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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S |
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管理番号 | 1245787 |
審判番号 | 不服2008-3779 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-02-18 |
確定日 | 2011-10-26 |
事件の表示 | 特願2003- 41703「GPS受信機用リアルタイムクロック」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月 5日出願公開、特開2003-248044〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成15年2月19日(パリ条約による優先権主張2002年2月19日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成19年9月26日付けで明細書または図面について補正がなされ(以下、「補正1」という。)、平成19年11月12日付け(送達日:同年11月20日)で拒絶査定がなされ、これに対し平成20年2月18日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。 そして本願の請求項1ないし3に係る発明は、補正1によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。(以下、「本願発明」という。) 「ナビゲーション衛星受信機の初期化のためのウォームスタート方法であって、 当該方法は、 水晶発振器を含むナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を追跡していない場合に、前記水晶発振器を用いてミリ秒以下の正確な時刻を維持するステップと、 ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を捕捉して追跡しており、GPS衛星から受信した信号から正確な時刻を導出できた場合に前記水晶発振器を原子標準精度に設定するステップと、 前記ナビゲーションプラットフォームが電力供給されておらず、GPS衛星を追跡していない期間に前記水晶発振器の温度を測定するステップと、 前記ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を捕捉して追跡しながら、原子標準の正確な時刻を導出できる期間に、前記水晶発振器のための温度ドリフトモデルを構築するステップと、 前記温度ドリフトモデルと、前記ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を追跡していない間に前記温度測定ステップで得たデータとに従って前記水晶発振器の自走時刻を補正するステップと、 後の電源投入によるGPS衛星の捕捉の際に、次の測位の前に前記ナビゲーションプラットフォームにミリ秒以下の正確な時刻を前記水晶発振器が供給するステップと、 を有し、 ウォームスタート測位を行う上で、後の電源投入によるGPS衛星の捕捉のために、整数ミリ秒及びZカウントの新たな測定が必要とされず、 前記ナビゲーションプラットフォームによるウォームスタート測位に要する時間が、GPSシステム時刻の1ミリ秒以下の精度の前記水晶発振器から得られた時刻を推測し、以前取得したZカウントを使用することにより実質的に減少する、 ことを特徴とする方法。」 2.引用例 (1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-249174号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに下記の記載がある。 A)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、GPS受信機に関し、特に、起動時の時刻をカウンタで推定して立上げ時間を短縮するGPS受信機に関する。」 B)「【0004】ところで、GPS衛星からの送信データを用いて、GPS衛星の送信時刻を求めるためには、4つの要素が必要である。GPS衛星からの航法メッセージ内のZカウンタで求める6s単位の時刻と、サブフレーム先頭からのビット数を用いて求める20msec単位の時刻と、ビットエッジからのPRN符号のくり返し数から求める1msec単位の時刻と、PRN符号先頭からの符号数から求める1/1024ms単位の時刻である。 【0005】つまり、GPS衛星の送信時刻の計算要素である、Zカウンタおよびビット数を取得するには、6秒単位で送信される航法メッセージサブフレームの先頭を検出する必要がある。したがって、このデータを用いて送信時刻を確定するには、最低でも6秒の時間が必要であり、実際には10秒以上の時間を要してしまう。 【0006】しかし、送信時刻の算出に、GPS衛星からの送信データを利用して、10秒以上という長い時間を必要とするとなると、間欠受信による低消費電力の効果が小さくなってしまう。これを解決し、送信時刻算出に要する時間を短縮するために、GPS動作停止中でもカウンタをカウントアップするカウンタ部を設ける。測位計算を行って求めた正しい時刻とカウンタ値を保持し、次の立ち上がり時に、その記憶した情報と立ち上がり時のカウンタの値とから、推定現在時刻を求める。GPS衛星の送信時刻を逆算することにより、GPS衛星からの送信データを待って決定するよりも、早く決定することができる。このようにして、GPS受信機が動作を開始してから測位計算を開始するまでの時間を短縮できる。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来のGPS受信機では、GPS動作停止中に時刻をカウントアップするカウンタ部が、温度変化などによる、時間に線形でない誤差を持つ場合、GPS衛星の送信時刻を逆算する際に誤差を含むことになる。その結果、正しい送信時刻を得られず、測位計算を行って計算された位置と速度も誤差を含むことになり、その結果、いわゆる位置飛びを生じることがあるという問題があった。」 C)「【0014】図1は、本発明の第1の実施の形態におけるGPS受信機の構成を示す機能ブロック図である。図1において、GPSアンテナ部101は、GPS衛星の信号を受信するアンテナである。検波部102は、受信した信号を復調して航法メッセージを取得する手段である。測位部103は、取得した航法メッセージまたは時刻設定部110の時刻データにより、GPS衛星の送信時刻を求めて測位演算を行なう手段である。カウンタ部104は、GPS受信機が停止中にも時刻をカウントするカウンタである。誤差測定部105は、測位演算を行って求めた正確な時刻を用いて、カウンタ部104の誤差を測定する手段である。測定結果保存部106は、誤差測定部105で使用した時刻データとカウンタ値と誤差データを保存する手段である。誤差補正部107は、測定結果保存部106に格納されているデータを用いて、異なる2時点間の時間を補正する手段である。時刻予測精度評価部108は、測定結果保存部106に格納されている誤差データを用いた場合に、どれだけ測位精度が劣化するかを算出する手段である。時刻予測部109は、誤差補正部107の結果を用いて、送信時刻を確定するための時刻を算出する手段である。時刻設定部110は、時刻予測精度評価部108と時刻予測部109の結果に基づいて、送信時刻を確定する情報を設定する手段である。 【0015】上記のように構成された本発明の第1の実施の形態におけるGPS受信機の動作を説明する。まず、GPS衛星からの信号を用いて、送信時刻を確定して測位演算を行なう。そして、時間を隔てて再度、GPS衛星からの信号を用いて送信時刻を確定して、測位演算を行なう。この両者の送信時刻と、送信時刻を取得した時のカウンタ部104の値とを、測定結果保存部106に格納しておく。GPS衛星からの信号を用いて確定した送信時刻は正確であるので、この正確な送信時刻の差に対するカウンタ部104の誤差を測定できたことになる。前者で得た送信時刻をG0、その時のカウンタ部104の時刻をR0、後者の送信時刻をG1、カウンタ部104の時刻をR1と呼ぶことにする。 【0016】この手順以降の送信時刻は、GPS衛星からの送信を待たなくとも、この取得した値から算出して確定できる。仮に、カウンタ部104の時刻R2を取得したとすると、その時の送信時刻G2は、 G2=G1+(R2-R1)×(G1-G0)/(R1-R0) として、前回測位時の送信時刻G1に足し込むことで算出できる。G2以降の送信時刻についても、同様にして算出できる。 【0017】したがって、GPS衛星からの信号で送信時刻を確定しなくても、カウンタ部104からの補正した時刻で送信時刻を算出することが可能となる。ここまでは、従来のGPS受信機と同じである。」 D)「【0035】(第4の実施の形態)本発明の第4の実施の形態は、温度センサで測定した温度によって、カウンタ部の値を補正するGPS受信機である。 【0036】図4は、本発明の第4の実施の形態におけるGPS受信機の構成を示す機能ブロック図である。図4において、GPSアンテナ部101から時刻設定部110は、第1の実施の形態と同じである。温度センサ部114は、カウンタ部の温度を測定するセンサである。カウンタ補正部115は、温度センサ部114の測定結果に基づいて、温度変化によるカウンタ部の誤差を補正する手段である。カウンタ部116は、カウンタ補正部115によりカウントを補正できるカウンタである。 【0037】上記のように構成された本発明の第4の実施の形態におけるGPS受信機の動作を説明する。カウンタ部116に用いられる水晶発振器の温度変化による周波数変化は、水晶振動子の温度特性から知ることができる。したがって、温度センサ部114からの情報により、温度変化による周波数ずれを補正できる。この結果、精度の高い送信時刻が確定できる。 【0038】上記のように、第4の実施の形態では、GPS受信機を、温度センサで測定した温度によって、カウンタ部の値を補正する構成としたので、精度の高い送信時刻を確定できる。」 上記記載A)?D)から、下記の技術事項を読み取ることができる。 (ア)上記記載A)、B)から、「GPS受信機を、次の立ち上げ時においてGPS衛星からの送信データを取得せずに起動する方法」という技術事項が読み取れる。 (イ)上記記載D)における段落【0037】には、「カウンタ部116に用いられる水晶発振器」、「温度センサ部114からの情報により、温度変化による周波数ずれを補正できる。この結果、精度の高い送信時刻が確定できる。」という記載があり、カウンタ部116を温度センサ部114からの情報により補正し精度の高い時刻を確定するという技術事項が読み取れる。 また、上記記載C)の段落【0014】には、「カウンタ部104は、GPS受信機が停止中にも時刻をカウントする」と記載されているので、GPS受信機の停止中にカウンタ部116の値を補正するという技術事項も読み取れる。 したがって、上記記載C)およびD)から、「水晶発振子を備えるGPS受信機が停止中に、温度センサからの情報により補正し、カウンタ部が時刻をカウントし精度の高い時刻を確定する」という技術事項が読み取れる。 (ウ)上記記載D)の段落【0036】には、「GPSアンテナ部101から時刻設定部110は、第1の実施の形態と同じである。」と記載されており、かつ、上記記載C)の段落【0015】には「GPS衛星からの信号を用いて確定した送信時刻は正確であるので、この正確な送信時刻の差に対するカウンタ部104の誤差を測定できたことになる。」、「カウンタ部104からの補正した時刻で送信時刻を算出することが可能となる。」と記載されている。 したがって、第4の実施の形態において、温度センサ部からの情報によるカウンタ部116の補正を行うことに加え、「GPS衛星からの信号を用いて正確な時刻を確定し、カウンタ部からの補正した時刻で正確な時刻を算出する」という技術事項を備えることが読み取れる。 (エ)上記記載D)の段落【0036】における、「温度センサ部114は、カウンタ部の温度を測定するセンサである。カウンタ補正部115は、温度センサ部114の測定結果に基づいて、温度変化によるカウンタ部の誤差を補正する手段である。」という記載について、上記(イ)で示したのと同様に「GPS受信機が停止中」にも備えるものであり、段落【0037】に「カウンタ部116に用いられる水晶発振器」とあるから、「GPS受信機が停止中に水晶発振器を用いたカウンタ部の温度を測定」し、「GPS受信機の停止中におけるカウンタ部の温度の測定結果に基づいて、温度変化によるカウンタ部の誤差を補正する」という技術事項が読み取れる。 (オ)上記記載B)の段落【0006】には、「・・・測位計算を行って求めた正しい時刻とカウンタ値を保持し、次の立ち上がり時に、その記憶した情報と立ち上がり時のカウンタの値とから、推定現在時刻を求める。・・・GPS受信機が動作を開始してから測位計算を開始するまでの時間を短縮できる。」と記載されており、かつ、上記記載C)の段落【0017】には「したがって、GPS衛星からの信号で送信時刻を確定しなくても、カウンタ部104からの補正した時刻で送信時刻を算出することが可能となる。ここまでは、従来のGPS受信機と同じである。」と記載されている。 また、上記記載D)の【0037】には、「温度センサ部114からの情報により、温度変化による周波数ずれを補正できる。この結果、精度の高い送信時刻が確定できる。」ことが記載されている。 これらの記載からみて、「次の立ち上がり時」において「測位計算を開始するまで」の時間に、カウンタ部から「精度の高い時刻」が供給されているといえる。 したがって、上記記載から「次の立ち上がり時に、測位計算を開始するまでの時間にGPS受信機に精度の高い時刻をカウンタ部が供給する」という技術事項が読み取れる。 (カ)上記記載B)の段落【0004】には、「GPS衛星からの送信データを用いて、GPS衛星の送信時刻を求めるためには、4つの要素が必要である。GPS衛星からの航法メッセージ内のZカウンタで求める6s単位の時刻と、サブフレーム先頭からのビット数を用いて求める20msec単位の時刻と、ビットエッジからのPRN符号のくり返し数から求める1msec単位の時刻と、PRN符号先頭からの符号数から求める1/1024ms単位の時刻である。」と記載されており、「GPS衛星の送信時刻」を求めるために「Zカウンタ」、「ビット数」、「1msec単位の時刻」、「1/1024ms単位の時刻」が必要であることが記載されている一方、上記記載C)の段落【0017】には「GPS衛星からの信号で送信時刻を確定しなくても、カウンタ部104からの補正した時刻で送信時刻を算出することが可能」と記載されていることからみて、上記記載A)の「起動時の時刻をカウンタで推定して立上げ時間を短縮する」ために「1msec単位の時刻およびZカウンタ」をGPS衛星からの信号で確定しないことが記載されているといえる。 したがって、上記記載から「GPS受信機の起動時に、1msec単位の時刻およびZカウンタをGPS衛星からの信号で確定しない」との技術事項が読み取れる。 (キ)上記記載A)の「起動時の時刻をカウンタで推定して立上げ時間を短縮する」という記載、上記記載C)の段落【0017】には「したがって、GPS衛星からの信号で送信時刻を確定しなくても、カウンタ部104からの補正した時刻で送信時刻を算出することが可能となる。ここまでは、従来のGPS受信機と同じである。」と記載、および、上記記載D)の【0037】には、「温度センサ部114からの情報により、温度変化による周波数ずれを補正できる。この結果、精度の高い送信時刻が確定できる。」という記載からみて、カウンタ部104からの補正による推定を行い精度の高い時刻を用いるといえる。 また、上記記載B)からみて、同時刻の補正はGPS衛星からの信号で送信時刻を確定してなされた時刻を基準としているから、起動時より前に得た当該GPS衛星からの信号に含まれる「Zカウンタ」を使用して確定されていると解される。 したがって、上記記載から「GPS受信機の起動時の立ち上げ時間が、カウンタ部から得られた精度の高い時刻を推定し、起動時より前にGPS衛星から得たZカウンタを使用することにより短縮される」という技術事項が読み取れる。 以上の(ア)ないし(キ)に記載の技術事項を総合勘案すると、引用例1には下記の発明が記載されていると認められる。 「GPS受信機を、次の立ち上げ時においてGPS衛星からの送信データを取得せずに起動する方法であって、 当該方法は、 水晶発振子を備えるGPS受信機が停止中に、カウンタ部が時刻をカウントし精度の高い時刻を確定し、 GPS衛星からの信号を用いて正確な時刻を確定し、カウンタ部からの補正した時刻で正確な時刻を算出し、 GPS受信機が停止中に水晶発振器を用いたカウンタ部の温度を測定し、 GPS受信機の停止中におけるカウンタ部の温度の測定結果に基づいて、温度変化によるカウンタ部の誤差を補正し、 次の立ち上がり時に、測位計算を開始するまでの時間にGPS受信機に精度の高い時刻を水晶発振器を用いたカウンタ部が供給し、 GPS受信機の起動時に、1msec単位の時刻およびZカウンタをGPS衛星からの信号で確定しないものであり、 GPS受信機の起動時の立ち上げ時間が、カウンタ部から得られた精度の高い時刻を推定し、起動時より前にGPS衛星から得たZカウンタを使用することにより短縮される 方法。」(以下、「引用発明1」という。) (2)引用例2 同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-326487号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに下記の記載がある。 A)「【0013】コンピュータは、CPU16、ROM17、RAM18などの一般的構成に加え、アルマナックデータ記憶用のRAM19、温度ドリフトテーブルを格納するためのRAM20及びこれらRAM19、20のバックアップ用電源21を内蔵したものである。 【0014】このように構成したRAM19、20は、電源断状態においても、電源21によってバックアップされるので、常時書込まれた記憶内容を保持し、次回にその記憶内容を活用できるようになっている。」 B)「【0017】手順がスタートすると、まず、温度センサ9の検出値が読込まれ(ステップ101)、この検出値に対応するTCXO8の周波数特性情報(以下ドリフト情報という)がRAM20内に格納されているかどうかが判断される(ステップ102)。ステップ102で対応するドリフト情報があると判断された場合には、ステップ103に移行する。」 C)「【0023】すなわち、この測位モードでは、サーチ周波数の帯域を広げ、全帯域の周波数をサーチし、同期させる(ステップ107?108)。 【0024】この測位にかかる時間は、従来と同様に長時間となるが、当該測位により得られたドップラ量を同期回路から読込み、温度ドリフト分を演算することにより(ステップ109、110)、当該測定時の温度におけるドリフト情報が得られることになる。 【0025】この温度-ドリフト情報は、次のようにして求められる。 【0026】温度ドリフト分=(測位結果と衛星の位置情報より算出したドップラ量)-(同期回路によるドップラ量) 【0027】このドリフト情報は、RAM20内に書込まれ(ステップ112)、その温度に対応するアドレスにドリフト情報が格納されることになり、次回測定時の温度補償データとして活用されることになる。」 D)「【0034】 【発明の効果】以上実施例により詳細に説明したように、本発明にかかるGPS受信機にあっては、GPS受信機の初期状態において、周波数特性情報が全くない、あるいは初期設定された限られた周波数特性情報しかない場合は、全帯域を周波数サーチする測位モードで実行される場合が多いが、一回測位する毎に周波数特性情報が、記憶手段に書加えられるので、順次周波数測定情報の精度が増すことになり、ユーザの使用頻度が増す毎に短時間測位が可能となる。 【0035】また、該当する周波数特性情報がない場合にあっても、読込まれた温度より、既に記憶手段に蓄えられている温度に対応する周波数特性から、仮想的にその温度に対応する周波数特性情報を割出すことによって、短時間での測位を可能とすることができるうえ、測位後の正確な周波数特性情報をデータとして蓄えることができる。」 上記記載A)の「温度ドリフトテーブル」は、上記記載C)において「測位モード」において測位により得られたドップラ量を用いて演算された「温度ドリフト分」、すなわち測位を行って得た温度ドリフト情報を格納して形成されており、次回測定時の温度補償データとして活用していることが読み取れる。 また、上記載D)の「一回測位する毎に周波数特性情報が、記憶手段に書加えられるので、順次周波数測定情報の精度が増すことになり、ユーザの使用頻度が増す毎に短時間測位が可能となる。」という記載からみて、「測位する毎」にTCXOの周波数特性情報を書き加え、当該情報を用いることで「短時間測位」を可能にしているといえる。 よって、上記記載A)?D)から「測位モードにおいて、測位する毎に得たTCXO8の温度ドリフト情報をドリフトテーブルに格納し、温度補償データとして活用し短時間測位を行う」という技術事項が読み取れる。 したがって、以上に記載の技術事項を総合勘案すると、引用例2には下記の発明が記載されていると認められる。 「GPS受信機の測位モードにおいて、測位する毎に得たTCXO8の温度ドリフト情報をドリフトテーブルに格納し、温度補償データとして活用し短時間測位を行うこと。」(以下、「引用発明2」という。) 3.対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 まず、引用発明1の「GPS受信機」は本願発明の「ナビゲーション衛星受信機」に相当する。 また、引用発明1の「GPS受信機が停止中」においてGPS衛星を追跡していないこと、GPS受信機における「精度の高い時刻」とは、測位のために必要となるミリ秒以下において正確な時刻を示すことは明らかであるから、引用発明1の「水晶発振子を備えるGPS受信機が停止中に、カウンタ部が時刻をカウントし精度の高い時刻を確定」は、本願発明の「水晶発振器を含むナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を追跡していない場合に、前記水晶発振器を用いてミリ秒以下の正確な時刻を維持するステップ」に相当するといえる。 さらに、引用発明1の「GPS受信機が停止中」においては、受信機として機能する部位に電力供給を行わないようになすことが明らかであるから、引用発明1の「GPS受信機が停止中に水晶発振器を用いたカウンタ部の温度を測定し」は、本願発明の「前記ナビゲーションプラットフォームが電力供給されておらず、GPS衛星を追跡していない期間に前記水晶発振器の温度を測定するステップと」に相当するといえる。 また、引用発明1の「次の立ち上がり時に」とは、GPS受信機が「動作を開始」すなわちGPS受信機の停止後の立ち上げ時のことを示すから、本願発明の「後の電源投入によるGPS衛星の捕捉の際に」に相当するといえる。 そして、上記のとおり、GPS受信機における「精度の高い時刻」とは、測位のために必要となるミリ秒以下において正確な時刻を示すことは明らかであるから、引用発明1の「測位計算を開始するまでの時間にGPS受信機に精度の高い時刻を水晶発振器を用いたカウンタ部が供給し」は、本願発明の「次の測位の前に前記ナビゲーションプラットフォームにミリ秒以下の正確な時刻を前記水晶発振器が供給するステップと」に、同様に、「カウンタ部から得られた精度の高い時刻を推定し、起動時より前にGPS衛星から得たZカウンタを使用することにより短縮される」は「GPSシステム時刻の1ミリ秒以下の精度の前記水晶発振器から得られた時刻を推測し、以前取得したZカウントを使用することにより実質的に減少する」に、それぞれ相当するといえる。 また、引用発明1は「GPS受信機の停止中におけるカウンタ部の温度の測定結果に基づいて、温度変化によるカウンタ部の誤差を補正」するものであり、本願発明は、「前記ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を追跡していない間に前記温度測定ステップで得たデータに従って前記水晶発振器の自走時刻を補正する」ものであるから、引用発明1と本願発明とは、「前記ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を追跡していない間に前記温度測定ステップで得たデータに従って前記水晶発振器の自走時刻を補正する」点において共通する。 次に、本願発明の「ウォームスタート」との用語について検討する。 明細書の発明の詳細な説明には、ウォームスタートについて定義されていないが、一般に、GPS受信機における「ウォームスタート」とは、一旦衛星からの電波を取得した後において、比較的短い間GPS受信機が停止し、再起動を行う際に、その時点において取得済みで有効なデータを用いて、GPS受信機を起動することをいうと解されている。 してみると、引用発明1の「GPS受信機を、次の立ち上げ時においてGPS衛星からの送信データを取得せずに起動する方法」は、本願発明の「ナビゲーション衛星受信機の初期化のためのウォームスタート方法」に相当するといえる。 同様に、引用発明1の「GPS受信機の起動時に、1msec単位の時刻およびZカウンタをGPS衛星からの信号で確定しないものであり」は、本願発明の「ウォームスタート測位を行う上で、後の電源投入によるGPS衛星の捕捉のために、整数ミリ秒及びZカウントの新たな測定が必要とされず」に相当し、また、「GPS受信機の起動時の立ち上げ時間」は、「前記ナビゲーションプラットフォームによるウォームスタート測位に要する時間」に相当するといえる。 さらに、引用発明1の「GPS衛星からの信号を用いて正確な時刻を確定」するに際しては、GPS受信機がGPS衛星の捕捉・追跡を行っていることが明らかであるから、引用発明1の「GPS衛星からの信号を用いて正確な時刻を確定し、カウンタ部からの補正した時刻で正確な時刻を算出し」は、本願発明の「ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を捕捉して追跡しており、GPS衛星から受信した信号から正確な時刻を導出できた場合に前記水晶発振器を原子標準精度に設定するステップ」に相当するといえる。 したがって、本願発明と引用発明1とは、 「ナビゲーション衛星受信機の初期化のためのウォームスタート方法であって、 当該方法は、 水晶発振器を含むナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を追跡していない場合に、前記水晶発振器を用いてミリ秒以下の正確な時刻を維持するステップと、 ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を捕捉して追跡しており、GPS衛星から受信した信号から正確な時刻を導出できた場合に前記水晶発振器を原子標準精度に設定するステップと、 前記ナビゲーションプラットフォームが電力供給されておらず、GPS衛星を追跡していない期間に前記水晶発振器の温度を測定するステップと、 前記ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を追跡していない間に前記温度測定ステップで得たデータに従って前記水晶発振器の自走時刻を補正するステップと、 後の電源投入によるGPS衛星の捕捉の際に、次の測位の前に前記ナビゲーションプラットフォームにミリ秒以下の正確な時刻を前記水晶発振器が供給するステップと、 を有し、 ウォームスタート測位を行う上で、後の電源投入によるGPS衛星の捕捉のために、整数ミリ秒及びZカウントの新たな測定が必要とされず、 前記ナビゲーションプラットフォームによるウォームスタート測位に要する時間が、GPSシステム時刻の1ミリ秒以下の精度の前記水晶発振器から得られた時刻を推測し、以前取得したZカウントを使用することにより実質的に減少する、 ことを特徴とする方法。」 である点において一致し、次の点において相違する。 (相違点) A)本願発明は「ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を捕捉して追跡しながら、原子標準の正確な時刻を導出できる期間」に、「水晶発振器のための温度ドリフトモデルを構築」するのに対して、引用発明1は「カウンタ部の温度を測定」するものの、水晶発振器のための温度ドリフトモデルの構築を行わない点。 B)本願発明は、「温度ドリフトモデル」と温度測定ステップで得たデータとに従って前記水晶発振器の自走時刻を補正するのに対して、引用発明1は温度センサからの情報によりカウンタを補正するものの、上記「温度ドリフトモデル」を用い補正を行うのではない点。 4.判断 上記相違点A)及びB)について併せて検討する。 まず、引用発明2は、「GPS受信機の測位モード」で「測位する毎に」TCXOのドリフト情報を得ているから、本願発明と同様、「ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を捕捉して追跡しながら、原子標準の正確な時刻を導出できる期間」に、前記ドリフト情報を取得しているといえる。 また、引用発明2の測位モードにおいて「ドリフトテーブル」に格納された「TCXO8の温度ドリフト情報」は、水晶発振器の温度ドリフトと温度の関係を明らかにしたものであって、一種の「モデル」を形成しているといえるから、本願発明の「水晶発振器のための温度ドリフトモデル」に相当する。 してみると、引用発明2の「GPS受信機の測位モードにおいて、TCXO8の温度ドリフト情報をドリフトテーブルに格納する」は、本願発明の「ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を捕捉して追跡しながら、原子標準の正確な時刻を導出できる期間に、前記水晶発振器のための温度ドリフトモデルを構築する」に相当するといえる。 次に、引用発明2は、ドリフトテーブルに格納された「測位する毎に得たTCXO8の温度ドリフト情報」を、「温度補償データとして活用し短時間測位を行」っている。 当該「温度補償」を行うことは、TCXO8の温度変化による発信周波数を補償することであるから、引用発明2の「測位する毎に得たTCXO8の温度ドリフト情報を・・・温度補償データとして活用し短時間測位を行う」ことは、本願発明の「温度ドリフトモデルを用いて水晶発振器の自走時刻を補正する」ことに相当するといえる。 一方、温度補償を行うにあたっては、補償する量を決定するために測定した温度データが必要であることは明らかであるから、引用発明2において「測位する毎に得たTCXO8の温度ドリフト情報を・・・温度補償データとして活用し短時間測位を行う」にあたっては、引用発明1の「カウンタ部の温度の測定結果」に対応するデータと、前記「TCXO8の温度ドリフト情報」を用いているといえる。 そして、引用発明1と引用発明2とは、共にGPS受信機に関するものであり、しかも、GPS受信機のクロックの精度を高め、起動時において測位開始までに要する時間を短縮するという課題も共通する。 よって、引用発明1に引用発明2を適用し、すなわち、引用発明1において、「温度の測定結果に基づいて、温度変化によるカウンタ部の誤差を補正」する際に、引用発明2の「ドリフトテーブル」に格納された「測位する毎に得たTCXO8の温度ドリフト情報」を用いるようにして、本願発明のように、ナビゲーションプラットフォームがGPS衛星を捕捉して追跡しながら、原子標準の正確な時刻を導出できる期間に、水晶発振器のための温度ドリフトモデルを構築し、これと温度測定結果とに従って水晶発振器の自走時刻を補正するようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明の作用効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測できる範囲のものである。 5.請求人の主張について 請求人は、審判請求書において、「引用例1は、GPS受信機の処理が中断している際のカウンター部104の補正方法を論じていつが、GPSシステム時刻の1ミリ秒より有益なカウンター部について教示するものではない。また、補正されたカウンター部が、ウォームスタートの起動を高速化するためにZカウントの計算を回避するのに用いられるわけでもない。」旨主張している。 しかし、引用例1の段落【0004】-【0006】の記載からみて、「カウンタ部」は「測位計算を行って求めた正しい時刻とカウンタ値を保持し、・・・推定現在時刻を求める」ものであり、正確な時刻を「GPS衛星からの送信データを待って決定するよりも、早く決定することができる」とされていることからみて、GPS衛星からの送信データがない状態で正確な測位を可能にするものである。 したがって、GPSシステム時刻の1ミリ秒以下についても正確な時刻を保持するものであって、そのために補正を行っていることは明らかであり、請求人の主張は、当を得ていない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-31 |
結審通知日 | 2011-04-05 |
審決日 | 2011-06-14 |
出願番号 | 特願2003-41703(P2003-41703) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01S)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安高 史朗 |
特許庁審判長 |
飯野 茂 |
特許庁審判官 |
古屋野 浩志 下中 義之 |
発明の名称 | GPS受信機用リアルタイムクロック |
代理人 | 黒田 泰 |
代理人 | 黒田 泰 |
代理人 | 竹腰 昇 |
代理人 | 竹腰 昇 |
代理人 | 井上 一 |
代理人 | 井上 一 |