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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1245490
審判番号 不服2008-29975  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-07 
確定日 2011-10-20 
事件の表示 特願2006-106885「赤外活性皮膜とその成膜方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月27日出願公開、特開2007-247050〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成18年3月13日の出願であって、平成20年9月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成20年11月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成20年11月25日付けの手続補正がなされたものである。

II.平成20年11月25日付けの手続補正についての却下の決定
[補正却下の結論]
平成20年11月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正は、平成20年7月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の記載、
「【請求項1】
団体(「固体」の誤記と認められる)の表面に形成した、主に還元酸化チタン(TinO_(2)n-1)または主に還元酸化ジルコニウム(ZrO_(2)-x)からなる、或いはまた、還元酸化チタンの1種と還元酸化ジルコニウムの1種からなる混合物および/または化合物からなる、赤外活性皮膜。
【請求項2】
前記の還元酸化チタンの構造を多形(二相共存)とし、その化学組成を、それぞれ、Ti_(2)O_(3)-Ti_(3)O_(5)、Ti_(3)O_(5)-Ti_(4)O_(7)、Ti_(4)O_(7)-Ti_(5)O_(9)、Ti_(5)O_(9)-Ti_(6)O_(11)、とする、請求項1記載の赤外活性皮膜。
【請求項3】
前記の還元酸化チタン及び還元酸化ジルコニウムのそれぞれに、原子価の異なる異種元素または異種金属酸化物を添加・固溶せしめて固溶体または制限固溶体とする、請求項1に記載の赤外活性皮膜。
【請求項4】
前記の異種元素または異種金属酸化物を、それぞれ、Ti、Zr、Ni、Cr、Fe、Co、及びこれらの酸化物の中から選択した1種、または2種以上を複合したものとする、請求項3に記載の赤外活性皮膜。」を
「【請求項1】
団体(「固体」の誤記と認められる)の表面に形成した、主に還元酸化チタン(TinO_(2)n-1)または主に還元酸化ジルコニウム(ZrO_(2)-x)からなる、或いはまた、還元酸化チタンの1種と還元酸化ジルコニウムの1種からなる混合物および/または化合物からなる、赤外活性皮膜。
【請求項2】
前記の還元酸化チタンの構造を多形(二相共存)とし、その化学組成を、それぞれ、Ti_(2)O_(3)-Ti_(3)O_(5)、Ti_(3)O_(5)-Ti_(4)O_(7)、Ti_(4)O_(7)-Ti_(5)O_(9)、Ti_(5)O_(9)-Ti_(6)O_(11)、とする、請求項1記載の赤外活性皮膜。
【請求項3】
前記の還元酸化チタン及び還元酸化ジルコニウムのそれぞれに、異種元素または異種金属酸化物を添加・固溶せしめて固溶体または制限固溶体とする、請求項1に記載の赤外活性皮膜。
【請求項4】
前記の異種元素または異種金属酸化物を、それぞれ、Ti、Zr、Ni、Cr、Fe、Co、及びこれらの酸化物の中から選択した1種、または2種以上を複合したものとする、請求項3に記載の赤外活性皮膜。
【請求項5】
前述の赤外活性皮膜を溶射法によって形成するも、この場合、溶射直後の溶射皮膜をクェンチ(急冷)することによって、それぞれの皮膜を形成することを特徴とする、請求項1乃至請求項4に記載の赤外活性皮膜の成膜方法。」と補正しようとするものである。

上記補正は、請求項が4つであったのを、赤外活性被膜の成膜方法の発明を加えて、請求項を5つにしようとするものである。
このような請求項の数を増加させる補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.上記補正却下された後の本願発明について
1.本願発明の記載事項
平成20年11月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年7月28日付け手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。

「団体(「固体」の誤記と認められる)の表面に形成した、主に還元酸化チタン(TinO_(2)n-1)または主に還元酸化ジルコニウム(ZrO_(2)-x)からなる、或いはまた、還元酸化チタンの1種と還元酸化ジルコニウムの1種からなる混合物および/または化合物からなる、赤外活性皮膜。」(以下、「本願発明」という)

2.引用例の記載事項
(1)原査定の平成20年6月17日付け拒絶理由で引用した国際公開第02/040601号(以下「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている。

a:「技術分野
この発明は、工業加熱炉の内壁表面に塗布、またはコーティングして被膜を形成し、炉内における放射伝熱の増大に関する。」(明細書1ページ3?5行)

b:「発明の開示
この発明は、酸化チタン及び還元酸化チタンを、塗料およびコーティング材の基材とする。
本発明は、酸化チタン及び還元酸化チタンの物性及びその変化を利用するものである。以下、酸化チタン及び還元酸化チタンの性質について詳しく述べる。
炭素質燃料の燃焼加熱中の炉内は、炉内温度が1000℃以上の高温になると、炉内の酸素分圧は極端に低くなる。高温の炉内で酸素分圧が低くなると、二酸化チタン(TiO_(2))結晶中の酸素原子は、系外に脱離し、二酸化チタンは還元酸化チタンに変化する。・・・
還元酸化チタンは、Ti_(n)O_(2n-1)、で表すことができる。」(明細書2ページ12?26行)

c:「TiO_(2)は、CO_(2)または、H_(2)雰囲中、800?1200℃でTi_(3)O_(5)に還元される。
これらの外、高温の炉内では、二相共存(混相ともいう)の組成物、すなわち、Ti_(2)O_(3)-Ti_(3)O_(5)、Ti_(3)O_(5)-Ti_(4)O_(7)、Ti_(4)O_(7)-Ti_(5)O_(9)なども出現するが、これら二相共存の組成物は最も黒く不透明であり、エネルギーの吸収・放射率が最も高い。」(明細書4ページ8?12行)

d:「発明を実施するための最良の形態
本発明の実施においては、先ず最初に、その基材とする酸化チタンの選択が問題となる。
本発明の基材を大別すると、
(1).イルメナイト鉱(ilmenite ore)、ルチル鉱(rutile ore)などの天然の鉱石を砕いてそのまま使用する場合、
(2).99%以上の高純度のTiO_(2)を使用する場合、
(3).イルメナイトやルチルH_(2)で還元した還元酸化チタンを使う場合、
(4).製鉄のときにスラグ(滓)として排出するチタン・スラグを使う場合、に分けられる。
(1)の場合は、最も低コストである反面、産地によって含有成分にばらつきがあり、従って、その性能にばらつきが出る。また、TiO_(2)から還元酸化チタンに変化するまでに、炉内のH_(2)濃度、CO_(2)濃度によって、還元反応の速度が異なり、これらの濃度が低いときは、TiO_(2)の還元に長時間を要する。
(2)の場合は、高コストを免れない。その反面、酸化チタンに種々の金属を担持し、またはドープし、目的に応じた触媒機能を持たせるための制御がし易い。
(3)及び(4)の場合は既に還元された酸化チタンを使用するので、本発明の実施においては最も好ましい。」(明細書7ページ18行?8ページ7行)

e:「請求の範囲
1.酸化チタン(還元酸化チタンを含む)を基材とし、これに結合材、無機接着剤を配合したことを特徴とする酸化チタン系熱放射性塗料組成物及びコーティング材組成物。」(明細書10ページ3?5行)

上記記載から引用例1には、下記の発明が記載されているものと認められる。

工業加熱炉の内壁表面に塗布、またはコーティングした酸化チタン(還元酸化チタン(Ti_(n)O_(2n-1))を含む)を基材とした被膜。(以下、「引用発明」という。)。

3.対比
引用発明の「工業加熱炉の内壁表面」は、本願発明の「固体の表面」に相当し、引用発明の「塗布、またはコーティングした」は、本願発明の「形成した」に相当し、引用発明の「被膜」は、本願発明の「皮膜」に相当する。
また、本願発明において、「主に還元酸化チタン(TinO_(2)n-1)または主に還元酸化ジルコニウム(ZrO_(2)-x)からなる、或いはまた、還元酸化チタンの1種と還元酸化ジルコニウムの1種からなる混合物および/または化合物からなる」という記載は、「主に還元酸化チタン」、「主に還元酸化ジルコニウム」、「還元酸化チタンの1種と還元酸化ジルコニウムの1種からなる混合物および/または化合物」の3つが選択的に記載されており、これら3つのうちいずれかであればよいのであるから、引用発明と本願発明とは「還元酸化チタンを含む」という点で一致している。

上記の事項を考慮して、引用発明と本願発明を対比すると、両者は次の点で一致する。
固体の表面に形成した、還元酸化チタンを含む皮膜。

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は、主に還元酸化チタンからなるものであるが、引用発明は、酸化チタン(還元酸化チタン(Ti_(n)O_(2n-1))を含む)を基材とするものである点。

(相違点2)
本願発明においては、赤外活性皮膜であるのに対し、引用発明では、赤外活性については明確な記載がない点。

4.相違点についての判断
(1)相違点1について。
本願発明では、皮膜は主に還元酸化チタンからなるものである。
一方、引用発明では、記載事項dに記載されているように、基材として還元酸化チタンを用いることが記載されているのであるから、皮膜の材料を限定するにあたり、主に還元酸化チタンからなるものであると限定することに何ら困難性は認められず、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について。
本願発明において、「赤外活性」とは、本願明細書の記載からはその技術的意味は必ずしも明らかではないが、審判請求書には「二酸化チタン(TiO_(2))粉末は純白な白色を呈し、赤外線を反射・遮蔽する機能を有する。二酸化チタンが有する、赤外線反射・遮蔽機能は、いろいろな分野において広範囲に使われている。最近においては、「高温域の幅射熱の抑制のため、TiO_(2)のような赤外線遮蔽剤を添加した材料の開発も行われている」。(水熱科学ハンドブック、P317、水熱科学ハンドブック編集委員会、技報堂)。ところが、これを還元酸化チタンに還元・移行せしめると、その熱的性質は正反対の性質、すなわち、黒色を呈して赤外線を吸収し、たくさんの熱エネルギーを放射するようになる。これを本願発明では、赤外活性といっている。還元酸化チタンの赤外活性は、文献1の発明者及び出願人(本願発明の発明者及び出願人と同一)の発見・発明に係るものである。文献1以前に、還元酸化チタンの赤外活性または熱化学反応について述べる文献は存在しない。」(審判請求書3ページ2?13行)との記載があり、この記載からすると、本願発明における「赤外活性」とは、「黒色を呈して赤外線を吸収し、たくさんの熱エネルギーを放射する」ことを意味しているものと認められる。
そして、引用発明の皮膜についても、記載事項aには、「工業加熱炉の内壁表面に塗布、またはコーティングして被膜を形成し、炉内における放射伝熱の増大に関する。」との記載があり、また、記載事項cには、「すなわち、Ti_(2)O_(3)-Ti_(3)O_(5)、Ti_(3)O_(5)-Ti_(4)O_(7)、Ti_(4)O_(7)-Ti_(5)O_(9)なども出現するが、これら二相共存の組成物は最も黒く不透明であり、エネルギーの吸収・放射率が最も高い。」との記載があり、こららの記載を考慮すれば、引用発明の皮膜も、本願発明における「赤外活性」と同様の性質を有しているものと認められるから、引用発明において、相違点2にかかるような構成と限定することに何ら困難性は認められず、当業者が容易になし得ることである。

そして、出願人が主張する効果についても何ら格別のものとは認められない。

5..むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本件審判の請求は成り立たない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-18 
結審通知日 2010-10-26 
審決日 2010-11-08 
出願番号 特願2006-106885(P2006-106885)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (C23C)
P 1 8・ 571- Z (C23C)
P 1 8・ 573- Z (C23C)
P 1 8・ 121- Z (C23C)
P 1 8・ 572- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 祢屋 健太郎市川 篤  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 加藤 友也
田中 永一
発明の名称 赤外活性皮膜とその成膜方法  

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