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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1245659
審判番号 不服2010-13803  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-23 
確定日 2011-10-27 
事件の表示 特願2000-149684「アレイ導波路型回折格子」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月30日出願公開、特開2001-330739〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成12年5月22日の特許出願であって、平成21年6月23日付けで手続補正がなされたが、平成22年3月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月23日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである(以下、平成22年6月23日になされた手続補正を「本件補正」という。)。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[結論]

本件補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容

本件補正は、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1につき、補正前の

「1本以上の並設された光入力導波路の出射側に第1のスラブ導波路が接続され、該第1のスラブ導波路の出射側には該第1のスラブ導波路から導出された光を伝搬する互いに異なる長さの複数の並設されたアレイ導波路が接続され、該複数のアレイ導波路の出射側には第2のスラブ導波路が接続され、該第2のスラブ導波路の出射側には複数の並設された光出力導波路が接続されて成る導波路構成を基板上に形成し、前記光入力導波路から入力される互いに異なる複数の波長をもった光から1つ以上の波長の光を分波して各光出力導波路から出力する光分波機能を有するアレイ導波路型回折格子において、前記基板は単結晶により形成されており、該単結晶基板の結晶方位面に沿って劈開形成された劈開分離面により前記第1のスラブ導波路と第2のスラブ導波路の少なくとも一方がスラブ導波路を通る光の経路と交わる面で分離されてその分離された分離スラブ導波路同士は互いに前記劈開分離面を対向させて約1μm以下の間隔を介して配置されており、前記分離された分離スラブ導波路の少なくとも一方側を前記劈開分離面に沿って、使用環境温度の変化に伴うアレイ導波路型回折格子の各光透過中心波長の温度依存変動を低減する方向に、スライド移動させるスライド移動機構が設けられていることを特徴とするアレイ導波路型回折格子。」

を、

「1本または2本以上の並設された光入力導波路の出射側に第1のスラブ導波路が接続され、該第1のスラブ導波路の出射側には該第1のスラブ導波路から導出された光を伝搬する互いに異なる長さの複数の並設されたアレイ導波路が接続され、該複数のアレイ導波路の出射側には第2のスラブ導波路が接続され、該第2のスラブ導波路の出射側には複数の並設された光出力導波路が接続されて成る導波路構成を基板上に形成し、前記光入力導波路から入力される互いに異なる複数の波長をもった光から1つ以上の波長の光を分波して各光出力導波路から出力する光分波機能を有するアレイ導波路型回折格子において、前記基板は単結晶により形成されており、該単結晶基板の結晶方位面に沿って劈開形成された劈開分離面により前記第1のスラブ導波路と第2のスラブ導波路の少なくとも一方がスラブ導波路を通る光の経路と交わる面で分離されてその分離された分離スラブ導波路同士は互いに前記劈開分離面を対向させて約1μm以下の間隔を介して配置されており、前記アレイ導波路型回折格子の使用中に、前記分離された分離スラブ導波路の少なくとも一方側を前記劈開分離面に沿って、使用環境温度の変化に伴うアレイ導波路型回折格子の各光透過中心波長の温度依存変動を低減する方向に、リアルタイムでスライド移動させるスライド移動機構が設けられていることを特徴とするアレイ導波路型回折格子。」

に補正する内容を含むものである。

2 補正の目的

上記1の補正は、補正前の請求項1の「1本以上の並設された光入力導波路」を「1本または2本以上の並設された光入力導波路」とし、同じく「前記分離された分離スラブ導波路の少なくとも一方側を前記劈開分離面に沿って、使用環境温度の変化に伴うアレイ導波路型回折格子の各光透過中心波長の温度依存変動を低減する方向に、スライド移動させるスライド移動機構」について、「前記アレイ導波路型回折格子の使用中に」「リアルタイムで」スライド移動することを限定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成14年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件

本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(1)引用刊行物の記載

ア 原査定の拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-218639号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、以下の記載がある(下線は、審決にて付したもの。以下同じ。)。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 プレーナ入力領域(4)と、プレーナ出力領域(6)と、これらプレーナ入力領域およびプレーナ出力領域の間に設けられたマイクロガイドアレイ(2)と、前記プレーナ入力領域(4)に対する光ビームの入力手段(8)と、前記プレーナ出力領域(6)からの光ビームの出力手段(10)と、を具備してなる整相アレイデバイスであって、第1ピースおよび第2ピースと称される少なくとも2つのピースを具備し、前記第1ピース(12,38)は、少なくとも1つのプレーナ領域の一部分(14,24)と、これに対応した前記入力手段および前記出力手段の一方と、を備え、前記第2ピース(16,26)は、このプレーナ領域の他の部分(18)と、前記デバイスの他の構成要件と、を備え、前記第1および第2ピースは、完成品の前記デバイスを形成するよう、かつ、前記デバイスの波長を調整し得るようにして、組み付けられていることを特徴とする整相アレイデバイス。

…(略)…

【請求項13】 請求項1記載のデバイスの製造方法であって、
複数のピース(12,16,22,26,38)を形成し、
前記デバイスの全体を形成するよう、前記ピースを組み付け、
その後、このデバイスにおいて、波長の調整を行うことを特徴とする方法。
【請求項14】 1つのピースを、他のピースに対して相対変位させることにより、前記デバイスの中心波長を調整することを特徴とする請求項13記載の方法。

…(略)…

【請求項18】 各ピースを劈開可能な1つの基板上に形成し、その後、劈開によってこの基板から各ピースを切り離すことを特徴とする請求項13記載の方法。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、整相アレイデバイスすなわちフェーザに関するものであり、ならびに、このようなデバイスの製造方法に関するものである。
【0002】このタイプのデバイスは、また、AWG(Arrayed-Waveguide Grating)とも称され、とりわけ、-波長のマルチプレクサ的動作やデマルチプレクサ的動作を使用した光ファイバによる遠隔通信の分野、-分光測定の分野、に応用可能である。
【0003】本発明によるデバイスは、以下の説明においてはフェーザ(PHASAR)と称される。」

(ウ)「【0028】一般に、フェーザの格別の特徴は、波長どうしの分離に必要な周期的位相シフトを引き起こすというプロセスにある。
【0029】この位相シフトは、マイクロガイドアレイ2によって得られる。ここで、マイクロガイドの数は、Mで示されている。
【0030】これらM個のマイクロガイドに対応した複数の光学経路は、互いに異なっている。
【0031】2つの隣接した光学経路の間の間隔Dは、光学ステップ差と称されるものであって、一定とされている。」

(エ)「【0129】複数ピースへの切り離しは、2つの方法によって行うことができる。
【0130】ピースが形成されている基板が、シリコン基板のような結晶性基板であって、劈開可能である場合には、劈開によって、言い換えれば、結晶学的基板面に沿った破断によって、ピースを得ることができる。
【0131】ピースは、また、切断(または、ソーイング、または、鋸による切断)によって得ることができる。切断面の光学的品質が十分でない場合には、切断されたエッジまたは側面を、研磨することができる。
【0132】文献(11)には、このような切断に関する情報が記載されている。
【0133】カット方法は、精度の点からは重要ではない。その理由は、切断(または、鋸による切断)による不正確さ(数μm)と比較して、あるいは、劈開による不正確さ(数十μm)とさえ比較しても、各プレーナ領域が、十分に長い(数mm)からである。
【0134】上述のように、切断の方が、フェーザ形状に歪みを誘起しないことにより、劈開よりも好ましい。一方、劈開は、図2および図4に示すように、ほとんどすべてのところにおいて、直角であることを必要とする。」

(オ)「【0135】図4は、波長のデマルチプレクサ的動作においてのフェーザの平均波長あるいは中心波長の光学的機械的調整のための方法の例を、概略的に示している。
【0136】図4に示す本発明によるフェーザは、2つのピース12,26だけを備えていることに注意されたい。これについては、後述する。
【0137】入力用マイクロガイドとしてここで使用されているマイクロガイド10が、光ファイバ28に対して接続されていること、および、出力用マイクロガイドとしてここで使用されているマイクロガイド8が、光ファイバ30に対して接続されていること、がわかる。
【0138】変形として、光ファイバを使用することなく、マイクロガイド10が光エミッタに対して接続されても良く、および/または、マイクロガイド8が光レシーバに対して接続されても良い。
【0139】これらエミッタおよび/またはレシーバは、フェーザの形成材料の性質に応じて、フェーザと集積化することも、フェーザ上に組み付けることも、フェーザと一体化することもできる。
【0140】より一般的には、入力部分および/または出力部分には、任意の能動光電素子(例えば、エミッタ、レシーバ、または、光増幅器)あるいは受動光電素子(例えば、集積化光学における他の接続素子)を、(集積化によって、搬送によって、あるいは、一体化によって)配置することができる。
【0141】フェーザのある特別の動作(デマルチプレクサ的動作)においては、いくつかの波長λi1、λi2、…、λiNから構成されている光が、E個の入力用光ファイバ28のうちのある第i番目に入射されると、N個の出力ファイバの各々に関する出力部分には、単一波長が現れる。
【0142】したがって、目的は、光ファイバ30(出力用光ファイバ)ごとに、単一波長を得ることである。
【0143】図4からわかるように、波長の調整は、プレーナ領域14のうちの一部分および対応するマイクロガイド8を備えたフェーザピース12と、このピース12に接続された出力用光ファイバ30とを、フェーザの残りの部分に対して、特に、プレーナ領域18の他の部分(残りの部分)に対して、移動させることにより行われる。
【0144】図4に示す例(SiO2 基板)においては、(スペクトル間隔Δλにかかわらず)入力用/出力用マイクロガイドは、約20μm離間しており、ピース12を1μmだけ変位させることは、Δλ/20というλの変位に対応する。したがって、感度の大きさの程度が、マイクロマニピュレータの精度と適合している。
【0145】例えば、InP基板の場合には、マイクロガイドどうしの間の20μmというこの間隔は、典型的には、5μmの程度にまで低減される。
【0146】0.5μm内に配置すること(市販のマイクロマニピュレータにより可能)により、なおもΔλ/10という精度をもたらすことができ、これは、たいていの応用に際して十分である。
【0147】ピース12の変位に際しては、矢印Fで示す機械的デバイスが、ピース12のうちのプレーナ領域14の一部分を、対応部分18に対して横方向に変位させるために使用される。
【0148】よって、横方向調整によって、平均波長λm が調整される。
【0149】この調整は、各出力用光ファイバに対して、ある波長が得られるまで、行われる。
【0150】調整が完了すると、ピース12は、図4に示すフェーザの残りの部分に対して固定される。」

(カ)上記(ア)及び(オ)の記載を踏まえて図4をみれば、プレーナ領域の一部分(14)と、このプレーナ領域の他の部分(18)の間の分離面は、第1ピース(12)及び第2ピース(26)の分離面と同一の面であり、プレーナ領域の一部分(14)と、このプレーナ領域の他の部分(18)は、分離面を互いに向き合わせていることが理解できる。

なお、図4は、次のとおりである。


(キ)「【0193】次に、プレーナ領域の起点部分をなすプレーナ領域の「直前箇所」において分離がなされている文献(14)における技術と比較した場合の、対応するプレーナ領域の内部において2つのピースへと分離がなされている本発明の利点について説明する。一般に、プレーナ領域内部における分離は、この領域の光学軸方向に沿った配置誤差を一切必要としない。このことは、文献(14)の場合には当てはまらない。逆に、文献(14)の場合には、分離は、この領域の入力ジオプター(diopter) に関して、正確になされなければならない。より詳細には、N対Nタイプのフェーザにおいては(N>1)、図8(fはプレーナ領域に対するアクセスガイドであり、rはマイクロガイドアレイである)において、プレーナ領域46への入力ジオプター44が、(大きな曲率半径の)円弧であって、直線ではないことがわかる(図6において、既に図示しているとおりである)。これは、この位置における直線状分割であると、ラインIVではなく、必然的に、プレーナ領域のわずかに内部領域(ラインIII) に位置することとなることを意味している。したがって、文献(14)は、厳密には、正しくない。あるいは、入力チャネルの数Nが大きいような場合には、応用できない。これに対して、本発明は、Nの値に関係なく応用可能である。」

(ク)「【0200】この説明において言及した文献を以下に列挙する。
…(略)…
(14)WO 9600915A (SIEMENS AG), US 5, 732, 171.」

イ 同じく米国特許第5905824号明細書(以下「引用刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

(ア)「FIELD OF THE INVENTION
This invention relates generally to planar waveguides used to carry optical signals between optical devices, and more particularly, this invention relates to an optical waveguide device wherein passive components are utilized for routing and distributing optical transmissions.」(第1欄第5-10行)

(日本語訳)

「発明の属する技術分野
本発明は、一般に光デバイス間に光信号を伝えるために用いられる平板導波路に関し、特に受動構成部品が光伝送の経路指定と分配用に用いられる光学導波路デバイスに関するものである。」

(イ)「It is an object of this invention, to compensate for shifts in wavelength caused by a change in temperature. This solution requires little or no external power.」(第3欄第31-33行)

(日本語訳)
「本発明の目的は、温度変化によって生じる波長シフトを補償することである。本発明が必要とするのは、僅かの外部電力であるか、あるいは外部電力を必要としない。」

(ウ)「Turning now to FIG. 2, a similar multichannel, dense, 1xn WDM is shown, wherein the monolithic waveguide block of FIG. 1 is separated into two waveguide blocks 200 and 202. Block 202 comprises a waveguide concentrator 204 having closely spaced waveguides 206 at a coupling end 208 for receiving/picking up separated sub-beams in separate designated waveguides 206 from the phased array demultiplexer (PAD) of waveguide block 200. The waveguide concentrator 204 guides the closely spaced separate sub-beams to spaced apart locations for coupling to individual fibers at an output end 210. Separation 201 between block 200 and block 202 permits the waveguide concentrator 204 to accommodate the wavelength shift induced by changing temperature, by shifting the position of the sub-beams, or by shifting the coupling ends of the waveguide concentrator 204. This relative shift between blocks 200 and 202 adjusts the physical alignment of the separated sub-beams and the waveguide concentrator 204 to match the physical shift of the sub-beams leaving the free space region 170 in response to changing temperature.」(第4欄第40-59行)

(日本語訳)

「図2には、同様の多チャンネル、高密度、1×nのWDMが示されており、そこでは図1のモノリシック導波路ブロックが2つの導波路ブロック200及び202に分離されている。ブロック202は、導波路ブロック200のフェーズドアレイデマルチプレクサー(PAD)から、分離した指定導波路206の分離サブビームを受光/ピックアップするための結合端208側において近接配置された導波路206を持つ導波路集信器204を有する。導波路集信器204は、近接配置された分離サブビームを、出力端210において個々の光ファイバに結合するために離れた位置に導く。ブロック200とブロック202の間には分離帯201が設けられているため、サブビームの集光位置をシフトしたり、導波路集信器204の結合端をシフトしたりすることによって、温度変化により引き起こされる波長シフトを調節できる。このブロック200,202間の相対的シフトは、温度変化に反応して自由導波領域170を離れるサブビームの物理的シフトに適合するように、分離サブビームと導波路集信器204の物理的整合を調整する。」

(エ)「The temperature compensation is effected in this embodiment by mounting the block 202 to a support 212 of different material having a selected coefficient of expansion for movement relative to the other block 200 in the directions of the phase shift, indicated by arrow A. Either block 200, 202 can be mounted to the expansion material 212 for movement relative to the other to cause a shift sufficient to realign the sub-beams to their designated waveguides 206 for proper coupling. Expansion material 212 is secured at an opposite side from the block 200 or 202 to a stable support 214. Likewise the opposite block is secured to the stable support 214, that relative movement is seen between the free space 170 and the waveguide concentrator 204.
Blocks 200, 202 may be formed as a single block and cut into separate elements to provide for phase shift between the free space region 170 and the waveguide concentrator 204. Alternatively, the blocks 200, 202 may be manufactured separately. Separation in the formerly monolithic structure offers the opportunity to insert additional optical elements. The monolithic construction of prior art devices has not permitted this type of correction.
A shift of the coupling connection between the free space region 170 and the waveguide concentrator 204 provides physical alignment of the separated sub-beams and the pickup waveguides 206 associated with each wavelength. The natural wavelength shift can be quantified by measuring the shift per degree. The effect is seen by a shift in the anticipated wavelength picked up by a designated waveguide 206 or by cross talk within one waveguide 206. The distance of this shift per degree represents the relative shift required per degree between the two blocks. A material with a high coefficient of expansion, a metal for example, is selected for its coefficient of expansion and the thickness is chosen to produce the shift per degree needed to compensate for the wavelength drift. A combination of materials can be used to obtain an expansion to match the wavelength shift. Using a temperature responsive expansion/contraction the shift is automatic, and the system is passive requiring no energy input.
As an example, a WDM for separating input light into sixteen channels having centre wavelengths separated by 100 Ghz or channels with an interchannel spacing of 20 μm for pickup by the waveguides of the waveguide concentrator. A shift of 1.4 Ghz/℃ requires an equal shift of 0.28 μm/℃ of the pickup waveguides. Selecting aluminum as an expansion material having a coefficient of expansion of 2.3×10^(5) /℃, a thickness of 11.2 mm is required to provide the 0.28 μm/℃ shift.」(第5欄第1-49行)

(日本語訳)

「温度補償は、この実施形態例では、ブロック202を、ブロック200に対して、矢印Aで示される位相シフトの方向へ相対的に移動させる選択された膨張係数を持つ異なる材料の支持体212に取り付けることによってなされている。各サブビームを、指定された導波路206に適切に結合するよう再び整合するのに十分なシフトを生じさせるために、ブロック200とブロック202のいずれか一方が、他方に対して相対的に移動するように、膨張材料212に取り付けられる。膨張材料212は、ブロック200あるいはブロック202とは反対側で固定支持体214に固定される。同様に、他方のブロックは、自由導波領域170と導波路集信器204との間で相対的な移動がみられるように、固定支持体214に固定される。
ブロック200,202は、自由導波領域170と導波路集信器204との間の位相シフトに備えるために、単一のブロックとして形成した後、分離切断して形成してもよい。あるいは、ブロック200,202は、別個に製作されてもよい。従来の単一のモノリシック構造を分離することで、追加の光学的要素を挿入する機会が得られる。従来技術のデバイスのモノリシック構造は、この種の修正は行なえない。
自由導波領域170と導波路集信器204間の結合接続のシフトは、分離したサブビームと、各波長に対応するピックアップ導波路206との物理的整合を提供する。なお、自然な波長シフトは、1度あたりのシフトを測定することにより測量される。指定した導波路206によって得られる予想された波長のシフトによって、あるいは一個の導波路206内の混信によって、影響を理解することができる。1度あたりのこのシフトの距離は、2つのブロックの間の1度あたりに要求される相対的シフトを表している。高膨張係数の材料、たとえば金属が、その膨張係数のゆえに選択され、膨張材料212の厚みは、波長ドリフトを補償するために必要な1度あたりのシフトを生み出すように選択される。波長シフトに整合する膨張を得るために、材料を組み合わせて用いてもよい。温度に対応する膨張/収縮を用いて、相対シフトは自動的で行なわれ、かつ、そのシステムはエネルギ入力の不要な受動的なものである。
例として、入力光を、100Ghzで分離された中心波長を持つ16のチャンネルに分離する、あるいは、導波路集信器の導波路によりピックアップされる20μmのチャンネル間の間隔を持つチャンネルに分離するWDMを挙げる。1.4Ghz/℃のシフトは、ピックアップ導波路の位置を0.28μm/℃シフトさせるのと等価のシフトを必要とする。2.3×10^(5)/℃の膨張係数を持つ膨張材料としてアルミニウムを選択した場合、0.28μm/℃のシフトを提供するためには、11.2mmの厚みが必要である。」

(2)引用発明

上記(1)ア(特に(オ)【0137】を参照。)によれば、引用刊行物1の図4に示されたデマルチプレクサ的動作においては、マイクロガイド(10)は入力用マイクロガイドとして用いられ、マイクロガイド(8)は出力用マイクロガイドとして用いられる。
そうすると、引用刊行物1には、
「プレーナ入力領域(4)と、プレーナ出力領域(6)と、これらプレーナ入力領域およびプレーナ出力領域の間に設けられたマイクロガイドアレイ(2)と、前記プレーナ入力領域(4)に対する光ビームの入力手段(8)と、前記プレーナ出力領域(6)からの光ビームの出力手段(10)と、を具備してなる整相アレイデバイスであって、
第1ピースおよび第2ピースと称される少なくとも2つのピースを具備し、
前記第1ピース(12)は、少なくとも1つのプレーナ領域の一部分(14)と、これに対応した前記入力手段および前記出力手段の一方と、を備え、
前記第2ピース(26)は、このプレーナ領域の他の部分(18)と、前記デバイスの他の構成要件と、を備え、
前記第1および第2ピースは、完成品の前記デバイスを形成するよう、かつ、前記デバイスの波長を調整し得るようにして、組み付けられており、
M個のマイクロガイドに対応した複数の光学経路は、互いに異なっており、
各ピースは、劈開可能な1つの結晶性基板上に形成され、その後、結晶学的基板面に沿った破断である劈開によってこの基板から各ピースに切り離され、
プレーナ領域の一部分(14)と、このプレーナ領域の他の部分(18)の間の分離面は、第1ピース(12)及び第2ピース(26)の分離面と同一の面であり、プレーナ領域の一部分(14)と、このプレーナ領域の他の部分(18)は、分離面を互いに向き合わせており、
デマルチプレクサ的動作においては、入力用マイクロガイドとして用いられる光ビームの出力手段(10)が、光ファイバ(28)に対して接続され、出力用マイクロガイドとして用いられる光ビームの入力手段(8)が、光ファイバ(30)に対して接続されており、いくつかの波長λi1、λi2、…、λiNから構成されている光が、E個の入力用光ファイバ(28)のうちのある第i番目に入射されると、N個の出力ファイバの各々に関する出力部分には、単一波長が現れ、
1つのピースを、他のピースに対して横方向に相対変位させることにより、デバイスの中心波長を調整する整相アレイデバイス。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「光ビームの入力手段(8)」、「プレーナ入力領域(4)」、「プレーナ出力領域(6)」及び「光ビームの出力手段(10)」は、本願補正発明の「光入力導波路」、「第1のスラブ導波路」、「第2のスラブ導波路」及び「光出力導波路」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「マイクロガイドアレイ(2)」は、そのM個のマイクロガイドに対応した複数の光学経路が互いに異なっているものであるから、本願補正発明の「互いに異なる長さの複数の並設されたアレイ導波路」に相当する。

ウ 上記(1)ア(イ)の「このタイプのデバイスは、また、AWG(Arrayed-Waveguide Grating)とも称され」(【0002】参照。)との記載に照らせば、引用発明の「整相アレイデバイス」は、本願補正発明の「アレイ導波路型回折格子」に相当する。

エ 引用発明の整相アレイデバイスは、「デマルチプレクサ的動作においては」、「いくつかの波長λi1、λi2、…、λiNから構成されている光が、E個の入力用光ファイバ28のうちのある第i番目に入射されると、N個の出力ファイバの各々に関する出力部分には、単一波長が現れ」るものであるから、「前記光入力導波路から入力される互いに異なる複数の波長をもった光から1つ以上の波長の光を分波して各光出力導波路から出力する光分波機能を有するアレイ導波路型回折格子」である点で、本願補正発明と一致する。

オ 引用発明は、「前記第1ピース(12)は、少なくとも1つのプレーナ領域の一部分(14)と、これに対応した前記入力手段および前記出力手段の一方と、を備え、前記第2ピース(26)は、このプレーナ領域の他の部分(18)と、前記デバイスの他の構成要件と、を備え」、「各ピースは、劈開可能な1つの結晶性基板上に形成され、その後、結晶学的基板面に沿った破断である劈開によってこの基板から各ピースに切り離され」るものであるから、引用発明の「光ビームの入力手段(8)」、「プレーナ入力領域(4)」、「プレーナ出力領域(6)」、「光ビームの出力手段(10)」及び「マイクロガイドアレイ(2)」は、「劈開可能な1つの結晶性基板」上に形成されているものと認められる。
そして、上記アないしエも踏まえると、引用発明は、「1本または2本以上の並設された光入力導波路の出射側に第1のスラブ導波路が接続され、該第1のスラブ導波路の出射側には該第1のスラブ導波路から導出された光を伝搬する互いに異なる長さの複数の並設されたアレイ導波路が接続され、該複数のアレイ導波路の出射側には第2のスラブ導波路が接続され、該第2のスラブ導波路の出射側には複数の並設された光出力導波路が接続されて成る導波路構成を基板上に形成し」たものといえ、この点で本願補正発明と一致する。

カ 引用発明の「少なくとも1つのプレーナ領域の一部分(14)」及び「このプレーナ領域の他の部分(18)」は、本願補正発明の「分離スラブ導波路」に相当する。

キ 引用発明は、「各ピースは、劈開可能な1つの結晶性基板上に形成され、その後、結晶学的基板面に沿った破断である劈開によってこの基板から各ピースに切り離され」、「プレーナ領域の一部分(14)と、このプレーナ領域の他の部分(18)の間の分離面は、第1ピース(12)及び第2ピース(26)の分離面と同一の面であり、プレーナ領域の一部分(14)と、このプレーナ領域の他の部分(18)は、分離面を互いに向き合わせて」いるものであるから、「基板は単結晶により形成されており、該単結晶基板の結晶方位面に沿って劈開形成された劈開分離面により第1のスラブ導波路と第2のスラブ導波路の少なくとも一方がスラブ導波路を通る光の経路と交わる面で分離されてその分離された分離スラブ導波路同士は互いに前記劈開分離面を対向させ」たものといえ、この点で本願補正発明と一致する。

ク 以上によれば、両者は、

「1本または2本以上の並設された光入力導波路の出射側に第1のスラブ導波路が接続され、該第1のスラブ導波路の出射側には該第1のスラブ導波路から導出された光を伝搬する互いに異なる長さの複数の並設されたアレイ導波路が接続され、該複数のアレイ導波路の出射側には第2のスラブ導波路が接続され、該第2のスラブ導波路の出射側には複数の並設された光出力導波路が接続されて成る導波路構成を基板上に形成し、前記光入力導波路から入力される互いに異なる複数の波長をもった光から1つ以上の波長の光を分波して各光出力導波路から出力する光分波機能を有するアレイ導波路型回折格子において、前記基板は単結晶により形成されており、該単結晶基板の結晶方位面に沿って劈開形成された劈開分離面により前記第1のスラブ導波路と第2のスラブ導波路の少なくとも一方がスラブ導波路を通る光の経路と交わる面で分離されてその分離された分離スラブ導波路同士は互いに前記劈開分離面を対向させたアレイ導波路型回折格子。」

である点で一致し、以下の(ア)及び(イ)の点で相違するものと認められる。

(ア)本願補正発明では、分離スラブ導波路同士は互いに約1μm以下の間隔を介して配置されているのに対して、引用発明では、「少なくとも1つのプレーナ領域の一部分(14)」及び「このプレーナ領域の他の部分(18)」の間隔が不明である点(以下「相違点1」という。)。

(イ)本願補正発明では、「前記アレイ導波路型回折格子の使用中に、前記分離された分離スラブ導波路の少なくとも一方側を前記劈開分離面に沿って、使用環境温度の変化に伴うアレイ導波路型回折格子の各光透過中心波長の温度依存変動を低減する方向に、リアルタイムでスライド移動させるスライド移動機構が設けられている」のに対して、引用発明では、上記のようなスライド移動機構が設けられていない点(以下「相違点2」という。)。

(4)判断

ア 相違点1について
引用発明において、「少なくとも1つのプレーナ領域の一部分(14)」及び「このプレーナ領域の他の部分(18)」の間隔を具体的にどの程度のものとするかは、当業者が設計上適宜に定めるべき事項であり、この間隔を約1μm以下とすることに格別の困難があるとは認められない。
また、当該間隔を約1μm以内とすることで、当業者が予測し得ないような格別の効果が得られるものとも認められない。

イ 相違点2について
上記(1)イによれば、引用刊行物2には、モノリシック導波路ブロックを第1モノリシックブロック200と第2モノリシックブロック202の二つに分離し、第2モノリシックブロック202を、第1モノリシックブロック200に対して、位相シフトの方向へ相対的に移動させる選択された膨張係数を持つ異なる材料の支持体212に取り付けることによって温度変化によって生じる波長シフトを補償する技術が記載されている。
してみれば、引用発明においても、上記技術を適用し、第1ピースと第2ピースのいずれか一方を、他方に対して、位相シフトの方向へ相対的に移動させる選択された膨張材料を持つ材料の支持体に取り付けることによって、温度変化によって生じる波長シフトを補償することとし、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

ウ 請求人の主張について

(ア)請求人は、審判請求の理由及び回答書において、以下の旨主張する。

a 本願補正発明は、スラブ導波路を切断によって分離した場合には、その切断に使用するダイシングソー等の切断刃の厚み部分に対応するスラブ導波路部分が、一般に20μm?数百μm削れて消失し、かつ、切断面の表面が滑らかでないために、この切断刃の厚み部分の間隔部分で屈折率の不整合が生じてしまったり、スラブ導波路の焦点距離が切断の前後で変わってしまったりして、切断前後でアレイ導波路型回折格子における波長合分波特性が異なってしまうという課題を解消するために、スラブ導波路を基板の劈開によって破断し、かつ、劈開された分離スラブ導波路同士の劈開分離面を約1μm以下の、通常の切断刃の厚み(20μm?数百μm)よりも桁違いに小さい(狭い)間隔で対向配置する構成としているのであって、このような本願発明の課題や、その課題解決の検証を示す引用刊行物がない以上、分離スラブ導波路同士の「劈開」の分離面間隔を約1μm以下とした前記課題解決の構成は、単なる設計事項とは言えない(回答書。以下「請求人の主張1」という。)。

b 引用刊行物2に記載の、出力導波路部分をスラブ導波路端面に対向した状態で横方向に移動する構成では、以下のような問題が生じる。
・出力導波路とスラブ導波路の接続部で形成される光電界分布が出力導波路部分の横方向移動によって変化し、通過スペクトルの形状が設定形状に対して形崩れを起こす。
・X方向、Y方向に光の閉じ込めがあり、両方に光軸のずれが生じる可能性があり、その光軸のずれによる損失が生じやすい。そのずれを生じさせないようにするためには、非常に高精度の位置合わせが要求される。
これに対し、本願補正発明においては、スラブ導波路自体を2つに分離し、分離スラブ導波路の少なくとも一方を他方の分離スラブ導波路に対して移動する構成としているので、上記のような問題は生じず、引用刊行物2に記載された発明によっては得られない効果を奏する(審判請求の理由 3.(4)。以下「請求人の主張2」という。)。

c 引用刊行物2に記載された発明における導波路206の移動は、光軸がずれる方向に移動するものであり、一方、引用刊行物1に記載された発明においては、各ピースをフェーザの光軸が一致した状態としてその光軸がずれないように固定しておくものであるから、光軸をずらす方向に導波路206を移動する引用刊行物2の技術を、光軸がずれないように調整設定するための引用刊行物1の技術に適用することは考えられない(回答書。以下「請求人の主張3」という。)。

(イ)しかし、以下に検討するとおり、いずれも採用できない。

a 請求人の主張1は、上記アの判断を左右するものではない。

b 請求人の主張2について検討するに、上記(1)ア(キ)のとおり、引用刊行物1には、プレーナ領域の起点部分をなすプレーナ領域の「直前個所」において分離がなされているものと比較した場合の、プレーナ領域の内部において二つのピースへと分離がなされているものの利点が記載されているから、引用発明において、引用刊行物2に記載の技術を適用するに際しても、第1および第2ピースを切断する位置を、引用刊行物2に記載のように、プレーナ領域の起点部分をなすプレーナ領域の「直前個所」ではなく、引用発明のプレーナ領域のほぼ中央のままとすることは、当業者が当然考慮することである。

c 請求人の主張3について検討するに、引用刊行物1及び引用刊行物2に記載の技術は、いずれも二つに分割された導波路の相対的な位置関係の調整に関するものであるから、引用刊行物1に記載の引用発明に、引用刊行物2に記載の技術を適用することは、当業者が容易に想到できたことというべきである。

オ 小括

以上の検討によれば、本願補正発明は、引用発明及び引用刊行物1、2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5) むすび

以上のとおりであるから、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年6月23日付け手続補正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2、1に補正前のものとして示したとおりである。

2 引用刊行物の記載及び引用発明

上記第2、3(1)及び(2)に記載したとおりである。

3 対比・判断

前記第2、2によれば、本願補正発明は、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものと認められるところ、前記第2、3で検討したとおり、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものである本願補正発明が、引用発明及び引用刊行物1、2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、減縮前の本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用発明及び引用刊行物1、2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用刊行物1、2に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-24 
結審通知日 2011-08-30 
審決日 2011-09-12 
出願番号 特願2000-149684(P2000-149684)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 将彦  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 稲積 義登
北川 創
発明の名称 アレイ導波路型回折格子  
代理人 五十嵐 清  

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