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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J
管理番号 1245844
審判番号 不服2008-28100  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-04 
確定日 2011-10-12 
事件の表示 平成10年特許願第500159号「シアノアクリレート接着剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月11日国際公開、WO97/46630、平成12年10月31日国内公表、特表2000-514472〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、1997年5月22日(パリ条約による優先権主張:1996年5月31日、ドイツ連邦共和国)の国際特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成10年11月27日 翻訳文提出
平成16年 5月20日 出願審査請求
平成18年12月 8日付け 拒絶理由通知
平成19年 6月19日 意見書・手続補正書
平成20年 7月28日付け 拒絶査定
平成20年11月 4日 本件審判請求
平成21年 1月15日 手続補正書(審判請求理由補充書)
平成22年 5月28日付け 拒絶理由通知
平成22年12月 1日 意見書・手続補正書

第2 平成22年5月28日付け拒絶理由通知について
当審は、平成22年5月28日付けで拒絶理由を通知したが、その拒絶理由通知書の内容の概略は以下のとおりのものである。

「第1 手続の経緯
・・(中略)・・
第2 拒絶理由

しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。
理由1:・・(中略)・・
理由2:・・(中略)・・
理由3:この出願の下記1ないし8の各請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記1及び2の各刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



I.理由1について
・・(中略)・・
II.理由2及び3について

引用文献等
1.特開昭59-33373号公報(原審における「引用文献1」)
2.特公昭46-18147号公報
(以下、上記1.及び2.については、「引用例1」及び「引用例2」という。)
・・(後略)」

第3 本願について
当審の上記拒絶理由通知に対して、指定期間内に意見書及び手続補正書が提出されたので、その補正された本願につき上記「理由3」と同様の理由が存するか否か再度検討を行う。

1.本願に係る発明
本願に係る発明は、平成19年6月19日付け及び平成22年12月1日付けの各手続補正により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、当該請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。

「エステルを添加したシアノアクリレート接着剤であって、接着剤全体を基準に、10?30重量%のトリアセチンをエステルとして用いることを特徴とするシアノアクリレート接着剤。」
(以下、「本願発明」という。)

2.引用例等に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用した本願に係る優先日前に頒布された刊行物である「引用例1」及び「引用例2」には、以下の事項が記載されている。

(1)引用例1について
引用例1には、以下の事項が記載されている。

(1-ア)
「α-シアノアクリレートにヒドロキシ多価脂肪酸エステルを添加してなる接着剤組成物。」
(第1頁左下欄「2.特許請求の範囲」の欄)

(1-イ)
「本発明は新規な接着剤組成物、特に接着速度と耐衝撃性の改善されたα-シアノアクリレート系接着剤組成物に関するものである。」
(第1頁左下欄第7行?第9行)

(1-ウ)
「空気中の水分や固体表面或いは、アルカリ性物質の様なアニオン種で極めて容易に重合するα-シアノアクリレートは、実用的に供し得る程度に安定剤や可塑剤を加えて、瞬間接着剤として広く使用されている。この組成物は金属や無機物質、プラスチック等を短時間で高強度に接着するが、耐衝撃強度が小さいと言う欠点があった。
この欠点を改良すべく種々の方法が・・(中略)・・提案されている。しかし、これらの方法では耐衝撃性は改善されるが、固化速度が著しく遅くなるとか、衝撃性の改善効果が充分でないとかで使用が制限されていた。このため、バランスのとれた物性改善が強く要望されていた。」
(第1頁左下欄第10行?右下欄第9行)

(1-エ)
「更に説明すれば、本発明に用いられるα-シアノアクリレートは・・(中略)・・(1式)で示される化合物であり、Rは炭素数1?18又は、それ以上の置換又は非置換の有機基である。Rを具体的にあげればメチル、エチル、イソプロピル、イソブチル、・・(中略)・・メトキシエチル、メトキシプロピル・・(中略)・・等が挙げられる。尚本発明はここに例示されたRを有するα-シアノアクリレートに限られるものでないこと勿論である。」
(第1頁右下欄第18行?第2頁左上欄第13行)

(1-オ)
「本発明において、このα-シアノアクリレートに加えて使用出来るヒドロキシ多価脂肪酸エステルは、分子中に1個以上のヒドロキシル基を持つ脂肪族多価カルボン酸エステルである。化合物を例示すれば、リンゴ酸ジメチル、リンゴ酸ジエチル、リンゴ酸ジブチル、・・(中略)・・酒石酸ジメチル、酒石酸ジエチル、・・(中略)・・ジメチル3-ヒドロキシグルタル酸・・(中略)・・等を例示出来る。」
(第2頁左上欄第14行?右上欄第11行)

(1-カ)
「これらの化合物は、α-シアノアクリレート100部(重量)に対して0.01部以下では添加効果が充分でなく、又10部以上加えると強度を逆に低下させることもあるので、0.01部?10部用いるのが通常であるが限定されるものではない。又、これらのエステルは1種又は2種を混合して用いても良く、当然のことながら他の可塑剤や安定剤、増粘剤、着色剤等の通常用いられる添加剤と併用しても良い。」
(第2頁右上欄第12行?第20行)

(1-キ)
「本発明の組成物は、例えば精製して瞬間接着剤ベースとして適当な量のSO_(2)を安定剤として含むα-シアノアクリレート・・(中略)・・に0.1?5%程度のヒドロキシ多価脂肪酸エステル・・(中略)・・と通常量のハイドロキノンを加えて調製した組成物は、従来の方法に見られた様な硬化速度の遅延を起こす事なく接着性と耐衝撃性が改善されている。」
(第2頁左下欄第1行?第8行)

(2)引用例2について
上記引用例2には、以下の事項が記載されている。

(2-ア)
「主活性成分である少くとも一種の一般構造式:


(ここでAは炭素数2-8の2価の直鎖又は枝分れ鎖のアルキレン又はオキシアルキレン基で、Rは炭素数1-8の直鎖又は枝分え鎖のアルキル基である)で表わされる化合物に少量の、粘度調節剤、可塑化剤等の補助物質と25-1000ppmの濃度になる量の硬化速度調節剤を混合することを特徴とする外科的接着剤の製造法。」
(第5頁第10欄第39行?第6頁第12欄第2行、「特許請求の範囲」の欄)

(2-イ)
「発明の概要
本発明はアルコキシアルキル2-シアノアクリレートを含む迅速重合性組成物によつて外科的に生体組織を癒着し止血を行う方法に関連する。
・・(中略)・・
本発明は損傷生体組織の外科的癒合又は修復に関連する。特に本発明は使用される薬剤が溶剤を含まず、単量体アルコキシアルキル2-シアノアクリレートを含有する迅速重合性接着剤である新規な修復法に関連する。」
(第1頁第1欄第21行?第30行)

(2-ウ)
「本発明の接着剤に使用するアルコキシアルキル2-シアノアクリレートの有用性は種々の利点の異常な組合せにあり、この為生体組織の使用に特殊の適応性を有する。例えば、本発明のアルコキシアルキル2-シアノアクリレートの重合速度は、接合は速くしかも接合部が固定するまでは充分な外科的処置時間が得られる程度である。」
(第2頁第3欄第33行?第39行)

(2-エ)
「本発明の接合剤によつて形成された接合部の引張強さは、例えばラツトの上皮組織で試験すると、自然治癒によつて癒着するまで正しい付着状態に維持する充分な強度を有することが判明した。接合部自体は充分可撓性があつて治癒期間中も運動が可能である。この接合部は急激な衝撃で破壊せず、又脈動又は実質組織に不当の拘束や刺戟を与えることもない。この適当な接合部可撓性は従来の生物学的接着剤では得られなかつたものである。」
(第2頁第4欄第6行?第15行)

(2-オ)
「本発明のアルコキシアルキル2-シアノアクリレートは、湿つた表面に塗布するか、又は二表面間に薄いフイルムに加圧すると重合によつて液体から固体に変換する。接着作用は陰イオン重合によつて起こり、通常生体組織中に含まれる水分のような弱塩基性物質によつて開始される。この単量体は薄いフイルム状に塗布すると迅速に重合するが、少量の重合抑制剤とともに防湿密閉容器に入れて冷蔵すると良好な安定性(少くとも6カ月)が得られる。硬化速度の調節は普通のシアノアクリレート重合抑制剤を使用して行われる。低濃度では重合抑制剤は接着剤有用性に悪影響を及ぼすことなく適当な貯蔵寿命を与える。適当な抑制剤又は安定剤はルイス酸、例えば二酸化イオウ、酸化窒素、三弗化ホウ素、及び他の酸性物質、例えばヒドロキノン・・(中略)・・である。逆にアミン又はアルコールのような重合促進剤を加えて硬化速度を任意に増加することもできる。
上記の物質は一種又は二種以上を25-1000ppmの濃度で使用することができる。」
(第2頁第4欄第25行?第45行)

(2-カ)
「シツクナー、可塑化剤のような補助物質を加えてこの組成物の適応性を改善することもできる。勿論この種の補助物質は生物学的に許容できるもので、使用目的に適した接着剤の事前重合を起こすものであつてはならない。適当な可塑剤の例は・・(中略)・・三酢酸グリセロール、三ブチル酸グリセロール、又は・・(中略)・・ような他の物質である。」
(第3頁第5欄第1行?第9行)

(2-キ)
「本発明の接着剤に使用される化合物は構造式:

で表わされ、ここでAは炭素数2-8の直鎖又は枝分れ鎖のアルキレン又はオキシアルキレン・・(中略)・・で;Rは炭素数1-8(1-4がよい)の直鎖又は枝分れ鎖のアルキル基・・(中略)・・である。上記の化合物又はこの混合物は総て本発明の実施に使用できるが、2-メトキシエチル2-シアノアクリレート、2-エトキシエチル2-シアノアクリレート及び2-イソプロポキシエチル2-シアノアクリレート単量体は生物学的使用目際に対しては最も適当な性質を示すようである。」
(第3頁第5欄第32行?第6欄第3行)

(2-ク)
「以下の実施例においては説明するまでもなく活性化合物は少量の補助物質と微量の硬化速度調節剤を含むものである。」
(第4頁第8欄第22行?第24行)

3.当審の判断

(1)引用例2に記載された発明
上記引用例2には、「一般構造式・・で表わされる化合物に少量の・・可塑化剤等の補助物質と25-1000ppmの濃度になる量の硬化速度調節剤を混合することを特徴とする外科的接着剤」が記載され(上記摘示(2-ア))、当該「一般構造式で表される化合物」が「2-メトキシエチル2-シアノアクリレート」などの「アルコキシアルキル2-シアノアクリレート」である旨記載されている(摘示(2-キ))。
そして、当該「可塑化剤」として、「三酢酸グリセロール」、すなわち「トリアセチン」なるエステル化合物を使用し、適応性を改善することも記載されている(摘示(2-カ))。
また、当該「硬化速度調節剤」としては、二酸化イオウなどのルイス酸及びヒドロキノンなどの酸性物質を25?1000ppmの濃度で使用することが記載されている(摘示(2-オ))。
してみると、上記引用例2には、上記摘示(2-ア)ないし(2-ク)からみて、
「アルコキシアルキル2-シアノアクリレートに少量のトリアセチン及び25-1000ppmの濃度になる量の硬化速度調節剤を添加してなる接着剤」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)検討

ア.対比
本願発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「アルコキシアルキル2-シアノアクリレート」及び「トリアセチン」は、それぞれ、本願発明における「シアノアクリレート」及び「トリアセチン」に相当するものといえる。
また、引用発明における「接着剤」は、本願発明における「(シアノアクリレート)接着剤」に相当するといえる。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「エステルを添加したシアノアクリレート接着剤であって、トリアセチンをエステルとして用いることを特徴とするシアノアクリレート接着剤」
に係る点で一致し、下記の2点で一応相違する。

相違点1:使用するトリアセチンの量につき、本願発明では「接着剤全体を基準に、10?30重量%」であるのに対して、引用発明では、「トリアセチン」の使用量について「少量の」とのみ規定されている点
相違点2:本願発明では、「硬化速度調節剤」の添加・使用につき特定されていないのに対して、引用発明では、「25-1000ppmの濃度になる量の硬化速度調節剤」の添加・使用につき特定されている点

イ.各相違点に係る検討

(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、引用発明におけるトリアセチンなどの補助物質の使用量についての「少量」は、主成分である活性化合物、すなわちシアノアクリレート化合物の使用量に対して少ない量であり、25?1000ppmなる硬化速度調節剤の「微量」よりも多い量であるものといえる(摘示(2-ク)参照)。
また、下記参考文献及び上記引用例1(摘示(1-ウ)参照)にも記載されているとおり、シアノアクリレート系接着剤の技術分野において、エステル類などの可塑剤を添加使用することは当業界周知慣用の技術であり、さらに、特に引用例1(摘示(1-ウ)及び(1-カ)参照)に記載されているとおり、シアノアクリレート系接着剤の技術分野において、耐衝撃(接着)強度と接着速度とのバランスをとるため、エステル化合物などの可塑剤の適量を添加使用することも、少なくとも公知の技術であるといえる。
してみると、引用発明において、上記当業界周知慣用の技術及び引用例1記載の公知技術に基づき、耐衝撃(接着)強度と接着速度とのバランスをみつつ、トリアセチンなるエステル化合物可塑剤の使用量の範囲を所望に応じて主成分であるシアノアクリレート化合物より少ない範囲で実験的に決定することは、当業者が通常の創作能力を発揮することにより適宜なし得ることである。

参考文献:「接着ハンドブック(第2版)」昭和55年11月10日、日刊工業新聞社発行、第436?439頁

(イ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、本願明細書の記載(第9頁第19行?第23行)からみて、本願発明に係る実施例においても「ヒドロキノン(400?1,000ppm)およびSO_(2)(5?15ppm)」なる安定剤を添加使用しているのであるから、本願発明が、実質的に「25-1000ppmの濃度になる量の硬化速度調節剤」を使用する態様を包含するものであることが明らかであり、当該相違点2に係る事項について実質的な相違であるとはいえない。

(ウ)本願発明の効果について
本願発明の効果について本願明細書の記載に基づき検討する。
本願明細書の実施例(及び比較例)の記載(明細書第9頁第18行?第19頁末行)からみて、本願発明のようなシアノアクリレート系接着剤においてトリアセチン可塑剤を添加使用する場合、一般にトリアセチンの添加量が増大するに従い、接着剤の接着強度が低下し、硬化時間が延長され、当初の接着剤の粘度が高くなる傾向にあることが看取できるが、貯蔵時の接着剤の粘度の上昇については、シアノアクリレートの種類により一の傾向を示すものといえない。(すなわち、「表1」ないし「表3」からみて、メチルエステル及びエチルエステルでは、トリアセチンの添加量が増大するに従い、貯蔵時の粘度の上昇が大きくなるのに対して、メトキシエチルエステルでは、トリアセチンの添加量が増大するに従い、貯蔵時の粘度の上昇が小さくなっている。)
しかるに、シアノアクリレート系接着剤の技術分野において、エステル化合物などの可塑剤を添加使用する場合、そのエステルの添加量が増大すると、固化速度が遅くなる、すなわち硬化時間が延長されることは、上記引用例1にも記載されている(摘示(1-ウ)参照)とおり、少なくとも公知の事項である。
そして、同技術分野において、エステル化合物などの可塑剤を添加使用する場合、そのエステルの添加量が増大すると、耐衝撃(接着)強度は向上するものの(摘示(1-ウ)及び(1-キ)参照)、その接着剤における主たる接着成分であるシアノアクリレート化合物の含有量が低下し、接着強度が低下するであろうことも当業者に自明である。
また、同技術分野において、エステル化合物などの可塑剤を添加使用する場合、当該可塑剤が「(シアノアクリレートの)事前重合を起こすものであつてはならない」(摘示(2-カ)参照)ことも当業者に自明であるから、接着剤につき、シアノアクリレートの事前重合などにより、許容できない範囲に当初又は貯蔵時の粘度が上昇するような可塑剤を添加使用することは、避けるべきであることも当業者に自明である。
してみると、引用発明において、上記当業界周知慣用の技術及び引用例1記載の公知技術を組み合わせた場合、シアノアクリレートの事前重合を起こすものでないトリアセチンを適量使用することにより、耐衝撃(接着)強度及び接着強度と接着(硬化)速度とのバランスに優れ、当初又は貯蔵時の粘度の上昇が許容範囲内である接着剤組成物を得ることができるであろうことは、当業者が予期し得ることといえる。
したがって、本願発明は、引用発明において、上記当業界周知慣用の技術及び引用例1記載の公知技術を組み合わせた場合に比して、当業者が予期し得ない特段の効果を奏するものといえない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明(及び当業界周知の技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は、上記平成22年12月1日付け意見書において、
「引用文献2の外科的接着剤は、その目的が自然治癒後適当な速度で生分解が行われる組織接着剤と止血剤含有組成物を使用することによって損傷組織を修復する方法の提供であるところ、生分解されることを前提として設計されるものです。しかし、本願発明の接着剤は、高い貯蔵安定性(室温で1年以上)を有することが示されたものであり、本願発明の課題から考えても引用文献2の外科的接着剤とは全く異なるものです。従って、本願補正後の請求項1に記載の発明は、引用文献1および2に基づいて当業者が容易に想到し得たものではありません。しかも、引用文献1および2では予期し得ない高い貯蔵安定性(室温で1年以上)と実用的な強度値といった格別顕著な作用効果があることが実施例において示されています。」(意見書「5-3.理由3について(適用条文:特許法第29条第2項)」の欄)と主張している。

しかるに、上記意見書における主張は、本願発明及び引用発明の各接着剤に係る用途の相違をいうものと解されるが、シアノアクリレート系接着剤は、金属、セラミック、ゴム類及びプラスチックなどの多岐にわたる被着材を接着する接着剤として汎用性を有するものであり、生体組織用の接着剤としても使用されることが、当業界周知である(必要ならば上記参考文献参照)。
してみると、いかなる被着材に対して使用するか及び二次的な用途(例えば「外科用」など)の限定がない本願発明の「シアノアクリレート接着剤」は、上記多岐にわたる被着材を接着する汎用の接着剤用途及び「外科用」を含む二次的な用途に使用される態様を含むものであるから、請求人が主張する上記用途に関する事項が、実質的な相違であるとはいえない。
また、「貯蔵安定性」につき本願明細書の記載に基づき検討すると、表1ないし表3の記載からみて、本願発明の実施例のものであっても、トリアセチンを含有しないものと同様に80℃で10日間経過後で3倍から5倍程度の粘度上昇があったのであるから、有意な貯蔵安定性を有するものと評価することができないし、他の可塑剤を添加使用した場合との対比もないから、本願発明が「貯蔵安定性」につき特段の効果を奏するとは認められない。
したがって、審判請求人の上記意見書における主張は、特許請求の範囲を含めた本願明細書の記載に基づかないものであるか、技術的根拠を欠くものであるから、いずれにしても当を得ないものであり、当審の上記(2)の検討結果を左右するものではない。

(4)当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び上記当業界の周知(慣用)技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 結び
以上のとおり、本願の請求項1に記載された事項で特定される発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-10 
結審通知日 2011-05-17 
審決日 2011-05-30 
出願番号 特願平10-500159
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 油科 壮一  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 橋本 栄和
松本 直子
発明の名称 シアノアクリレート接着剤  
代理人 田中 光雄  
代理人 森住 憲一  
代理人 山田 卓二  
代理人 柴田 康夫  
代理人 落合 康  

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