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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1245289
審判番号 不服2010-227  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-06 
確定日 2011-10-20 
事件の表示 特願2005-300346「電子機器用冷却装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 9日出願公開、特開2006-310739〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成17年10月14日(優先権主張 平成17年3月29日)の出願であって、平成21年10月1日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年1月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、その後、当審において平成23年5月25日(起案日)付けで拒絶理由が通知され、平成23年7月29日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成23年7月29日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
受熱プレートの一方の面に発熱素子が熱的に接続され、
前記受熱プレートの他方の面には、前記発熱素子の熱を放熱フィンに移動する少なくとも1本のヒートパイプが熱的に接続されるとともに、前記発熱素子に対応する位置に少なくとも1つの金属ブロックが熱的に接続され、
前記受熱プレートは、板金加工によって形成された板であり、
前記ヒートパイプの断面は、丸状または偏平状であり、
前記金属ブロックの断面は、長方形または台形または三角形であり、
前記ヒートパイプは、前記板状の受熱プレートの表面に搭載されるとともに、前記ヒートパイプの吸熱部が前記金属ブロックと機械的に固定されることなく前記金属ブロックの側面とのみ熱的に接続されることを特徴とする電子機器用冷却装置。」

3.引用刊行物とその記載事項

これに対して、当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物及びその記載事項は次のとおりである。

刊行物1 特開2000-216313号公報
刊行物2 特開2001-44347号公報

(1)刊行物1(特開2000-216313号公報)

上記刊行物1には、「発熱体の冷却装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、サイリスタなどの半導体素子等の発熱体を効率よく冷却するための熱交換器に使われる高性能薄型放熱フィンとヒートパイプを用いた小型・軽量で大容量の発熱体の冷却装置に関するものである。」

(イ)「【0023】実施の形態6.この発明に係る実施の形態6を図7に基づいて説明する。図7において、12は一表面に断面がU字形状の溝体12aが複数形成された銅やアルミニウムなどから成る金属ブロックであり、溝体12aの深さは上述した実施の形態5における溝体10aの深さよりも浅く構成されており、ヒートパイプ1は金属ブロック12に形成された溝体12aにそれぞれ装着され、受熱部1aが金属ブロック12に位置し、放熱部1bが金属ブロック12の上方に延在する。また、放熱フィン2はヒートパイプ1の放熱部1bに積層されて挿着されている。13は一表面が金属ブロック12に形成された溝体12aの開放部を覆い、金属ブロック12に形成された溝体12aに装着されたヒートパイプ1の受熱部1aと接するよう金属ブロック12に接合され、他表面に発熱体5が装着されたベース板であり、材質は銅やアルミニウムなどから成っている。そして、金属ブロック12に複数形成された溝体12aにそれぞれ装着されたヒートパイプ1のベース板13と接する受熱部1a部分に扁平部1cを設けている。
【0024】この実施の形態6においては、ベース板13を金属ブロック12に形成された溝体12aの開放部を覆い、金属ブロック12に形成された溝体12aに装着されたヒートパイプ1の受熱部1aと接するように接合したことにより、発熱体5から発生する熱は図7に示すように、ベース板13を介して直接伝えられる矢印Cで示す熱と、ベース板13から金属ブロック12を介して伝えられる矢印Dで示す熱とによって効率よくヒートパイプ1に伝熱されるので、上述した実施の形態5と比し発熱体5の冷却特性をより一層高いものとすることができる。また、この実施の形態6においては、ヒートパイプ1の受熱部1aに扁平部1cを設けており、それらヒートパイプ1の受熱部1aの扁平部1cとベース板13との接触面が上述した実施の形態5と比べてさらに拡大され、金属ブロック12からベース板13を介して伝えられる矢印Dで示す熱量が増大してさらに効率的にヒートパイプ1に伝熱されるので、発熱体5の冷却特性をさらにより一層向上させることができる。」

(ウ)上記記載事項(イ)段落【0023】の「13は一表面が金属ブロック12に形成された溝体12aの開放部を覆い、金属ブロック12に形成された溝体12aに装着されたヒートパイプ1の受熱部1aと接するよう金属ブロック12に接合され、他表面に発熱体5が装着されたベース板であり」の記載及び図7から、ベース板13の一方の面に発熱体5が装着され、ベース板13の他方の面には、発熱体5の熱を放熱フィン2に移動する複数のヒートパイプ1が装着されているということができる。

(エ)図7から、ヒートパイプ1は、その断面が丸状といえるものであり、金属ブロック12は一表面に断面がU字形状の溝体12aが複数形成された断面が長方形であることが看取される。

そうすると、上記記載事項(ア)?(エ)、及び図面(特に、図7)の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

[刊行物1発明]
「ベース板13の一方の面に発熱体5が装着され、
ベース板13の他方の面には、発熱体5の熱を放熱フィン2に移動する複数のヒートパイプ1が装着されるとともに、発熱体5の熱はベース板13から金属ブロック12を介してヒートパイプ1に伝熱され、
上記ヒートパイプ1の断面は丸状であり、
上記金属ブロック12は一表面に断面がU字形状の溝体12aが複数形成された断面が長方形であり、
ベース板13をヒートパイプ1の受熱部1aと接するように接合するとともに、
ヒートパイプ1の受熱部1aが金属ブロック12に形成された溝体12aに装着されて伝熱される、発熱体の冷却装置。」

(2)刊行物2(特開2001-44347号公報)

上記刊行物2には、「ヒートシンクおよびその製作方法」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(オ)「【0009】図8および図9に示す方法においては、偏平形状のヒートパイプをCPU等の発熱体に直接接触させて、熱効率を高めることはできるけれども、金属ブロックまたは金属プレートによって、ヒートパイプを覆うようにして発熱素子に押さえつけて固定しなければならないので、金属ブロックの厚さ、または、金属プレートの厚さに相当する厚みが増加する。従って、図8または図9に示す方法においても、薄肉化しているパソコン等の電子機器に収納するのに適さないという問題点がある。」

(カ)「【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上述した従来の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、端部がヒートパイプの厚さよりも大きい厚さの2個の板状の金属ブロックを、偏平形状のヒートパイプの両側に配置し、上述した端部をカシメて押しつぶすと、押しつぶされた端部がヒートパイプの縁部を覆うように変形されて、金属ブロックとヒートパイプが一体的になり、強固にヒートパイプを固定することができることを知見した。」

(キ)「【0032】このように調製した偏平形状のヒートパイプ1の両側に、上述した端部3がヒートパイプと接するように2個の金属プレートを配置し、端部3をカシメて押しつぶし、図2に示すような、ヒートシンクを製作した。このように製作されたヒートシンクのヒートパイプ部分の厚さは1mm、金属プレートの本体部分2の厚さは0.8mmであり、押しつぶされた端部3は、金属プレートの本体部分2から漸次幅が増して、ヒートパイプの側面の曲線部分を覆うように延びて、ヒートパイプを固定した。」

そうすると、上記記載事項(オ)?(キ)及び図面の記載からみて、上記刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。

[刊行物2発明]
「偏平形状のヒートパイプ1の両側に2個の金属プレートをカシメて固定したヒートシンク。」

4.対比・判断

(1)一致点

本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「ベース板13」は、その機能からみて、本願発明の「受熱プレート」に相当し、以下同様に、「発熱体5」は「発熱素子」に相当し、「放熱フィン2」は「放熱フィン」に相当し、「ヒートパイプ1」は「ヒートパイプ」に相当し、「金属ブロック12」は「金属ブロック」に相当し、「発熱体の冷却装置」は「電子機器用冷却装置」に相当するものである。
そうすると、刊行物1発明の「ベース板13の一方の面に発熱体5が装着され」は、実質的に、本願発明の「受熱プレートの一方の面に発熱素子が熱的に接続され」に相当し、以下同様に、「ベース板13の他方の面には、発熱体5の熱を放熱フィン2に移動する複数のヒートパイプ1が装着されるとともに」は、「前記受熱プレートの他方の面には、前記発熱素子の熱を放熱フィンに移動する少なくとも1本のヒートパイプが熱的に接続されるとともに」に相当し、「発熱体5の熱はベース板13から金属ブロック12を介してヒートパイプ1に伝熱され」は、「前記発熱素子に対応する位置に少なくとも1つの金属ブロックが熱的に接続され」に相当し、「上記ヒートパイプ1の断面は丸状であり」は、「前記ヒートパイプの断面は、丸状または偏平状であり」に相当する。
また、刊行物1発明の「ベース板13をヒートパイプ1の受熱部1aと接するように接合するとともに」は、ヒートパイプ1がベース板13の表面に搭載されていることにほかならないから、本願発明の「前記ヒートパイプは、前記板状の受熱プレートの表面に搭載されるとともに」に相当する。

したがって、両者は、本願発明の表記にならえば、
「受熱プレートの一方の面に発熱素子が熱的に接続され、
前記受熱プレートの他方の面には、前記発熱素子の熱を放熱フィンに移動する少なくとも1本のヒートパイプが熱的に接続されるとともに、前記発熱素子に対応する位置に少なくとも1つの金属ブロックが熱的に接続され、
前記ヒートパイプの断面は、丸状または偏平状であり、
前記ヒートパイプは、前記板状の受熱プレートの表面に搭載される、電子機器用冷却装置。」である点において一致し、次の点で相違する。

(2)相違点

本願発明は、「前記受熱プレートは、板金加工によって形成された板であり」、「前記金属ブロックの断面は、長方形または台形または三角形であり」、「前記ヒートパイプの吸熱部が前記金属ブロックと機械的に固定されることなく前記金属ブロックの側面とのみ熱的に接続される」のに対し、
刊行物1発明では、ベース板13は、板ではあるもののどのように形成されたものか明らかではなく、「上記金属ブロック12は一表面に断面がU字形状の溝体12aが複数形成された断面が長方形であり、ヒートパイプ1の受熱部1aが金属ブロック12に形成された溝体12aに装着されて伝熱される」点。

(3)上記相違点についての判断

本願発明の受熱プレートと刊行物1発明のベース板13は、いずれも板状である点で差異がなく、板金加工によって板状の部品を形成することは慣用手段であるところ、特に、板金加工によって形成したことによって冷却装置の構成上、技術的に有意な差異が生じることはないから、電子機器用冷却装置の受熱プレートを板金加工によって形成することは設計事項に過ぎない。
次に、電子機器用冷却装置において、発熱素子から受熱プレートを介して金属ブロックとヒートパイプに熱的に接続する手段について検討する。
刊行物1発明は、「発熱体5から発生する熱は図7に示すように、ベース板13を介して直接伝えられる矢印Cで示す熱と、ベース板13から金属ブロック12を介して伝えられる矢印Dで示す熱とによって効率よくヒートパイプ1に伝熱される」(上記記載事項(イ)の段落【0024】)ものである。本願発明は、「本発明により、発熱素子の熱が、受熱プレートと金属ブロックを通じてヒートパイプに効率よく伝達するので、ヒートパイプと受熱プレート間の接触熱抵抗が低減する。また、ヒートパイプの受熱面積が大きくなるので、受熱部での熱密度が緩和され、最大熱輸送量が大きくなる。その結果、大きい発熱量を放熱できるようになった。」(明細書の段落【0020】)ものである。すなわち、本願発明は、電子機器用冷却装置の発熱素子の熱を受熱プレートと金属ブロックを通じてヒートパイプに効率よく伝達するようにした基本的構想において刊行物1発明と軌を一にするものである。そして、その具体的手段として、本願発明は、「前記金属ブロックの断面は、長方形または台形または三角形であり、前記ヒートパイプの吸熱部が前記金属ブロックと機械的に固定されることなく前記金属ブロックの側面とのみ熱的に接続される」ようにしたものであるが、電子機器用の冷却装置において、金属ブロックの断面が長方形であり、ヒートパイプの吸熱部が金属ブロックの側面とのみ熱的に接続されるようにしたものは、刊行物2に「偏平形状のヒートパイプ1の両側に2個の金属プレートをカシメて固定したヒートシンク。」の発明が記載されており、刊行物1発明と刊行物2発明は、発熱素子を金属ブロック及びヒートパイプによって冷却する電子機器用冷却装置である点において共通の技術分野に属するものであるから、刊行物1発明の熱的に接続する手段として刊行物2発明を適用することは当業者が容易に推考できることである。さらに、上記ヒートパイプの吸熱部が「金属ブロックと機械的に固定されることなく」金属ブロックの側面とのみ熱的に接続されるようにすることは、電子機器用冷却装置の構造や用途などに応じて当業者が適宜決定できる設計事項であって、ヒートパイプの吸熱部が金属ブロックと機械的に固定されているか否かによって冷却装置としての本質が変わるものではない。
したがって、刊行物1発明に刊行物2発明を適用して上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)本願発明の効果について

本願発明が奏する効果は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明から当業者が予測できるものである。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成23年7月29日付けの意見書において、
「刊行物2におけるヒートパイプと金属ブロックとは、
(1)側面において接するのみならず、ヒートパイプの側面を金属ブロック本体が覆うものであり、
(2)また、ヒートパイプと金属ブロックとを機械的に強固に接合したものである。
このような刊行物2におけるヒートパイプと金属ブロックとの構成は、本願発明の構成要件(f)において特定されるように機械的に固定せず単に側面において熱的に接合させた構成とは大きく異なる。」ことを主張している。
しかしながら、刊行物2に記載されたヒートパイプと金属ブロックは、側面において熱的に接合されていることは明らかであり、刊行物1発明に刊行物2発明を適用するにあたって、ヒートパイプと金属ブロックとを機械的に接合するか否かは、電子機器用冷却装置の構造や用途などに応じて当業者が適宜決定できる設計事項にすぎないことは、上記に説示したとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

(6)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし請求項6に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2011-08-18 
結審通知日 2011-08-23 
審決日 2011-09-07 
出願番号 特願2005-300346(P2005-300346)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川内野 真介  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 川本 真裕
倉田 和博
発明の名称 電子機器用冷却装置  
代理人 茜ヶ久保 公二  
代理人 江村 美彦  
代理人 宮城 康史  
代理人 住吉 秀一  

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