炭素支持パラジウムおよびラネーニッケルからなる群から選択される触媒、重炭酸塩、第一級、第二級および第三級アミン類もしくはアルカノールアミン類からなる群から選択される酸結合剤、および希釈剤の存在下で行うことを含む方法。」
であると認められる。

イ 引用刊行物
(ア)特公昭45-22523号公報(原査定における「引用文献2」。以下、「刊行物1」という。)
(イ)黄維垣 他、Huaxue Xuebao(審決注:「化学学報」のこと。別名「ACTA CHIMICA SINICA」),1986年,Vol.44,No.5,p.488-494(原査定における「引用文献3」。以下、「刊行物2」という。)
(ウ)特開昭59-137424号公報(原査定における「引用文献4」。以下、「刊行物3」という。)

ウ 刊行物に記載されている事項
(ア)この出願の出願前(優先日前。以下同じ。)に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。

1a「式RfI(但し、式中RfはC_(1)?C_(20)のパーフルオルアルキル基を示す)のパーフルオルアルキルヨーダイドを式CH_(2)=CH(CH_(2))_(0?10)OHの不飽和アルコールと付加反応せしめて式RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OH(但し、式中Rfは前記の通り)の付加物を生成せしめ、かくして得られる式RfCH_(2)CH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OH(審決注:「式RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OH」の誤記と認められる。)の化合物を含む反応混合物を、反応系に弱塩基物質及び弱酸の塩の中から選ばれた少なくとも一種を添加して接触還元せしめ、式Rf(CH_(2))_(2?12)OH(但し、Rfは前記の通り)のポリフルオルアルコール類を生成させる事を特徴とするポリフルオルアルコール類の製造方法。」(4頁8欄特許請求の範囲第2項)
1b「本発明によれば、接触還元の反応速度が著しく増大し、目的とするポリフルオルアルコール類の収率も大幅に向上する。即ち、本発明方法によれば、式RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHの化合物は、短時間に高い変化率で反応すると共に、変化したRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHに対する式Rf(CH_(2))_(2?12)OHの生成割合(選択率)も非常に大きい。更に、本発明の方法においては、高温高圧を採用しなくても、RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHの変化率及び式Rf(CH_(2))_(2?12)OHの選択率が非常に高いので、工業的な実施に対して極めて有利である。」(1頁2欄22?33行)
1c「本発明における原料のRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHは、式RfIのパーフルオルアルキルコーダイド(審決注:「ヨーダイド」の誤記と認められる。)と式CH_(2)=CH(CH_(2))_(0?10)OHの不飽和アルコールとを、過酸化物、アゾ化合物、放射線、光、熱などによるラジカル作用によつて付加反応せしめる事によつて、有利に製造する事ができる。・・・前記の・・・付加反応による場合には、RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHを非常に高い選択率で得る事が可能であるので、特に有利なものである。即ち、RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHは、光、熱などの作用でヨードを遊離して分解し易く、精製分離が非常に困難であるから、粗生成物をそのまま本発明の方法における原料として採用し得る事は、工業的実施に対して非常に重要である。従つて、式RfIのパーフルオルアルキルヨーダイドを式CH_(2)=CH(CH_(2))_(0?10)OHの不飽和アルコールと付加反応せしめて式RfCH_(2)RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OH(審決注:「式RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OH」の誤記と認められる。)の付加物を高い選択率で生成せしめ、かくして得られる式RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHの化合物を含む反応混合物を、本発明による接触還元に供して式Rf(CH_(2))_(2?12)OHのポリフルフルアルコール類を生成せしめる方法は、ポリフルオルアルコール類を工業的規模で収率良く製造する方法として特に優れたものと言える。」(1頁2欄34行?2頁3欄24行)
1d「本発明の接触還元に採用される触媒としては、種々のものがあり、一般の接触還元用触媒を使用する事ができる。例えば、白金族触媒(白金、パラジウムなど)、ニツケル触媒(還元ニツケル、酸化ニツケル、ラネーニツケル、漆原ニツケルなど)、銅クロム酸化物触媒などをあげる事ができる。而して、これらの触媒はカーボランダム、硫酸マグネシウム、ケイソウ土、軽石、活性炭、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、石綿などの不活性担体と共に使用する事ができる。・・・本発明の方法に対しては、炭酸カルシウムを担体とするパラジウム触媒やラネーニツケル触媒などが特に良好な結果を与える。触媒の使用量については特に限定はないが、通常は原料のRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHに対して0.1?10重量%、特に0.2?3重量%の割合で使用するのが望ましい。」(2頁3欄25?43行)
1e「而して、本発明におけるRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHの接触還元に当り、前記の触媒と共に反応系に添加される弱塩基物質としては、25℃の塩基性解離定数pKbが1以上、特に1.5?9.0の範囲にある無機及び有機塩基があげられる。これらの例としては、・・・アミン類(n-ブチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、ピリジンなど)の如き弱塩基がある。又、弱酸の塩としては、25℃の酸性解離定数pKaが1以上、特に1.5?9.0の範囲にある無機及び有機酸のアンモニウム塩或いは周期律表第I族、第II族の金属塩があげられる。これらの例としては・・・重炭酸ナトリウム・・・の如き弱酸の塩がある。」(2頁3欄44行?4欄13行)
1f「一般の接触還元において使用されるメチルアルコール、エチルアルコール、ジオキサン、エーテル、ベンゼン、酢酸、シクロヘキサン、の如き溶媒を反応媒体として採用する事も可能である。」(2頁4欄32?35行)
1g「尚、前述の如く、本発明における原料のRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHは、RfIとCH_(2)=CH(CH_(2))_(0?10)OHとの付加反応によつて、最も有利に製造する事ができるのであるが、かかる反応は、過酸化物やアゾ化合物などのラジカル開始剤の存在の下で行わせるのが好ましい。反応温度として、例えば200℃程度の高温度を採用するならば、ラジカル開始剤を使用しなくても反応は進行するが、高温ではカツプリング反応の如き副反応が増大する。又、紫外線を使用する事によつて、室温程度で実施することも可能であるが、反応に長時間を要するため、工業的には不利である。ラジカル開始剤の存在下に、付加反応を行わせる場合には、反応温度は50?150℃が適当であり、特に70?90℃が好ましい。・・・ラジカル開始剤としては、α・α’-アゾビスイソブチロニトリルの如きアゾ化合物が特に良好な結果を与える。」(2頁4欄36行?3頁5欄11行)
1h「実施例3
CF_(3)(CF_(2))_(6)I49.6部、アリルアルコールCH_(2)=CHCH_(2)OH5.8部、及びα・α’-アゾビスイソブチロニトリル0.8部の混合物を窒素の雰囲気中において80℃で5時間加熱する。次いで、未反応のCF_(3)(CF_(2))_(6)I及びCH_(2)=CHCH_(2)OHを20mmHgの減圧下に80℃で留去して固体の残留物47.1部を得る。
ガスクロマトグラフ分析によるとCF_(3)(CF_(2))_(6)Iの変化率は84.2%、
C_(7)F_(15)CH_(2)CHICH_(2)OHの選択率は93.5%である。
かくして得られるC_(7)F_(15)CH_(2)CHICH_(2)OHを含む粗反応生成物の47.1部とエチルアルコール50部及びパラジウム含量5重量%のPd-CaCO_(3)触媒2.5部、28%アンモニア水10部を実施例1と同じオートクレーブ中に仕込み、水素を30kg/cm^(2)の圧力になるまで導入して、オートクレーブを30℃に加熱しつつ2時間攪拌反応させる。室温にまで冷却した後、内容物を取り出し、触媒とエチルアルコール溶液を濾別する。触媒をエチルアルコールで洗浄し、濾液と合わせて蒸留する。32.9部のCF_(3)(CF_(2))_(6)CH_(2)CH_(2)CH_(2)OHが得られる。C_(7)F_(15)CH_(2)CHICH_(2)OHの変化率は100%、生成ポリフルオルアルコールの選択率は93.5%である。」(3頁6欄17?42行)

(イ)この出願の出願前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている(当審による仮訳)。
2a「スルフィナート脱ハロゲンの研究
VIII.亜二チオン酸ナトリウムによって引き起こされるペルフルオロアルキルラジカルの二重結合に対する付加」(488頁表題)
2b「ヨウ化ペルフルオロアルキルと亜二チオン酸ナトリウムによるスルフィナート脱ヨウ素反応は、ラジカル反応の特徴を有している。それにより、化学的方法を用いてペルフルオロアルキルラジカル中間体を捕捉する可能性がもたらされる。我々はオレフィンをラジカル捕捉剤として、ヨウ化ペルフルオロアルキルとオレフィンのラジカルチェーン反応の産物を得た。異なるオレフィンから1:1の付加物またはテロマーを得ることができる。本論文では付加反応とスルフィナート脱ヨウ素反応との関係及び阻害剤の反応に対する影響について検討した。」(488頁要旨(前文))
2c「ヨウ化ペルフルオロアルキルと亜二チオン酸ナトリウムによってスルフィナート脱ヨウ素反応を起こしペルフルオロアルキルスルフィン酸塩を生成する。ハイドロキノンを添加することでこの反応を阻止することができる。こうしたことから、我々はラジカル反応のメカニズムを提起する。
(審決注:図は省略)
ペルフルオロアルキルラジカル(R_(F)・)が活性中間体としてスルフィナート脱ヨウ素反応のプロセスに存在している可能性があることを証明するため、我々はオレフィンをラジカル捕捉剤として使用し、スルフィナート反応システム中に異なるオレフィンを加えた場合の反応産物について研究した。その結果、十分な量のオレフィンが存在している場合、正常なスルフィナート脱ヨウ素産物を獲得したことに加えて、ヨウ化ペルフルオロアルキルと二重結合の1:1付加物またはテロマーを得た。本論文は、こうした結果について報告している。
付加反応は、スルフィナート脱ヨウ素反応の適切な温度、即ち80?85℃で行うことができる。しかし、反応が25?40℃で行われた場合、主にオレフィン付加反応が発生する。オレフィンとヨードアルカンのモル比は、1.2?1.5が好ましい。亜二チオン酸ナトリウムの用量については、同等量となる。共溶媒のアセトニトリルを加えて反応システムの混和性を改善する。上述の条件下で、比較的好ましい分離収率(50?82%)を得ることができる。」(488頁本文1?10行)
2d「

」(488頁反応式)

(ウ)この出願の出願前に頒布された刊行物3には、以下の事項が記載されている。
3a「(1)1?20個の炭素原子を持つハロポリフルオロカーボンを周期律表VIII族金属カルボニル錯体の存在下、置換若しくは無置換のエチレン又はアセチレンと反応させることを特徴とする、ポリフルオロアルキルハロゲン化物の製造方法(但し、ここでハロゲンとは塩素、臭素、ヨウ素を表わす。)・・・
(3)VIII族金属カルボニルが鉄カルボニル錯体あるいはルテニウムカルボニル錯体である、特許請求の範囲第(1)又は(2)項に記載の方法。」(特許請求の範囲第1及び3項)
3b「従来、本発明により得られるポリフルオロアルキルハロゲン化物を製造する方法としては・・・(ハ)ジ-t-ブチルペルオキシドの如きラジカル開始剤の存在下ヨードペルフルオロアルカンとオレフィン又はアセチレン類を加熱下に反応させて得る方法・・・が知られている。
しかしながら・・・(ハ)の方法も、一般に反応温度も高く長時間の反応が必要であり、用いるラジカル開始剤は一般的に不安定であり危険を伴うので取扱い上注意を必要とする。」(1頁右欄下から2行?2頁右上欄10行)
3c「本発明は下記の反応式で表わすことができる。

・・・
(式中、Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子、R^(1)及びR^(2)は水素原子、ハロゲン原子、ポリ若しくはペルフルオロカーボン基である。R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)・・・はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、・・・アルキル基・・・である。)」(2頁左下欄2行?右下欄10行)
3d「本発明は周期律表VIII族金属カルボニル錯体の存在下に行うことが必要である。
VIII族金属カルボニル錯体としては、例えば・・・等の鉄カルボニル錯体、・・・等のルテニウムカルボニル錯体・・・等のコバルトカルボニル錯体、・・・等のニッケルカルボニル錯体、・・・等を使用することができるが、収率よく反応を行うには鉄あるいはルテニウム金属カルボニル錯体の使用が好ましい。」(3頁左下欄15行?右下欄14行)

エ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「式RfI(但し、式中RfはC_(1)?C_(20)のパーフルオルアルキル基を示す)のパーフルオルアルキルヨーダイドを式CH_(2)=CH(CH_(2))_(0?10)OHの不飽和アルコールと付加反応せしめて式RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OH(但し、式中Rfは前記の通り)の付加物を生成せしめ、かくして得られる式RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHの化合物を含む反応混合物を、反応系に弱塩基物質及び弱酸の塩の中から選ばれた少なくとも一種を添加して接触還元せしめ、式Rf(CH_(2))_(2?12)OH(但し、Rfは前記の通り)のポリフルオルアルコール類を生成させる事を特徴とするポリフルオルアルコール類の製造方法。」(摘示1a)が記載されている。
そして、最初の「付加反応」については、「過酸化物、アゾ化合物、放射線、光、熱などによるラジカル作用によつて付加反応せしめる事によつて、有利に製造することができる」(摘示1c)及び「過酸化物やアゾ化合物などのラジカル開始剤の存在の下で行わせるのが好ましい」(摘示1g)との記載から、「ラジカル開始剤の存在の下」で反応を行うことが記載されているといえる。
また、続く「接触還元」については、「弱塩基物質及び弱酸の塩の中から選ばれた少なくとも一種」として、「アミン類(n-ブチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、ピリジンなど)の如き弱塩基」及び「重炭酸ナトリウム・・・の如き弱酸の塩」(摘示1e)が挙げられており、さらに、「一般の接触還元用触媒を使用する」ことができ、「例えば、白金族触媒(・・・パラジウムなど)、ニツケル触媒(・・・ラネーニツケル、・・・など)」(摘示1d)が挙げられ、「これらの触媒は・・・活性炭・・・などの不活性担体と共に使用する事ができる」(摘示1d)こと、「通常は原料のRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHに対して0.1?10重量%・・・の割合で使用するのが望ましい」(摘示1d)ことも記載されている。加えて、「一般の接触還元において使用される・・・溶媒を反応媒体として採用する事も可能である」(摘示1f)ことも記載されている。
ここで、「不飽和アルコールCH_(2)=CH(CH_(2))_(0?10)OH」の下付数字「0?10」を「m」と表し、付加物「RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OH」も、下付数字「0?10」は不飽和アルコールに由来するものであるから、同様に「m」と表し、生成物ポリフルオルアルコール類「Rf(CH_(2))_(2?12)OH」の下付数字「2?12」は、不飽和アルコール「CH_(2)=CH(CH_(2))_(0?10)」の炭素部分が還元により、「CH_(2)-CH_(2)(CH_(2))_(0?10)」になったことに由来するから、「m+2」と表すことにする。

そうすると、刊行物1には、
「式Rf(CH_(2))_(m+2)OH(m=0?10、Rfは下記の通り)のポリフルオルアルコール類を式RfI(但し、式中RfはC_(1)?C_(20)のパーフルオルアルキル基を示す)のパーフルオルアルキルヨーダイドから製造する方法であって、ラジカル開始剤の存在の下で、最初に式RfIのパーフルオルアルキルヨーダイドを式CH_(2)=CH(CH_(2))_(m)OH(m=0?10)の不飽和アルコールと付加反応せしめて、式RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH(但し、式中Rfは前記の通り)の付加物を生成せしめ、かくして得られる式RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OHの化合物を含む反応混合物を、反応系に、RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OHに対して0.1?10重量%の割合の活性炭などの不活性担体と共に使用する事ができるパラジウム、ラネーニツケルなどの接触還元用触媒、アミン類(n-ブチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、ピリジンなど)の如き弱塩基物質及び重炭酸ナトリウムの如き弱酸の塩の中から選ばれた少なくとも一種を添加して、溶媒を反応媒体として用いて接触還元せしめ、式Rf(CH_(2))_(m+2)OH(但し、Rfは前記の通り)のポリフルオルアルコール類を生成させる事を特徴とするポリフルオルアルコール類の製造方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

オ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比するに当たり、両者の反応を反応式で表すことにする。
まず、本願補正発明の反応は、次の(I)及び(II)の2工程の反応式で表すことができる(アリルアルコールに由来する部分に下線を付す。)。
(I)最初の反応:
CF_(3)CF_(2)I(ヨウ化パーフルオロエチル)
+ CH_(2)=CHCH_(2)OH(アリルアルコール)
→ CF_(3)CF_(2)CH_(2)CHICH_(2)OH(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-2-ヨード-1-ペンタノール)
(II)水添分解脱ハロゲン化:
CF_(3)CF_(2)CH_(2)CHICH_(2)OH→ CF_(3)CF_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH(4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-1-ペンタノール)

他方、引用発明の反応も、次の(i)及び(ii)の2工程の反応式で表すことができる(不飽和アルコールに由来する部分に下線を付す。)。
(i)最初の付加反応:
RfI(RfはC_(1)?C_(20)のパーフルオルアルキル基)(パーフルオルアルキルヨーダイド)
+ CH_(2)=CH(CH_(2))_(m)OH(m=0?10)(不飽和アルコール)
→ RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH
(ii)接触還元:
RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH→ Rf(CH_(2))_(m+2)OH
ここで、各発明の原料についてみると、引用発明の「式CH_(2)=CH(CH_(2))_(m)OH(m=0?10)の不飽和アルコール」は、実施例3で用いられている「アリルアルコールCH_(2)=CHCH_(2)OH」(摘示1h)、すなわち、m=1である場合において、本願補正発明の「アリルアルコール」に相当する。
また、もう一方の原料については、本願補正発明における「CF_(3)CF_(2)I」が、RfがC_(2)のパーフルオルアルキル基である「RfI」といえるから、本願補正発明も引用発明も共に「RfI」(Rfはパーフルオルアルキル基)を原料とするものといえる。
そうすると、上記と同様に、本願補正発明の反応(I)の生成物は、「RfCH_(2)CHICH_(2)OH」(RfがC_(2)のパーフルオルアルキル基)と表すことができ、反応(II)の生成物は、「RfCH_(2)CH_(2)CH_(2)OH」(RfがC_(2)のパーフルオルアルキル基)と表すことができるから、本願補正発明も引用発明も、中間生成物として、「RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH」(m=1)を生成し、最終生成物として、「Rf(CH_(2))_(m+2)OH」(m=1)を生成する方法であるといえる。
すなわち、本願補正発明も引用発明も、最初の反応(I)及び(i)は、「RfI」及び「CH_(2)=CH(CH_(2))_(m)OH」(m=1、アリルアルコール)とを反応させ、中間生成物として、「RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH」(m=1)を生成する付加反応である。
そして、続く引用発明の「接触還元」反応(ii)は、「水素を・・・導入」(摘示1h)して、上記反応式のように「I」、すなわちハロゲンを脱離させる反応であるから、本願補正発明の「水添分解脱ハロゲン化」反応(II)に相当し、共に、最終生成物として、「Rf(CH_(2))_(m+2)OH」(m=1)を生成する方法であるといえる。
次に、各反応の添加成分についてみると、最初の付加反応(I)及び(i)については、本願補正発明も引用発明も共に「ラジカル開始剤の存在下」で行うものである。
また、接触還元反応(II)及び(ii)については、引用発明の「活性炭などの不活性担体と共に使用する事ができるパラジウム、ラネーニツケルなどの接触還元用触媒」は、本願補正発明の「炭素支持パラジウムおよびラネーニッケルからなる群から選択される触媒」に相当し、その使用割合は「RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH」に対して「0.1重量%」である点で重複する。また、引用発明の「アミン類(n-ブチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、ピリジンなど)の如き弱塩基物質及び重炭酸ナトリウムの如き弱酸の塩の中から選ばれた少なくとも一種」については、「アミン類(n-ブチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、ピリジンなど)の如き弱塩基物質」が、本願補正発明の「第一級、第二級および第三級アミン類」に対応し、「重炭酸ナトリウムの如き弱酸の塩」が、本願補正発明の「重炭酸塩」に対応し、引用発明には、これらが酸結合剤であるとの明示の記載はないものの、弱塩基物質が酸を結合することは自明であるから、引用発明の「アミン類(n-ブチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、ピリジンなど)の如き弱塩基物質及び重炭酸ナトリウムの如き弱酸の塩の中から選ばれた少なくとも一種」は、本願補正発明の「重炭酸塩、第一級、第二級および第三級アミン類もしくはアルカノールアミン類からなる群から選択される酸結合剤」に相当する。さらに、引用発明の「溶媒を反応媒体として用いて」は、本願補正発明の「希釈剤の存在下で」に相当する。

したがって、両者は、
「Rf(CH_(2))_(m+2)OH(m=1)をRfI(Rfはパーフルオルアルキル基)から製造する方法であって、
ラジカル開始剤の存在下で最初にRfIとアリルアルコール(CH_(2)=CH(CH_(2))_(m)OH(m=1))とを反応させた後、その結果として生じたRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH(m=1)の水添分解脱ハロゲン化を、RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH(m=1)に対して0.1重量%の炭素支持パラジウムおよびラネーニッケルからなる群から選択される触媒、重炭酸塩、第一級、第二級および第三級アミン類もしくはアルカノールアミン類からなる群から選択される酸結合剤、および希釈剤の存在下で行うことを含む方法。」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

A 原料のRfI、中間生成物であるRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH(m=1)及び最終生成物であるRf(CH_(2))_(m+2)OH(m=1)におけるRf(Rfはパーフルオルアルキル基)が、本願補正発明においては、「パーフルオロエチル」(すなわち、C_(2)のパーフルオルアルキル基)であるのに対し、引用発明においては、「C_(1)?C_(20)のパーフルオルアルキル基」である点
B 最初の付加反応について、本願補正発明においては、「ヨウ化パーフルオロエチルをアリルアルコールに添加」するのに対し、引用発明においては、添加順に関する特定がない点
C 最初の付加反応におけるラジカル開始剤が、本願補正発明においては、「亜二チオン酸塩/重炭酸塩混合物、ならびに鉄、コバルト及びニッケルからなる群からの1又はそれ以上の中心原子を含み、且つジエニルおよび/またはカルボニル配位子を含む錯体金属化合物、からなる群から選択される」のに対し、引用発明においては、そのような特定がない点
(以下、それぞれ「相違点A」?「相違点C」という。)

カ 検討
(ア)相違点Aについて
刊行物1には、実施例3の「CF_(3)(CF_(2))_(6)I」(摘示1h)をはじめ、Rfの炭素数の異なる種々のRfIについて、具体的に記載されており、実施例化合物に限られず、「Rf」が「C_(1)?C_(20)のパーフルオルアルキル基」の範囲内にあるRfIのいずれについても同様に原料として用いることができ、相応の中間生成物及び最終生成物を得ることができることが記載ないし示唆されているということができる。
よって、「Rf」として、「C_(1)?C_(20)のパーフルオルアルキル基」の範囲内にある「C_(2)のパーフルオルアルキル基」、すなわち、「パーフルオロエチル」については実質的に記載されているといえるか、又は、たとえ実質的に記載されているとまではいえなかったとしても、「C_(1)?C_(20)のパーフルオルアルキル基」の範囲にある「C_(2)のパーフルオルアルキル基」、すなわち、「パーフルオロエチル」を採用することは、当業者が格別の困難なく、適宜なし得ることに過ぎない。
したがって、相違点Aは実質的な相違点ではないか、又は、引用発明において、原料のRfI、中間生成物であるRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH(m=1)及び最終生成物であるRf(CH_(2))_(m+2)OH(m=1)におけるRfを、「パーフルオロエチル」(C_(2)のパーフルオルアルキル基)とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点Bについて
刊行物1の実施例3には、「CF_(3)(CF_(2))_(6)I49.6部、アリルアルコールCH_(2)=CHCH_(2)OH5.8部・・・の混合物」(摘示1h)とだけ記載され、添加順については特定されていないが、混合物の作成に対し、2種の成分のどちらを後から添加するかは、当業者が実験を通じて適宜選択し得ることに過ぎない。
なお、本件補正後の明細書の実施例1(段落【0026】)を参酌すると、アリルアルコールとヨウ化パーフルオロエチルは、ラジカル開始剤の添加の前に、つまり、反応開始前に混合されており、該明細書の他の記載をみても、添加順の特定の意義については特に示されていない。
したがって、引用発明において、「ヨウ化パーフルオロエチルをアリルアルコールに添加」することは当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)相違点Cについて
刊行物1には、「ラジカル開始剤」に関し、「過酸化物、アゾ化合物、放射線、光、熱などによるラジカル作用によつて付加反応せしめる事によつて、有利に製造する事ができる」(摘示1c)及び「過酸化物やアゾ化合物などのラジカル開始剤の存在の下で行わせるのが好ましい。・・・α・α’-アゾビスイソブチロニトリルの如きアゾ化合物が特に良好な結果を与える。」(摘示1g)と記載されており、具体的に例示されているのは、過酸化物及びアゾ化合物にとどまるものの、これに限定されるものではなく、ラジカル作用によって付加反応を生じさせるラジカル開始剤であれば、広く使用し得る旨示唆されているということができる。
他方、刊行物2には、ヨウ化ペルフルオロアルキルが、「亜二チオン酸ナトリウム」によって、「ペルフルオロアルキルラジカル(R_(F)・)」を生じ、これと「オレフィン」を反応させることによって、「1:1の付加物」を得ることができる反応について記載されており(摘示2b、2c)、オレフィンとして、CH_(2)=CH-R(R=CH_(2)OH)、すなわち、アリルアルコールを用い、「比較的好ましい分離収率」でR_(F)Iとの付加物4、R_(F)CH_(2)CHIR(R=CH_(2)OH)を得る反応例が示されている(摘示2c、2d)。
また、刊行物3には、摘示3cの反応式に示されるように、「ハロポリフルオロカーボン・・・(但し、ここでハロゲンとは・・・ヨウ素を表わす。)」を「エチレン」(摘示3cからみて、置換されたエチレンを含む。)とを、「周期律表VIII族金属カルボニル錯体の存在下」で付加反応させ、「ポリフルオロアルキルハロゲン化物」を製造する方法が記載されており(摘示3a、3c)、該VIII族金属カルボニル錯体が、「鉄カルボニル錯体」、「コバルトカルボニル錯体」及び「ニッケルカルボニル錯体」等である(摘示3d)ことが記載されている。そして、該金属カルボニル錯体は、従来の「ジ-t-ブチルペルオキシドの如きラジカル開始剤」に代えて用いられる旨(摘示3b)記載されているが、金属錯体が「ラジカル開始剤」として働くことは周知(例えば、特表昭63-502038号公報の請求の範囲第1項、3頁右欄5?6行参照)であるから、該金属カルボニル錯体は、ラジカル開始剤の一種であり、公知のラジカル開始剤であるジ-t-ブチルペルオキシド(過酸化物)に比べ、「反応温度も高く長時間の反応が必要であり、・・・不安定であり危険を伴うので取扱い上注意を必要とする」という問題を解決できる、より優れたものという示唆がされているものと認められる。
そして、刊行物2及び刊行物3の方法は、いずれも、RfIと表される化合物を用いて、アリルアルコール等のオレフィン類(置換エチレン)と付加反応をさせる際に、ラジカル開始剤を使用する方法である点で引用発明と共通するから、引用発明に記載された「ラジカル開始剤」として、収率良く反応することが期待される刊行物2に記載の「亜二チオン酸ナトリウム」や、過酸化物であるジ-t-ブチルペルオキシドより優れたものとして知られる刊行物3に記載の「鉄カルボニル錯体」、「コバルトカルボニル錯体」及び「ニッケルカルボニル錯体」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明において、最初の付加反応におけるラジカル開始剤として、「亜二チオン酸塩/重炭酸塩混合物、ならびに鉄、コバルト及びニッケルからなる群からの1又はそれ以上の中心原子を含み、且つジエニルおよび/またはカルボニル配位子を含む錯体金属化合物、からなる群から選択される」ものを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(エ)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、本件補正後の明細書(段落【0025】)の記載からみて、
「要する水添触媒の量は不均衡なほど高い量ではなくて通常量であり、技術的に簡単な様式で所望生成物が高い収率で得られ、危険性があることで特別な出費を必要とする化学品を取り扱う必要もなく、超音波の使用も回避され、かつ本方法は比較的大規模でも全く問題なく実施可能である」ことであると認められる。
しかし、上記オのとおり、「水添触媒の量」については引用発明と差異がなく、「危険性があることで特別な出費を必要とする化学品を取り扱う必要もなく、超音波の使用も回避され、かつ本方法は比較的大規模でも全く問題なく実施可能である」点についても、刊行物1?3において使用する化学品は、危険性があることで特別な出費を必要とするものではなく、引用発明は、超音波を使用するものではなく、また、刊行物1に、「高温高圧を採用しなくても、RfCH_(2)CHI(CH_(2))_(0?10)OHの変化率及び式Rf(CH_(2))_(2?12)OHの選択率が非常に高いので、工業的な実施に対して極めて有利である」(摘示1b)と記載されているから、当業者が予測し得る範囲内である。
また、「技術的に簡単な様式で所望生成物が高い収率で得られ」るという点についても、上記オのとおり、本願補正発明は引用発明と同様の反応を行うものであること、引用発明の方法も、「接触還元の反応速度が著しく増大し、目的とするポリフルオルアルコール類の収率も大幅に向上」し、「短時間に高い変化率で反応すると共に・・・式Rf(CH_(2))_(2?12)OHの生成割合(選択率)も非常に大きい」(摘示1b)ものであるから、本願補正発明の生成物の収率における効果が、当業者の予測するところを超えて格別優れているとはいえない。
よって、本願補正発明は、当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するとはいえない。

(オ)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余の点を検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年10月15日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1に係る発明は、平成20年9月26日付けの手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認められる。
「4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-1-ペンタノールをヨウ化パーフルオロエチルから製造する方法であって、亜ニチオン酸塩/重炭酸塩混合物、ならびに鉄、コバルト及びニッケルからなる群からの1又はそれ以上の中心原子を含み、且つジエニルおよび/またはカルボニル配位子を含む錯体金属化合物、からなる群から選択されるラジカル開始剤の存在下で最初にヨウ化パーフルオロエチルをアリルアルコールに添加した後、その結果として生じた4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-2-ヨード-1-ペンタノールの水添分解脱ハロゲン化を触媒、重炭酸塩、第一級、第二級および第三級アミン類もしくはアルカノールアミン類からなる群から選択される酸結合剤、および希釈剤の存在下で行うことを含む方法。」

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定は、「この出願については、平成20年 5月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由は、
「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1-4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.Tetrahedron Letters,1994年,Vol.35, No.49,p.9141-9144
2.特公昭45-22523号公報
3.Huaxue Xuebao,1986年,Vol.44, No.5,p.488-498
4.特開昭59-137424号公報」というものであり、
また、原査定の備考欄には、
「刊行物2(審決注:上記引用文献2のこと。以下同様。)には、炭素数1?20のパーフルオロアルキルヨーダイドをアリルアルコールなどの不飽和アルコールと付加反応させ・・・、次いで、触媒、希釈剤、アミン類、重炭酸塩などの存在下、水添分解脱ハロゲン化して対応するポリフルオロアルコールを製造する方法が記載されているから・・・、炭素数2のパーフルオロアルキルヨーダイドであるヨウ化パーフルオロエチルを使用して、対応するポリフルオロアルコールである4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-1-ペンタノールを製造することは、当業者が容易に想到し得たものである。
そしてその際、上記付加反応は、ラジカル開始剤の存在下行うことが好ましいと刊行物2には記載されているから・・・、刊行物3、4に記載されているように公知のラジカル開始剤である「亜二チオン酸塩/重炭酸塩混合物、ならびに鉄、コバルト及びニッケルからなる群からの1又はそれ以上の中心原子を含み、且つジエニルおよび/またはカルボニル配位子を含む錯体金属化合物」を上記付加反応において使用することは当業者が容易に行うことである。」と記載されている(なお、上記第2と同じく、原査定における「引用文献2」?「引用文献4」を、それぞれ「刊行物1」?「刊行物3」という。)。

3 刊行物の記載事項及び刊行物1に記載された発明
刊行物1?3の記載事項は、上記第2の2(2)ウ(ア)?(ウ)に記載したとおりであり、刊行物1に記載された発明は、上記第2の2(2)エに記載したとおり(以下、同様に「引用発明」という。)である。

4 対比・検討
本願発明は、本願補正発明において、接触還元の触媒について、「4,4,5,5,5-ペンタフルオロ-2-ヨード-1-ペンタノールに対して0.01?0.1重量%の炭素支持パラジウムおよびラネーニッケルからなる群から選択される触媒」という特定がない単なる「触媒」であるから、本願発明と引用発明を対比すると、上記第2の2(2)オと同様の理由により、両者は、
「Rf(CH_(2))_(m+2)OH(m=1)をRfI(Rfはパーフルオルアルキル基)から製造する方法であって、
ラジカル開始剤の存在下で最初にRfIとアリルアルコール(CH_(2)=CH(CH_(2))_(m)OH(m=1))とを反応させた後、その結果として生じたRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH(m=1)の水添分解脱ハロゲン化を触媒、重炭酸塩、第一級、第二級および第三級アミン類もしくはアルカノールアミン類からなる群から選択される酸結合剤、および希釈剤の存在下で行うことを含む方法。」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

A’ 原料のRfI、中間生成物であるRfCH_(2)CHI(CH_(2))_(m)OH(m=1)及び最終生成物であるRf(CH_(2))_(m+2)OH(m=1)におけるRf(Rfはパーフルオルアルキル基)が、本願補正発明においては、「パーフルオロエチル」(すなわち、C_(2)のパーフルオルアルキル基)であるのに対し、引用発明においては、「C_(1)?C_(20)のパーフルオロアルキル基」である点
B’ 最初の付加反応について、本願補正発明においては、「ヨウ化パーフルオロエチルをアリルアルコールに添加」するのに対し、引用発明においては、添加順に関する特定がない点
C’ 最初の付加反応におけるラジカル開始剤が、本願補正発明においては、「亜二チオン酸塩/重炭酸塩混合物、ならびに鉄、コバルト及びニッケルからなる群からの1又はそれ以上の中心原子を含み、且つジエニルおよび/またはカルボニル配位子を含む錯体金属化合物、からなる群から選択される」のに対し、引用発明においては、そのような特定がない点
(以下、それぞれ「相違点A’」?「相違点C’」という。)
そして、相違点A’?C’については、上記第2の2(2)オの相違点A?Cと同じであるから、上記第2の2(2)カ(ア)?(ウ)で述べたとおり、当業者が容易に想到し得ることであり、本願発明の効果についても、上記第2の2(2)カ(エ)と同様の理由により、当業者の予測を超えるものとはいえない。
そうすると、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の点を検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-26 
結審通知日 2011-05-10 
審決日 2011-05-23 
出願番号 特願平10-282101
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
P 1 8・ 575- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉住 和之木村 敏康井上 千弥子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 松本 直子
橋本 栄和
発明の名称 ペンタフルオロペンタノールの製造方法  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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