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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16K |
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管理番号 | 1245198 |
審判番号 | 不服2010-24551 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-01 |
確定日 | 2011-10-13 |
事件の表示 | 特願2005- 33120「ボール弁」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月24日出願公開,特開2006-220197〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成17年2月9日の出願であって,平成22年7月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月1日に拒絶査定不服審判請求がなされると共に,同日付け手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。 2.本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願の発明 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は, 「全体が一体に形成され,内部に流通路が形成された本体と,上記流通路の内部にその一端開口部から順次挿入されてそれぞれ所定の位置に配置された第1弁座部材,球弁,第2弁座部材及び押圧部材とを備え,上記押圧部材が上記第2弁座部材を上記第1弁座部材側に押すことにより,上記球弁が上記第1,第2弁座部材によって回動可能に支持されたボール弁において, 上記流通路の上記一端開口部には,上記流通路の内側に向かって小径になるテーパ雌ねじ部が形成され,このテーパ雌ねじ部から内側に離れた上記流通路の内周面には,環状突出部及びこの環状突出部と上記テーパ雌ねじ部との間に環状の取付溝が形成され,上記テーパ雌ねじ部と上記取付溝との間の上記流通路の内周面には,上記テーパ雌ねじ部から上記取付溝まで続くストレート孔部が上記テーパ雌ねじ部と軸線を一致させて形成され,上記ストレート孔部が,上記テーパ雌ねじ部の最小内径と同一で,かつ一定の内径を有し,上記押圧部材の自然状態時における外径が,上記ストレート孔部の内径より大径に設定され,上記押圧部材が弾性的に縮径した状態で上記ストレート孔部に挿入され,弾性的に縮径された上記押圧部材が拡径することによってその外周部が上記取付溝に挿入され,それによって上記押圧部材が上記所定の位置に配置され,上記第1及び第2弁座部材が弾性材によって構成され,上記環状突出部と上記押圧部材との間の上記流通路内に上記第1弁座部材,上記球弁及び上記第2弁座部材が収容され,上記押圧部材が上記第2弁座部材を上記第1弁座部材側に押す結果,上記第1及び第2弁座部材の弾性力により,上記第1弁座部材が上記環状突出部の上記押圧部材側を向く端面に押し付けられ,上記第2弁座部材が上記押圧部材の上記環状突出部側を向く端面に直接押し付けられ,上記第1及び第2弁座部材が上記球弁に押し付けられていることを特徴とするボール弁。」 と補正された。 なお,上記手続補正書の特許請求の範囲の請求項1には,「上記第1弁座部材が上記環状突出部の上記取付部材側を向く端面に押し付けられ」と記載されているが,これは「上記第1弁座部材が上記環状突出部の上記押圧部材側を向く端面に押し付けられ」の明らかな誤記と解されるため,請求項1に係る補正内容を上記のように認定した。 上記補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「流通路の内周面には,環状の取付溝が形成され」る態様について「流通路の内周面には,環状突出部及びこの環状突出部と上記テーパ雌ねじ部との間に環状の取付溝が形成され」る態様に限定し,同じく「押圧部材が所定の位置に配置されている」態様について,「押圧部材が所定の位置に配置され,第1及び第2弁座部材が弾性材によって構成され,環状突出部と上記押圧部材との間の流通路内に上記第1弁座部材,球弁及び上記第2弁座部材が収容され,上記押圧部材が上記第2弁座部材を上記第1弁座部材側に押す結果,上記第1及び第2弁座部材の弾性力により,上記第1弁座部材が上記環状突出部の上記押圧部材側を向く端面に押し付けられ,上記第2弁座部材が上記押圧部材の上記環状突出部側を向く端面に直接押し付けられ,上記第1及び第2弁座部材が上記球弁に押し付けられている」態様に限定するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用例 a)原査定の拒絶の理由に引用された実願昭57-61618号(実開昭58-162364号)のマイクロフィルム(以下,「引用例1」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。 ・「第3図は本考案の一実施例の断面図であり,第4図は第3図に示されたボールバルブの左側面図である。外形が円形である弁本体21は,直円筒状の管体を切削加工して形成される。弁本体21に形成された円筒穴23内には,弁体24とその両側に設けられたシール部材26a,26bが収納される。弁本体21の軸線方向の両端にはねじ継手のための内ねじ22a,22bが刻設される。円筒穴23の軸線方向両端部には嵌合溝27a,27bが形成される。この嵌合溝27a,27bにはサークリツプ28,29がそれぞれ弾発的に嵌合される。 第5図はサークリツプ28の正面図であり,第6図はそのサークリツプ28の第5図における切断面線VI-VIから見た断面図であり,第7図は第6図のセクシヨンVIIの拡大断面図である。サークリツプ28は周方向に切欠かれた大略的に円形の鋼板状体から形成される。サークリツプ28の両端部には組立ての便宜のために小さな係合孔50,51が形成される。 この実施例では,サークリツプ28の内周部52は外周部53よりも厚み方向(第6図および第7図の上下方向,第5図の紙面に垂直方向)に変位し,図示の実施例では内周部52は第6図および第7図の上方に変位して塑性加工される。サークリツプ28の端部とは周方向に180度離れた部分には,切欠き54が形成される。この切欠き54において内周部52が切除される。このようにして内周部52が外周部53よりも厚み方向に変位していることによつて,サークリツプ28の厚み方向にばね力が発揮されることになる。また切欠き54が形成されることによつて,サークリツプ28は係合孔50,51に係合された治具によつて,相互に近接されることによつて外径を容易に小さくすることができる。また治具によつて係合孔50,51に相互の離反方向の外力が与えられることによつて,サークリツプ28の外径が弾発的に大きくされることが容易に可能である。 サークリツプ28の外径を小さくした状態で嵌合溝27aに嵌合することによつて,サークリツプ28は半径方向外方の弾発力によつて嵌合溝27aにぴつたりと嵌合される。サークリツプ28の内周部52は,シール部材26a側に弾発的に突出し,これによつてシール部材26aが弁体24の外周面に押しつけられる。もう1つのサークリツプ29もまた同様に構成され,その内周部はシール部材26b側に弾発的に突出してシール部材26bが弁体24の外周面に押しつけられる。このようにして弁体24とシール部材26a,26bの公差は吸収され,希望する所定の密閉度を得ることができる。サークリツプ28によってシール部材26a,26bに作用するばね力は,シール部材26a,26bの固有強度よりも小さく,かつシール部材26a,26bが弁体24の外周面に過度に強く接触しないような値であり,かつバルブが使用される圧力流体の圧力よりも小さな値に選ばれる。」(明細書第4頁第5行?第7頁第1行) ・「以上のように本考案によれば,弁本体に固定されたサークリツプを用いてシール部材を弁体に弾発的に押しあてて弁体が浮動状態となるように装着したので,シール部材および弁体の寸法公差が吸収されると伴に所望の密閉度を得ることができる。」(同書第10頁第19行?第11頁第4行) ・第3図には,全体が一体に形成され,内部に流通路が形成された弁本体21と,上記流通路の内部にその開口部から挿入されてそれぞれ所定の位置に配置されたシール部材26b,球状の弁体24,シール部材26a及びサークリツプ28とを備え,上記サークリツプ28が上記シール部材26aを上記シール部材26b側に押すようにされ,上記流通路の上記サークリツプ28側の開口部には,上記流通路の内側に向かって小径になる内ねじ22aが形成され,この内ねじ22aから内側に離れた上記流通路の内周面には,嵌合溝27bに嵌合したサークリツプ29が設けられ,及び,この内ねじ22aの内側隣接部に位置する上記流通路の内周面には,このサークリツプ29と上記内ねじ22aとの間に環状の嵌合溝27aが形成され,上記内ねじ22aと上記サークリツプ29との間の上記流通路の内周面には,上記内ねじ22aから上記サークリツプ29まで続く円筒穴23が上記内ねじ22aと軸線を一致させて形成され,上記円筒穴23が,上記内ねじ22aの最小内径と同一で,かつ一定の内径を有している構成のボールバルブが示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。 「全体が一体に形成され,内部に流通路が形成された弁本体21と,上記流通路の内部にその開口部から挿入されてそれぞれ所定の位置に配置されたシール部材26b,球状の弁体24,シール部材26a及びサークリツプ28とを備え,上記サークリツプ28が上記シール部材26aを上記シール部材26b側に押すことにより,上記弁体24が上記シール部材26b,26aによって浮動状態となるように装着されたボールバルブにおいて, 上記流通路の上記サークリツプ28側の開口部には,上記流通路の内側に向かって小径になる内ねじ22aが形成され,この内ねじ22aから内側に離れた上記流通路の内周面には,嵌合溝27bに嵌合したサークリツプ29が設けられ,及び,この内ねじ22aの内側隣接部に位置する上記流通路の内周面には,このサークリツプ29と上記内ねじ22aとの間に環状の嵌合溝27aが形成され,上記内ねじ22aと上記サークリツプ29との間の上記流通路の内周面には,上記内ねじ22aから上記サークリツプ29まで続く円筒穴23が上記内ねじ22aと軸線を一致させて形成され,上記円筒穴23が,上記内ねじ22aの最小内径と同一で,かつ一定の内径を有し,上記サークリツプ28は半径方向外方の弾発力によって嵌合溝27aにぴったりと嵌合され,上記サークリツプ28が外径を小さくした状態で上記流通路に挿入され,外径を小さくされた上記サークリツプ28が弾発的に大きくされることによってその外周部が上記嵌合溝27aに嵌合され,それによって上記サークリツプ28が上記所定の位置に配置され,上記シール部材26b及びシール部材26aがある固有強度に構成され,上記サークリツプ29と上記サークリツプ28との間の上記流通路内に上記シール部材26b,上記弁体24及び上記シール部材26aが収容され,上記サークリツプ28が上記シール部材26aを上記シール部材26b側に押す結果,上記サークリツプ28を用いて上記シール部材26b,26aを上記弁体24に弾発的に押しあてて上記弁体24が浮動状態となるように装着したボールバルブ。」 b)同じく,引用された実願昭60-169490号(実開昭61-81065号)のマイクロフィルム(以下,「引用例2」という。)には,「ボールバルブ」と題し,図面と共に次の事項が記載されている。 ・「本考案の技術的手段の具体例を示す実施例を(第1図と第2図参照)を説明する。 弁ケーシング101は六角棒材を切削加工して作る。入口102と出口103には配管連結用のねじを形成する。弁ケーシングの内囲壁の出口側部分に内向きのフランジ107を形成し,これに当てて出口側弁座106を配置する。 出口側弁座106はテフロン(登録商標)等の合成樹脂で作る。形状は断面が四角のリングを,内囲の弁体側の角と外周の出口側の角を落した様なものである。外周の角は当該弁座の軸に平行な面と,傾斜した面とからなり,両面は鈍角で交わる。 出口側弁座106の外周の角と,弁ケーシング101の内囲壁面及び内向きフランジ107の内面で形成される溝に,合成ゴムで作ったOリングパッキング105を配置する。 弁体104は流通孔113を開けた球体で,その上部に流通孔113の方向に垂直に一文字の溝を形成する。当該溝には弁ケーシング101を貫通して気密的に配置した弁軸114の下端の一文字キー部を嵌合する。参照番号115はハンドルを示す。 弁体104の入口側には,入口側弁座108と,ばね受け109,コイルばね110,ばね受け111を配置し,スナップリング112を弁ケーシングの内囲壁に形成した溝に嵌める。」(明細書第5頁第18行?第7頁第4行) ・第1図には,内部に流通路が形成された弁ケーシング101と,上記流通路の内部にその入口102から順次挿入されてそれぞれ所定の位置に配置された出口側弁座106,球体からなる弁体104,入口側弁座108及びスナップリング112とを備え,上記流通路の上記入口102には,上記流通路の内側に向かって小径になる配管連結用のねじが形成され,この配管連結用のねじから内側に離れた上記流通路の内周面には,内向きのフランジ107及びこのフランジ107と上記配管連結用のねじとの間に上記スナップリング112が嵌る弁ケーシングの内囲壁に形成した溝が形成され,上記配管連結用のねじと上記溝との間の上記流通路の内周面には,上記配管連結用のねじから上記溝まで続くストレート孔部が形成された構成のボールバルブが示されている。 c)同じく,引用された特開平10-325472号公報(以下,「引用例3」という。)には,次の事項が記載されている。 ・「【0002】 【従来の技術】従来,ボール弁等の弁体が弁箱内で回転するバルブに使用するシートリングとしては,通常単体のポリテトラフルオロエチレン樹脂(商品名テフロン,以下PTFEと記す)あるいはニトリルゴムが多く使用されている。また特開昭63ー140182号で開示されたごとく,耐熱性ゴムにPTFE粉末を混合したゴムでシートリングを成形したボールバルブも知られている。更に特開平7ー55026号公報で開示されたごとく,ゴム弾性体からなるシートリングとPTFE樹脂製のシートリングとを弁箱内に装着して,両シートリングでボール弁体とシールするようにしたボール弁も知られている。」 (3)対比 そこで,本願補正発明と引用発明とを対比する。 まず,後者の「弁本体21」は前者の「本体」に相当する。 次に,後者の「流通路の内部にその開口部から挿入され」る態様と前者の「流通路の内部にその一端開口部から順次挿入され」る態様とは,「流通路の内部にその開口部から挿入され」るとの概念で共通している。 続いて,後者の「シール部材26b」は前者の「第1弁座部材」に,後者の「球状の弁体24」は前者の「球弁」に,後者の「シール部材26a」は前者の「第2弁座部材」に,後者の「サークリップ28」は前者の「押圧部材」に,後者の「弁体24がシール部材26b,26aによって浮動状態となるように装着された」態様は前者の「球弁が第1,第2弁座部材によって回動可能に支持された」態様に,後者の「ボールバルブ」は前者の「ボール弁」に,後者の「流通路のサークリップ28側の開口部」は前者の「流通路の一端開口部」に,後者の「流通路の内側に向かって小径になる内ねじ22a」は前者の「流通路の内側に向かって小径になるテーパ雌ねじ部」に,それぞれ相当している。 そして,後者の「嵌合溝27bに嵌合したサークリップ29」と前者の「環状突出部」とは,「環状係止部」との概念で共通し,後者の「内ねじ22aの内側隣接部に位置する流通路の内周面」と前者の「テーパ雌ねじ部から内側に離れた流通路の内周面」とは,「テーパ雌ねじ部から内側に位置する流通路の内周面」との概念で共通し,後者の「嵌合溝27a」は前者の「取付溝」に相当するから,結局,後者の「内ねじ22aから内側に離れた流通路の内周面には,嵌合溝27bに嵌合したサークリップ29が設けられ,及び,この内ねじ22aの内側隣接部に位置する上記流通路の内周面には,このサークリップ29と内ねじ22aとの間に環状の嵌合溝27aが形成され」る態様と前者の「テーパ雌ねじ部から内側に離れた流通路の内周面には,環状突出部及びこの環状突出部と上記テーパ雌ねじ部との間に環状の取付溝が形成され」る態様とは,「テーパ雌ねじ部から内側に離れた流通路の内周面には,環状係止部が設けられ,及び,このテーパ雌ねじ部から内側に位置する流通路の内周面には,この環状係止部と上記テーパ雌ねじ部との間に環状の取付溝が形成され」るとの概念で共通している。 また,後者の「内ねじ22aとサークリップ29との間の流通路の内周面」と前者の「テーパ雌ねじ部と取付溝との間の流通路の内周面」とは,「テーパ雌ねじ部と所定部位との間の流通路の内周面」との概念で共通し,後者の「円筒穴23」は前者の「ストレート孔部」に相当するから,結局,後者の「内ねじ22aとサークリップ29との間の流通路の内周面には,上記内ねじ22aから上記サークリップ29まで続く円筒穴23が上記内ねじ22aと軸線を一致させて形成され,上記円筒穴23が,上記内ねじ22aの最小内径と同一で,かつ一定の内径を有し」ている態様と前者の「テーパ雌ねじ部と取付溝との間の流通路の内周面には,上記テーパ雌ねじ部から上記取付溝まで続くストレート孔部が上記テーパ雌ねじ部と軸線を一致させて形成され,上記ストレート孔部が,上記テーパ雌ねじ部の最小内径と同一で,かつ一定の内径を有し」ている態様とは,「テーパ雌ねじ部と所定部位との間の流通路の内周面には,上記テーパ雌ねじ部から上記所定部位まで続くストレート孔部が上記テーパ雌ねじ部と軸線を一致させて形成され,上記ストレート孔部が,上記テーパ雌ねじ部の最小内径と同一で,かつ一定の内径を有し」ているとの概念で共通している。 さらに,後者の「サークリップ28は半径方向外方の弾発力によって嵌合溝27aにぴったりと嵌合され」る態様は前者の「押圧部材の自然状態時における外径が,ストレート孔部の内径より大径に設定され」る態様に,後者の「サークリップ28が外径を小さくした状態」は前者の「押圧部材が弾性的に縮径した状態」に,後者の「外径を小さくされたサークリップ28が弾発的に大きくされることによってその外周部が嵌合溝27aに嵌合され」る態様は前者の「弾性的に縮径された押圧部材が拡径することによってその外周部が取付溝に挿入され」る態様に,それぞれ相当している。そして,後者の「サークリップ28が外径を小さくした状態で流通路に挿入され」る態様と前者の「押圧部材が弾性的に縮径した状態でストレート孔部に挿入され」る態様とは,「押圧部材が弾性的に縮径した状態で流通路に挿入され」るとの概念で共通している。 加えて,後者の「シール部材26b及びシール部材26aがある固有強度に構成され」る態様と前者の「第1及び第2弁座部材が弾性材によって構成され」る態様とは,「第1及び第2弁座部材がある材料によって構成され」るとの概念で共通している。 最後に,後者の「サークリップ28がシール部材26aをシール部材26b側に押す結果」は前者の「押圧部材が第2弁座部材を第1弁座部材側に押す結果」に相当し,後者の「サークリツプ28を用いてシール部材26b,26aを弁体24に弾発的に押しあてて上記弁体24が浮動状態となるように装着した」態様は,弾性力により,サークリップ28,シール部材26a,弁体24,シール部材26b及びサークリップ29(環状係止部)が互いに押しつけ合う状態となることが明らかであるから,後者の上記態様と前者の「第1及び第2弁座部材の弾性力により,上記第1弁座部材が環状突出部の押圧部材側を向く端面に押し付けられ,上記第2弁座部材が上記押圧部材の上記環状突出部側を向く端面に直接押し付けられ,上記第1及び第2弁座部材が球弁に押し付けられている」態様とは,「弾性力により,上記第1弁座部材が環状係止部の押圧部材側を向く端面に押し付けられ,上記第2弁座部材が上記押圧部材の上記環状係止部側を向く端面に直接押し付けられ,上記第1及び第2弁座部材が上記球弁に押し付けられている」との概念で共通している。 したがって,両者は, 「全体が一体に形成され,内部に流通路が形成された本体と,上記流通路の内部にその開口部から挿入されてそれぞれ所定の位置に配置された第1弁座部材,球弁,第2弁座部材及び押圧部材とを備え,上記押圧部材が上記第2弁座部材を上記第1弁座部材側に押すことにより,上記球弁が上記第1,第2弁座部材によって回動可能に支持されたボール弁において, 上記流通路の一端開口部には,上記流通路の内側に向かって小径になるテーパ雌ねじ部が形成され,このテーパ雌ねじ部から内側に離れた上記流通路の内周面には,環状係止部が設けられ,及び,このテーパ雌ねじ部から内側に位置する上記流通路の内周面には,この環状係止部と上記テーパ雌ねじ部との間に環状の取付溝が形成され,上記テーパ雌ねじ部と所定部位との間の上記流通路の内周面には,上記テーパ雌ねじ部から上記所定部位まで続くストレート孔部が上記テーパ雌ねじ部と軸線を一致させて形成され,上記ストレート孔部が,上記テーパ雌ねじ部の最小内径と同一で,かつ一定の内径を有し,上記押圧部材の自然状態時における外径が,上記ストレート孔部の内径より大径に設定され,上記押圧部材が弾性的に縮径した状態で上記流通路に挿入され,弾性的に縮径された上記押圧部材が拡径することによってその外周部が上記取付溝に挿入され,それによって上記押圧部材が上記所定の位置に配置され,上記第1及び第2弁座部材がある材料によって構成され,上記環状係止部と上記押圧部材との間の上記流通路内に上記第1弁座部材,上記球弁及び上記第2弁座部材が収容され,上記押圧部材が上記第2弁座部材を上記第1弁座部材側に押す結果,弾性力により,上記第1弁座部材が上記環状係止部の上記押圧部材側を向く端面に押し付けられ,上記第2弁座部材が上記押圧部材の上記環状係止部側を向く端面に直接押し付けられ,上記第1及び第2弁座部材が上記球弁に押し付けられているボール弁。」 の点で一致し,以下の点で相違している。 [相違点1] 第1弁座部材,球弁,第2弁座部材及び押圧部材が,本体の流通路の内部にその「開口部から挿入」される態様に関し,本願補正発明は,流通路の内部にその「一端」開口部から「順次」挿入されるとしているのに対し,引用発明は,かかる特定がなされていない点。 [相違点2] 「テーパ雌ねじ部から内側に離れた流通路の内周面には,環状係止部が設けられ,及び,このテーパ雌ねじ部から内側に位置する上記流通路の内周面には,この環状係止部と上記テーパ雌ねじ部との間に環状の取付溝が形成され」る態様に関し,本願補正発明は,「テーパ雌ねじ部から内側に離れた流通路の内周面には,環状突出部及びこの環状突出部と上記テーパ雌ねじ部との間に環状の取付溝が形成され」る構成であることから,環状係止部と環状の取付溝がいずれもテーパ雌ねじ部から内側に離れた流通路の内周面に形成されるものであるのに対し,引用発明は,取付溝についてかかる態様とされていない点。 [相違点3] 「環状係止部」に関し,本願補正発明は,「環状突出部」であるのに対し,引用発明は,「サークリップ29」である点。 [相違点4] ストレート孔部が形成される,流通路の内周面における,テーパ雌ねじ部との間の「所定部位」に関し,本願補正発明は,「取付溝」であることから,ストレート孔部がテーパ雌ねじ部と取付溝との間に形成されているのに対し,引用発明は,ストレート孔部がテーパ雌ねじ部と取付溝との間には形成されていない点。 [相違点5] 押圧部材が弾性的に縮径した状態で挿入される「流通路」に関し,本願補正発明は,「ストレート孔部」と特定しているのに対し,引用発明は,かかる特定がなされていない点。 [相違点6] 第1及び第2弁座部材が構成される「ある材料」に関し,本願補正発明は,「弾性材によって」構成されるものであるのに対し,引用発明は,「ある固有強度に」構成されるものの,その材質につき明確にされていない点。 [相違点7] 第1弁座部材が環状係止部の押圧部材側を向く端面に押し付けられ,第2弁座部材が押圧部材の環状係止部側を向く端面に直接押し付けられ,第1及び第2弁座部材が球弁に押し付けられる「弾性力」に関し,本願補正発明は,「第1及び第2弁座部材の弾性力」であるのに対し,引用発明は,サークリツプ28を用いているが,第1及び第2弁座部材の弾性力については明確にされていない点。 (4)判断 上記相違点について以下検討する。 ・相違点1ないし5について 例えば,引用例2にも開示されている如く,内部に流通路が形成された本体(「弁ケーシング101」が相当)と,上記流通路の内部にその一端開口部(「入口102」が相当)から順次挿入されてそれぞれ所定の位置に配置された第1弁座部材(「出口側弁座106」が相当),球弁(「球体からなる弁体104」が相当),第2弁座部材(「入口側弁座108」が相当)及び押圧部材(「スナップリング112」が相当)とを備え,上記流通路の上記一端開口部には,上記流通路の内側に向かって小径になるテーパ雌ねじ部(「配管連結用のねじ」が相当)が形成され,このテーパ雌ねじ部から内側に離れた上記流通路の内周面には,環状突出部(「内向きのフランジ107」が相当)及びこの環状突出部と上記テーパ雌ねじ部との間に上記押圧部材が挿入される(「嵌る」が相当)環状の取付溝(「弁ケーシングの内囲壁に形成した溝」が相当)が形成され,上記テーパ雌ねじ部と上記取付溝との間の上記流通路の内周面には,上記テーパ雌ねじ部から上記取付溝まで続くストレート孔部が形成された構成は,ボール弁(「ボールバルブ」が相当)の分野における周知の構成である。 そうすると,引用発明において,上記周知の構成に倣い,第1弁座部材,球弁,第2弁座部材及び押圧部材を,本体の流通路の内部にその一端開口部から順次挿入されるようにし,上記一端開口部に形成されたテーパ雌ねじ部から内側に離れた上記流通路の内周面に,環状係止部となる環状突出部及びこの環状突出部と上記テーパ雌ねじ部との間に上記押圧部材が挿入される環状の取付溝を形成し,ストレート孔部を上記テーパ雌ねじ部から上記取付溝まで続くように形成することで,相違点1ないし5に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものというべきである。 ・相違点6および7について 例えば,引用例3にも開示されているように,弁座部材(「シートリング」が相当)を弾性材(「ゴム弾性体」が相当)によって構成することは,ボール弁の分野における常套手段である。そして,弾性材が押し付けられる際に多少に関わらず弾性力を発揮することは技術的に自明である。 そうすると,引用発明において,上記常套手段を採用することにより,相違点6および7に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者にとって容易であり,当該採用を妨げる特段の技術的事情も見あたらない。 そして,本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明,上記周知の構成及び上記常套手段から当業者が予測し得る範囲内のものである。 したがって,本願補正発明は,引用発明,上記周知の構成及び上記常套手段に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおりであって,本件補正は,改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下をすべきものである。 3.本願の発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を「本願発明」という。)は,平成22年6月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。 「全体が一体に形成され,内部に流通路が形成された本体と,上記流通路の内部にその一端開口部から順次挿入されてそれぞれ所定の位置に配置された第1弁座部材,球弁,第2弁座部材及び押圧部材とを備え,上記押圧部材が上記第2弁座部材を上記第1弁座部材側に押すことにより,上記球弁が上記第1,第2弁座部材によって回動可能に支持されたボール弁において, 上記流通路の上記一端開口部には,上記流通路の内側に向かって小径になるテーパ雌ねじ部が形成され,このテーパ雌ねじ部から内側に離れた上記流通路の内周面には,環状の取付溝が形成され,上記テーパ雌ねじ部と上記取付溝との間の上記流通路の内周面には,上記テーパ雌ねじ部から上記取付溝まで続くストレート孔部が上記テーパ雌ねじ部と軸線を一致させて形成され,上記ストレート孔部が,上記テーパ雌ねじ部の最小内径と同一で,かつ一定の内径を有し,上記押圧部材の自然状態時における外径が,上記ストレート孔部の内径より大径に設定され,上記押圧部材が弾性的に縮径した状態で上記ストレート孔部に挿入され,弾性的に縮径された上記押圧部材が拡径することによってその外周部が上記取付溝に挿入され,それによって上記押圧部材が上記所定の位置に配置されていることを特徴とするボール弁。」 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及び,その記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は,前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「流通路の内周面には,環状の取付溝が形成され」る態様について「流通路の内周面には,環状突出部及びこの環状突出部と上記テーパ雌ねじ部との間に環状の取付溝が形成され」る態様への限定を省き,「押圧部材が所定の位置に配置されている」態様について「押圧部材が所定の位置に配置され,第1及び第2弁座部材が弾性材によって構成され,環状突出部と上記押圧部材との間の流通路内に上記第1弁座部材,球弁及び上記第2弁座部材が収容され,上記押圧部材が上記第2弁座部材を上記第1弁座部材側に押す結果,上記第1及び第2弁座部材の弾性力により,上記第1弁座部材が上記環状突出部の上記押圧部材側を向く端面に押し付けられ,上記第2弁座部材が上記押圧部材の上記環状突出部側を向く端面に直接押し付けられ,上記第1及び第2弁座部材が上記球弁に押し付けられている」態様への限定を省いたものである。 そうすると,本願発明と引用発明とを対比した際の相違点は,前記「2.(3)」で抽出した相違点1,2,4及び5のみとなるため,前記「2.(4)」での検討を踏まえれば,本願発明は,引用発明及び上記周知の構成に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。 (3)むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明及び上記周知の構成に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-10 |
結審通知日 | 2011-08-16 |
審決日 | 2011-08-30 |
出願番号 | 特願2005-33120(P2005-33120) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16K)
P 1 8・ 575- Z (F16K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田合 弘幸 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
大河原 裕 神山 茂樹 |
発明の名称 | ボール弁 |
代理人 | 渡辺 昇 |
代理人 | 原田 三十義 |