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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04R 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R |
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管理番号 | 1245950 |
審判番号 | 不服2010-1953 |
総通号数 | 144 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-12-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-01-28 |
確定日 | 2011-10-31 |
事件の表示 | 特願2006-332618「着用式導音装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月26日出願公開、特開2007-189673〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年12月8日の出願(優先権主張 平成18年1月10日 台湾)であり、平成21年6月1日付け拒絶理由通知に対して平成21年9月3日付けで手続補正書が提出されたが、平成21年9月30日付けでで拒絶査定がされたものである。 これに対して平成22年1月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。 第2 平成22年1月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成22年1月28日付けの補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 当該手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりのものである。 【請求項1】 内部空間を有する本体と、 前記内部空間を第1の空間と第2の空間に仕切るよう本体に実装されるスピーカーと、 第1及び第2の端部を有する導音管と、を備え、 前記第1の端部は、前記第1の空間と第2の空間のどちらか一つに連接し、該第1の端部が連接していない第1の空間又は第2の空間は、共鳴箱を有してなり、 前記導音管は、前記本体から外方に向かって延在し、 前記第2の端部は、前記導音管を介して前記スピーカーより伝送される音を、前記本体の外方へ放出するための音出口を有してなり、 前記第2の端部は、ユーザーの耳孔近くに設置されるが、そこには空間ができるように、 前記本体をユーザーに取り付けることができる連接部品を備えることを特徴とする着用式導音装置。 (以下、「本願補正後発明」とする。) 上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、第1の空間、第2の空間について「該第1の端部が連接していない第1の空間又は第2の空間は、共鳴箱を有してなり、」という限定をするものであるから、特許法第17条の2第4項第2号(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号)の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本願補正後発明が特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.公知刊行物の記載 公知刊行物である、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物1(特開平3-117999号公報)には、対応する図面(特に第1図?第4図、第7図)と共に、以下の内容が記載されている。 (ア)「2.特許請求の範囲 (1)キャビネット内に収納された電気音響変換ユニットと、 上記電気音響変換ユニットより放射される音響を上記キャビネット外方に導出する音導管とを備え、 上記音導管は、少なくとも放音側端部が外耳道に挿入可能なように該外耳道より細径となされてなる電気音響変換器。」 (イ)「D.発明が解決しようとする課題 ところで、上述のようにヘッドホン装置として構成された電気音響変換器においては、この電気音響変換器を構成する電気音響変換ユニットと聴取者の鼓膜とが相対向させられているため、これら電気音響変換ユニットと鼓膜との間に定在波が生ずる。このような電気音響変換器を用いる聴取者は、上記定在波が生ずることにより、圧迫感を感じたり、いわゆる頭内定位感を感じたりすることとなる。 また、このような電気音響変換器においては、上記電気音響変換ユニットが聴取者の外耳道を略閉塞する状態に支持されているため、この電気音響変換器を用いる聴取者は、外方よりの音響を聴取し難くなる。そのため、道路上を歩行したり、自動車等の車両の運転をする際に、この電気音響変換器を用いることは、外部状況の認識を困難となし、安全な歩行や運転を妨げることとなる。 」 (第2頁下右欄) (ウ)「F.作用 本発明に係る電気音響変換器においては、キャビネット内に収納された電気音響変換ユニットより放射される音響を上記キャビネット外方に導出する音導管は、少なくとも放音側端部が外耳道に挿入可能なように該外耳道より細径となされてなるので、上記外耳道を閉塞することなく、この外耳道内に上記音響を導出することができる。」 (第3頁下左欄) (エ)「このイヤホン装置は、上記外耳道Eを閉塞することなく、上記音響再生ユニット2より放射される音響を上記外耳道Eを介して鼓膜に到達させる。そのため、このイヤホン装置においては、外方よりの音響の聴取を阻害することなく、音響再生を行うことができる。 また、このイヤホン装置の音響特性を等価的に示す音響回路は、第2図に示すように、上記音響再生ユニット2についての等価質量Md、コンプライアンスCd及び音響抵抗Rdとが直列に接続され、さらに、これらに上記キャビネット1内のコンプライアンスCbが接続されて閉ループを形成している。そして、第2図中Aで示す上記等価質量Md、コンプライアンスCd及び音響抵抗Rdと上記コンプライアンスCbとの接続部のうちの一方は、上記音導管3内の空気の等価質量Mbを介して、上記外耳道Eの音響回路εに接続されている。また、第2図中Bで示す上記等価質量Md、コンプライアンスCd及び音響抵抗Rdと上記コンプライアンスCbとの接続部のうちの他方は、上記外耳道Eの音響回路εに接続されている。上記外耳道Eの音響回路εは、この外耳道E内の等価質量Me、コンプライアンスCe及び音響抵抗Reとが閉ループを形成してなる。そして、上記コンプライアンスCeと音響抵抗Reとの接続部が上記音導管3内の空気の等価質量Mbに接続されている。また、上記コンプライアンスCeと等価質量Meとの接続部は、第2図中Bで示す上記等価質量Md、コンプライアンスCd及び音響抵抗Rdと上記コンプライアンスCbとの接続部のうちの他方に接続されている。 この音響回路より、このイヤホン装置の共振周波数f。は、 f。=1/(2π√(Md+Mb)Cd) ・・・・・・・・(第1式) となり、上記音響再生ユニット2の単体についての共振周波数よりも低い周波数となっている。したがって、このイヤホン装置においては、低域周波数を含む広い周波数帯域に亘って良好な音響再生を行うことができる。」 (第4頁下左欄?第5頁上左欄) (オ)「そして、このイヤホン装置は、第7図に示すように、上記キャビネットlの外方側に、支持部材として湾曲形成されたアーム状の耳掛け部材13を設け、この耳掛け部材13が耳介Cの外側縁の上側に係合支持されるようにしてもよい。このイヤホン装置は、上記耳掛け部材13が上記耳介Cに係合して支持されると、上記音導管3の先端部3aが上記外耳道Eに挿入されるようになされている。 」 (第6頁下左欄) そして、上記(エ)及び第1図?第3図の記載から、音響等価回路におけるコンプライアンスCbはキャビネットの内部空間のコンプライアンスを意味することが明らかであるから、キャビネットの内部空間はコンプライアンスCbを有する共鳴箱を形成しているといえる。 よって、以上(ア)?(オ)の記載及び図面の内容をを総合すると、刊行物1には、次の(カ)なる発明が記載されていると認められる。 以下、これを「引用発明」と記す。 [引用発明] (カ)キャビネットに内部空間を有する本体と、 キャビネットにおいて本体に実装されるスピーカーと、 第1及び第2の端部を有する音導管と、を備え、 音導管の第1の端部は、前記キャビネットの内部空間に連接するとともに、キャビネットの内部空間は、共鳴箱を形成し、 前記導音管は、前記本体から外方に向かって延在し、 前記第2の端部は、前記導音管を介して前記スピーカーより伝送される音を、前記本体の外方へ放出するための音出口を有してなり、 前記第2の端部は、ユーザーの耳孔に挿入可能なものではあるが、そこには空間ができるように外耳道より細径とされ、 前記本体をユーザーの耳介に取り付けることができる耳掛け部を備えることを特徴とする音響再生装置 3.対比 本願補正後発明と当該引用発明(カ)とを対比する。 本願補正後発明も引用発明も、スピーカーを耳道内に挿入せずに耳道から離間した位置に配するとともに、スピーカーからの音を音導管(導音管)を介して耳道に達するように構成した、着用式導音装置である。 本願補正後発明における「連接部品」は、発明の詳細な説明の段落【0043】に「図11と図12において、連接部品(24)が、それぞれ、耳挟みや耳掛け形式であり、スピーカー(22)は、連接部品(24)により、ユーザーの耳の上部(例えば、耳殻)或いは下部(例えば、耳垂)に着用され、これにより、ユーザーが容易に両耳の上に着用できる。」と記載されているものであるから、引用発明における「ユーザーの耳介に取り付けることができる耳掛け部」は本願補正後発明における「連接部品」に相当する。 したがって、引用発明における構成要素を本願補正後発明において用いられている用語に置き換えれば、本願補正後発明と引用発明は以下の点で一致、あるいは相違する。 [一致点] (キ)内部空間を有する本体と、 前記内部空間において本体に実装されるスピーカーと、 第1及び第2の端部を有する導音管と、を備え、 前記第1の端部は、前記空間に連接し、該空間は、共鳴箱を有してなり、 前記導音管は、前記本体から外方に向かって延在し、 前記第2の端部は、前記導音管を介して前記スピーカーより伝送される音を、前記本体の外方へ放出するための音出口を有してなり、 前記第2の端部は、ユーザーの耳孔には空間ができるように、前記本体をユーザーに取り付けることができる連接部品を備えることを特徴とする着用式導音装置。 [相違点] (ク)本願補正後発明における空間が、実装されるスピーカーにより「第1の空間」と「第2の空間」により仕切られるように構成されており、音導管の「第1の端部が連接していない第1の空間又は第2の空間は、共鳴箱を有してなり、」というものであるのに対し、引用発明はそのような構成ではない点。 (ケ)本願補正後発明において、前記第2の端部が、「ユーザーの耳孔近くに設置されるが、そこには空間ができるように、」とされているのに対し、引用発明では、「ユーザーの耳孔に挿入可能なものではあるが、そこには空間ができるように外耳道より細径とされ、」とされている点。 4.相違点の判断 相違点(ク)について検討する。 公知刊行物である、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物2(特開昭63-43493号公報)には、特に第1図?第4図、第7図および関連する説明から明らかなように、内部空間をコンプライアンスC1をもつ共鳴箱に相当する第1の空間とコンプライアンスC2、C3をもつ共鳴箱に相当する第2の空間に仕切るよう振動板が実装され、第1の空間から音道(本願補正後発明における導音管に相当)を介して音を出力するイヤフォン装置の発明が記載されている。 引用発明も刊行物2に記載された発明も、共にイヤフォン装置であり、引用発明において、内部空間を振動板で仕切ることは、スピーカーにより内部空間を仕切ることに他ならないから、引用発明において本体に実装されるスピーカー構造に代えて、刊行物2に記載の発明の構成とすることは当業者が容易に想到することである。 相違点(ケ)について検討する。 引用発明は「ユーザーの耳孔に挿入可能なものではあるが、」とされているが、これは、音導管の端部が必ずしも「ユーザーの耳孔に挿入」されることを意味しない。あくまで「可能」とされるにとどまるものである。引用発明において技術的な効果は「そこには空間ができるように外耳道より細径とされ」という構成にあるのであって、引用発明も、「ユーザーの耳孔には空間ができる」点において相違しない。 仮に、本願補正後発明が“ユーザーの耳孔に挿入されない”という構成であり、引用発明が“ユーザーの耳孔に挿入される”という構成であるとしても、両者は「ユーザーの耳孔には空間ができる」点で一致するものであって、端部が耳孔にどの程度挿入されるかは、装置の装着によって音響効果は異なり、本願発明において端部と耳孔の位置関係について格別の限定があるわけでもない。ユーザーの耳孔にできる空間をどのように設定するかは種々の要件により適宜設定される設計的事項にすぎない。 なお、音の出力部を耳孔から離間して配置して用いること自体は周知の技術である。 拒絶査定において提示された刊行物である特表平11-506878号公報にはそのような技術が記載されており、また、特開平9-105788号公報には、耳孔に対する通気性を確保し、周囲の必要な音声や情報を聞き取る妨げとならないように、音の出力端を“耳穴近傍”とし、音の出力端を耳孔に挿入しない構造の耳介に挟んで装着するタイプのイヤフォンが記載されている。 したがって、相違点(ケ)は実質的には相違するものではなく、また、相違するにしても、当業者が適宜設定し得る程度の違いでしかない。 そして、これら相違点(ク)、(ケ)を総合的に判断しても、本願補正後発明が格別顕著な構成であり、格別顕著な効果を奏するものであるということはできないから、本願補正後発明は、公知刊行物である、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物1((特開平3-117999号公報))及び刊行物2(特開昭63-43493号公報)に記載の発明に基づいて、当業者が本願出願前周知の技術事項を考慮して容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができたものではない。 5.補正却下の[理由]についてのむすび 上記のとおり、本願補正後発明は特許出願の際独立して特許を受けることができたものではないから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明の認定 平成22年1月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成21年9月3日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1から請求項7までに記載した事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明は、次のとおりである。 【請求項1】 内部空間を有する本体と、 前記内部空間を第1の空間と第2の空間に仕切るよう本体に実装されるスピーカーと、 第1及び第2の端部を有する導音管と、を備え、 前記第1の端部は、前記第1の空間と第2の空間のどちらか一つに連接し、 前記導音管は、前記本体から外方に向かって延在し、 前記第2の端部は、前記導音管を介して前記スピーカーより伝送される音を、前記本体の外方へ放出するための音出口を有してなり、 前記第2の端部は、ユーザーの耳孔近くに設置されるが、そこには空間ができるように、前記本体をユーザーに取り付けることができる連接部品を備えることを特徴とする着用式導音装置。 2.引用刊行物に記載の発明 原査定の拒絶理由に引用された刊行物1、刊行物2、及び、その記載事項は、前記「第2における[理由]の2.」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願請求項1に係る発明は、前記「第2における[理由]の1.」で検討した本願補正後発明における第1の空間と第2の空間について、「該第1の端部が連接していない第1の空間又は第2の空間は、共鳴箱を有してなり、」という限定事項を省いたものである。 そうすると、本願請求項1に係る発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正後発明が、前記「第2における[理由]の4.」に記載したとおり、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願請求項1に係る発明も、同様の理由により、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 まとめ 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたことにより、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。 したがって、原査定を取り消す。本願は特許すべきものであるとの審決を求める、という本願審判請求の趣旨は認められない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-06-03 |
結審通知日 | 2011-06-08 |
審決日 | 2011-06-21 |
出願番号 | 特願2006-332618(P2006-332618) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H04R)
P 1 8・ 121- Z (H04R) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 圭一郎 |
特許庁審判長 |
板橋 通孝 |
特許庁審判官 |
吉村 博之 古川 哲也 |
発明の名称 | 着用式導音装置 |
代理人 | 藤川 忠司 |
代理人 | 三上 祐子 |
代理人 | 正木 裕士 |