• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01T
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01T
管理番号 1245967
審判番号 不服2009-25596  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-25 
確定日 2011-11-04 
事件の表示 特願2003-422458「スパークプラグ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月 7日出願公開、特開2005-183177〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年12月19日の出願であって、平成21年9月15日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成21年12月25日に拒絶査定に対する不服の審判が請求されるとともに、同日付で手続補正がされたものである。

2.平成21年12月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年12月25日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本願補正発明
上記補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
略筒状に形成され、軸線方向に貫通孔を有する絶縁体と、
当該絶縁体の前記貫通孔の先端側に挿設される棒状の中心電極と、
前記絶縁体の軸線方向の先端側を内挿して保持する略筒状の主体金具と、
一端部が当該主体金具の先端に接合され、当該一端部とは反対の他端部が前記中心電極に対向し、前記他端部と前記中心電極との間に火花放電ギャップを形成する接地電極と
を備え、
前記絶縁体は、前記絶縁体の後端側に設けられた絶縁体後端部と、前記絶縁体の先端側に設けられ、当該絶縁体後端部の外径よりも縮径された絶縁体先端部と、前記絶縁体後端部と前記絶縁体先端部とを連結する第1絶縁体段部と、軸線を含む断面を見たときに、前記絶縁体先端部外周面において、軸線と第1狭角をなし、前記絶縁体の先端側に向かって縮径する第2絶縁体段部とから構成され、
前記主体金具は、前記主体金具の後端側に設けられた主体金具後端部と、前記主体金具の先端側に設けられ、内径が当該主体金具後端部の内径よりも縮径された部分を少なくとも後端側に有する主体金具先端部と、前記主体金具後端部と前記主体金具先端部とを連結する第1主体金具段部とから構成され、
前記第1絶縁体段部は、パッキンを介して前記第1主体金具段部に係合し、
軸線を含む断面を見たときに、前記絶縁体先端部の外径をd1、前記主体金具先端部の内径をD1として、(D1-d1)/2<0.45mmとなる隙間の、前記絶縁体の軸線方向に平行な長さが、前記パッキンと前記主体金具段部との係合位置のうち、軸線方向の最先端側の位置を起点として前記絶縁体の先端側を+としたとき、1.2mm以上、5mm以下であって、
軸線を含む断面を見たときに、前記主体金具内周面において、軸線と第2狭角をなし、前記絶縁体の先端側に向かって拡径する第2主体金具段部と、前記第1主体金具段部と前記第2主体金具段部とを連結する主体金具基部とを有し、
軸線を含む断面を見たときに、前記第1絶縁体段部と前記第2絶縁体段部とを連結する絶縁体基部と前記第2絶縁体段部との交点の軸線方向の位置が、前記主体金具基部と前記第2主体金具段部との交点を起点として前記絶縁体の先端側に向かう方向を+としたとき、-0.5mm以上、3mm以下であり、
前記第1狭角が10°以上であることを特徴とするスパークプラグ。」と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記絶縁体基部」について「軸線を含む断面を見たときに、前記第1絶縁体段部と前記第2絶縁体段部とを連結する絶縁体基部」との限定を付すとともに、「第1狭角」について「10°以上」との限定を付すものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-260817号公報(以下「引用例」という。)には、図面とともに次の技術的事項が記載されている。

a 「【請求項1】 筒状の主体金具(1)と該主体金具(1)の内周側に係止された軸孔を有する絶縁体(2)と該絶縁体(2)の前記軸孔に保持された中心電極(3)と、該中心電極(3)の先端と対向することで火花放電ギャップ(g)を形成する接地電極(4)とを備え、
前記絶縁体(2)の軸線方向(O)において前記火花放電ギャップ(g)の位置する側を前方側、これと反対側を後方側として、前記絶縁体(2)は、前端部(2i)が周方向の段部により縮径されて該段部が絶縁体側係合部(2h)とされ、前記主体金具(1)に対し後方側開口部から挿入されるとともに、前記絶縁体側係合部(2h)が前記主体金具(1)の内周面から突出する金具側係合部(1c)と係合し、かつ、前記絶縁体(2)の前記絶縁体側係合部(2h)よりも前方側に位置する部分(2i)の外周面(以下、隙間形成外周面という)(2k)が、前記金具側係合部(1c)の内周面(以下、隙間形成内周面という)(52)と、所定量の係合位置隙間(Q)を形成する形にて対向するとともに、前記隙間形成外周面(2k)の外径をd1、前記隙間形成内周面(52)の内径をD1として、 β=(D1-d1)/2にて表される係合位置隙間量βが0.4mm以下に調整されていることを特徴とするスパークプラグ。
・・・(中略)・・・
【請求項4】 前記金具側係合部(1c)の前記隙間形成内周面(52)は、前記軸線(O)を含む仮想平面による断面外形線が、前記隙間形成外周面(2k)と対向する平坦部(52a)と、該平坦部(52a)の前方側端部から前記主体金具(1)の内周面に向けて下る傾斜部(52b)とを有し、それら平坦部(52a)と傾斜部(52b)とのなす角度θが、
140゜≦θ≦160゜
を満足している請求項1ないし3のいずれか1項に記載のスパークプラグ。」(【特許請求の範囲】)

b 「【0010】係合位置隙間量βが0.4mmを超えると未燃ガスの侵入を食い止めることが困難となり、係合位置隙間内における絶縁体表面の汚損を防止できなくなる。なお、係合位置隙間量βが極端に小さくなると、係合位置隙間内への汚損物質の侵入は生じないが、係合位置隙間から前方側に延びる絶縁体表面に汚損物質が付着した場合に、その汚損物質の堆積層が、係合位置隙間を挟んで反対側に位置する主体金具側係合部と接触して短絡を生じやすくなり、着火性が却って損なわれる場合がある。この点を考慮して、係合位置隙間量βは例えば0.05mm以上確保すること、より望ましくは0.2mm以上確保することが望ましい。また、この係合市隙間量βを確保する長さβLは、0.5mm以上であることが望ましい。長さβLが0.5mm未満であると、未燃ガスの侵入を食い止める効果が低下しやすくなる。一方、この長さβLが長くなると係合位置隙間が前方側に延長してくることになる。このとき、汚損物質が係合位置隙間近傍に付着すると、この係合位置隙間近傍において飛火しやすくなる。従って、この長さβLは2.5mm以下であることが望ましい。」(段落【0010】)

c 「【0015】絶縁体2には、主体金具1に対し後方側開口部から挿入されるとともに、第一軸部2gと第二軸部2iとの接続部が周方向の段部が形成されている。該段部は絶縁体側係合部2hとして、主体金具1の内面に形成された金具側係合部としての周方向の環状の凸条部1cと、リング状の板パッキン63を介して係合することにより、軸方向の抜止めがなされている。他方、主体金具1の後方側開口部内面と、絶縁体2の外面との間には、フランジ状の突出部2eの後方側周縁と係合するリング状の線パッキン62が配置され、そのさらに後方側にはタルク等の充填層61を介してリング状の線パッキン60が配置されている。そして、絶縁体2を主体金具1に向けて前方側に押し込み、その状態で主体金具1の開口縁をパッキン60に向けて内側に加締めることにより加締め部1dが形成され、主体金具1が絶縁体2に対して固定されている。」(段落【0015】)

d 「【0018】なお、本実施形態では、第一軸部2gの外周面は略円筒状とされ、他方、隙間形成外周面2kをなす第二軸部2iの基端部の外周面は、軸線方向Oにおいて、係合位置隙間Qが略一定(かつ最小値)となるように、隙間形成内周面52と略同軸的な円筒面状とされている。また、第二軸部2iの隙間形成外周面2kよりも先端側の外周面は、先端に向かうほど縮径する円錐面状とされている。」(段落【0018】)

e 「【0021】また、絶縁体2(第二軸部2i)の先端部の汚損に伴う横飛火は、常に主体金具1の端面位置で生ずるとは限らず、ガスボリューム部GVの幅によっては主体金具の多少奥まった位置で発生することもありえる。そこで、このような横飛火を防止するには、絶縁体側係合部2hよりも前方側において、軸線Oと直交する仮想平面による絶縁体2の断面外形線の直径をd3、これに対応する位置における主体金具1の内径をD3としたときに、主体金具1の前端面位置から少なくとも7mmまでの区間の任意位置において、
α<(D3-d3)/2 ・・・・(4)
を満足していること、つまり、主体金具1の前端面位置から7mm以上確保された区間Lにおいて、α<(D3-d3)/2を満足していることが有効である。」(段落【0021】)

f 「【0023】次に、金具側係合部たる凸条部1cにおいて隙間形成内周面52には、絶縁体2の軸線O(ここでは、主体金具1の軸線とも一致している)を含む仮想平面による断面外形線が、隙間形成外周面2kと対向する平坦部52aと、該平坦部52aの前方側端部から主体金具1の内周面に向けて下る傾斜部52bとを有する。そして、それら平坦部52aと傾斜部52bとのなす角度θが、
140゜≦θ≦160゜ ・・・・(5)
を満足するものとなっている。該平坦部52aと傾斜部52bとの交差位置にはエッジ部が形成されるが、それらのなす角度θをのようにやや大きめに設定しておけば、形成されるエッジ部への過度の電界集中が回避でき、耐電圧性能をより向上させることができる。ただし、θが140゜未満では効果が小さく、θが160゜を超えると、傾斜部52bが主体金具1の内周面に向けてだらだらと長く裾を引く形となり、ガスボリューム部GVにおいて電界強度の高い領域が、肉厚の小さい絶縁体2(第二軸部2i)の先端部にまで広がって、耐電圧性能が却って損なわれる場合がある。また、ガスボリューム部GVの幅Jの小さくなる区間が長くなるので、横飛び防止の観点においても不利に作用する場合がある。本実施形態では、平坦部52aが第二軸部2iの基端部外周面2kと同軸的な円筒面をなしており、他方、傾斜部52bは円錐面状に形成されている。」(段落【0023】)

g 「【0024】以下、スパークプラグ100に付加可能な種々の変形について説明する(なお、図1及び図2と共通の部分には同一の符号を付与して詳細な説明を省略する)。まず、図3においては、ガスボリューム部GVの幅Jが、火花放電ギャップgの間隔αよりも大となる区間Lの長さをなるべく大きくできるように、第二軸部2iの円筒状の基端部2rに対し、縮径部2jを介して先端本体部分2sを接続した形態としている。本実施形態では電界集中しやすい急角度のエッジを生じにくくするため、縮径部2jを円錐面状(テーパ状)としている。
【0025】また、図4(a)の実施形態においても、金具側係合部たる凸状部1cの隙間形成内周面52は、軸線Oを含む仮想平面による断面外形線が、隙間形成外周面2kと対向する平坦部52aと、該平坦部52aの前方側端部から主体金具1の内周面に向けて下る傾斜部52bとを有する。そして、それら平坦部52aと傾斜部52bとの交差位置に面取り部52cが形成されている(図4(b)に拡大図を示す)。この構成により、平坦部52aと傾斜部52bとの交差位置への電界集中が起こり難くなり、平坦部52aと傾斜部52bとの角度θを大きくするのと同様の効果を達成できる。図4の実施形態においても絶縁体1の第二軸部2iは、図3と同様に、円筒状の基端部2rに対し、縮径部2jを介して先端本体部分2sを接続した形態を有する。なお、図3では先端本体部分2sの外周面が円錐面状となっていたが、図4では、主体金具1のより奥まった位置までガスボリューム部GVの幅Jがなるべく広くなるように、先端本体部分2sの外周面を円筒面状としている。なお、図4(c)に示すように、面取り部52cに代えてアール部52rを設けてもよい。」(段落【0024】?【0025】)

上記の各記載事項及び図面の記載を総合すると、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が実質的に記載されていると認められる。

「筒状に形成され、軸線方向に軸孔を有する絶縁体と、
当該絶縁体の軸孔の前方側に挿通される棒状の中心電極と、
前記絶縁体の軸線方向の前方側を内挿して保持する筒状の主体金具と、
一端部が当該主体金具の先端に接合され、当該一端部とは反対の他端部が前記中心電極に対向し、前記他端部に前記中心電極との間に火花放電ギャップを形成する接地電極と
を備え、
前記絶縁体は、前記絶縁体の後方側に設けられた第一軸部と、前記絶縁体の前方側に設けられ、当該絶縁体の第一軸部の外径よりも縮径された第二軸部と、前記第一軸部と第二軸部とを連結する絶縁体側係合部と、軸線を含む断面を見たときに、前記隙間形成外周面において、軸線と角度(縮径部2jの部分の角度)をなし、前記絶縁体の前方側に向かって縮径する縮径部とから構成され、
前記主体金具は、前記主体金具の後方側に設けられた主体金具の後方側の部分と、前記主体金具の前方側に設けられ、内径が当該主体金具の後方側の部分の内径よりも縮径された部分を少なくとも後方側に有する主体金具の前方側の部分と、前記主体金具の後方側の部分と前記主体金具の前方側の部分とを連結する金具側係合部とから構成され、
前記絶縁体側係合部は、パッキンを介して前記金具側係合部に係合し、
軸線を含む断面を見たときに、前記第二軸部の隙間形成外周面の外径をd1、前記主体金具の前方側の部分の隙間形成内周面の内径をD1として、(D1-d1)/2の係合位置隙間量(β)を0.4mm以下としており、該隙間の絶縁体の軸線方向に平行な長さで、係合位置隙間量βを確保する長さ(βL)が0.5?2.5mmであって、
軸線を含む断面を見たときに、前記主体金具内周面において、軸線と角度(軸線の後方側からθ)をなし、前記絶縁体の前方側に向かって拡径する傾斜部と、前記金具側係合部と前記傾斜部とを連結する主体金具の平坦部とを有し、
軸線を含む断面を見たときに、前記絶縁体側係合部と前記縮径部とを連結する基端部と前記縮径部との交点の軸線方向の位置が、前記主体金具の平坦部と前記傾斜部との交点を起点として前記絶縁体の前方側に向かう方向を+としたとき、+の位置にあるスパークプラグ。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭59-21062号(実開昭60-133592号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

「また、第7図および第8図は碍子7の段付部7aからパツキン受け部7b間の長さを変えた場合について示したものである。なお、碍子7の外径はハウジング6の内径より0.1?0.2mm小さく設定し固定する。そして、碍子7の段付部7aからパッキン受け部7b間の長さを変えることにより受熱表面積を変え中心熱価を変えるようにしている。すなわち、第7図に示すように碍子7の段付部7aからパッキン受け部7bまでの長さLが長い場合には碍子7の下端部から段付部7aまでの碍子7の表面積が小さくなり、これによつて受熱量が少なくなるため中心熱価は高くなる。逆に第8図に示すように段付部7aからパッキン受け部7bまでの長さlが短かい場合には碍子7の下端部から段付部7aまでの表面積が多くなり、これによつて受熱量が多くなるため中心熱価は低くなる。」(明細書第6ページ第17行?第7ページ第13行)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「軸孔」は本願補正発明の「貫通孔」に相当する。
以下、同様に「前方側」は「先端側」に、「後方側」は「後端側」に、「第一軸部」は「絶縁体後端部」に、「第二軸部」は「絶縁体先端部」に、「第二軸部の隙間形成外周面の外径」は「絶縁体先端部の外径」に、「絶縁体側係合部」は「第1絶縁体段部」に、「基端部」は「絶縁体基部」に、「縮径部」は「第2絶縁体段部」に、「主体金具の前方側の部分」は「主体金具先端部」に、「主体金具の前方側の部分の隙間形成内周面の内径」は「主体金具先端部の内径」に、「主体金具の後方側の部分」は「主体金具後端部」に、「金具側係合部」は「第1主体金具段部」に、「平坦部」は「主体金具基部」に、「傾斜部」は「第2主体金具段部」に、「角度(縮径部2jの部分の角度)」は「第1狭角」に、「角度(軸線の後方側からθ)」は「第2狭角」に、それぞれ相当する。

すると、両者は次の点で一致する。
[一致点]
「略筒状に形成され、軸線方向に貫通孔を有する絶縁体と、
当該絶縁体の前記貫通孔の先端側に挿設される棒状の中心電極と、
前記絶縁体の軸線方向の先端側を内挿して保持する略筒状の主体金具と、
一端部が当該主体金具の先端に接合され、当該一端部とは反対の他端部が前記中心電極に対向し、前記他端部と前記中心電極との間に火花放電ギャップを形成する接地電極と
を備え、
前記絶縁体は、前記絶縁体の後端側に設けられた絶縁体後端部と、前記絶縁体の先端側に設けられ、当該絶縁体後端部の外径よりも縮径された絶縁体先端部と、前記絶縁体後端部と前記絶縁体先端部とを連結する第1絶縁体段部と、軸線を含む断面を見たときに、前記絶縁体先端部外周面において、軸線と第1狭角をなし、前記絶縁体の先端側に向かって縮径する第2絶縁体段部とから構成され、
前記主体金具は、前記主体金具の後端側に設けられた主体金具後端部と、前記主体金具の先端側に設けられ、内径が当該主体金具後端部の内径よりも縮径された部分を少なくとも後端側に有する主体金具先端部と、前記主体金具後端部と前記主体金具先端部とを連結する第1主体金具段部とから構成され、
前記第1絶縁体段部は、パッキンを介して前記第1主体金具段部に係合し、
軸線を含む断面を見たときに、前記絶縁体先端部の外径をd1、前記主体金具先端部の内径をD1とし、
軸線を含む断面を見たときに、前記主体金具内周面において、軸線と第2狭角をなし、前記絶縁体の先端側に向かって拡径する第2主体金具段部と、前記第1主体金具段部と前記第2主体金具段部とを連結する主体金具基部とを有し、
軸線を含む断面を見たときに、前記第1絶縁体段部と前記第2絶縁体段部とを連結する絶縁体基部と前記第2絶縁体段部との交点の軸線方向の位置、があるスパークプラグ。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本願補正発明では「(D1-d1)/2<0.45mmとなる隙間の、前記絶縁体の軸線方向に平行な長さが、前記パッキンと前記主体金具段部との係合位置のうち、軸線方向の最先端側の位置を起点として前記絶縁体の先端側を+としたとき、1.2mm以上、5mm以下」であるのに対し、引用発明では、(D1-d1)/2の係合位置隙間量(β)を0.4mm以下としており、該隙間の絶縁体の軸線方向に平行な長さで、係合位置隙間量βを確保する長さ(βL)が0.5?2.5mmである点。

[相違点2]
「軸線を含む断面を見たときに、前記第1絶縁体段部と前記第2絶縁体段部とを連結する絶縁体基部と前記第2絶縁体段部との交点の軸線方向の位置」に関し、本願補正発明では「主体金具基部と前記第2主体金具段部との交点を起点として前記絶縁体の先端側に向かう方向を+としたとき、-0.5mm以上、3mm以下」であるのに対し、引用発明では明確でない点。

[相違点3]
第1狭角に関し、本願補正発明では「10°以上」であるのに対し、引用発明では明確でない点。

(4)相違点についての判断
[相違点1]について
引用発明では、係合位置隙間量(β)は0.4mm以下であって、その隙間の絶縁体の軸線方向に平行な長さ(βL)は0.5?2.5mmである。
ここで、引用発明では、パッキン(63)は傾斜している金具側係合部に設けられており、更に、平坦部52aと傾斜部52bとのなす角度θが140°≦θ≦160°である。
したがって、引用発明において、「(D1-d1)/2<0.45mmとなる隙間」の後方側は、金型側係合部に設けられるパッキンの前方側の付近、すなわち「パッキンと前記主体金具段部との係合位置のうち、軸線方向の最先端側の位置」付近となり、更に、この隙間の前方側は傾斜部52bの付近となり、結果的に「(D1-d1)/2<0.45mmとなる隙間」の「絶縁体の軸線方向に平行な長さ」は、係合位置隙間量βを確保する長さ(βL=0.5?2.5mm)よりも少し長い程度となるものと解される。

また、引用例の前記の記載事項bには、上記の長さβLを0.5mm以上とする理由及び2.5mm以下とする理由が記載されている。更に、引用例2の前記の記載事項には、内燃機関用点火プラグで、碍子の外径はハウジングの内径より0.1?0.2mm小さいもの((D1-d1)/2の隙間に換算すれば、0.05?0.01mmに相当。)において、碍子の段付部からパッキン受部までの長さ(引用発明でのβLの長さに関連。)を変えることにより中心熱価を変えることが記載されており、ここで上記の長さが長ければプラグの熱価が高く、したがって絶縁体が受けた熱が主体金具に伝わりやすいこと(本願明細書でいう「熱放散量」に関連。)は明らかである。

すると、引用発明において、係合位置隙間量βを0.4mm以下として、その係合位置隙間量βを確保する長さβLを定めることに代えて、「(D1-d1)/2<0.45mmとなる隙間の、前記絶縁体の軸線方向に平行な長さ」及びその起点を定めることにより、本願補正発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

[相違点2]について
スパークプラグにおいて「絶縁体基部と前記第2絶縁体段部との交点の軸線方向の位置」を定めることは、本願出願前に周知の技術である。
また、スパークプラグの「第2絶縁体段部」の軸線方向の位置を定めることも本願出願前に周知の技術であり、この「第2絶縁体段部」の軸線方向の位置及びその傾斜角(相違点3の「第1狭角」)が定まれば、「絶縁体基部と前記第2絶縁体段部との交点の軸線方向の位置」も定まってくる。

例えば、本願の出願時の明細書の段落【0005】に【特許文献2】として記載され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-196247号公報(【特許請求の範囲】及び段落【0014】?【0021】及び図2?3を参照。)には、内燃機関用スパークプラグにおいて、絶縁碍子脚基部の下端部(本願補正発明の「絶縁体基部と第2絶縁体段部との交点の軸線方向の位置」に相当。)は、ハウジング段差部の角部に対向する位置から燃焼室側に+3.0mmであること、及び該位置として-0.5mmから+3.5mmの範囲での関係図が記載されている。
そして、これは本願補正発明でいう「軸線を含む断面を見たときに、前記第1絶縁体段部と前記第2絶縁体段部とを連結する絶縁体基部と前記第2絶縁体段部との交点の軸線方向の位置が、前記主体金具基部と前記第2主体金具段部との交点を起点として前記絶縁体の先端側に向かう方向を+としたとき」の距離が「3mm」であることに相当する。

また、引用例の前記の記載事項e及びfには、主体金具の前端面位置から7mm以上確保された区間Lにおいてα<(D3-d3)/2を満足することが有効であること、及び、ガスボリューム部GVの幅Jが、火花放電ギャップgの間隔αよりも大となる区間Lの長さをなるべく大きくできるように、第二軸部2iの円筒状の基端部2rに対し、縮径部2jを介して先端本体部分2sを接続したことが記載されている。そして、図3を参照すれば、絶縁体の縮径部2jの軸線方向の位置(本願補正発明における「第2絶縁体段部」の軸線方向の位置に相当。)が、区間Lの後方側の端にあるといえる。
更に、引用例2の前記の記載事項には、パッキン受け部7bと碍子7の段付部7aとの間の長さを変えることが記載されており、この長さを定めることにより決まってくる碍子7の段付部7aの位置は、本願補正発明の「第2絶縁体段部」の軸線方向の位置に相当するものである。

すると、引用発明において、「絶縁体基部と前記第2絶縁体段部との交点の軸線方向の位置」又は「第2絶縁段部」の軸線方向の位置を定めるに際して、上記周知の技術を参酌し、本願補正発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

[相違点3]について
引用例の前記の記載事項gに、「図3においては、ガスボリューム部GVの幅Jが、火花放電ギャップgの間隔αよりも大となる区間Lの長さをなるべく大きくできるように、第二軸部2iの円筒状の基端部2rに対し、縮径部2jを介して先端本体部分2sを接続した形態としている。」と記載されているように、引用発明では、ガスボリューム部GVの幅Jが大の区間をなるべく大きく取ることが示唆されている。
また、引用例の前記の記載事項fに、主体金具の傾斜部52bに関してのものではあるものの、「θが160゜を超えると、・・・(中略)・・・また、ガスボリューム部GVの幅Jの小さくなる区間が長くなるので、横飛び防止の観点においても不利に作用する場合がある。」と記載されているように、ガスボリューム部GVの観点からは、主体金具の傾斜部52bがある程度傾斜(軸線の前方側に対しての傾斜)しているのがよいことが示唆されているといえる。
したがって、引用発明において、ガスボリューム部GVの観点から、主体金具の傾斜部52bの傾斜の角度と同様に、絶縁体の縮径部2jの角度(第1狭角)をある程度傾斜させることにより、本願補正発明の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願補正発明により得られる作用効果も、引用発明及び周知の技術から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成21年12月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年6月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
略筒状に形成され、軸線方向に貫通孔を有する絶縁体と、
当該絶縁体の前記貫通孔の先端側に挿設される棒状の中心電極と、
前記絶縁体の軸線方向の先端側を内挿して保持する略筒状の主体金具と、
一端部が当該主体金具の先端に接合され、当該一端部とは反対の他端部が前記中心電極に対向し、前記他端部と前記中心電極との間に火花放電ギャップを形成する接地電極と
を備え、
前記絶縁体は、前記絶縁体の後端側に設けられた絶縁体後端部と、前記絶縁体の先端側に設けられ、当該絶縁体後端部の外径よりも縮径された絶縁体先端部と、前記絶縁体後端部と前記絶縁体先端部とを連結する第1絶縁体段部と、軸線を含む断面を見たときに、前記絶縁体先端部外周面において、軸線と第1狭角をなし、前記絶縁体の先端側に向かって縮径する第2絶縁体段部とから構成され、
前記主体金具は、前記主体金具の後端側に設けられた主体金具後端部と、前記主体金具の先端側に設けられ、内径が当該主体金具後端部の内径よりも縮径された部分を少なくとも後端側に有する主体金具先端部と、前記主体金具後端部と前記主体金具先端部とを連結する第1主体金具段部とから構成され、
前記第1絶縁体段部は、パッキンを介して前記第1主体金具段部に係合し、
軸線を含む断面を見たときに、前記絶縁体先端部の外径をd1、前記主体金具先端部の内径をD1として、(D1-d1)/2<0.45mmとなる隙間の、前記絶縁体の軸線方向に平行な長さが、前記パッキンと前記主体金具段部との係合位置のうち、軸線方向の最先端側の位置を起点として前記絶縁体の先端側を+としたとき、1.2mm以上、5mm以下であって、
軸線を含む断面を見たときに、前記主体金具内周面において、軸線と第2狭角をなし、前記絶縁体の先端側に向かって拡径する第2主体金具段部と、前記第1主体金具段部と前記第2主体金具段部とを連結する主体金具基部とを有し、
前記絶縁体基部と前記第2絶縁体段部との交点の軸線方向の位置が、前記主体金具基部と前記第2主体金具段部との交点を起点として前記絶縁体の先端側に向かう方向を+としたとき、-0.5mm以上、3mm以下であることを特徴とするスパークプラグ。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、前記限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-24 
結審通知日 2010-12-28 
審決日 2011-01-11 
出願番号 特願2003-422458(P2003-422458)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01T)
P 1 8・ 575- Z (H01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 学  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 小関 峰夫
栗山 卓也
発明の名称 スパークプラグ  
代理人 山本 尚  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ