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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1245808
審判番号 不服2009-18594  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-01 
確定日 2011-10-26 
事件の表示 特願2005-136766「リソグラフィ装置およびデバイス製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年5月25日出願公開、特開2006-135286〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年5月10日(パリ条約による優先権主張 平成16年5月11日 米国)の出願であって、平成17年6月27日に翻訳文が提出された後、平成20年11月10日付けで拒絶理由が通知され、平成21年5月12日付けで手続補正がなされたものの、同年5月28日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として平成21年10月1日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、同日付けで手続補正がなされた。その後、当審において平成22年8月24日付けで審尋が行われ、平成23年2月25日付けで回答書が提出された。

第2 平成21年10月1日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年10月1日付け手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容と目的
平成21年10月1日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の記載を補正するものであって、本件補正後の請求項11は、補正前(平成21年5月12日付けで補正。以下同じ。)の請求項12について、補正前の請求項15に記載されていた「前記光学システムの少なくとも一部がEUV透過性ガスを有し、前記導入するステップが、少なくとも約0.1Pa.mのEUV透過性ガスを前記放射線ビーム中に導入するステップを含む」という事項を付加することにより、補正前の請求項12を限定して減縮したものであるから、本件補正後の請求項11は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を行ったものである。
そこで、本件補正後の請求項11に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2 本件補正発明
本件補正発明は本件補正後の特許請求の範囲の請求項11に記載された次のとおりのものである。
「【請求項11】
光学システムにおける放射線ビーム中の望ましくない放射線の強度を小さくするための方法であって、前記光学システムが、放射線を提供するように構成された放射線源を有し、前記放射線が、所定の波長または所定の波長範囲を有する所望の放射線、および他の波長または他の波長範囲を有する望ましくない放射線を含んでいる方法において、
前記所望の放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のガスであって、前記望ましくない放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のより小さいガスを、前記光学システムのボディの内部に前記ガスを供給するガス・フラッシング・ユニットを用いて前記ガスを供給することで、前記放射線ビーム中に導入するステップを含み、
前記光学システムの少なくとも一部がEUV透過性ガスを有し、前記導入するステップが、少なくとも約0.1Pa.mのEUV透過性ガスを前記放射線ビーム中に導入するステップを含むことを特徴とする
方法。」

3 本願の優先日前に頒布された刊行物
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-7820号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。
(1a)「1)処理に用いる光をガスの透過と鏡の反射を行わせた後被処理基板に入射させ、該ガスの吸収特性と該鏡の反射特性の光エネルギー依存性を利用して光励起処理に必要な波長の光を選択して処理を行うことを特徴とする光励起処理方法。」(第1頁左下欄「2.特許請求の範囲」の項)
(1b)「〔産業上の利用分野〕
本発明は半導体製造プロセス等において用いられる光励起CVD,光励起エッチング,リソグラフィ等の光励起処理方法に関する。」(第1頁右下欄第14?17行)
(1c)「〔従来の技術〕
光を用いた半導体処理技術では,各処理に応じて効率の高い波長領域が存在する。…(中略)…デバイスの微細化にともない,処理に使う原料ガスの光吸収特性や高い励起状態の利用,あるいはリソグラフィの解像度の向上を目的として,シンクロトロン放射光を用いる試みが近年増えてきた。
シンクロトロン放射光はX線から赤外線までの連続波長を有するため,その中から所望の波長の光を取り出す必要がある。
従来は,波長を選ぶための分光器として,グレーティングによる回折効果を利用するものや、多層膜鏡の干渉効果を利用するものが用いられている。
〔発明が解決しようとする課題〕
従来の波長選択方法は,回折効率や反射率が十分でないため,強力な光が得られないないという欠点があった。また,強力な光を得ようとすると装置が大がかりになる等の問題があった。
本発明は光励起処理に必要な波長の強力な光を簡便に得ることを目的とする。」(第2頁左上欄第1行?右上欄第5行)
(1d)「〔作用〕
本発明は
(1)鏡の反射による高エネルギー光のカット
(2)ガスの光吸収の光エネルギーの依存性
を利用して所望の光波長を選択するようにしたものである。
つぎに,上記の(1),(2)についてその内容を説明する。
…(中略)…
(2)ガスの光吸収
ガスの光吸収特性は,その分子の電子軌道のエネルギーに対応した波長で吸収が存在するため,透過光強度にエネルギー依存性がある。
本発明は鏡の反射率の光エネルギー依存と、ガスの透過率の光エネルギー依存を組み合わせて所望の光波長を選択するようにしたものである。」(第2頁左下欄第1行?右下欄第7行)
(1e)「〔実施例〕
この実施例では,シンクロトロン放射光を光源としたシリコンの光励起薄膜成長を例にとって説明する。
第2図は実施例に使用した光励起シリコン薄膜成長装置の模式断面図である。
図において,1はシンクロトロン放射光,2はミラー室,3は金ミラー,4はビームライン,5は差動排気装置,6は成長室,7はガス導入口,Wは被処理基板である。
…(中略)…
実施例では、波長選択用ガスとしてはクリプトン(Kr),鏡としては金ミラーを用いる。
シリコンの成長用ガスにはモノシラン(SiH_(4))とKrの混合ガスを用いる。…(中略)…
Krガスの分圧を10Torr,成長室内の光路長を20cmとすると,基板Wへの入射光のスペクトルは第1図のようになる。
第1図は本発明の一実施例による基板入射光のスペクトルである。
図の横軸はエネルギーE,縦軸は光の強度Iを相対値で示す。
また図において,AはKrガスのみを用いた場合,BはKrガスと金ミラーを併用した場合のスペクトルを示す。
Krガスのみを用いた場合には約30eV以下の低エネルギー成分のみが除去されるが,金ミラーによる反射光を併用すると100eV以上の高エネルギー光も除去されて,結果としてシリコン薄膜の成長に必要な100eV前後のエネルギー光だけが基板に照射されることになる。
実施例では,Krガスと金ミラーの組み合わせを用いたが,必要とする光エネルギーに対応して使用するガス種,ミラーの材質,ミラーへの入射角を適当に選択するようにすればよい。
ただし,波長選択用ガスはプロセスに影響を与えにくい希ガス(He,Ne,Ar,Kr,Xe)等を使うようにする。
また実施例では,ビームラインの構成は末端の処理室にガスを導入する形態で説明したが,波長選択用ガスの導入部分と鏡を設置する部分の配置の組み合わせは任意でよい。ただし,いずれの場合もビームラインと波長選択用ガスの導入部分との間には差動排気装置を設けて,両者の差圧を維持できるようにする必要がある。
実施例ではKrと金ミラーの組み合わせで,ちょうどSiH_(4)の吸収エネルギーに相当する100eV帯域のバンドパスフィルタを形成した。
一般に、希ガスはエネルギーが高くなるほど透過しやすくなる。例えば,Heでは、透過率は200eVでは約100%で,300eVでは約70%である。Neでは,透過率は500eVでは約100%で,100eVでは約70%である。
また,ミラーは斜入射画を大きくすることにより高エネルギー成分がカットされる。
従って,エネルギーが数10?1000eVの範囲ならば,本発明を用いてバンドパスフィルタを形成することが可能である(はとんどのガスの吸収はこの帯域に存在する)。」(第2頁右下欄第8行?第3頁左下欄第14行)
(1f)

(第1図)
(1g)

(第2図)

引用例1の「Krガスのみを用いた場合には約30eV以下の低エネルギー成分のみが除去されるが,金ミラーによる反射光を併用すると100eV以上の高エネルギー光も除去され」るとの記載、及び「実施例では,Krガスと金ミラーの組み合わせを用いたが,必要とする光エネルギーに対応して使用するガス種,ミラーの材質,ミラーへの入射角を適当に選択するようにすればよい。」との記載(上記(1e)参照)、ならびに図1に図示された被処理基板への入射スペクトルからして、引用例1に記載された実施例において、金ミラーを併用しなかった場合には、約30eV以下の低エネルギー成分が除去された100eV前後以上のエネルギー光が被処理基板に照射されることは明らかであるから、引用例1に関する上記(1a)ないし(1g)の記載および図面の図示内容からして、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「被処理基板に処理に用いる光を入射させて光励起シリコン薄膜成長処理を行う装置において、X線から赤外線までの連続波長を有するシンクロトロン放射光を用い、そのシンクロトロン放射光から所望の波長の光を取り出す方法であって、
Krガスの分圧を10Torr、成長室内の光路長を20cmとして、
モノシラン(SiH_(4))からなるシリコン成長用ガスとKrからなる波長選択用ガスの混合ガスを成長室に設けられたガス導入口から供給することにより、
光のエネルギーに依存するKrガスの光透過率の差を利用して、前記シンクロトロン放射光から約30eV以下の低エネルギー成分を除去し、シリコン薄膜の成長に必要な100eV前後以上のエネルギー光を成長室内の被処理基板に照射できるようにする方法。」

(2)引用例2
原査定の時に提示された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-124464号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある。
(2a)「【0008】リソグラフィ投影装置では、炭化水素分子や水蒸気などの汚染粒子が存在することがよく知られている。これらの汚染粒子には、例えばEUV放射ビームによってスパッタされて基板から離れたデブリ及び副生成物が含まれる。また、前記粒子には、EUV源からのデブリ、及びアクチュエータやコンジット・ケーブルなどで遊離した汚染物質も含まれる。通常、放射システムや投影システムなどリソグラフィ投影装置の一部分が少なくとも部分的に排気されるので、これらの汚染粒子がそのような領域に移行する傾向がある。その際、粒子は、これらの領域内に位置された光学構成要素の表面に吸着する。この光学構成要素の汚染によって反射率の損失が生じ、これが装置の正確さ及び効率に悪影響を及ぼし、さらには構成要素の表面を劣化させ、その結果、耐用期間を短くする恐れがある。
【0009】装置から不純物を除去するために提案された従来の手段は、基板の表面のスパッタリングによって発生するデブリが投影システムに向かう運動を抑制することを含んでいる。例えば従来、基板と最終光学構成要素の間の距離を広げ、基板と最終光学構成要素との間に「ガス・カーテン」を導入してデブリを一掃することによりこの問題に対処することができると提案されている。そのような手段は、例えば投影システムに汚染物質が進入するのを防止することを対象としている。しかし、ある種の汚染物質は、それでもシステムに進入することがある、あるいは例えば部品を移動することによりシステム自体の内部で発生することがある。」
(2b)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、光学構成要素の汚染が抑制され、それにより上述した従来使用されているシステムの問題に対処するリソグラフィ装置を提供することである。」
(2c)「【0023】図2は、本発明の特定の場合の照明システムをより詳細に示す。この場合、不活性ガスが照明システム全体に供給されて、この領域内の光学構成要素の汚染を抑制する。ミラー3と、任意選択で、図1を参照して上述した他の様々な光学構成要素とを備える照明システムILがチャンバ2内部に含まれる。このチャンバは、不活性ガス供給源5から不活性ガスを供給され、供給源は、気体又は液体不活性ガスを含む加圧容器であってよい。不活性ガスは、希ガス、例えばヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど任意の化学的に不活性なガスであってよく、あるいは窒素、又はこれらのガスのいずれかの混合物であってもよい。不活性ガスは、好ましくは、ヘリウム、アルゴン、又は窒素の1つ又はその混合物である。これは、これらのガスが極紫外線範囲の放射に対して比較的高い透明度を有するからである。不活性ガスは、バルブを備える入口6を介してチャンバ2に供給される。
【0024】チャンバ2内部の圧力は、圧力センサ手段4を使用して監視される。チャンバ内の不活性ガスの分圧は、チャンバ内部の全圧が0.1Pa?10Pa、好ましくは1Pa?5Pa、より好ましくは2Pa?3Paの範囲に維持されるようにバルブを使用して調節される。」
(2d)【図1】

(2e)【図2】


4 本件補正発明と引用発明の対比
本件補正発明と上記引用発明を対比する。
(1)引用発明の「被処理基板に処理に用いる光を入射させて光励起シリコン薄膜成長処理を行う装置」は、本件補正発明の「光学システム」に相当する。また、引用発明の「X線から赤外線までの連続波長を有するシンクロトロン放射光」は、本件補正発明の「放射線を提供するように構成された放射線源」に相当するものであって、本件補正発明の「所定の波長または所定の波長範囲を有する所望の放射線、および他の波長または他の波長範囲を有する望ましくない放射線を含んでいる」という要件を充足するものであることは明らかである。さらに、引用発明の「シンクロトロン放射光から所望の波長の光を取り出す方法」と、本件補正発明の「放射線ビーム中の望ましくない放射線の強度を小さくするための方法」が実質的に同義であることも明らかである。
(2)引用発明の「モノシラン(SiH_(4))からなるシリコン成長用ガスとKrからなる波長選択用ガスの混合ガスを成長室に設けられたガス導入口から供給することにより、
光のエネルギーに依存するKrガスの光透過率の差を利用して、前記シンクロトロン放射光から約30eV以下の低エネルギー成分を除去し、シリコン薄膜の成長に必要な100eV前後以上のエネルギー光を成長室内の被処理基板に照射できるようにする」という事項と、本件補正発明の「所望の放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のガスであって、前記望ましくない放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のより小さいガスを、前記光学システムのボディの内部に前記ガスを供給するガス・フラッシング・ユニットを用いて前記ガスを供給することで、前記放射線ビーム中に導入するステップを含み」という事項を対比すると、引用発明の「シリコン薄膜の成長に必要な100eV前後以上のエネルギー光」および「約30eV以下の低エネルギー成分」が、それぞれ、本件補正発明の「所望の放射線」および「望ましくない放射線」に相当することは明らかであるといえるから、引用発明の「Krガス」は、本件補正発明の「所望の放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のガスであって、前記望ましくない放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のより小さいガス」に相当する。そして、引用発明の「モノシラン(SiH_(4))からなるシリコン成長用ガスとKrからなる波長選択用ガスの混合ガスを成長室に設けられたガス導入口から供給する」ことによって、Krガスがシンクロトロン放射光のビーム中に導入されることは明らかである。
そうすると、引用発明および本件補正発明の上記それぞれの事項は、「所望の放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のガスであって、前記望ましくない放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のより小さいガスを、前記光学システムのボディの内部に前記ガスを供給することで、前記放射線ビーム中に導入するステップを含」む、という点で一致している。
(3)ここで、当業者の技術常識に照らすと、引用発明のシンクロトロン放射光から除去される「約30eV以下の低エネルギー成分」、および、シリコン薄膜の成長に必要な「100eV前後以上のエネルギー光」は、それぞれ、シンクロトロン放射光から除去される「約40nm以上の波長成分」、および、シリコン薄膜の成長に必要な「12nm前後以下の波長の光」と言い換えることができ、前記「12nm前後以下の波長の光」がEUVであることは明らかであるから、引用発明においてガス導入口から供給される「Krガス」は、本件補正発明の「EUV透過性ガス」に相当するといえる。
さらに、引用発明の「Krガスの分圧を10Torr、成長室内の光路長を20cm」は、「Krガスの分圧を1330Pa、成長室内の光路長を0.2m」と言い換えることができるから、引用発明の「Krガスの分圧を10Torr、成長室内の光路長を20cmとして、モノシラン(SiH_(4))からなるシリコン成長用ガスとKrからなる波長選択用ガスの混合ガスを成長室に設けられたガス導入口から供給する」という事項は、本件補正発明の「光学システムの少なくとも一部がEUV透過性ガスを有し、前記導入するステップが、少なくとも約0.1Pa.mのEUV透過性ガスを前記放射線ビーム中に導入するステップを含む」という事項と一致する。

そうすると、本件補正発明と引用発明は、
「光学システムにおける放射線ビーム中の望ましくない放射線の強度を小さくするための方法であって、前記光学システムが、放射線を提供するように構成された放射線源を有し、前記放射線が、所定の波長または所定の波長範囲を有する所望の放射線、および他の波長または他の波長範囲を有する望ましくない放射線を含んでいる方法において、
前記所望の放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のガスであって、前記望ましくない放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のより小さいガスを、前記光学システムのボディの内部に前記ガスを供給することで、前記放射線ビーム中に導入するステップを含み、
前記光学システムの少なくとも一部がEUV透過性ガスを有し、前記導入するステップが、少なくとも約0.1Pa.mのEUV透過性ガスを前記放射線ビーム中に導入するステップを含む方法。」の点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉
光学システムのボディの内部へのガスの供給が、
本件補正発明は「ガス・フラッシング・ユニットを用いて前記ガスを供給する」のに対し、引用発明は当該ユニットの存在について明らかでない点。

5 相違点についての検討、判断
本件補正発明の「ガス・フラッシング・ユニット」が具体的にどのような装置(ユニット)を意味するか必ずしも明らかではないが、本願の発明の詳細な説明の記載(特に段落【0074】?【0081】)を参酌すると、ガス・ロックと共働してデブリによる悪影響を排除するとともにチャンバの圧力を維持するための機能を有するものと考えられる。
一方、引用例1の図1には、SiH_(4)(モノシラン)とKrガスを、ガス導入口7に供給することが記載されていることからして、引用例1の成長室内のガス圧は、導入口7から供給されるガス量によって調整されていると認められる。また、引用例2に記載されている(上記(2a)?(2e)参照)ように、光学構成要素を内包するチャンバに設けられているバルブを備える入口に加圧容器等の不活性ガス供給源を接続し、前記入口から前記チャンバ内に不活性ガスを供給することにより、チャンバ内の圧力維持を図りつつデブリ等による照明システムの光学構成要素の汚染を防止することは、本願の優先日前に当業者に周知の事項である。
そうすると、デブリによる悪影響を排除するとともにチャンバの圧力を維持するため、チャンバの外部からガスを導入して行うこと、すなわち、光学システムのボディの内部へのガスの供給を、「ガス・フラッシング・ユニット」を用いて行うようにすることは、引用例1に記載された事項や引用例2に記載されているような周知の事項に基いて当業者が容易になし得る事項であり、上記相違点に格別の進歩性を見いだすことはできない。

以上検討したとおりであるから、本件補正発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明および周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、平成23年2月25日付け回答書において、請求項1について補正案を提示し、汚染トラップを含むコレクション・チャンバの付加およびEUV透過性ガスについて特定することを提起するが、当該付加事項は、原審における拒絶理由に対処して削除した請求項が特定する事項に相当する事項であり、実質的な再審査を求めるものであって、時機に遅れた抗弁といわざる得ず、採用に値しない。さらに、引用例1にはリソグラフィ装置への適用について記載され、また、光路上から汚染粒子やデブリを排除するため、光源に最も近いチャンバにEUV透過性ガスを供給する汚染抑制手段を設けることは引用例2に記載されている事項(特に段落【0023】参照)であることに加え、EUVよりも長波長の真空紫外光(VUV)を含む紫外光は、大気、すなわち窒素分子や酸素分子によって吸収されることは技術常識に属する事項であって、また、光の吸収は、光路上に存在する吸収物質の密度と光路長の積によって定まることが技術的に明らかであることに照らせば、いかなるガスを用い、真空度と光路長の積の値をどの程度とするかは、求められる所定の波長と透過性能に応じて当業者が適宜設定し得る事項であるから、請求人の上記回答書による提起は、到底受け入れることはできない。

6 本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものである。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年10月1日付け手続補正は上記のとおり却下されたから、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成21年5月12日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし30に記載されたとおりのものであるところ、その請求項12に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項12】
光学システムにおける放射線ビーム中の望ましくない放射線の強度を小さくするための方法であって、前記光学システムが、放射線を提供するように構成された放射線源を有し、前記放射線が、所定の波長または所定の波長範囲を有する所望の放射線、および他の波長または他の波長範囲を有する望ましくない放射線を含んでいる方法において、
前記所望の放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のガスであって、前記望ましくない放射線の少なくとも一部に対して実質的に透過性のより小さいガスを、前記光学システムのボディの内部に前記ガスを供給するガス・フラッシング・ユニットを用いて前記ガスを供給することで、前記放射線ビーム中に導入するステップを含む方法。」

2 刊行物
原査定において提示された本願の優先日前に頒布された刊行物およびその記載事項、ならびに引用発明は、前記「第2 [理由]3」に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明の対比、検討・判断
本願発明は、上記「第2 [理由]2」に記載した本件補正発明において「前記光学システムの少なくとも一部がEUV透過性ガスを有し、前記導入するステップが、少なくとも約0.1Pa.mのEUV透過性ガスを前記放射線ビーム中に導入するステップを含む」という限定的事項を削除したものに相当するから、本願発明と引用発明は、上記「第2 [理由]4」で述べた「〈相違点〉」で相違し、その余の点で一致することは明らかである。
そして、上記相違点については、上記「第2 [理由]5」で検討したとおりであるから、本願発明は、本件補正発明と同様に、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明および周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項12に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明および周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-31 
結審通知日 2011-06-01 
審決日 2011-06-16 
出願番号 特願2005-136766(P2005-136766)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多田 達也福島 浩司  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 樋口 信宏
吉川 陽吾
発明の名称 リソグラフィ装置およびデバイス製造方法  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  

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