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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07C |
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管理番号 | 1245885 |
審判番号 | 不服2009-1577 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-01-19 |
確定日 | 2011-10-24 |
事件の表示 | 特願2000-518936「アクリレートの系から硫黄を除去する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年5月14日国際公開、WO99/23059、平成13年11月13日国内公表、特表2001-521919〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、1998年10月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年10月31日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりのものである。 平成12年 4月28日 1999年4月6日提出の特許協力条約 第19条補正の翻訳文 平成20年 5月 9日付け 拒絶理由通知書 平成20年 8月 8日 意見書・手続補正書 平成20年10月16日付け 拒絶査定 平成21年 1月19日 審判請求書 平成21年 2月18日 手続補正書(方式) 第2 本願発明 この出願の発明は、平成20年8月8日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。 「アクリレート反応生成物の系から硫黄を除去する方法であって、以下の(a)?(c): (a)反応器中でスルホン酸触媒及び溶媒の存在下、(メタ)アクリル酸をアルコールと接触させて対応するエステル反応生成物、水、溶媒、及び残留副生成物を含有する反応混合物を形成し; (b)その後、反応混合物をデカンターに導き、次いで(a)の反応混合物を十分な時間放置して相(1)として酸触媒/水そして相(2)として反応生成物、アクリル酸エステル、溶媒、高分子量の副生成物、及びオリゴマーを含んで成る二相系を形成し;次いで (c)酸触媒を含有する(b)の相(1)を、(a)の反応器に再循環させることを含んで成る、前記アクリレート反応生成物の系から硫黄を除去する方法。」 第3 原査定の理由 原査定は、「この出願については、平成20年 5月 9日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、その「理由2」は、「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。 そして、原査定の備考欄には、「本願請求項1-4に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易にその発明をすることができたものである。」と記載され、その「本願請求項1に係る発明」は、「本願発明」であり、「引用文献1」は、特開平6-287162号公報(以下、「刊行物1」という。)である。 そうすると、原査定の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。 第4 当審の判断 本願発明は、原査定の理由のとおり、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 その理由は、以下のとおりである。 1.刊行物の記載事項 刊行物1及びこの出願の出願時の技術常識を示す刊行物である下記刊行物2?4には、以下の事項が記載されている。 (1)刊行物1(特開平6-287162号公報) (1-1)「【請求項1】 アクリル酸又はメタクリル酸とC_(4)以上のアルコールとから酸触媒の存在下、エステル化反応で生成する水を除きながらそのエステルを製造するに際し、エステル化反応の後、その反応液を少量の水で洗浄し酸触媒を分離回収して、エステル化反応に再利用することを特徴とするアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの製造法。 【請求項2】 エステル化反応に用いる酸触媒がメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸である、請求項1に記載されたアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの製造法。」(特許請求の範囲) (1-2)「反応水の除去を容易にするために、不活性な共沸剤が添加されることがある。共沸剤としては、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン等の炭化水素が用いられることが多い。」(段落【0007】) (1-3)「エステル化反応完了後、反応器から排出される反応液は、未反応アクリル酸又はメタクリル酸、アルコールと対応するエステル、共沸剤を主成分とし、触媒である強酸及び微量の重合防止剤を含んでいる。」(段落【0008】) (1-4)「洗浄の方法は一般的な処理方法が適用できる。例えば、洗浄水とエステル化反応生成液と混合、撹拌した後、静置分離で洗浄水を得る方法、あるいは遠心分離機のような装置を用いて洗浄と液液分離を行う方法などが採用出来る。洗浄効果をあげる手段としては、抽出塔を用いることが最も好ましい。」(段落【0010】) (1-5)「水洗浄されたエステル化反応液は、必要ならば更に水洗浄、あるいはアルカリ水溶液により洗浄されて触媒などを完全に除去し蒸留などの方法で精製され、アルリル酸(審決注:「アクリル酸」の誤記と認める。)又はメタクリル酸エステルを得る。」(段落【0011】) (1-6)「一方、洗浄後の洗浄水は触媒、アクリル酸などを含む水溶液であり、触媒濃度は3から20重量%で、触媒除去率は通常、60%以上、抽出塔等を使用した高効率の場合は80から95%である。該水溶液はエステル化反応器に戻され、触媒は有効活用される。」(段落【0012】) (1-7)「実施例2 上部に蒸溜塔を備えたガラス製エステル化反応器を用い、アクリル酸とオクチルアルコールとから、アクリル酸オクチルを連続的に合成した。反応器の蒸溜塔の塔頂の留出液は相分離され油相は蒸溜塔に還流され、水相は抜き出されて、エステル化反応の生成水が除去される。下部の反応器の加熱はオイルバスで行った。オクチルアルコール716gとアクリル酸360gの混合液にp-トルエンスルホン酸を16gと重合防止剤としてフェノチアジンを500重量ppm溶解させて、エステル化反応の原料とした。該原料液と共沸剤としてのトルエンとを重量比1.0:0.1の比率でエステル化反応器に連続的に供給した。エステル化反応器はオイルバスにより加熱され、反応温度110℃に、圧力は120Toorに保った。加熱された反応器からの蒸気は蒸溜塔に導かれて、反応水を除きながら、エステル化反応を行った。エステル化反応器の液量を5リットルに保つように反応液を抜き出した。反応液の抜き出し量は毎時1115gであり、組成はオクチルアルコール10重量%、アクリル酸2.2重量%、アクリル酸オクチル77.9重量%、トルエン9.8重量%、p-トルエンスルホン酸1.4重量%であった。蒸溜塔塔頂より留出した反応生成水中にはアクリル酸が1.2重量%含まれていた。アクリル酸の転化率は93重量%であった。該反応液を室温まで冷却した後、抽出塔の下部に供給した。抽出塔上部からは抽出水として反応器から留出した反応生成水を供給し、p-トルエンスルホン酸を抽出分離した。反応液と抽出水の比率は1.0:0.1(重量比)とした。抽出塔には直径3cmのガラス製のものを用い、ラシッヒリングを50cmの層高になるように充填して用いた。塔底からはアクリル酸2.9重量%、p-トルエンスルホン酸12.5重量%を含有する水溶液121gを得た。p-トルエンスルホン酸の回収率は95重量%であった。該p-トルエンスルホン酸水溶液をエステル化反応にリサイクルした。該水溶液はエステル化反応器の蒸溜塔中央部に供給され、反応原料液に添加するp-トルエンスルホン酸を0.8gに減らして反応を続けた。反応器内の水分濃度を0.1重量%以下に保つよう加熱を強化したところ、エステル化反応のアクリル酸転化率は変化がなかった。」(段落【0015】) (1-8)「【発明の効果】本発明はエステル化反応に用いた酸触媒や未反応のアクリル酸やメタクリル酸を回収し、エステル化反応に再使用するので触媒の使用量を少くすることが出来、反応液を中和したとき高濃度の有機酸塩を含むアルカリ排水の生成を防止することが出来る効果を奏する。」(段落【0016】) (2)刊行物2(特開平5-229982号公報) (2-1)「抽出/分離工程(i)および(ii)は向流多段抽出塔、例えばパックタワーまたは回転ディスク抽出塔(クーニカラム)内で連続的に操作することができ、または例えばアセトン/酢酸メチル/ヨウ化メチル混合物と水性抽出剤とをミキサーを介して有機相と水相とを分離するデカンターに同時供給することにより、単一分離段で連続的に操作することもできる。」(段落【0028】) (3)刊行物3(特開平1-213248号公報) (3-1)「第1図に示す本発明の方法の一態様において、アルコール分離装置14は、原料プロセス用水が抽出媒体として作用する抽出塔である。エーテル富有相からのアルコールの抽出のために、相中の水の溶解性が低下し、エーテル生成物からの水が更に減る。濃縮された共沸塔頂フラクションを蒸留塔から抽出した後、アルコール含有水性抽出媒体をオレフィン転化装置に導入する。 もう一つの態様において、アルコール分離装置はデカンタ-であり、デカンタ-において、蒸留塔13からの濃縮された共沸塔頂フラクションが、既述したようなエーテル富有上方相およびオレフィン転化装置11に再循環される水性アルコール相に分離される。」(第5頁右上欄下から5行?左下欄第9行) (4)刊行物4(特開昭59-106427号公報) (4-1)「反応を長時間にわたつて実施した場合は反応中に僅かに生成する高沸点副生物、特にタール性物質が酸性水溶液中に蓄積するが、該高沸点副生物は酸性水溶液中で相分離するため、各反応帯域から酸性水溶液の一部を連続的または間欠的に抜き取つたのちデカンターもしくは抽出塔に導き、該酸性水溶液から高沸点副生物を除去することができる。」(第5頁右上欄第8?15行) 2.刊行物1に記載された発明 刊行物1には、「アクリル酸又はメタクリル酸とC_(4)以上のアルコールとから酸触媒の存在下、エステル化反応で生成する水を除きながらそのエステルを製造するに際し、エステル化反応の後、その反応液を少量の水で洗浄し酸触媒を分離回収して、エステル化反応に再利用することを特徴とするアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの製造法」が記載され(摘記(1-1)の【請求項1】)、上記「酸触媒」として、「メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸」が記載されている(摘記(1-1)の【請求項2】)。 また、上記製造法において、「不活性な共沸剤」である「ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン」が添加されることがあると記載され(摘記(1-2))、「共沸剤としてのトルエン」の存在下、反応を行った例が記載されている(摘記(1-7))。 さらに、上記「反応液」は、「未反応アクリル酸又はメタクリル酸、アルコールと対応するエステル、共沸剤を主成分」とするものであることが記載されている(摘記(1-3))。 そして、上記「洗浄」の方法として、「洗浄水とエステル化反応生成液と混合、撹拌した後、静置分離で洗浄水を得る方法」が記載され(摘記(1-4))、洗浄によって、「反応液」からは、「アクリル酸又はメタクリル酸エステル」が得られると記載されているから(摘記(1-5))、「反応液」は、「アクリル酸又はメタクリル酸エステル」を含むものである。 また、洗浄した後の「洗浄水」は、「触媒、アクリル酸などを含む水溶液」であって、「該水溶液はエステル化反応器に戻され」ると記載されている(摘記(1-6))。 以上によれば、刊行物1には、 「アクリル酸又はメタクリル酸とC_(4)以上のアルコールとからメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸である酸触媒、及び、共沸剤としてのトルエンの存在下、エステル化反応で生成する水を除きながらそのエステルを製造するに際し、エステル化反応の後、その反応液を少量の水で洗浄し酸触媒を分離回収して、エステル化反応に再利用することを特徴とするアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの製造法において、上記反応液は、未反応アクリル酸又はメタクリル酸、アルコールと対応するエステル、共沸剤を主成分とするものであり、上記洗浄は、洗浄水とエステル化反応生成液と混合、撹拌した後、静置分離で洗浄水を得る方法であり、洗浄後の反応液は、アクリル酸又はメタクリル酸エステルを含み、洗浄水は、触媒、アクリル酸などを含む水溶液であり、該水溶液はエステル化反応器に戻される方法」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 3.本願発明と引用発明の対比 本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「アクリル酸又はメタクリル酸」及び「アクリル酸」は、本願発明の「(メタ)アクリル酸」に相当し、引用発明の「C_(4)以上のアルコール」及び「アルコール」は、本願発明の「アルコール」に相当し、引用発明の「メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸である酸触媒」、「酸触媒」及び「触媒」は、本願発明の「スルホン酸触媒」、「酸触媒」に相当し、引用発明の「そのエステル」、「アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル」、「対応するエステル」及び「アクリル酸又はメタクリル酸エステル」は、本願発明の「アクリレート反応生成物」、「対応するエステル反応生成物」、「反応生成物」及び「アクリル酸エステル」に相当し、引用発明の「反応液」は、本願発明の「反応混合物」に相当する。 さらに、本願発明の「溶媒」について、この出願の明細書の段落【0004】には、溶媒は、「例えばシクロヘキサン、トルエン、ベンゼンなど」であり、「これらの溶媒は、エステル化反応中に形成された水と低沸点の共沸混合物を形成する」と記載されていることから、本願発明の「溶媒」は、「トルエン」などの共沸混合物を形成するための「共沸剤」であるといえる。 そうすると、引用発明の「共沸剤としてのトルエン」及び「共沸剤」は、本願発明の「溶媒」に相当する。 また、引用発明の「反応液」は、「未反応アクリル酸又はメタクリル酸、アルコールと対応するエステル、共沸剤を主成分とするもの」、すなわち、「未反応(メタ)アクリル酸、アルコール、対応するエステル反応生成物、溶媒を主成分とするもの」であるから、本願発明の「反応混合物」とは、「対応するエステル反応生成物、溶媒を含有する」点で一致している。 そして、引用発明の「エステル化反応」は、「エステル化反応器」、すなわち、「反応器」中で行われる方法であるから、引用発明の「アクリル酸又はメタクリル酸とC_(4)以上のアルコールとからメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸である酸触媒、及び、共沸剤としてのトルエンの存在下」、「そのエステルを製造する」「エステル化反応」及び「アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの製造法」は、本願発明の「(a)反応器中でスルホン酸触媒及び溶媒の存在下、(メタ)アクリル酸をアルコールと接触させて対応するエステル反応生成物、溶媒を含有する反応混合物を形成」する方法に相当する。 また、上記工程(a)の後、引用発明は、「反応液を少量の水で洗浄」する方法であって、その洗浄は、「洗浄水とエステル化反応生成液と混合、撹拌した後、静置分離で洗浄水を得る方法」であるところ、その「静置分離」は、本願発明の「(a)の反応混合物を十分な時間放置」する方法に相当する。 また、引用発明は、「静置分離」で「洗浄水」と「洗浄後の反応液」という2つの相、すなわち、「二相系」を形成する方法であるということができ、「触媒、アクリル酸などを含む水溶液」である「洗浄水」は、本願発明の「酸触媒/水」である「相(1)」に相当し、「アクリル酸又はメタクリル酸エステル」を含む「洗浄後の反応液」は、本願発明の「反応生成物、アクリル酸エステル」を含む「相(2)」に相当する。 そうすると、引用発明の「エステル化反応の後、その反応液を少量の水で洗浄し」、「上記洗浄は、洗浄水とエステル化反応生成液と混合、撹拌した後、静置分離で洗浄水を得る方法であり、洗浄後の反応液は、アクリル酸又はメタクリル酸エステルを含み、洗浄水は、触媒、アクリル酸などを含む水溶液」である方法は、本願発明の(b)工程とは、「(a)の反応混合物を十分な時間放置して相(1)として酸触媒/水そして相(2)として反応生成物、アクリル酸エステルを含んで成る二相系を形成」する方法である点で一致している。 さらに、上記工程(b)の後、引用発明は、「酸触媒を分離回収して、エステル化反応に再利用する」にあたり、「該水溶液はエステル化反応器に戻される方法」であるところ、上記「該水溶液」は、「触媒、アクリル酸などを含む水溶液」であるから、本願発明の「酸触媒を含有する(b)の相(1)」に相当し、上記「エステル化反応器」は、本願発明の「(a)の反応器」に相当する。 そうすると、引用発明の「酸触媒を分離回収して、エステル化反応に再利用する」にあたり、「該水溶液はエステル化反応器に戻される方法」は、本願発明の「(c)酸触媒を含有する(b)の相(1)を、(a)の反応器に再循環させる」方法に相当する。 そして、本願発明は、「アクリレート反応生成物の系から硫黄を除去する方法」であるところ、この出願の明細書の段落【0001】には、「硫黄は、典型的にはアルカンスルホン酸化合物の形で存在し、そして一般にエステル化反応のための酸触媒として用いられる。この酸触媒は、開示されるプロセスを通して有効に回収し、再循環し、そして再使用することができる。」と記載されているから、上記「硫黄を除去する」とは、「酸触媒を除去する」ことをいうものと理解できる。 一方、引用発明は、「対応するエステル」を含む「反応液」から「酸触媒を分離回収」する方法であるところ、「対応するエステル」を含む「反応液」は、本願発明の「アクリレート反応生成物の系」に相当し、「酸触媒」は、本願発明の「硫黄」に相当し、酸触媒を反応液から「分離」するとは、本願発明の「硫黄を除去する」に相当するといえる。 そうすると、引用発明の「対応するエステル」を含む「反応液」から「酸触媒を分離回収」する方法は、本願発明の「アクリレート反応生成物の系から硫黄を除去する方法」に相当する。 また、引用発明は、「エステル化反応で生成する水を除きながら」エステルを製造する方法であるが、この出願の明細書の段落【0013】には、「反応は、概して約100℃の温度で行われ、この間エステル化の過程で生じた反応水は、好ましくは共沸蒸留により除去される。」と記載されているから、本願発明は、「エステル化反応で生成する水を除きながら」エステルを製造する方法を包含する方法であるといえる。 以上によれば、本願発明と引用発明は、 「アクリレート反応生成物の系から硫黄を除去する方法であって、以下の(a)?(c): (a)反応器中でスルホン酸触媒及び溶媒の存在下、(メタ)アクリル酸をアルコールと接触させて対応するエステル反応生成物、溶媒を含有する反応混合物を形成し; (b)次いで(a)の反応混合物を十分な時間放置して相(1)として酸触媒/水そして相(2)として反応生成物、アクリル酸エステルを含んで成る二相系を形成し;次いで (c)酸触媒を含有する(b)の相(1)を、(a)の反応器に再循環させることを含んで成る、前記アクリレート反応生成物の系から硫黄を除去する方法。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する(以下、「相違点1」?「相違点3」という。)。 (1)相違点1 工程(a)の「対応するエステル反応生成物、溶媒を含有する反応混合物」が、本願発明は、さらに、「水、及び残留副生成物」を含有するものであるのに対して、引用発明は、そのようなものであるか明らかでない点 (2)相違点2 工程(b)において、二相系を形成するにあたり、本願発明は、「反応混合物をデカンターに導」く方法であるのに対して、引用発明は、そのような方法であるか明らかでない点 (3)相違点3 工程(b)の「反応生成物、アクリル酸エステルを含んで成る」相(2)が、本願発明は、さらに、「溶媒、高分子量の副生成物、及びオリゴマー」を含有するものであるのに対して、引用発明は、そのようなものであるか明らかでない点 4.相違点についての判断 (1)相違点1 引用発明は、「エステル化反応で生成する水を除きながらそのエステルを製造する」方法であることからも明らかなように、反応により水が生成する方法である。 そして、「生成する水を除きながら」の反応であっても、完全に除かれるものではなく、通常、反応混合物には水が含まれているといえる。 また、反応混合物には、多少の残留副生成物が混入するのが通常である。 そうすると、引用発明の反応混合物は、さらに、「水、及び残留副生成物」を含有するものということができ、この点において、本願発明と引用発明に差異はない。 (2)相違点2 引用発明は、「静置分離」によって二相系を形成するものであるところ、静置分離により二相系を形成した後、各相を分離回収するにあたり、デカンターは通常採用される手段の一つである。 さらに、刊行物1記載の実施例では、二相系を形成するにあたり、具体的には静置分離以外の「抽出塔」を使用しているが(摘記(1-7))、二相系の分離にあたり、抽出塔とデカンターは、例えば、摘記(2-1)?(4-1)に記載されているように、代替可能な手段として広く知られている。 そうすると、引用発明において、二相系を形成するにあたり、静置分離として通常採用されるデカンターを用いるか、刊行物1記載の実施例が抽出塔を用いるものであっても、これをデカンターに代えることにより、「反応混合物をデカンターに導く」方法とすることは、当業者が容易に行うことである。 (3)相違点3 引用発明の「洗浄後の反応液」とは、「未反応アクリル酸又はメタクリル酸、アルコールと対応するエステル、共沸剤を主成分とする」「反応液」から、「触媒、アクリル酸などを含む水溶液」である「洗浄水」が洗浄により除去されたものである。 そうすると、「洗浄後の反応液」には、除去された「触媒、アクリル酸などを含む水溶液」以外の成分である「共沸剤」、すなわち、「溶媒」が含まれているといえる。 また、上記(1)でも述べたとおり、引用発明の反応混合物は、「残留副生成物」を含有するものといえるから、「残留副生成物」のうち、洗浄水として除去されない「高分子量の副生成物」や「オリゴマー」などは、「洗浄後の反応液」に含まれているといえる。 以上によれば、引用発明の「洗浄後の反応液」、すなわち、「反応生成物、アクリル酸エステルを含んで成る相(2)」は、さらに、「溶媒、高分子量の副生成物、及びオリゴマー」を含有するものであり、この点において、本願発明と引用発明に差異はない。 5.効果について 本願発明の効果について、この出願の明細書の段落【0007】には、「(硫黄を含有する)酸を除去すると、反応プロセスから出る有機硫黄成分がより少なくなり、従ってより環境に優しいプロセスである。従って、エステル化反応に用いられる酸触媒及び未反応(メタ)アクリル酸は、有効に回収できそして反応に再使用できる。反応プロセスにおいて用いられる触媒の量は、相当に減少できる。このプロセスによれば、当該技術に従って、反応液をアルカリで処理する必要性がなくなり、このことは有害な有機塩を含有する多量の廃水の生成を避けることができることを意味する。」と記載されている。 一方、刊行物1には、引用発明の方法によれば、「エステル化反応に用いた酸触媒や未反応のアクリル酸やメタクリル酸を回収し、エステル化反応に再使用するので触媒の使用量を少くすることが出来、反応液を中和したとき高濃度の有機酸塩を含むアルカリ排水の生成を防止することが出来る効果を奏する」と記載されているから(摘記(1-8))、本願発明の上記効果は、刊行物1の記載から予測できる程度のものである。 6.まとめ したがって、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7.請求人の主張について (1)請求人は、意見書において、次の主張をしている。 「引用文献1(審決注:「刊行物1」と同じ。)は、エステル化反応後、その反応液を水で洗浄する工程であったり、抽出する工程であったりする。これに対して、本願発明は、エステル化反応後、反応混合物をデカンターに導くことを必要とする方法である。 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明とは全く相違するものであることは明らかであり、また引用文献1の記載から何らの示唆を与えられるものでもない。 よって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに該当するものでもない。」 そこで、この点について検討すると、請求人は、刊行物1記載の方法は、エステル化反応後、その反応液を水で洗浄する工程であったり、抽出する工程であったりするから、本願発明とは異なる旨主張している。 しかし、本願発明は、エステル化反応後、水で洗浄する工程や抽出する工程を含まないことが、特許請求の範囲において特定されているものではない。 また、この出願の明細書の段落【0005】には、「反応生成物の系を水と接触させそして混合する。次いで、混合物を相分離のためのデカンターに導く。」と記載されていることからみて、反応混合物をデカンターに導く前に、水と接触、すなわち、水で洗浄する工程を経ることが記載されており、さらに、段落【0004】に、「MSA(審決注:「メタンスルホン酸」)は、エステル化反応の過程中に水抽出プロセスにより回収できる。MSAは、反応から相形成しそしてその反応系で形成された反応水により抽出できる。」と記載されているように、反応液から抽出する工程についても記載されている。 そうすると、本願発明は、エステル化反応後、その反応液を水で洗浄する工程や抽出する工程を含むものといえるから、この点において本願発明と引用発明に差異はない。 さらに、請求人は、本願発明は、エステル化反応後、反応混合物をデカンターに導くことを必要とする方法であると主張している。 しかし、上記4.(2)で述べたとおり、引用発明において、「反応混合物をデカンターに導く」方法とすることは、当業者が容易に行うことである。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 (2)請求人は、平成21年2月18日に補正された審判請求書の請求の理由において、次の主張をしている。 「引用文献1の抽出塔の形式は、抽出塔下部よりエステル化反応液、塔上部より洗浄水が供給され、塔頂よりエステル化触媒等が除去された反応液が、塔底より触媒、アクリル酸等を含む水溶液が得られる方式を開示している(同[0011]の記載)。また一般的にも、抽出塔は目的生成物が選択的に溶解している溶剤と向流接触して、液から目的生成物を分離する垂直型プロセス容器であると理解されている(参考資料1)。 これに対して、本願発明は、傾斜法による分離及び回収を行うために、抽出塔に比べて、より単純でかつ経済的なデカンターによるものである。デカンターを採用することにより、相分離を効率的に行うことができる。また一般的にも、デタンターは、上澄み液体を上部から流し去って取り出す容器であるとされるものである(参考資料1)。 すなわち、引用文献1に記載の「抽出塔」は、本願発明の「デカンター」に相当するものではないことは明らかである。引用文献1は、酸触媒を回収するために、反応混合物が抽出器の助けなしにそれ自体で相分離することを開示するものではない。 以上のとおり本願発明は、引用文献1には何ら教示されておらず、また引用文献1により示唆を受けたものにも該当しないことは明らかである。 よって本願発明は、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また同第29条第2項の規定により特許を受けることができないものには該当しない。」 しかしながら、上記4.(2)で述べたように、静置分離により二相系を形成した後、各相を分離回収するにあたり、デカンターは通常採用される手段の一つであり、さらに、抽出塔とデカンターは、代替可能な手段として広く知られているから、引用発明において、二相系を形成するにあたり、「反応混合物をデカンターに導く」方法とすることは、当業者が容易に行うことである。 したがって、請求人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-06-01 |
結審通知日 | 2011-06-02 |
審決日 | 2011-06-14 |
出願番号 | 特願2000-518936(P2000-518936) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07C)
P 1 8・ 113- Z (C07C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松本 直子 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
井上 千弥子 木村 敏康 |
発明の名称 | アクリレートの系から硫黄を除去する方法 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 沖本 一暁 |