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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1245652 |
審判番号 | 不服2010-7068 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-04-05 |
確定日 | 2011-10-27 |
事件の表示 | 特願2005-377922「情報処理装置およびその内蔵ハードディスクドライブのヘッド退避処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月12日出願公開、特開2007-179673〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成17年12月28日に出願したものであって、平成21年9月24日付けの拒絶理由通知に対する応答期間内の同年11月27日付けで手続補正がなされたが、同年12月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年4月5日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付で手続補正がなされた。 その後、平成23年5月11日付けで前置報告書を利用した審尋がなされ、同年7月13日付けで回答書が提出されたものである。 第2 平成22年4月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年4月5日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 平成22年4月5日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前に、 「【請求項1】 ヘッドを退避領域に移動させることが可能なハードディスクドライブと、 加速度を検出する加速度センサーと、 前記加速度センサーにより検出された加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め、この振動レベルと閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断する判断部と、 ユーザからの情報を入力するキーボードと、 前記キーボードからの入力の有無を判断する入力判断部と、 前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生が有ると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定部と を具備することを特徴とする情報処理装置。 【請求項2】 前記加速度センサーは3軸方向の加速度を検出し、前記判断部は、前記加速度センサーにより検出された3軸方向の加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め、この振動レベルと設定された閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断することを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。 【請求項3】 前記判断部は、EC(Embedded Controller)に組み込まれていることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。 【請求項4】 加速度センサーにて加速度を検出するステップと、 前記検出された加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め、この振動レベルと閾値とを比較してハードディスクドライブのヘッドの退避領域への移動の要否を判断する判断ステップと、 前記キーボードからの入力の有無を判断する入力判断ステップと、 前記入力判断ステップで前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断ステップで前記キーボードからの入力の発生が有ると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定ステップと を具備することを特徴とする内蔵ハードディスクドライブのヘッド退避処理方法。 【請求項5】 前記加速度センサーは3軸方向の加速度を検出し、前記判断ステップは、前記加速度センサーにより検出された3軸方向の加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め、この振動レベルと設定された閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断することを特徴とする請求項4記載の内蔵ハードディスクドライブのヘッド退避処理方法。」 とあったところを、 本件補正後、 「【請求項1】 ヘッドを退避領域に移動させることが可能なハードディスクドライブと、 加速度を検出する加速度センサーと、 前記加速度センサーにより検出された加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め、この振動レベルと閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断する判断部と、 ユーザからの情報を入力するキーボードと、 前記キーボードをスキャンし、前記キーボードからの入力の有無を判断する入力判断部と、 前記入力判断部が前記キーボードをスキャンするごとに前記閾値を設定する閾値設定部であって、前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生が有ると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定部と を具備することを特徴とする情報処理装置。 【請求項2】 前記加速度センサーは3軸方向の加速度を検出し、前記判断部は、前記加速度センサーにより検出された3軸方向の加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め、この振動レベルと設定された閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断することを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。 【請求項3】 前記判断部は、EC(Embedded Controller)に組み込まれていることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。 【請求項4】 加速度センサーにて加速度を検出するステップと、 前記検出された加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め、この振動レベルと閾値とを比較してハードディスクドライブのヘッドの退避領域への移動の要否を判断する判断ステップと、 前記キーボードをスキャンし、前記キーボードからの入力の有無を判断する入力判断ステップと、 前記入力判断ステップで前記キーボードをスキャンするごとに前記閾値を設定する閾値設定ステップであって、前記入力判断ステップで前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断ステップで前記キーボードからの入力の発生が有ると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定ステップと を具備することを特徴とする内蔵ハードディスクドライブのヘッド退避処理方法。 【請求項5】 前記加速度センサーは3軸方向の加速度を検出し、前記判断ステップは、前記加速度センサーにより検出された3軸方向の加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め、この振動レベルと設定された閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断することを特徴とする請求項4記載の内蔵ハードディスクドライブのヘッド退避処理方法。」 とするものである。 本件補正は、本件補正前の請求項1および4において、「前記キーボードからの入力の有無を判断する入力判断部(ステップ)」について「前記キーボードをスキャンし、前記キーボードからの入力の有無を判断する入力判断部(ステップ)」と前記下線部を付加し、また、「前記入力判断部(ステップ)で前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断部(ステップ)で前記キーボードからの入力の発生が有ると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定部(ステップ)」について、「前記入力判断部(ステップ)で前記キーボードをスキャンするごとに前記閾値を設定する閾値設定部(ステップ)であって、前記入力判断部(ステップ)で前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断部(ステップ)で前記キーボードからの入力の発生が有ると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定部(ステップ)」と前記下線部を付加して発明特定事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-146036号公報(平成16年5月20日公開、以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は、当審で付与した。) (1)「【0001】 本発明は、磁気ディスク装置の保護機構に関し、特に落下に伴う衝撃等から磁気ディスクを保護する機構に関する。」 (2)「【0004】 従来の磁気ディスク装置におけるこの種の保護機構としては、磁気ディスク装置に、当該磁気ディスク装置が傾斜したことを検出するためのセンサと、当該センサの検知信号に基づいて当該磁気ディスク装置が傾斜したことを判断し磁気ヘッドを退避領域に移動させる退避制御手段とを備え、磁気ディスク装置が傾斜したことを当該磁気ディスク装置の落下の前兆として検出し、磁気ヘッドを磁気ディスク上から退避させるものがある(例えば、特許文献1参照)。」 (3)「【0011】 ここで、磁気ディスク装置のおかれた状態とは、具体的には磁気ディスク装置や、磁気ディスク装置を搭載した情報処理装置等の筐体の傾きや揺動等として表される。これらの状態は、磁気ディスク装置等に設けられた加速度センサが検知する磁気ディスク装置等に生じた加速度から求められる。この加速度には直線加速度と角加速度が含まれ、さらに直線加速度には、加速度センサの姿勢に応じて変動する静的加速度(重力加速度)と、磁気ディスク装置等が受ける重力以外の力が発生源となる動的加速度とがある。」 (4)「【0024】 以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態)について詳細に説明する。 まず、本発明の概要を説明する。本発明は、記憶装置として磁気ディスク装置を備えた情報処理装置、特にノートブック型コンピュータやハンドヘルド型コンピュータなどの携帯可能な情報処理装置を対象として、これらの情報処理装置が落下する可能性がある場合に、その予兆を察知して磁気ディスク上から磁気ヘッドを退避させることにより、実際に情報処理装置が落下して衝撃が発生した際の磁気ディスク装置の耐衝撃性能を向上させる。これを実現するため、本発明では、情報処理装置の傾斜や振動の発生といった状態変化を監視し、これを解析して情報処理装置の落下の予兆を検出する。また、落下の予兆を検出した場合に磁気ヘッドの退避動作を迅速に行うための予備的な処理を、データ転送処理において実行する。 さらに本発明は、情報処理装置が実際に衝撃を受けた場合に、上記の状態変化の監視等により得られる情報に基づき、上記の磁気ヘッドの退避動作が間に合ったかどうか、言い換えれば、かかる衝撃によって磁気ディスク装置がダメージを受けた可能性があるかどうかについて自己診断を行う。 【0025】 図1は、本実施の形態による磁気ディスク装置の保護機構が適用される情報処理装置の構成を示すブロック図であり、図2は、かかる情報処理装置の外観を示す図である。 図1に示すように、本実施の形態による情報処理装置100は、記憶装置としての磁気ディスク装置(HDD)10と、情報処理装置の傾斜や振動の発生を感知するためのセンサ20と、磁気ディスク装置10及びセンサ20を制御するホストコンピュータ(CPU及びメモリ)30とを備える。本実施の形態では、図2に示すように、情報処理装置100を携帯が容易なノートブック型コンピュータ装置とし、磁気ディスク装置10がコンピュータ装置の筐体内に装着されている場合を例として説明する。この場合、ホストコンピュータ30は、コンピュータ装置自身のデータ処理のためのCPUとメモリとで実現される。また、磁気ディスク装置10はコンピュータ装置と一緒に傾斜し、あるいは振動や衝撃を受けることとなるので、センサ20は、磁気ディスク装置10に設けても良いし、コンピュータ装置の筐体に設けても良い。したがって、以下では、情報処理装置100が傾斜したり振動や衝撃を受けたりしたことを前提として説明するが、装置構成によっては磁気ディスク装置10自体が傾斜したり振動や衝撃を受けたりした場合に適用されることは言うまでもない。」 (5)「【0038】 上記の構成において、センサドライバ31は、センサ20から情報処理装置100の状態に関する情報を取得する。本実施の形態では、センサ20として、2軸(X/Y軸)または3軸(X/Y/Z軸)上のそれぞれに加えられる加速度の変動を検知しアナログ出力を行う加速度センサ(加速度計)を用いる(以下、本実施の形態では3軸の加速度センサを用いることとする)。なお、ここで加速度センサとは、直線または角加速度を測定する慣性センサを意味する。ただし、一般に加速度計とは、直線加速度計を意味することが多い。また、角加速度計の仲間にはジャイロスコープ(角速度計)が含まれる。実装方法は若干異なるが何れのセンサを用いても本発明を実現することが可能である。 センサ20から常時出力される各時点の加速度情報は、センサドライバ31によって定期的(例えば10msec毎)に取得される。センサ20から取得される加速度情報としては、センサ20の姿勢(つまりセンサ20が固定されている磁気ディスク装置10や情報処理装置100の筐体の姿勢)に応じて変動する静的加速度(重力加速度)と、磁気ディスク装置10や情報処理装置100の筐体が外部から受ける力(衝撃等)が発生源となる動的加速度とがある。一般には、これらの合成値が当該センサ20から出力される。」 (6)「【0044】 同様に、キーボードやマウスの操作によるイベントも、上記のようにキーボード・マウスイベント履歴保存部64にて保存される他、衝撃予測部65に直接取得されて、キーボード・マウスイベント履歴保存部64の履歴情報と共に、情報処理装置100の使用状態を判断するために用いられる。例えば、情報処理装置100の落下以前にキーボードやマウスによる入力操作が行われていれば、ユーザにより情報処理装置100の使用中に落下したのであり、情報処理装置100は膝上等の不安定な状態で使用していたと判断できる。一方、落下以前にある程度の期間、入力操作が行われていなければ、情報処理装置100を手で持ち上げるなどの動作によって情報処理装置100が落下したと判断できる。これらの状況判断の結果を、適宜、磁気ヘッド11の退避条件として用いることができる。さらに、磁気ヘッド11を退避した後、ユーザインタラクションによるキーボードやマウスを用いた入力操作が行われた場合に、これを条件として磁気ヘッド11を復帰させる制御が可能である。 【0045】 また、それらの入力操作の有無、操作密度(単位時間あたりの入力量)、入力パターンを、衝撃予測の基準(閾値Th)の調整に利用することで、磁気ヘッド11の退避条件を、その時点でのユーザの利用状況に一層整合させることも可能である。 具体的には、現時点から過去に遡る一定期間に、キーボードやマウスによる所定の入力操作があった場合は、現時点で検出された加速度変動は、情報処理装置100の落下に繋がるユーザにとって不意の変動ではなく、明らかに操作中の変動であり、仮に落下の予兆だとしてもユーザはそれを防止するための対応を速やかに取ることができると考えられる。そこで、このような入力操作があった場合は、通常よりも閾値Thを上げて、情報処理装置100の状態の変動に対する感度を低下させ、操作中に付随する加速度変動に対する過敏な磁気ヘッド11の退避条件を抑制するように制御することができる。さらには、操作密度や入力パターンを閾値Thの調整に加味することにより、例えば、現時点から過去に遡る一定期間に一定以上の操作密度が検出されなければ、単に入力操作が検出されただけでは閾値Thを調整しないようにすることも可能である。」 (7)「【0055】 退避条件算出部77は、上述した衝撃検出部76以外の各モジュールが算出する情報を入力し、これらを総合的に判断して、情報処理装置100が不安定な状態(図4の第1段階)にあるのか、落下を開始(図4の第2段階)して速やかに磁気ヘッド11の退避を行う必要があるのか決定する。そして、後者の場合に、HDDフィルタドライバ33に対して磁気ヘッド11の退避要求を行う。また前者の場合には、IDEデバイスドライブ37に対して後述する高リスクモードへ遷移するための動作モードの切り替え通知を行う。 復帰条件算出部78は、退避条件算出部77からの通知により磁気ヘッド11が退避された後、衝撃検出部76を含む上述した各モジュールが算出する情報を入力し、これらを総合的に判断して、磁気ヘッド11を復帰させるか否かの判断を行う。磁気ヘッド11を復帰させる場合は、HDDフィルタドライバ33に対して磁気ヘッド11の復帰要求を行う。また、判断結果に応じて、IDEデバイスドライブ37に対して後述するノーマルモードへ遷移するための動作モードの切り替え通知を行う。」 (8)「【0057】 図8を参照すると、退避条件算出部77は、角速度ωが閾値Thよりも大きい場合は、落下が開始して(図4の第2段階)衝撃が発生すると予測し、磁気ヘッド11の退避要求をHDDフィルタドライバ33に対して行う。そして、衝撃が発生するまでの間に、あるいは継続して衝撃が発生し得る状態であるうちに磁気ヘッド11が復帰してしまうことを避け、一定期間、磁気ヘッド11が退避したままであることを保証するために、退避タイマーをスタートする(これはシステムタイマーをカウントする等の適当な任意の手段で実現される)。 また、角速度ωが閾値Thの1/2よりも大きい場合は、情報処理装置100が不安定な状態にある(図4の第1段階)と判断し、後述する高リスクモードへの遷移をIDEデバイスドライブ37に通知する。そして、一定期間、高リスクモードの動作状態を維持するため、高リスクモードタイマーをスタートする。」 引用例1に記載のものは、磁気ヘッドを退避領域に移動させて衝撃等から磁気ディスク装置を保護する情報処理装置を前提とするものであることを踏まえて上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、結局、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「磁気ヘッドを退避領域に移動させる退避制御手段を備えた磁気ディスク装置と、 加速度を検知する加速度センサと、 加速度センサから出力される加速度情報を監視し、閾値より大きい場合に磁気ヘッドの退避要求を行う退避条件算出部と、 キーボードと、 キーボードによる入力操作の有無を閾値の調整に利用するものであって、キーボードによる所定の入力操作があった場合は通常よりも閾値を上げる情報処理装置。」 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-100180号公報(平成14年4月5日公開、以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は、当審で付与した。) (9)「【0033】ここで、2軸加速度センサ19の出力信号は、衝撃に相当する動的加速度の成分を含むものである場合と、重力や傾きの変化に相当する静的加速度の成分を含むものである場合とがある。動的加速度の信号は、一般的に周期が数ms程度の高周波(パルス的変化)を示す。これに対し、静的加速度の信号は、一般的に周期が数百ms程度の低周波(穏やかな変化)を示す。 【0034】本実施形態では、これらの特徴を利用して、センサ出力切分け部24により動的加速度と静的加速度との切り分けを行う。加速度の切り分けを実現する手法としては、前で簡単に述べたように、周波数帯域の違いに基づいてフィルタにより切り分ける手法と、検知時間の違いに基づいて切り分ける手法とが挙げられる。 【0035】周波数帯域の違いに基づいてフィルタによる切り分ける手法では、具体的にはローパスフィルタやハイパスフィルタを用いることにより切り分けを実現できる。例えばローパスフィルタを用いれば、2軸加速度センサ19の出力信号から、衝撃に相当する周波数よりも低い周波数の成分(重力や傾きの変化に相当する成分)を分離して取り出すことができる。」 3.対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「磁気ヘッド」「退避領域」および「磁気ディスク装置」は、本願補正発明の「ヘッド」「退避領域」および「ハードディスクドライブ」にそれぞれ相当する。 (2)引用発明の「加速度」および「加速度センサ」は、本願補正発明の「加速度」および「加速度センサー」にそれぞれ相当する。 (3)上記摘示事項(4)によれば、引用発明の「加速度センサ」は、磁気ディスク装置の振動を感知しているのであるから、振動レベルを求めているといえる。また、引用発明の「退避条件算出部」は、「閾値より大きい場合に磁気ヘッドの退避要求を行う」ものであるから、本願補正発明の「前記加速度センサーにより検出された」「振動レベルと閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断する」「判断部」に相当する。 (4)引用発明の「キーボード」が、ユーザからの情報を入力するものであることは明らかである。 (5)引用発明は、「キーボードによる入力操作の有無を閾値の調整に利用するものであ」り、キーボードからの入力の有無を判断していることは明らかであるから、本願補正発明の「入力判断部」に相当する構成を備えている。 (6)引用発明は、「キーボードによる所定の入力操作があった場合、通常よりも閾値を上げ」るものであるから、本願補正発明の「前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生があると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定部」に相当する構成を備えている。 (7)引用発明と本願補正発明の「情報処理装置」は共通する。 そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「ヘッドを退避領域に移動させることが可能なハードディスクドライブと、 加速度を検出する加速度センサーと、 前記加速度センサーにより検出された振動レベルと閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断する判断部と、 ユーザからの情報を入力するキーボードと、 前記キーボードからの入力の有無を判断する入力判断部と、 前記閾値を設定する閾値設定部であって、前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生があると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定部と を具備する情報処理装置。」 そして、次の点で相違する。 <相違点> (a)本願補正発明は、「加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め」ているのに対し、引用発明は、高周波成分を取得して振動レベルを求めていない点。 (b)「入力判断部」について、本願補正発明は、「前記キーボードをスキャンし」て前記キーボードからの入力の有無を判断するものであるのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。 (c)「閾値設定部」について、本願補正発明は、「前記入力判断部が前記キーボードをスキャンするごとに」前記閾値を設定するものであるのに対し、そのような特定がなされていない点。 4.判断 そこで、上記相違点について検討する。 相違点(a)について 上記引用例1には、加速度センサが検出する加速度には姿勢に応じて変動する静的加速度と衝撃等からの動的加速度とがあり、これらの合成値がセンサから出力されることが記載されている(摘示事項(3)(5))。 また、上記引用例2には、フィルタにより静的加速度と動的加速度とを切り分ける技術が記載されている(摘示事項(6))。 そして、引用発明は情報処理装置(磁気ディスク装置)の振動の発生といった状態変化を監視するのであり、動的加速度を検出するものといえるから、引用発明において、加速度センサより検出された加速度情報から振動レベルを求める際に、加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求める構成とすることは引用例2の上記技術を適用することにより当業者が容易に想到できたのものである。 相違点(b)について キーボードをスキャンし、キーボードからの入力の有無を判断することは極普通に採用されている常套手段(例えば、実願昭63-105971号(実開平2-28146号公報)のマイクロフィルムの(従来の技術)の記載等参照)であるから、引用発明においても、「キーボードをスキャンし」てキーボードからの入力の有無を判断することは、自明の事項又は当業者が適宜なし得る程度のものである。 相違点(c)について 引用発明は、キーボードの入力操作の有無を、衝撃予測の閾値の調整に利用するもので、具体的には現時点から過去に遡る一定期間にキーボードによる所定の入力操作があった場合、通常よりも閾値を上げるものであり、現時点でのキーボードの入力操作の有無を含むものである。 そうすると、引用発明において、単に現時点でのキーボードの入力操作の有無、すなわちキーボードをスキャンするごとに閾値を設定することは当業者が適宜容易に想到できたものであり、相違点(c)の構成とすることにより格別の効果を奏するものでもない。 そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は引用例1,2および周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用例1,2に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成22年4月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成21年11月27日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2[理由]1.」の補正前の「請求項1」として記載した次のとおりのものである。 「【請求項1】ヘッドを退避領域に移動させることが可能なハードディスクドライブと、 加速度を検出する加速度センサーと、 前記加速度センサーにより検出された加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め、この振動レベルと閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断する判断部と、 ユーザからの情報を入力するキーボードと、 前記キーボードからの入力の有無を判断する入力判断部と、 前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生があると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定部と を具備することを特徴とする情報処理装置。」 2.引用例及びその記載 原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 両者は、 「ヘッドを退避領域に移動させることが可能なハードディスクドライブと、 加速度を検出する加速度センサーと、 前記加速度センサーにより検出された振動レベルと閾値とを比較して前記ハードディスクドライブの前記ヘッドの前記退避領域への移動の要否を判断する判断部と、 ユーザからの情報を入力するキーボードと、 前記キーボードからの入力の有無を判断する入力判断部と、 前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生が無いと判断したとき前記閾値として第1の閾値を設定し、前記入力判断部が前記キーボードからの入力の発生があると判断したとき前記閾値として前記第1の閾値より高い第2の閾値を設定する閾値設定部と を具備する情報処理装置。」 である点で一致し、 一方、 本願発明は、「加速度情報から高周波成分を取得して振動レベルを求め」ているのに対し、引用発明は、高周波成分を取得して振動レベルを求めていない点で相違する。 4.判断 上記相違点は、前記「第2[理由]3.4.」で相違点(a)として検討したものであるから、同様の理由により、本願発明は引用例1および2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-29 |
結審通知日 | 2011-08-30 |
審決日 | 2011-09-12 |
出願番号 | 特願2005-377922(P2005-377922) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小山 和俊、鈴木 重幸 |
特許庁審判長 |
小松 正 |
特許庁審判官 |
月野 洋一郎 関谷 隆一 |
発明の名称 | 情報処理装置およびその内蔵ハードディスクドライブのヘッド退避処理方法 |
代理人 | 大森 純一 |