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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1245674
審判番号 不服2010-19741  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-01 
確定日 2011-10-27 
事件の表示 特願2005-287318号「ガスエンジン駆動式空気調和機の故障診断装置及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年4月19日出願公開、特開2007-100976号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年9月30日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成22年4月5日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)
「ガスエンジンの運転状態をモニタする複数のセンサと、
前記センサの出力信号に基づいて、前記ガスエンジンの異常を検出する異常検出手段と、
前記異常検出手段によって検出された異常が、前記ガスエンジンの運転停止を必要とする異常であるか否かを判定する判定手段と、
前記異常が、前記ガスエンジンの運転停止を必要とする異常でない場合に、前記異常に係る情報を記録することにより異常発生履歴を作成する異常発生履歴作成手段と、
前記異常が、前記ガスエンジンの運転停止を必要とする異常であった場合に、前記異常発生履歴を通知する通知手段と
を具備するガスエンジン駆動式空気調和機の故障診断装置。」

2.引用刊行物
これに対して、当審で通知した拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開2002-277032号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図1?9とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 複数のガスエンジンヒートポンプ型空調装置(以下GHPという)に配設された1又は複数のアダプタと,該アダプタに公衆回線,専用線あるいはインターネットその他のネットワークを介して接続された監視用コンピュータと,該監視用コンピュータに公衆回線,専用線あるいはインターネットその他のネットワークを介して接続された保守用コンピュータとを有し,上記アダプタ又は上記GHPは,該GHPが故障したことを判断する故障判定手段を有しており,上記アダプタは,上記GHPの故障発生時における異常内容を示す1又は複数のエラーコードと上記GHPを特定するためのID番号とを含むアラームデータを上記監視用コンピュータに送信するアラームデータ送信手段を有しており,上記監視用コンピュータは,上記アラームデータを運転記録DBファイルに蓄積する運転データ保存手段と,上記アラームデータを受理した際に上記アラームデータ内の少なくとも一部のデータを含む故障通知メールを形成すると共に該故障通知メールを上記保守用コンピュータに送信する故障警報発信手段とを有していることを特徴とするGHP遠隔監視システム。
・・・(中略)・・・
【請求項12】 複数のガスエンジンヒートポンプ型空調装置(以下GHPという)に配設された1又は複数のアダプタと,該アダプタに公衆回線,専用線あるいはインターネットその他のネットワークを介して接続された監視用コンピュータと,該監視用コンピュータに公衆回線,専用線あるいはインターネットその他のネットワークを介して接続された保守用コンピュータとを有し,上記アダプタは,所定の時間間隔をおいて定期的に上記GHPにおける1種以上の運転データと該GHPのID番号を含む標準データを上記監視用コンピュータに送信する標準データ送信手段を有しており,上記監視用コンピュータは,上記標準データを運転記録DBファイルに蓄積する運転データ保存手段を有しており,上記保守用コンピュータは,上記監視用コンピュータの上記運転記録DBファイル内の情報を閲覧する運転情報閲覧手段を有していることを特徴とするGHP遠隔監視システム。
【請求項13】 請求項12において,上記標準データには,上記GHPを特定するためのID番号と,上記GHP運転時間データと,上記GHPの発停回数と,上記GHPのガス使用量と,上記エラーコードとを含むことを特徴とするGHP遠隔監視システム。」(特許請求の範囲)
(2)「本発明においては,上記GHPが故障を起こした際に上記アダプタあるいはGHPが上記故障判定手段によってこれを即座に認識する。故障判定手段としては,様々な方法を採ることができるが,例えば,GHPの各種の運転データに対してエラー領域を設定し,そのエラー領域に運転データが入った場合にエラーコードを生じさせ,このエラーコードが複数回生じた場合に故障と見なす,あるいは,複数のエラーコードの所定の組合せが生じたときに故障と見なすなどのようにエラーコードを用いて判定する方法などがある。」(段落【0006】)
(3)「実施形態例1
・・・(中略)・・・本例のGHP遠隔監視システム1は,図1に示すごとく,複数のGHP9に配設されたアダプタ10と,アダプタ10に接続された監視用コンピュータ2と,監視用コンピュータ2に接続された保守用コンピュータ3,4と保守用コンピュータ4に配設された警報器5とを有している。・・・(中略)・・・
上記アダプタ10は,同図に示すごとく,GHPに直接接続され運転データの収集や後述する遠隔操作手段に従ってGHPを制御する遠隔制御部11と,該遠隔制御部11と監視用コンピュータ2との間の通信を制御する通信端末12とより構成されている。本例では,上記アダプタ10の通信端末12として,携帯電話回線を利用したNTT-Dopa通信網81(商品名)に接続可能な携帯電話端末を採用した。・・・(中略)・・・
上記監視用コンピュータ2は,遠隔監視センター200に設置され,専用回線82により上記NTT-Dopa通信網81に接続されている。また,本例では,2台の保守用コンピュータが設けられている。・・・(中略)・・・もう一つは,GHPの保守作業を担当する外部の部署である保守会社400に配設され,インターネット84を用いて接続された第2保守用コンピュータ4である。・・・(中略)・・・上記第2保守用コンピュータ4には,警報器5としての回転灯が接続されている。また,上記保守会社400には,保守用携帯端末器6が配備されており,該保守用携帯端末器6を保守担当者が常時携帯できるようになっている。
各GHPに接続されたアダプタ10は,GHPが故障したことを判断する故障判定手段を有している。本例では,具体的な故障判断方法として,各運転データごとに,2段階のエラー領域を設定した。第1段階のエラー領域は,故障とまでは判定できないが,あまり好ましくない状態にある領域を設定する。そして,この領域に運転データが達した場合には,その異常状態を示すエラーコードだけを発生させる。第2段階のエラー領域には,故障と判定すべき領域を設定する。そしてこの領域に運転データが達した場合には,エラーコードを発生させると共に故障であるという判定を下すという手法を用いた。
なお,上記故障判断方法としては,上記の他に,例えば,GHP本体のシーケンサー内部で故障回避のための運転モードに指定時間内に指定回数達成した場合にエラーコードを発生するという方法を採用することもできる。
また,図2に示すごとく,上記アダプタ10は,GHPの故障発生時にアラームデータD1を上記監視用コンピュータ2に送信するアラームデータ送信手段を有している。本例では,上記アラームデータD1として,GHPの故障発生時における異常内容を示す1又は複数のエラーコードとGHPを特定するためのID番号とを含み,さらに,故障発生時以前の1時間分のGHPの運転状態を示す約50種類の運転データを含む。上記運転データとしては,例えば,圧縮機出入口温度,熱交換器出入口温度,冷却水温度,排ガス温度,エンジン回転数,各種弁開度,室内機運転状況等がある。
・・・(中略)・・・
上記監視用コンピュータ2は,運転データ保存手段S1と,故障警報発信手段S2と,保守手配手段S3とを有している。上記運転データ保存手段S1は,受信したアラームデータD1を運転記録DBファイルF1に蓄積する手段である。上記故障警報発信手段S2は,アラームデータD1を受理した際にアラームデータD1内の一部のデータを含む故障通知メールを作成して第1,第2保守用コンピュータ3,4及び保守用携帯端末器6に送信する手段である。
上記保守手配手段S3は,上記アラームデータD1内の一部のデータを含むトラブルチケットD2を形成すると共にトラブルチケットD2を保守案件DBファイルF2に保存する手段である。
本例のトラブルチケットD2のデータとしては,GHPのID番号と,・・・(中略)・・・トラブル発生時刻,エラーコード,トラブル内容,保守会社名,過去の故障履歴等を用いた。
また,上記故障通知メールD3としては,送付先に応じて2種類作成した。一つは,保守用携帯端末器6に送付するもので,最低限の情報のみを含むものである。もう一つは,第1,第2保守用コンピュータ3,4に送付するもので,後述するトラブルチケットのデータよりも少ないが,比較的多くの情報を含むものである。
具体的には,上記保守用携帯端末器6に送る故障通知メールD3のデータとしては,GHPのID番号と,・・・(中略)・・・エラーコードを用いた。また,上記第1,第2保守用コンピュータ3,4に送付する故障通知メールD3のデータとしては,上記保守用携帯端末器6に送るデータに加えてGHP容量,GHP型式を用いた。なお,すべての故障通知メールD3を同じ内容にすることも勿論可能である。
上記第2保守用コンピュータ4は,監視用コンピュータ2から故障通知メールD3を受理した際に,警報制御手段S20によって上記警報器5を制御して警報を発するよう構成されている。・・・(中略)・・・
また,上記保守用コンピュータ3,4は,監視用コンピュータ2の保守案件DBファイルF2からトラブルチケットD2を受理するトラブルチケット受理手段S4と,トラブルチケットD2に対して保守結果データを追加入力する保守結果入力手段S5とを有している。」(段落【0059】?【0073】)
(4)「次に,実際にGHP9に故障が発生した場合の本GHP遠隔監視システム1の動きを説明する。図2に示すごとく,GHP9に故障が発生した場合には,まず,上記アダプタ10が上記故障判定手段によって自動的に故障を認識する。そしてアダプタ10は,上記アラームデータ送信手段によってアラームデータD1を作成し監視用コンピュータ2に送信する。
また監視用コンピュータ2は,運転データ保存手段S1によってアラームデータD1を運転記録DBファイルF1に蓄積する一方,故障警報発信手段S2によって故障通知メールD3を作成し,第1,第2保守用コンピュータ3,4及び保守用携帯端末器6に送付する。また,監視用コンピュータ2は,保守手配手段S3によって,トラブルチケットD2を形成してこれを保守案件DBファイルF2に保存する。
上記第2保守用コンピュータ4は,上記故障通知メールD3を受領した際に上記警報器(回転灯)5を作動させて警報を発する。これにより,保守会社400内の上記第2保守用コンピュータ4のオペレータは直接または間接に,上記警報器5からの警報および故障通知メールD3によって容易にGHPの故障発生を知ることができる。
そのため,上記オペレータは,故障通知メールD3の情報で不十分な場合には,第2保守用コンピュータ4のトラブルチケット受理手段S4を使って,トラブルチケットD2を入手し,故障したGHPの更に詳しい情報を入手することができる。
・・・(中略)・・・
いずれの場合においても,上記保守担当者は,迅速にGHPの故障発生の事実を知り,その対処へのアクションを迅速に起こすことができる。それ故,本例のGHP遠隔監視システム1を用いれば,従来よりも迅速で的確な保守作業を促すことができる。」(段落【0075】?【0080】)
(5)「実施形態例2
本例は,実施形態例1のシステムをベースにして,新たな機能を加えた例である。まず,図3に示すごとく,本例では,アダプタ10に標準データ送信手段を設けた。この標準データ送信手段は,任意に設定した間隔で(例えば1日に1回)定期的に上記GHP9における複数の運転データとGHPのID番号を含む標準データD5を監視用コンピュータ2に送信する手段である。
本例では,上記標準データD5として,GHPを特定するためのID番号と,GHP運転時間データと,GHPの発停回数と,上記GHPのガス使用量と,エラーコードとを含めた。・・・(中略)・・・上記エラーコードは,その日に発生したエラーデータである。なお,このエラーデータは上記故障判定手段において発せられるエラーコードである。
そして,本例では,監視用コンピュータ2が,上記運転データ保存手段S1によって上記標準データD5を運転記録DBファイルF1に蓄積するようにした。また,第1,第2保守用コンピュータ3,4には,監視用コンピュータ2の運転記録DBファイルF1内の情報を閲覧する運転情報閲覧手段S6を設けた。
・・・(中略)・・・
本例の場合には,GHPの故障発生有無に関わらず,各GHPの運転データを監視用コンピュータ2の運転記録DBファイルF1に保管することができる。そのため,第1,第2保守用コンピュータ3,4の運転情報閲覧手段S6を用いれば,任意あるいは定期的に各GHPの運転状態を確認することができる。そして,この機能により,技術的な精度の高い分析を進めることもできる。」(段落【0082】?【0086】)

上記(1)?(5)の記載事項及び図面を、特に実施形態例2と記載事項(2)に着目して、総合すると、引用刊行物には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガスエンジンヒートポンプ型空調装置(GHP)の各種の運転データについてエラー領域に運転データが入った場合にエラーコードを生じさせ,このエラーコードが複数回生じた場合や複数のエラーコードの所定の組合せが生じたときに故障と見なす,又は各運転データごとに,故障とまでは判定できないが,あまり好ましくない状態にある領域で,この領域に運転データが達した場合には,その異常状態を示すエラーコードだけを発生させる第1段階のエラー領域と,その領域に運転データが達した場合には,エラーコードを発生させると共に故障であるという判定を下す第2段階のエラー領域の,2段階のエラー領域を設定した,GHPが故障したことを判断する,故障判定手段と,
その日に発生したエラーコードと複数の運転データを含む標準データD5を、例えば1日に1回等の定期的に監視用コンピュータ2に送信する標準データ送信手段と,
GHPの故障発生時、故障判定手段によって故障したことを判断すると、GHPの故障発生時における異常内容を示すエラーコードと故障発生時以前の1時間分のGHPの運転状態を示す約50種類の運転データを含むアラームデータD1を監視用コンピュータ2に送信するアラームデータ送信手段と
を有するGHP9に配設されたアダプタ10と,
標準データD5を運転記録DBファイルF1に蓄積し,また,受信したアラームデータD1を運転記録DBファイルF1に蓄積する,運転データ保存手段S1と,
アラームデータD1を受理した際にアラームデータD1内の一部のデータを含む,トラブルチケットのデータよりも少ないが比較的多くの情報を含む,エラーコードを用いた故障通知メールD3を作成して第2保守用コンピュータ4及び保守用携帯端末器6に送信する故障警報発信手段S2と,
アラームデータD1内の一部のデータを含むトラブル発生時刻,エラーコード,トラブル内容,保守会社名,過去の故障履歴等のトラブルチケットD2を形成すると共にトラブルチケットD2を保守案件DBファイルF2に保存する保守手配手段S3と
を有する監視用コンピュータ2と,
監視用コンピュータ2から故障通知メールD3を受理した際に,警報器5より警報を発し,警報器5からの警報および故障通知メールD3によって容易にGHPの故障発生を知ることができ,
故障通知メールD3の情報で不十分な場合には,第2保守用コンピュータ4のトラブルチケット受理手段S4を使って,トラブルチケットD2を入手し,故障したGHPの更に詳しい情報を入手することができ,
監視用コンピュータ2の運転記録DBファイルF1内の情報を閲覧する運転情報閲覧手段S6を設けて技術的な精度の高い分析を進めることができる
第2保守用コンピュータ4と,
を具備する,迅速にGHPの故障発生の事実を知り,その対処へのアクションを迅速に起こすことができ,的確な保守作業ができる,ガスエンジンヒートポンプ型空調装置の遠隔監視システム1。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「ガスエンジンヒートポンプ型空調装置(GHP)」は前者の「ガスエンジン駆動式空気調和機」に相当し、後者の「迅速にGHPの故障発生の事実を知り,その対処へのアクションを迅速に起こすことができ,的確な保守作業ができる,ガスエンジンヒートポンプ型空調装置の遠隔監視システム1」はその機能からみて、前者の「ガスエンジン駆動式空気調和機の故障診断装置」に相当する。
後者の「故障判定手段」は「ガスエンジンヒートポンプ型空調装置(GHP)の各種の運転データについてエラー領域に運転データが入った場合」を検出するものであるから、各運転データを得るための複数のセンサを有するといえ、かつ、前者の「ガスエンジン」はガスエンジンヒートポンプ型空調装置(GHP)の一部といえるから、後者も前者と同様に「ガスエンジンの運転状態をモニタする複数のセンサ」を有するものである。そして、後者の「ガスエンジンヒートポンプ型空調装置(GHP)の各種の運転データ」は前者の「センサの出力信号」に相当する。
また、後者の故障判定手段のエラーコードは、「エラー領域に運転データが入った場合」に生じさせるものであって、「このエラーコードが複数回生じた場合や複数のエラーコードの所定の組合せが生じたときに故障と見なす」ものであるから、前者の「センサの出力信号に基づいて」検出された「異常」に相当する。なお、後者の故障判定手段において、「又は」とされるものにおいても、「故障とまでは判定できないが,あまり好ましくない状態にある領域で,この領域に運転データが達した場合に」発生される「その異常状態を示すエラーコード」であって、このことからも「エラーコード」は前者の「異常」に相当するものといえる。
後者の「故障」は「このエラーコードが複数回生じた場合や複数のエラーコードの所定の組合せが生じたとき」に発生したと見なされるものであり、「迅速にGHPの故障発生の事実を知り,その対処へのアクションを迅速に起こすことができ,的確な保守作業」をするものであって、前者の「ガスエンジンの運転停止を必要とする異常」は、ガスエンジンの運転停止を必要としない異常に対するものといえるから、ともに重大な異常である点で共通し、後者の「エラーコードが複数回生じた場合や複数のエラーコードの所定の組合せが生じたときに故障と見なす」ことは、前者の「検出された異常が、前記ガスエンジンの運転停止を必要とする異常であるか否かを判定する」ことと、検出された異常が、重大な異常であるか否かを判定する点で共通する。
そして、後者の故障判定手段は前者の異常検出手段及び判定手段の機能を有するものであるから、異常検出・判定手段である点で共通する。
一方、後者は故障判定手段が「運転データについてエラー領域に運転データが入った場合にエラーコードを生じさせ,」かつ故障と見なされないとき、当該エラーコードについては、標準データ送信手段により「その日に発生したエラーコードと複数の運転データを含む標準データD5を、例えば1日に1回等の定期的に監視用コンピュータ2に送信」され、監視用コンピュータ2の運転データ保存手段S1により「標準データD5を運転記録DBファイルF1に蓄積」されるものであって、前者が具備する「異常が、前記ガスエンジンの運転停止を必要とする異常でない場合に、前記異常に係る情報を記録することにより異常発生履歴を作成する異常発生履歴作成手段」とは、異常が、重要な異常でない場合に、異常に係る情報を記録することにより異常発生履歴を作成する異常発生履歴作成手段を具備する点で共通する。そして、後者は、第2保守用コンピュータ4の運転情報閲覧手段S6により運転記録DBファイルF1内の情報は閲覧され、技術的な精度の高い分析を進めることができるものである。なお、前者は本願明細書の段落【0013】に記載されるように遠隔監視装置に実装するものを含むものである。
さらに、後者は「GHPの故障発生時、故障判定手段によって故障したことを判断すると、GHPの故障発生時における異常内容を示すエラーコードと故障発生時以前の1時間分のGHPの運転状態を示す約50種類の運転データを含むアラームデータD1を監視用コンピュータ2に送信するアラームデータ送信手段と」、「アラームデータD1を受理した際にアラームデータD1内の一部のデータを含む,トラブルチケットのデータよりも少ないが比較的多くの情報を含む,エラーコードを用いた故障通知メールD3を作成して第2保守用コンピュータ4及び保守用携帯端末器6に送信する故障警報発信手段S2と」を有するものであるから、前者が「異常が、前記ガスエンジンの運転停止を必要とする異常であった場合に、前記異常発生履歴を通知する通知手段」を具備することとは、異常が、重要な異常であった場合に、通知する通知手段を具備する点で共通する。
そうすると、両者は、
「ガスエンジンの運転状態をモニタする複数のセンサと、
前記センサの出力信号に基づいて、前記ガスエンジンの異常を検出し、
検出された異常が、重要な異常であるか否かを判定する異常検出・判定手段と、
前記異常が重要な異常でない場合に、前記異常に係る情報を記録することにより異常発生履歴を作成する異常発生履歴作成手段と、
前記異常が、重要な異常であった場合に、通知する通知手段と
を具備するガスエンジン駆動式空気調和機の故障診断装置。」である点で一致し、以下の点で相違しているものと認められる。

相違点A:重要な異常に関して、本願発明が「ガスエンジンの運転停止を必要とする異常」であるのに対して、引用発明は「このエラーコードが複数回生じた場合や複数のエラーコードの所定の組合せが生じたときに故障と見なす」ものであって、「エラーコードを用いた故障通知メールD3を」「第2保守用コンピュータ4及び保守用携帯端末器6に送信する」ものである点。
相違点B:異常検出・判定手段に関して、本願発明が「センサの出力信号に基づいて、前記ガスエンジンの異常を検出する異常検出手段と、前記異常検出手段によって検出された異常が、」重要な「異常であるか否かを判定する判定手段と」を具備するのに対して、引用発明は異常検出手段と判定手段の両方の機能を有する故障判定手段である点。
相違点C:通知手段に関して、本願発明が「異常発生履歴を通知する」のに対して、引用発明は「アラームデータD1内の一部のデータを含む,」「エラーコードを用いた故障通知メールD3を」「送信する」点。

そこで、上記相違点について検討する。
(1)相違点Aについて
引用発明は、「故障と見な」されたとき、「エラーコードを用いた故障通知メールD3を」「第2保守用コンピュータ4及び保守用携帯端末器6に送信する」ものであって、「迅速にGHPの故障発生の事実を知り,その対処へのアクションを迅速に起こすことができ,的確な保守作業ができる」ものであるから、保守業者が行って修理を行うことを想定した故障や異常である。
一方、「エラー領域に運転データが入った」としても、「このエラーコードが複数回生じ」なかった場合や「複数のエラーコードの所定の組合せが生じ」なかったときは「エラーコードを生じさ」せるだけで、上記のように送信されるものではないことから、直ちに修理を行うことを想定した故障や異常ではないものの、エラー領域に入っている異常であり、その調整・修理は定期点検等によるものといえる。なお、引用発明の「故障判定手段」の「又は」とされるものの第1段階もそのようものといえる。
そして、上記エラーコードを生じるだけの異常よりは緊急性の高い、保守業者が行って修理を行うことを想定した故障の中にも、より早く処理した方が良い程度や保守業者が行くまでそのまま運転できるもの、出力等の稼働状態が制限されるもの、そして直ちに停止しないと事故になるものまであることも、当業者が通常想定し得た程度のことである。
そうすると、異常について、定期点検時に調整・修理するものから、直ちにではないものの修理を必要とする故障、直ちに修理が必要なもの、さらに直ちに機器を停止する必要があるものまで種々の緊急度があって、当該通知を行う故障について、引用発明は故障、つまり修理が必要という緊急度を選択し保守業者等に通知して修理するものであるが、直ちに停止しないと事故になる緊急性の高いもののみを製造者や専門の保守業者に通知することは、当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことといえる。
通知しない、直ちに停止しないと事故になる緊急性の高いもの以外の修理を行うべき故障について、現場等で処理するようにしたり或いは修理時期や方法を使用者に任せる等の選択肢があることは、機器の保守を検討するにあたり、当業者が通常容易に想到できた事項であって、上記のような判断することが困難ということはない。
なお、使用者の技術程度に応じて、直ちに修理すべき故障を、すべて停止すべき故障とすることも、当業者にとって困難とはいえない。
そうすると、相違点Aに係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことといえ、そのことによる格別の効果もない。

(2)相違点Bについて
引用発明の故障判定手段は、「各種の運転データについてエラー領域に運転データが入った場合にエラーコードを生じさせ」ることと、「このエラーコードが複数回生じた場合や複数のエラーコードの所定の組合せが生じたときに故障と見なす」ことを行うものであって、この2つ機能は順次行うものであるから、それぞれの機能を分けて、2つの手段により行うようなすことは、そのことによる格別の効果もなく、当業者が適宜なし得たことといえる。
したがって、相違点Bに係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことといわざるを得ない。

(3)相違点Cについて
引用発明の「エラーコードを用いた故障通知メールD3」は「故障発生時以前の1時間分のGHPの運転状態を示す約50種類の運転データを含む」「アラームデータD1内の一部のデータを含」んでいて、故障に関する情報を通知しているといえるものの、故障するまでのエラーコードを含んでいない。
しかし、引用発明は「故障通知メールD3の情報で不十分な場合には,第2保守用コンピュータ4のトラブルチケット受理手段S4を使って,トラブルチケットD2を入手し,故障したGHPの更に詳しい情報を入手することができ」るものであり、トラブルチケットD2には「アラームデータD1内の一部のデータを含むトラブル発生時刻,エラーコード,トラブル内容,保守会社名,過去の故障履歴等」と過去の故障履歴も含むものである。
そして、運転記録DBファイルF1に蓄積された、過去のエラーコードを含めた複数の運転データD5からなる情報は、第2保守用コンピュータ4の運転情報閲覧手段S6により閲覧できるものである。
そうすると、引用発明は、故障通知メールD3で故障に関する情報を通知するものであって、故障通知メールD3の情報で不十分な場合に、より詳しい情報を得ようと第2保守用コンピュータ4から監視用コンピュータ2にアクセスするものであり、同様に得られる情報として、運転記録DBファイルF1内の過去のエラーコードを含めた複数の運転データD5があるから、故障通知メールD3で通知する、故障に関する情報に関して、より詳細な情報を得てより的確な保守作業、精度の高い分析ができるように、メールの容量等を考慮しつつ、過去のエラーコードを含めた複数の運転データD5をも含めることは、当業者が容易になし得たことといえる。
なお、例えば車両のダイアグノーシスとして、故障履歴やその回数を表示するなどのことが一般的によく知られており、特開平7-181112号公報にも故障履歴を故障原因の究明に用いることが記載されていることからも、上記のように過去のエラーコードを通知することが格別とはいえない。
したがって、相違点Cに係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことといえる。

そして、相違点A?Cを合わせ考えても、本願発明の効果が格別であるとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のように、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-23 
結審通知日 2011-08-30 
審決日 2011-09-12 
出願番号 特願2005-287318(P2005-287318)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 直欣  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 冨岡 和人
青木 良憲
発明の名称 ガスエンジン駆動式空気調和機の故障診断装置及びその方法  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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