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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C03C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03C
管理番号 1245272
審判番号 不服2008-29172  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-17 
確定日 2011-10-20 
事件の表示 特願2002-241531「酸化物系ガラス及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月11日出願公開,特開2004- 75498〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成14年8月22日の出願であって,平成20年7月23日(起案日)付けで拒絶理由が通知され,同年9月8日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され,同年10月15日(起案日)付けで拒絶査定され,同年11月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるともに,同日付けで明細書の記載に係る手続補正書が提出されたものである。その後,平成23年5月16日(起案日)付けで特許法第164条第3項に規定する報告書を引用した審尋がなされ,同年7月4日付けで回答書が提出されている。

2.平成20年11月17日付けの手続補正の補正却下の決定

2-1.補正却下の決定の結論
平成20年11月17日付けの手続補正(以下,必要に応じて「本件補正」という。)を却下する。

2-2.理由
(1)平成20年11月17日付けの手続補正の内容
平成20年11月17日付けの手続補正は,平成20年9月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲である,
「【請求項1】 質量百分率でSiO_(2) 55?70%,Al_(2) O_(3) 5?20%,B_(2) O_(3) 5?20%,MgO 0?5%,CaO 2?15%,BaO 0?8%,SrO 0?10%,ZnO 0?1%,Sn酸化物 0.02?1%の組成を有し,Sn^(2+)/全Snの割合が0.13以上であることを特徴とする酸化物系ガラス。
【請求項2】 As成分を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1の酸化物系ガラス。
【請求項3】 アルカリ金属成分を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1の酸化物系ガラス。
【請求項4】 液晶ディスプレイの透明ガラス基板用であることを特徴とする請求項1?3の何れかの酸化物系ガラス。
【請求項5】 質量百分率でSiO_(2) 55?70%,Al_(2) O_(3) 5?20%,B_(2) O_(3) 5?20%,MgO 0?5%,CaO 2?15%,BaO 0?8%,SrO 0?10%,ZnO 0?1%,Sn酸化物 0.02?1%の組成を有するように調合したガラス原料調合物を溶融した後,成形する酸化物系ガラスの製造方法において,Sn^(2+)/全Snの割合が0.13以上となる条件で溶融することを特徴とする酸化物系ガラスの製造方法。
【請求項6】 Sn酸化物としてSnO_(2)を使用することを特徴とする請求項5の酸化物系ガラスの製造方法。
【請求項7】 清澄剤としてAs酸化物を使用しないことを特徴とする請求項5の酸化物系ガラスの製造方法。
【請求項8】 アルカリ金属成分を実質的に含有しないガラス原料調合物を使用することを特徴とする請求項5の酸化物系ガラスの製造方法。
【請求項9】 フュージョンダウンドロー法で成形することを特徴とする請求項5?8の何れかの酸化物系ガラスの製造方法。」
を,
「【請求項1】 質量百分率でSiO_(2) 55?70%,Al_(2) O_(3) 5?20%,B_(2) O_(3) 5?20%,MgO 0?5%,CaO 2?15%,BaO 0?8%,SrO 0?10%,ZnO 0?1%,Sn酸化物 0.02?1%の組成を有するように調合したガラス原料調合物を連続溶融炉で溶融した後,成形する酸化物系ガラスの製造方法において,Sn^(2+)/全Snの割合が0.13以上となる条件で溶融することを特徴とする酸化物系ガラスの製造方法。
【請求項2】 Sn酸化物としてSnO_(2)を使用することを特徴とする請求項1の酸化物系ガラスの製造方法。
【請求項3】 清澄剤としてAs酸化物を使用しないことを特徴とする請求項1の酸化物系ガラスの製造方法。
【請求項4】 アルカリ金属成分を実質的に含有しないガラス原料調合物を使用することを特徴とする請求項1の酸化物系ガラスの製造方法。
【請求項5】 フュージョンダウンドロー法で成形することを特徴とする請求項1?4の何れかの酸化物系ガラスの製造方法。」
と補正するとともに,それに整合させるように明細書の段落【0001】及び【0008】を補正し,段落【0007】を削除するものである。

(2)補正の適法性について
(2-1)補正の目的について
本件補正は,特許請求の範囲について,請求項1?4を削除して請求項5?9を補正後の請求項1?5とし,補正後の請求項1について,「ガラス原料調合物を溶融した後」を「ガラス原料調合物を連続溶融炉で溶融した後」とする補正事項を有するものである。
上記補正後の請求項1についての補正事項は,ガラス原料調合物を溶融することについて,「連続溶融炉で」溶融することを特定するものであり,いわゆる限定的減縮を目的とするものである。
したがって,上記補正事項は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号に規定する請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,上記特許法第17条の2第4項の要件を満たす。

(2-2)独立特許要件について
そこで,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正後発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
(i)本願出願前に頒布された刊行物の記載事項
刊行物1:特開平10-59741号公報(原査定の拒絶理由通知において引用された引用文献1)
(ア)「【請求項2】 重量百分率でSiO_(2) 40?70%,Al_(2) O_(3) 6?25%,B_(2) O_(3) 5?20%,MgO 0?10%,CaO 0?15%,BaO 0?30%,SrO 0?10%,ZnO 0?10%の組成を有し,本質的にアルカリ金属酸化物を含有しないガラスとなるように調合したガラス原料調合物を溶融した後,成形する無アルカリガラスの製造方法において,ガラス原料調合物に清澄剤としてSnO_(2)を0.05?2.0重量%添加することを特徴とする無アルカリガラスの製造方法。」(特許請求の範囲)
(イ)「【発明が解決しようとする課題】液晶ディスプレイ用基板として用いられるような無アルカリガラスは,アルカリ金属成分を含有しないためにガラス化反応が起き難く,また融液の粘度が高い。従ってこの種の無アルカリガラスの溶融は,アルカリを含有するガラスの場合よりも高温で行う必要があり,このためガラス中の泡をなくす目的で添加される清澄剤には,この高温での溶融時に清澄ガスを多量に発生することができるAs_(2) O_(3) が使用されている。
・・・・・・
本発明の目的は,清澄剤としてAs_(2)O_(3)を使用せず,しかも表示欠陥となる泡が存在しない無アルカリガラスとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】本出願人は,種々の実験を行った結果,清澄剤としてAs_(2)O_(3)の代わりにSnO_(2)を使用することによって上記目的が達成できることを見いだし,本発明として提案するものである。
・・・・・・
【作用】泡のない無アルカリガラスを得るためには,高温での溶融時に泡切れに効果のある清澄ガスを発生させて,ガラス融液中に存在する微小泡の径を増大,浮上させ除去する必要がある。それゆえ高温で分解して多量に清澄ガスを発生する成分が必須となるが,SnO_(2)は1400℃以上の高温度域でSnイオンの価数変化による化学反応によって多量の酸素ガスを発生する。
本発明においては,清澄剤としてSnO_(2)を添加することによって高温度域での清澄効果が得られるため,表示欠陥となる泡のない無アルカリガラスを得ることができる。」(段落【0004】?【0011】)
(ウ)「・・・SnO_(2)の添加量は,ガラス原料調合物100重量%に対して0.05?2.0重量%である。その理由は,0.05%より少ないと清澄効果がなく,2.0%より多いと揮発量が増えてガラスが変質し易くなるためである。
続いて,調合したガラス原料を溶融する。このとき,SnO_(2)の価数変化による化学反応によって多量の酸素ガスが発生し,ガラス中の泡が除去される。」(段落【0019】?【0020】)

(ii)対比・判断
刊行物1には,記載事項(ア)に,「重量百分率でSiO_(2) 40?70%,Al_(2) O_(3) 6?25%,B_(2) O_(3) 5?20%,MgO 0?10%,CaO 0?15%,BaO 0?30%,SrO 0?10%,ZnO 0?10%の組成を有し・・・ガラスとなるように調合したガラス原料調合物を溶融した後,成形する無アルカリガラスの製造方法において,ガラス原料調合物に清澄剤としてSnO_(2)を0.05?2.0重量%添加する・・・無アルカリガラスの製造方法」が記載されている。ここで,「ガラス原料調合物に清澄剤としてSnO_(2)を0.05?2.0重量%添加する」ことは,ガラス原料調合物の組成として,重量百分率で「SnO_(2) 0.05?2.0%」とすることが記載されているといえるから,刊行物1には,
「重量百分率でSiO_(2) 40?70%,Al_(2) O_(3) 6?25%,B_(2) O_(3) 5?20%,MgO 0?10%,CaO 0?15%,BaO 0?30%,SrO 0?10%,ZnO 0?10%,SnO_(2) 0.05?2.0%の組成を有するように調合したガラス原料調合物を溶融した後,成形する無アルカリガラスの製造方法」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで,補正後発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「SnO_(2)」は,補正後発明の「Sn酸化物」に相当し,ガラス原料調合物の組成について特定される成分は,両発明で共通しているから,いずれも,SiO_(2),Al_(2) O_(3),B_(2) O_(3),MgO,CaO,BaO,SrO,ZnO,Sn酸化物を含有するガラス原料組成物を溶融する点では共通するといえる。また,引用発明の「重量百分率」は,補正後発明の「質量百分率」に相当し,引用発明の「無アルカリガラス」は,その組成からみて,補正後発明の「酸化物系ガラス」に包含されるものである。
そうすると,補正後発明と引用発明とは,
「SiO_(2),Al_(2) O_(3),B_(2) O_(3),MgO,CaO,BaO,SrO,ZnO,Sn酸化物を含有するガラス原料組成物を溶融した後,成形する酸化物系ガラスの製造方法」
である点で一致し,以下の点で相違している。

相違点A:ガラス原料調合物の組成について,補正後発明では,
「質量百分率でSiO_(2) 55?70%,Al_(2) O_(3) 5?20%,B_(2) O_(3) 5?20%,MgO 0?5%,CaO 2?15%,BaO 0?8%,SrO 0?10%,ZnO 0?1%,Sn酸化物 0.02?1%」と特定するのに対し,
引用発明では,
「重量百分率でSiO_(2) 40?70%,Al_(2) O_(3) 6?25%,B_(2) O_(3) 5?20%,MgO 0?10%,CaO 0?15%,BaO 0?30%,SrO 0?10%,ZnO 0?10%,SnO_(2) 0.05?2.0%」と特定する点
相違点B:ガラス原料調合物の溶融について,補正後発明では,「連続溶融炉で溶融」し,「Sn^(2+)/全Snの割合が0.13以上となる条件で溶融する」のに対し,引用発明では,かかる特定がない点

そこで,上記相違点A,Bについて,以下,検討する。

相違点Aについて:
補正後発明と引用発明のガラス原料調合物の組成を,各成分ごとに対比すると,SiO_(2)は,補正後発明の55?70%は引用発明の40?70%に包含され,Al_(2) O_(3)は,補正後発明の5?20%と引用発明の6?25%が6?20%で重複し,B_(2) O_(3)は,両発明とも5?20%で一致し,MgOは,補正後発明の0?5%は引用発明の0?10%に包含され,CaOは,補正後発明の2?15%は引用発明の0?15%に包含され,BaOは,補正後発明の0?8%は引用発明の0?30%に包含され,SrOは,両発明とも0?10%で一致し,ZnOは,補正後発明の0?1%は引用発明の0?10%に包含され,Sn酸化物は,補正後発明の0.02?1%と引用発明の0.05?2.0%が0.05?1%で重複している。
まず,清澄剤であるSn酸化物について検討すると,引用発明より補正後発明の方が狭い範囲に特定されている。そこで,補正後発明における組成範囲特定の理由について,本願明細書の記載を参照すると,段落【0012】に,「Sn酸化物の添加量が少ないと,十分な清澄効果を得ることができず,逆に多すぎるとガラスが失透する等の不都合が生じやすい。」と記載されている。これに対して,刊行物1には,記載事項(ウ)に,「SnO_(2)の添加量は,・・・その理由は,0.05%より少ないと清澄効果がなく,2.0%より多いと揮発量が増えてガラスが変質し易くなるためである。」と記載されている。さらに,Sn酸化物成分については,添加量が多すぎるとガラスの失透を起こしやすい成分であることも周知である(要すれば,特開2002-193636号公報の段落【0017】,特開平11-228181号公報の段落【0027】,特開平11-100229号公報の段落【0023】を参照。)。そうすると,引用発明について,十分な清澄効果が得られ,かつ,失透等の不都合が起こらないように,Sn酸化物(SnO_(2))の組成範囲を0.02?1%と特定することに格別の困難性はない。
次に,清澄剤であるSn酸化物以外の,酸化物系ガラス(無アルカリガラス)の主成分について検討すると,一部の成分において引用発明より補正後発明の方が多少狭い範囲に特定されているものの,当該技術分野における技術常識にしたがって,組成範囲をさらに限定することは,当業者が適宜なし得ることである。そして,本願明細書には,酸化物系ガラスの組成を特定することによる作用効果,特に,補正後発明の目的であるSn酸化物を用いた清澄に関する作用効果については何ら記載されておらず,組成範囲を限定することによる効果も当業者が技術常識から予測し得る範囲のものというべきである。

相違点Bについて:
まず,ガラスの清澄に関する技術常識について確認すると,成瀬省 著,「ガラス工学」,壮光舎印刷株式会社,昭和54年9月25日,76-81頁(以下,「刊行物2」という。)には,次の記載がある。
「清澄(Refining)とは,狭い意味では溶融状態にあるガラス中に含まれている気泡を除くこと,いわゆる”泡切り”を行うことである。・・・
溶融・清澄過程で生ずる泡は,原料の分解反応によって発生するガスによるもの,またはガラス中に溶存するガス成分や揮発成分がガス化して気泡となったものであるが,一たん生じた気泡は,その浮揚力で上昇し,ガラス表面まで到達して,そこで泡が破れて消滅する。・・・
バッチは溶融過程でガラス化する際に,CO_(2),H_(2)O,O_(2)あるいはSO_(2)等のガスを放出し,このガスの一部が溶融ガラスに気泡をつくる。清澄温度まで温度が高まるにしたがって,ガラスは粘度を減ずるので,(7・9)式で明らかなように,泡の上昇速度は増加して,泡は切れやすくなる。しかし小気泡はそれでも容易に浮上しない。バッチ中に配合せられていた清澄剤は,バッチ中のガラス化反応がほぼ完了したところで,その独自の分解または揮発を活溌(当審注:原文はさんずいに發。)に行うのである。清澄剤はかくして,溶融ガラス中に分解ガスを放出し,またはおのずからガス化することにより,清澄作用を助けるのであるが,それはどんな理由によるのであろうか。
・・・・・・
清澄工程に引き続いて行われる成形作業のために,ガラスを適当な粘度にする目的で,清澄温度よりやや低い作業温度まで冷却される。この冷却の速度とその時間を適当に調整すれば,温度低下によるガラスの溶解ガスの圧の減少にともなって,清澄工程でなおとり残されたシードは再びガラス中に吸収され,気泡は一そう小さくなるかまたは消失する。この作用を”しめ(Setting)”と称する。」(第76頁第2行?第77頁第24行)
また,山根正之,安井至,和田正道,国分可紀,寺井良平,近藤敬,小川晋永 編,「ガラス工学ハンドブック」,株式会社朝倉書店,1999年7月5日,229-238頁(以下「刊行物3」という。)には,次の記載がある。
「清澄剤の機能は気体の反応生成物(O_(2),SO_(2)+O_(2))ないしは高温の蒸気の放出にあると考えられる。清澄剤は実際には融液と化学的に結合しているが,その反応式は模式的に以下のように記述される。
酸化物系の清澄剤については,
As_(2)O_(5) = As_(2)O_(3) + O_(2) (2.6)
Sb_(2)O_(5) = Sb_(2)O_(3) + O_(2) (2.7)
2CeO_(2) = Ce_(2)O_(3) + 1/2O_(2) (2.8)
・・・・・・
・・・清澄剤を含む場合には,O_(2),SO_(2)+O_(2)ないし揮発性清澄剤の蒸気が気泡中に拡散流入し気泡を膨張させる。温度が低下した場合,上述の反応が反対方向に進み,気泡はそのガス成分の化学的溶解の結果として収縮する。
多価酸化物が有効な清澄剤として作用する条件は,その酸化型,還元型の平衡量比が高い温度依存性を示し,清澄温度域でほぼ1に等しい値をとることである。その場合には温度の上昇により多量の酸素ガスの放出が期待できる。」(230頁右欄第16?39行)
ここで,引用発明のSnO_(2)は,刊行物1の記載事項(イ)に,「SnO_(2)は1400℃以上の高温度域でSnイオンの価数変化による化学反応によって多量の酸素ガスを発生する。」と記載されているとおり,高温度域でのSnイオンの価数変化による酸素ガス発生を利用する清澄剤であり,上記刊行物3に記載されているAs_(2)O_(5),Sb_(2)O_(5),CeO_(2)のような酸化物系の清澄剤の一種であって,高温において,低酸化数に変化して酸素ガスを発生し,気泡を膨張させることで脱泡を促進し,ガラスの冷却過程において,高酸化数に戻って酸素ガスと結合することで気泡を収縮させるというものである。
そして,このSnO_(2)の清澄剤については,例えば,特開平10-36133号公報(平成19年4月25日付け刊行物提出書で提示された刊行物2。以下「刊行物4」という。)の段落【0023】に,
「・・・融解トレイの精製部分に支配的な高温で,スズイオンが二価状態に部分的にシフトし,それによって生成酸素気泡が上昇し,そしてかくして融液に溶解した気体がこれら気泡に拡散し,ガラスから除去されることによって精製に寄与する。非常に小さな上昇しない気泡は,精製相の末端ですなわち低温で現実に存在し,そしてこの場合SnO_(2)に再び参加される一酸化スズSnOによって再度吸収される。」(ここで,「精製」は,本願明細書や刊行物1に記載された「清澄」に相当し,「再び参加」は「再び酸化」の誤記であることは当業者に明らかである。)と記載されているように,高酸化数(Sn^(4+))のSnO_(2)と低酸化数(Sn^(2+))のSnOとの間の変化を利用する清澄剤であることが周知であり,高温においてSnが低酸化数のSn^(2+)に変化して放出された酸素は,ガラス中の気泡に拡散してガラス表面まで到達すると泡が破れてガラス中から放出されるので,ガラスの冷却過程では,Snの一部はガラス中に残存する溶存酸素と再結合して高酸化数(Sn^(4+))に戻るが,一部は低酸化数(Sn^(2+))のまま残り,最終的に得られるガラス中ではSn^(4+)とSn^(2+)が共存することになることも,技術常識というべき事項である。
したがって,清澄が十分進んでガラス中からの泡抜けが多くなれば,すなわち,Snの価数変化によって生成した酸素がガラス外へ放出された量が多くなれば,最終的に得られたガラス中におけるSn全量に対するSn^(2+)の割合が多くなることは,当業者にとって自明の技術的事項といえる。
一方,清澄(脱泡)の速度に関して,刊行物3には,「残存気泡数nと溶融温度との関係は一般に指数関数的である。とくに存在する泡のサイズ範囲が狭い場合にそうである。
・・・気泡の表面への浮上が粘性の低下により加速されるため,清澄速度は温度とともに増加し,清澄時間はそれに応じて短縮する。」(231頁左欄第24行?同頁右欄10行)との記載がある。そして,刊行物3の,「図2.2 溶融時間による泡数(n/ml)の変化(図中の数字は使用けい砂の粒径(mm)を示す)」(231頁)からは,横軸の時間が長くなるにしたがって,泡数の対数値が直線的に減少することが見てとれる。このように,ガラスの溶融温度が高くなるほど,また,清澄時間が長くなるほど,脱泡が進みガラス中の気泡が減少することが周知である。
そうすると,引用発明において,残存気泡が十分少なくなるように溶融温度や清澄時間を調整することは,当業者が普通に行うことであり,その場合,自ずと最終的に得られるガラス中のSn全量に対するSn^(2+)の割合がより多くなることは,当業者が容易に想到し得ることである。そして,本願明細書の記載を参照しても,補正後発明のSn^(2+)/全Snの下限値に格別の臨界的意義はないから,引用発明において,Sn^(2+)/全Snの割合が0.13以上となる条件で溶融すると特定することは,当業者が容易になし得ることである。
また,刊行物1に実験室レベルの実施例しか記載されていないとしても,液晶ディスプレイ用ガラス等の製造に適用することを目的とする引用発明を,工業的生産に普通に用いられる連続溶融炉で溶融するようにし,最終的に得られるガラスの残存気泡が十分少なくなるように,上述のような溶融温度や清澄時間の調整を行うことに,格別の困難性はない。

(iii)独立特許要件についてのむすび
以上のとおりであるから,本件補正後の請求項1に係る発明は,刊行物1に記載された発明及び当該技術分野における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)補正却下についてのむすび
以上のとおりであるから,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成20年11月17日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の特許請求の範囲に記載された発明は,平成20年9月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その請求項5に記載された発明(以下「本願発明」という。)は,2.2-2.(2)(2-2)で検討した補正後発明と比較して,「連続溶融炉で」溶融するという特定事項を削除したものに相当する。

4.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は,平成20年7月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由2であり,該理由2は,請求項1?11に対して引用文献1を引用した特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

5.本願出願前に頒布された刊行物の記載事項
引用文献1は,刊行物1と同じであり,前記2.2-2.(2)(2-2)(i)で摘示したとおりの事項が記載されている。

6.対比・判断
刊行物1には,前記2.2-2.(2)(2-2)(ii)で述べたとおり,引用発明が記載されており,本願発明と引用発明とを対比すると,本願発明は補正後発明に対して,「連続溶融炉で」という特定事項を削除したものであることから,上記相違点Aと同じ点,及び,上記相違点Bの「連続溶融炉で」以外の相違点において相違する。
そうすると,上記相違点A,Bについて検討したとおり,引用発明において,上記相違点に係る本願発明の特定事項をなすことは,当業者が格別の困難なくなし得ることである。
したがって,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び当該技術分野における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

7.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,本願の出願日前に頒布された刊行物1に記載された発明及び当該技術分野における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-12 
結審通知日 2011-08-16 
審決日 2011-09-01 
出願番号 特願2002-241531(P2002-241531)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03C)
P 1 8・ 575- Z (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 直也山田 貴之  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 深草 祐一
中澤 登
発明の名称 酸化物系ガラス及びその製造方法  

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