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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1245616
審判番号 不服2008-24602  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-25 
確定日 2011-10-27 
事件の表示 特願2002-37629「乙種防火戸用グレイジングガスケット」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月31日出願公開、特開2002-317171〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成14年2月15日(優先権主張平成13年2月19日(以下、「優先日」という。)に出願したものであって、平成18年11月22日付けで拒絶理由が通知された後、平成19年2月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年8月27日付けで拒絶査定され、これに対し、同年9月25日付けで審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、平成22年11月12日付けで審尋がされたのち平成23年1月12日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成20年9月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年9月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成20年9月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「(a)下記成分からなり、JIS K 6262 に規定される100℃22時間の条件で測定された圧縮永久歪77%以下の熱可塑性エラストマー100重量部、及び(b)無機充填材11?200重量部を含有する樹脂組成物からなることを特徴とする乙種防火戸用グレイジングガスケット。
前記(a)熱可塑性エラストマー:(c)スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部、(d)ポリプロピレン系樹脂10?200重量部、及び(e)非芳香族系ゴム用軟化剤5?300重量部を含有するスチレン系熱可塑性エラストマー組成物。」

「(a)下記成分からなり、JIS K 6262 に規定される100℃22時間の条件で測定された圧縮永久歪77%以下の熱可塑性エラストマー100重量部、及び(b)無機充填材11?200重量部を含有する樹脂組成物からなることを特徴とする乙種防火戸用グレイジングガスケット。
前記(a)熱可塑性エラストマー:(c)スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部、(d)ポリプロピレン系樹脂10?200重量部、及び(e)重量平均分子量500以上の非芳香族系ゴム用軟化剤5?300重量部を含有するスチレン系熱可塑性エラストマー組成物。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否について
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的について
上記補正は、非芳香族系ゴム用軟化剤について、「重量平均分子量500以上」のものに限定するものである。
この補正事項は、願書に最初に添付した明細書の段落【0036】の「これらの非芳香族系ゴム用軟化剤の・・・重量平均分子量は、500以上が好ましく・・・」との記載に基づくものである。
そうすると、上記補正は、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
また、上記補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許を受けようとする発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

ア 本願補正発明
本件補正後の特許を受けようとする発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、以下のとおりである。
「(a)下記成分からなり、JIS K 6262 に規定される100℃22時間の条件で測定された圧縮永久歪77%以下の熱可塑性エラストマー100重量部、及び(b)無機充填材11?200重量部を含有する樹脂組成物からなることを特徴とする乙種防火戸用グレイジングガスケット。
前記(a)熱可塑性エラストマー:(c)スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部、(d)ポリプロピレン系樹脂10?200重量部、及び(e)重量平均分子量500以上の非芳香族系ゴム用軟化剤5?300重量部を含有するスチレン系熱可塑性エラストマー組成物。」

イ 刊行物
刊行物1:特開昭62-25149号公報(拒絶査定時の引用文献4)
刊行物2:特開昭64-65162号公報
(周知技術であることを示す参考文献)
刊行物3:特開2001-11979号公報
(周知技術であることを示す参考文献)

ウ 刊行物の記載事項
本願出願(優先日)前に日本国内において頒布された上記刊行物1ないし3には、以下の事項が記載されている。
(ア)刊行物1
・摘示事項1-a:「(産業上の利用分野)
本発明は、柔軟性に富み、高温圧縮永久歪、機械的強度、成形加工性に優れ、各種成形物の素材として利用できる高弾性な水添ブロツク共重合体組成物に関するものである。」(第2ページ左上欄第11?15行)
・摘示事項1-b:「(発明が解決しようとする問題点)
上記の提案で得られる水添ブロツク共重合体のエラストマー状組成物は、70℃のゴム弾性(圧縮永久歪)が優れるものの、100℃におけるゴム弾性は70%以上と劣つており、従来加硫ゴム用途で要求されている高温時の圧縮永久歪のレベルに到達せず、熱可塑性エラストマーとしての特徴であるリサイクル成形性を有しながら、高温時のゴム特性はいまだ不十分であるのが現状であり、またこれが当然とされていた。」(第2ページ左下欄第8?17行)
・摘示事項1-c:「すなわち、本発明は、
(1)(a)少なくとも2個のビニル芳香族化合物を主体とする末端重合体ブロツクAと、少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする中間重合体ブロツクBとからなるブロツク共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体a 100重量部
(b)一般式


(ここで、R_(1)、R_(2)、R_(3)、RよびR_(4)はそれぞれ、水素ハロゲン、炭化水素基からなる群から選択されるものであり、nは単量体単位の合計数を表わし、15?140の整数である)の構造を有するホモ重合体およびまたは共重合体であるポリフエニレンエーテル樹脂bが前記aに対してa/b=90/10?30/70(重量比)
(c)非芳香族系ゴム用軟化剤 10?300重量部から成り、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物を、また、
前記(a)、(b)、(c)および
(d)ポリオレフイン系樹脂 5?100重量部から成り、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物を
さらに実施態様として例えば前記(a)、(b)、(c)、(d)および
(e)無機充填剤 20?300重量部
から成り、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物を
またさらに、前記(a)、(b)、(c)および
(e)無機充填剤 20?300重量部から成り、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物などを提供する。」(第2ページ右下欄第11行?第3ページ右上欄第11行)
・摘示事項1-d:「水添ブロツク共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-第3ブチルスチレン等のうちから1種または2種以上が選択でき、中でもスチレンが好ましい。
また水素添加された共役ジエン化合物を構成する水添前の共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、夫・3-ペンタジエン、2・3-ジメチル-1・3-ブタジエン等のうちから1種または2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。そして、水添される前の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロツクは、そのブロツクにおけるミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えばポリブタジエンブロツクにおいては、1・2-ミクロ構造が20?50%、好ましくは25?45%である。
また、上記した構造を有する本発明に供する水添ブロツク共重合体の数平均分子量は5,000?1,000,000、好ましくは10,000?800,000、更に好ましくは30,000?500,000の範囲であり、分子量分布〔重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との(Mw/Mn)〕は10以下である。さらに水添ブロツク共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組合せのいずれであつてもよい。」(第3ページ右下欄第12行?第4ページ左上欄第16行)
・摘示事項1-e:「本発明で(c)成分として用いられるゴム用軟化剤は、得られる組成物を柔軟なゴム状組成物とするための必須成分であり、非芳香族系の鉱物油または液状もしくは低分子量の合成軟化剤が適している。なかでも、一般にゴムの軟化、増容、加工性向上に用いられるプロセスオイルまたはエクステンダーオイルと呼ばれる鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族環、ナフテン環およびパラフイン鎖の三者が組合わさつた混合物あつて、パラフィン鎖の炭素数が全炭素中50%以上を占めるものがパラフイン系と呼ばれ、ナフテン環炭素数が30?45%のものがナフテン系、また、芳香族炭素数が30%より多いものが芳香族系とされる。本発明の成分(c)として用いられる鉱物油系ゴム軟化剤は、上記の区分でナフテン系およびパラフィン系のものが好ましく、芳香族炭素数が30%以上の芳香族系のものは、前記成分(a)との組成において分散性および溶解性の点で好ましくない。これらの非芳香香族系ゴム用軟化剤の性状は、37.8℃における動粘度が20?500cst、流動点が-10?-15℃および引火点が170?300℃を示す。合成軟化剤としては、ポリブテン、低分子量ポリブタジエン等が使用可能であるが、上記鉱物油系ゴム用軟化剤の方が良好な結果を与える。
成分(c)の軟化剤の配合量は、成分(a)の100重量部に対して10?300重量部であり、好ましくは20?250重量部である。300重量部を超えた配合のものは、軟化剤のブリードアウトを生じやすく、最終製品に粘着性を生ずるおそれがあり、機械的性質も低下せしめる。また10重量部未満の配合では、得られる組成物が樹脂組成物に近くなり、硬度が増し、柔軟性を失なうほかに、経済性の点からも好ましくない。」(第5ページ左上欄第4行?右上欄第16行)
・摘示事項1-f:「つぎに、本発明の(d)成分として用いられるポリオレフィン系樹脂は得られる組成物の加工性、およびまたは耐熱性向上に有効であり、例えばポリエチレン、アイソタクチツクポリプロピレンや、プロピレンと他の少量のα-オレフインの共重合体、例えばプロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-4-メチル-1ペンテン共重合体、およびポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリブテン-1等を挙げることができる。用いられるオレフィン系樹脂のMFR(ASTM-D-1238-L条件、230℃)は0.1?50g/10分、とくに0.5?30g/10分の範囲のものが好ましい。
成分(d)の配合量は、成分(a)100重量部に対し5?100重量部であり、好ましくは10?70重量部である。100重量部を超えた配合では、得られるエラストマー状組成物の硬度が高くなりすぎて柔軟性が失なわれ、ゴム的感触の製品が得られないばかりでなく、高温でのゴム弾性(圧縮永久歪)が極度に悪化し好ましくない。また、5重量部未満の配合では、該ポリオレフイン系樹脂が未添加の本発明の組成物と同等の加工性を発揮する。」(第5ページ右上欄第17行?左下欄第18行)
・摘示事項1-g:「さらに、本発明の実施態様の例として(e)成分として用いられる無機充填剤は増量剤として製品コストの低下をはかることの利益があるばかりΔなく、品質改良(圧縮永久歪等)に積極的効果を付与する。
無機充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、カーボンブラツク、タルク、水酸化マグネシウム、マイカ、クレー、硫酸バリウム、天然けい酸、合成けい酸(ホワイトカーボン)、酸化チタン等があり、カーボンブラツクとしてはチヤンネルブラツク、フアーネスブラツク等が使用できる。これらの無機充填剤のうち、タルク、炭酸カルシウムおよびフアーネスブラツクは経済的にも有利で好ましいものである。また導電性を付与するために導電性フイラーの添加も可能であり、例えばケツチエンブラツク等の導電性カーボンを用いてもかまわない。
無機充填剤の配合量は、成分(a)の水添ブロツク共重合体100重量部に対し20?300重量部であり、好ましくは30?250重量部である。300重量部を超える配合では、組成物の機械的強度の低下が著しく、かつ、硬度が高くなつて柔軟性が失なわれ、ゴム的な感触の製品が得られなくなる。また20重量部未満の配合では、該無機充填剤の未添加配合で得られる本発明の組成物と同等の性能を発揮する。
本発明の高弾性エラストマー状組成物にさらに必要に応じて難燃剤、ガラス繊維、カーボン繊維、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、着色剤を加えることができる。」(第5ページ左下欄第19行?第6ページ左上欄第9行)
・摘示事項1-h:「(発明の効果)
本発明によつて得られる組成物は、柔軟性、耐熱性、機械的強度、高温時のゴム弾性に優れかつ、成形加工時、塗装性、および電気絶縁性に優れるため、その使用分野としては、高ゴム弾性の特徴を生かして各種電線被覆(絶縁、シース)、家電部品、自動車部品、および各種工業部品に好適に成形し用いることができる。具体的な用途としては、各種ガスケット類、屈曲性チューブ、ホース被覆、ウェザ-ストリップ、屈曲性バンパー、サイドバンパー、モール、フイラーパネル、ライプハウジング、ワイヤーケーブル被覆、エアーインテークホース、クツシオンパネル等がある。」(第6ページ右上欄第8?20行)
・摘示事項1-i:「(実施例)
以上、本発明を実施例によつて更に詳細に説明するが、本発明がこれら実施例により限定されるものではない。
なお、これらの実施例および比較例において、各種の評価に用いられた試験法は以下のとおりである。
(1)硬度〔-〕
JIS-K6301、Aタイプ
(2)引張強度〔kg/cm^(2)〕および引張伸度〔%〕JIS-K-6301、試料は2mm厚のインジエクシヨンシ-トを用い、試験片は3号形。
(3)圧縮永久歪〔%〕
JIS-K-6301、70℃および100℃22時間、25%変形。
また配合した各成分は以下のとおりである。
(1)<成分(a-1)>
ポリスチレン-水素添加されたポリブタジエン-ポリスチレンの構造を有し、結合スチレン量27%、数平均分子量157,000、分子量分布1.07、水添前のポリブタジエンの1・2結合量が34%、水添率98%の水添ブロツク共重合体を合成し、成分(a-1)とした。
<成分(a-2)>
(ポリスチレン-水素添加されたポリブタジエン)_(4)-Siの構造を有し、結合スチレン量36%、数平均分子量379,000、分子量分布1.35、水添前のポリブタジエンの1・2結合量が27%、水添率99%の水添ブロツク共重合体を合成し、成分(a-2)とした。
<成分(a-3)>
シエル・ケミカル社製KRATON-G1651
<成分(a-4)>
シエル・ケミカル社製KRATON-G1650
(2)成分(b)
出光興産社製ダイアナプロセスオイルPW-380〔パラフイン系、動粘度;381.6cst(40℃)、30.1cst(10℃)、平均分子量746、環分析;CN=27%、CP=73%〕
(3)成分(c)
旭化成社製ポリプロピレン樹脂、M-1300〔MFR(230℃)4g/10分〕
(4)成分(d)
白石カルシウム社製炭酸カルシウム、ホワイトインSB
(5)成分(e)
ポリフエニレンエーテル樹脂として、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フエニレン)エーテル<還元粘度;0.37,0.57>を合成した。
実施例1?6
水添ブロツク共重合体として(a-1)?(a-3)を用い、まだポリフエニレンエーテルとして還元粘度0.57のものを用い表-1に示す各成分をヘンシエルミキサーで混合後、50mm径の二軸押出機にて250℃の条件で溶融混練し熱可塑性エラストマーのペレツトを得た。これを射出成形品として評価し、結果を表1に載せた。
この結果から、本発明のエラストマー状組成物は100℃の圧縮永久歪が50%以下であり、高温時のゴム弾性に優れることが明らかである。まださらにこれらの組成物は成形加工性にも優れていた。

」(第6ページ左下欄第1行?第7ページ右上欄第1行及び表1)

(イ)刊行物2
・摘示事項2-a:「(1)(A)塩素化塩化ビニル樹脂100重量部に(B)軟質剤40重量部以上、及び(C)難燃性強化剤20重量部以上を含有させたJISA硬度が98以下である難燃性軟質樹脂組成物。
・・・略・・・
(6)該(C)難燃性強化剤が炭酸カルシウム、けい酸ナトリウム、二酸化けい素、金属酸化物、金属水酸化物、金属粉、メラミンシアヌレート、及びマイカからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の添加物である特許請求の範囲第(1)項記載の難燃性軟質樹脂組成物。
(7)防火用ガラスサッシ戸のガスケットの構成に用いられる特許請求の範囲第(1)項記載の難燃性軟質樹脂組成物。
(8)電力ケーブルの構成に用いられる特許請求の範囲第(1)項記載の難燃性軟質樹脂組成物。
(9)電線シースの構成に用いられる特許請求の範囲第(1)項記載の難燃性軟質樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
・摘示事項2-b:「〔従来の技術及びその問題点〕
ガラス窓又はガラスサッシ戸用ガスケット特に防火用ガラスサッシ戸のガスケットや電力ケーブル、電線シス、建材用パッキン、自動車用ガスケットなどの電気、建築、車両用成形品は、従来合成ゴム、ポリエチレン、軟質塩ビ、その他の軟質系プラスチックを用いて成形されているが、ビル火災や地下ケーブル火災、車両火災等の非常時における安全性の点で問題を生じる場合が多い。例えば、合成ゴム製品は、ゴム弾性があり耐屈曲性に優れているが、可燃性で火災時延焼を助長し多量の煤を供った煙を生じさせる欠点がある。又ポリエチレン製品は、電気特性や可撓性に優れているが非常に燃え易く、例えばケーブルに用いた場合、火災時に燃焼・軟化し電線から容易に離脱してしまい、ショート事故など二次災害の原因を起すことがある。
一方、軟質塩化ビニルは自消性である点では前2者より優れるが、可塑剤により難燃性が低下している上に、火災時軟化して吊れるため、例えば防火戸用ガスケットなどに用いた場合、火災時ガラス板がガスケットから離脱してはずれ防火戸の役割を果たせないことがある。
従来、合成ゴム、ポリエチレン、軟質塩化ビニル等に難燃性を付与する方法としては、三酸化アンチモン等の難燃剤を添加することが知られているが、このような方法は、難燃剤の毒性問題があり、又火災時の煙の問題や軟化による変形、溶融滴下の問題を解決できない。」(第2ページ左上欄第11行?右上欄第19行)
・摘示事項2-c:「又、本発明で用いる(C)難燃性強化剤とは塩素化塩化ビニル樹脂及び塩化ビニル樹脂の混合樹脂と相まって難燃性を強化、増強する添加剤であり、例えば前記混合樹脂と前記添加剤との焼結作用により本発明の組成物の難燃性を強化、増強する添加剤である。
前記添加剤としては好ましくは炭酸カルシウム、けい酸ナトリウム、二酸化けい素、金属酸化物、金属水酸化物、金属粉、メラミンシアヌレート、及びマイカからなる群から少なくとも1種以上が選択使用される。
又、上記添加剤成分を1種以上含有した化学工業副生品や天然物、例えば、石灰窒素からジシアンジアミドを製造する際に副生するジシアン残渣、火力発電時に生ずる石炭灰、天然のマイカ等を使用することもできる。
上記金属酸化物としては酸化チタン、酸化亜鉛、酸化第2鉄、酸化アルミニウム等が使用され、上記金属水酸化物としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化第1鉄、水酸化亜鉛等が使用され、また上記金属粉としては鉄粉、アルミ粉、亜鉛粉、鉛粉、銅粉等が使用される。これら添加剤のうち特に、メラミンシアヌレート、けい酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、鉄粉、酸化第3鉄粉が好適である。」(第3ページ右下欄第20行?第4ページ右上欄第5行)
・摘示事項2-d:「〔実施例〕
以下に本発明の実施例を挙げる。なお、実施例中「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を示す。
実施例1
塩素化塩化ビニル樹脂として、塩化ビニル樹脂を後塩素化し、塩素含量68%、比粘度0.27としたもの100部を用い、これに、安定剤として三塩基性硫酸鉛4部、及び二塩基性ステアリン酸鉛1.5部、ステアリン酸鉛1部を配合し、軟質剤である可塑剤として、塩素含量40%の塩素化パラフィン(トヨパラックス40、東洋曹達(株)製)80部、難燃性強化剤である添加物として、平均粒径0.5μの酸化第二鉄100部、及び軟質剤であるエラストマーとして、塩素含量85%の塩素化ポリエチレン(エラスレン851、昭和電工(株)製)100部を加え、これらを石川式擂潰器にて110℃で20分混合した後、8^(#)径ミキシングロールにて150?170℃で10分間混練し、0.55mm厚のロールシートを製造した。このロールシートを所要枚数積層し、容量80Tのプレス機にて5分間予熱し、成形圧60Kg/cm^(2)で5分間プレスして所要厚みのプレス板(試料)を成形した。
実施例2?14
(A)塩素化塩化ビニル樹脂、(B)軟質剤(可塑剤及び/又はエラストマー)及び(C)難燃性強化剤を下記表-1、表-8に示す成分及び量とする以外は実施例1と全く同様にしてプレス板(試料)を成形した。
比較例1?8
(A)塩素化塩化ビニル樹脂、(B)軟質剤(可塑剤及び/又はエラストマー)及び(C) 難燃性強化剤を下記表-1、表-8に示す成分及び量とする以外は実施例1と同様にしてプレス板(試料)を成形した。
試験例
上記実施例1?14及び比較例1?8についてそれぞれの実施時における加工性(ドライアップ性、ロール加工剥離性〕並びに上記実施例1?14及び比較例1?8それぞれで成形した上記プレス板(試料)についての燃焼性、焼結性及びゴム弾性を、下記試験方法により評価した。又、上記プレス板についてのJISA硬度、及び下記の方法により加工粘度(混練トルク)を測定した。それらの評価結果及び測定結果を下記表-2及び表-4に示す。
(試験方法)
・・・略・・・
(2)燃焼性
厚み8mm、巾8cm、長さ10cmの試片を水平に支持し、その端部にバーナーの炎を10秒間接炎した後の燃焼時間(秒)及び発煙量を測定した。但し、発煙量は肉眼で評価した。
・・・略・・・

」(第5ページ左上欄第17行?右下欄第第20行及び表-1、表-2)

(ウ)刊行物3
・摘示事項3-a:「上記無機充填剤の中でも、特に骨材的役割を果たす炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩;骨材的役割の他に加熱時に吸熱効果を付与する水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の含水無機物が好ましい。上記含水無機物及び金属炭酸塩を併用は、燃焼残渣の強度向上や熱容量増大に大きく寄与すると考えられる。
さらに、上記含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、加熱残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで残渣強度が向上する点で特に好ましい。中でも、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広くなり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。」(段落【0029】及び【0030】)

エ 刊行物に記載された発明
刊行物1には、「・・・本発明は、柔軟性に富み、高温圧縮永久歪、機械的強度、成形加工性に優れ、各種成形物の素材として利用できる高弾性な水添ブロツク共重合体組成物に関するもの・・・」(摘示事項1-a)であって、「すなわち、本発明は、
(1)(a)少なくとも2個のビニル芳香族化合物を主体とする末端重合体ブロツクAと、少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする中間重合体ブロツクBとからなるブロツク共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体a 100重量部
(b)一般式

(ここで、R_(1)、R_(2)、R_(3)、Rよび(審決注:「および」の誤記と認められる。)R_(4)はそれぞれ、水素ハロゲン、炭化水素基からなる群から選択されるものであり、nは単量体単位の合計数を表わし、15?140の整数である)の構造を有するホモ重合体およびまたは共重合体であるポリフエニレンエーテル樹脂bが前記aに対してa/b=90/10?30/70(重量比)
(c)非芳香族系ゴム用軟化剤 10?300重量部から成り、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物を、また、
前記(a)、(b)、(c)および
(d)ポリオレフイン系樹脂 5?100重量部から成り、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物を
さらに実施態様として例えば前記(a)、(b)、(c)、(d)および
(e)無機充填剤 20?300重量部
から成り、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物・・・」(摘示事項1-c)と記載されている。
すなわち、前記(a)、(b)、(c)、(d)および(e)無機充填剤 20?300重量部から成り、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物が記載されているところ、一方で、(e)無機充填剤を含まない組成物についても、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有することが記載されている。
そうすると、まず刊行物1には、
「(a)少なくとも2個のビニル芳香族化合物を主体とする末端重合体ブロックAと、少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする中間重合体ブロックBとからなるブロツク共重合体を水素添加して得られる水添ブロツク共重合体a100重量部
(b)一般式

(ここで、R_(1)、R_(2)、R_(3)、およびR_(4)はそれぞれ、水素ハロゲン、炭化水素基からなる群から選択されるものであり、nは単量体単位の合計数を表わし、15?140の整数である)の構造を有するホモ重合体およびまたは共重合体であるポリフエニレンエーテル樹脂bが前記aに対してa/b=90/10?30/70(重量比)
(c)非芳香族系ゴム用軟化剤10?300重量部
(d)ポリオレフイン系樹脂5?100重量部
から成り、圧縮永久歪(100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物に加え、さらに
(e)無機充填剤 20?300重量部
から成る組成物」について記載されている。
ついで、刊行物1には、(d)ポリオレフイン系樹脂に関し、「・・・例えばポリエチレン、アイソタクチツクポリプロピレンや、プロピレンと他の少量のα-オレフインの共重合体、例えばプロピレン-エチレン共重合体・・・」(摘示事項1-f)と記載されているし、実施例においては、「旭化成社製ポリプロピレン樹脂、M-1300〔MFR(230℃)4g/10分〕」(摘示事項1-i)が使用されている。
また、(c)非芳香族系ゴム用軟化剤に関し、「・・・本発明の成分(c)として用いられる鉱物油系ゴム軟化剤は、上記の区分でナフテン系およびパラフイン系のものが好ましく、芳香族炭素数が30%以上の芳香族系のものは、前記成分(a)との組成において分散性および溶解性の点で好ましくない。これらの非芳香香族系ゴム用軟化剤の性状は、37.8℃における動粘度が20?500cst、流動点が-10?-15℃および引火点が170?300℃を示す。・・・」(摘示事項1-e)と記載されているし、実施例においては、「出光興産社製ダイアナプロセスオイルPW-380〔パラフイン系、動粘度;381.6cst(40℃)、30.1cst(10℃)、平均分子量746、環分析;CN=27%、CP=73%〕」(摘示事項1-i)が使用されている。
さらに、「具体的な用途としては、各種ガスケツト類・・・」(摘示事項1-h)と記載されている。
ところで、上記圧縮永久歪(100℃×22時間)に関し、「・・・(3)圧縮永久歪〔%〕
JIS-K-6301、70℃および100℃22時間、25%変形。・・・」(摘示事項1-i)と定義されている。

そうすると、刊行物1には、
「(a)少なくとも2個のビニル芳香族化合物を主体とする末端重合体ブロックAと、少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする中間重合体ブロックBとからなるブロツク共重合体を水素添加して得られる水添ブロツク共重合体a100重量部
(b)一般式

(ここで、R_(1)、R_(2)、R_(3)、およびR_(4)はそれぞれ、水素ハロゲン、炭化水素基からなる群から選択されるものであり、nは単量体単位の合計数を表わし、15?140の整数である)の構造を有するホモ重合体およびまたは共重合体であるポリフエニレンエーテル樹脂bが前記aに対してa/b=90/10?30/70(重量比)
(c)非芳香族系ゴム用軟化剤(出光興産社製ダイアナプロセスオイルPW-380 平均分子量746)10?300重量部
(d)ポリプロピレン樹脂5?100重量部
から成り、圧縮永久歪(JIS-K-6301 100℃×22時間)が65%以下の性能を有する高弾性な水添ブロツク共重合体組成物に加え、さらに
(e)無機充填剤 20?300重量部
から成る組成物を用いたガスケット。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

オ 対比・判断
(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「(a)少なくとも2個のビニル芳香族化合物を主体とする末端重合体ブロツクAと、少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする中間重合体ブロツクBとからなるブロツク共重合体を水素添加して得られる水添ブロツク共重合体a」は、本願補正発明の「(c)スチレン系熱可塑性エラストマー」に相当する。
また、圧縮永久歪の規格について、引用発明のJIS K 6301は廃止され、JIS K 6262に引き継がれている。
さらに、引用発明の「(c)非芳香族系ゴム用軟化剤」は、「出光興産社製ダイアナプロセスオイルPW-380(平均分子量746)」であるところ、この分子量が重量平均分子量なのか数平均分子量であるのか不明である。しかしながら、本願補正明細書の段落【0048】には、「(3)非芳香族系ゴム用軟化剤成分(e):パラフインオイル PW-380(出光興産株式会社製)、重量平均分子量;800」と引用発明と同じものが記載されていることから、引用発明の「(c)非芳香族系ゴム用軟化剤(出光興産社製ダイアナプロセスオイルPW-380 平均分子量746)」の重量平均分子量は少なくとも500以上であると認められる。
引用発明の「高弾性な水添ブロツク共重合体組成物」は、本願補正発明と同じく、(a)水添ブロツク共重合体a、(d)ポリプロピレン樹脂、及び(c)非芳香族系ゴム用軟化剤を含有するものであるから、本願補正発明の「(a)熱可塑性エラストマー」及び「スチレン系熱可塑性エラストマー組成物」に相当する。
そして、引用発明の(e)無機充填剤の配合量は、成分(a)の水添ブロック共重合体100重量部に対し20?300重量部であるから、高弾性な水添ブロツク共重合体組成物100重量部に換算すると、(e)20/((a)100+(b)42.9+(c)300+(d)100)×100?(e)300/((a)100+(b)11.1+(c)10+(d)5)×100=3.7?238重量部となる。
そうすると、両者は、
「(a)下記成分からなり、JIS K 6262 に規定される100℃22時間の条件で測定された圧縮永久歪77%以下の熱可塑性エラストマー100重量部、及び(b)無機充填材11?200重量部を含有する樹脂組成物からなるガスケット。
前記(a)熱可塑性エラストマー:(c)スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部、(d)ポリプロピレン系樹脂10?100重量部、及び(e)重量平均分子量500以上の非芳香族系ゴム用軟化剤10?300重量部を含有するスチレン系熱可塑性エラストマー組成物。」である点で一致し、下記の点で相違する。
i)ガスケットの用途として、本願補正発明は「乙種防火戸用グレイジングガスケット」と規定されているのに対し、引用発明はそのような規定がされていない点(以下、「相違点i)」という。)

(イ)相違点の検討
刊行物1には、「その使用分野としては、高ゴム弾性の特徴を生かして各種電線被覆(絶縁、シース)、家電部品、自動車部品、および各種工業部品に好適に成形し用いることができる。」(摘示事項1-h)と記載され、各種工業製品の中に建築部品が包含されることは自明である。また、例えば刊行物2(摘示事項2-a)に示されるように、家電部品、自動車部品と共にガスケット等の建築部品においては、一般的に耐火性が要求されることも当業者にとって自明の事項である。
そうしてみると、引用発明のガスケットにおいて、安全性の観点から耐火性をより向上させようと着想することは至極通常のことである。そして、特に建築基準法で定められる乙種防火戸用グレイジンガスケットは、その耐火性の基準が一般的なものより厳しいことは広く知られているのであるから、耐火性をより向上させるに際して、その基準を乙種防火戸用グレイジンガスケットに設定すること自体も当業者の想定の範囲の事項である。
よって、引用発明のガスケットの用途を、乙種防火戸用グレイジンガスケットとすることは当業者が容易に想到し得ることと認められる。

なお、引用発明は無機充填剤を含有するものであるところ、その無機充填剤としては、「例えば炭酸カルシウム、カーボンブラツク、タルク、水酸化マグネシウム、マイカ、クレー、硫酸バリウム、天然けい酸、合成けい酸(ホワイトカーボン)、酸化チタン等があり、カーボンブラツクとしてはチヤンネルブラツク、フアーネスブラツク等が使用できる。」(摘示事項1-g)と記載されているところ、これらの無機充填剤について、耐火性の効用については特に述べられていない。
しかしながら、例えば刊行物2(摘示事項2-a)において、「(6)該(C)難燃性強化剤が炭酸カルシウム、けい酸ナトリウム、二酸化けい素、金属酸化物、金属水酸化物、金属粉、メラミンシアヌレート、及びマイカからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の添加物である特許請求の範囲第(1)項記載の難燃性軟質樹脂組成物。」と記載されているように、引用発明の無機充填剤のうち、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、マイカが難燃性の充填剤であることは周知であるし、また、例えば刊行物3(摘示事項3-a)に示されるように、水酸化マグネシウムは、「上記含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる」ことも広く知られているところである。
このため、引用発明のガスケットに含有される無機充填剤として、耐火性能を奏する炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、マイカを選択することで、乙種防火戸用グレイジングガスケットとすることに何ら技術的な困難は伴うものとは認められない。

(ウ)効果について
A 本願補正明細書に記載の効果について
本願補正発明の効果は、本願補正明細書の段落【0005】及び【0057】等からみて、JISA 5756で規定するHSA硬さ50?80における引張強さ、伸び、圧縮永久歪等の各種規格及びを満足し、さらに、建築ガスケット工業会で定めた乙種防火戸用ガスケットの基準である500℃加熱で、着炎時間が120秒以上かつ温度時間面積(℃・分)が50以下のものを満足する、というものである。
これに対し、 引用発明の実施態様である実施例6は、硬度(JIS-K6301、Aタイプ)73、引張強度80kg/cm^(2)=7.84Mpa、伸び390%、圧縮永久歪31%のものが得られ、本願補正発明の実施例の各値と同程度の値が得られている。
そして、上記(イ)で述べたように、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、マイカが難燃性の充填剤であることは周知の事項であるから、無機充填剤として、耐火性能を奏する炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、マイカを選択した場合、耐火性能が向上することは定性的に当業者が予測し得る事項である。
よって、本願補正発明の効果は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が予測し得るものである。

B 実験成績証明書について
審判請求人は、審判請求書において、「(e)成分の非芳香族系ゴム用軟化剤を重量平均分子量500以上に特定することにより、顕著な効果が奏される。出願当初の明細書0036欄には、「重量平均分子量は、500以上が好ましく、より好ましくは700以上である。重量平均分子量が500未満では、配合する量にかかわらず発熱特性が基準を満足しなくなる。」と記載されている。本出願人は、(e)成分の非芳香族系ゴム用軟化剤を重量平均分子量500以上に特定することにより顕著な効果が奏されることを証明するために、以下に実験成績証明書を添付する。」と、(e)成分の非芳香族系ゴム用軟化剤を重量平均分子量500以上に特定することによる効果の顕著性を主張しているので検討する。
しかしながら、引用発明は、非芳香族系ゴム用軟化剤として、本願発明の実施例と同じく出光興産社製ダイアナプロセスオイルPW-380である重量平均分子量が500以上のものを使用しているのであるから、自ずとその効果を奏するものである。
また、刊行物1においては、非芳香族系ゴム用軟化剤に関し、「・・・これらの非芳香香族系ゴム用軟化剤の性状は・・・引火点が170?300℃を示す。・・・」(摘示事項1-e)と記載されている。
そして、引用発明において、耐火性をより向上させようと着想した場合にあっては、当業者は、非芳香族系ゴム用軟化剤においても、引火点がより高い、すなわち平均分子量が多いものを選択するものと認められる。
そうすると、非芳香族系ゴム用軟化剤の平均分子量を500以上に特定したことによる効果は、格別顕著なものとは認められない。

カ 小括
以上より、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の特許を受けようとする発明は、平成19年2月16日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「(a)下記成分からなり、JIS K 6262 に規定される100℃22時間の条件で測定された圧縮永久歪77%以下の熱可塑性エラストマー100重量部、及び(b)無機充填材11?200重量部を含有する樹脂組成物からなることを特徴とする乙種防火戸用グレイジングガスケット。
前記(a)熱可塑性エラストマー:(c)スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部、(d)ポリプロピレン系樹脂10?200重量部、及び(e)非芳香族系ゴム用軟化剤5?300重量部を含有するスチレン系熱可塑性エラストマー組成物。」

第4 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成18年11月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というもので、その備考において「理由2」とあるところ、その理由2とは、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、その具体的理由は、「引用例4?5には、所定の圧縮永久歪を満たす熱可塑性エラストマー、無機充填材を所定量含有するガスケット材が記載されている(引用例4:請求項1?2、第6頁右上欄第16行目、実施例1?6等、引用例5:請求項1?2、第6頁左下欄第2行目、実施例1?5等)。そして、ガスケット材を建築用に特定することは、当業者であれば所望に応じ適宜なし得ることである。」(拒絶理由通知書の(備考))、及び「引用文献4には、本願発明のものと同一組成のエラストマーと無機充填剤とを、本願発明のものと同一の量比で配合し、しかも、同一の圧縮永久歪みを有する組成物が記載されており(実施例)、当該組成物をガスケットに用いることができる旨も記載されている(6頁右上欄)。そして、引用文献4には、当該組成物が高温時のゴム弾性に優れることも記載されているので(8頁左下欄最終行)、引用文献4に記載の組成物を、ガスケットの中でも高温で使用される分野に用いて、本願発明のような構成とする程度のことは、当業者であれば検討する範囲のことであると認められる。また、そのことによる効果も格別のものでもない。」(原査定の備考)というものである。

第5 当審の判断
1 刊行物
刊行物1:特開昭62-25149号公報(拒絶査定時の引用文献4)
刊行物2:特開昭64-65162号公報
(周知技術であることを示す参考文献)
刊行物3:特開2001-11979号公報
(周知技術であることを示す参考文献)

2 刊行物の記載
上記刊行物1ないし3は、上記「第2 2(2)イ」の刊行物1ないし3である。
そして、これらの記載事項は、上記「第2 2(2)ウ」に摘示したとおりである。

3 刊行物に記載された発明
上記刊行物1には、上記「第2 2(2)エ」に示したとおり、「引用発明」が記載されている。

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明は、上記「第2 2(2)ア」の本願補正発明の発明特定事項のうち、非芳香族系ゴム用軟化剤の「重量平均分子量500以上」なる事項を欠くものである。
そうすると、両者は、「第2 2(2)オ(ア)」に示したのと同様、
「(a)下記成分からなり、JIS K 6262 に規定される100℃22時間の条件で測定された圧縮永久歪77%以下の熱可塑性エラストマー100重量部、及び(b)無機充填材11?200重量部を含有する樹脂組成物からなるガスケット。
前記(a)熱可塑性エラストマー:(c)スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部、(d)ポリプロピレン系樹脂10?100重量部、及び(e)非芳香族系ゴム用軟化剤10?300重量部を含有するスチレン系熱可塑性エラストマー組成物。」である点で一致し、下記の点で相違する。
i’)ガスケットのさらなる用途として、本願発明は「乙種防火戸用グレイジングガスケット」と規定されているのに対し、引用発明はそのような規定がされていない点(以下、「相違点i’)」という。)

(2)相違点i’)の検討
相違点i’)は、上記相違点i)と同じである。
よって、上記「第2 2(2)オ(イ)」に示したのと同じ理由により、相違点i’)は当業者が容易に想到し得るものである。

(3)本願発明の効果について
本願発明の効果も、本願補正発明の効果と同様であるため、上記「第2 2(2)オ(ウ)」に示したのと同じ理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が予測し得るものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

6 補正案について
(ア)補正案
請求人は回答書において、「(3-4)平成20年9月25日付で提出した手続補正書に記載の請求項1および審判請求書の内容においても拒絶理由が解消しない場合、審判請求人は、当該拒絶理由を解消するために、以下の請求項1補正案(2)のように本願請求項1を補正する用意がある。
・・・・略・・・
(請求項1補正案(2))
『(a)(c)スチレン-イソプレン-スチレン共重合体からなるブロック共重合体の水素添加物であって、イソプレンブロツクの70?100重量%が1,4-ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたスチレン系熱可塑性エラストマー100重量部、(d)ポリプロピレン系樹脂10?200重量部及び(e)重量平均分子量500以上の非芳香族系ゴム用軟化剤5?300重量部からなり、JIS K 6262 に規定される100℃22時間の条件で測定された圧縮永久歪77%以下のスチレン系熱可塑性エラストマー組成物100重量部、及び
(b)無機充填材11?200重量部を含有する樹脂組成物からなることを特徴とする乙種防火戸用グレイジングガスケット。』
・・・・略・・・
(3-5) 平成20年9月25日付で提出した手続補正書に記載の請求項1および審判請求書の内容においても拒絶理由が解消しない場合、審判請求人は、上記請求項1補正案(2)に、さらに現在の請求項2に記載の限定事項を導入する用意がある。以下の請求項1補正案(3)を参照されたい。以下の請求項1補正案(3)により当該拒絶理由が解消する場合、審判官殿においては、拒絶理由通知書の送付をお願いいたします。
(請求項1補正案(3))
『(a)(c)スチレン-イソプレン-スチレン共重合体からなるブロック共重合体の水素添加物であって、イソプレンブロツクの70?100重量%が1,4-ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたスチレン系熱可塑性エラストマー100重量部、(d)ポリプロピレン系樹脂10?200重量部及び(e)重量平均分子量500以上の非芳香族系ゴム用軟化剤5?300重量部からなり、JIS K 6262 に規定される100℃22時間の条件で測定された圧縮永久歪48%以下のスチレン系熱可塑性エラストマー組成物100重量部、及び
(b)無機充填材11?200重量部を含有する樹脂組成物からなることを特徴とする乙種防火戸用グレイジングガスケット。』」と補正案を示しているため、念のため検討する。

(イ)補正案(2)について
補正案(2)は、本願補正発明のスチレン系熱可塑性エラストマーについて、「スチレン-イソプレン-スチレン共重合体からなるブロツク共重合体の水素添加物であって、イソプレンブロツクの70?100重量%が1,4-ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加された」ものに限定されるものである。
しかしながら、引用発明のスチレン系熱可塑性エラストマーもブロツク共重合体の水素添加物であるところ、刊行物1には、「また水素添加された共役ジエン化合物を構成する水添前の共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン・・・等のうちから1種または2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。」(摘示事項1-d)と記載されているように、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体からなるブロツク共重合体の水素添加物を用いることについても記載されている。また、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体からなるブロック共重合体の水素添加物として、「イソプレンブロツクの70?100重量%が1,4-ミクロ構造を有し、かつイソプレンに由来する脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加された」ものも、例えば特開平10-251480号公報の段落【0012】に記載されているように周知のものである。
よって、補正案(2)であっても、拒絶の理由を解消するものではない。

(ウ)補正案(3)について
補正案(3)は、本願補正発明のスチレン系熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪を48%以下に限定するものである。
しかしながら、引用発明の実施態様である実施1、3及び4のスチレン系熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪は48%以下となっている。
よって、補正案(3)であっても、拒絶の理由を解消するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、本願は、その余を検討するまでもなく拒絶すべきものである。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-22 
結審通知日 2011-08-30 
審決日 2011-09-12 
出願番号 特願2002-37629(P2002-37629)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
P 1 8・ 575- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 英一油科 壮一木村 敏康  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 橋本 栄和
細井 龍史
発明の名称 乙種防火戸用グレイジングガスケット  
代理人 ▲橋▼場 満枝  
代理人 赤澤 日出夫  

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