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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1245480
審判番号 不服2010-12670  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-10 
確定日 2011-10-18 
事件の表示 特願2000-528202「蛍光画像化用内視鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月29日国際公開、WO99/37204、平成14年 1月15日国内公表、特表2002-500907〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成11年1月26日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年1月26日,US)とするものであり,平成22年2月2日付けで拒絶査定がされ,これに対し同年6月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされたものである。そして,同年10月13日付けで審尋され,平成23年4月13日に回答書が提出されたものである。

第2 平成22年6月10日付けの手続補正についての補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論
平成22年6月10日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)本願補正発明
本件補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1を,特許請求の範囲の請求項1として,
「内視鏡,内視鏡を通って伸びている光ガイドに結合された350nm?420nmの範囲の波長の光を出す第1のレーザー光源,内視鏡を通って伸びている光ガイドに結合された第2のブロードバンド光源,及び内視鏡の端末にあって,青色要素と緑色要素と赤色要素とを有する自動蛍光像及び組織の反射像を検出する画像化用検出器,を備えたことを特徴とする自動蛍光画像化システム。」とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。)。

(2)補正要件(限定的減縮)について
上記請求項1についての補正は,「第1の光源」について「第1のレーザー光源」と限定し,「第2の光源」について「第2のブロードバンド光源」と限定し,「組織の蛍光像と反射像」について「青色要素と緑色要素と赤色要素とを有する自動蛍光像及び組織の反射像」と限定し,「蛍光画像化システム」について「自動蛍光画像化システム」と限定するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,上記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)独立特許要件(進歩性)について

ア 刊行物1およびその記載事項
本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である,特開平9-308604号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている(以下,下線は当審において付記したものである)。

(ア-1)「【請求項1】蛍光を発する蛍光診断薬が予め注入された生体の観察部に対し,該蛍光診断薬および蛍光を発する生体内在色素の励起波長領域にある励起光を照射する励起光照射手段と,前記観察部の前記蛍光診断薬から発せられる薬剤蛍光の波長領域および前記生体内在色素から発せられる自家蛍光の波長領域を含む全蛍光成分,または前記蛍光診断薬から発せられる薬剤蛍光の波長領域の内の一部の波長領域の蛍光成分と前記生体内在色素から発せられる自家蛍光の波長領域の内の一部の波長領域の蛍光成分との蛍光和成分の何れかを抽出する第1の蛍光検出手段と,前記薬剤蛍光の波長領域の内の一部の波長領域の蛍光成分,または前記薬剤蛍光の波長領域の内の一部の波長領域の蛍光成分と前記自家蛍光の波長領域の内の一部の波長領域の蛍光成分との蛍光差成分の何れかを抽出する第2の蛍光検出手段と,前記第1の蛍光検出手段により抽出された蛍光成分と,前記第2の蛍光検出手段により抽出された蛍光成分との除算を行う除算手段とを有することを特徴とする蛍光検出装置。」

(ア-2)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,腫瘍に対して親和性の強い蛍光を発する光感受性物質が予め注入された生体の観察部に励起光を照射し,そのとき該光感受性物質および生体内在色素から発せられる蛍光の強度により腫瘍の診断を行ったり,あるいは光感受性物質を予め注入することなく生体内在色素から発せられる自家蛍光の強度により腫瘍の診断を行う蛍光診断装置に適用可能な蛍光検出装置に関するものである。」

(ア-3)「【0019】【発明の効果】上述した本発明による第1および第2の蛍光検出装置によれば,所定の波長領域に亘る全自家蛍光成分,または,所望の波長領域の蛍光和成分を分母にして除算演算を行うことにより,除算を行う分母を十分に大きくすることができるので,画像演算においてゼロ割り算をするという演算エラーが発生することがなく,励起光光源および蛍光受光部と励起光の照射された生体観察部との距離に起因する蛍光強度の変動の除去を安定に行ことが可能となる。」

(ア-4)「【0039】以下,上記構成の蛍光検出装置の作用について説明する。観察部10に励起光L1が照射されているとき,観察部10からは,図19にスペクトルを示すような自家蛍光L3が発せられる。この自家蛍光L3は,FAD,コラーゲン,ファイブロネクチン,ポルフィリン,等の種々の生体内在色素からの蛍光が重畳したものと推測されており,図19に蛍光スペクトルを示すように,正常部と病変部とでは,蛍光スペクトルの大きさが異なると共に形状も異なり,正常部は自家蛍光L3が全体的に大きいが病変部は自家蛍光L3が全体的に減少し,また特にこの病変部については,青色?緑色の蛍光成分の減少の程度に比して,赤色より長波長の蛍光成分の減少の程度が小さい(尚,病変部と正常部とで蛍光スペクトルが異なる理由は解明されていない)。すなわち,病変部と正常部とでは,赤色近傍蛍光成分(長波長成分)Ifλ_(1) と緑色近傍蛍光成分(短波長成分)Ifλ_(2)の比率が変化し,除算により求められたIfλ_(1) /Ifλ_(+) の値が大きい部位は病変部であり,小さい部位は正常部であると判断できる。それぞれの波長成分は以下のように表される。」

(ア-5)「【0054】次に本発明による蛍光検出装置を適用した具体的な実施の形態の一例について説明する。図6は本発明による蛍光検出装置を適用した内視鏡装置の概略構成図であり,本内視鏡は,蛍光診断薬が予め注入された生体観察部に励起光を照射することにより発せられる蛍光を検出し,薬剤蛍光成分と,自家蛍光成分から薬剤蛍光成分までの全蛍光成分との除算を行うものである。」

(ア-6)「【0055】本発明の実施の形態にかかる内視鏡装置は,患者の病巣と疑われる部位に挿入される内視鏡100,通常像観察用白色光および蛍光像観察用励起光を発する光源を備える照明装置110,通常像観察時と蛍光像観察時の光路の切換を行う光路切換ユニット120,通常像観察時に前記白色光の生体被照射部位10からの反射光を検出するカラーCCDカメラ130,蛍光像観察時に前記励起光により生体観察部10から生じた蛍光を検出する高感度カメラユニット140,検出された反射光像あるいは蛍光像を反映する画像信号に対して画像処理を行う画像処理装置150,および該画像処理装置150で処理された画像信号を可視画像として表示するディスプレイ160から構成されている。」

(ア-7)「【0056】内視鏡100は,内視鏡挿入部101内部に該内視鏡挿入部101の先端まで延びるライトガイド106およびイメージファイバ104を備えており,該ライトガイド106とイメージファイバ104の先端部即ち内視鏡挿入部101先端部には,それぞれ,照明レンズ102,対物レンズ103を備えている。前記ライトガイド106の一端は照明装置110から操作部105をつなぐ接続部107を通り照明装置110内へ達している。前記イメージファイバ104の一端は操作部105内に延び,接眼レンズ109を有する接眼部108に接している。」

(ア-8)「【0057】前記照明装置110は,通常像観察用の白色光L2を発するキセノンランプ118,蛍光観察用の励起光L1を発する水銀ランプ111,該水銀ランプ111から発せられた励起光L1の透過波長を設定する光学フィルタ112,および通常観察時と蛍光観察時とで白色光L2と励起光L1を切り換えるためドライバ116により駆動される切換ミラー115からなる。」

(ア-9)「【0064】・・・なお,光学フィルタ112は,図9に示すような透過特性をしており光学フィルタ112を透過した水銀ランプ111から発せられる励起光L1は,波長405nmの輝線スペクトルとなる。」

(ア-10)「【0068】また,水銀ランプ111に対しては,上記光学フィルタ112とは異なる透過特性の光学フィルタを用いることが可能であり,例えば,図10に示すように405nmと365nmの輝線を選択的に透過させることができる光学フィルタを用いてもよい。。405nmは蛍光診断薬を高効率で励起することができる波長λex1,365nmは自家蛍光分子を高効率で励起することができる波長λex2であるので,このような2種の光を併せて用いることはSN比向上のために望ましい。以下薬剤蛍光検出の場合において同様である。」

(ア-11)「【0080】次に図13?図15を参照して,本発明による蛍光検出装置を適用した第3の具体的な実施の形態である内視鏡装置について説明する。なお図13において,図6中の要素と同等の要素には同番号を付し,それらについての説明は特に必要のない限り省略する。図13は本発明による蛍光検出装置を適用した内視鏡装置の概略構成図であり,本内視鏡は,蛍光診断薬が予め注入された生体観察部に励起光を照射することにより発せられる蛍光を検出し,赤色蛍光成分と,青色蛍光成分,緑色蛍光成分および赤色蛍光成分との蛍光和成分との除算を行うものである。」

(ア-12)「【0081】本発明の第三の実施の形態にかかる上記内視鏡装置は,患者の病巣と疑われる部位に挿入される内視鏡100,通常観察用白色光および蛍光像観察用励起光を発する光源を備える照明装置110,通常観察時に前記白色光の生体被照射部位からの反射光および蛍光像観察時に前記励起光の生体被照射部位からの蛍光を検出する高感度カメラユニット300,検出された反射光像あるいは蛍光像の画像処理を行う画像処理装置310,および該画像処理装置310で処理された画像情報を可視画像として表示するディスプレイ160から構成されている。」

(ア-13)「【0082】本実施の形態では,第一の実施の形態と比較して,光路切換ユニット120およびカラーCCDカメラ130が省略されており,高感度カメラユニット300,および画像処理装置310の構成および作用が異なる。」

(ア-14)「【0083】高感度カメラユニット300は,透過する反射光および蛍光L3の励起光成分をカットする励起光シャープカットフィルタ302と,該フィルタ302を透過した反射光および蛍光L3による像を結像する冷却CCDカメラ303とからなる。なお,冷却CCDカメラの検出面には蛍光をR,G,Bの各色の波長領域に分離する色モザイクフィルタが装着されている。」

(ア-15)「【0085】以下,本発明による蛍光検出装置を適用した上記構成の内視鏡装置の作用について説明する。最初に,本内視鏡装置の通常像観察時の作用を説明する。
【0086】生体に照射された白色光L2の反射光は対物レンズ103よって集光され,イメージファイバ104,接眼部108内に設けられた接眼レンズ109を経て,高感度カメラユニット300へ向かう。接眼レンズ109を透過した白色光L2の反射光は,レンズ301,および励起光シャープカットフィルタ302を透過し,冷却CCDカメラ303へ結像する。なお,冷却CCDカメラ303の検出面には,図14に示す色モザイクフィルタが装着されている。色モザイクフィルタの光学的透過特性は図15に示す通りである。冷却CCDカメラ303からの映像信号はA/D変換回路311へ入力され,RGBの各映像信号成分についてデジタル化された後,それぞれ,R画像メモリ314,G 画像メモリ313,B画像メモリ312へ保存される。R画像メモリ314,G画像メモリ313,B画像メモリ312へ保存された通常画像信号は,ビデオ信号発生回路317によってDA変換後にカラーマトリックス処理およびエンコード処理され,NTSC信号としてディスプレイ160へ入力され,該ディスプレイ160に可視画像として表示される。」

(ア-16)「【0087】次いで,蛍光像観察時の作用を説明する。ここでは,蛍光診断薬としてλem=635nm前後の蛍光を発する5-ALAを用いる場合について説明する。生体の被照射部には予め前記蛍光診断薬5-ALA が投与される。
【0088】励起光を照射されることにより生じる生体被照射部位10からの蛍光L3は,対物レンズ103よって集光され,イメージファイバ104および接眼レンズ109を経て,励起光シャープカットフィルタ302を透過し励起光成分が除去された後,冷却CCDカメラ303へ結像される。なお,通常観察光に比べて蛍光強度は弱いので,蛍光像観察時においては冷却CCDカメラ303の撮像レートを通常像観察時より充分遅くする。冷却CCDカメラ303からの蛍光映像信号はA/D変換回路311へ入力され,R画像,G画像,B画像各々についてデジタル化された後,それぞれ,R画像メモリ314,G画像メモリ313,B画像メモリ312へ保存される。RGB蛍光像を反映する各々の映像信号が取得された後,加算メモリ315において,R画像メモリ314,G画像メモリ313およびB画像メモリ312の出力の加算処理が行われ,加算結果が蛍光和成分を反映する加算信号として加算メモリ315に保存される。生体からの蛍光はR映像信号が主として薬剤蛍光を反映し,BG映像信号が主として自家蛍光を反映するため,前記加算結果が,自家蛍光と薬剤蛍光との和を表す。 次いで,除算メモリ316において,R画像メモリ314の出力と加算メモリ315の出力との除算処理が行われ,除算結果が除算メモリ316に保存される。除算メモリ316へ保存された除算画像信号は,ビデオ信号発生回路317によってDA変換後にエンコード処理され,ディスプレイ160に可視画像として表示される。なお,通常画像を保存するメモリを上記RGBメモリと別に設けることにより,除算画像と通常画像をオーバーレイ表示することもできる。」

イ 対比・判断
刊行物1の記載事項(ア-1)?(ア-16)を総合すると,刊行物1には,第3の実施形態として,次の発明が記載されているものと認められる。

「内視鏡100と,内視鏡挿入部101内部に該内視鏡挿入部101の先端まで延びるライトガイド106と,前記ライトガイド106の一端が達する照明装置110であり,通常像観察用の白色光L2を発するキセノンランプ118と,蛍光観察用の励起光L1を発する水銀ランプ111と,該水銀ランプ111から発せられた励起光L1の透過波長を設定する光学フィルタ112とを有した照明装置110と,通常観察時に前記白色光の生体被照射部位からの反射光および蛍光像観察時に前記励起光の生体被照射部位からの蛍光を検出する高感度カメラユニット300であり,反射光および蛍光L3による像を結像する冷却CCDカメラ303を有した高感度カメラユニット300と,を備えた内視鏡装置。」(以下,「刊行物1発明」という。)

そこで,以下に本願補正発明と刊行物1発明を対比する。

(ア)刊行物1発明の「内視鏡100」,「内視鏡挿入部101内部に該内視鏡挿入部101の先端まで延びるライトガイド106」は,それぞれ,本願補正発明の「内視鏡」,「内視鏡を通って伸びている光ガイド」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「蛍光観察用の励起光L1を発する水銀ランプ111」は「水銀ランプ111から発せられた励起光L1の透過波長を設定する光学フィルタ112」を備えるものである。そして,刊行物1の摘記事項(ア-9),(ア-10)を参酌すると,励起波長である光学フィルタ112の透過波長として,365nmや405nmが想定されており,これは本願補正発明の特定する「350nm?420nm」の波長範囲に含まれるものである。
また,本願補正発明の「光ガイドに結合された」「光源」とは,具体的な結合状態が明確ではないが,発明の詳細な説明における「【0054】・・・励起光は,長さ12.5及び16.5メートルのファイバーを有し結腸鏡の末端に励起光を送ることが要求される光ファイバー装置内に結合される。」,「【0096】・・・重要な問題は,希望の波長範囲内で十分な光を照明用ファイバー内に結合できるか否かである。・・・。」(下線は当審により付記したもの。以下,同様である。)との記載から,光学素子の間に通常想定される光学的な結合を意味するものと理解される。
そして,このような光学的結合は,刊行物1発明の「ライトガイド106」と光源素子との間においても当然に実現されているものといえる。
そうすると,刊行物1発明の「内視鏡挿入部101内部に該内視鏡挿入部101の先端まで延びるライトガイド106」の「一端が達する照明装置110」が有する「蛍光観察用の励起光L1を発する水銀ランプ111」および「水銀ランプ111から発せられた励起光L1の透過波長を設定する光学フィルタ112」と,本願補正発明の「内視鏡を通って伸びている光ガイドに結合された350nm?420nmの範囲の波長の光を出す第1のレーザー光源」とは,「内視鏡を通って伸びている光ガイドに結合された365nmあるいは405nmの波長の光を出す第1の光源」である点で共通する。

(ウ)刊行物1発明における「キセノンランプ118」は,白色光源として用いられることから,広帯域光源であるといえる。
また,本願補正発明の「ブロードバンド光源」に関して,発明の詳細な説明に「【0096】・・・150Wクセノンランプによる市販の白色光源は,端末において80mWの白色光を供給できる。・・・」,「【0105】 内視鏡カメラ220は,それ自体の光ファイバー照明装置222を通して,広帯域クセノンアークランプ224及び収集用光学系226からのその白色光照明を得る。」と記載されていることから,上記「ブロードバンド光源」としてキセノンランプが想定されていることが理解される。
そうすると,刊行物1発明の「内視鏡挿入部101内部に該内視鏡挿入部101の先端まで延びるライトガイド106」の「一端が達する照明装置110」が有する「通常像観察用の白色光L2を発するキセノンランプ118」は,本願補正発明の「内視鏡を通って伸びている光ガイドに結合された第2のブロードバンド光源」に相当する。

(エ)本願補正発明の「自動蛍光」について,発明の詳細な説明において「自動蛍光」という用語は用いられていないが,発明の詳細な説明における「【0003】結腸腫瘍の内視鏡的に収集された自己蛍光像・・・」,「【0028】組織の蛍光は,所与の励起波長λexのレーザー光を吸収して生物分子の電子が高エネルギー状態に入る過程で発生する。励起された状態は不安定であり,電子は接地状態に戻るであろう。このエネルギーの大部分は分子の衝突により熱として失われるが,励起された電子のごく僅かな部分が内部転換を受け,より長い放射波長λemで自発放射する。・・・」との記載,および上記「自己蛍光像」に対応する本願の国際公開第99/37204号の第2頁第1行における「autofluorescence images」との記載から,本願補正発明の「自動蛍光」は,通常「自己蛍光」や「自家蛍光」として表現される蛍光を意味するものと理解される。
一方,刊行物1の摘記事項(ア-1),(ア-4),(ア-16)から,刊行物1発明における「励起光の生体被照射部位からの蛍光」として,自家蛍光L3が想定されていること,その波長領域として,青色,緑色,赤色が想定されていることが理解される。
そうすると,刊行物1発明の「通常観察時に前記白色光の生体被照射部位からの反射光および蛍光像観察時に前記励起光の生体被照射部位からの蛍光を検出する高感度カメラユニット300」の有する「反射光および蛍光L3による像を結像する冷却CCDカメラ303」と,本願補正発明の「内視鏡の端末にあって,青色要素と緑色要素と赤色要素とを有する自動蛍光像及び組織の反射像を検出する画像化用検出器」は「青色要素と緑色要素と赤色要素とを有する自動蛍光像及び組織の反射像を検出する画像化用検出器」である点で共通する。

(オ)「自動蛍光」については上記「(エ)」で検討したとおりであるから,刊行物1発明の「内視鏡装置」は本願補正発明の「自動蛍光画像化システム」に相当する。

以上より,本願補正発明と刊行物1発明とは,
「内視鏡,内視鏡を通って伸びている光ガイドに結合された365nmあるいは405nmの波長の光を出す第1の光源,内視鏡を通って伸びている光ガイドに結合された第2のブロードバンド光源,青色要素と緑色要素と赤色要素とを有する自動蛍光像及び組織の反射像を検出する画像化用検出器,を備えた自動蛍光画像化システム」である点において一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)本願補正発明において第1の光源は「レーザー光源」であるのに対して,刊行物1発明において対応する光源は「水銀ランプ111」である点。

(相違点2)本願補正発明において第1の光源は「350nm?420nmの範囲の波長の光を出す」ものであるのに対して,刊行物1発明において対応する光源は,光学フィルタ112を介して365nmや405nmの波長の光を出すものである点。

(相違点3)本願補正発明において「画像化用検出器」は「内視鏡の端末」に配置されるのに対して,刊行物1発明において「冷却CCDカメラ303」の配置について,このような特定はなされていない点。

以下,上記相違点について検討する。
ここで,(相違点3)における「内視鏡の端末」について,「端末」の意味する箇所は必ずしも明確ではないが,発明の詳細な説明において「【0088】末端に置かれたCCDによる蛍光像の検出は利点を持つが,手元側で検出する光ファイバー画像化用バンドルも長所を持つ。末端CCDのスペクトル帯域は末端検出器のRGB応答に限定され,一方,光ファイバー画像化用バンドルにより収集された蛍光は非限定数のスペクトル像に濾波することができる。」,図14Aに関して「【0108】蛍光像とともに可視基準像を使用するためのアルゴリズムは以下の通りである。内視鏡324の端末先端のCCDカメラからのビデオ信号332がビデオプロセッサー334により標準NTSCカラービデオ信号に変換され,コンピューター338のビデオフレームグラバーに送られる。・・・」と記載されており,内視鏡の測定部位側の先端部分を意味するものと理解できることから,「内視鏡の端末」を上のように解釈して以下の判断を行う。

(相違点1について)
蛍光像を取得可能な内視鏡において,蛍光励起光源としてレーザ光源を用いることは,本願の優先日前における周知技術であり,例えば,特開平8-280692号公報の【0001】,【0011】,【0013】に,医療用レーザ診断装置において,カテーテル4内の導光ファイバ2を介して病巣部に蛍光励起用レーザ光を照射するために,レーザ光源1を備えることについて記載され,また,特開昭63-252134号公報の第5ページ左上欄第2?13行に,蛍光検出を利用したがん診断装置の内視鏡413において,蛍光励起光源である診断光源415としてレーザ光源412を用いることが記載されている。
よって,刊行物1発明の蛍光観察用の励起光源として,水銀ランプ111に代えてレーザ光源を用いるよう想到することは,当業者が容易になし得ることである。

(相違点2について)
蛍光励起光源による励起波長は,励起対象物や測定条件に応じて適宜最適化されるものであり,上記「(イ)」のとおり,刊行物1において想定される励起波長365nmや405nmは,本願補正発明の特定する「350nm?420nm」の波長範囲に含まれるものであることから,刊行物1発明において蛍光励起光源による励起波長を「350nm?420nmの範囲」のものとすることは,当業者が適宜なし得ることである。

(相違点3について)
蛍光像を取得可能な内視鏡において,内視鏡の測定部位側の先端部分に検出器を配置することは,本願の優先日前における周知の技術事項であり,例えば,特開平10-14869号公報の【0001】,【0022】,【0026】,第1図に,蛍光内視鏡において,プローブ17の先端に通常画像用固体撮像素子25と蛍光像撮像手段23が配置された形態が記載され,特開平9-70384号公報の【0001】,【0008】,【0024】?【0026】,第3図に,蛍光診断用電子内視鏡装置において,内視鏡の測定部位側の先端部分に,通常のカラー映像信号を得るための固体撮像素子3と,蛍光画像信号を得るための超高感度固体撮像素子2が配置された形態が記載されている。
よって,刊行物1発明において,冷却CCDカメラ303の配置形態として内視鏡の測定部位側の先端部分を想到することは,当業者が容易になし得ることである。

(本願補正発明の効果について)
本願補正発明の有する効果は,刊行物1の記載事項および周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願補正発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお,請求人は審尋に対する回答書において,本願補正発明について,「400?480nmの範囲の青色要素」と青色要素を限定し,「補償された蛍光像を作成するように自動蛍光像と反射像との比を計算するプロセッサー」を追加する補正案を提示している。

ここで,蛍光像と反射像との比を取得する実施形態は,発明の詳細な説明の【0106】?【0108】,【0112】,図14Aに記載された実施形態に対応するものといえるが,上記実施形態において,蛍光像の励起波長は「365nm」とされ,反射像の光源波長は「可視スペクトルの赤の端部」とされ,両者の光源として共通の「水銀アークランプ302」を用いることが記載されているが,補正案において特定するように,蛍光像の励起光源波長の帯域を「350?420nm」とすること,反射像の光源波長を「ブロードバンド」なものとすること,励起光源を「第1のレーザ光源」とし反射像の光源を「第2のブロードバンド光源」とすることは記載されていない。よって,補正案として提示された請求項1において特定される内容は,発明の詳細な説明には記載されていないものである。

また,蛍光内視鏡において検出対象として特定される蛍光波長領域は,測定対象に応じて決定されるものといえ,これを「400?480nmの範囲の青色要素」とすることも,例えば,刊行物1の摘記事項(ア-4),(ア-16)に「青色蛍光成分」が測定対象として記載され,実願昭58-67508号(実開昭59-173020号)のマイクロフィルムの第14頁第13行?第15頁第17行に,生体螢光内視鏡装置において460nmにおける螢光像を取得することが記載され,上記特開昭63-252134号公報の第5頁左上欄第2?13行,第6頁左上欄第18行?右上欄第16行に,内視鏡において,405+5nmの蛍光イメージを取得することについて記載されるとおりであり,蛍光波長として特別なものとはいえない。
さらに,蛍光内視鏡において,さまざまな誤差要因を除去するために蛍光像と反射像との比を取得することも,上記実願昭58-67508号(実開昭59-173020号)のマイクロフィルムの第13頁第9?13行,第16頁第12?18行に,生体螢光内視鏡装置において,被測定螢光画像データと反射像である参照光画像データの両画像における同一点の光量を,一次の加減乗除算によって比較演算し,螢光画像に含まれる変動分を除去することが記載され,上記特開昭63-252134号公報の第5ページ左上欄第2?13行,第6頁左上欄第18行?左下欄第13行に,内視鏡において,蛍光イメージと反射光イメージの比を取ることにより規格化イメージを得ることについて記載されるように,周知の手法といえる。
したがって,上記補正案を採用することはできない。

(4)小括
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成22年6月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし16に係る発明は,平成21年7月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「内視鏡,内視鏡を通って伸びている光ガイドに結合された350nm?420nmの範囲の波長の光を出す第1の光源,内視鏡を通って伸びている光ガイドに結合された第2の光源,及び内視鏡の端末にあって,組織の蛍光像と反射像とを検出する画像化用検出器,を備えたことを特徴とする蛍光画像化システム。」

1 刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1の記載事項は,前記「第2 2(3)」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は,前記「第2 2(3)」で検討した本願補正発明における「第1の光源」についての「レーザー光源」との限定事項を省き,「第2の光源」についての「ブロードバンド光源」との限定事項を省き,「組織の蛍光像と反射像」についての「青色要素と緑色要素と赤色要素とを有する自動蛍光像及び組織の反射像」との限定事項を省き,「蛍光画像化システム」についての「自動蛍光画像化システム」との限定事項を省くものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加し限定したたものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(3)」にて述べたとおり,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-11 
結審通知日 2011-05-17 
審決日 2011-05-31 
出願番号 特願2000-528202(P2000-528202)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷垣 圭二  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 信田 昌男
横井 亜矢子
発明の名称 蛍光画像化用内視鏡  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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