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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1245788
審判番号 不服2008-5113  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-03 
確定日 2011-10-26 
事件の表示 平成11年特許願第296952号「インクジェットプリンタ用インク」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月 9日出願公開、特開2000-129183〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成11年10月19日(優先権主張:平成10年10月29日、平成11年4月30日、米国)の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。
平成16年10月12日 出願審査請求
平成19年 4月23日 拒絶理由通知
平成19年11月 8日 意見書・手続補正書
平成19年11月28日 拒絶査定
平成20年 3月 3日 審判請求
平成20年 4月 2日 手続補正書(審判請求理由補充書)
平成20年 5月 9日 前置報告
平成22年 8月 4日 審尋
平成23年 2月10日 回答書

第2 本件出願に係る発明について
本件出願に係る発明は、平成20年4月2日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の記載からみて、次のとおりの、
「【請求項1】少なくとも1つのプロトン化部位を有する少なくとも1つのアニオン染料と、インクのpHを5.5?9.5の範囲で維持するのに十分な量の少なくとも1つの緩衝剤と、金属塩又は金属配位化合物から成る少なくとも1つの沈殿剤と、を含んで成り、前記少なくとも1つのアニオン染料が、下記式(I)
【化1】

〔式中、
R_(1)は、水素又は炭素数1?6の脂肪族基から選択され、nは、2、3、又は4であり、Xは、NR_(3)R_(4)であり、R_(3)とR_(4)はそれぞれ、水素;炭素数1?6のアルキル;O、OCH_(3)、COOM、SO_(3)Mから選択される置換基によって置換された炭素数2?6の置換アルキル;アラルキル;非置換アリール又はCOOMもしくはSO_(3)Mで置換されたアリールから選択され、R_(3)とR_(4)は、ヘテロ原子含有又は非含有の環を形成することができ、又は、Xは、SR_(5)であり、R_(5)は炭素数1?6のアルキル;OH、OCH_(3)、COOM、SO_(3)Mから選択される置換基によって置換された炭素数2?6の置換アルキルであり、又は、Xは、OR_(6)であり、R_(6)は水素又は炭素数1?6の脂肪族基であり、R_(7)は、水素、炭素数1?6のアルキル;CN、COOM、OH、COOCH_(3)、COOCH_(2)CH_(3)、COCH_(3)から選択される置換基によって置換された炭素数2?6の置換アルキル;非置換アリール又はCH_(3)もしくはハロゲンで置換されたアリールであり、Mは、金属原子;アンモニウム又は炭素数1?12のアルキル、アルコキシアルキル又はヒドロキシルアルキルで置換されたアンモニウムである〕を有する、水性インクジェットインク。
【請求項2】前記少なくとも1つのアニオン染料が、下記式(II)
【化2】

を有する、請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】前記少なくとも1つの緩衝剤が、インクのpHを6?9の範囲で維持するのに十分な量で存在する、請求項1又は2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】前記少なくとも1つの緩衝剤が、インクのpHを6.5?8.5の範囲で維持するのに十分な量で存在する、請求項3に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】前記少なくとも1つの緩衝剤が、(トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン)、(3-[N-モルホリノ]プロパンスルホン酸)、(N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-2-アミノエタンスルホン酸)、(3-[N,n-ビス2-ヒドロキシエチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、(3-[N-トリスヒドロキシメチルメチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、(N-[2-ヒドロキシエチル]ピペラジン-N'-[2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、(N-トリス[ヒドロキシメチル]メチルグリシン)、(N,N-ビス[2-ヒドロキシエチル]グリシン)、(N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-3-アミノプロパンスルホン酸)、(ピペラジン-n,n'-ビス[2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、及び(3-[1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)から成る群から選択される、請求項1又は2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項6】前記少なくとも1つの緩衝剤が、(トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン)である、請求項5に記載の水性インクジェットインク。
【請求項7】前記沈殿剤が、金属塩である、請求項1又は2に記載の水性インクジェットインク。」であるところ、
その請求項2に記載された発明(以下、「本願発明2」という。)は、独立形式で記載すると以下のとおりである。
「少なくとも1つのプロトン化部位を有する少なくとも1つのアニオン染料と、インクのpHを5.5?9.5の範囲で維持するのに十分な量の少なくとも1つの緩衝剤と、金属塩又は金属配位化合物から成る少なくとも1つの沈殿剤と、を含んで成り、前記少なくとも1つのアニオン染料が、下記式(II)
【化2】

を有する水性インクジェットインク。」

第3 原査定の理由
原審において、平成19年4月23日付け拒絶理由通知書で、以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該理由が解消されていない点をもって以下の拒絶査定がなされた。

1.拒絶理由
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-10
・引用文献等 1-4
・備考
文献2、4には、本願発明の一般式(II)で表される染料を含有する水性インクジェットインクが記載されている(文献4:請求項)。
ここで文献1、2には、水性インクジェットインクにおいて、インクのpHはトリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン等の緩衝剤を用いて6.5?8程度にすることが好ましい旨(文献2:【0036】、【0037】)、また文献1にはインクのブリードを抑えるために多価金属塩を添加することが好ましい旨が記載されている。
したがって、文献2、4に記載の発明において、トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン等の緩衝剤及び多価金属塩を添加することは、当業者が容易に想到し得る事項に過ぎない。
また、そのことによる効果も予測し得る範囲内のものである。

引用文献等一覧
1.米国特許第5536306号明細書
2.特開平10-245515号公報
3.特開昭63-179969号公報
4.特表平10-504856号公報

2.拒絶査定
この出願については、平成19年 4月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
先の拒絶理由で引用した文献1には、少なくとも一つのプロトン化部位を有するアニオン染料と、ブリードを防止するための金属塩化合物を含有する水性インクジェットインクが記載されており、更に染料の沈殿を防止するために、トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン等の緩衝剤を用いてインクのpHを6?9程度に維持することが好ましい旨が開示されている(ABSTRACT、第3欄第56行-第4欄第11行、第51-63行)。
ここで文献1に記載の発明において、染料として文献3、4に記載の少なくとも一つのプロトン化部位を有するアニオン染料(平成19年11月8日付け手続補正後の本願発明の一般式(I)、(II)の染料に相当)を使用してみることは、当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。
出願人は、平成19年11月8日付け提出の意見書において、文献3には該染料をインクジェットインクに使用することについて記載も示唆もない点を挙げて、該染料を文献1に記載の発明において使用する動機がない旨主張するが、インクジェットインクの染料として公知のものを使用してみることは、当業者が通常行う事項であり、そのことに格別の困難性は見出せない。
また該染料を用いたことによって格別顕著な効果を奏するものでもない。

以上のとおりであるから、補正後の本願請求項1-7に係る発明は、依然として文献1、3、4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
なお、補正後の本願請求項7に係る発明の「前記多価金属化合物」が何を指すのかが不明であり、本願請求項7に係る発明が明確でない点においても、本願発明は拒絶されるべきものであることに留意されたい。

第4 拒絶査定における引用例に記載された事項
本件拒絶査定の拒絶理由のうち、本願発明2についての拒絶理由の概要は、本願発明2は、その優先日前に頒布された下記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

刊行物1:米国特許第5536306号明細書
(以下、「刊行物1」という。拒絶査定で引用された「文献1」と同じ。)
刊行物2:特表平10-504856号公報
(以下、「刊行物2」という。拒絶査定で引用された「文献4」と同じ。)

1.刊行物1の記載事項(和文は当審における仮訳であり、該当箇所の記載は刊行物1の原文による。)
(1-1)「技術分野
本発明はサーマルインクジェット印刷のためのインク組成物、より詳細には、隣り合って印刷されたカラーの間のブリードを低減させるために、界面活性剤と多価イオン、好ましくはカルシウム及びマグネシウム、の組合わせをサーマルインクジェットインク組成物に加えることに関する。」(第1欄第15?20行)
(1-2)「技術の背景
ヒューレット・パッカード社製のDeskJet(登録商標)プリンターのような市販のサーマルインクジェットカラープリンターにおいては、カラー領域はシアンインク、マゼンタインク及びイエローインクを種々の割合で組合わせることにより達成される。シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクは、それぞれ、シアン染料、マゼンタ染料及びイエロー染料からそれらの色相を得る。用いられる染料の特定のセットは、いわゆる、「染料セット」を構成する。カラープリンターは典型的には、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインク並びにブラックインクを含有する4本ペンセットを用いる。
サーマルインクジェットインクは、一般に、インクビヒクルに染料を溶解することにより製造される水性インク組成物として得られる。例えば、シアンインクはインクビヒクルに溶解されたシアン染料を含むだろう。インクジェットインク組成物に用いられる染料分子は、染料アニオンとナトリウムのようなカチオンからなる染料塩の形でしばしば用いられる。これらの染料は染料塩の結晶化によりターゲット紙支持体中で固体となるように設計される。
染料塩の結晶化の前に印刷されたインク組成物の挙動を調節することは良好な印刷品質を達成するために重要である。例えば、多くのサーマルインクジェットインクは、紙支持体上に種々のカラーを印刷するときに、お互いに滲む傾向がある。ブリード(滲み)は紙支持体の表面のみならず、紙支持体自体の内部の両方で、カラーが混ざるときに起こる。完全で、一つのカラーから他のカラーへの侵入がないカラー間の境界を有することが望ましい。カラーからカラーへのブリードの問題に対する一つの解決は、界面活性剤を用いて紙へのインクの浸透速度を増加させることを含む。しかしながら、このような浸透速度の増加はエッジの鋭さも低減し得る。ブラックからイエローカラーへの特定の問題の解決が、1993年3月30日に発行され、本出願と同じ譲渡人に譲渡された米国特許第5,198,023号に開示され、そこでは、多価カチオン、例えば、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを約1?10重量%の範囲の濃度でイエローカチオン性インクに加えて、イエローインクとブラックインクの間のブリードを防止している。
単一のインクに認められるブリードを低減させることはいくらか断片的なアプローチであって、4本ペンセットについて印刷品質を最適化することはできない。DeskJet(登録商標)のようなカラープリンターから良好な総合的印刷品質を達成するためには、全体論的アプローチが必要であり、そこでは、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクは各々カラーからカラー及びブラックからカラーへのブリードの低減を達成するために特別に製造される。」(第1欄24行?第2欄第2行)
(1-3)「発明の開示
本発明によれば、サーマルインクジェットインクのセット及びその製造方法が提供され、そこで、各々のインクは、界面活性剤と無機塩の組み合わせを含有し、ブラックからカラーへのブリードのみならず、カラーからカラーへのブリードの両方を低減させるように設計される。本発明の実施によれば、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクは各々約0.1?4重量%の少なくとも1種の染料、約3?20重量%の少なくとも1種のジオール、0?約5重量%の少なくとも1種のグリコールエーテル、約3?9重量%の2-ピロリドン、4重量%までの殺生物剤及び緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1種の成分、及び水を含む。カラーからカラー、及びブラックからカラーへのブリードの低減は、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクにさらに次の界面活性剤と無機塩の組合わせを含むように製造することにより達成される。
(a)主に4?8のエトキシル化単位と約12?18の炭素原子を有する脂肪族鎖を有する少なくとも1種の第2級アルコールエトキシレート界面活性剤から本質的になる約1?4重量%の第一界面活性剤を含む界面活性剤成分、及び
(b)約3?6重量%の少なくとも1種の無機塩成分。
本発明にしたがって製造された特定のサーマルインクジェットインクのセットは低減したカラーからカラーへのブリードのみならず、低減したブラックからカラーへのブリードを示す。さらに本発明のインク組成物は良好な色彩度と耐光性を提供する。」(第2欄第3?32行)
(1-4)「本発明の実施においては、第2級アルコールエトキシレートは印刷媒体中へのインクの浸透を増加させることによりカラーからカラーへのブリードの防止に役立つ。」(第2欄第64?66行)
(1-5)「本発明のインクビヒクルの無機塩成分はブラックインクとカラーインク間のブリードの防止に役立ち、1以上の無機塩を含む。この塩は、勿論、使用した濃度でインク中に溶解しなければならない。無機塩のために適切に用いられるカチオンは、周期表の2A群のアルカリ土金属(例えば、マグネシウム及びカルシウム)、周期表の3B群の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表3A群のカチオン(例えば、アルミニウム)及びランタニド(例えば、ネオジミウム)を含む。好ましくは、カルシウムとマグネシウムが本発明の実施においてカチオンとして用いられる。カルシウムと結合して適切に用いられるアニオンは、硝酸塩、塩化物、アセテート、ベンゾエート、ホーメート及びチオシアネートであり、マグネシウムと結合して用いられる適切なアニオンは硝酸塩、塩化物、アセテート、ベンゾエート、臭化物、クエン酸塩、ホーメート、ヨウ化物、硫酸塩、フッ化物、酒石酸塩及びチオシアネートである。本発明の実施において好ましく用いられる無機塩は、カルシウム及びマグネシウムの硝酸塩、塩化物及びアセテート塩である。より詳細には、本発明のシアンインクとマゼンタインクは好ましくは硝酸マグネシウムを用い、イエローインクは好ましくは硝酸カルシウムを用いる。」(第3欄第56行?第4欄第11行)
(1-6)「本発明のインクビヒクルの他の成分、すなわち、緩衝剤、殺生物剤等は、各々、サーマルインクジェットインク組成物で、一般的に用いられる添加剤である。無機緩衝剤は、インク組成物中で比較的に大量に存在し、沈殿する可能性があるので、本発明の実施においては、pHを調整するために用いられる緩衝剤は有機ベースの生物学的緩衝剤であるべきである。さらに、用いられる緩衝剤は本発明の実施においては約6?9の範囲のpHをもたらすべきである。好ましく用いられる緩衝剤の例はトリツマ塩基、アルドリッチケミカル(ウィスコンシン州ミルウォーキー)で市販している、及び4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)である。」(第4欄第51?63行)
(1-7)「本発明の実施においては、シアンインクは、精製されたアシッドブルー9アニオン性染料及びダイレクトブルー199アニオン性染料と上記インクビヒクルとを組合わせることにより製造され、後者の染料は特に高度の耐光性を与えることで知られている。シアンインク中に比較的高濃度の無機塩が存在するなら、ナトリウム又はアンモニウムと結合したダイレクトブルー199はビヒクルから沈殿するだろう。したがって、ダイレクトブルー199を処理して供給した実質的に全て又はほとんどのナトリウム又はアンモニウムカチオンをTMAカチオンで置換する。本発明の実施においては、ナトリウムと結合したアシッドブルー9アニオン性染料は残存するであろう。ダイレクトブルー199のTMA置換はシアンインクに由来するオリフィス付近での凝固を低減させ、比較的高濃度の有機塩の存在によりシアンインクを溶液のまま存在することを可能にする。本発明の実施においては、アシッドブルー9アニオン性染料はナトリウムカチオンと結合したままで残存するから、アシッドブルー9の量は、その結合したナトリウムカチオンの存在が、ダイレクトブルー199のナトリウム又はアンモニウムカチオンをTMAで置換することにより達成された利益をだいなしにしない量に限定しなければならない。好ましくは、ダイレクトブルー199及びアシッドブルー9は、それぞれ、約2?3重量%及び1?2重量%の範囲の濃度で用いられる。より好ましくは、本発明のシアンインクにおけるダイレクトブルー199染料の濃度とアシッドブルー9染料の濃度の比は重量で約2:1である。」(第5欄第21?45行)
(1-8)「本発明の実施において用いられるマゼンタインクは精製された加水分解された形のリアクティブレッド180及び精製されたアシッドレッド52アニオン性染料を上記成分及び上記濃度範囲からなるインクベヒクルと組合わせることにより製造される。アシッドレッド52アニオン性染料を好ましくは処理して供給されたナトリウムカチオンをリチウムイオンと置換する。好ましくは、本発明のマゼンタインクにおけるリアクティブレッド180の濃度対アシッドレッド52の濃度の比は、重量で約1:1である。」(第6欄第22?30行)
(1-9)「本発明の実施において用いられるイエローインクは精製されたアシッドイエロー23アニオン性染料と、上記成分を上記濃度範囲で含むインクビヒクルとを組合わせることにより製造される。アシッドイエロー23アニオン性染料を、好ましくは処理して供給されたナトリウムカチオンをテトラメチルアンモニウムと置換し、それはイオン交換のような方法により達成されるであろう。」(第7欄第2?8行)
(1-10)「色域体積(color gamut volume)測定は各シリーズのインクに対してなされ、表IIに示す。色域体積は当業界で周知であり、式L×a×b(色空間座標)を用いて測定される。公知のように、色域体積はインク組成物においては最大化されることが望ましい。4つのインクのセットについて測定した色域体積の比較から、本発明にしたがって作成したインク(第1シリーズのインク)の色域体積は他のシリーズのインクに認められた範囲内の色域体積を示すことが分かる。したがって、本発明にしたがって製造したインクは色域体積を犠牲にすることなく耐ブリード性を達成する。」(第8欄第51?62行)
(1-11)「したがって、本発明により製造した前記の界面活性剤と無機塩を含有するシアンインク、マゼンタインク及びイエローインクを含む4本ペンセットは、色域体積を犠牲にすることなく、増加した耐光性及び低減されたブリードを示すことが立証された。」(第9欄第51?56行)
(1-12)「(請求項1)サーマルインクジェット印刷のためのシアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインクを含むサーマルインクジェットインクのセットであって、前記シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクは、約0.1?4重量%の少なくとも1種の染料、約3?20重量%の少なくとも1種のジオール、0?約5重量%の少なくとも1種のグリコールエーテル、約3?9重量%の2-ピロリドン、約4重量%までの殺生物剤及び緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1種の成分、及び水を含み、前記シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクは、さらに、
(a)主に4?8のエトキシル化単位と約12?18の炭素原子を有する脂肪族鎖を有する少なくとも1種の第2級アルコールエトキシレート界面活性剤から本質的になる約1?4重量%の第1の界面活性剤を含む界面活性剤成分、及び
(b)約3?6重量%の少なくとも1種の無機塩成分
を含むことにより、一旦印刷されると、前記シアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインク間のカラーからカラー及びブラックからカラーへのブリードを低減させる、前記サーマルインクジェットインクのセット。」(第10欄第4?21行、特許請求の範囲の請求項1)

2.刊行物2の記載事項
(2-1)「〔発明の属する技術分野〕
本発明は染料及び該染料を含有するインクジェット印刷法用の水性インク組成物に関する。」(第4頁第3?5行)
(2-2)「本発明は式(4)のアゾ染料に関する。

但し、
R_(1)は水素又は炭素数1?6の脂肪族基であり、nは2,3又は4であり、XはNR_(3)R_(4)(ここでR_(3)とR_(4)は独立に水素、炭素数1?6のアルキル、置換基がOH,OCH_(3)O,COOM又はSO_(3)Mである炭素数2?6の置換アルキル、アラルキル、非置換アリール又はCOOM又はSO_(3)Mで置換したアリールであり、R_(3)とR_(4)はヘテロ原子を含むか又は含まない環を形成していてもよい)であるか、又は XはSR_(5)(ここでR_(5)は炭素数1?6のアルキル又は置換基がOH,OCH_(3),COOM又はSO_(3)Mである炭素数2?6の置換アルキルである)であるか、又は XはOR_(6)(ここでR_(6)は水素又は炭素数1?6の脂肪族基である)であり、R_(7)は水素、炭素数1?6のアルキル、置換基がCN,COOM,OH,COOCH_(3),COOCH_(2),CH_(3)又はCOCH_(3)である炭素数2?6の置換アルキル、非置換アリール、又はCH_(3)又はハロゲンで置換したアリールであり、 Mは水素、金属原子、アンモニウム又はそれぞれが炭素数1?12をもつアルキル、アルコキシアルキル又はヒドロキシアルキルで置換されたアンモニウムである。
本発明のアゾ染料は反応性基をもっていない。これらはその高い水溶性からインクジェット印刷に用いるインクに使用するのに特に適している。」(第6頁第9行?第7頁第8行)
(2-3)「表1
次の一般式の染料をつくった。

置換基は次のとおりである。」(第9頁第1?末行)
(当審注:表1には化合物No.100?107について、置換基X、M、λmax(nm)H_(2)O中の欄があり、化合物No.101についてのXの欄にはN(CH_(2)CH_(2)OH)_(2)、Mの欄にはNaが記載されている。)
(2-4)「例 2
本発明の染料はインクの製造に特に適している。インクジェット印刷用インクは周知である。これらのインクは本質的に液体ビヒクルとそこに溶解させた染料からなっている。この印刷に用いるインクの液体ビヒクルは一般に水又は水と相溶性有機溶媒の混合物からなっている。有機溶媒の例としてはC1-C4アルカノール、ジ(プロピレングリコール)、ジ(エチレングリコール)等のアルキレングリコール、1,5-ペンタンジオール、グリセロール、1,2,6-トリヒドロキシヘキサン、2-ピロリジノン、N-メチル-2-ピロリジノン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,1,3,3-テトラメチル尿素等の窒素含有溶媒、有機スルホキシド、スルホラン等の硫黄含有溶媒等がある。
印刷インクの非水部分は一般に調湿剤(ヒュームファクタント)、共溶媒、粘度調節剤、インク浸透添加剤、均染剤又は染着剤として作用する。また水性インクは、セルロース誘導体や他の水溶性樹脂等の粘度変性剤、種々のタイプの界面活性剤、表面張力変性剤、光沢剤、UV吸収剤、光安定剤、殺生物剤、バッファー等のpH調節剤等の種々の公知の添加剤を含有しうる。」(第10頁下から12行?第11頁第4行)
(2-5)「本発明をインクに関しさらに実施例で説明する。ここで全ての部及び%は重量によるものである。
上記したようにしてつくった染料100?102を用いて次の処方に従ってインクを製造した。
染料 6部
グリセロール 20部
水 74部
これらの成分を溶解させ、溶液を加圧下にミリポアフィルター(0.5ミクロン)を通して濾過してインクを製造した。
インクを試験したところすべてのインク要求特性を満足することがわかった。特に次の項目を満足することが示された。
(1) 粘度、伝導度及び表面張力等の物理的性質がそれぞれ合格範囲内にある。
(2) すべての染料がインク媒体にすぐれた溶解性をもち微細な放出口金を詰まらせない十分な安定性をもつ溶液をもたらす。
(3) 記録剤が十分な光学密度の画像をもたらす。
(4) インクが物理的性質をかえずまた保存中固体分を析出しない。
(5) 印刷が基材の性質にかかわらず行なわれうる。
(6) インクが高い固定化速度をもつ。
(7) インクが水、光及び摩耗に対しすぐれた抵抗性をもつ画像を与える。」(第11頁第10行?末行)

第5 当審における判断
1.刊行物1に記載された発明
刊行物1の「本発明によれば、サーマルインクジェットインクのセット及びその製造方法が提供され、そこで、各々のインクは、界面活性剤と無機塩の組み合わせを含有し、ブラックからカラーへのブリードのみならず、カラーからカラーへのブリードの両方を低減させるように設計される。本発明の実施によれば、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクは各々約0.1?4重量%の少なくとも1種の染料、約3?20重量%の少なくとも1種のジオール、0?約5重量%の少なくとも1種のグリコールエーテル、約3?9重量%の2-ピロリドン、4重量%までの殺生物剤及び緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1種の成分、及び水を含む。カラーからカラー、及びブラックからカラーへのブリードの低減は、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインクにさらに次の界面活性剤と無機塩の組合わせを含むように製造することにより達成される。
(a)主に4?8のエトキシル化単位と約12?18の炭素原子を有する脂肪族鎖を有する少なくとも1種の第2級アルコールエトキシレート界面活性剤から本質的になる約1?4重量%の第一界面活性剤を含む界面活性剤成分、及び
(b)約3?6重量%の少なくとも1種の無機塩成分。」(摘示(1-3))の記載からすると刊行物1には
「少なくとも1種の染料、少なくとも1種のジオール、少なくとも1種のグリコールエーテル、2-ピロリドン、4重量%までの殺生物剤及び緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1種の成分、水、界面活性剤成分及び少なくとも1種の無機塩成分を含む、サーマルインクジェット用インク」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると言える。

2.本願発明2と引用発明との対比
本願発明2と引用発明とを対比すると、引用発明における無機塩成分は、無機塩、すなわち、金属塩を含み(摘示(1-5))、摘示(1-7)の「シアンインク中に比較的高濃度の無機塩が存在するなら、ナトリウム又はアンモニウムと結合したダイレクトブルー199はビヒクルから沈殿するだろう。」との記載から、沈殿剤であるということができ、さらに引用発明は水を含んでいるから水性インクであるので、
本願発明2と引用発明とは、
「少なくとも1つの染料と、少なくとも1つの緩衝剤と、金属塩から成る少なくとも1つの沈殿剤とを含んで成る水性インクジェットインク」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。
ア.本願発明2においては、少なくとも1つの緩衝剤の量が「インクのpHを5.5?9.5の範囲で維持するのに十分な量」であるのに対し、引用発明においては「4重量%までの量」である点(以下、「相違点ア」という。)
イ.本願発明2においては、染料が「すくなくとも1つのプロトン化部位を有する、式(II)

で表される少なくとも1つのアニオン染料」であるのに対し、引用発明においては、染料が特定されていない点(以下、「相違点イ」という。)
ウ.引用発明においては、「少なくとも1種のジオール、少なくとも1種のグリコールエーテル、2-ピロリドン、殺生物剤、界面活性剤成分」を含有するのに対して、本願発明2においてはそれらの成分を含有することを必須としない点(以下、「相違点ウ」という。)

3.判断
(1)相違点アについて
引用発明においては、摘示(1-6)に「さらに、用いられる緩衝剤は本発明の実施においては約6?9の範囲のpHをもたらすべきである」旨の記載があり、引用発明におけるpHの範囲は、本願発明2で規定する5.5?9.5の範囲内であるから、この点は実質上の相違点とはならない。

(2)相違点イについて
引用発明においては、いかなる染料を用いるかは特定されていない。
しかしながら、刊行物2には、インクジェット印刷法用の水性インク組成物(摘示(2-1))に用いられるアニオン染料として、式(4)で示されるアゾ染料(摘示(2-2))が記載され、その例として、本願発明2で用いられる式(II)を有する染料に相当する化合物No.101の染料(摘示(2-3))が記載されている。
そして、刊行物2には、染料として化合物No.101等を用いた試験結果において、「…(2) すべての染料がインク媒体にすぐれた溶解性をもち微細な放出口金を詰まらせない十分な安定性をもつ溶液をもたらす。…(4) インクが物理的性質をかえずまた保存中固体分を析出しない。…(7) インクが水、光及び摩耗に対しすぐれた抵抗性をもつ画像を与える。」など、インク要求特性が満たされること(摘示(2-5))が記載されているから、引用発明において、耐光性等のインク要求特性に優れたインクを得るために、刊行物2に記載された化合物No.101で表されるアニオン染料を用いてみることは当業者が容易になし得たことと認める。

(3)相違点ウについて
ジオール、グリコールエーテル、2-ピロリドン(2-ピロリジノンともいう。)、種々のタイプの界面活性剤、殺生物剤は、摘示(2-4)に記載されているように、インクジェットインクに用いられる本優先日前周知の成分に他ならず、本願発明2は、これら周知の成分を含有することを排除するものではないから、この点は実質上の相違点とはならない。

(4)本願発明の効果について
本願発明2と引用発明とは、相違点イ以外の点では実質上相違しないので、刊行物1の摘示(1-1)、(1-3)、(1-5)、(1-10)、(1-11)及び(1-12)に記載されているように、本願発明2におけるブリードの低減等の安定性以外の効果については、引用発明においても同様に奏されているものと解される。
この点についてさらに検討すると、刊行物1に記載のインクセットにおいては、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク及びブラックインクのうち、ブラックインク以外の3種のカラーインクのそれぞれがさらに特定の界面活性剤と無機塩を含有し(摘示(1-12))、カラーからカラーへのブリード、ブラックからカラーへのブリードを低減するものであり、摘示(1-5)に記載するようにブラックインクからカラーインクへのブリードの低減は、無機塩を含むカラーインクと無機塩を含まないブラックインクによりなされ、カラーインクからカラーインクへのブリード、すなわち、両者とも無機塩を含むインクの場合は、摘示(1-4)に記載するように、さらに特定の界面活性剤により印刷媒体中へのインクの浸透を増加させることによりブリードを低減し、それにより、従来例(摘示(1-2))や本願発明2におけるような単一のインクに認められるブリードの低減のような断片的なアプローチでなく、4本ペンセットについて印刷品質を最適化することを目的としている(摘示1-2)ので、引用発明は、少なくとも単一のインクに認められるブリードの低減については本願発明2と同様の効果を奏しているものと認められる。
そして、安定性に係る効果については、「(2)相違点イについて」で述べたとおり、刊行物2の記載より当業者が予測し得るものと言える。

(5) 小括
したがって、本願発明2は刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 審判請求人の主張に対して
請求人は、請求の理由(平成20年4月2日付け手続補正書(方式))の(4)において「引用文献1(刊行物1に相当)の第4欄第51?63行には緩衝剤に関する記載がありますが、多量の無機塩存在下では無機系緩衝剤は沈殿するので有機系緩衝剤を用いるべきであること、並びに理由は付されていませんが緩衝剤を用いてインクpHを6?9にすべきことは記載されていますが、染料の沈殿を防止するために緩衝剤を用いてインクpHを6?9程度に維持することが好ましい旨は記載されていません。ましてや、とりわけ沈殿し易い本願の式(I)を有する特定の染料(本願段落0025)が、インクpHをある程度高く維持することにより沈殿しなくなるという本願発明で得られた知見は引用文献1の記載からは予測できません。」と主張し、回答書の〔1〕の(1-2)において「上記式(I)で表される特定の染料は、耐光性に優れる特長を有するものの、沈殿剤存在下では沈殿し易く、信頼性が不十分でした。本出願人はかかる課題につき鋭意検討した結果、沈殿剤存在下でも、インクpHをある程度高く維持することによりこれらの染料が沈殿しなくなるのを見出し(本願段落0025)、上記特定の構成に至ったものです。本願実施例の結果(特に、実施例1及び図1)から把握されますように、インクpHを5.5?9.5の或る程度高い値に設定することで、上記特定の染料を沈殿剤存在下に用いる場合であっても、経時的な染料のプロトン化が抑制されることを確認しております。とりわけ、インクpHを6.4以上の値に設定した態様に関しては、経時的な染料のプロトン化は全く確認されず、長期に亘り染料の沈殿が起こらないことが確認されます(図1)。」及び 〔4〕の(4-1)において「引用文献1(刊行物1に相当)には、審査官殿ご指摘の通り、アニオン染料と、ブリードを防止するための金属塩化合物、トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン等の緩衝剤を含有し、pHが6?9程度である水性インクジェットインクが記載されており、アニオン染料として特に制限のあることは開示されていません。しかしながら、上記〔1〕にて申し述べた本願発明の課題(即ち、式(I)で表される特定の染料が沈殿剤存在下で沈殿し易いこと)並びに課題解決のためのアプローチ(インクpHを或る程度高くすることによって沈殿剤存在下における特定の染料のプロトン化を抑制)は、当引用文献には一切記載がありません。」及び(4-2)において「引用文献3及び4(刊行物2に相当)には、本願特定の染料に相当するアニオン染料が確かに開示されていますが、当該染料が沈殿剤存在下において沈殿し易いという問題を有することを示唆する記載もなければ(特に引用文献3に関しては、当該染料のインクジェット適性に関する記載すらありません)、インクpHを或る程度高く維持することにより当該染料の沈殿が抑制されるという本発明における知見を想起させる記載もありません。」と主張している。
以上の主張は、主に式(I)の染料に関してインクのpHと染料の沈殿の関係等について述べた記載となっているが、本願実施例において用いられ、インクのpHと染料の沈殿の関係について確認されているのは、式(II)の染料のみであることを考慮すると、上記主張は式(II)の染料を用いる場合についての主張と解される。
しかしながら、 引用発明についての「用いられる緩衝剤は本発明の実施においては約6?9の範囲のpHをもたらすべきである。」との記載(摘示(1-6))、本願発明2の式(II)に相当するアニオン染料を用いたものである刊行物2についての「…(2) すべての染料がインク媒体にすぐれた溶解性をもち微細な放出口金を詰まらせない十分な安定性をもつ溶液をもたらす。…(4) インクが物理的性質をかえずまた保存中固体分を析出しない。…」との記載(摘示(2-5))などを考慮すれば、pHが約6?9の範囲から外れる程インクの安定性が良好でなくなるであろうこと、本願発明2の式(II)に相当するアニオン染料を用いれば、沈殿の析出が防止されインクの安定性が向上するであろうことは当業者が予測し得ることと言うべきである。
よって、審判請求人の上記主張は、当審の上記判断を左右するものではない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明2については特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の点については検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-24 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-14 
出願番号 特願平11-296952
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 孝一中西 祐子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 井上 千弥子
橋本 栄和
発明の名称 インクジェットプリンタ用インク  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 古谷 聡  
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