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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1245274
審判番号 不服2008-31688  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-15 
確定日 2011-10-20 
事件の表示 特願2003-563214「ニア・オン・デマンド環境でマルチメディア・オン・デマンドを提供する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月31日国際公開、WO03/63489、平成17年 6月 2日国内公表、特表2005-516489〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年1月17日を国際出願日(パリ条約による優先権主張:平成14年1月23日)とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成19年 7月17日(起案日)
意見書 :平成20年 1月21日
手続補正 :平成20年 1月21日
拒絶理由通知(最後) :平成20年 2月12日(起案日)
意見書 :平成20年 8月18日
手続補正 :平成20年 8月18日
補正の却下の決定 :平成20年 9月 4日(起案日)
拒絶査定 :平成20年 9月 4日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成20年12月15日
手続補正 :平成21年 1月 9日

平成21年1月9日付け手続補正による補正は、(初期セグメントの持続時間が)「前記時間間隔と同じ長さかそれよりも短い」を(初期セグメントの持続時間が)「少なくとも前記時間間隔と同じ長さである」とするもの(請求項1および段落【0011】)であるが、
該「前記時間間隔と同じ長さかそれよりも短い」は、明細書の記載(段落【0005】等)の内容と明らかに逆のことを表しており、記載を誤ったものと認められ、正しい記載である「前記時間間隔と同じ長さかそれよりも短い」にしたものであるから、
該補正は、誤記の訂正であると認める。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、本願明細書および図面(平成21年1月9日付けの手続補正書により補正された明細書および図面)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載したとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、下記のとおりである。

記(本願発明)
ニア・オン・デマンド環境に於いてマルチメディア・プレゼンテーションをオン・デマンドで提供する方法であって、
少なくとも2つのチャンネルで、ある時間間隔で放送されるマルチメディア・プレゼンテーションについての初期セグメントを前もって記録するステップであって、第1のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始と、第1のチャンネルと異なる第2のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始とに時間差があり、この初期セグメントの持続時間が少なくとも前記時間間隔と同じ長さである、該前もって記録するステップと、
前記マルチメディア・プレゼンテーションの実行を求めるユーザ要求に応答して、
a)前記マルチメディア・プレゼンテーションに対応する前記初期セグメントの再生を開始するステップであって、前記初期セグメントが非スクランブルの状態で受信されてなる、該再生を開始するステップと、
b)放送が既に始まっている前記マルチメディア・ビデオ・プレゼンテーションの記録を開始するステップであって、前記マルチメディア・プレゼンテーションの初期セグメント以外のマルチメディア・プレゼンテーションの残り部分がスクランブルの状態で受信されてなる、該記録を開始するステップと、
c)前記初期セグメントの番組コンテンツと前記記録に含まれる前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の番組コンテンツとが対応するときに、前記初期セグメントの番組コンテンツの再生を前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の前記記録の再生に切り換えるステップと、
を含み、
前記ステップbおよびステップcの少なくともいずれかの実行の間に、前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分のスクランブルが解除される、前記方法。

第3 引用例
1.引用例1の記載
原査定の拒絶理由に引用された国際公開第01/54407号のパンフレット(以下「引用例1」という。特表2003-520529号公報参照。)には、図面とともに以下の記載aないしk(以下、「記載a」・・・「記載k」などという。)がある。なお、翻訳文及び翻訳文の記載箇所は前記公表公報による。

<特許請求の範囲>
a.「1. A Process for displaying video programs on demand at the request of a user in a network system, characterised in that said network system providing NVOD programs (2) , each of said NVOD programs (2) being started with a respective predetermined periodicity, said process comprises the steps of :

- recording in advance a beginning sequence of each NVOD programs from said network system, during a period of time at least equal to the corresponding time period of periodicity,
- selecting a NVOD program from a menu,
- while displaying the beginning sequence of the selected program, recording the following sequence of said selected program from the NVOD network so that said following sequence of said selected program gets stored before the user reaches it,
- displaying said new sequence in continuation or partial overlap of said beginning sequence of the selected program,
- and if needed, recording and then displaying similarly following new sequences of said selected program until disconnection or the end of said selected program. 」(14頁3-25行)

《翻訳》
【請求項1】 ネットワークシステムにおいて、ユーザのリクエストの要求に応じてビデオプログラムを表示する方法であって、前記ネットワークシステムはNVODプログラム(2)を供給し、NVODプログラム(2)のそれぞれは、それぞれ予め決められた周期性で開始され、
周期性の対応する時間と少なくとも等しい期間中に、前記ネットワークシステムからの各NVODプログラムの最初のシーケンスを前もって記録するステップと、
メニューからNVODプログラムを選択するステップと、
選択されたプログラムの最初のシーケンスを表示している間、NVODネットワークから前記選択されたプログラムの次のシーケンスを記録し、その結果、ユーザが到達する前に、前記選択されたプログラムの前記次のシーケンスが保存されるステップと、
前記選択されたプログラムの最初のシーケンスの継続か部分的な重なり中の前記新しいシーケンスを表示するステップと、
前記選択されたプログラムの分離あるいは終了まで、同様に、前記選択されたプログラムの次の新しいシーケンスを記録し、表示するステップ
とを含むことを特徴とする方法。(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

b.「3. The process according to anyone of the preceding claims, characterised in that the NVOD programs are television broadcast programs. 」(15頁1-3行)

《翻訳》
【請求項3】 NVODプログラムはテレビ放送プログラムであることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。(【特許請求の範囲】の【請求項3】)

c.「4.The process according to claim 3, characterised in that it comprises the steps of :
- starting on to a preliminary recording of a NVOD program , in a TV receiver, in synchronisation with the start of the broadcasting of said NVOD program,

- ending said preliminary recording on t2 after the start on t1 of the following broadcast NVOD program, said obtained preliminary recorded program being termed the beginning sequence,
- selecting said NVOD program and starting displaying the Playback on t4 , said starting being delayed with regard to the start on t3 of the currently running NVOD program by a period of time t4-t3 termed Playback Lag,
- starting recording on t5 the currently running NVOD program, said recording being termed Just- In-Time Recorded Video,
- switching from said beginning sequence to said First Just-In-Time Recorded Video, on t9, within a time period comprised between t5+Playback lag and t4+t2-t0,
- displaying said Just-In-Time Recorded Video while continuing the recording of the currently running NVOD program, - ending said recording upon the occurrence of the end of the currently running NVOD program or disconnection by the user, and
- ending said displaying upon the occurrence of said end of Just -In-Time Recorded Video or of said disconnection by the user. 」(15頁4行-16頁6行)

《翻訳》
【請求項4】 テレビ受像器の中で、NVODプログラムの放送の開始と同期化して、NVODプログラムの予備記録をt0で開始するステップと、
次の放送NVODプログラムのt1での開始の後、t2で予備記録を終了し、得られた予備記録のプログラムは最初のシーケンスとなるステップと、
NVODプログラムを選択し、t4で最初のシーケンスを表示し始め、その開始は、t3の開始に関して遅らされるステップと、
現在走っているNVODプログラムをt5で記録し始め、その記録はジャスト・イン・タイム記録ビデオと名付けられるステップと、
t5+再生ラグからt4+t2-t0までの間の期間、t9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップと、
現在走っているNVODプログラムの記録を続けながら、ジャスト・イン・タイム記録ビデオを表示するステップと、
ジャスト・イン・タイム記録ビデオの終了あるいはユーザによる中断の発生によって記録を終了するステップと、
ジャスト・イン・タイム記録ビデオの終了あるいはユーザによる中断の発生によって表示を終了するステップ
とを更に含むことを特徴とする請求項3記載の方法。(【特許請求の範囲】の【請求項4】)

<目的>
d.「It is therefore a main object of the present invention to provide an improved process and system, for supporting real video on demand, or Near Video on Demand with very short periodicity, i.e. no more than a few seconds, without consuming more network band width than the NNOD of the prior art, while using already existing NVOD broadcasts, and insuring compatibility with existing NVOD services.」(1頁25行-2頁3行)

《翻訳》
従って、本発明の主要な目的は、既存のNVOD放送を使用し、既存のNVODサービスとの互換性を保証する一方で、先行技術のNVODより広いネットワーク帯域を消費することのない、リアル・ビデオ・オン・デマンド、あるいは非常に短い、つまり数秒ほどもない周期性を備えたニア・ビデオ・オン・デマンドを支援するための改善された方法およびシステムを提供することである。(段落【0008】)

e.「Still another object of the invention is to provide a system easily adapted to conditional access. For instance, Pay Per View systems, such as systems involving pay per time, pay per sequence (pay for each display of a video sequence) or pay per video event (pay only once for any number of displays) can easily and readily be implemented with the invention.」(2頁10-17行)

《翻訳》
更に、本発明の別の目的は、条件付きのアクセスに容易に適応されたシステムを提供することである。例えば、時間につき支払う、1つのシーケンス(ビデオシーケンスの各ディスプレイの代価を払う)につき支払う、あるいはビデオイベント(ディスプレイの任意の数の代価を一度だけ払う)につき支払うことを含むシステムのような、ペイ・パー・ビュー方式システムは、容易にたやすく発明によって実行することができる。(段落【0010】)

f.「Another object of the invention is to allow music on demand.」(2頁21-22行)

《翻訳》
本発明の別の目的は、要求に応じた音楽を提供することである。(段落【0012】)

<実施の形態>
g.「Figure 1 is a time diagram 1 showing the process according to an embodiment of the invention involving one NVOD program 2 broadcast in multiplex.
Arrows referenced 3, 3' , ... show the successive periodic starts of said video program 2 or sequence in a Near Video On Demand broadcast provided by a radio television, using multiplexed channels 4, 5, 6,
A periodicity of four starts (3, 3', 3'' et 3''') of video sequences per relevant period is provided in the present example. 」(7頁22行-8頁3行)

《翻訳》
図1は、多重送信におけるNVODプログラム2放送を含む本発明の実施の形態に係る方法を示す時間ダイアグラム1である。
3、3’、…で参照される矢印は、多重放送チャンネル4、5、6、7を使用するラジオ放送で提供されるビデオプログラムあるいはニア・ビデオ・オン・デマンド放送のシーケンスの連続する周期的な開始を示す。
適切な期間についてビデオシーケンスの4つの開始(3、3’、3’’、3’’’)の周期性は、現在の例において提供される。(段落【0032】-【0034】)

h.「Figure 1 will now be more specifically explained view of the time, as mentioned hereafter.
t0 Start of a preliminary recording 11 of the beginning of a NVOD program, in synchronous way with the start of said broadcast NVOD.
t1 Start of next broadcast (same NVOD program on a different channel) defining the time period T of periodicity (t1 - t0) .
t2 End of preliminary recording of the beginning of said NVOD program which must follow t1. It gets delayed for obtaining a larger backward window, i.e. T < t2-t0.
t3 Last started broadcast before viewer starts watching the NVOD program during a period 12 of Just-In-Time recording and playing.
t4 Viewer starts for the video. Difference with t3 is referred as initial Playback Lag 13 (t4 - t3) .
t5 Receiver starts recording the last started broadcast, must precede t8.
t6 Start limit for switching Playback to Just- In-Time Recorded Video = (t5 + Playback Lag) .
t7 Entry point in Just-In-Time Recorded Video = (t9 - Playback Lag) .
t8 Time limit for starting to record last started broadcast = (t10 - Playback Lag) .
t9 Switch of Playback to Just- In-Time Recorded Video 15, must precede t10 and follow t6 .
t10 Time limit for switching Playback to Just- In-Time Recorded Video = (t4 + t2 - to) til Playback time of t9 recorded video = (t9 + Playback Lag) = (t9 + size of forward window 16) .
t12 Tail of t15 backward window, recorded in t12, played in t13 and erased in t15.
t13 Display time of t12 recorded video = (t12 + Playback Lag) .
t14 Record time of t15 displayed video = (t15 - Playback Lag) .
t15 Head of t15 Just-In-Time Recorded Video.
Displays t14 recorded video.
t16 Playback time of t15 recorded video = (t15 + Playback Lag) = (t15 + size of forward window) .
t17 End of Just -In-Time Recorded sequence (on broadcast) .
t18 End of video sequence playback.」(9頁1行-10頁19行)

《翻訳》
今後言及されるように、図1は、ここで時間を考慮してより明確に説明されるだろう。
t0 NVOD放送の開始と同期する方法で、NVODプログラムの最初の予備記録の開始。
t1 期間(t1-t0)の期間Tで定義される次の放送(異なったチャンネルでの同じNVODプログラム)の開始。
t2 t1に続くNVODプログラムの最初の予備記録の終了。より大きな後方へのウィンドウを得るために遅れる。つまり、T≦t2-t0である。
t3 ジャスト・イン・タイム記録や再生の期間12の間、視聴者がNVODプログラムを見始める前に、最後に開始された放送。
t4 視聴者はビデオを開始する。t3との違いは、初期の再生ラグ13(t4-t3)として参照される。
t5 レシーバーは最後の始められた放送を記録し始め、t8に先行しなければならない。
t6 ジャスト・イン・タイム記録ビデオに再生を切り替えるための開始限界。=(t5+再生遅れ)
t7 ジャスト・イン・タイム記録ビデオにおいての入口点。=(t9-再生遅れ)
t8 最後の始められた放送を記録し始めるための限界時間。=(t10-再生遅れ)
t9 ジャスト・イン・タイム記録ビデオ15への再生の切り替え。t10に先行し、t6に続かなければならない。
t10 ジャスト・イン・タイム記録ビデオへの再生の切り換えの限界時間。=(t4+t2-t0)
t11 t9記録ビデオの再生時間。=(t9+再生ラグ)=(t9+前面ウィンドウの大きさ16)
t12 t15背面ウィンドウの終了。t12で記録され、t13で再生され、t15で消去される。
t13 t12記録ビデオの表示時間。=(t12+再生ラグ)
t14 t15表示ビデオの記録時間。=(t15-再生ラグ)
t15 t15ジャスト・イン・タイム記録ビデオの先頭。t14記録ビデオを表示。

t16 t15記録ビデオの再生時間。=(t15+再生ラグ)=(t15+前面ウィンドウの大きさ)
t17 (放送上の)ジャスト・イン・タイム記録シーケンスの終了。
t18 ビデオシーケンス再生の終了。(段落【0041】)

i.「After initiation of the system in 40 the viewer selects the NVOD (step 42) .
If a NVOD is selected (line 43) , a step 44 of scheduling the start of Just -In-Time Recording is provided.」(11頁16-20行)

《翻訳》
40におけるシステムの初期化の後、視聴者NVOD(ステップ42)を選択する。
NVODが選択されている場合(ライン43)、ジャスト・イン・タイム録音の開始を予定するステップ44が提供される。(段落【0052】-【0053】)

j.「Figure 5 shows a system 70 including a receiver 72 integrating conditional access and an hard disk 74 whose registers are organised and programmed as mentioned in the invention.
A broadcaster 76 using, for instance, satellites 78 provides to the receiver 72 a signal 80 including NVOD programs .
The receiver 72 then provides the program 82 to a TV apparatus (not represented) .
A user can act on the receiver 72 and select via IR Command 83 a program through a remote controller 84 in a manner known per se .
The signals 86 which comes from at least one Tuner/Demodulator 88 are provided to a switch matrix 90 emitting said signals 86 either directly to a selecting circuit 94, through a full transport stream, or via demultiplexers 92 to the hard disk 74, for storage and Just-In-Time Record delayed release to the selecting circuit as according to the invention.
The selecting circuit 94 is connected to a descrambler 98, itself connected to a demultiplexer 100.
Said demultiplexer 100 provides signal to the video decoder 102 and to the audio decoder 104 which then delivers audio and video output 82 to the TV screen and apparatus . 」(12頁18行-13頁15行)

《翻訳》
図5は、条件付きのアクセスをまとめるレシーバー72および本発明で言及されるようにそのレジスタが組織されプログラムされるハードディスク74を含むシステム70を示す。
例えば、衛星78を使用する放送装置76は、レシーバー72にNVODプログラムを含む信号80を供給する。
その後、レシーバー72は、テレビ装置(図示せず)へプログラム82を供給する。
ユーザはレシーバー72に従うことができ、それ自身名高いやり方でリモート・コントローラー84でIRコマンド83によってプログラムを選択することができる。
本発明による選択回路へのリリースを遅らされた記憶装置やジャスト・イン・タイム記録のために、少なくとも1つのチューナー/復調器88から来る信号86は、十分な伝送ストリームを通ってあるいはハードディスク74へのデマルチプレクサ92によって、信号86を選択回路94に直接送るスイッチ・マトリックス90に供給される。
選択回路94は、デスクランブラー98に接続され、それ自身はデマルチプレクサ100に接続される。
デマルチプレクサ100が、ビデオデコーダ102およびテレビスクリーンや装置にオーディオやビデオ出力82を伝えるオーディオ・デコーダ104へ信号を供給する。(段落【0062】-【0068】)

k.「Furthermore, it also includes application to music plays and/or it concerns cables networks, and/or the decoder is programmed in a manner which is readily implementable by the man skilled in the art for conditional access and/or for implementing interactivity programs with the NVOD programs, for instance arranged to play with a delay. 」(13頁22-28行)

《翻訳》
更に、それは、条件付きアクセスのために、そして/あるいは、例えば遅れて演奏するように調整される、NVODプログラムと相互作用プログラムを実行するために、音楽再生のアプリケーションを含み、そして/あるいは、ケーブル・ネットワークに関し、そして/あるいは、デコーダは当業者によって容易に実行される方法でプログラムされる。(段落【0071】)

2.引用例2の記載
原査定の拒絶理由に引用された国際公開第99/33209号のパンフレット(以下「引用例2」という。特表2001-527322号公報参照。)には、図面とともに以下の記載lおよびm(以下、「記載l」および「記載m」という。)がある。なお、翻訳文及び翻訳文の記載箇所は前記公表公報による。

l.「The described invention relates to the field of data storage and transmission. In particular, the invention relates to a method of providing a data segment with minimal access latency. A data segment is defined herein as a sequential data stream of finite length. The data segment inclues, but is not limited to, any combination of audio and/or video data. 」(1頁9-13行)

《翻訳》
本発明は、データの格納および送信の分野に関するものである。特に、本発明は、アクセス待ち時間の長さを最小に抑えてデータ・セグメントを供給する方法に関するものである。データ・セグメントは、ここでは、有限の長さのシーケンシャル・データ・ストリームと定義される。データ・セグメントには、オーディオ・データやビデオ・データの任意の組み合わせが入るが、これらに限られるわけではない。(段落【0002】)

m.「Encryption can also be employed with the present invention. For example, all channels may be encrypted except for channel 1. Thus, non- subscribers to the broadcast service would be able to watch the first portion of a movie, for example, since it is not encrypted. However, the non- subscribers would not be able to view the encrypted portions. This provides a valuable"free preview"capability.」(11頁4-9行)

《翻訳》
本発明では、暗号も採用できる。たとえば、チャンネル1以外のすべてのチャンネルを暗号化することができる。そこで、たとえば映画の最初の部分は暗号化されていないため、放送サービスの非加入者でも、その最初の部分だけは見ることができる。しかし、暗号化されている部分については加入者でないと見ることができない。これはとても有益な「無料プレビュー」機能であるといえる。(段落【0045】)

3.引用発明
(1)引用例1に記載された発明の概要(請求項4に係る発明)
記載a,b,cによれば、請求項3を通して請求項1に従属する請求項4に係る発明が記載されている。請求項4において限定された各ステップと、請求項1における各ステップとの関係は、該請求項の記載からだけでは明確に把握できないが、引用例1全体(特に図1を説明する記載h)をとおして見れば、請求項4における各ステップは、請求項1における各ステップと以下の関係があるといえる。

ア.「テレビ受像器の中で、NVODプログラムの放送の開始と同期化して、NVODプログラムの予備記録をt0で開始するステップ」および「次の放送NVODプログラムのt1での開始の後、t2で予備記録を終了し、得られた予備記録のプログラムは最初のシーケンスとなるステップ」
請求項1における「周期性の対応する時間と少なくとも等しい期間中に、前記ネットワークシステムからの各NVODプログラムの最初のシーケンスを前もって記録するステップ」の「記録」について限定したものである。

イ.「NVODプログラムを選択し、t4で最初のシーケンスを表示し始め、その開始は、t3の開始に関して遅らされるステップ」
請求項1における「メニューからNVODプログラムを選択するステップ」において該「選択」した後を限定するものである。

ウ.「現在走っているNVODプログラムをt5で記録し始め、その記録はジャスト・イン・タイム記録ビデオと名付けられるステップ」
請求項1における「選択されたプログラムの最初のシーケンスを表示している間、NVODネットワークから前記選択されたプログラムの次のシーケンスを記録し、その結果、ユーザが到達する前に、前記選択されたプログラムの前記次のシーケンスが保存されるステップ」における「記録」を行うステップである。

エ.「t5+再生ラグからt4+t2-t0までの間の期間、t9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップ」および「現在走っているNVODプログラムの記録を続けながら、ジャスト・イン・タイム記録ビデオを表示するステップ」
請求項1における「前記選択されたプログラムの最初のシーケンスの継続か部分的な重なり中の前記新しいシーケンスを表示するステップ」の表示について限定したものである。

オ.「ジャスト・イン・タイム記録ビデオの終了あるいはユーザによる中断の発生によって記録を終了するステップ」および「ジャスト・イン・タイム記録ビデオの終了あるいはユーザによる中断の発生によって表示を終了するステップ」
請求項1における「前記選択されたプログラムの分離あるいは終了まで、同様に、前記選択されたプログラムの次の新しいシーケンスを記録し、表示するステップ」を限定したものである。

カ.まとめ
よって、本願発明と対比する引用発明の概要(引用例1における、請求項3を通して請求項1に従属する請求項4に係る発明)として下記のものを認める。なお、請求項3,4によって限定された事項については、カギ括弧および墨付き括弧(「・・・」【請求項X】)で示した。

記(引用発明の概要)
ネットワークシステムにおいて、ユーザのリクエストの要求に応じてビデオプログラムを表示する方法であって、前記ネットワークシステムはNVODプログラム(2)を供給し、NVODプログラム(2)のそれぞれは、それぞれ予め決められた周期性で開始され、
「NVODプログラムはテレビ放送プログラムであり、」【請求項3】
「テレビ受像器の中で、NVODプログラムの放送の開始と同期化して、NVODプログラムの予備記録をt0で開始するステップおよび次の放送NVODプログラムのt1での開始の後、t2で予備記録を終了し、得られた予備記録のプログラムは最初のシーケンスとなるステップを含む」【請求項4】、周期性の対応する時間と少なくとも等しい期間中に、前記ネットワークシステムからの各NVODプログラムの最初のシーケンスを前もって記録するステップと、
メニューからNVODプログラムを選択するステップと、
「NVODプログラムを選択した後、t4で最初のシーケンスを表示し始め、その開始は、t3の開始に関して遅らされるステップ、」【請求項4】
「現在走っているNVODプログラムをt5で記録し始め、その記録はジャスト・イン・タイム記録ビデオと名付けられるステップを含む」【請求項4】、選択されたプログラムの最初のシーケンスを表示している間、NVODネットワークから前記選択されたプログラムの次のシーケンスを記録し、その結果、ユーザが到達する前に、前記選択されたプログラムの前記次のシーケンスが保存されるステップと、
「t5+再生ラグからt4+t2-t0までの間の期間、t9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップおよび現在走っているNVODプログラムの記録を続けながら、ジャスト・イン・タイム記録ビデオを表示するステップを含む」【請求項4】、 前記選択されたプログラムの最初のシーケンスの継続か部分的な重なり中の前記新しいシーケンスを表示するステップと、
「ジャスト・イン・タイム記録ビデオの終了あるいはユーザによる中断の発生によって記録を終了するステップおよびジャスト・イン・タイム記録ビデオの終了あるいはユーザによる中断の発生によって表示を終了するステップを含む」【請求項4】、前記選択されたプログラムの分離あるいは終了まで、同様に、前記選択されたプログラムの次の新しいシーケンスを記録し、表示するステップ
とを含むことを特徴とする方法。

(2)詳細
ア.「ネットワークシステムにおいて、ユーザのリクエストの要求に応じてビデオプログラムを表示する方法」
記載dによれば、「既存のNVOD放送を使用し、既存のNVODサービスとの互換性を保証する一方で、先行技術のNVODより広いネットワーク帯域を消費することのない、リアル・ビデオ・オン・デマンド、あるいは非常に短い、つまり数秒ほどもない周期性を備えたニア・ビデオ・オン・デマンドを支援するための改善された方法およびシステムを提供する」ものである。
よって、「ネットワークシステム」は「既存のNVOD放送を使用」しており、また、該「方法」は、「リアル・ビデオ・オン・デマンド」「を支援するための改善された方法」である。
したがって、「ネットワークシステムにおいて、ユーザのリクエストの要求に応じてビデオプログラムを表示する方法」は、「既存のNVOD放送を使用するネットワークシステムにおいて、ユーザのリクエストの要求に応じてビデオプログラムを表示する、リアル・ビデオ・オン・デマンドを支援するための改善された方法」である。

イ.「ネットワークシステムはNVODプログラム(2)を供給」
記載gによれば、「NVODプログラム(2)」は、「多重放送チャンネル4,5,6,7を使用し」て放送されるものである。
よって、「ネットワークシステムはNVODプログラム(2)を供給」は、「ネットワークシステムは、多重放送チャンネル4,5,6,7を使用して放送されるNVODプログラム(2)を供給」である。

ウ.「NVODプログラムはテレビ放送プログラムであり」
記載f、記載kによれば、「音楽」にも適用される。つまり、テレビ放送プログラムだけでなく音楽放送プログラムにも適用される。

エ.「メニューからNVODプログラムを選択するステップ」
記載iによれば、「NVODプログラムを選択する」ことは「視聴者」が行っており、また、「NVODが選択されている場合」に、次のステップが提供される。
よって、「メニューからNVODプログラムを選択するステップ」は、「メニューから視聴者がNVODプログラムを選択し、NVODが選択がされている場合に、次のステップが提供されるステップ」といえる。

オ.条件付きアクセス
記載eおよび記載jによれば、「別の目的」として、「ペイ・パー・ビュー方式システム」等の「条件付きアクセスに適用する」としており、図5の「システム70」において「デスクランブラー98」を用いることが記載されている。このように構成されたシステムにおいては、受信する(NVOD)プログラムは、「スクランブル」された状態で受信され、「デスクランブラー」でスクランブルを解除されることは、普通に理解されることである。
よって、「NVODプログラム」は、「ペイ・パー・ビュー方式システム等の条件付きアクセスに適用するために、スクランブルされた状態で受信され、デスクランブラーでスクランブルを解除され」る。

カ.「t5+再生ラグからt4+t2-t0までの間の期間、t9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップ」
FIG.1の時間ダイアグラム(記載g)およびその時間の説明(記載h)によれば、「t5+再生ラグからt4+t2-t0までの間の期間」とは、再生している「最初のシーケンス」に対応する「ジャスト・イン・タイム記録ビデオ」が存在している期間であると認められるから、「t5+再生ラグからt4+t2-t0までの間の期間、t9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップ」は、「再生している最初のシーケンスに対応するジャスト・イン・タイム記録ビデオが存在している期間のt9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップ」といえる。

(3)まとめ(引用発明)
したがって、本願発明と対比する引用発明として、下記のものが認められる。

記(引用発明)
既存のNVOD放送を使用するネットワークシステムにおいて、ユーザのリクエストの要求に応じてビデオプログラムを表示する、リアル・ビデオ・オン・デマンドを支援するための改善された方法であって、ネットワークシステムは、多重放送チャンネル4,5,6,7を使用して放送されるNVODプログラム(2)を供給し、NVODプログラム(2)のそれぞれは、それぞれ予め決められた周期性で開始され、
NVODプログラムはテレビ放送プログラムであり、音楽放送プログラムにも適用され、
NVODプログラムは、ペイ・パー・ビュー方式システム等の条件付きアクセスに適用するために、スクランブルされた状態で受信され、デスクランブラーでスクランブルを解除され、
テレビ受像器の中で、NVODプログラムの放送の開始と同期化して、NVODプログラムの予備記録をt0で開始するステップおよび次の放送NVODプログラムのt1での開始の後、t2で予備記録を終了し、得られた予備記録のプログラムは最初のシーケンスとなるステップを含む、周期性の対応する時間と少なくとも等しい期間中に、前記ネットワークシステムからの各NVODプログラムの最初のシーケンスを前もって記録するステップと、
メニューから視聴者がNVODプログラムを選択し、NVODが選択がされている場合に、次のステップが提供されるステップと、
NVODプログラムを選択した後、t4で最初のシーケンスを表示し始め、その開始は、t3の開始に関して遅らされるステップと、
現在走っているNVODプログラムをt5で記録し始め、その記録はジャスト・イン・タイム記録ビデオと名付けられるステップを含む、選択されたプログラムの最初のシーケンスを表示している間、NVODネットワークから前記選択されたプログラムの次のシーケンスを記録し、その結果、ユーザが到達する前に、前記選択されたプログラムの前記次のシーケンスが保存されるステップと、
再生している最初のシーケンスに対応するジャスト・イン・タイム記録ビデオが存在している期間のt9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップおよび現在走っているNVODプログラムの記録を続けながら、ジャスト・イン・タイム記録ビデオを表示するステップを含む、 前記選択されたプログラムの最初のシーケンスの継続か部分的な重なり中の前記新しいシーケンスを表示するステップと、
ジャスト・イン・タイム記録ビデオの終了あるいはユーザによる中断の発生によって記録を終了するステップおよびジャスト・イン・タイム記録ビデオの終了あるいはユーザによる中断の発生によって表示を終了するステップを含む、前記選択されたプログラムの分離あるいは終了まで、同様に、前記選択されたプログラムの次の新しいシーケンスを記録し、表示するステップ
とを含むことを特徴とする方法。

第4 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると次のことが認められる。

1.「ニア・オン・デマンド環境に於いてマルチメディア・プレゼンテーションをオン・デマンドで提供する方法であって、」について
引用発明における「既存のNVOD放送を使用するネットワークシステムにおいて」は、「ニア・オン・デマンド環境に於いて」といえる。
また、引用発明における「ユーザのリクエストの要求に応じてビデオプログラムを表示する」について、「ビデオプログラムを表示」は、「ビデオ・プレゼンテーション」ともいえるものであり、「ユーザのリクエストの要求に応じて」「表示する」ことは、「オン・デマンドで提供する」といえるから、引用発明における「ユーザのリクエストの要求に応じてビデオプログラムを表示する」は、「ビデオ・プレゼンテーションをオン・デマンドで提供する」といえる。
さらに、引用発明は、「NVODプログラムはテレビ放送プログラムであり、音楽放送プログラムにも適用され」るものであるから、「ビデオ・プレゼンテーション」は「マルチメディア・プレゼンテーション」と称してもさしつかえない。
よって、引用発明における「既存のNVOD放送を使用するネットワークシステムにおいて、ユーザのリクエストの要求に応じてビデオプログラムを表示する、リアル・ビデオ・オン・デマンドを支援するための改善された方法であって」、「NVODプログラムはテレビ放送プログラムであり、音楽放送プログラムにも適用され」は、「ニア・オン・デマンド環境に於いてマルチメディア・プレゼンテーションをオン・デマンドで提供する方法であって、」といえる。

2.「少なくとも2つのチャンネルで、ある時間間隔で放送されるマルチメディア・プレゼンテーションについての初期セグメントを前もって記録するステップであって、第1のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始と、第1のチャンネルと異なる第2のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始とに時間差があり、この初期セグメントの持続時間が少なくとも前記時間間隔と同じ長さである、該前もって記録するステップ」について
引用発明において「NVODプログラム」は、「多重放送チャンネル4,5,6,7を使用して放送され」、「NVODプログラム(2)のそれぞれはそれぞれ予め決められた周期性で開始され」るから、「少なくとも2つのチャンネルで、ある時間間隔で放送されるマルチメディア・プレゼンテーション」といえ、また、「第1のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始と、第1のチャンネルと異なる第2のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始とに時間差があ」るといえる。
そして、引用発明の「前記ネットワークシステムからの各NVODプログラムの最初のシーケンスを前もって記録」の「最初のシーケンス」は、「マルチメディア・プレゼンテーションについての初期セグメント」といえるから、引用発明の「前記ネットワークシステムからの各NVODプログラムの最初のシーケンスを前もって記録」は、「少なくとも2つのチャンネルで、ある時間間隔で放送されるマルチメディア・プレゼンテーションについての初期セグメントを前もって記録するステップ」といえる。
また、引用発明は「周期性の対応する時間と少なくとも等しい期間中に、このネットワークシステムからの各NVODプログラムの最初のシーケンスを前もって記録」しているから、「初期セグメントの持続時間が少なくとも前記時間間隔と同じ長さである」といえる。
よって、引用発明の「テレビ受像器の中で、NVODプログラムの放送の開始と同期化して、NVODプログラムの予備記録をt0で開始するステップおよび次の放送NVODプログラムのt1での開始の後、t2で予備記録を終了し、得られた予備記録のプログラムは最初のシーケンスとなるステップを含む、周期性の対応する時間と少なくとも等しい期間中に、前記ネットワークシステムからの各NVODプログラムの最初のシーケンスを前もって記録するステップ」は、「少なくとも2つのチャンネルで、ある時間間隔で放送されるマルチメディア・プレゼンテーションについての初期セグメントを前もって記録するステップであって、第1のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始と、第1のチャンネルと異なる第2のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始とに時間差があり、この初期セグメントの持続時間が少なくとも前記時間間隔と同じ長さである、該前もって記録するステップ」といえる。

3.「前記マルチメディア・プレゼンテーションの実行を求めるユーザ要求に応答して」について
引用発明の「メニューから視聴者がNVODプログラムを選択し、NVODが選択がされている場合に、次のステップが提供されるステップ」における、「視聴者がNVODプログラムを選択」は、「マルチメディア・プレゼンテーションの実行を求めるユーザ要求」といえ、該「選択がされている場合に、次のステップが提供され」ることは、該「ユーザ要求に応答して」といえる。
よって、引用発明の「メニューから視聴者がNVODプログラムを選択し、NVODが選択がされている場合に、次のステップが提供されるステップ」は、「前記マルチメディア・プレゼンテーションの実行を求めるユーザ要求に応答して」といえる。

4.「a)前記マルチメディア・プレゼンテーションに対応する前記初期セグメントの再生を開始するステップであって、前記初期セグメントが非スクランブルの状態で受信されてなる、該再生を開始するステップ」について
引用発明における「最初のシーケンスを表示し始め」の「最初のシーケンス」は「NVODプログラムの最初のシーケンス」のことであるから、「NVODプログラム」に対応する「最初のシーケンス」といえ、
上述1と同様に「NVODプログラム」は「マルチメディア・プレゼンテーション」といえ、上述2と同様に「最初のシーケンス」は「初期セグメント」といえるから、引用発明における「最初のシーケンスを表示し始め」は、「マルチメディア・プレゼンテーションに対応する初期セグメントを再生を開始する」といえる。
もっとも、引用発明において「NVODプログラムは、スクランブルされた状態で受信され、デスクランブラーでスクランブルを解除され」るから、
引用発明は、「前記初期セグメント」(最初のシーケンス)も「NVODプログラム」の一部であることから、「スクランブルされた状態で受信」されることになるから、
本願発明は、「前記初期セグメントが非スクランブルの状態で受信されてなる、」とするのに対し、
引用発明では、「前記初期セグメント」を含む
「NVODプログラム」全体がスクランブルされた状態で受信されてなる点で相違する。

5.「b)放送が既に始まっている前記マルチメディア・ビデオ・プレゼンテーションの記録を開始するステップであって、前記マルチメディア・プレゼンテーションの初期セグメント以外のマルチメディア・プレゼンテーションの残り部分がスクランブルの状態で受信されてなる、該記録を開始するステップ」について
引用発明における「現在走っているNVODプログラムをt5で記録し始め」の「現在走っているNVODプログラム」は「放送が既に始まっているマルチメディア・ビデオ・プレゼンテーション」といえ、「記録し始め」は「記録を開始する」ということができる。
また、引用発明において「NVODプログラムは、スクランブルされた状態で受信され、デスクランブラーでスクランブルを解除され」るから、「マルチメディア・プレゼンテーションの初期セグメント以外のマルチメディア・プレゼンテーションの残り部分がスクランブルの状態で受信されてなる」といえる。
よって、引用発明の「現在走っているNVODプログラムをt5で記録し始め」は、「放送が既に始まっている前記マルチメディア・ビデオ・プレゼンテーションの記録を開始するステップであって、前記マルチメディア・プレゼンテーションの初期セグメント以外のマルチメディア・プレゼンテーションの残り部分がスクランブルの状態で受信されてなる、該記録を開始するステップ」といえる。
もっとも、当該構成要件において、「初期セグメント」が如何なる状態で受信されるかは明確に規定されていない(初期セグメントの一部分も該ステップにおいて記録されないわけではないことは図3およびその説明から明らか)が、上述4.の検討を踏まえれば、「初期セグメント」の部分については非スクランブルの状態で受信すると解せるため、上記4.と同様の相違を一応認めることができる。

6.「c)前記初期セグメントの番組コンテンツと前記記録に含まれる前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の番組コンテンツとが対応するときに、前記初期セグメントの番組コンテンツの再生を前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の前記記録の再生に切り換えるステップ」について
引用発明の「再生している最初のシーケンスに対応するジャスト・イン・タイム記録ビデオが存在している期間」は、「初期セグメントの番組コンテンツと記録に含まれるマルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の番組コンテンツとが対応するとき」といえ、引用発明における「再生している最初のシーケンスに対応するジャスト・イン・タイム記録ビデオが存在している期間のt9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップ」の「切り替え」が、記録された「ジャスト・イン・タイム記録ビデオ」の「再生」に「切り替え」ることであることは明らかであるから、引用発明における「再生している最初のシーケンスに対応するジャスト・イン・タイム記録ビデオが存在している期間のt9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップ」は、「初期セグメントの番組コンテンツの再生をマルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の前記記録の再生に切り換えるステップ」といえる。
よって、引用発明における「再生している最初のシーケンスに対応するジャスト・イン・タイム記録ビデオが存在している期間のt9で、最初のシーケンスからジャスト・イン・タイム記録ビデオへ切り替えるステップ」は、「前記初期セグメントの番組コンテンツと前記記録に含まれる前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の番組コンテンツとが対応するときに、前記初期セグメントの番組コンテンツの再生を前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の前記記録の再生に切り換えるステップ」といえる。

7.「前記ステップbおよびステップcの少なくともいずれかの実行の間に、前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分のスクランブルが解除される」について
「前記ステップbおよびステップcの少なくともいずれかの実行の間」の「いずれかの実行の間」について、該「実行の間」とは、実行する時間に幅があることを前提としている。
一方、「ステップb」、「ステップc」は、「記録を開始」、「再生に切り換え」という瞬間的動作を行うステップと普通解されるものであるが、該瞬間的動作を契機として「記録」、「再生」という継続動作をも行うステップとも解すことも一応可能である。
本願明細書および図面においては、「マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分のスクランブル」の「解除」を、いつ行うか明記されておらず、少なくとも、上記「ステップb」、「ステップc」の瞬間的動作のタイミングで行うことは記載されていないし、自明でもない。しかし、「記録を開始」(上記「ステップb」での記録を開始に対応)する前または「再生」が終わった(上記「ステップc」でも再生の継続動作が終了することに対応)後に「解除」を実行しない、つまり、上記「ステップb」で記録を開始してから上記「ステップc」の再生が終了するまでに該「解除」を行わなければならないことは明らかである。
そうすると、上記「前記ステップbおよびステップcの少なくともいずれかの実行の間に、前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分のスクランブルが解除される」ことは、
スクランブルされたマルチメディア・プレゼンテーションの記録再生表示において、スクランブルの解除を記録時または再生時に行うことが普通に行われていることからすると、
「ステップb」で記録を開始して、記録の実行の間、
「ステップc」で再生に切り換え、再生の実行の間
のいずれかの実行の間に、前記マルチメディア・プレゼンテーションの残りの部分のスクランブルが解除されると解するのが妥当である。
そして、上述のようにスクランブルされたマルチメディア・プレゼンテーションの記録再生表示において、スクランブルの解除を記録時または再生時に行うことが普通に行われていることであり、引用発明における「前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分のスクランブルの解除」は、「前記ステップbおよびステップcの少なくともいずれかの実行の間に、前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分のスクランブルが解除される」といえる。

8.まとめ
以上の対比結果によれば、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりであることが認められる。

【一致点】
ニア・オン・デマンド環境に於いてマルチメディア・プレゼンテーションをオン・デマンドで提供する方法であって、
少なくとも2つのチャンネルで、ある時間間隔で放送されるマルチメディア・プレゼンテーションについての初期セグメントを前もって記録するステップであって、第1のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始と、第1のチャンネルと異なる第2のチャンネルにおける前記マルチメディア・プレゼンテーションの放送の開始とに時間差があり、この初期セグメントの持続時間が少なくとも前記時間間隔と同じ長さである、該前もって記録するステップと、
前記マルチメディア・プレゼンテーションの実行を求めるユーザ要求に応答して、
a)前記マルチメディア・プレゼンテーションに対応する前記初期セグメントの再生を開始するステップと、
b)放送が既に始まっている前記マルチメディア・ビデオ・プレゼンテーションの記録を開始するステップであって、前記マルチメディア・プレゼンテーションの初期セグメント以外のマルチメディア・プレゼンテーションの残り部分がスクランブルの状態で受信されてなる、該記録を開始するステップと、
c)前記初期セグメントの番組コンテンツと前記記録に含まれる前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の番組コンテンツとが対応するときに、前記初期セグメントの番組コンテンツの再生を前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分の前記記録の再生に切り換えるステップと、
を含み、
前記ステップbおよびステップcの少なくともいずれかの実行の間に、前記マルチメディア・プレゼンテーションの残り部分のスクランブルが解除される、前記方法。

【相違点】
本願発明は、「前記初期セグメントが非スクランブルの状態で受信されてなる、」とするのに対し、
引用発明では、「前記初期セグメント」を含む
「NVODプログラム」全体がスクランブルされた状態で受信されてなる点

第5 判断
そこで、以下、上記相違点について検討する。

1.引用例2記載技術
上記記載lおよび記載mによれば、引用例2には、アクセス待ち時間を最小に抑えてビデオ・データ等のデータ・セグメントを供給することができる方法において、暗号を採用する場合に、最初の部分は暗号化されていない状態とし、放送サービスの非加入者であっても最初の部分だけは見ることができるようにする無料プレビューの技術が記載されている。

2.引用発明に引用例2記載技術を適用することの動機付け・容易想到性
引用発明における条件付きアクセスとして想定されているペイ・パー・ビュー方式システムにおいて、無料プレビューはよく知られており、引用発明に、無料プレビューのための上記引用例2記載技術を適用することの動機付けはあるというべきである。

3.相違点の克服の容易想到性
上述2.のように引用発明に上記引用例2記載技術を適用することは容易に想到しうることであり、引用発明に上記引用例2記載技術を適用すれば、
引用例2記載技術における「最初の部分」を、引用発明において受信される「最初のシーケンス」とすることは普通に想起されることであり、
該「最初のシーケンス」を、暗号化されていない状態、つまり、非スクランブルの状態で受信する構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
よって、引用発明に上記引用例2記載技術を適用して、
「初期セグメント」(引用発明でいう「最初のシーケンス」)の受信の構成を、
「初期セグメントが非スクランブルの状態で受信されてなる」構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
また、暗号化されていないデータは、解除の処理が不要となり、その処理時間も不要であることは、当業者にとって自明である。

以上のように、上記相違点は、当業者が容易に想到し得たものと認められ、本願発明全体としてみても格別のものはなく、その作用効果も、上記構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び上記引用例2記載技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び上記引用例2記載技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をするべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-23 
結審通知日 2011-05-25 
審決日 2011-06-08 
出願番号 特願2003-563214(P2003-563214)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川崎 優  
特許庁審判長 藤内 光武
特許庁審判官 乾 雅浩
梅本 達雄
発明の名称 ニア・オン・デマンド環境でマルチメディア・オン・デマンドを提供する方法  
代理人 石井 たかし  
代理人 木越 力  

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